混沌の影・その3・事件は突然やってくる
ああっ、予約していたのにアップされてない。
と言うことで、急ぎアップです。
マチュアが透明人間を見つけてから一週間後。
日本では相変わらず神隠し事件についてテレビやマスコミが論議を繰り返している。
一部の偏ったマスコミなどは、これこそが異世界からの侵攻の第一歩であり、日本国は早急に異世界とのつながりを放棄するべきであると大々的に宣伝している。
だが、異世界からの恩恵の凄さを目の当たりにしている地球人にとっては、そんな事を告げているマスコミこそ悪である、神隠しについて何か独自に情報を得ていて、それを異世界の仕業にしているという与太話が広がり、さらに波紋は広がっている。
そんな中でも、異世界大使館はいつも通りの平常運転、マチュアは暇つぶしに大使館にやって来ては、中庭で魔法鎧・イーディアスⅡの整備を行っている。
いや、正確には、その横に並んで立っているイーディアスⅢに、イーディアスⅡの制御システムを移している所であった。
──カチャカチャ
「ん~。中々上手く嚙み合わないなぁ。どっか削らないとダメかぁ」
そのまま魔法で金属加工を始め、どうにかこうにか形だけは仕上がった時。
ガラッと事務局の窓が開いて、赤城が血相を変えてマチュアを呼んだ。
「マチュアさん緊急です。神隠し被害者でとうとう死者が出ました!!」
はぁ?
さすがにそんな報告を受けて、無視して作業を続ける程マチュアは冷血ではない。
すぐさまイーディアスⅢとⅡを魔方陣に収納すると、上着を羽織って事務局に向かう。
そして事務局に戻った時、赤城と十六夜は電話対応に追われている。
三笠がマチュアに気が付いたのか、手にした書類を持ってマチュアの座った卓袱台にやって来る。
「被害者は参議院議員です。三日前から行方不明でしたが、神隠しとしては処理されていません。そしてつい30分前、道頓堀の戎橋上空からバラバラ死体になってばら撒かれました。警察は猟奇殺人事件として対策本部を設立したようです」
ふむふむと受け取った書類を確認する。
しかし、警察からの書類など専門用語と事務的文章のみで、今いち的を射ない状態である。
すると、突然事務局の、マチュア直通回線の電話が鳴り響く。
「ほらきた。蒲生さんか小野寺さんだよ」
──ガチャッ
すぐさま電話を受ける。
案の定、電話の向こうは蒲生であった。
声の感触から、いつかこうなる事は予想していたのだろう。いつものようなべらんめぇ口調ではない。
『よう、マム・マチュア。ちょいと知恵を貸してほしいんだが』
「まあ、想像はつくわよ。例の神隠しで起こった殺人事件でしょ? 検死させてくれたら考える」
単刀直入に説明する。
まずは知識、情報。それがなくては話にもならない。
『わかった。取り敢えず国会議事堂まで顔出してくれ。そこから大阪府警に向かう必要がある。こっちである程度の手を廻しておくから‥‥』
それだけを告げると、蒲生はすぐに電話を切った。
ここからマチュアが来るまでの間に、彼方此方に根回しをしなくてはならないようだ。
そこはマチュアも理解している。だからこそ、すぐに転移する訳ではなく、一旦こっちの準備も進める。
「さて、三笠さん、異世界大使館にも緊急事態宣言を発令。今日から出勤退勤については単独行動は禁止、可能な限りチーム分けして行動するように。相手がどんなものを求めているのかわからないけれど、ここには将来の勇者候補がわんさかといるんだから」
「なら、オンネチセに帰宅するように促しましょう。あそこならある程度は安全を確保出来ますから」
──ポン
思わず手をたたくマチュア。
そうだ、その手があった。
ということで、早速マチュアは放送室に向かうと、緊急事態宣言を発令。
一時的ではあるが、大使館職員はオンネチセから大使館に通うように命じた。
「へぇ。ま、近所だし構わないと思いますけれどねぇ。カナンじゃダメなんですか?」
ちょうど決裁印をもらいに来た高島がそう三笠に問いかける。安全性ということなら、カナンでも特に問題はないと判断し、マチュアから許可ももらった為、希望者はカナンの大使館職員寮も使用してよいという事になった。
果たして、この状態がいつまで続く事やら。
〇 〇 〇 〇 〇
大阪府警にある検死室。
その中で、白衣に身を包んだマチュアと蒲生、そして担当司法警察員が難しい顔をしている。
目の前の診察台には、バラバラになった死体。
丁寧に人間の身体に並べ直されているものの、それが誰であるのか全く見当が付かない。
顔の部分はまるで熊か何かにそぎ落とされたようになっており、残った歯の治療痕から被害者の身元が判明したらしい。
となりの台には回収された臓器が並んでいるのだが、ふとマチュアは不思議な事に気が付いた。
「脳がないわね。それに体液。何処にも血の跡がないわよ?」
そう目の前に立つ司法警察員、通称・検視官の川端という男性に問いかける。すると、川端はコクリと頷いて、タブレットをマチュアに手渡す。
「被害現場です。突然空中から大量落下した肉片や内臓。すぐさま駆けつけた警察官によって調べられたのですが、どうしても脳と血液の存在は確認出来ませんでした。それとこの死体を切断した刃物と思われるものですが、まるで見当が付かないのです」
やれやれと困った顔をする川端。
確かに彼の報告を聞いている限り、猟奇殺人と言うよりはオカルトの線で調べた方が良さそうである。
こうなると、蒲生がマチュアに協力要請した理由がよく分かる。
「さて、それじゃあ魔法的調査を始めますか。深淵の書庫起動、対象は目の前の死体。どんな小さいものでも良いから、手掛かりになるものを探して……」
──ブゥゥゥン
マチュアから伸びた魔力が死体の周囲に魔法陣を形成する。
そして死体全体を包み込むような立体魔法陣を形成すると、ゆっくりと解析を開始した。
「あ、これは時間掛かるパターンだわ……深淵の書庫をクリアパッドに接続、解析データを全てクリアパッドに転送設定……と、これで良し。後は魔法で行うので、私は一旦外に出ますよ」
そのマチュアのやり取りを、興味津々にみている川端。
そしてもう慣れてしまっている蒲生はマチュアと共に部屋から出て行き、川端も慌ててついて行った。
………
……
…
会議室でのんびりと、と勧められたものの、マチュアとしては滅多に来られない大阪府警本庁舎。
ならばと隣接してある喫茶店で、のんびりとティータイムを楽しむ。
当然ながら蒲生も付き合い、カルアドの瑞穂県の話で盛り上がっている。
だが、川端はソワソワとマチュアの傍に置かれているクリアパッドをチラチラと見ている。
どのような結果が出るのか、そして魔法による鑑識能力について、どれほどのものか知りたかったのである。
「ふぅん。瑞穂の地下施設まで辿り着けないのか。セキュリテイは死んでるはずだし、扉が開かないの?」
「ああ。まるでSF映画の隔壁みたいだ。こっちの技術の全てをかけても、あれには傷一つつかない。マム・マチュアはどうやって開けたんだ?」
「通電して、パスカード入れて。普通に開いただけだよ?」
「そこなんだよなぁ……瑞穂のドームに設置している太陽光発電施設、あれもまだ復旧の目処が立たないんだ。ルシアでは解析が終わって修復が始まっているのに、どうして先駆者である日本が遅れているかなぁ」
ズズズッとアイスコーヒーを喉に流し込む蒲生。
マチュアもアイスシトラスティーとパンケーキという、スタンダードな組み合わせに舌鼓を打ちながら、蒲生の話を聞いている。
「だって、ルシアはカルアドに鉱山持ってるからね。そりゃあ資源があれば早いでしょうよ」
「……何だって?」
「前に話したよね?北方四島の残り、あれの一部とカルアドの鉱山交換したって。お陰でお隣の中国さんが憤慨していたわよ、未だにカルアドのドーム都市はおろか、転移門の接続まで拒否されているって……私を暗殺しようとして、剰え恫喝しようとするあの態度を改めない限りは、私は一度でも敵対した者には容赦しないわよ」
淡々と告げるマチュア。
──ピッピッ
すると、クリアパッドから解析完了のお知らせが届く。
それに川端もガバッと飛び起きて、マチュアをじっと見る。
「それで、犯人は分かりましたか?」
「……それは無理よ。魔法解剖の結果だけよ……と」
司法解剖ならぬ魔法解剖とはこれいかに。
そして表示されたデータを、マチュアはのんびりと見る。
映し出された文字はカリス・マレスのコモン語のため、地球人には理解出来ない。
それを知っていてなお、蒲生は横から覗き込んで……。
「ああ、キャトルミューティレーションみたいなものかよ」
「そうみたい……って、蒲生さん、コモン語いつ勉強したのよ?」
「日常の読み書き程度なら、今の日本の議員の四割は出来る筈だ。知ってるか?今の国会議員と地方議員、各種公務員にはカリス・マレスの言語、『コモン語解析三級』が必須になっているんだぜ?」
いつのまにそんなものが。
というか、講師は誰なのか教えてほしい所である。
「そ、それで、解析結果は?」
川端がズイッと前に出るので。
「えーっと。あれ、神隠しにあった議員さんを模して作られたクローンのようなものね。人為的にクローニングした細胞を用いた人造人間?全てが細胞レベルで作られているけれど、ホムンクルスに近いっていうの?ほら、DNAの塩基配列が何処となく違うのよ。それと骨格、表には出てないけれど、内部構造フレームに刻印があるわ。頭部の内側、後頭部に面している部分にも刻印があるわね」
その説明に、川端は頭を抱えそうになる。
映し出された写真には、たしかに刻印が刻まれているが、それはミクロ単位の精密さである。
「で、では、あれは人間ではないと?」
「そ。何だろ、具体的にいうと、ピースの足りない巨大なジグゾーパズル。それを目の前にばら撒かれて、ほら、これがわかるかなってニヤニヤしている大人がいる感じ」
これがマチュアの感じた結果である。
そして、蒲生と川端は、その技術力に恐怖する。
全く同じ人間を作り出す技術を持つ存在が、今の地球にやって来ているという事実に。
「マム・マチュア、同じことを魔法で出来るか?」
敢えて蒲生は問いかける。
ならばとマチュアも誠意を持って答える。
「出来る。けど、それは人間を模したゴーレムであって、魂を伴わないもの。私でも魂の錬成や人体錬成は出来ないわよ。まだ右腕と左足には愛着があるからね」
カラカラと、笑いながら説明する。
「それに、人間と同等の細胞なんて私には作れないわよ。人体錬成を、魂レベルで100%成功出来る存在なら心当たりあるけれどね?」
ズズズッと紅茶を飲み干す。
すると目の前の川端はその言葉に飛びついたが、蒲生は腕を組んで頷いた。
「あ、俺は理解した……そういう事か」
「それは誰なんですか?」
「女性よ。自らの体内で、もう一人全く新しい魂と肉体を錬成できる、世界最高の錬金術師……でしょ?」
そのマチュアの言葉には、蒲生もコクコクと頷いている。
「確か、鋼錬でもそんな話あったよなぁ。なら、マム・マチュアの知る限りで、それを魔術として出来そうな奴は?」
さらに一歩踏み込んだ質問。
なら、マチュアはニイッと笑みを浮かべて一言。
「稀代の大魔術師、アレイスター・グロウリー。その系譜に連なるもの。こっちの世界のグロウリーは、錬金術師メフィストの流れも汲んでいるからなぁ……となると、エイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンドにも可能な筈だよ」
少しはヒントになったかな?
そうマチュアは考える。
まだヒトラーが関与しているという確証はないが、例のバラバラ死体とヒトラーの兵士との共通点がいくつか見えている。
共にホムンクルスを素体とする。
けれど、もしそうなら、何の為に?
ここでマチュアは思考を止めてしまう。
まだ、パズルのピースは拾いきれていないように感じたから。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






