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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第10部・悪魔っ娘大騒動

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エデンの章・その12・国境沿いの攻防

 マチュアは中継都市コルドサーチへとやって来た。

 正門ですったもんだした後、マチュアは再び箒を取り出して座ると、のんびりと街の中を飛んで行く。


 魔族が空飛ぶ箒に乗っている姿は、この街でも注目の的である。

 時折、商人達が声を掛けて来てマチュアの箒について問い合わせて来るが、王都のカナン商会で買えますよとアドバイスをして立ち去るようにしていた。


「それにしても……随分と寂れた街だなぁ」

 ここに来るまでに見た街とは、雰囲気が大きく違う。

 何かこう、街の人たちに覇気があまり感じられない。

 隣の街がガーランドに襲撃されて奪われたと言うこともあり、次にここが襲われる事を危惧してか、人の姿もあまり多くはない。

 戦線付近の都市という事もあり、商人や冒険者達は大勢集まっているのだが、それ以外の、都市に住まう人達の姿はあまり感じられない。


「まあ、そんじゃあ南門まで向かいますかぁ」

 トロトロと傭兵騎士団の集まっている南門へと向かうと、

 門の内外とその周辺は軍事拠点のような雰囲気に変わった。

 門の中では大勢の騎士達が待機し、訓練を行ったり体を休めたりしている。

 そして門の外には、いつでも動けるように騎士達が待機しており、南に向かう街道をじっと睨みつけていた。


………

……


「おや、こんな所に戦闘魔族が何の用だい?」

 南門付近で外を眺めていたマチュアに、一人の騎士が話しかけてくる。

「戦闘傭兵じゃないですよ。私は召喚勇者のマチュアと申します。ここのペルディータ騎士団の責任者と話がしたいのですが」

 スッ、と身分証を提示すると、それを見た騎士がマチュアに敬礼する。

「これは失礼しました。私はカール、ギルガメッシュ騎士団長の命令で、この地の傭兵騎士団を統括しています。あなたが報告にあったマチュア様ですね」

「報告かぁ。いつの間にそんなものが届いていたんだろう」

「先日ですよ。騎士団員でも部隊長クラスには、遠話の護符が配給されていますから。こちらが傭兵騎士団詰所になりますので、どうぞ」

 歩きながら説明を受けるマチュア。


 やがて、何処かの商館を改造したような建物に案内されると、最上階にある大きな部屋へと案内された。

 そこには、ザナドゥとパルコ・ミラーの指揮官も待機しているらしく、様々な形の鎧を着た者達が集まっていた。


「……カール殿、その魔族の方はどなたですか?」

 好奇心旺盛に問いかけたのは、黒い鎧を着た髭面の男性。

 それとは対照的に、テーブルを挟んで向かいに座っている、銀色の鎧を着た女性士官はマチュアを侮蔑の目で見ている。

「我がペルディータの召喚勇者の一人、マチュアさまです」

「おお、貴殿が真祖トゥルース殿であったか。どうだ、この戦いが終わったらザナドゥへ来ないか?」

 笑いながらマチュアの元に向かうと、いきなり手を取ってガッチリと握ってくる。

 外見に似合わない、豪快な態度である。


「ま、まあ、その話は聞かなかった事にしますよ。初めまして、マチュア・カナンです」

「そうか。実に惜しいなぁ……ワシはユーリ・ロストフ。ザナドゥの暗黒騎士団の団長を務めている」

 挨拶の後、ユーリは座ったままの騎士を見る。

「彼女はフレイア・タッカード、パルコ・ミラーの白鳥騎士団の団長だ。おいフレイア、挨拶をしないか?」

 そう促すと、やれやれと困った顔で立ち上がるフレイア。

「ユーリ殿は、いつになったら我が国教を理解するのだ。カナン殿、フレイアです」

 そう呟くように告げてすぐに座る。

 すると、ユーリもカールも困った顔をしている。


「あ、それで良いですよ。パルコ・ミラーの国教は理解していますから、魔族の女性なんて口も聞きたくないのでしょう?そういうものなんだと認識していますから」

 あっけらかんと笑うマチュア。

 種族差別など、ジ・アースでツノオレだった時に散々経験している。

 カリス・マレスでは冒険者クラスで笑われたりもした。

 相手の国の国教がそう教えているのなら、それは仕方のない事。


「済まないな。魔族にしては物分りが良くて助かる……そう教えられて生きてきたものなので!すぐに態度を改めら事は出来ない」

「そう言えるだけで構わないわよ。で、申し訳ないんだけど、ちょっと偵察に行って来ていい?」

 テーブルに広げられている地図を眺めつつ、マチュアはその場の全員に問いかける。


「偵察か。ガーランドの奴らも良く近くまでやってくるから、その程度なら構わないが、まさか単騎で飛び込む気なのか?」

「だとすると無茶ですよ。向こうにはガーランドの五星って呼ばれている召喚勇者がいるのですから」

「魔族の、己の力を過信しないことだ……」

 皆が止めるのも無理はない。

 いきなりやって来たものの実力もわからない以上、むやみに死にに行く事はない。


「まあ、そこは自己責任で何とかするけど。で、いつ頃取り戻すの?」

「作戦開始のタイミングが見つからない。今までも、緻密に計算した作戦がいくつも実行されたのだが、その全てが裏目に出ている」

「ガーランドの勇者の一人が軍師と呼ばれている魔道士で、常に我々は苦渋を舐める事になっています」

「そして、我がパルコ・ミラーは間も無く契約解除を行い、帰国する。この国はもうダメなのだろうなぁ」

 腕を組んだまま天井を見上げるフレイア。

 これにはカールも拳を握るものの、何も言い返せない。


「パルコ・ミラーが帰還する理由は?もし差し支えなければ教えて貰えないかしら?」

 マチュアがフレイアに問いかけると、フレイアもやれやれと困った顔をしている。

「我がパルコ・ミラーは、国境の一部がガーランドと接している。この国のように山脈によって閉ざされた国境ではなく、平原地帯でね。そこにガーランドが進軍したらしく、我が部隊がそこに向かう事になっただけだ」

「ペルディータの契約不履行では無いのですね?」

「それは無い。本国からの正式な書面で届けられた。この件はこの地の子爵であるベルディット殿を通じて、王都に連絡が入っているはずだ」

 これにはカールも静かに頷いている。

 なら疑う必要はないだろう。

「おっけ。なら構わないわ。後十日?それぐらいまでに敵の数を半分まで減らしてあげるから。という事で、偵察に行って来ますね?」

「なら、街道の封鎖区間から向こうに向かう命令書を発行しますね」

 カールがマチュアを引き止めると、スラスラと正式な書面を認める。

「あら、それは助かります。それでは行って来ます……ついでに数が減らせるようなら、数も減らして来ますから」

「まあ。あまり無理はしないでくださいね」

「無理のない範囲で……では失礼します」

 そのまま立ち上がると、マチュアは部屋から出て行く。

 それを、残った騎士達は黙って見送って行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 南門を超えてのんびりと飛んで行く。

 隣町であるガッツギャラルまでは、馬車で二日、大体160kmほど、その手前20kmには、三国の傭兵騎士団が陣を引いて待機している。


「お、そこの魔族。ここから先は戦争中で街道封鎖中だ。通るのは構わないが、命の責任は自分で持てよ?」

 街道上には、魔法の石壁を作り出して通行制限を行っているらしい。

 その手前にいた騎士の一人が、マチュアに近寄ってそう説明してくれたので。


──スッ

「ペルディータの召喚勇者のマチュアです。威力偵察に向かうので、通行許可をお願いします」

 カールの書いた命令書を手渡すと、騎士はそれを確認してすぐさま街道を開く。


──ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 石壁が左右に動いて街道を開くと、マチュアはそこから外に出た。

 そして振り向くと、その場の騎士に一言。

「ひょっとしたら敵の進軍があるかもしれないけど、その際は守りに徹底してください。潰すのは私が行いますので」

 ニィッと笑ってから、マチュアは振り向いて前に進む。

 箒の速度を少しだけ上げると、真っ直ぐに目標地点であるガッツギャラルへと飛んで行った。


………

……


 ガッツギャラル外縁部・ガーランド騎士団駐留地。

 主街道を挟んで左右に展開している、ガーランド軍の軍事拠点である。

 簡易宿泊施設の建設が急ピッチで進められており、その周囲には大量のテントと、サベージ族の精鋭騎士団が待機していた。


 そこの手前までやってきたマチュア。

 商人用のローブと頭にはベレー帽。

 ツノオレモードの外見に装備を変更してやって来たのである。


「止まれ、ここから先に進みたければ!まずは身分証カードを出してもらおうか。冒険者とペルディータの国民は通行禁止、商人は通行税を支払ってもらう」

「もしも、君がペルディータ市民だったり冒険者ならば、すぐに身分証を出さずに振り向いて帰りたまえ。身分証を確認した後は、該当者は捕らえるか殺すように指示されているのでな」

 完全装備の騎士が二人、マチュアにそう話しかけてるので。

 マチュアは堂々と身分証カードを取り出して見せる。


「ペルディータ所属の召喚勇者のマチュアだ。威力偵察に来た」


──ザワッ

 そのマチュアの言葉で、近くにいた騎士達もすぐさま抜刀してマチュアを取り囲む。

「そんな堂々とした威力偵察はないだろうが……悪いが、ペルディータ所属の騎士や勇者は皆殺しと命じられているから、悪く思うなよ」

──ヒュヒュンッ

 すぐさま二人の騎士が斬りかかる。

 だが、黙って切られているマチュアではない。

「まあ、そうなるのはわかっているんだ‼︎」


──ブウンッ

 一瞬でハルバードを取り出すと、力一杯の横一閃。

 この瞬間に、周囲の四人は胴体を切り裂かれて後退し、斬りかかっていた二人の騎士は胴体を真っ二つにされて絶命した。

 ドサッと上半身が大地に落ち、下半身はスローモーションのように倒れていく。


──ピリリリリリッ

 すると、一人の騎士が懐から笛を取り出して、力一杯吹いた。

 それと同時に、待機していた騎士達が立ち上がると、マチュアに向かって走ってくる。


──シュンッ

 マチュアも一瞬で装備を悪魔ルナティクスに換装すると、恐慌ディプレッションを全開にして叫んだ。

「よっしゃあ、ペルディータ所属勇者のマチュアだ。これより全力の威力偵察を行う、死にたくなかったら装備を解除して後方に下がれ‼︎」


 この声と同時に、後方から駆けつけた騎士達は恐怖のあまり立ち尽くし、恐怖を乗り越えたもの達は手にした武具を投げ捨ててガッツギャラルへと走って逃げて行った。


 その場には、既に勇猛なるサベージ族の騎士はいない。

 戦闘魔族でさえ、マチュアの姿を見て立ち尽くしているだけである。

 すると。


──ドスン‼︎

 大地に両手剣をつきたてて、ガーランド騎士団所属の召喚勇者の一人、グライアスが立ち止まってニヤニヤしている。

「あんたが噂の真祖トゥルースかよ。こんなに可愛子ちゃんなら、本気で相手をしないとならないなぁ」

「へぇ。私の恐慌ディプレッションが効かないのは初めてだよ。それで、本気でやり合うの?」

「まあな。俺も召喚勇者なのでね。契約を履行しないと帰れないんだよ」

 お互いにニィッと笑う。


──ガッギィィィィン

 すると、刹那の速度でグライアスとマチュアは斬りむすんだ。

 魔族殺しの大剣とハルバード・ブレイザー。

 それが幾度となく叩き込まれ、弾き合う。

 まさに一進一退の攻防とでも言うのだろう。

「か、がっはっはぁ‼︎こんな手応えのある敵は初めてだよ。カルアデスではお前ほどの存在を見た事はないぞ」

──ガッギィィィィン

 再び二人の武器がぶつかり合うと、両者ともに後ろに飛ばずさる。


「カルアデス?それがあんたのいた世界か?」

「ああ、そうだよ。創造神の作りし八つの世界の一つカルアデス。そこが俺たちの世界だ……この世界の神は、俺達の世界を外の神の世界と言っていたがな」

「あ、成程……あなた達は外の創造神の庇護下の勇者かぁ……道理で、ここまで互角だと思ったわ」

 トントンとハルバードの柄の部分で自分の肩を叩くマチュア。

 すると、グライアスも両手剣を大地に突き刺して、ゴキゴキッと拳を鳴らす。

「さしずめ、ここまではウォーミングアップか。なら、本気で行かせてもらうぞ」

「よしよし。なら、こっちも行きますよ」

──シュンッ

 ハルバードを収納してワイズマンローブとナックルを装備する。

 修練拳闘士ミスティックモードの完全版になると、マチュアはゆっくりと八極拳の構えを取る。


「これでもくらえっっ」

──シュンッ

 素早く間合いを詰めてくると、グライアスは両手剣で鋭い斬撃を叩き込んで来る。

 全部で十二連の乱撃。

 この巨大な剣でよくも出来ると、マチュアは全てを軽く受け流してから納得してしまう。

「……そ、そんなバカな……この俺の渾身の攻撃だぞ?」

「まあ、さっきよりは早いね。けど、両手剣の乱撃の軌道は、大体パターンがあってね。人間の筋力では、反動を生かした軌跡を使わないと乱撃は成立しないのよ……」


──ビシッ

 説明の直後に、グライアスの両手剣に亀裂が走る。

「そ、そんなバカな」

「それは二度目。三度も同じこと話したら死亡フラグ扱いにするよ。それでどうするの?まだやる?」


 大抵の脳筋なら、武器を捨てて拳で掛かってくる流れ。

 だが、流石は勇者として選ばれた存在である。


「一度下がらせて貰う。仲間と合流して、改めて再戦と行きたい所だ」

「その潔さは好きだなぁ。なら、戻ったらあんたらの司令官に伝えて。三日待つ、それ以内にガーランド騎士団はガッツギャラルから出て行けって。もし三日後も動きが見えなかったら、この地のガーランドの軍勢は皆殺しにするって……」

「よかろう。一吠えだけで殆どの騎士達を退けた貴殿の言葉だ!嘘偽りはないだろう……ではまた」

 そう呟いてから、グライアスは振り向いて立ち去っていく。

 それを見送ると、マチュアは周辺に対して『生体感知』の範囲術式を展開する。


 範囲はほぼ最大、これによってマチュアを欺いて遠巻きに進軍を開始する敵の動きを捉える事が出来る。

「さて、グライアスとやらが来た世界とこの世界の接点が作られたのか……というか、このエデン自体が、その為の実験世界だという事も考えられるわなぁ……」


 やれやれと頭を抱えつつ、マチュアは空飛ぶ絨毯を取り出してそこに飛び乗ると、のんびりと敵の動きを見る事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「……そんなバカな話がありますか?」

 マチュアの襲撃を受けた騎士達の報告を聞いたミルドニア。

 さらに、愛用の両手剣を破壊されて戻って来たグライアスの話を聞いて、ミルドニアは頭を抱えている。

 ここまで順調に進んでいた侵攻作戦が、たった一人の勇者の出現によって水泡に帰してしまいそうなのだから。

「グライアスさん、貴方達で、真祖トゥルースの勇者を排除してください。それも早急にお願いします」

「まあ、そうなるよなぁ」

 ニヤニヤと笑うグライアスだが。

「魔族相手に負けて戻って来て、そうなるなぁ、じゃないわよ。何でそんなに嬉しそうなのよ?」

 ブランネージがグライアスに叫ぶ。

「初めての強敵だ。古代竜ミストルディン討伐よりも手応えを感じた」


──ゴクッ

 グライアスの言葉で、ほぼ全員が息を飲む。

「ちょ、ミストルディンよりも格上なの?」

「感覚的には、ミストルディンを相手にした方が、勝ち目はあった。が、あのマチュアとかいう真祖トゥルースは、ウォーミングアップで俺の本気を全て受け止めた。勝てると思うか?」

 そう淡々と告げるグライアスに、全員が頭を抱えて考える。


「ライツ、あんたの魔力封じはどう?」

「相手も魔力が高いと、それ程の効果は望めない。レフツの弱体化も然り。私達二人の魔術は、相手との力量差が大きいと失敗するか効力を失ってしまいますから」

「ええ。相手の戦闘術式を封じるためには、まずは相手の実力を見ないことには。それならば、リンの暗殺技術を使った方が早いのでは?」

「まあね。でも、私のは奇襲だから、ブランネージのタウントでマチュアの意識を引っ張り込めれば、あるいはねぇ」

 リンがブランネージを見ながら説明すると、ブランネージも困った顔になる。

「そうなるかぁ。魔族相手のタウントなんで、やった事ないわよ。あの技は、知性が高い相手ほど効果かないのよ?」

「むぅ。ならば、正面から全力でぶつかるしかあるまい。ワシも予備武器しかないから、どこまで通用するかわからんぞ」

 グライアスが高らかに笑いながら、収納ポータルバッグから巨大な槍を取り出した。

 それを両手で構えると、ブウンッと軽く振る。


「ガッハッハッ。スレイヤー能力も何もない武具だが、威力だけは最大だ。これが通用しなかったら、もう、生きてあっちに帰るのは諦めた方がいいぞ」

「そうならないように行くしかないでしょう。ほら、行くわよ」

 ブランネージが皆を手招きして、部屋から出て行く。

 戦うなら早い方がいい。

 作戦が立てられない相手を敵にする以上、まずは初戦で様子を見るしかあるまい。


………

……


「良い天気だよなぁ。こんな日は、弁当作って花見でもしたいよ……」

 絨毯の上でのんびりとティータイムを楽しんでいるマチュア。

 焼きたてマフィンとルシアンティーを楽しみながら、ガッツギャラルの方角を眺めていると。


──シュンッ……カシャン‼︎

 突然、炎の矢フレアアローが飛来し、マチュアの手元のカップを破壊した。

「あっちゃあ……これは気づかなかったわ。不意打ちにしては上等だけど、このカップはお気に入りだったのに」

 いそいそとティーセットを片付けてから絨毯から降りる。

 そして、街道を進んでくる五人連れの冒険者を眺める。

 すると、先頭を歩いていたグライアスが、マチュアの方を見て叫んでいる。


「約束通り仲間を連れて来たぞ、これで、本気でやり合えるだろう‼︎」

──スパァァァァン

 そのグライアスの顔面に裏拳を入れるブランネージ。

 そして正面に立つと、マチュアの方を見て一言。


「わたし達はガーランド所属の召喚勇者です。先程は仲間がお世話になったようですので、改めて参りました。戦う準備が出来たら、いつでも声をかけてください」


 凛とした声で叫ぶブランネージ。

 その横にグライアス、後ろにレフツとライツが控えており、杖を手に詠唱を開始していた。


「へぇ。こっちはいつでも良いから、掛かってらっしゃい‼︎」

 そうマチュアも笑いながら叫ぶ。

 すると。

──シュンッ

 マチュアの背後から、両手にダガーを構えたリンが姿を現した。

「忍法・陽光縮地の術っっつ」

 自然光の中なら、仕方ない全ての場所に瞬時に移動する技。

 これでマチュアの背後に移動して、両手のダガーで二連撃を入れて来たのだが。

「おおう‼︎これは凄いわぁぁ」

──ガキガキ……

 すぐさまワイズマンナックルでダガーを迎撃すると、震脚からの鉄山靠で、リンを後方に吹き飛ばした‼︎


「グッハァツ‼︎」

 翻筋斗打って倒れるリンの影に向かって、力の矢フォースアローを叩き込んで影を縫い止める。


「忍法・影縫いの術。その矢を抜かない限り、身動きは出来ないよ」

「な、何故。魔族が、私たち忍者の技を!それも秘伝の技‼︎」

「甘い甘い。魔族は万能だよ……と」

 すぐさま後方に飛ぶと、レフツの放った二つの魔法弾をナックルで弾き飛ばす。

 マチュアの左に弾かれた弾は爆発して地面を凍りつかせ、右に弾かれた弾は雷撃を放っている。


「「私たちの魔法を弾くだと?」」


 同時に叫ぶレフツとライツ。

 すぐさま次の魔法の詠唱を開始すると、ブランネージとグライアスが飛び出して来た。


「さあ、魔族さん、あなたの相手はこのわたしです‼︎挑発タウントっ」

 ブランネージの構えた盾が輝き、敵を挑発する。

 だが、マチュアは盾の輝きなど一向に気にせず、槍を持って突撃してくるグライアスを見た。


「それがあんたの本気の武器なのね」

「その通りだ。くらえ、戦技『無双覇王撃八陣』っっっっ」

 すかさず突きを入れて来るグライアス。

 その軌跡を交わした瞬間、正面から来たはずの槍の攻撃が横から飛んできた‼︎


──ドゴォッ

 深々と体に突き刺さる槍。

 しかも、それは八つの方角から時間差で飛んできた。

「あ〜、これはあれかぁ、全周囲、魔神の腕っっ」

 魔力腕を生み出して体の前で交差する。

 すると、残りの七撃全てが魔力腕に突き刺さるが、体までは届かない。


「おおうおう……以前見なかったら、全部食らっていたなぁ〜いててて」

 傷口を軽治療ライトヒールで塞ぐと、更に走ってくるブランネージの方を向く。

「これはどうかしら?羅漢三十六蓮撃っ」

 神速の突きと薙ぎによる乱撃だが。

──ガガガギギギッ

 それは全てワイズマンナックルで弾き飛ばす。

「うちの騎士団長よりも遅い‼︎軌跡が単調、全てを攻撃に使うのではなく、フェイント用にいくつか混ぜないとダメっ」

 全てを受け止めてから、踏み込んで掌底を胴部に打ち込む。

──カッコォォォン

 軽快な金属音と同時に、ブランネージが後ろに飛ぶ。

 さらに巨大な焔と稲妻を生み出したレフツとライツに向かって、二連発の指パッチン‼︎


──パチバチィン

却下リジェルト。せいぜい第五聖典ザ・フィフスの魔術式らしいけど、そんなものが通用する相手じゃない事を理解しなさい‼︎まだやる気?」

 すぐさまグライアスに向かって間合いを詰めると、今度は綺麗なボディーブローを撃ち込む。


「なっ、早いっ‼︎」

──ドゴォッ

 鎧が砕け散り、グライアスも後ろに吹き飛ぶ。

 大量の血を吐き出し、呼吸も疎らになっている。

 ブランネージも剣を支えに立ち上がるが、既に満身創痍、動く事は出来そうもない。


「そ、そんな……私達がこんなに一方的に……」

「「ブランネージ、引きましょう。私達の魔法も通用しない」」


 口から血を吐きながら叫ぶブランネージに、レフツとライツが叫んだ時。

──シュンッ

 マチュアは一瞬でレフツ達の前に転移して一言。

「私のティーカップ割ったの誰だ?銀貨二枚払え‼︎」

 笑いながら告げる。すると、二人はガクガクと震え出し、レフツが懐から銀貨を二枚取り出して差し出す。

 それを丁寧に受け取ると、マチュアは二人に話し始める。


「よし。早く二人を治療して連れて帰りなさい。もしまだやるのなら、本気で相手するから。魔力で見たものを映像化ぐらい出来るでしょ?」

「「は、はい」」

「ならついでに一言。忠告を無視して勇者達を送りつけた事は許さない。明日中に帰れと告げて」

 そう伝えてから、マチュアはリンの倒れている所に近寄る。


「あなたは筋がいい。出来るなら、遁術で移動している最中に攻撃する技術を身に付けなさい。そうすれば、もっと奇襲速度は上がる筈よ」

──パチン

 指を鳴らして力の矢フォースアローを消滅させると、マチュアは影縫いを解除した。

 そしてよろよろと後方に下がると、レフツとライツ二人の魔術によって、五人の姿がスッと消えて行った。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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