エデンの章・その13・まだまだ戦争。
グライアス達五人の勇者の姿が消滅するのを確認して、マチュアはすぐさま中継都市コルドサーチへと転移した。
目的地はコルドサーチ郊外、そこで待機している騎士達の元に、マチュアは姿を現した。
──シュンッ
突然姿を現したマチュアに、周辺の騎士達は警戒態勢をとった。
だが、すぐさまペルディータの騎士がやって来ると、マチュアに深々と一礼した。
「心配なので、斥候を送った所でした。前線の様子はどうでしたか?」
何かを期待するような目でマチュアに問いかけるので。
「取り敢えず、やる事はやって来た。奇襲作戦を仕掛けて来る可能性があるので、周辺の警備を厳重にして。私は、詰所に向かうから」
手をヒラヒラと振りながら、マチュアは箒に乗ってのんびりと街の中に入って行った。
………
……
…
──カツカツ
南門近くの騎士詰所にやって来ると、大きな馬車が何台も止まっているのに気がついた。
「何だろ?この辺りの伯爵様でも来たのか?」
そう首を捻りながら建物の中に入ると、マチュアはすぐさま三階の会議室へと案内された。
『何故、あの魔族に出撃を許可したのですか?私が裏で色々と画策している事は知っているでしょう?』
入口に立つと、中からは聞き覚えのない声が聞こえて来た。
「裏で画策?なんじゃそりゃ?」
──ガチャッ
扉を開いて室内に入る。
すると、机には三国の騎士団長と、ややガタイの良い貴族が席についている。
それぞれの後ろには副官が立ち、何か困った顔をしているのがマチュアにも見て取れた。
「マチュアさん、今、戻って来たのですか?」
カールがホッとした顔で問いかけると、貴族はマチュアを怪訝そうに見る。
「ええ、やる事やって来たので。それで、こちらはどこの伯爵様?」
そう問いかけると、カールがマチュアに一言。
「この街の領主、ベルディット子爵です」
ほうほう。
それは失言。
「これはどうも。何故、子爵様がここに?」
そう問いかけたものの、返答はない。
「カナン伯、この先のガッツギャラルを偵察しに向かったそうですな。どうでしたか?」
それどころか、ベルディットはマチュアの問いかけに質問で返してきた。
(へぇ、話ししたくないのか……)
ならばと、マチュアもドヤ顔で報告を始めた。
「とりあえず、ガッツギャラル郊外に駐留していたガーランド騎士団は、全て都市部に撤退させたよ。その後から来た召喚勇者は全員ぶちのめして、避難勧告を叩きつけてやったけど?明日中に避難しなかった場合は、私が自ら都市内部に突撃するけどってね……今頃、ガーランドの連中も対応策に追われているんじゃない?」
──カコーン
その言葉に、その場の全員が目をパチクリさせる。
顎が外れそうなぐらいに大口を開ける騎士もいれば、額に手を当てて困り果てた顔の者までいる。
そんな中、ベルディット卿はワナワナと震え始めた。
「そ、そんな事が出来るのですか……相手は召喚勇者ですよ?それもガーランドの。話では、彼らは元いた世界で『神龍殺し』の称号も持っているではないですか‼︎そんな五人を、あなた一人で蹴散らしたと?」
ほう、随分と詳しい事で。
マチュアはそこまで考えなかったが、パルコ・ミラーのフレイアは、ベルディットを睨みつけながら問いかけた。
「ベルディット卿。その情報はどこから?我々騎士団の斥候や、都市部に侵入させている諜報部からも、そこまで詳しい話はありませんでしたよ?」
「それは少し興味があるなぁ。カナン伯、ひょっとしたらベルディット卿は裏でガーランドと繋がっている可能性がありますよ?」
フレイアの言葉に続いて、ニヤニヤと笑いながらマチュアに話を振るユーリ。
既にベルディット卿は顔面蒼白となり、汗を流しながら狼狽している。
「はぁ。ベルディット卿、この国の情報を売ったりしていませんよね?」
やれやれと困った顔で問いかけるマチュア。
すると、カールがベルディットを見た。
「大きな作戦の打ち合わせの時、何かと理由をつけてベルディット卿は会議に参加していましたよね?」
「あなたの参加した会議で決定した作戦は、ことごとく失敗してますが……まさか」
──ガタッ
すると、ベルディットは立ち上がってテーブルを軽く叩く。
「何を仰いますか。この私が国を売るとでも?そんな馬鹿馬鹿しい話はやめましょう……それよりも問題は、この後どうするかです……」
そう話してから、ベルディットは扉に向かって歩き始める。
「この私にも策があります。今、屋敷までそれを取りに行って来ましょう」
そう話して扉に手をかけると。
「施錠……」
──カチャツ
マチュアが魔法で扉の鍵をかける。
そして空間収納から、嘘発見水晶を取り出すと、ドン、とテーブルに置いた。
「カナン伯が命じます。ベルディット子爵、ちょっとここまで来いやぁ」
ニィィッと笑って告げると、ベルディットは恐る恐るマチュアに近づく。
「この水晶に手を乗せて頂戴」
「は、はぁ、これですか?」
──トン
ベルディットが軽く手を乗せると、オーブが白く輝いた。
「これはね、魔力で嘘を見抜く魔道具なのよ。今から言う質問にしっかりと答えてね……手を離したら、輝きが消えるから」
「そ、そんな魔道具聞いた事もありません‼︎」
「そりゃあそうさ。伝説の魔道具、神々の嘘すら見破る代物だからなぁ……覚悟を決めたか?」
そう問いかけられると、ベルディットはゆっくりと頷いた。
「ベルディット子爵、あなたはガーランドと内通してますね?」
「そんな事はありません」
──キィィィン
その瞬間、嘘発見水晶が真っ赤に輝いた。
「はい、嘘。ベルディット子爵を牢に閉じ込めてください。国家反逆罪どころじゃないわ、カールさん、王都まで伝令もお願いします」
淡々と告げるマチュア。
だが、ベルディットは首を左右に振ると、立ち上がって扉まで走り出した‼︎
「こ、こんな所で私の一生が終わっていい筈はない‼︎そうだ、それもこれも、貴様が現れてからだ‼︎」
──ガチャガチャッ
必死に扉を掴んで揺さぶるが、その程度で壊れる施錠ではない。
すぐさま騎士たちがベルディットを取り押さえると、マチュアは施錠を解除した。
「ベルディット卿は、後日王都まで護送する。それまでは牢に投獄しておけ‼︎」
カールの叫びで、すぐさまベルディットは連れ出されて行く。
それをのんびりと見送ってから、マチュアは席に戻った。
「カール殿、これは責任問題にも発展します。今までの作戦失敗で、こちらの被害も洒落にならない程ですから」
「ええ。パルコ・ミラーとしても、かの貴族の処刑でもして貰わなくては納得はいきませんよ」
そう詰め寄られるカールだが、マチュアはのんびりと一言。
「まずは、この都市の防衛ラインの強化をお願いしますね。次のガーランドの手は、素直に撤収するか、いくつかの部隊に分散してこの都市を襲撃するかのどちらかだから」
淡々と説明するマチュア。
すると、フレイア達もすぐにテーブルの地図を見る。
「襲撃はないのでは?」
「私は一人しかいないから、私をどこかに張り付けにして時間稼ぎをしている内に、この都市を制圧する所までは考えられるね。街の中まで侵入されたら、敵の完全排除なんて難しくなるからなぁ……」
「ならば、各門に戦力を固めて防衛するのが得策なのか?」
「私が明日、ガッツギャラルまで様子を見にいく。それと入れ替わりに進軍するくらいはするかもね……どうしたものか」
腕を組んで考えるマチュア。
これには、他の騎士達も黙ってしまう。
「防衛戦と言うのなら、守り抜く事はできますが……」
「本当?それ信じていいの?」
念を押すマチュア。
ベルディットの手駒の騎士が、まだ残っていないとも限らない。
いくらマチュアの恐慌て敵勢を押し下げたとはいえ、まだ士気は高いだろう。
そして勇者達との再戦まで考えると、ここの防衛を任せていいのか考えてしまう。
「なら、念話の制御球を置いていくので、もし敵襲があったら連絡して。魔力を注いだら私と回線が通じるから」
──コトッ
空間収納から念話の制御球を取り出してテーブルの上に置く。
すると、ユーリたちもやや安堵の顔を見せた。
「こんなに様々な魔道具を、どこから手に入れるのかしら」
制御球に手を乗せて魔力を注ぐフレイア。
すると、マチュアと念話回線が繋がったことを確認している。
「こんなの簡単に作れるわよ。私は魔道具を自由に作り出す事が出来るのよ。媒体の希少度や含有魔力で違いは出るけどね……何なら作ってあげる?」
──トン
軽く足踏みして、テーブルの上に魔法陣を生み出す。
そこに魔晶石のかけらとミスリルのカケラを放り込むと、わずか数分で念話の指輪を作り出した。
これには、カールやユーリ、フレイア以外の騎士たちも驚いている。
「ひいふうみい……全部で12個か。各国に4つずつあげるから、信頼できる騎士や仲間に配布して。念話を送りたい相手を思って魔力を注ぐと、すぐに繋がる筈だから……」
──ジャラッ
簡単に仕分けすると、ユーリとカール、フレイアに4つずつ手渡す。
「こ!こんな貴重な魔道具をあっさりと手渡して良いのか?これは、軍事的に考えても強力すぎる代物だぞ」
「そうね。あなたは、私達を信用し過ぎではないのかしら?」
そう告げながら、二人が指輪を嵌めるのを見届ける。
「まあ、私はマスター権限があるので、いくら念話で秘密の会話をしても、この念話の制御球は全ての声を集められるから……まあ、自国にまで持っていかれると、ここまでは届かないからなぁ……」
どうしたものかと演技する。
すると、ユーリは豪快に笑っているものの、フレイアは何か複雑な顔をしている。
「我が国の教えで言うのなら、これは魔族の作りし魔導遺物品。所有さえ許可を得なくてはならない一品だが……」
「便利でしょ?こっちの世界では手に入らないし、遺跡を探しても、魔導核に傷でもあれば使えないものが多いからなぁ」
「え、ええ。そうですね……では、ありがたく使わせてもらいます」
素直に頭を下げたフレイア。
「さて、そんじゃあ、後は任せましたので。わたしは明日の正午にでも、ガッツギャラルの様子を見てきます」
そう説明してから、マチュアは部屋から出た。
召喚勇者として、やる事やってのんびりとしたかっただけである。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……負けたのか……」
満身創痍のブランネージたちを見て、ミルドニアは深い失望を覚えていた。
自信満々で出撃した、ガーランドの切り札が、たった一人の召喚勇者によって翻弄され、自信を砕かれて戻って来たのである。
「いやぁ、面目無い……相手が悪過ぎたとしか言いようがない」
「おそらく、あのマチュアとか言う魔族の勇者のレベルはダイヤモンド級だろう。そうなると、正面からやりあって勝てるのは神と等しい存在のみ……」
グライアスとブランネージがこうべを垂れて呟く。
その後ろでは、椅子に座って体を休めているレフツとライツ、リンの姿もある。
「それで、生きて帰って来れたと言う事は、敵は何か話していたか?」
ミルドニアが問いかけると、ブランシュが静かに一言。
「明日までにガッツギャラルを出て行けとの事です……さもなくばあの勇者は単騎でここに乗り込んで来る事でしょう」
グッと拳を握る。
完全な敗北、それも手加減をしてもらったのだと言う事実が、ブランシュのプライドを傷つけている。
それはグライアスも同じ。
初戦で魔族殺しの大剣を破壊され、二戦目で最強奥義さえ破られた。
次に出す切り札など、とうに尽き果てている。
レフツとライツもそう。
自慢の魔法が指パッチンで解除されてしまったのだから、後は何をしても効果はないと実感する。
リンに至っては、マチュアの正体は忍者マスターではないかと疑っている始末。
こんな状況で再戦まで漕ぎ着けても、勝てるかと言うと不可能としかいえない。
「……全軍を持ってコルドサーチに進軍しても、退路を失うだけ……ここは速やかに撤退の一手しかないか……口惜しいぞ……」
吐き捨てるように告げると、傍で静かに話を聞いていた副官に命じる。
「各部隊長に連絡。全軍撤退準備をせよ。明日の早朝に、このガッツギャラルを放棄し、一旦ガーランドへ戻る。運び出せる魔鉱石は全て運び出すように告げろ、市民からの略奪は禁止とする、以上だ」
「了解しました。しかし、一体何者なのでしょうねぇ、その魔族は」
「知るか。ブランシュたちも一度ガーランドに戻るぞ、帰還する時が半年ほど延びたと思え」
そう告げて、ミルドニアも荷物をまとめ始める。
「へいへい。いずれにしても、あの魔族さんとは決着付けないとならないからなぁ。今回は命があっただけめっけものと思わないと」
グライアスが笑いながら部屋から出ると、ブランシュ達も後に続いた。
そして夜通しかけて撤収準備を進めると、翌早朝には、ガーランド全軍が後方山脈を越えて撤収を開始した。
………
……
…
翌日・昼。
マチュアは、商人の姿に変装してそーっとガッツギャラルへとやって来た。
ツノオレモードになり、背中に大きめのバッグを背負うと、途中からは歩いて来た。
街道を越えて街の中に入ると、彼方此方で歓喜の声が上がっているのに気が付いた。
「あ!あれ、何かあったの?」
「今朝方、ガーランドの騎士団が山に向かって移動を開始したのですよ。全軍で撤退を開始しまして、鉱山区画も都市区画も、全て解放されたのですよ」
「先代領主は殺されてしまったので、今はその前の領主であるメロウ卿が領主代行を宣言しました」
「すぐに南方街道は閉鎖されて、次のガーランドの進軍に対しての作戦会議が行われている所ですよ」
彼方此方の市民が喜びの声を上げている。
これなら余計な警戒をする必要はないだろう。
ならは、この報告をコルドサーチにも届けなくてはならない。
──ピッピッ
マチュアからは直接の念話。
それをコルドサーチの騎士詰所のカール達は受信した。
「こちらマチュア。ガッツギャラルのガーランド騎士団は撤退した模様。追撃ではないが後ろから追いかけて様子を見たいので、騎士団にここにやってきて警備するように伝えてくださいな」
『……やはり撤退しましたか。すぐに騎士団を編成して送ります。私達もすぐに向かいますので、よろしくお願いします』
「了解。そんじゃあまたね」
──ピッピッ
「さてと……あの、ガーランドの逃げた方角はどちら?」
近くを歩いていた商人に問いかける。
すると商人は、今の場所から南東を指差す。
「あっちの方角が山街道だね。ガーランドとも繋がっているから、間違いはないだろうさ」
「それはありがとう‼︎」
すぐに頭を下げると、マチュアはほ箒の速度を上げて飛んでいく。
南街道から南東に向かい、そこから山脈の中を走る街道に出る。
彼方此方に行軍跡が残っている所を見ると、本当に山越えをしているのかもしれない。
「そんじゃあ……」
すぐさま高度を上げて前に進む。
すると、尾根に沿って伸びる街道を進む長蛇の列を確認した。
──ヒュゥゥゥンッ
すぐさま上空通過して隊列の前方に出る。
そこにはブランシュたち召喚勇者や、ミルドニアの姿もあった。
──ガチャガチャッ
マチュアを見た兵士達がすぐさま弓やクロスボウを構えるが、マチュアはこちらを苦々しく睨みつけているミルドニアに手を振る。
「警告ね、このまま山を降りたら、二度とペルディータに進軍しない事。もしも進軍して来るようなら、どうなるかわかるよね?」
──シュゥゥッ
山頂上空に20以上の魔法陣が浮かび上がる。
これには、騎士たちも死を覚悟するしかない。
「これの十倍以上の魔法陣をガーランド上空に作り出すから。どれだけ王都が大きくても、一瞬で廃墟に出来るから覚悟してね……手を出さなければ何もしないから」
すると、グライアスがマチュアに拳を突き出す。
「国は関係ない。また勝負しろ‼︎」
「おっけ。なら、ガーランドではなく勇者個人としてなら相手してあげるから。商人でもなんでも使って、カナン伯爵領まで連絡しなさいな」
にこやかに叫ぶと、マチュアはスーッと後ろに飛んでいく。
後はガッツギャラルにのんびりと戻っていった。
………
……
…
数日後、ペルディータ王都。
その日、王城には、マチュアの手によってガッツギャラルがガーランドから解放されたという一報が届けられた。
謁見室では、報告に来た早馬が持っていた報告書をジョージ国王が読み上げている。
「……マチュアさんか、ガーランドからガッツギャラルを取り戻してくれたらしい。カバネロ宰相、すぐに新しい領主を選任しなくてはならないぞ」
「はっ。領主を解任したベルディットの後任も含めて、新たに任命しないとなりませぬな」
「そうだ、マチュアさんを侯爵に取り立てよう。この度の貢献、その価値は十分にあると思うが」
「それは名案ですな‼︎では、今のカナン伯爵領はマルガレーテ家に委任統治を行ってもらい、マチュアさんにはガーランドの国境を睨みつけて貰えば良い」
諸手を挙げて大喜びのジョージやカバネロ。
だが、その報告を聞いていたマリア達は、横に座っている宮廷魔導師のアルクに問いかける。
「私達の送還魔法陣の魔力はどうなったのかしら?」
そう問われると、アルクも腕を組んで考える。
「送還条件が完了しているなら、マチュア殿が一人で全員分の魔力を回収して来たのだろう。どれ、皆で見にいくとしますか」
スッ、と立ち上がるアルク。
そしてジョージに一言。
「陛下、この者達が元の世界に戻れるだけの魔力が回収できたのか見てきます」
「おお、そうじゃな。もしも帰れるのなら、急ぎ送って差し上げなさい」
そう急かすジョージだが。
──バーーン
「失礼ながら。もしも帰れるのなら、私たちはマチュアさんと共に帰る事にしますわ」
「ええ。私たちは結局何もしていません。全てマチュアさんが頑張ってくれたのです。それを差し置いて、私達だけ帰る訳にはいきません」
「と、いう事だ。そんじゃあ見てくるとしますか」
そう話してから、アルクの後ろを三人がついていく。
それをのんびりと見送ってから、ジョージは突然ブワッと汗をかいた。
「ど、どうしよう……マチュアさんが帰ってしまう‼︎」
「確かに、召喚勇者である以上、この契約は絶対です。こればかりは、我々でも止める事は出来ませんな。いや、引き止める事ぐらいは出来ますが、帰るかどうかはマチュアさまの意志です」
カバネロ宰相が少し残念そうに告げる。
すると、ジョージも観念したらしく、椅子に座って大人しくなってしまった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ペルディータ王城地下、送還の魔法陣。
静かな室内。
その中央に、巨大な魔法陣が輝いている。
最も奥にある送還の制御球が激しく輝き、そこから残り三つの制御球に向かって、稲妻のように魔力が注がれている。
残り三人分の魔力を、マチュアが一人で集めた結果。
制御球から魔力が均等に流れ始めているのである。
その前に立つアルクとマリア、綾奈、疾風の四人。
目の前の美しい光景に、しばし心を奪われていた。
「アルクさん、これはどういう事ですか?」
疾風が魔法陣を眺めながら問いかけてみると、アルクもスッ、と魔法陣に手を差し伸べている。
「ふむ。魔力は十分に溜まっているが、マチュア殿のオーブに偏りすぎているらしい。今はそれを均等に流している最中、時が来たら全てのオーブが輝き、送還の魔法陣は発動条件を全て満たすだろう……安心なさい、みなさん帰れますよ」
──ブワッ
そのアルクの言葉に、綾奈はボロボロと涙を流した。
時間にしてはそれ程でもないが、やはり長い間、地球では行方不明者として扱われているだろう。
心配をかけた両親や友人を思い出すと、涙が溢れている。
それとは対照的に、マリアはドヤ顔で魔法陣を睨みつけている。
「実にいい体験でしたわ。魔術の素養にも目覚め、冒険者としての力もある事がわかりましたわ。地球に戻れば、これは私達にはプラスになってもマイナスになる事はありませんわ‼︎」
「そうだな。環境適応能力も身に付いた事だし、後は帰還の日までのんびりと遊んで暮らす事にするさ……それで、全ての制御球に魔力が注がれるまで何日掛かるんだ?」
疾風がアルクに問いかける。
すると、アルクは再度、魔法陣に手を伸ばして何かを唱えている。
「……大体7日後だな。溜まりきったからといって、勝手に起動する事はない。7日後の正午を目処に、遊ぶなりゆっくりと体を休めるなりしなさい……では、戻りますよ」
そのアルクの言葉に頷くと、マリアたちは謁見室へと戻って行った。
地球に帰るまで、あと七日。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
 






