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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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裏世界の章・その32・後日談といいますか

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

神魔戦争編、前半はこれで終了です。

引き続き後半が始まるまで、今しばらくお待

 アルマロス公国復興から一ヶ月。

 ユミルと、アイリス、メルセデスの三人はここ数日まで、慌ただしい毎日を送っていた。

 だが、公国奪還から一ヶ月も経過すると、その慌ただしさも落ち着きを取り戻し、公国内は以前と変わらない平穏を取り戻している。

 帝国から派遣されていた騎士たちも突然の本国からの帰還命令により完全撤退し、今の公国には帝国の影は微塵も感じない。

 それでも、また再び帝国の侵攻があるのかも知れないと、ユミル達は気を張っていたのだが。


………

……



「ユミルさま、帝国の特使がいらっしゃいましたが……」

 謁見の間の奥にある部屋。そこで一休みしていたユミルの元に、メルセデスが大慌てで駆けて来る。

 その手には一通の書簡、丁寧に帝国の紋章の刻まれた封蝋が押されている。


「ど、どうしましょう……まさかまた宣戦布告ではないでしょうね。確かまだ、マチュアさんとポイポイさんは街の中にいますよね?急いで呼んで来てもらえますか……」

 動揺の色が隠せず、オロオロとするユミル。

 すると、メルセデスは新調したばかりの眼鏡の縁に指を当ててクイッと上げる。

「既に手配はしてあります。本日ですと、王城正面の大公園でバザーに参加しています。後半刻もしない内に到着するかと思いますが」

「そ、それは良かった‥‥」

「良かったではありませんよ」


──キラーン

 メルセデスの、メガネの奥の瞳が輝く。

「ユミルさま、いつまでもマチュアさん達におんぶにだっこではいけませんよ。あなたはこの国の君主なのです、早く自覚してくださらないと‥‥」

 いつものようなお小言。

 それはユミルも理解しているのだが、ここヴァンドール帝国が絡むとなると、今のユミルでは重い案件となっている。

 そうなると、ユミルはついマチュアに助力を求めてしまうのだが、いつまでもそういう訳にはいかない。メルセデスは心を鬼にしてでも、ユミルの自立を促す覚悟でいた。

 という事で、当然ながら先程のマチュアがバザーに参加しているという情報は真実であるが、マチュアには事情を説明して影から見ているだけにして欲しいと伝えてある。

 

「では、定刻通りに謁見の間に特使の方をお通ししますので」

 そう告げて頭を下げるメルセデス。

 そしてそれより半刻の後、謁見の間には特使がやって来たのである。


‥‥‥

‥‥


「はじめましてアルマロス公殿下。私はヴァンドール帝国より親書を預かって参りましたアーカム・ノアと申します」

 スーツのような正装をしたアーカムが、丁寧にユミルに頭を下げる。

 するとユミルも軽く笑みを浮かべて、アーカムの話の続きを待っている。が、その視線はどことなく落ち着かない。


(あ、あれ、マチュアさんはどこに‥もう来ているはずなのですが‥‥)


 決して表には出さないが、今のユミルはかなりテンパっている。それを察したのか、メルセデスがゴホンと軽く咳払いをする。


「アーカムと申しましたか、それはご苦労様です‥‥」

 ユメルがそう告げると、メルセデスがアーカムの元に向かい、親書を受け取る。そして封を切る事なくユミルの元に持って行くと、ユミルはそれを受け取って封を開く。

 国王宛に届けられた親書なら、それを先に執務官が確認する事は、この国では行われない。親書に魔法による細工が施されたりする事も有るのだが、それは室内に施されている魔法中和の魔法陣によって発動する事がないからである。

 そしてユミルは軽く内容を確認する。

 

 親書では、アルマロス公国が自らの手によってヴァンドール帝国から脱した事についての苦言と、そしてその勇気を称えるものである。

 ヴァンドール帝国としては、かつてのアルマロス公国の領土については有償返却する意思がある事、その為には現在の公国内にある魔鉱石の坑道の一部をヴァンドール帝国に無償譲渡するようにとの内容が記されている。

 そして、それはすぐさま特使であるアーカムに伝える事、それがなされなかった場合は、改めてアルマロス公国に対しての侵攻もやむを得ないとの内容であった。


「‥‥さて、私は陛下より返事を持ち帰るように仰せつかっております。そちらの親書の内容については私は存じませんゆえ、一刻後に返答を記した親書をいただけたらと思いますが」

 丁寧に告げるアーカム。そしてメルセデスはその親書をユミルから受け取ると、その内容に目を丸くした。

「こ、こんな一方的な言いがかり‥‥すぐに話し合いの場を用意しますゆえ、特使の方は控えの間でお待ち下さい」

 すぐさまアーカムは謁見の間から出される。

 そして残ったユミルとメルセデスは、後ろにある執務室へと場所を変える事にした。


‥‥‥

‥‥


「こんな一方的な事、聞き入れたくはありません。ヴァンドール帝国はまだ私達の国から搾取を続けるつもりなのですか」

 親書に憤りを感じたユミル。だが、メルセデスは努めて冷静である。

 もっときつい選択が突きつけられるかとも思ったのだが、予想よりも内容はゆるいものであった。だが、ユミルはそんな事に気付く事なく、頭を抱えている。


「おや、何か予想よりも深刻そうだねえ。何かあったの?」

「今、戻り・ました」

 カチャッと扉を開いて、マチュアとアイリスが戻ってくる。すると、ユミルの顔がパアッと明るくなる。

「マチュアさん、この親書を見てください!!」

すぐさま椅子に座ったマチュアに手紙を差し出す。それをふむふむと目を通すと、マチュアは無言でユミルに手紙を突き返した。


「まあ、好きにすれば? 私にはあまり関係のない話しだし、この国の事ならユミルとメルセデスが決めればいいじゃない」

 あっさりと突き放すマチュアに、ユミルは落胆の表情を見せる。だが、アイリスとメルセデスはその言葉にコクコクと頷く。

「そ、そんな‥‥」

「そんなも何も、これ以上私が干渉すると他国からの内政干渉になるじゃない。その結果、ヴァンドール帝国と喧嘩になんてなったら困るのよ。私は、この大陸には領土を持っていないけれど、転移門(ゲート)っていうオリジナルマジックがあるので、ていくらでも国交を結ぶ事は出来るの。その妨げになるような事はしたくはないわねぇ‥‥」 

「それでは、是非我が国と同盟を結んでいただけませんか? そうすれば、この無茶な提案に対して意見具申する事は出来ますよね?」

 すると、マチュアは腕を組んで考えてしまう。

「でもねぇ。私の国も、ラグナ・マリア帝国の中の国の一つだから、勝手に他の大陸の国と同盟を結ぶなんて出来ないわよ。どうしてもというのなら、一旦国に戻って皇帝陛下に意見具申し、六王会議によって採決を取らないとならないから‥早くても二ヶ月、戻って来るまでに三ヶ月は掛かるわよ」

「そ、それでは時間が‥‥ああ、どうすれぱ」

 オロオロとしているユミルだが、アイリスがメルセデスから受け取った親書を見て話を始める。


「この内容なら、呑んでも・問題は・ない。帝国が指定している坑道区画は、確か・魔鉱石が掘れなくなった廃坑のハズ、ね? メルセデスさん」

 くるりとメルセデスの方を向く。すると、メルセデスは顎に人差し指を当ててやや斜め上を見上げて考える。

「確かに、そこは真鉱石の鉱脈からずれてしまった為、今現在は鉄鉱石と黄銅鉱の採掘現場の筈です。近くにある坑道からもかなり離れていますので、明け渡しても問題は無いかと思われます」

 今のメルセデスの言葉に、ユミルは再び問い掛ける。

「なら、その坑道を帝国に明け渡して、彼らの騎士がそこを守るのを認めろというの? このアルマロス公国に敵であるヴァンドール帝国の騎士を、その関係者を駐留させるなんて……」

 そこがユミルにとっての譲渡ラインなのだろう。

 せっかく取り返した国土に、再びヴァンドール帝国が拠点を築いて我が物顔をする事など認めたくはない。

 またいつか、そこから綻びが生じてヴァンドール帝国が牙を剥くかもしれないという懸念が残っているのである。

 それは当然のこと、メルセデスもアイリスもそれぐらいは気が付いている。が、それはそれ、これはこれと納得しているのである。

 そうでなくては、今この親書の内容を認めなければ、ヴァンドール帝国は問答無用で牙を剥く。その時は、おそらくユメル達は殺されてしまうだろう。生き残った所で、また同じように反乱を起こされるだろうと考えられても仕方がないのである。

 

「ま、マチュアさん、何か知恵はありませんか?」

「無い。っていうか、ユミルも少しはしっかりとしてきたけれど、ヴァンドール帝国が絡むととんでもなくヘタレるねぇ。あんたも大概に覚悟を決めなさい……この親書の内容を飲まなかったら、ヴァンドール帝国によってまたこの地は戦火に晒されるのよ、罪もない市民がまた戦争に。それを認めろっていうの?」

 真剣な目でユミルに問い掛ける。

──ゴクリ

 一瞬息を呑むユミルだが、すぐにメルセデスに向きなおる。

「今回の親書の件、アルマロス公国は受け入れる事にします。すぐに返信を書く準備をお願いします」

 どうやら覚悟を決めたらしい。

 ユミルはマチュアをチラッと見ると、軽く笑みを浮かべて頭を下げる。

「それでいいわよ。女王としての責務、あなたの肩には、このアルマロス公国の民すべての命がのしかかっているんだから。個人のプライドなんかよりも大切なものがね」

 そう告げると、マチュアは立ちあがる。

「さ、アイリス、露店に戻りましょう」

「わかった。では、またね、おねえちゃん」

 軽く手をふるアイリス。

 すると、ユミルがマチュアにこう問いかけた。


「もし、マチュアさんが私の立場だったら、どうしていましたか?」


 その問いかけは、マチュアには愚問でしかない。

 ニィッと歯をむき出しにして笑うと、たったひとこと。

「先制攻撃で皇帝を暗殺して、ヴァンドール帝国の全てを吸収する。私はそれが出来るからね」

──ゾクッ

 その一言にユミルは苦笑するが、メルセデスは言われもない寒気を感じた。

 その一言は冗談ではない。

 それが出来るのがマチュアであると、今更ながらに実感したのである。


 そして数日後。

 親書を持ち帰った特使の報告を受けて、ヴァンドール帝国の政務官や使節団がアルマロス公国を訪れる。

 そして正式な調印式を行ったのち、鉱山のひと区画が帝国に開放された。

 それと引き換えに、アルマロス公国は公式に独立を果たす事が出来、ユミルは王城にて集まった民衆に対して新たに独立宣言を行った。

 こうして、奴隷として囚われていたユミル達の元にアルマロス公国は戻り、復興を果たす事となった。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 


 カナン魔導連邦王都カナン・馴染み亭

 アルマロス公国の一件を終えて、マチュアは転移によってカナンに戻って来た。

 オネスティについての報告書も完成し、それをサムソンのストームMK2にも手渡し終えていたので、マチュアはまたいつものようにのんびりとした毎日を送りたかった。


「……で、何なのよ?」

 中観大陸中央・大桜巻砂漠にて調査を行っていたストームから、久しぶりに念話が届いた。

『まあ、詳しい説明から始めるか……』

 すると、ストームは今までの調査結果について事細かく説明を始める。

 そしてロットの囚われていた遺跡群、。その巨大に転移魔法陣について、送り出された先の世界がジ・アースである事を告げる。

「へぇ、あそこに飛ばされたのかぁ。でも、今の私は干渉出来ないからなぁ」

『そうか。でも、時間的な事を考えると、マチュアが飛ばされるよりも前に転移されている筈だぞ。ジ・アースではそれらしい人間見なかったのか?』

「人間で、転移されて……いや、いないわ。勇者召喚の儀式で転移されて来たっていう勇者ならいたけれど、そいつは大陸の魔王、いや、大陸の王は確か皇王か。その皇王を殺して新たな王として君臨しているし……ってあれ?」

 マチュアの話しているのは、先代皇王ベルファストを殺したルフト・シュピーゲルの事である。

 だが、ベルファストの再生の秘技によって魔人へと生まれ変わった勇者ルフト・シュピーゲルの外見は、マチュアの知るロットではない。

 それでも可能性として考えられるのは、ルフトのみ。

「可能性があるのは勇者転生して魔人化した男の子だね。名前はルフト・シュピーゲルだよ」

『ルフト・シュピーゲル? 日本語に直すと幻影。そいつの元の肉体がロットの可能性が十分考えられるんじゃないのか?』


──ポン

 思わず手をたたくマチュア。

 だが時遅し。

 既にマチュアではジ・アースの管理人である神々との接触をする事も出来ない。

 こうなると、残るはただ一つ。

「ストーム。祈ろう」

『は? ちょ、お前何言っている?』

「だって、私達じゃあそこの神々に干渉出来ないのよ。となると、ルフトがロットとして目覚めて、自力で帰って来れるようにするのを待つしかないじゃない。ストームだって、どっかの異世界に行った時、自力で何とかしたんでしょ?」

『あ……そうだなぁ。それしかないかぁ……』

「そ、そういう事。私が気付かなかったというのもあるけれど、それはほら、事故、そう、事故なのですよ」

 と、自分の凡ミスを誤魔化すマチュア。

 そしてオネスティの件についての報告を一通り始める。

 まだまだ根幹的な解決には至っていないが、それでも以前よりも平穏な時間は戻りつつある。   


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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