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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第一部 異世界転生者と王都動乱

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ラグナの章・その5 大会も盛り上がって参りました

 大会初日、一回戦はマチュアに対してのブーイングで幕を閉じた。


「おーい。なんで私だけブーイングなんだよー」

 と控室で呟くマチュアだが。

「まあ、あれはそうなります。もっとちゃんと試合をしていれば、あんな事にはならなかったと思いますよ」

 ウォルフラムがマチュアを窘めるようにそう告げた。

「マチュア、あれは遊びすぎ。暗黒騎士なら、もっとまともにスキルを使えばいけるだろうが」

 やれやれといった表情で、ストームも意見を出す。

「シルヴィーの事を狙っているマクドガル卿が何処で見ているのか分からないから、奥の手どころか上位スキルなんて見せる気はないっ」

 腕を組み、キッパリと言い切るマチュア。

「まあ、それはそれだ。次はベスト16、手抜きはまだ出来るとは思うが程々にな」

 とストームが告げると、その横ではウォルフラムが頭を抱える。

「さっきの試合でまだ手抜きって‥‥自信無くしますよ」

「まあ、ウォルには俺がその内稽古を付けてやるよ。マチュアはアンジェな」

 へ? という感じで自分を指差すマチュア。

「あーほいほい。私はアンジェラに魔法の手解きだぁね。蘇生までは使えるようにしてあげるわ」

「「よ、宜しくお願いします!!」」

 とウォルフラムとアンジェラが同時に頭を下げる。

 やがて、第2試合の時間になったのだろう。


「二回戦第一試合です。ストーム選手会場まで」

 と係員がストームを呼び出した。

「それじゃあ、いってくるか」

 ということで、まずはストームが出陣となる。

 マチュア達に軽く腕を上げてアピールすると、ストームは通路に向かって進んでいった。

「ウォルフラムは?」

「この後です。対戦相手は、噂の『異世界の勇者』だそうで」

 ふぅんと、マチュアが呟く。

「まあ、まずはストームの試合だね‥‥腕一本なら許す」

 と、心配そうに控室でお祈りしているシャーリィの横でマチュアが呟いた。

「私は観客席から見ていますので、ストーム様、ご無事で‥‥」

 シャーリィはそう告げてから観客席へと向かって行った。



 ○ ○ ○ ○ ○ 



「それでは第二回戦第1試合の開始だぁっ。まずは『剣豪・斑目』の入場っっっっっ」

 と解説の叫び声が会場全体に響き渡る。

 そして相手側の通路に現れたのは、真っ赤な着物を着た侍・斑目の姿であった。

 会場に踏み込むと、斑目は前方の通路で待機しているストームを見て、ニィッと笑う。

「よしよし。相手は中々の武士(もののふ)、久し振りに腕が鳴る」

 と告げながら、斑目は開始線に向かって歩いて行く。

 そして反対側の通路では、ストームが斑目を真面目な表情で見ている。

 斑目の一挙手一投足、かなりの実力者である事が伺える。

「ふむ。これは少し本気出すか」

 という事で、ストームは『モードチェンジ・侍』を始動。

 すかさず武具の最適化を行うと、ストームも着物に陣笠、そして日本刀という出で立ちになって入場する事にした。

「続いて今大会のダークホース。優勝候補を倒した男、戦う鍛冶師ストームの登場だぁぁぁぁぁぁぁっ」


――ユラーリ

 とストームもまた着物に刀という侍スタイルで登場したので、会場が一瞬静まり返った。

「‥‥ほほう。貴殿も拙者と同じ東方の出身か?」

 とストームに問い掛ける斑目。

「いや、あんたの住む東方よりもまだ向こうだな。しかし侍と直接対決とはねぇ‥‥」

 そう告げて、しばしストームは斑目の武具を見る。


(着物は特殊な繊維‥‥鋼糸を縫い込んである。だが、あの刀は尋常な‥‥あれ?)


 斑目は二刀流らしく、左腰に日本刀を指している。

 一本はストームがこの街に納品した刀だが、もう一本からは何か禍々しい力を感じる。

「なあ、あんた、その刀‥‥」

「ああ、これか。この国にもまさかこれ程の大業物が伝わっていたとは知らなかった。この街の鍛冶ギルドに飾ってあってな。拙者が引き取ってきたのだ‥‥」

 そうか。

 そんなにいい評価してくれるのか。

 とストームは笑みが浮かぶ。

「しかし、貴殿のその刀は、見たこともないな。銘はなんという?」

 と斑目に問いかけられたので、ストームは一言。

「銘は三世(みつよ)、名は大典太(おおてんた)三池典太光世(みいけてんたみつよ)作の名剣だ‥‥」

「聞かぬ名だが、それが大業物である事は判る。それでは参ろうか」

 と開始線に立つと、ストームに向かって一礼する斑目。

 ストームもそれに習い、丁寧に頭を下げる。

「尋常に」

「いざ‥‥勝負っ」


――カチャッ

 両者共に刀を抜く。

 お互いに摺足で間合いを取りつつ、ゆっくりと時計回りに回り始める。

 それまでの戦いとは違い、両者共に一撃必殺の間合いを取る。

 どちらが先に仕掛けて来るのか、それをじっくりと見なくてはならない。

 先制を取って一撃で終わらせるか

 敢えて敵に先を取らせ、『後の先』で技を返すか。

 二人の覇気が会場に漂い始めていく。

「‥‥斑目殿といったか。いい覇気をお持ちだ」

「それを軽く流すストーム殿も中々のものよのう」


――カチャッ、キンッ!!

と両者共に間合いを詰めて、刀を振るう。

 ストームは得意の『火の構え』、それに対して斑目は刀の剣先を水平より少し下げた『地の構え』を取っていた。

 そこから同時に打ち込まれた一撃は、両者共に刀身で受け止めて再び間合いを取る。

 だが、ストームの肩口からは血が流れている。

 斑目の攻撃を受けた時、切っ先から衝撃波が飛んできてストームの肩を少し(えぐ)ったのである。

「ああ、その刀は衝撃波もでるんだったよな。忘れていたわ」

 と呟くストーム。

「ほう。この刀を知っているのか」

 と斑目が問いかけたので、ニィッと笑いつつ一言。

「俺が打った刀だ。忘れる筈がないだろうさ」

 と呟く。

 もっとも、一撃を受けた時まで、すっかり忘れていたという話もあるが。

「この刀を貴公が?」

 と斑目は一瞬動揺するが、ストームは静かに頷くだけである。

「そうか。いい腕だ。本国に是非来て頂きたい所だが」

 と斑目の刀の切っ先が更に下がる。

「残念だけど、俺は色々と忙しいんでね。済まないが手加減出来ない、悪く思うな」

 と告げると、ストームも意識を静かに研ぎ澄ます。

 ゆっくりと目を閉じ、相手の発する剣気だけを感じ取る。

「では‥‥」

 と、斑目も静かに刀を構えたまま、じっとしている。


――タッ!!

 と斑目が踏み込んで、下段からの連続三撃を発する。

 だが、その初太刀を感じ取ったストームが、斑目の攻撃が届くよりも早く間合いを詰め、下段から切り上げるように斬撃を放った。 


――ズバァッ

 斑目の両腕が切断され、大地に落ちる。


――プシュッ

 と切断面から血が吹き出し、斑目はその場に崩れ落ちた。

 今の一撃、素人目には全く見えていない。

 この大会に参加している者達でも、全てを見ていたのは極僅かであろう。

 そこまで二人の斬撃は素早過ぎたのである。

「拙者の双燕を‥‥知っていたのか?」

「ああ。偶然だが同じ名前の技を俺も使うのでね。悪いが『雷切り』で止めさせて貰った」

 チン。と刀を納めるストーム。

「勝負あり!! 勝者ストーーーームゥゥゥゥゥゥゥ」


――ワァァァァァァァァァァァァァ

 と止まっていた時間が突然動いたかの如く、歓声が湧き上がる。

 膝から崩れ、かろうじて体を起こして居る斑目。

 だが、出血は止まらない。この傷では、もうあまり長くはないだろう。

 侍として、大切な両腕を失ってしまったのだ。もう生きていることに後悔はない。

「トドメは刺さぬのか?」

 と斑目は、死を覚悟でそう問い掛ける。

「気にするな。『くっ殺(クッコロセ)』は美人の騎士だけで十分だ。おっさんのなんか見たくない。という事で、うちの控室で腕を繋げてやるよ‥‥」

 と、ストームは転がっている斑目の腕を拾い上げると、そのまま控室へと戻っていく。

 斑目もどうにか立ち上がるとストームの後ろについて行った。



 ○ ○ ○ ○ ○



「マチュア、怪我したから直してくれ。俺の肩とこいつの両腕な。急ぎな、綺麗になっ!!」

 控室に戻った、ストームの開口一番がこれである。

「ちょっと待てや。流石にそれ治すと私キツイんですけど」

 煽っていくスタイルでマチュアに告げるストームに、マチュアはそう呟きつつ、取り敢えずストームの方に『軽治癒(ライトヒール)』を施す。

 みるみるうちに傷が癒えてきたので、次はこの斑目の両腕の接合である。

 という事で、アンジェラを呼ぶことにした。

「おーいアンジェラ、腕繋ぐよぉ」

「ちょっとマチュアさん、そんな買い物に行くみたいに呼ばないで下さい。私はそこまでの魔力は無いのですよ」

「だと思ったので、魔力のコントロールを教えてあげるから来なさーい」

 と、ウォルフラムの準備を終えたアンジェラを呼びつけると、まずは斑目の右腕を手に取る。

 それを切断した傷口にあてがうと、アンジェラに指示を飛ばす。

「二つの傷を繋げるのではなく、まずは活性化させる感じで。傷同士が触れ合っていれば、活性化した傷口同士が引き寄せ合う。まずその感覚を感じて頂戴」

 アンジェラはマチュアに告げられたように、傷口のみに意識を集中する。

 そして右手を傷に添える。

「こうですか‥‥『軽治療(ライトヒール)』‥‥」


――ブゥゥゥゥン

 淡い光が斑目の傷口に降り注ぐ。

 すると体側の傷が活性化を開始し、そこに触れている切断された腕の傷口も少しずつ活性化していった。

 今まで試したことは何度もあったが、接合したいという意思と、発動に使い過ぎている魔力を制御しきれていなかったのであろう。

 コツを教えると、アンジェは意外と飲み込みが早かった。

「こ、こうですか‥‥」

「そうそう。すぐに全てを接合する事なんて考えないで。接合ではなく傷の活性。そして繋がりが見えたら少しだけ注ぐ魔力を強くして活性化する。アンジェラの魔力なら、その状態を維持し続けていれば‥‥二時間ぐらいで繋げるはず」

「感覚的にはなんとなく。やってみます」

 と素直に続けるアンジェラ。

「で、慣れるとこんな感じね。範囲の固定も今度教えてあげる。そうすれば、消費魔力はまだ下げられるから」

 と斑目の左腕を手に取ると、それを切断面と重ねる。

「『範囲固定(ポイントセット)治癒(ヒール)』」

――シュウウウウウウウウウ

 見る見るうちに傷が接合され、組織が再生されていく。

 ものの五分もあれば、斑目の腕は完全に接合した。

「アンジェラだと、コツを掴めたら同じぐらいは出来るようになるからね。まずは時間を気にしないで、傷の活性化に集中して」

 と告げられて、アンジェラは静かに頷く。

「誠に申し訳ない。敗者である拙者にまで、このような手厚い看護を」

 と斑目が呟いているが、そんなの気にしない二人である。

「いや、この代金は後日きっちりと支払って貰うからね」

 いや、マチュアは気にしていた模様です。

 そうこうしているうちに、ウォルフラムと異世界の勇者ラグナの試合が開始されたが。  



 ○ ○ ○ ○ ○



 第2試合はウォルフラムとラグナの戦い。

 レオン流騎士剣術の使い手であるウォルフラムが、最初は優勢であった。

 ラグナは手にスモールシールドとロングソードを構えて、防戦一方の戦いであったが。

「これ以上は子供に剣を振るいたくはない。ラグナ君、敗北宣言したまえ!!」

 とラグナに話しかける。

「駄目なんです。僕は負けたら駄目なんです‥‥」

 と涙を流しながら、ラグナはウォルフラムに攻撃を開始する。

 その速度が、徐々に早くなってくるのに、ウォルフラムは気がついた。


――キンキンキンガキィン

 どんどん剣戟の速度が上がっていく。

「僕は約束したんです。この世界に来た理由。目覚めた悪魔を倒さなくては行けないって‥‥」

「何っ!! それはどういう事だ!! その悪魔とやらは何処にいると言うんだ!!」

 ラグナの言葉を、真面目に受け取ってしまうウォルフラム。

「悪魔はいま、使徒を増やしてこの世界を掌握しようとしているん‥‥だ‥‥から‥‥」

 段々と、言葉があやふやになりつつあるラグナ。

 その為ウォルフラムも一度間合いを外し、ラグナの言葉に耳を傾けようとしている。

 だが、この二人の会話は周囲の喧騒によってかき消されてしまっているので、彼らがなんの会話をしているのか、全く判らなかった。

「僕を召喚してくれたお母さんが、言ったんだイッタンダ‥‥悪魔ハ倒サナクテハイケナイト‥‥」

 ラグナの口元が異様に釣り上がり、瞳の奥に暗い何かが生まれる。


――ヒュヒュンッ‥‥ガギガギカギィィィィッ

 一気に間合いを詰めたラグナが、ウォルフラムの防御の隙間を縫って攻撃を叩き込んでいく。

 幸いなことに鎧がそれを止めていたのだが、今度はその鎧の継ぎ目に向かって攻撃を集中させていった。

「ば、馬鹿な‥‥これは子供の力では‥‥ない」


――スパァァァァッ

 ウォルフラムの左肩が切断される。

 咄嗟にその傷をかばってしゃがみこんだ瞬間、ラグナのロングソードはウォルフラムの首を捕らえていた。


――ガギィッ

 と残った腕で楯を振り、その攻撃を流す。

 だが、それは眉間を切開し、大量の血がウォルフラムの顔に流れ始めた。

「分かった‥‥私の負けを宣言する!!」

 と叫ぶウォルフラム。

 だが、審判は試合を止めない。

「どうした? 私は敗北を宣言したんだ」

 と審判に詰め寄ろうとするが、その前方にラグナが回り込んでさらに攻撃を続ける。

「審判、聞こえていないのか!!」

 と叫ぶが、審判は頭を捻っているだけである。

「残念ダネ、僕達ノ声ハ聞コエテイナイヨ‥‥サヨウナラ」

 とウォルフラムに斬りかかる。

 腕を失った挙句、大量の血が体内から抜けていく。

 それに額の傷が酷くて、視界を奪われてしまった。

「もう‥‥やめるんだ‥‥まだ君は戻れる‥‥」

 と呟いた時、ようやく審判が異変に気がついたらしく、試合は停止した。

「そこまでっ!! 勝者、ラグナぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


――ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ

 喝采があがる。

 そしてウォルフラムは担架に乗せられると、静かに控室へと運ばれていった。

 だがすでに、ウォルの意識は閉ざされていた。



 ○ ○ ○ ○ ○



「ウォルっ!!」

 担架に運び込まれ、意識がない状態で控室に運び込まれたウォルを見て、アンジェラが駆け寄ろうとした。

「アンジェは動かないで。まだ斑目さんの腕は接合していないわ。いま動くとおかしい方向にくっつくわよ」

 とマチュアが慌ててアンジェラの動きを制すると、すぐさまウォルフラムの方に駆け寄る。

『ストーム。この大会、優勝までいけるか?』

 とマチュアはストームに小声で問い掛ける。

 そしてストームは、その時のマチュアの言葉を察した。


 ウォルフラムは死んでいる。


 アンシェラがその事実を知ったら、どうなるかわからない。

なので、斑目の方にアンジェラを止めておいたのである。

「ウォルの怪我は直せるのか?」

 ストームも状況をわかったらしく、蘇生ではなく怪我と告げたようだ。

「まあ、腕の接合と傷を塞ぐので、多分魔力使い切る。から後は任せた」

「分かった‥‥」

 というストームの言葉を聞いて、マチュアは静かに切断された腕を取る。

 それを肩口にあてがい、まずは接合する。

 細胞の活性化は死者には通用しないので、純粋にマチュアの魔力で再生を施したのである。

 無言で発動すると、見た目には普通の治癒にしか見えない。

 それである程度接合が終わったら、今度はウォルフラムの体を包むように魔法陣を展開する。

「全く‥・『広範囲(セイグリッド)治癒陣(ヒールサークル)』っっっっっっ」


――ブゥゥゥゥン

 と、以前使用した広範囲型の治癒結界を発動する。

 その直後に、アンジェラには見えない角度で、心臓に手を当てる。

(時間が経ちすぎているけど、大丈夫‥‥『完全蘇生(レイズデット)』)

 少しして、突然心臓が鼓動を開始した。


――ドクン‥‥ドクン‥‥

「ふっふっふっ。このままの状態でよし、回復には結講かかるよ」

 とニィッと笑いつつ、マチュアがアンジェラとストームの方を向く。

「で、どれぐらいだ?」

「ウォルは無事なのですね。良かった」

 ホッっとしたアンジェラが、斑目の腕に意識を戻す。

「意外と傷が深い。けど死んでる訳じゃない。ぶっちゃけていうと意識が戻るまでは‥‥最低でも一週間って所かな。暫くしたらシルヴィー邸に運んでベットでおねんねだ!!」

 その言葉にアンジェラも一安心。

「そんなに危なかったのですか?」

「まあね。死んでないから難しくはないけど、今日はもう色々と魔力使いすぎたので、完全回復に時間かかるのよ‥‥」

 と呟いて、ストームの方を向きつつ一休み。

「順当にいくと、明日の第一試合が俺とラグナか。手加減は一切なしでいく」

「その方がいいよ。ウォルフラムも爵位を受けて魂の質が向上しているはず、それに伴って魔力や心力も上がっているのにも関わらず、その状態のウォルをここまで追い込むやつだからねー」

 というマチュアの言葉に、コクリと頷くストーム。

 そのまま暫くは、ウォルフラムの容態を見ている一行であった。



 ○ ○ ○ ○ ○ 

 


「さーて。本日の最終戦は、背徳のトリックスター。マチュアの登場です。対戦相手は、西方の拳術士・リー・チェンだぁぁぁっ」


――リーチェンっ、リーチェンっ、リーチェンっ!!

 と、会場がリー・チェンコール一色になった。

 それはまあ、先程の戦いのせいで止むを得ないという所であろうが、このまま悪役(ヒール)でいると、明日以降の売上にも響く。

 流石にそれは不味いということで、この試合はマチュアも正々堂々と勝負することにした。

 その為、『修練拳術士(ミスティック)』にモードチェンジし、装備も純白のチャイナ服のような武道着にズボン、肩当てと拳のナックルガードのみという出で立ちである。

 対するリー・チェンも、マチュアとは対照的な黒の衣裳で身を包んでいる。

 これには観客たちもびっくりの反応である。

「初めまして。リー・チェンと申します」

「丁寧に挨拶痛み入ります。マチュアと申します」

「「始めてお目にかかります!!」」

 と、互いに抱拳礼を取る。

 その光景に、観客はどよめく。

 先程は暗黒騎士の甲冑に身を包み反則スレスレの戦い方をしたマチュアが、今度は相手の土俵に立つ状態で戦いに参加したのである。

「それでは」

「参るっ!!」

 素早く間合いを詰めると、両者共に拳と脚による乱打が始まる。


――パンパンパパンパパパンパンバシッパシッ

 と小気味よい打撃音が、会場には響いた。

 現代の香港カンフーアクションかジャッキー・チェンかという感じで、スピディーに、よりダイナミックに戦いが行われている。

 会場にカンフーベンチがないのが残念である。

 しかし、このような激しくも美しい乱舞を見た事がないこちらの大陸の人にとっては、これはまさに東洋の神秘というものであろう。

 マチュアに対するブーイングも、やがて喝采に変わっていった。

「ほう。これはこれは。ちょっと気まずいですねぇ‥‥貴方はどうですか?」

「ゼイゼイ‥‥こちらは魔力が半分以上なくなってて辛いのです!!」

 と、まだお互いに話す余裕がある。

 だが、三十分ほどで両者息切れが酷くなってきた。

「ふぅ。そろそろ限界ですか‥‥」

 とリー・チェンが呟く。

 マチュアは両腕をダランと前に垂らし、そのまま間合いを取ってから構え直した。

「‥‥中々鋭い構えですね。ではこちらも」

 とリー・チェンは掌を開いた構えを取り直す。

 リー・チェンの流派は、恐らくは八卦掌と呼ばれるものだろうと、マチュアは思った。

 それに対してマチュアの流派は八極拳。

腰をグッと落とした体勢で拳を握り、相手の出方をじっと待っている。

 リー・チェンが『柔』の拳術ならば、マチュアは『剛』の拳術である。

 そこからしばし時が流れた。

 そして先に動いたのはリー・チェンである。

 両手を鞭のように撓らせる、鞭打と呼ばれる一撃に対して、マチュアはガン!! と力いっぱい踏み込む。

 そこから右肘を突き上げるように立て、リー・チェンの攻撃に合わせて、懐に踏み込んで放った。

 『裡門頂肘(りもんちょうちゅう)』という、マチュアの好んでよく使う八極拳の技である。


――ガシィッ

 と肋骨が碎ける音と同時に、後方へと吹き飛んでいくリー・チェン。

「勝負あり、勝者、マチュア‥‥」

 ゼイゼイと肩で息をしながら、マチュアは倒れたリー・チェンを連れて控室へと向かっていく。

 後ろからは、マチュアの勝利を喜ぶ大量の拍手が聞こえてきた。

「流石は漫画師匠ジョンス・リーの技。だけど‥‥も、もう一度試合しろと言われたら今日は無理‥だぁ‥‥」

 と呟きつつ、リー・チェンの折れた肋骨の接合をするマチュアであった。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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