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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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裏世界の章・その7・ハッター商会の失態

 オークションを終えてから。 


 マチュアはアルフィンハムスターの影からハッターの影に移動する。

 丁度アルフィンハムスターがでっぷり貴族のボーリック伯爵に連れられていったので、そのままのんびりとハッター商会、白帽子のアジトに潜入しようと考えていたのである。

 

 大量の金貨や白金貨を職員が運んで行く中、ハッターも護衛の傭兵達と一緒に建物の上の階に移動する。

 そして三階部分にある事務室に向かうと、ハッターは机の上に貨幣の入った袋を全て並べていった。


「後は私の方で行います。本部には後ほど連絡をしますと伝えてください」

「はい。では建物の入り口に戻ります。部屋の外にはメイドを置いておきますので、何かありましたらご連絡ください」


 頭を下げて部屋の外にでる傭兵。

 そしてハッターは机から離れて金庫に向かう。

 ゆっくりと鍵を開けてから、ハッターは袋を一つ一つ確認して金庫の中に収める。そして扉を閉めようとしたとき、マチュアは影を伝って金庫の中の影に移動した。

 影の中の広さはほぼ無限、金庫の中では外に出ることはできないものの、影の中ならその場でじっとしていられる。


──ガチャッ

 金庫の鍵がかけられるのを確認して、マチュアは袋を一つ一つ影の中に引きずり込む。

 そしてそれら全てを空間収納チェストに放り込むと、一旦その場を離れることにした。

 まずは影の中でアバターをもとのハイエルフのマチュアに戻すと、街の外れの波止場まで転移。そしてポイポイの闘気を感じ取ってから、更にその場所に転移する事にした。


‥‥‥

‥‥


「ただーいまっと!!」

 突然見知らぬエルフが室内にやってきた。

 これにはユミルたちも驚きの顔を見せるが、ポイポイはにこやかに笑っている。

「あ、マチュアさんおかえりっぽい。首尾はどう?」

「今日動いたお金、そして金庫の中のお金、書類も全部持って来たわよ。これでハッター商会は当分身動き出来ないでしょうね‥‥」


 そう告げていると、傍らで怯えているユミルたちに気が付いた。

 なので、マチュアは一瞬で外見をアルフィンに変化させると、三人ににこやかに笑った。


「はーい、どもども」

「あ、アルフィンさん‥‥さっきの姿は?」

──シュンッ

 すぐさまマチュアに戻ると、椅子に座ってティーセットを取り出す。

 そして人数分のティーセットとティラミスを取り出すと、それをテーブルに並べた。


「ポイポイさん、宿にもうひとり泊まるって伝えてきて‥‥さて、アルフィンっていうのは私の変装した姿でね。これが私の本当の姿、ハイエルフのマチュアと申します。騙しててごめんね」

「へ、変装ですか‥‥でもどうして?」

「色々とあってね、帽子屋っていう組織を調べていたのよ。奴隷商人で、白帽子の本部らしいっていう所まではわかったのだけれど、まずはその白帽子に潜入しようとしてね。まあ、最終目的は闇ギルドの殲滅なんだけど、全く情報がなくて‥‥」

「そ、そうでしたか。今回は私達を助けていただいてありがとうございました」

「ポイポイさんが買い取ってくれなかったら、私達はもうおしまいでした。実は、全員ばらばらになったら、舌を噛み切って自殺する覚悟もしていました」


 そう告げるユミルとメルセデス。そしてアイリスは、テーブルの上の紅茶とティラミスをじっと見つめている。


「あ、あの、これ食べてもいい?」


 もじもじと問いかけるアイルスに、マチュアはにィッと笑う。


「冷めないうちにどうぞ。ユミルとメルセデスもね。これから、この後の事を考えないとならないけれど、まずは三人がポイポイの所有物になった事を周知させないとね‥‥」

「所有物‥‥ですか」

 ボソッとつぶやくユミルに、マチュアはコクリとうなずく。


「まあ、こういう言い方は本当なら嫌いなんだけれど。多分、その首輪を外すと、また三人は危険な目に遭うと思うのよ。けれど、それを着けていて、尚且つ所有者がはっきりとしているのなら、今度は三人の立場は法的に守られる。そうなると、誰も手出し出来なくなるのよ。だから、一段落するまでは我慢してね」

「そういう事ですか。確かに今の私達は奴隷運用法によって守られていますから。姫様、今しばらくは我慢するしかありません」

「そうですね。でも、ポイポイさんとマチュアさんでしたら、私達にひどい事をするとは思えませんから‥‥」


 メルセデスの説明に頷きながら、ユミルは傍らで不安そうな顔をしているアイリスに説明する。すると、それまでは下を向いて不安そうな顔をしていたアイリスは、ポイポイとマチュアを見てコクコクと頷いていた。


「さて、そんじゃあ一度波止場まで転移するわ。それから、堂々と宿に来るのでよろしく」 

 ひろひろと手を振りつつ、マチュアはその場から転移する。


「ポイポイさん、どうしてそんな面倒な事を?」

「さっき一階の受付で一人増えるからって話をしてきたっぽい。なら、外から堂々と入ってこないと疑われるし、ハイエルフが堂々と宿に来てもポイポイの知りあいという事が外に噂になれば、色々と炙り出せるっぽいよ」

 ユミルに説明すると、三人は静かに頷いた。

 

「けど、ハイエルフが一人で外を歩いているなんて大丈夫ですか? また攫われたりしたら危険では?」

「ん~。本気のマチュアさんを攫っていける人なんて、本気のストームさんしかいないっぽいよ。つまり安全。まあ、マチュアさんは信用していいっぽいから、安心するっぽい」

 そのポイポイの言葉に、三人はやや不安そうな顔をしているものの、しばしマチュアの戻ってくるのを待っている事にした。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 シュンッと波止場の倉庫区画に姿を現したマチュア。

 すぐさま装備を白亜のローブに切り替えると、そのまま堂々と倉庫区画から出て街の方へと歩いていく。


「はてさて、アルフィンハムスターさんはどうなっていることやら‥‥」

 のんびりと歩きながら街の大通りに出る。

 そしてまずはポイポイたちのいる宿屋へと向かうのだが、街のアチコチから、マチュアを値踏みするように眺めている者達がいる。


(まあ、ここまでは予定調和。と、これも想定内‥‥)


 タタッタッタッと後ろから走ってくる人物。

 そしてマチュアにドカッとぶつかる。


「何だねーちゃん、気をつけろって‥‥いてててて!!」

──ギリッ

 一瞬でマチュアの懐の財布をスリとった男だが、これまた一瞬でマチュアに腕を決められていた。

 その手に握りしめていたマチュアの財布を地面に落とすと、マチュアはすぐさま男の手を振り抜いて横に放り投げる。そして足元の財布を拾い上げると一言。


「私から財布をスリ取るなんて10年早いわよ‥‥それじゃあね」

 まるで何事もなかったようにスタスタとその場を後にする。

 すぐさま自警団が駆けつけてスリの男を取り押さえているが、マチュアは我関せずと歩き出した。


「あ、あの、ちょっと失礼。この男に財布をスリ取られましたよね? できれば被害届けを出していただきたいのですが」

「あ、そうなの?」

「ええ。現行犯ではありますが、被害届が出ているのと出ていないのでは、罪の重さが違うのですよ。スリは常習化しますので、しっかりと罪を償って欲しいのです‥‥」


 駆けつけた自警団がマチュアにそう告げると、ふむふむとマチュアも頷いている。

 スリに人権はない。たとえそれが、食い扶持を失って犯罪に手を染めた子供であっても。マチュアはそう考えるからこそ、自警団に一言。


「仲間が宿で待っているので、先にチェックインして来ていいかな? その後なら構わないわよ」

「それは構いません。宿まで同行してもいいですか?」

「どうぞどうぞ」


 そう説明してから、マチュアはのんびりと宿に向かって歩いていく。

 そしてチェックインを済ませると、今度は自警団詰め所へと向かう事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 メッター・ボーリック伯爵邸。

 この港町ボーリックは、ボーリック伯爵がヴァンドール皇帝より統治を任された街である。

 港から離れた場所に立つ伯爵邸では、ボーリックがのんびりと食事を楽しんでいる。

 その傍らには、綺麗なドレスに身を包んだアルフィンハムスターが傅いており、じっとボーリック伯爵を見つめている。


「さて、お前の名前は確かアルフィンだったな。それが偽名ではない証拠を示してもらいたい」


 ニヤニヤと笑うボーリックに、アルフィンハムスターはスッとギルドカードを差し出す。

 意識のスフィアとともに、アルフィンのギルドカードも取り出せるようにマチュアとリンクはしてある。

 スッとカードを取り出してボーリックに手渡すと、それをニヤニヤと笑いながら見つめているボーリック。


「うんうん。これでいい。さて、あまり酒を入れ過ぎるとこの後のお楽しみが大変な事になるからなぁ‥‥アルフィンを湯浴みに、その後で私の寝室に連れてきなさい」


 下卑た笑みを浮かべつつ、ボーリックはメイド達にアルフィンを連れて行くように命じる。


「うえっへっへっ。エルフの生娘。この大陸では絶対にありつけない至宝‥‥どうやって可愛がってやろうかなぁ」


 とっても幸せそうなボーリック。

 そしてこの会話は、意識のスフィアを通じてマチュア本体にも届いている。


‥‥‥

‥‥


「おえぇぇぇ」

 自警団で被害届を出しているマチュアが、突然吐きそうな顔になる。

 ボーリックの下卑た笑いが脳裏から離れない、それ程までに強烈である。


「ど、どうしました?」

「いやいや、問題はないですよ‥これでよろしい?」

「ふむふむ、これで書面は問題ありません。後は身元を証明できるもの、ギルドカードはございますか?」


 ならばと、マチュアは自重することなくギルドカードを取り出して手渡す。

 青銀(ミスリル)色の冒険者ギルドカード。だが、一般の人から見ると、それは普通に銀色、つまりBランクの冒険者ギルドカードに見える。


「ふむふむ、名前はマチュア・ミナセ、ウィル大陸のBランクでクラスは適合者ワイルドカード‥‥なんだこれは?」

「あ、トリックスターの上位です。少しだけ役立つようになった役立たず?」


──プッ

 思わず笑う自警団員。そしてすぐさまカードをマチュアに戻すと、書類を確認する。


「よしよし、これで大丈夫ですよ。しかしウィル大陸とはとんでもなく遠い所から来ましたね。犯罪歴はないようですから、まあ冒険の一環でしょうけれど」

「ええ。世界を放浪していまして、この街にも到着したばかりなのですよ‥‥では、そろそろ戻ってよいですか?」


 そう説明したとき、アルフィンハムスターから緊急コールが届いた。湯浴みを終えたところらしくて、この後は寝室へと連れて行かれるらしい。

 ならばと、マチュアは指をパチンと鳴らして、使い魔ファミリアを解除する。

 脱衣所で突然アルフィンハムスターの姿が消滅し、隷属の首輪のみが床にカランと転がった。

 当然ながら、アルフィンハムスターに着替えを持ってきたメイドたちは大慌て、すぐさまボーリック伯爵の元へと走って行った。


「‥‥どうかなされましたか?」

「いえいえ、これで手続きが終わったと思うと、つい嬉しくって」

「はは。それそれは。マチュアさんは被害者なのですから堂々としていて構いませんよ。これであの男は犯罪奴隷になります。まあ、罰金を支払うことで奴隷から解放されますが、スリに身をやつした者が支払える金額ではありませんから。では、お気を付けて」

「では、これで失礼しますね」


 丁寧に頭を下げると、マチュアは自警団詰め所から外に出た。そして野次馬のように集まっていた人々をかき分けていくと、すぐさま箒を取り出して飛び乗ると宿屋まで飛んで行った。

 そしてその日はポイポイたちと合流して、明日にそなえて体を休める事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 

「な、ない‥‥これはどういうことだ!!」


 翌日早朝。スラムにあるハッター商会の執務室では、空っぽになっている金庫をじっと眺めてへたりこんでいるハッターの姿があった。

 早朝、金庫の中の書類や金を商業区の本店に移送しようとやってきたのだが、厳重に保管されていた筈の金庫の中身が空っぽになっていた。


「ヒューイ、警備担当のヒューイを呼んでこい!!」

「はっ、只今」


 傍らにいた執事にそう命じると、すぐさまスラムのハッター商会を警備していたヒューイという男がやってくる。

 

「ハッターさま、こんな早朝にどうしました?」

「金庫破りだ。昨晩から先程まで、ここの商館を訪れた者はいなかったか?」

「さて、そう言われましても、昨晩ハッターさまが商館から出て行ってからは、誰もいらしていませんが。それに、警備についても魔法により敵性防御結界を施してあります。侵入者はすぐに分かりますが‥‥」

「だが、金庫の中は空っぽだ。どんな手を使ったのか知らないが、白帽子を敵に回したものは後悔させなくては‥‥ヒューイ、どれだけ掛かっても構わない、とにかく手がかりを探せ、盗んだ者を捕まえてこい!!」


そう叫ぶハッター。すると、今度は一階の入口が何やら騒がしい。


──ガヤガヤ

 聞こえてくる声から察すると、どうやらボーリック伯爵がやって来たらしい。

 すぐさまハッターも一階に向かうと、険しい剣幕のボーリックに丁寧に頭を下げていた。


「これはこれはボーリック様、こんな早朝に一体どうなされましたか?」

「どんなもこんなもない。エルフが、儂の買い取ったエルフが昨晩忽然と消えたのだ。これは一体どういう事だ?」

 

 今にも掴み掛かって来そうなボーリック。だが、ハッターとしても、そんな購入後の事など知った事ではない。すぐさま表情を戻すと、冷たい視線でボーリックを見る。


「さて、当商会でお買い求めいただいた奴隷については、すべて隷属の首輪が仕掛けられてあります。どこに逃げても、隷属魔術によって首輪の位置は確認出来ますが」

「その首輪だけが落ちていたのだ。首輪が不良品であったという事はないのか?」


 ドン、と持ってきた首輪をハッターに突きつける。ならばとそれを受け取って、首の位置にある水晶球に魔力を込めてみた。


──ブゥゥゥゥン

 隷属の首輪は しっかりと機能している。未だアルフィンというエルフの女性の波長はこの首輪に登録それているのだが、どこにもその存在は確認できない。

 こんなことは前代未聞、アルフィンは首輪だけを残して逃亡したのである。もっとも、今登録されている波長はアルフィンハムスター のものであり、もしマチュアが使い魔ファミリアでもう一度ハムスターを召喚しても、アルフィンハムスターの姿に変化させない限りは反応はしない。

 隷属の首輪に登録されているのは『エルフのアルフィン』という女性であり、使い魔ファミリアによって作られたハムスターではない。

 

「か、可能性があるとすれば、アルフィンというエルフは首輪からの雷撃に打ち勝って逃亡したのかと。何らかの方法により首輪だけを残し、今現在は魔法によって存在を隠しているのではないかと思われますが。いずれにしても、この件については私達には全く落ち度はありません。では、これでよろしいですかな?」


 グヌヌと拳を握るボーリック。そんな話などでは、彼の怒りは到底収まるものではない。


「な、ならば、とっととアルフィンを探し出せ、お前たちの持つコネクションなら、エルフの一人ぐらいすぐに見つける事が出来るだろうが」

「それは依頼ということでよろしいのですか? でしたら商業区の商会で手続きを取っていただけますか? 逃亡奴隷の扱いについても、我々奴隷商会の仕事でもありますし。もし心配でしたら、冒険者ギルドに依頼を持ち込むのもよろしいかと」


 そのハッターの言葉に、ボーリックは真っ赤な顔のまま商会を出て行った。 

そしてそれを見送ってから、ハッターはすぐに自分の執務室に戻って行くと、これから何をどうするべきか考える事にした。


「こんな失態、前代未聞だ‥‥何が起こっているというのだ? すぐに報告しなくては‥‥」


 そう呟いてから、ハッターは手首にゆっくりと魔力を注いでいく。

 すると、スーッとハッターの右手首に『一枚羽を広げたクサリヘビ』の文様が浮かび上がる。

 そしてクサリヘビはゆっくりと実体化すると、どこかへスーッと飛んで行った。

 

誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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