裏世界の章・その2・レプラカーン盗賊団って?
誠に申し訳ございませんが、更新頻度が若干遅れております。
なんとかそくどを戻せるやうに頑張っておりますので、もう少々お待ちください。
長い長い馬車での待機時間。
そこまで細かいチェックが必要なのかと、思わずツッコミを入れたくなって来る。
やがて一時間もすると、ようやくマチュア達の乗っている馬車の順番がやって来た。
「さてと、それじゃぁ商人と冒険者はそれぞれのギルドカードを提示してもらおうか。入国税は一人銀貨五枚、馬車の乗り入れは別途で銀貨二枚だ」
頭にターバンを巻いた軽装の兵士が、馬車の入口から話し掛けてくる。そして後ろに回った兵士は、手にした杖を馬車に向かって構えると、サッサッとまるて金属探知機のように振り回している。
その様子を見ながら、セロウ達がギルドカードを提示して入国税を支払い終える。
そしてマチュアの番になった時、ふと兵士の目つきが変わった。
マチュアの全身を舐め回すような、ネットリとした視線。
何処と無く値踏みされているような、そんな感覚がマチュアにも感じられた。
「ほう、Aランクの吟遊詩人か。目的地は王都か?」
「いえいえ、港町カスタリアです。南方の暗黒大陸、そこに伝えられている竜伝承について調べている者でして」
「ふん、水神竜クロウカシスの反乱では、うちの国もかなりの被害を受けたからな。まあ、あまり深いところまで掘り返さないでくれよ」
「ええ。ご注意痛み入ります。まあ、急ぎの旅ではありませんので、この街を少し楽しんでから、先に進むとしますよ」
「もしも時間があったら、王都に向かうと良い。我が国の王は、旅の吟遊詩吟の話を聞くのがたいそう好きでな。それなりの報酬も貰えるだろう」
「これは丁寧にありがとうございます」
どうやら積荷にも問題がない事を確認したらしく、馬車はのんびりと城門を潜って行く。
やがて停車場までやって来ると、一同は荷物を降ろして馬車から飛び降りる。
「ここが終点。乗合馬車が必要なら、いつでも話し掛けておくれ。まあ、俺以外にも乗合馬車はいくらでも止まっているから……」
御者の男性が笑いながら商人達を見送っている。
そしてセロウ達もマチュアの元にやって来る。
「それじゃあ私達はこれで。ここの南西にある小さな町が、例の魔族の祠のある場所だから、もしも興味を持ったら来てみてください。では」
「貴殿の旅に幸あらん事を」
「そんじゃあ、まったね」
「……では」
口々に挨拶を交わして、セロウたちは別の乗合馬車へと向かう。
それを見送ってから、マチュアはのんびりと街の中を散策し始めた。
………
……
…
「さて、そんじゃあ釣りでも始めますか……」
散策しながら、マチュアはふと今後の作戦を考える。
相手は凄腕奴隷商人、そうそうボロなど出す筈はない。
なら、自分がターゲットになっておびき寄せれば問題はないと考える。
彼方此方の露天商を見て回り、他愛のない会話を繰り返しては、彼方此方に印象付けていく。それだけでも、今のマチュアは人々の視線を集める事が出来る。
「すいませーん、串焼き二本くださいな」
ワイルドボアの串焼きを売っている露店にやって来ると、程よい香りのする串焼きを二本購入。
そして支払いの時に、わざと金貨を取り出した。
「おいおい、串焼き如きに金貨を出すなよ。おつりがないんだ、もっと細かいのないか?」
──ジャラジャラ
「え〜っと、あとは白金貨と……あ、銀貨ありました」
わざと財布がわりの金貨袋を取り出すと、音を出して中を探す。そして銀貨で支払いを終わらせると、お釣りを受け取ってから懐に仕舞い込む。
当然ながら、懐から空間収納に放り込み、囮用の空の財布を懐に入れる。
すぐさま近くの噴水まで歩いて行き、備え付けのベンチに座って串焼きを愉しむ。
「ハフッ……モグモグ……美味しい!‼︎」
嬉しそうに、そして大げさに喜ぶ。
そしてのんびりと食べながらも、周囲の視線をゆっくりと確認していく。
(結構の人がこっち見てるなぁ……でもまあ、敵対意識は……)
決して視線を送らず、その方角にだけ気を付ける。
建物の陰から、マチュアを見ている気配が多数。そして街の中でも、マチュアをチラチラと見ている人影が結構あるのに気が付く。
その中でも、敵対意識を見せているものが大勢。どれが帽子屋で、どれが盗賊団なのか全く見当もつかない。
「さて、次はどこに向かいましょうかねぇ……」
食べ終えた串を近くの屑篭に放り込んでから、マチュアは人混みの中をのんびりと歩く。
すると。
──ドカッ
前から歩いて来た女性がマチュアにぶつかる。
「あ、ごめんなさい……」
「いえいえ、お気をつけて〜」
そう頭を下げて、そそくさと人混みに消えていく女性。
その一瞬で、マチュアの懐の財布が掏り取られている。
(ピックポケットかぁ。シーフの初級スキルだけど、結構磨きが掛かってますなあ)
そのまま近くの露店で小さなアクセサリーを何点か購入。
またしても金貨袋を懐から取り出してジャラジャラと銀貨を探すと、今度はお釣りも無いようにきっちりと支払う。
そしてまた懐から空間収納へと入れると、今度は小石の詰まった金貨袋を懐に出しておく。
そんな事を夕方までのんびりと続けているマチュアであった。
………
……
…
少し前。
マチュアから最初に財布を擦りとった女性は、近くの建物の密集する路地に駆け込んでいた。
「へっへっ。あのねーさん、おっぱいばっかり大きくて注意力散漫だねぇ……」
余裕の表情で呟くと、すぐ近くにいた三人の男女もやってくる。
「お、ライラもあの女に目をつけたのか。で、首尾は?」
「先を越されたかぁ。あの女、かなり羽振りがいいからなぁ。獲物は財布か?」
「くっそ。もっと早く動けばよかったよ……」
「まあまあ。この手の仕事は早い者勝ちよ。財布の中に白金貨まで入れているなんて、盗んでくれって言っているようなものじゃない……あれ?」
擦りとった財布を取り出して中身を確認する。
ずっしりとした重さはあるものの、中に入っているのは細かい鉄くずだけ。
──ジャラジャラ
慌てて財布の中身を路地にぶちまけるが、金貨どころか鉄貨の一枚も入っていない。
「あ、あの女ぁぁぁぁ」
「ぷっ。囮の財布握らせられてやんの。そう言えば、城門の衛兵が話してたぜ、Aランクの吟遊詩人が来ているって。あのねーちゃんがそうなんだろうさ」
「まあ、そのランクなら、シーフ対策ぐらいはしているだろうさ」
「ライラばっかでぇ。そんじゃあ、次は私が行ってくるよ‼︎」
「あ、あんたも偽物摑まされたらいいんだよ‼︎」
足元に投げ捨てた財布をガシガシと踏みつけながら、真っ赤な顔で吐き捨てるように呟くライラ。
そして三十分後。
二番目にマチュアに挑んだ少女がウキウキしながら戻って来た。
「あ、ウィン、どうだった?」
「あのねーちゃんの懐は二回調べたよ。財布は一つしかなかったから完璧さ。ほら!」
腰のポーチからマチュアの財布を取り出すと、すぐさま中身を確認する。
──ジャラジャラ
手の感触はたしかに貨幣。
それを握りしめて取り出して広げると、手の中には貨幣サイズに加工された石が握りしめられていた。
──プッ
これには全員が吹き出す。
すぐさま中身を確認するが、全て石の貨幣である。
「あ〜っはっはっはっ。もうバレバレじゃないのよ。こんな簡単な仕掛けに騙されて、ウィンも大した事ないわねぇ」
「それにしても、ここまで精巧な石の囮を用意するとは、なかなかやりますなぁ」
「そ、そんな事言うのなら、今度はクルーガーが行って来なさいよ。これは、私達レプラカーン盗賊団に対しての挑戦と見たわよ?」
「はいはい。お頭にバレたら思いっきり笑われそうだからなあ。そろそろ成績残して来ますか」
そう呟くと、クルーガーと呼ばれた優男はスッと影の中に消えて行った。
そして三十分後。
──フッ
ライラたちの待っていた路地裏の陰から、クルーガーが姿を現した。
「それで首尾は?」
「抜き取ってからすぐに中身は確認した。しっかりと金貨と銀貨が詰まっていたよ」
ホクホクした顔で腰のポーチに手を伸ばして……ポーチがない。
おお慌てて腰のベルトを調べると、羊皮紙の紙縒が縛り付けられている。
「何だそりゃ?」
ウィンが笑いを堪えて紙縒を指差すと、クルーガーはすぐに紙縒を開いて目を通す。
『うん、惜しい‼︎』
そうシーフの共通暗号で書かれているのを見ると、クルーガーも真っ赤な顔で紙縒を引きちぎった。
「え?」
「シーフがポーチごと盗られてやがんの。おっかしいわ‼︎」
「それにしても、私達三人で仕掛けてこれはどうなの?相手はたかだか吟遊詩人、たしかにAランクの冒険者ならそれなりの対処は出来ても問題はないわ。けど、それも戦士や魔術師とかならね。私達もAランクの実力はある筈、なのにここまであしらわれてどうしたらいいのよ?」
ライラが三人に熱弁すると、ウィンとクルーガー、そしてこの場の最年長の男性であるモードレッドも静かに頷く。
「あの吟遊詩人の鼻を明かしたいな。リュートか、肩からかけているスモールザック、どっちかを狙う方が良いな」
「財布は?」
「何か仕掛けがある。そうじゃないと、俺たちがここまで失敗する理由にはならない。なら、財布ではなく、その他の持ち物を狙う方が良い。あの女が泊まる宿を特定して、荷物を持ってトンズラしよう」
それには全員が頷く。そして彼らの最後の挑戦が、今、始まる‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
夜。
マチュアは冒険者ギルド常設の酒場の中で、のんびりとリュートを奏でている。
とにかく目立つ、そして帽子屋を炙り出す。
その為に最も効率の良い方法として、自身を囮とする手段を実践している。
ジョブこそ持っていないものの、楽器演奏はスキルとして習得してある。
ならば、あとは有効化してある魅力と誘惑スキルの効果を乗せて、歌声にも魔力を込める。
酒場にいた冒険者達は、うっとりとした表情でマチュアを眺めている。中には下心満載の男達も見えているが、ギルドの酒場という事もあってか、実力行使にはやって来ない。
──パチパチパチパチッ
数曲ほど奏でた後で、酒場の中には拍手喝采が湧き上がった。
それに軽く笑みを返して、マチュアは傍に置いてあったバックとリュートを背負って空いている席へと向かって行った。
「あ、何か軽く食べられるものをお願いします。それと、エールではなくシードルを」
「かしこまりました。少々お待ちください」
マチュアに会釈をしてから、店員の女の子は厨房に駆けていく。そして手始めにエールと茹でた腸詰め、温野菜の盛り合わせを持って来ると、マチュアの席に並べていく。
「はぁ。予想外に量がありましたか……」
「これはサービスで大盛りにしておきました。吟遊詩人さんの歌って、それだけで価値がありますから」
「そうなの?」
「はい。そもそも吟遊詩人って、パーティーにはあまり参加しないじゃありませんか。戦闘力もなく、魔法が使える訳でもない。自分達の英雄譚を語ってもらう為として雇い入れる人なんて、殆どありませんよ」
「へぇ……私はそこそこに戦えるんだけどなぁ」
「いえいえ、そうは申しましても、吟遊詩人の本来の仕事は『語り部』、戦うことを是とはしませんよ。では、ごゆっくり」
にこやかに手を振りながら、店員さんは他のお客の元へと走っていく。その姿をのんびりと見送ったら、マチュアは再び食事を始めた。
──コソ〜ッ
しばし食事を堪能していたマチュアの足元に、ゆっくりと影が近寄ってくる。
レプラカーン盗賊団の一人、モードレッドの『潜影移動』という技であり、マチュアやポイポイのよく使用する影に潜む技である。これは更に影も移動するという上位の技であり、ポイポイはよく使っているのだが、マチュアはあまり好んで使用しない。
それがゆっくりとマチュアのテーブルに近寄ってくると、テーブルの下に置いてあるマチュアの肩掛けミドルザックを影の中に引きずり込んだ。
──スルッ
そしてすぐさまテーブルの影から影へとゆっくりと移動すると、誰にも気取られることなく酒場の外へと移動する。こうなるとしめたもの、外は既に夜。
急ぎ路地裏へと移動して行くと、すぐさま待機していたライラやウィン達の元に姿を現した。
「まあ、こんなものだろうさ。俺の手にかかれば、あの程度の女には見つかることなく盗み出すことも簡単だと」
「さ、流石。では、早速お宝を探すとしますか。あの女は何を持っているのかな?」
ウィンが笑いながらマチュアのミドルザックを開く。
そして中に手を突っ込んで、中に入っているものを一つ一つ引きずり出した。
古い小さな宝箱、着替え、保存食などなど。
基本的な冒険者の初期装備といった所であろう。それらをゆっくりと吟味していくが、小さな小箱と高級そうな着替え以外は、どれもこれも価値の高そうなものはない。
「ひやぁ、胸元までくっきりと……露出の高い服ですねぇ。ライラでも胸元を余しそうなフベシッ」
笑いながら衣服を広げているウィンの頭を軽く叩くライラ。
「余計なお世話。ウィンなんて、そもそもぶかぶかじゃない。それよりも箱よ。クルーガー、どう?」
「ガッチリとトラップが仕掛けられているなぁ。開けようとして断念した形跡がある。これはなかなか……骨が折れそうだ、場所を変えた方がいい」
「なら一度帰るとするか。いつもの所なら、同業者しかいないから問題はないだろうさ」
モードレッドの提案で、一同はレプラカーン盗賊団が常駐しているスラム街の酒場へと向かった。
………
……
…
レプラカーン盗賊団のアジトの一つが、このスラムにある古い酒場。入口は締め切られ、外には見張りが二人立っている。
その雰囲気は、まるで阿片窟と呼んでも差し支えはない。酒場の中は大麻や阿片、酒、そして女の匂いが彼方此方から流れて来る。
その店内の一角に、モードレッド達は座っていた。
テーブルの上には、先程マチュアから奪った荷物か並べられ、そしてその中心には謎の小箱が鎮座ましましている。
「結局、この小箱以外は買い取ってもらうしかないんだよなぁ。マスター、鑑定頼めるか?」
モードレッドが、カウンターの中で笑いながら話をしている年配の男性に話しかける。すると、マスターと呼ばれたその人物は、ニコニコと笑いながら水晶球を手にモードレット達の元にやって来た。
「どれ、一つずつ調べてみようか。まずは、この高価そうな女性用ドレスが……おや?」
マスターが最小に映し出された鑑定結果を見て、頭を跳ねる。そこには、『異世界製、女性用ドレス。金貨八十枚の価値がある』と、表示されている。
これにはウィン達も盛り上がってきた。
「ほ、ほら、やっぱりあの女性のドレスは価値があったんだよ。次行ってみよー」
ウィンの声にすぐさま次の盗品を調べていく。だが、 最初のドレスはどの高価なものはなく、むしろガラクタばかりである。
そしていよいよ問題の、謎の小箱の鑑定が始まったのだが。
──ピッピッ
「ふぅむ。鑑定不能か。この箱の中にとんでもない宝が入っている可能性があるなぁ。モードレッド、罠は?」
「しっかりと掛かっている事はわかったんだが。その仕掛けが何なのか、全く見当も付かなくてねぇ」
「どれ、私が見てあげよう……」
マスターが、モードレッドから箱を受け取ると、盗賊用七つ道具を取り出して、ゆっくりと調べ始めた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






