エデンの章・その11・安穏からの反転
カナン領ヘスティア、冒険者ギルド。
コボルトの視察から戻ったマチュアは、真っ直ぐに冒険者ギルドにやって来た。
受付カウンターに向かうと、すぐさまギルドマスターが飛んで来る。
「これはカナン伯爵。どのようなご用件でしょうか?」
「南方森林付近のコボルトの集落とは話をつけて来た。亜人種だが、カナン領の住人として受け入れたので、討伐任務は受けない事」
すると、かいつまんで説明して行くマチュアに、ギルドマスターも困った顔をしている。
「亜人種を領内で受け入れたのですか?」
「ええ。人間のルールについてはこれから説明するし、言葉も教えるつもりよ。それと、コボルトに襲われた商人と冒険者の荷物は回収して来たから、連絡して返しておいて」
──ドサドサッ
カウンターの横に大量の荷物を置く。
すると、ギルドマスターも苦笑しながら、職員に指示を始めた。
「本当に大丈夫ですか?人間のルールを守れるのですか?」
「さあね。私は教えるし、ルールを守らなかったらどうなるかも説明する。その上で、この地で争いもなく平和に暮らすか、他の領地で命の危険に怯えながら生きるか選択してもらうわよ……それじゃあ、後は宜しく」
そう告げてから、手をヒラヒラと振りつつ外に出て行くマチュア。
「かしこまりました。では、亜人種の受け入れについては、冒険者ギルドは了解しました」
少しずつ、魔族の領主が浸透し始めていた。
………
……
…
翌日。
王都からの招集が掛かっていたマチュアは、すぐさまカナン商会に転移してから、のんびりと王城へと向かって行った。
王城正門を顔パスで通過すると、すぐさま謁見室へと案内される。
マチュアやマリア達がこの世界に来て、初めて案内された部屋である。
──ギィィィィィィッ
ゆっくりと扉を開き中に入って行く。
すでにマリア達は席についており、のんびりとおしゃべりを楽しんでいた。
「あら、マチュアさんお久しぶりです。最近はカナン商会でもお見かけ出来ないのですが」
綾奈が頭を下げながら話しかけて来ると、疾風もマリアも頭を下げた。
──バーン
「お久しぶりですわ。あれから私達、かなり特訓を積み重ねましたのよ?」
「俺も、騎士団長と五分で行けるレベルにはなったし、戦闘術式にも磨きが掛かった。もう、マチュアさんとは互角に戦えるんじゃないか?」
腕を組んで頷く疾風。
「へぇ。なら、後でお相手をお願いするわ。綾奈も魔法はバッチリ?」
「まだ第二聖典魔法までしか習得していません。ですが、召喚勇者は人の扱える魔法の限界である第五聖典までは覚えられるそうです」
「あ〜。その辺りはジ・アースと同じなのか。カリス・マレスが特別なのかなぁ……」
カリス・マレスとは魔法の形態が違う。
むしろ、エデンの魔法はジ・アースに近いとも言える。
魔道具のレアリティ換算もそう。
違うのは冒険者や商人など、ギルドのランク付けぐらい。
その程度の誤差なら、脳内変換でどうとでもなる。
「……ちょっとマチュアさん、私には聞かないのですか?」
やや膨れっ面でマチュアに食ってかかるマリア。
するとマチュアも思わず笑ってしまう。
「いやいや、これは失礼。マリアの資質ってよくわからないんですよ。マリアは支援型?」
「ええ。慈愛の女神クラスターの加護を還元することができますわ。『癒し』や『凄い癒し』、『状態回復』程度なら、もう完全ですわよ」
「へぇ。蘇生は?」
「それは不可能ですわよ。クラスターの慈悲でも、まだ私にはその力を顕現する徳がありませんわ」
「徳……なのか。そうかぁ……」
腕を組んで考えているマチュア。
──ガチャッ
すると、扉が開き、ジョージ国王とカバネロ宰相、アルク魔導兵長、そしてギルガメッシュ騎士団長がやって来た。
全員が立ち上がって一礼する中、マチュアは相変わらず座ったままのんびりとしている。
「カナン伯爵、陛下の御前である」
慌ててギルガメッシュがマチュアを問い詰めると、マチュアもすぐさま立ち上がり頭を下げた。
「あ、これは失礼。本気で忘れてました」
それにカバネロやアルク、何故かジョージ国王もホッとすると、国王は全員に座るように促した。
「皆、楽にして良い。では、ギルガメッシュ!頼むぞ」
「はっ。ではまずこちらを見ていただこう」
するするするっと地図を広げると、ギルガメッシュはあらかじめ用意してあったらしい駒を配置していく。
南方森林からさらに奥、蛮族国家ガーランドとペルディータ王国の国境沿いに、大量の駒が並べられた。
「このあたりは北方のザナドゥとパルコ・ミラーの傭兵騎士団によって、ガーランドの侵攻が抑えられてきました。ですが、パルコ・ミラーが傭兵騎士団を一時帰国させるという報告がありまして……」
「それに伴い、ザナドゥ単体では国境線を維持できないと踏んだらしく、急ぎペルディータの騎士団が冒険者を派遣せよと連絡がありました」
ギルガメッシュに続いて、カバネロが話を続ける。
「パルコ・ミラーが撤退するのは、後二週間後です。それまでに戦力を整えないとならないので、急遽、召喚勇者であるマリアさん達にも、前線に出て貰いたく……」
「そこで、現在までの皆さんの練度と覚悟を確認したかったのですが、もう戦闘に出る覚悟は出来ていますか?」
最後をジョージ国王が締める。
すると、疾風たちはお互いの顔を見合わせてから、国王に頷いてみせた。
皆、決意を秘めた表情をしている。
「一刻も早く日本に帰りたい。なら、俺達は、俺達のやるべき事をやって帰るだけだ」
「召喚勇者がこれまで歩いてきた軌跡、王城の図書館で調べさせて貰いました。どの勇者も、この国を守るために戦ってきた事も知りました。ならば、私達の出来る事をするだけです」
──バーン
「疾風と綾奈の言うとおりですわ。蛮族からペルディータ南方を取り返し、私達は日本に帰りますわ」
腕を組んで宣言するマリア。
すると、三人はマチュアを見る。
恐らくはマチュアの決意を確認したかったのだろう。
だが、地図を見てマチュアが出した結論は一つ。
「この国の騎士の練度と数がわからない。敵国の戦力も。冒険者で言えばどの程度の実力があるのかしら?盤上の駒ではなく数値で具体的に示してください」
ギルガメッシュに問いかける。
すると、ギルガメッシュも困った顔になっている。
少し考えた後、ギルガメッシュも予め用意してあった書面を取り出した。
「我が国の冒険者と騎士の総数は約2000。平均的な冒険者練度で言えばキャッツアイ。騎士団長の俺がアレキサンドライトだ。ザナドゥの傭兵騎士の平均練度も同等で、総数は500。パルコ・ミラーの傭兵騎士団の練度はアレキサンドライトクラスが半数、残りはキャッツアイで500だ」
予想外に数は多い。
そして練度も悪くない。
だが、この後のギルガメッシュの言葉に、ある意味絶望を感じる。
「ガーランドの兵数は8000、平均練度がキャッツアイとアレキサンドライトが半々程度だ」
二倍以上の兵力と、パルコ・ミラーと同等の練度。
そして更なる絶望が叩きつけられる。
「ガーランドの前線には、召喚勇者の姿も確認されている。数は五人、それ以外には傭兵召喚された魔族も確認できている」
「向こうの召喚勇者の練度は?」
「全員がエメラルド。マリアさんたちはまだアレキサンドライトで、一段階の差がある。マチュアさんは?」
「私は測定時にはアレキサンドライトだったからなぁ。これは詰んだわ」
圧倒的な戦力比。
これにはマリアたちの表情も暗くなっていく。
「そんな所に向かえって、俺達を殺す気なのか?」
「敵の召喚勇者の練度は私達よりも上、そして戦力差が大き過ぎます。これは私達は出たくはないです」
「そうね。疾風と綾奈の言うとおりですわ。私たち三人は、戦闘参加を謹んで辞退します」
もしも隷属の術式がまだ生きていたなら、この様な抵抗は出来なかったのかもしれない。
だが、今はマチュアの力で、隷属の術式は解除されている。
自分の意思で、参加するかどうか決定できる。
この三人の意見には、ジョージ国王もオロオロと慌ててしまう。
「マチュア殿も、やはり戦闘には参加してもらえないのか?」
「ん〜。マリアたちが国で訓練を続けているのを認めるのなら、この一戦は私が出てあげるわよ。だから、三人はしっかりと基礎の訓練をして、ステータスの上限値を上げておいてね」
にこやかに告げるマチュア。
「私たちのステータスは、もう100を超えてますわよ。この世界の平均的なステータスは60前後、私たちは十分に召喚勇者としての資質を持っていますわ」
えっへんと誇り高く宣言するマリア。
だが、マチュアは手を左右に振って一言。
「最低でも200は超えなさい。私の今の平均的なステータスは……まあ、600前後と伝えておくわね」
──ガタッ
この宣言には、ギルガメッシュやカバネロも椅子から落ちそうになる。
「ほ、そんなバカな……そんな数字、見たことも聞いたこともない」
「魔力ならご存知よね?本気の魔力は100万超えますわよ……まあ、この一戦だけは参加して様子を見ますよ。敵の本気も見てみたいし」
すると、ギルガメッシュ達があーだこーだと打ち合わせを始める。
そして、一通りの打ち合わせが終わると、マチュアに頭を下げた。
「ではカナン伯爵、前線に向かって貰えますか?」
「まあ、常在戦場って言葉もあるし。私は常に臨戦態勢、今から向かっても構わないわよ?」
「そ、そこまで早く出ると、隣国との足並みが揃わなくなりますが」
「主導は何処の国よ?ペルディータの召喚勇者が、自国を守る戦いに参戦するだけ。威力偵察も兼ねて行ってくるわよ……じゃあ、三人には特別に良いものあげるから、それを見て勉強していなさいね」
──スッ
空間収納から取り出したのは、カナン魔導連邦異世界ギルド発行の、地球人冒険者の手引書。
それと、冒険者関連施設で学べる技術をスフィア化した『技術のスフィア』を三人それぞれに手渡す。
それを受け取ると、綾奈と疾風は手のひらに乗せたり、室内の明かりにかざして見たりしている。
──シュゥゥッ
すると、マリアが受け取ったスフィアを魔力分解して取り込んでいた。
「あらあら。まだ私の技量では使えない魔術ですわね……でも、これは凄いですわ。知識が頭の中を巡り、魔力となって体内を駆け巡るこの感覚。正に、覚えているって実感出来ますわ」
驚いた表情のマリアだが、それを側で聞いている疾風達の驚きの方が尋常ではない。
「ま、マリア様、これが何かご存知ですか?」
「ええ。従兄弟のお姉さんが異世界大使館に勤務していますから、色々とお話しは聞いてましてよ。マチュアさまの作り出すスフィアシリーズって……」
ん?
従兄弟?
誰だ?
「マリアさんの従兄弟って……十六夜さんかな?」
口調が似ているという理由だけで当てずっぽうに問いかける。
すると、マリアはコクコクと頷いていた。
「ええ。十六夜さんは私の従姉妹にあたりますわ。今はベルナー領の幻影騎士団にも所属していますし、士爵位も持っていますわよ」
「あ〜、それはそれは。マチュアさまがお世話になっています」
笑いながら返答すると、マリアも軽く笑う。
「さ、スフィアの体得方法は私がレクチャーしますから、マチュアさんは前線の様子を見て来てくださりますか?」
「了解。なら、二人のレクチャーもしっかりと頼むわよ。私はまず前線で敵を威圧して来るから」
そう説明すると、マチュアはゆっくりと席を立った。
「それじゃあ、あとは宜しく」
そう告げて一礼すると、マチュアは部屋から出て行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
南方蛮族国家ガーランド。
国家を構成する人間の80%がサベージ族と呼ばれる、人間と亜人種の混血である。
エルフと人間の間に生まれると、普通はハーフエルフとなるのだが、この土地で生まれたものは全てサベージとなる。
人間を超えた体躯とステータスに加え、親の種族が持つ特性も有している。
他の地域の亜人種とは違い、サベージとして生まれた彼らは、人間より上位の存在と自分たちを自負している。
そのガーランドが占拠している、ペルディータの鉱山都市・ガッツギャラル。
国境沿いの山脈の北方に位置しているこの街は、大山脈によって南方蛮族の侵攻を食い止めていた。
だが、長い時間を掛けて作られた街道を用いた戦術により、城塞を持たないガッツギャラルはほんの数週間で陥落したのである。
現在、人口1万程度のこの小都市には、ドワーフやエルフなど、大勢の亜人種が生活している。
この街を統治しているのはガーランドの女貴族であるミルドニア・シンナン。
ダークエルフと人間のサベージである。
やや褐色の肌に銀色の髪、豊満な身体付きと絶え間ない笑顔は、見る者全てに好印象を与えているらしい。
その日も、ガッツギャラルの領主の館には、大勢の人々が出入りしている。
「ミルドさんよ、そろそろ次の街に侵攻しても良いんじゃないか?」
机に着いて書面を眺めているミルドニアに向かって、壁際の長椅子に座っている甲冑姿の男が問いかけている。
彼の横には、同じような甲冑の女性やローブ姿の男女、軽装鎧の少女といった面々が集まっており、のんびりとお茶を飲んでいる所であった。
「あのなぁグライアス。まだこの街の外、20キルラにはペルディータとパルコ・ミラー、ザナドゥの連合騎士団が待機しているわけ。それを突破して次の街に向かう必要が何処にあるというんだい?」
細面のなんとなく美形であるミルドニアが、話しかけていたグライアスという男に、困った顔で返答する。
「この街を手に入れた時みたいにやっちまえば良いんだよ。俺たち召喚勇者と傭兵魔族の力があれば、あの程度の傭兵騎士団なんて恐るるに足らずだろうが」
「グライアスの言う通りよ。私達は選ばれた勇者なんだから」
「グライアス、リン、慢心は禁物。私達は、私達の出来る事をするだけ。とっとと終わらせて私達の世界に帰りたい」
リンと呼ばれた軽装鎧の少女の方を向いて、甲冑姿の女性・ブランネージが嗜めるように呟く。
「あ〜。でもさぁ、暇なのよ。私達はミスリルクラスの冒険者なのに、何でこんな簡単な依頼をチンタラとやらないとならないのよ……レフツとライツもそう思わない?」
正面に座っている、銀髪長髪のエルフの双子にそう問いかける。
だが、二人とも言葉を発する事なく、首を左右に振るだけである。
「今は動けませんよ。ですが、パルコ・ミラーの傭兵騎士団が近々撤収するという密告が届いています。そうなると、貴方達が軽く脅しをかければ、前線はゆっくりと後退していくでしょう。この先にある小さな領地に赴任した新しい領主とは、もう話は付いていますから」
──コトッ
書簡を丸めて棚に戻すと、ミルドニアはもう一度席に着く。
「まったく。敵が動くまでは動かないって言う話でしょう?」
「それが我慢ならないんだがなぁ。俺たちの帰還条件は『ペルディータを占拠し、その領土全てをガーランドのものとするまで尽力する』だろう?」
「それなら、私たちのパーティーだけでどんどんと侵攻しても良いんじゃない?」
グライアスとリンが問いかけるものの、ミルドニアは頭を左右に振る。
「領土侵攻は武力だけの問題ではありませんよ。その地に住まう民の事も考えなくてはなりません。武力で制圧しても、その後の事は考えないと。まだこの都市の民でさえ、ガーランドの法令には従えないと言うものが大半です」
「だったら、逆らう奴らを痛めつけて」
「グライアス、私がそのような方法を求めていないのを忘れましたか?」
キッ、とグライアスを睨みつけるミルドニア。
すると、ガタッと席を立って、グライアスは部屋から出て行こうとする。
「はいはい。散歩でもして頭を冷やしますよ……」
──ガチャッ
扉を開けるグライアス。
すると、他の面々も立ち上がり、グライアスに付いて行く。
「本当に短気なんだから。ミルドさん、グラ公が無礼な事をしてごめんなさいね」
頭を下げてからブランネージが最後に部屋から出ていく。
やがて扉が締められると、ミルドニアもフゥ、とため息を吐いていた。
………
……
…
「ちょっと、グライアス、どこに行く気なのよ?」
ズンズンと街道を北方に向かって歩くグライアスを追いかけて、四人も急ぎ足でついて行く。
「ん?北方だ、街からは出ないから心配するな」
「街道に出るって言うの?そこにはガーランドの騎士が駐留しているから、何かあったら連絡くるのに」
「そんな何もない所行かなくてもいいじゃない。酒場に戻って飲もうよぉ」
ブランネージとリンが止めに入る。
既にレフツとライツは酒場に向かったらしく、その場にはいない。
「俺はな、戦場に出ていないと落ち着かないんだよ。モンスター討伐でも構わない。じっとしているのが嫌いなんだ」
「だったら、駐留騎士の訓練で留めておく事。血迷っても敵陣に単騎で突っ込まない事。いい、約束だからね?」
ブランネージが念入りに告げると、面倒臭そうに手を振るグライアス。
「あ〜わかったわかった。約束はするよ。強敵でも来たら話は違うが、そんな奴がこの国にいないのは聞いているからなぁ」
「でも、この前あった隣町の領主の話を忘れないでね?」
「ペルディータの召喚勇者に真祖級の魔族がいるって言うやつだろう?俺の武器は『魔族殺しの大剣』だぞ?」
「わかってない。だから戦うなって話しているのよ?」
「あ〜わかったわかった。そんじゃあ行ってくるわ」
そう告げて、グライアスはのっしのっしと歩いて行く。
「はぁ。あの脳筋バカ、本当に分かっているのかしら」
「ブランネージ、それは無理だよ。グラ公の頭の中には和解とか平和って言う言葉は無いんだよ?力で相手をねじ伏せる、それがグラ公の生き様なんだから……」
「そのおかげで、私達がどれだけ危険に追い込まれたと思うのよ……はぁ、異世界に来て、少しはマシになったかと思ったのに」
「はっはっは〜。そりゃあ無理だよ。魚に陸を歩けって言っているようなものじゃない」
そんな馬鹿話をしながら、二人は繁華街へと歩いて行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ここが、中継都市のコルドサーチか……」
王城を出て、地図を頼りに街道を通って来たマチュア。
のんびりと箒で飛んで来て、三日目には目標地点である国境沿いのガッツギャラル手前のコルドサーチへとやって来た。
正門での手続きを待つ商人や冒険者がずらりと列を成しており、マチュアもその後ろに並ぶと、箒を拡張バッグに放り込んだ。
「魔族の旅人とは珍しいねぇ。お嬢さんは旅人かい?」
「うちらは交易でここに来たんだよ。もし武具が欲しかったら、露店まで来てくれな?」
マチュアの前に並んでいた、商人らしい二人連れが話しかけて来た。
なので、マチュアも軽く頭を下げる。
「ここには仕事でね。あまり長居はしないと思うけど、時間が取れたら露店には顔を出しますね」
「仕事かぁ。魔族で仕事しているなんて、珍しいなぁ」
「戦闘魔族ではなくて?」
「そ。契約召喚された訳じゃないからなぁ」
そう告げると、本当に珍しいものを見たという感じでマチュアを見る二人。
そのあとは持ち込んだ武器の話などをしながら、のんびりと順番を待つ。
やがてマチュアの順番になると、門番が笑いながら一言。
「魔族の通行は、金貨一枚かかるんだが。それと滞在税で、一日金貨一枚。ここで支払わないと街には入らないぜ」
──ニヤニヤ
にやけながらマチュアに告げるので、身分証を取り出して提示する。
「伯爵位以上のものは、全ての都市の通行税は免除される筈だよな?滞在税なんて聞いたこともないぞ、ちょっと街の責任者にツラ貸せって話して来いや‼︎あんた達が勝手にやっているんなら、頭を下げるなら許してやるが」
そう告げて見ると、門番の顔色がサーッと青くなる。
すぐさま直立不動になると、深々と頭を下げた。
「カナン伯爵様でしたか。ささ、どうぞお通りください。爵位を持つ方からは通行税は頂く事が出来ません」
「へぇ、滞在税は?」
「それも結構でございます。魔族の滞在税は、新しく領主となったベルデイット子爵様の命令でして……」
「私が払う必要は?」
「伯爵位以上の方は、免税法がありますので支払う義務はございません。さあ、どうぞお通りください」
スッ、と下がる門番。
ならばと、マチュアも堂々と門をくぐって行った。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






