ラグナの章・その3 チートスキルが発動しています
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幻影騎士団の設立、そして士爵の叙任と、色々な事が起き過ぎた日の夜。
食事を終えて日課であるストレッチと自重トレーニングを終えたストームと、明日の仕込みを終えたマチュアが、二人で中庭に座って何か話している所である。
「さて。ここまで色々とあったようだが、ちょっと詳しく聞かせてくれ」
「そうだねー。取り敢えず、私にあった出来事というのがねー」
辺境都市カナンで有ったことから、今までの出来事を端的に説明するマチュア。
ストームも、辺境都市サムソンで鍛冶師になったことから始めて、今に至る経緯を説明する。
「成程ね。で、魂の修練はこれが初めてと」
「そうだな。まあ、色々とあったし。冒険者としての登録も終えているからな。シルバークラスだからBだ。マチュアも同じか?」
と、冒険者ギルド発行のシルバーカードを取り出してマチュアに見せた。
「ほほう‥‥ちょっと失礼【GPS鑑定】っと」
――ブゥゥゥゥン
ストームのカードを鑑定する。案の定SSSクラスの【ミスリルカード】である。
「あ、ストーム、それシルバーじゃないよ。それミスリル。ランクはBじゃなくてSSSクラスね」
――ビクッ
とストームの眉が動く。
「何‥‥だと?」
「ていうか、鑑定していないのかよ」
「していないわっ!! なんで其処を疑ったんだよ。だいたいマチュアはいつも‥‥」
とブツブツと言い始めるストーム。
「まあまあ、それでだ。今まで二人バラバラで動いたことで、色々とコマンドの使い方が判ってきたと思う。それをお互いに擦り合わせたいと思うのだけど」
「擦り合わせといったって。特におかしな事していないぞ」
と告げて、ストームはふと考える。
「『装備袋』にバックパックとかも仕舞い込めるのは知っているか?」
「何それ? そんな事出来るの?」
とマチュアが問い掛けると、いきなりストームはそれを実践した。
――ヒュンッ
「ふぁ〜、なんですかそれは。今までどこに行くのも後生大事にバックパックを背負っていたのに‥‥」
「まあ、バックパックも装備の一つだし」
「普通装備といえば武器とか防具じゃないの?_」
その意見の相違が、マチュアの誤解を生んでいたようだ。
「さて、それじゃあ、後は。クラスのリンクは?」
「え? 出来るの?」
キョトンとした表情で問い掛けるマチュア。
「全く。俺を鑑定してみろ」
と頭を抱えているストームを鑑定するマチュア。
「ふむ。メインが侍でサブが生産者と聖騎士‥‥ずるいわ、それ」
「ていうか、これはあのゲームの元々のシステムだろうが」
と言われて、ポン、と手を叩く。
「そう言えばそうだな。それじゃあ‥‥」
とマチュアもクラスのリンクを設定する。
メインを『修練拳術士』に、サブには『高位司祭』と『生産者』を設定する。
「あ、出来るじゃん‥‥普段は修練拳術士と高位司祭と生産者と。おや、忍者が点灯しているなぁ」
とマチュアの忍者のクラスが点灯しているのに、今気がついた。
「え? マチュア、普段ステータスウィンドゥ確認していなかったのか?」
「意思でクラスチェンジしていたし、リンク出来るなんて知らなかったから確認もしていなかったよ‥‥という事は」
ここでマチュアがウィンドゥを開く。
ポチポチとコマンドをタッチしていく。
やっていることは『アバター』と『クラス』のリンクである。
「ストーム、これはストームでも出来ないよね?」
と、マチュアはいきなり『エンジ』のアバターを起動。
――シュンッ
と外見が、忍者の姿をした14歳の少女に変化した。
「うわっ!! と、エンジか。外見アバターも変化できるのか」
驚きつつマチュアを見る。
そしてスッと覆面を外すマチュア。
その中は14歳の少女・エンジである。
「そ。これは偶然見つけたんだ。コマンドのこれとこれを」
「ほほう。これとこれを‥‥あ、あるわ」
といきなりストームも設定されている外見に変化させる。
年にして12歳といった感じの、白いローブを着た色白の少女である。
頭にちょこんと二つの角の形をしたアクセサリーを付けている。
「おおう。その外見は『ホッポ』か。クラスのリンクは?」
とストームに問い掛ける。
どうやら外見を変えると、リンクできるクラスは二つまでらしい。
「ホッポだと、精霊魔術師と僧侶? いつの間にか僧侶あるぞ」
とストームでも気付かなかった事実が見える。
「昨日まではなかったし、特に今日変わったことは‥‥」
と呟くと、二人同時に顔を見合わせる。
「「『魂の護符』の色が変わったからか」」
その通り。
そのまま暫くは色々とすりあわせていく。
同じ生産者でも、ストームは鍛冶師に特化している。
他のものが出来ない訳ではなく、GMレベルではないもののMSレベルでは十分いけるようだ。
マチュアも調理師特化だけど、裁縫師という衣服を作る技術にも長けている等、二人合わせると大体なんとかなるようになっていた。
「あー。神様が二つに分けたっていうのは、こういう事かぁ」
「大体は理解した。ところでマチュア、さっき高位司祭っていったか?」
と問い掛けるストーム。
「言ったけど。どして?」
「腕の接合とかも可能か?」
「接合どころか再生までいけまっせ。その気になれば死者の蘇生もできるよ。範囲型は魔力使うからやりたくないけど、多分一度に10人ぐらいはいけると思うが」
アッチャーと頭を抱えるストーム。
「そ、そうか。いいか、この世界で死んだ人間の蘇生ができるのは、今日会った『白の導師パルテノ』だけらしい」
「おおっと、それじゃあ緊急時以外は使えないか。まあ蘇生じゃなくて、回復が間に合ったという感じで使えば問題ないと」
「そうしてくれ。後、つかぬことを聞くが、肉体がもうない死者の、魂からの蘇生は可能か?」
「うーん、ちょいと待っておくれ‥‥」
しばし自分のできるクラスとスキルの確認を始めるマチュア。
「髪の毛一本でもあれば、そこから肉体を組成できる。そこに魂を下ろすから、不可能ではないが。私は多分『魔障酔い』を起こして当分何も出来なくなるみたい。どっちかだけならそうでもないけれど、これは二つのスキルをリンクしないと出来ないからねぇ」
そうか。
とストームは納得した。
「さて、大体こんな感じかな?」
「そうだねぇ。後は、最後に一つやっておきますか」
とマチュアは『モードチェンジ・魔術師』を起動。
そのまま長い詠唱を開始する。
先程の質問のときに調べていた時、偶然見つけた魔術師のスキルである。
――ブゥゥゥゥゥン
と、手元に『銀色の旗』を作り出す。
「それは一体?」
と問い掛ける目ストームに、マチュアがニィッっと笑う。
「これか? これはこうするのさっ」
――プスッ
と中庭の真ん中に旗を指す。
と、旗が白く輝き、やがて小さな祭壇の形に変化したのである。
「これは『転移の祭壇』だよ。これと同じものを別の場所に設置しておけば、祭壇と祭壇の間は転移が可能になるっていうスグレモノね。元々の『魔術師』の転移魔法と、高位司祭の『聖域』、それに『GPSコマンド』をダイレクトリンクしただけ」
簡単に説明しているが、マチュア以外では作り出せないということは分かった。
「て、もう一つの祭壇は?」
「あ、今作ってくるわ」
そう呟くと同時に、マチュアの足元に魔法陣が形成された。
「ストーム様、紅茶をお持ちしました‥‥が‥‥」
――ヒュンッ
とシャーリィが気を利かせてティーセットを持ってきた時に、マチュアがスッと消えた。
「す、ストームさま? マチュア様は‥‥今、ここにいたような」
「まあ、彼奴の魔法は特注だ。他では出来ない事も」
――ヒュンッ!!
「ただーいまーっと、無事に祭壇をセットして」
――ガキィッ!!
突然姿を表したマチュアの頭に向かって、アイアンクローを仕掛けるストーム。
「ヘ、ヘルプ!!」
「全く。タイミング悪いわ!!」
とアイアンクローを解く。
「おや、シャーリーさんでしたっけ。紅茶のいい香りですね」
とマチュアが努めて冷静に呟く。
「あの、マチュアさん今姿を消したような」
「ああ、魔術師の転移の魔法ですよ。詳しくは内緒で」
と人差し指を立てて口元に添えるマチュア。
「という事でだ。ストーム、その祭壇とカナンの郊外にもう一つ祭壇を設置してきた。これでカナンとラグナは繋がったが」
「それ、俺も使えるのか?」
というストームのツッコミに対して。
「一定量の魔力を注げば、誰でも使える。注げればの話だ
がな。クックックッ」
と、悪い笑いをするマチュア。
「あー成程な。どれ、試してみるか」
とストームが祭壇に手をかざす。
――ホワワワワァッ
とストームが光り輝き、すっと消えた。
「ス、ストーム様!! マチュア様、ストーム様はどこに?」
と大慌てで問い掛けるシャーリィ。
仕えている主人が突然消えたらびっくりするのは自明の理。
――ホワワワワァッ
と再び祭壇の手前が光り輝くと、ストームが現れる。
「という事。理解したか?」
「ああ、魔法については信じるわ。どうしてこういう組み立て方が出来る事やら。これ、サムソンの俺の家に作れるか?」
「行ければな。ちょっとストーム、家の周囲の風景を思い出してくれ」
とストームの額に手を当てる。
「こういう感じか」
「了解。ストームのGPSコマンドと転移魔法をリンクして、行って来る!!」
――シュンッ!!
と、再びマチュアの姿が消えた。
そして3分後に、マチュアが戻ってくる。
「家の裏庭に祭壇を設置して来た。これでカナンとサムソン、ラグナは繋がったが」
と告げるマチュアに、ストームは右手親指を立ててみせる。
「いいね」
「よし‥‥ちなみに祭壇の無い所からは転移できないからね。私は出来るけど」
ドヤァという表情で説明するマチュアに、シャーリィがそっと問いかける。
「転移の魔法は、今は失われている『消失魔法』の一つです。それを使えるなんて、賢者以外には‥‥」
「あ、私魔術師だし」
「魔術師って、それ程強い魔法は使えないのですよ。何でマチュアさんはそれ程迄に強力な‥‥まさか、先導者なのですか?」
と恐る恐る問い掛ける。
「なに? 先導者って」
「ああ、そういうクラスらしい。この世界で15人いるか居ないかの希少な冒険者クラスらしい」
とストームが説明するが。
「へぇー。私はトリックスターだよ」
――ブッ
とストームとシャーリィが同時に紅茶を吹く。
「マジか。何でも出来るけど何も出来ないっていう‥‥あーそっか、モードチェンジか」
「そ。で、先導者って?」
「俺のクラスだ。何でも出来る才覚を持っていて、人々に教える事の出来るスキルらしい」
「そっちもモードチェンジか」
「うむ。大体納得したわ。マチュアがそれなのは笑うが、どうしてマチュアは先導者じゃないんだろう?」
と二人で頭を捻る。
「さあて。取り敢えずは今のままでいいよ。と、紅茶ごちそうさま、明日も早いからそろそろ寝るね」
と告げて、マチュアは寝室へ。
ストームも後片付けをシャーリィに託して、体をゆっくりと休める事にした。
○ ○ ○ ○ ○
翌日。
早朝のトレーニングの後、マチュアとストームは食事を摂る。
今日は朝からシルヴィーも大武道大会の貴賓席へと向かうらしい。
スコットがシルヴィーの護衛を務めるらしく、ストームに作ってもらった鎧と楯、そしてロングソードを装備している。
会場である闘技場に辿り着くと受付も無事に終え、マチュア達はそのまま控室へと向かう。
ストームの付き人はシャーリィが努め、ウォルフラムの付き人はアンジェラが付く事になった。
そしてマチュアは付き人無しでの参戦となる。
幸いなことに控室は10人で一つ与えられているらしく、ストーム、マチュア、ウォルフラムも一緒であった。
「マチュア様は本当にいいのですか? シルヴィー様にお願いして教会から治療師を派遣してもらうことも出来るのですよ?」
というシャーリィに対して。
「あ、大丈夫、自力でいけるから」
とだけ告げた。
「それじゃあそろそろ準備しますか」
とウォルフラムが装備を着け始めた時、ストームも『換装』を発動させてギリシア風のヒマティオンというゆったりとした衣服にベルト一本という装備に切り替えた。
そしてマチュアも、『換装』で暗黒騎士にチェンジしたのである。
黒龍王の鎧、破邪のマント、太陽剣ヘリオスetc‥‥暗黒騎士としてはまあ、そこそこにはいい装備である。
当然、マチュアもストームも本気ではない。
「しかし、先導者とトリックスターのスキルっていうのは大したものだなぁ。一瞬で装備を付け替え出来るなんて」
と周囲に聞こえないようにウォルフラムが告げた。
「内緒な」
「そそ」
と告げてはいるものの、他の参加者はマチュアたちの装備に目が釘づけになっていた。
「何だあの鎧、それにあの両手剣も‥‥」
「あの男は装備も何もつけていないぞ。一体どういう事だ?」
と騒めく控室をよそに、マチュア達は努めて冷静であった。
「まあ、久しぶりに暴れられるし。いい所までいければいいや」
「おいおい。シルヴィーに頼まれているだろう? 優勝しろ」
とマチュアに突っ込むストーム。
――ゴォォォォォォォォォン、ゴォォォォォォォン
やがて大会の開始を告げる大鐘が鳴り響いた。
そして会場に選手を誘導する従者が入ってくると、その場にいる選手を案内していった。
○ ○ ○ ○ ○
「選手の入場でぇぇぇぇぇぇぇす!!」
闘技場全体に、解説の声が響き渡る。
今回の大会では、吟遊詩人が試合の解説を行ってくれるらしい。
風の精霊魔法によって、闘技場には解説の声が響き渡るようになっているらしい。
「あの伝説の鬼殺しがやってきた!! 更なる研鑚を積んだ武器のスペシャリストが甦った!!! 東洋の武神!! 斑目だァ――――!!!
と、着物に刀にという出で立ちの侍が静かに入場する。
左目には眼帯を着け、ユラーリと入場する。
「レオン流剣術はすでにこの男が完成している!! 幻影騎士団所属、ウォルフラムだァ――――!!!」
いきなり二番手に登場したのは、ご存知、幻影騎士団のウォルフラムである。
試合慣れしているのか、軽く手を振りながらの入場だった。
「あー、あれは大会慣れしているな」
「そーみたいだねー。でも、次の選手はストーム好みだよ」
「大陸南部よりやってきた、組み技ならば誰にも負けない。ドゥアラー騎士団よりロジャーだァッ!!!」
武神セルジオを彷彿させる筋肉美。
大歓声の中でロジャーが入場する。
「あれはマチュアといい勝負か?」
とストームが告げた方角を、マチュアは静かに見る。
「拳闘士からの挑戦だっ。素手の殴り合いならやつの拳がものを言う!! ラグナ闘技場のチャンプ、 ジャガーマン!!!だっ」
上半身裸で皮のズボン一枚。
拳には革布をまいている、ジャガーマンと呼ばれてる豹の獣人である。
さらに次々と入場行進は続いた。
参加者は全部で32名。
マチュアとストームの入場は、無名の選手は後回しだったらしく最後の方になっていたようだ。
「冥土の土産にスミスハンマーとはよく言ったもの!! 鍛冶師の奥義が今 実戦で爆発する!! 幻影騎士団・ストームだ―――!!! 」
(おいおい。誰だよこの煽り文句考えたやつは‥‥)
と苦笑いしつつストームも入場する。
「闘いたいからここまで来たッ 流石はトリックスター、キャリア全くなし。幻影騎士団のアームレスラーマチュアだ!!!」
(そこかーい。キャリアなしってなんだよーーー)
とツッコミを入れながらのマチュアの入場である。
「伝説の勇者が帰ってきたッ どこへ行っていたンだッ 勇者ラグナの末裔にして召喚された勇者ッッッッ 俺達は君を待っていたッッッラグナの登場だ――――――――ッ」
最後に登場したのは、まだ13歳ほどの少年である。
名前はラグナ、マクドガル辺境国からの出場である。
そして、大会の責任者を務めるブリュンヒルデが、貴賓席の前にある巨大なベランダに立つ。
「これより、竜王祭・大武道大会の開催を宣言する!!」
――ドワァァァァァァァァァァァン
巨大な銅鑼が鳴り響き、いよいよ大会が開始されるのであった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






