幕間の12・中観大陸にて〜
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
本日は幕間をお届けします。
本編は木曜日までお待ち下さい。
──ドゴドゴドゴッ
激しく打ち鳴る拳の数々。
彼の周囲には、大量の魔族の死体が転がっていた。
ある者は正中線から真っ二つにされ、またある者は袈裟斬りに切り捨てられている。
そして今、目の前の魔人は拳によるナックルスパートで吹き飛ばされていた。
中観大陸中央・大桜巻砂漠。
その地下に広がる魔人の遺跡群の更に地下、魔人王と呼ばれている古代魔族の再封印を行う為、ストーム・フォンゼーンはこの遺跡にやって来ていた。
もっとも、彼の部下であるロットがヘマこいて魔人に捕まり、そのまま今いる階層の奥にある封印の間に封じられた為、まずはロットを取り返す為にやって来ていたというのが真実である。
だが、魔人達もそう簡単にはストームを進ませまいと、全力で阻止しようと襲い掛かっていた。
そしてストームも、襲いくる魔人達を次々と抹殺していた。
この地帯の砂漠の持つ『魔力放射塵』のお陰で、ストームは精霊魔術を行使出来ない。だが、心力ベースのコマンドなら使用可能の為、英雄モードでのバトルを繰り広げていた。
「しっかし……何でこうも、魔人達ってのはしつこいかなぁ……」
──ドシュッ
倒れている魔人の首筋に向かって刀を叩き込みトドメを刺す。
そしてブゥンと刀を振るって血糊を払うと、すぐさま鞘に収める。
そして正面奥、巨大な扉の手前までやって来る。
高さは優に10mの両開き扉、材質は綺麗に磨かれた大理石。
幾何学的な文様が綺麗に刻み込まれ、許しを得た者以外を拒むかのように静かに輝いている。
「はぁ、こういうのはマチュアの仕事なんだよなぁ……と言っても、あいつの深淵の書庫もここでは機能しないか。さて」
──コンコン
何も警戒せずに扉を軽くノックする。
突然ながら何も返答は返って来ない。
「まあ、これで返って来たら逆に帰りたくなる事案だが……」
グッと拳を握って大きく振りかぶると、全力で扉をぶん殴る。
──ゴィィィィン
派手に打撃音が響き渡るが、素手の攻撃程度ではビクともしない。
寧ろ、殴ったストームの拳が砕けそうになる。
──シュゥゥッ
すぐさま心力により自己治療を行うと、殴った右手をブンブンと振る。
「おー痛てて。やっぱり無理か。なら」
ゆっくりと腰を沈めて左腰の鞘に手をかける。
そして右手で柄を握ると、静かに深呼吸。
──キン
刹那の間。
すると、目の前の扉が斜めに分断された。
轟音をあげながら崩れる扉。
その破片にぶつからないように後ろに下がると、ストームは開け放たれた扉の向こうをじっと眺める。
床に広がるのは直径10mほどの魔法陣、その傍には、四方を守るガーディアンらしき彫像が並んでいる。
猿の獣人、隼の獣人、梟の獣人、鰐の獣人。
その四体の彫像は、扉を破壊したストームの方をゆっくりと向き直る。
そして一歩、また一歩とストームに向かって近寄っていく。
各々がコピシュと呼ばれる湾曲した小刀を構え、侵入者であるストームを排除すべく間合いを詰め始めた。
「……この四体で、丁度撃墜数300か。我ながらよくもまあ倒したものだな」
──シュンッ
銀色の鎧に身を包み、力の盾とカリバーンを構える。
そして徐々に加速を開始して四体のガーディアンに向かって攻撃を開始した。
………
……
…
二十分後。
制御コアを破壊されて砂の塊となったガーディアンをよそに、ストームは魔法陣に近寄って手を当てる。
「全く。守護者ならもっと強いの配置しろよ。この程度、外の魔人の方がなんぼかマシな奴いたぞ……と」
右手を魔法陣に添えて、心力をゆっくりと流し込む。
そして心力を神力に切り替え、神威を解放する。
「さて……神威解析……と、すでにロットは転送された後か……行き先は、多次元世界?」
大凡の想像通りの結末だが、だからと言ってすぐに迎えに行けるかというと実に怪しい。
時間と空間に干渉できるのは天狼のみ、ストームでも神威を解放すれば一度行った世界になら向かうことができる。が、この魔法陣の転送先は、ストームも知らない世界。
強制的に魔法陣を起動し、ストームが迎えに向かうことも可能だが、この先に何があるのか全く分からない。
「さて……この座標軸は……ジ・アースか。確かマチュアが行った事があるって言っていたが、向かうには確か鍵がいるって話だよなぁ」
いくら幻影騎士団の一員とはいえ、まだロットは若く実績もない。
そんな少年が単独で異世界に転移されて、果たして無事なのか。
「ま、取り敢えずマチュアに連絡してみっか。それからでも遅くはないだろうさ」
どっかりと腰を据えてからストームは空間収納からカレーライスを取り出して腹ごしらえを始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
時折見る夢。
それは、どこか果てしない世界。
白銀のローブを身に付けた賢者、同じく銀色の鎧を身に纏った騎士。
勇猛なる騎士、眼帯をつけた隻眼の侍、聖者の衣を着ているシスター、雄々しいドワーフの戦士、エルフの精霊使い。
まだ幼い忍者、そして賢者の弟子の少女。
その中に、確かに自分の居場所はあった。
だが、今、自分はその場にはいない。
この記憶は何なのだろう、自分でも知らない、失われた記憶。
そして風景は徐々に薄れていく。
──コンコン
彼の寝室の扉を、誰かが叩く。
そして微睡みから目覚めると、先程までの夢などなかったかのようにスッと意識が戻ってくる。
「ルフト様、朝食の用意が出来ております……」
彼の部下であり、先代の魔王の補佐官でもあったマルコが、彼の部屋の外から声を掛ける。
「分かった、今向かう」
ベッドから体を起こし、着替える。
ふと、壁際に置かれている鎧に目がいく。
そこには、彼がこの世界に召喚された時に身につけていた『真紅の鎧』と一振りの剣が置いてある。
そんなものを何故自分が持っていたのか、ルフトにはわからない。
ただ、この世界にやって来た時、肉体構成から何から全てが新しく作り直されてしまった為、その鎧は着る事が出来なくなっていた。
『それは、大切な人を守る時に、本領を発揮する』
誰かが教えてくれた。
その誰かも分からない。
そして鎧から視線を逸らすと、ルフト・シュピーゲルは部屋から出て行った。
そして幻影の名を持つ魔王は、いつものように執務に向かう。
自身を散々コケにしてくれた、憎っくき悪魔っ娘マチュアに一泡吹かせる為に。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので……。
 






