混沌の影・その1・いつもの日常かーらーの
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
今回はちょっと文字数が少なくて申し訳ありません。
長閑な午後。
日本にある異世界大使館の中庭で、マチュアはウッドデッキでのんびりと昼食を食べている。
ユミル達の手伝い、そしてオネスティの活動規模縮小と、大きな事案はおおよそ完了。
カナン魔導連邦はクィーンがいるので問題はない、異世界大使館もツヴァイと三笠さんが主導で動いているので、マチュアの決裁が必要な大きな事案など、目の前にある書類程度。
これがまた……面倒臭いので、今はのんびりと現実逃避、夏休みの宿題を最後までやらない小学生モードである。
「……マチュアさん、明日は確か国会ですよね?そんなにのんびりとしてて良いのですか?」
アイスティーとティラミスを手に、赤城がマチュアの元にやって来る。そして追加分の書類をマチュアの前に置くと、腰に手を当ててそう問い掛けた。
「明日の国会の質疑は、異世界移民関連法案だよね? また野党の辻原さんあたりがごねているんだろうなぁ……ま、私としても、今の草案レベルではお話にならないので、全て突っ込ませてもらうわ」
──パンパン
手にした書面を軽く叩きながら、マチュアが高らかに笑う。
すると、赤城もつられて笑ってしまう。
「ようやくマチュアさんが帰って来たって実感してますわ。またどこかにフラッといなくなる予定はあるのですか?」
「何その不確定要素。そんな用事は……今の所は無いかなぁ。ジ・アースに行きたい所だけれど、私の力の干渉外で手出し出来ないしなぁ。エデンも同じく、あっちに任せるしかないし。カナンはもう放置で問題ない……あれ、私いらない子?」
「いえいえ、マチュアさんは居てくれるだけでいいのです。何というか……マスコット的要素が強いので。それに、大使館の皆さんもいつもよりも元気に見えますから。これもマチュアさん効果ですよ」
などど話していると、マチュアは照れ隠し的に頬をポリポリと掻く。
そしてすぐに書類に目を通し始めると、赤城もそっとその場から離れて行った。
‥‥‥
……
‥
東京都・永田町
国会議事堂内にある第一委員会室には、『異世界移民関連法案』についての質疑応答が始められていた。
ちなみにマチュアは参考人としてその場に座っており、主な話し合いは政府側代表の梶原議員と野党代表の辻原議員の戦いになっていた。
「さて。この法案では、日本国民が国籍を離脱し、新たに異世界であるカナンの国籍を有するという事で間違いはありませんね? 梶原さんお願いします」
辻原がどこか楽しそうに問い掛ける。
すると、梶原もやる気十分で立ち上がり、演台の前に立つと一言。
「間違いありません」
「では、同じようにカナンの人々が日本国の国籍を有する事は出来るかと思いますが、今法案ではその部分には言及していません。日本国からの一方的な国籍離脱のようですが、その理由について回答お願いします」
すると、梶原がフリップを手に演台の前に立つ。
「まず、日本からカナンの国籍を得る場合、第一条件として魂の護符を所持している事が必要となっています。その上で、異世界大使館で国籍離脱申請を行い、すぐに受理されればその者は国籍のない存在となります。その後は、大使館ゲートよりカナンに赴き、王城横にあるカナン王都役所にて国籍取得申請を行うだけで、あっさりとカナンの国民となる事が出来ます。ですが、この逆については、まだはっきりと決定していません。というのもですね、カナンの人々は魔法や戦闘技術を行使する力を有しています。その状態で、何の制約もなく、日本国民として受け入れていいのかといいますと、異世界等関連法及び魔法等特別法の整備が更に必要です。それを成さなくては、まだまだ受け入れるという事は出来ません」
きっぱりと言い切る。
これには辻原もウンウンと頷いている。
その上で、更に手を挙げると、演台に向かう。
「では、日本国籍を失ってしまった人々に対してのアフターケアはどのように? 彼らがもう一度日本国籍を求めた場合、現状ではそれを受理出来ないのですか」
「はい。受け入れについてはまだまだですね」
「では、これはマチュア女王にお願いします。日本国民がカナンの住民になった場合、彼らに対してどのような保障がありますか?」
おおっと。
そっちで来るとは思っていなかったが、マチュアにとってはまだまだ優しい問題。
スッと手を上げて演台に向かうと、軽く一礼する。
──スッ
これには委員会の全員も頭を下げてしまうのは仕方ないだろう。
「さて、カナンの住民となった日本国民に対しての保障ですよね? ありませんよ? カナンの住民となった以上、納税の義務はあります。辻原さんの心配しているのはおそらく健康保険や生活保護、その他日本国内では一般的な保障ですよね? ありません」
きっぱりと言い切る。
これには辻原は驚いてしまう。
「陛下、それでは元日本国民が路頭に迷った場合、どのように手を差し伸べるのですか?」
「さて。元、ですからカナン国民ですよね? まあ、生活が苦しいのでしたら冒険者なり何なり、いくらでも稼ぐ手段はあります。もっとも、それぐらいの覚悟がなくては、カナンの住民になるのは難しいでしょうねぇ」
「しかし、私達の調べたところ、現在までにカナンに移民申請を求めている国民はすでに5万人を超えています。この全てを受け入れるというのですか?」
「まっさかぁ。まず犯罪歴が有るかないかという一次審査、そして生活力があるかどうかの二次審査。この2つをクリアして、更にその方の資産力も視野に入れた三次審査を行います。その全てをクリアして、初めてカナン国民の資格を得る事が出来るでしょうねぇ」
淡々と説明する。
蒲生副総理の秘書官が作ってくれたフリップを立てて、理路整然と説明していく。
ちなみに三次審査は資産力が高ければいいというものではない。
単純な話、その者がカナンで一年間生活できる基盤を持っているかどうかという所である。
日本で生活出来ないからといってカナンに逃げる者や、中二病を拗らせて冒険者を夢見た者等は対象外となる可能性がある。
「例えば、陛下の予測では、全ての条件をクリアした人物というのは、5万人の中からどれぐらいいると思われますか?」
「さあ? 私の知る限りですと、既にカナンを行き来している冒険者チーム等は、その実績から審査の一部を免除しても良いと考えています。後はそうですねぇ‥この場の国会議員の皆さんは資格なしと考えています」
この言葉には、辻原も顔を真赤にする。
「わ、私に資格がないと?」
「だって、現役国会議員でしょう? 日本国籍失ってもいいのですか? そういう意味では、現役国会議員の方は観光程度で遊びに来る事をお勧めしますわ」
これには辻原も顔色を戻す。
日本国籍を失ったら、議員は自動的に失職する。
そのことを危惧して、マチュアが先に説明した模様。
「て、さて、それでは私からの質問は以上です。本日の質疑について、実に有意義であったと伝えておきましょう」
今の辻原は以前のような毒々しさはない。
まあ、何をいっても全てひっくり返すマチュアがいるのである。
そのままマチュアも一礼すると、委員会室を後にした。
‥‥‥
‥‥
‥
「さて、この後は‥‥と」
空間収納からクリアパッドを取り出して、この後のスケジュールを調べる。
午前中の仕事はおしまい。
午後からは特に何もないので、女王モードからいつもの白亜のローブに切り替えて、箒に跨ってトロトロと議事堂を後にする。
「さて。本気でやる事なくなったなぁ‥‥と、北方領土問題も残っていたか。まあ、あれはいいや、超法規的に放置しておこう」
北方領土の一部には、すでにカナンから人々が移住している。
同じようにハワイや渡島大島といった場所にもカナンからの移住者は増えている。となると、今更ながら異世界移民関連法案を急ぎ纏めたいのもよく分かる。
「国連も私は必要無いし。となると、ヒトラー絡みかなぁ‥‥」
新生第三帝国の対処も今は国連軍の管轄、これまたマチュアには関係ない。
となると、本気で暇になりつつある。
──フッ
すると、ほんの刹那の時間、マチュアの視界の片隅に、透き通った何かが映し出された。
「ほあ?」
道路をのんびりと飛んでいたため、それが何であるのか理解出来ていない。
しかも車の流れに乗ってしまっているためUターンもできない。
となると、急ぎ交差点を左折して、傍らの上空でホパリングする。
「い、今の透明人間って何者だろう? カナンの魔術かな?」
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
急ぎ深淵の書庫を起動して、マチュアの記憶からデータを引っ張り出す。
すぐさまそれを映像化し、解析を試みるのだが。
(解析完了:対象をアンノウンと認識……記憶中枢にあるデータからの解析は不可能。また、現在マチュアの所有するデータ、及び深淵の書庫にも、該当データは存在せず)
「ハァ? 私の深淵の書庫でも理解の外にある存在? それって何者なのよ?」
(解析不能……解析不能……)
いくつものデータを参照しても、やはり解析出来ない。
となると。
「地球とジ・アースとエデンとカリス・マレスの生命体ではない。カルアドでもない。となると……」
──ザワッ
一瞬でマチュアは答えにたどり着く。
だが、それは今の状況では、あまり考えたくない存在。
「混沌神の関係……もしくはグランアーク、カーマイン絡みかぁ。この地球では相手したくないわなぁ……」
すぐさま空中に魔法陣を描く。
敵性防御結界を周囲に展開すると、マチュアはのんびりと周辺の調査を開始した。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
 






