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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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裏世界の章・その18・オネスティと魔族と

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。


──オフィーリア領にて


「おや、ポイポイさんと、ユミル達もご一緒で。そちらは順調ですか?」

 偶然にも、マチュアは露店を見回っていたポイポイ達と再会する事が出来た。まさかの合流にも拘わらず、ポイポイは表情を変える事なく、静かにこっそりとサムズアップ。

 すぐさまマチュアとアイリスもサムズアップすると、ユミルがマチュアに話しかけてきた。


「マチュアさんは、今日はどちらでお休みですか? よろしければ私達の世話になっている屋敷にいらっしゃいませんか?」

 好意で告げたのは嬉しいが、それでは作戦の意味がない。この気の回しようはユミルの育ちの良さが災いしているのだろうとマチュアは思った。

 なので、きっぱりと一言。

「せっかくですがお断りしますよ。私は隊商(キャラバン)の用意してくれた宿がありますし。アイリスはどうする?」

 そう問いかけると、アイリスはマチュアとユミルを見比べて、少しだけ考える。

「あ・え・えーっと。マチュアさんといる」

  この返事に、ユミルは少し寂しそうであるが、ポイポイがユミルの肩をポン、と叩いた。

「アイリスちゃんのほうが、何をすべきか判っているっぽいよ。さ、マチュアさんに迷惑をかけないように立ち去るっぽい」

 久しぶりの姉妹再会にも拘わらず、感動の出会いもなにもなくあっさりとマチュアを選んだアイリスに、ユミルはどんよりと落ち込んでいく。

 だが、アイリスはユミルに軽く手を振って、マチュアと共にその場から離れて行った。


「あああ……」

 手を伸ばしそうになるユミルだが、すぐにメルセデスがその手を制する。

 メルセデスも、マチュアやポイポイの行動の意味を理解している。その上で、王位継承権を持つユミルの為に行動してくれているマチュアやアイリスの努力を無駄にはしたくないのである。

「個人的な事は後回し。今はまだ、やる事がありますからね……ここは我慢してください」

 そっとユミルの手を離し、メルセデスが彼女にだけ聞こえるように小声で呟く。最も、その程度の小声など、ポイポイにとっては普通の声。

 それでも聞かなかった事にして、マチュア達から視線を逸らす。


『ポイポイさん、そっちはどんな感じ?』

 すると、マチュアからの念話が脳裏を駆け巡る。

 なので、ポイポイも念話で返事を返す。


(オフィーリア男爵とは無事に再会したっぽい。でも、男爵さんはマチュアさんやポイポイの事を知っていたっぽいよ?)

『なんで?港町の一件?』

(オフィーリアさんは、公国の情報収集担当だったっぽい。ウィル大陸の方も結構知っていたっぽいし、忍びを子飼いしていたっぽい)

『へぇ。まあ、それならポイポイの出来る範囲で協力してあげて。可能なら、闇ギルドの件も聞き出してくれる?』


 フワフワと絨毯で飛びながら打ち合わせをするマチュアとポイポイ。

 そして、ポイポイからは、オフィーリア男爵から聞いたオネスティの事を、マチュアも隊商の人々から聞いたオネスティについての話をして、擦り合わせる。

 大きな差異はなかったので、引き続きお互いに情報を集める事で方向性は固まったのだが。


(マチュアさん、ユミルさんの知り合い、オフィーリア男爵は、ポイポイとマチュアさんに公国の奪還に協力してほしいっぽい。けど……)

『最前線は無理だなぁ。迂闊に私やポイポイが動くと、ラグナ・マリア帝国の大陸侵攻とも取られかねないし……』

(そそ。なので、協力はできないけど護衛ならという事で話はついたっぽいけど……)

『そうだね。この先ずっとそのスタンスを取り続けるのもあれだなぁ。公国奪還協力の約束はしたから、またゴーレム作るのも問題だし……どうしようか?』


 流石のマチュアでも、頭を捻る案件である。

 このまま、それじゃあはいさようならというのは、あまりにも後味が悪すぎる。かと言って、堂々と助力するにはきっかけが足りない。

 何か大きな事例でもあれぼ、そこから取っ掛かりが出来るのだけど……。


(ん、この件は現状維持で保留。ポイポイは、護衛として可能な限りの能力解放を許すから)

『了解っぽい』

(そんじゃ、また定時連絡よろしくー)

『ぽーい』


 それで念話は完了した。

 ポイポイは引き続きユミル達と共に街の中を視察し、アルマロス公家が健在である事をアピール。その上で街の人々から現在の政権についての不平不満を聞き取っていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 

 

 一方、マチュアとアイリスは。

 カルロスが用意していた護衛用の宿にやって来ると、空き部屋を一室借りていた。

 元々隊商(キャラバン)とは関係ないので、これについては自腹、なのでもっとも高い部屋を三日間押さえたのである。


「お、誰かと思ったらマチュアさんか、まさか宿も一緒とはね」

 一階の酒場でのんびりと酒を飲んでいたキャシィとジェフリー、そして彼女達のパーティーメンバーが、マチュアを見掛けて手を振って来た。

「これから夕食ですか? もしよろしければご一緒しますか?」

 パーティーメンバーのジェフリーがマチュアを誘うと、マチュアは思わずアイリスを見る。

「どーする?」

「ん? キャシィ、さん達は、いいひとだ、から」

「そっか。んじゃご一緒しますか‥‥それでは折角なので」

 店員に同席する事を告げると、マチュアとアイリスは空いている席に座った。

 そして店員に金貨を三枚手渡すと、適当に食事とお酒、フレッシュジュースを持って来てもらう。

 取り敢えずはエールとワイン瓶、そしてジュースが届けられると、マチュアはジェフリー達にも酒を振る舞い始めた。


「まあ、旅は道連れですから、これは私のおごりです、同行している私達まで護衛してもらっているのですからね」

 にこやかに話しつつ、ワインとエールの入ったジョッキを差し出す。

 すると、キャシィと重装戦士のゴトセットがすばやくエールに手を伸ばす。

「これはかたじけない。折角なので遠慮なく」

「わわわ、おごり? おごりだよね? 飲み足りなかったんだぁ」

──ゴクッゴクッ

 手にしたジョッキを一気に飲み干すキャシィとゴトセット。その光景に、仲間達は呆れてものも言えない。

「はぁ‥‥そんな気を使う必要はないのですよ? カルロスさんから、マチュアさん達の護衛分の追加報酬は受け取っているのですから」

 ジェフリーが困った顔をしてマチュアに呟く。

 そのカルロスでさえ、今日の昼間のバザーでかなりの売上を叩き出しているのである。

 最初にマチュアの元に付与魔術許可証を持ち込んだ冒険者が彼方此方あちこちに問い合わせしてくれたおかげで、何時になく大勢の人々が隊商(キャラバン)のバザーに殺到したらしい。

 おかげで、初日で既にいつもの3日分の売上を叩き出していたのである、後2日で隊商(キャラバン)の荷物が空になるのではと心配しているぐらいである。

 その話をジェフリーから聞いて、マチュアは思わず苦笑している。


「そういえば、私達のパーティーの紹介をしていませんでしたね。私はジェフリー・パーリット。パーティー『シルバーサラマンダー』のリーダーを務めています。そして」

 すぐさまキャシィが手を挙げる。

「私はキャシィ・ジーフォース。双剣士だよ、よろしくね、こっちの無口の重装戦士が」

「ゴトセット・エイスースです。重装戦士ではなく重装騎士です‥‥ジョブは盾騎士です」

 ゴトセットが真っ赤な顔でそう説明する。

「私は精霊魔術士のメイリン・ギガバイツ。エルフとヒューマンのハーフだけど、血筋が人よりなのでエルフの特徴は無いので」

 最後の方はこそっと呟いている。

「お、俺はルーファス・ゾータック。ジョブは盗賊と暗殺者のダブルで、恋人募集中。マチュアさんは何歳?」

 いきなり自己紹介の後に歳を聞いて来るルーファス。

 ならばマチュアもゴホンと一言。

「私はマチュア・フォン・ミナセ、ウィル大陸のハイエルフです。年齢は500は超えているしハイエルフなので、あいにくと異性の人間には興味ないわよ‥‥こっちのコは」

 するとアイリスが頭を下げるが、すぐに全員が笑ってアイリスに話しかける。

「アイリス・エルトリック・アルマロス嬢ですよね? 私達のパーティーは、以前公家からも討伐依頼を受けた事がありますので挨拶は不要ですよ」

 ジェフリーがそう笑うと、アイリスもホッとした顔をしてコクコクと頷き、丁度運ばれて来た食事を楽しみ始めた。


「あっちゃあ‥‥500歳超えかぁ‥‥普通のエルフよりも長命種じゃないですか‥‥」

「それで、隊商(キャラバン)の中でも聞いたんだけど、マチュアさんの目的は一体なんですか? 公家の忘れ形見、アイリスさまを連れてアルマロス領都まで向かうなんて‥‥まさか?」

 下衆い発想で身悶えているルーファスだが、これにはジェフリー達も頷いている。

 それ程までに、マチュアとアイリスという組み合わせに違和感があるらしい。

 すると、マチュアとアイリスが隣り合わせのまま、ほぼ同時に腕を組んで唸っている。


「「う~ん‥‥」」 


 その光景に、思わず一同吹き出してしまう。

「プッ‥‥マチュアさんとアイリスさまって、おんなじ顔で考えこむのですね?」

「ん? ああ、え~っと。どうしたものかなぁ‥‥なら、今からあげる単語で、聞き覚えのあるものがあったらそっと手を上げて‥‥まず、オネステ」

「ゴホゴホゴホゴホっ」

 マチュアの言葉の途中で、ジェフリーやキャシィが突然咳き込んだ。

 まるで『それ以上言わせねーよ』という意思表示でもあるかのように。


「マチュアさん、それはこういう所では禁句だ。どこで聞かれているかわからないからな」

「そうそう。場所を変えましょう、その方がいいわ」

 そう告げるジェフリーとメイリン。すると、キャシィが率先して立ち上がると、マチュアを手招きする。

「取り敢えず私達の部屋に行きましょう?」

「でしたら、私の部屋へ。その方が都合がいいので」

 マチュアも立ち上がって階段に向かう。するとアイリスもてくてくと後ろをついて行く。何かマチュアに意図があるのかと、ジェフリーたちも後ろをついて行くと、そのままマチュア達の部屋に移動する事にした。


‥‥‥

‥‥


「さて、遮音結界‥‥と」

──ブゥゥゥン

 静かに詠唱を行い、室内全体に遮音結界を発動する。これにより室内の音はすべて遮断され、外には一切聞こえなくなる。

 更に敵性防御結界も施すと、完全な密閉空間を構築した。


「これが一般魔術ですか‥‥こんな効果があったなんて知りませんでしたわ」

 室内をぐるぐると見渡すメイリン。そして結界にそっと触れて、魔力の循環を感じ取る。

「これは、精霊力さえ無力化しているのですね。これ程までに強力な魔術が存在していたなんて‥‥マチュアさん、ぜひ、私にもこの魔術体系を教えていただけませんか?」

 ひしっとマチュアの手をとって懇願するメイリン。

 だが、ジェフリー達は近くの椅子に座ると、メイリンやゴトセットに座るように促している。

「まあ待て、まずはマチュアさんの話を聞いてからだ。申し訳ないが、どうしてマチュアさんがオネスティの名前を知っているのか教えてもらいたい」

 真剣な表情で問いかけるジェフリー。すると、マチュアも少しだけ考えてから、ゆっくりと口を開いた。


「そうねぇ。まず、これだけは覚えておいて。私がオネスティを追いかけているのと、アイリスと一緒に行動している理由は別だから‥‥」

──コクリ

 それには頷く一同。

 これでオネスティ関連とアイリスに繋がりがない事を伝えられたと確信すると、マチュアは一つ一つ最初から説明を始めた。

 まず、ウィル大陸での人身売買組織の件から始まり、帽子屋という存在の確認、その背後にある闇ギルドを調べていたらオネスティという存在に突き当たったという事。

 そして、ここまでに入手したオネスティの情報についてを事細かく話し終えた。

 可能ならば、ウィル大陸にまで手を伸ばされないように、悪い芽を摘み取ってしまいたい所までを説明すると、ジェフリーたちもウンウンと納得してくれていたのである。


「さて、それじゃあオレたちの知っているオネスティについて説明するか。大体はマチュアさんの調べたところまで。オネスティは実質8つの組織によって成立している。『帽子屋』『武器屋』『服飾屋』、これはマチュアさんのいう呉服屋のことだ。あとは『靴屋』『薬屋』『棺桶屋』『宿屋』、そして『王室御用達』の8つですね」

 ジェフリーが一つ一つを指折り数える。

 これにはマチュアもポカーンと聞いていた。


「な。何で詳しいの?」

「ああ、オネスティについては、ヴァンドール帝国の冒険者や商人達の間では、それなりに噂されているからな。実態を持たない犯罪組織だの、秘密結社だのと‥‥それに、さっき話していた組織の一つ『王室御用達』の存在があるから、公には話を出来ないんだ」

「王室御用達は、噂ではヴァンドール帝国王家らの皇帝親衛隊を指し示すと言われています。魔族のみで構成されている騎士団でして、王家に仇なす存在を誅殺するのが使命とも言われています」

 ジェフリーとメイリンが呟くと、他の三人も頷いている。

 どうやら地方都市では噂するのさえ危険なため、情報として手に入れる事は出来なかったが、冒険者達はその事実を知っているからここまで詳しいのだろうと感じ取った。

 そうなると、かなり厄介な存在である事は否めない。

 

「そうなると、オネスティの背後にはヴァンドール帝国の暗部が存在していると考えていいのか」

「あくまでも噂としてならばな。王室御用達の存在が本物ならば、オネスティを牛耳っているトップが誰なのかは自明の理だ」

「現帝国皇帝のハワード・フィリツプス・ヴァンドールは魔族の世界でも確か王位の存在と聞いている。事実、かなりの数の魔族を従え、大陸の2/3を治めているのだから、その実力については間違いはない‥‥まあ、大抵の従属国は、膨大な税と貢物を納める事である程度の自治権を持っているし、ヴァンドール帝国も正式にはヴァンドール帝国連邦なのでねぇ」

「それでも、皇帝の意に沿わないものについては実力を持って排除する、それも言いがかりレベルで‥‥アルマロス公国もその犠牲の一つだからなぁ。まあ、マチュアさんがオネスティを滅ぼすというのなら、真っ先に帝国皇帝を潰すのが近道だが‥‥流石にねぇ」

 キャシィがジェフリーに続いて呟くと、マチュアもウンウンと頷いている。


「そんな簡単な道があるのなら、とっとと皇帝を潰すわよ。それが出来ないから‥‥いや、潰すのは難しくないんだけど、その後が大変なのでやらないわよ」


「「「「「潰せるのかよ(ですか)!!」」」」」」


 アイリス以外の同時ツッコミ。だが、マチュアはウンウンと頷くだけ。

「それにしても、魔族の王ねぇ‥‥そんなのいたかなぁ」

 ふと、10年以上前にメルキオールに聞いた魔族の力関係を思い出す。

「確か今の魔族は七使徒によって治められていて‥‥あれ?。確か七使徒は私のコピーの『仮面の導師アーカム』でしょ?  竜族にして魔族化した『竜族の獣人カレラ・ドラグーン』、それと『暗黒騎士セシル・ファサード』、『闇司祭のメルキオーレ』後は‥‥」

 一つ一つ指折り数える。

 クラウンは死んでファウストに能力を奪われ、そしてファウストも死んだから空位。カミュラもアーカムに殺されたので空位。

 後は誰がいたかなぁ‥‥と首を捻る。

「あ、『魂砕きのアンダーソン』がいたか。これで五人、後2つのうち一つがここの皇帝という事かなぁ‥‥」

 そう呟きつつ、マチュアは首を捻る。

 それに対して、ジェフリーたちもなぜマチュアが七柱の魔族の名前を知っているのが驚きなようである。


「さて、こうなると若干の路線変更も辞さない所か。ポイポイさんの連絡も待つ事にして、今はゆっくりと休みましょ」

 そうアイリスに話してから、マチュアはいつものようにティーセットを空間収納チェストから取り出す。

 それで全員分のティーセットを並べると、深夜のティータイムを開始した。



いつも読んでいただき、誠にありがとうございます。 

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


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