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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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裏世界の章・その5・新天地と伝説の冒険者

 東方の新天地・ヴァンドール大陸。

 マチュアとポイポイにとっては全くの未知の大陸、その大きさや規模、言語形態など全てが謎である。

 かろうじて深淵の書庫アーカイブによって得られた情報では、言語形態はやや違うものの、おおよそ方言レベルでの差異しか存在しない。

 通貨に関しても、商人たちがウィル大陸との交易でも使えるようにと、大陸共通通貨が用いられており、幸いなことに通貨レートもほぼ一緒である。但し、大都市以外では両替商などで換金する必要はある。

 国家についてのデータはなく、直接向かって調べるしかない。

 それでも、言葉と通貨が通用するのなら、これに越した事はない。


──ザッバーーーン

 波に乗り海洋を越え早2ヶ月。

 途中で小さな群島や列島国家などを巡って補給を終えた後、いよいよ大陸の影が見えて来た。

 といっても、見たのはポイポイのみであり、マチュアは未だ甲板下の牢屋の中。

 そしていよいよ船が波止場に到着すると、マチュアは堂々と外に運び出されて行った。


「ふぁぁぁ。奴隷制度が普通にまかり通っている大陸かぁ‥‥」 

 外に出て、船から降りた第一声がこれである。

 視界の中には、船員や商人の他に、隷属の首輪を嵌められた奴隷達が大勢働いているのが見える。

 どの奴隷達も質素な衣服を身に纏い、ただがむしゃらに働き続けていた。


(ポイポイ、周辺の情報収集をお願い。私はこのまま帽子屋に潜入して、内部調査をしたいから)

『了解っぽい!! では行って来るっぽいよ』


 スーッとマチュアの影から離れ、ポイポイは近くの裕福そうな商人の元に移動する。


「さて、お嬢さんはこっちの馬車だよ。早く乗ってくれないと困るんだけれどねぇ」

「は、はぁ‥‥私はどうなるのでしょうか?」

「奴隷市場まで運ばれて行くだけだな。お嬢ちゃんは上物のみを扱っている商会で、会員のみに売られるんだ。まあ、ここまで来たらもう諦めるんだな」


 哀れみの目を見せる船員。そしてマチュアが檻のついた馬車に乗るのを確認すると、外からがっちりと鍵が掛けられる。

 ふと気が付くと、檻の中にはマチュア以外にも上質な衣服を身に着けた女性が三人ほど乗せられていた。

 そして檻の外では、別の船から降りてきたらしい女性の奴隷が、ロープに繋がれて街の中へと連れて行かれている。


「檻に入れられているのは上質な商品で、外を歩いているのは普通の商品という所か。まったく、人身売買なんて滅んでしまえばいいのに」

「‥‥でも、あなたもその商品なんですよ」


 マチュアが腕を組んでウンウンと呟いていると、横からそうツッコミを入れる女性がいた。

 ふとその女性を見てみると、やはりどことなく気品を感じさせる雰囲気が漂っている。


「この国では、奴隷は一般的なものなのですか?」

「ええ。法的に認められている商品ですわ。といっても、その大半は犯罪奴隷か合法奴隷です‥‥私達のように敗戦国の王族や、他大陸での捕獲奴隷というのは滅多にありません」


 敗戦国?

 王族奴隷?

 ふと頭の中を疑問符が湧いていく。


「あなた達は敗戦国奴隷なのですか?」

 女性たちの近くに身を寄せて、こそっと問いかけてみる。

 すると、女性たちは静かに頷いた。


「私は、今はなきアルマロス公国の第一王女、ユミル・アルマロスです。この子は妹のアイリス・アルマロス、そちらの方は宰相家のメルセデス・マッキンレイです」

「これは丁寧に。私はエルフのアルフィン・スターリングと申します。この大陸より西方、ウィル大陸のカナン魔導連邦の男爵です。冒険者で吟遊詩人登録を行っていますわ」


 そう説明すると、驚いた顔でマチュアを見る三人。


「エルフという種族がウィル大陸には住んでいると聞きましたが、そのお耳は本物なのですね?」 

「触れてもよろしいですか?」


──ピクピク

 アイリスの言葉に耳をピクピクと動かすと、マチュアは静かに頷く。

 すると、アイリスもそーっとマチュアの耳に触れて、人肌を感じ取った。


「あ、あの、アルフィンさんはエルフなのですよね? 魔導は嗜まれていますか?」

「もし魔導を扱えるのでしたら、そしてここから抜けられるのでしたら、私達も一緒に逃してほしいのです‥‥」


 ユミルとメルセデスが真剣に問いかけてくるので、マチュアも少し頭を捻る。


「敗戦国っていいましたよね? そのあたりの事を教えて欲しいのですが」

「ええ、実は‥‥」


 すると、ユミルはゆっくりと口を開いた。


 彼女達の故郷であるアルマロス公国は、今マチュア達のいる大陸王都と呼ばれているヴァンドール帝国の隣国の一つ。鉱山を多数所持している山岳国家であるらしい。

 この山岳からは大量の錫と銅、そして鉄が産出しており、それらをもとに鍛冶技術が栄えていた。当然ながらアルマロス公国の主要産品は鉄器を始めとする様々な武具などであるのだが、それらの利権に目をつけたヴァンドールが因縁を吹っ掛けて来た。

 戦争に使うのだろう、ヴァンドールに侵攻するのだろうと因縁を付けて来た挙げ句に、国境線に多数の騎士団が派遣され、挙げ句には街道封鎖で行って来たのである。


 山岳国家ゆえに、食料自給率は意外と小さく、大半は隣国からの買い付けによって賄っていたアルマロス公国にとって、街道封鎖はいわぱ生命線を絶たれたに等しい。

 その後も幾度となく話し合いの場を設けていたのだが、ある日、ヴァンドールの騎士団が国境線を越えて進軍を開始、瞬く間にアルマロス公国は戦争状態に突入。

 後は数による進軍と兵糧攻めにより、半年も経たずにアルマロス公国公都は陥落した。

 

 そして、生き残った二人の王女と、宰相家の一人娘であるメルセデスは捕虜として捕獲され、そのまま奴隷商人に引き渡されてしまったというのが、真相らしい。


「成程‥‥ちょっと教えて欲しいんだけど、帽子屋ってわかる?」

「白帽子のことでしょうか? 私達の知る帽子屋とは奴隷商人たちの総称ですわ。この国には白帽子という奴隷商会がありまして、この馬車も白帽子の所有物です」

「そっかぁ。それじゃあ、もう手遅れかぁ‥‥それで、三人はもし逃げられたらどうするの?」


このマチュアの問いかけに、ユミルとメルセデスは拳を握りしめる。その間も、アイリスはじっとマチュア達の話を聞いていた。

 

「父と母、そしてまだ幼かった弟の敵を取りたいのです‥‥公国復興とは申しません、けれど、せめて一矢報いたい‥‥」


 悲痛な言葉。

 アイリスなど瞳に涙を浮かべながらも、凛とした表情で姉の言葉に頷いている。

 そしてメルセデスもまた、静かに頷いていた。

 言葉にすると危険なので、そう合図している。

 なら、ここでマチュアが断る道理はない。

 ここで突き放すと、この子達は無理をする。そして一矢報いる事なく、その生涯を『死んだ方がまし』という生き方を強いられるだろう。


「なら、私はあなた達に協力してあげる。その代わり、あなた達も私に協力して」

「それは一体?」

「ここでは話せない。けれど、私も目的があってここにいるのだから‥‥まずはしばらく静かに従っていましょう、そして、隙を見て脱出するタイミングを探る事にしましょう」


 この言葉には、三人は静かに頷いた。

 そして、それ以上の言葉はない。

 少し離れた場所に皆が座ると、後はおとなしくじっと座っていた。だが、そこにいるのは、先程までの悲痛な顔をした奴隷ではなく、何か希望に瞳を輝かせた女性達である。 



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 マチュアと別れたポイポイは、近くの商人の影から出ると冒険者の風体で街の中を歩いている。

「ふぅん。この串焼きも中々美味っぽい。でも、両替しないと……」


 グランドボアの串焼きを食べながら、ポイポイは両替商を目指す。串焼き屋はウィル大陸の銀貨が使えたのだが、店主から、街の中の店では嫌な顔をされたり偽りのレートで金額を誤魔化す店があるからなと、忠告を受けたのである。

 そのまま街の中を散策しつつ両替商で白金貨二枚を両替して貰うと、それを幻影騎士団専用の拡張エクステバッグに放り込む。

 魂のリンクが行われているので、バッグが盗まれても、一定距離以上離れるとポイポイの手元に戻る。

 そして両替商を出てから、ポイポイは背後や周辺からポイポイを観察するような視線を大量に感じていた。


(数は10ちょい、雰囲気や匂いでは、団体さんと個人さんの烏合の衆っぽい……)


 そのまま街の中心部に向かうと、ポイポイは闘気結界を周囲に張り巡らす。これは蜘蛛の巣のようにポイポイを中心に広がり、敵対意思を持つものが範囲に入ってくると、距離によって警告を与えてくれる。

 忍者の技の一つであり、マチュアのよく使う敵性結界の闘気版である。

 そのまま近くのアクセサリー売りの露店に向かうと、しゃがみこんで色々と眺めている。


「お、お嬢さんはどこの人だ?この辺りでは見ないなぁ」

「ポイポイは冒険者っぽい。あちこちで仕事しながらこの国にやって来たっぽい」

「へぇ。ここは初めてかい?」

「うん」

「なら、ゆっくりと楽しむといいよ。冒険者ギルドはすぐそこ、この国は、南東を漆黒の森に囲まれていて、魔物が跳梁跋扈しているから。冒険者の仕事は結構あるからね」

「ありがとう。この髪飾りをちょーだいっぽい」


 といった感じで、この国や周辺の地理など、いろいろな情報を集めているポイポイ。

 すると、その後ろをマチュアを乗せた馬車がガラガラと走って行くのに気が付いた。


「へぇ。ありゃあ希少種のエルフじゃないか。週末の奴隷オークションにでも出品されるのかなぁ」

「へ?奴隷オークション?」

「あ、そうか、お嬢さんは知らないのか。ヴァンドール王国では、奴隷は合法なんだよ。まあ、犯罪奴隷は身分も何もかも失っているけれど、自分から奴隷になった合法奴隷は、ちゃんと奴隷運用法って言う法律で守られているんだ。けど……ありゃあ『ハッター商会』の奴隷馬車か……可哀想に」


 やれやれといった顔で呟くアクセサリー職人。

 その可哀想の意味がわからず、ポイポイは頭を傾げて見る。


「可哀想?」

「ああ。ハッター商会は主に捕獲奴隷と犯罪奴隷を専門に扱っていてね。そういった奴隷には身分は与えられないんだ。ああやって定期的に大量の捕獲奴隷を連れてきては、会員制オークションで売り捌いているんだよ」

「捕獲奴隷って?」

「ハッター商会の奴隷運用の一つさ。他国に行って、『繋ぎ』と呼ばれる仲介業者から奴隷を買い取ってくる。その身分や立場がなんであれ、間接的に買い取った奴隷を販売する分には、例の奴隷運用法の中の特例措置以外は適用されないからなぁ」


 法の抜け道を巧みに操るのがハッター商会のやり方らしい。

 その説明を受けながら、ポイポイはマチュアを目で追いかける。自分たちの上司であるマチュアを衆人の晒し者にしている、それは許せないのだが。

 これも作戦である事を理解しているポイポイは、すぐさま感情をス〜ッと鎮めていく。

 忍者なら、任務の為には感情を殺す。そうマチュアにも教えられていたから。


「そのオークションって、ポイポイも参加できる?」

「ハッター商会に行って、一度きりの会員権を購入すればね。でも、白金貨で一枚だよ?」


──ジャラッ

すると、懐から財布を取り出して白金貨を大量に取り出す。


「お金ならいくらでもあるっぽい。ねーおじさん、ハッター商会を紹介して、そして登録のお手伝いしてほしいっぽい。報酬は金貨二枚でどお?」

「お、いやいや、仲介だけで二枚は高い。一枚で構わないよ、どら。ちょっと待っていな、ここの商品を片付けたら向かうとしよう」


 すぐさま荷物を片付けると、それを大きなバッグに放り込む商人。

 そしてポイポイと一緒に、街の中心から少し離れた場所へと向かう。


「商人さんも、収納ポータルバッグを持っているっぽい」

「あ、これか。これは付与魔術師が作ったやつらしいよ。ウィル大陸では結構出回っている品物らしくてね。うちら商人にとってはこれを持っている商人は羨望の目で見られるんだ。これを持つ事こそ、商人としてのステータスだからね」

「へぇ。カナン魔導連邦の魔導具っぽいね。ポイポイのも同じっぽい」


 肩から下げているバッグを叩きながら、ポイポイも呟いている。

 マチュア収納ポータルバッグと拡張エクステバッグ、どちらもマチュアの作ったものであるが、最近は『魂のリンクをしているもの』が拡張エクステバッグ、『一般販売されているの』が収納ポータルバッグという呼び方で流通しているらしい。

 なので幻影騎士団のは拡張エクステバッグであり、アクセサリー商人の持つものが収納ポータルバッグである。

 どちらも外見に差異はないが、現在の拡張エクステバッグは内部容量が無限に設定されている。


 やがて大きめの商会にやって来ると、アクセサリー商人は入口の警備員に商人ギルドのカードを提示した。


「露天商のクロムウェルか。通ってよし。そこのお嬢さんは、ギルドカードはお持ちか?」

「ぽい」

 スッと差し出した冒険者ギルドカード。それを受け取って確認すると、警備員の顔色がサーッと青くなっていった。


「え、Sランクのニンジャマスター‥‥ようこそいらっしゃいました」

「では通るっぽい。クロムウェルさん、待って欲しいっぽい」

 スタスタとクロムウェルの後ろについて行くポイポイ。すると、クロムウェルもやや驚いた顔でポイポイを見ていた。


「Sランクの冒険者なんて、初めて聞いたぞ」

「そなの?」

「Aランクでさえ、そうそうお目にかかる事なんて出来ない。この大陸にはな、全部で5つのAランクパーティーがあってな。その中でも2つのパーティーのリーダーがSランクだっていう話だ。それに匹敵するという事は、ポイポイさんは大陸で3人目のSランク冒険者っていう事になる。これはとんでもない事なんだよ?」

「ふぅん。まあいいや、で、どこで登録するっぽい?」


 そのまま受付に向かうと、クロムウェルが話を進めてくれた。

 どうやら一度きりの限定会員になるよりも、割高だが永久会員になったほうがいいと受付は教えてくれた。なので、ポイポイはカウンターにジャラっと白金貨を5枚並べる。


「これで大丈夫っぽい?」

「え? は、はい、ウィル大陸の白金貨ですね、問題はありません。では、ギルドカードを確認して、会員証を発行しますので」

「ぽい」 

 またしてもギルドカードを提示すると、受付嬢が卒倒しそうになっていた。

 日本円で500万もする年間会員証を、ポンと買う伝説の冒険者。それだけでもうお腹いっぱいである。

 慌てて手続きをしていると、ポイポイ達をじっと見ている視線に気がつく。

 それは奥にある少し豪華な執務机、銀髪オールバックのいかにも『支配人』という出で立ちの男性が、興味深そうにポイポイを見ていたのである。


(ん、危険な感じがするっぽいよ。マークマーク)


 対象の持つ闘気反応をポイポイは記憶する。それによって、闘気結界や対象を探す闘気探知などで個別識別ができるようになる。

 そのまま淡々と手続きを終えると、ポイポイは最初の約束通りに金貨二枚を手渡して、クロムウェルと別れる。

 そして街の中、冒険者ギルドに向かうのであるが、ハッター商会の物陰から、数名の人物がポイポイを追尾し始めたのに、気付かないふりをして街の中を歩いて行った。

 


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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