エデンの章・その4・カナン商会の準備のために
カナン商会の準備は明日。
宿でのんびりと食事を取っていると、昨日会った商人達がマチュアの元にやって来た。
皆一様に、ニコニコと笑いながらマチュアの席までやって来ると、代表者らしいマルイさんが開口一番で話を始めた。
「昨晩はありがとうございます。実はお願いがありまして。今、お話よろしいですか?」
幸いなことに、まだ食事は出来ていない。
待っている間は暇なので、話ぐらいなら聞きましょ。
「ええ、構いませんよ。どのようなお話で?」
「先日売っていただいたマヨネズとマスタード、醤油を、私たちの商業組合と専属契約していただきたいのですよ」
にこやかに話してきたのはそういう事か。
なら、もう少し細かい話を聞きたい。
「商業組合とはなんですか?」
「商人の組合ですね。この街では、商売をしている商人達が集まって、組合を作るのが慣例でして・・・・」
「商人ギルドや商会ギルドではなく?」
「ええ。私達商人は、それぞれの取引品目がある程度定められておりまして。それを補う為に、さまざまな品目を取り扱う商人達が集まって、お互いの利益を守るというのが目的です」
ふむふむ。
中々に興味深い話であるが、すでに時遅し。
先日の時点で、マチュアはもう商会ギルドに登録は完了している。
「あ、それはお断りします。私は単独で商売をすることにしましたので」
そう告げると、マルイ氏がマチュアに一言。
「ですが、この国での食品を取り扱う為のギルド登録は定数が決まっていまして。残念ですが、マチュアさんがマヨネズを販売する為には、何か新しい項目でギルドに登録して、私達の組合に入るしかないのですが」
ほほう。
そうかましてきましたか。
でも、マチュアはあっさりと、次の手を打つ。
「マルイさん、ちょっと良いですか?」
スッと立ち上がって、マルイを呼ぶと、二人だけで店の隅に移動する。
「皆さんに聞かれるとまずい事でも?」
「ええ。実はですね・・・・」
──スッ
あらかじめ魂とリンクしておいた、商業ギルドのプレートを差し出す。
「おや、既に登録済みでしたか。それで、どのような・・・・え?」
「どうも。エメラルドランク商会の一つ、カナン商会代表のマチュアです。全ての商品も取り扱い出来ますが、これがあっても、商人組合に入らないと問題があるの?」
「こ、これは。ペルディータでも四つしかないエメラルド商会でしたか・・・・いえ、そもそも私達組合は、商会に対抗する為に作られた協同組合です・・・・では、カナン商会でしたか、先日の商品もそちらで独占販売するのですね?」
少しがっかりとした顔になったので、マチュアは頭を振る。
「別に、必要なら昨日と同じ値段で卸してあげるわよ。売値の上限を設定してくれて、それ以上では売らないって約束してくれるなら」
「上限?下限ではなく?」
「私はあの商品を幾らでも作れるし、その気になれば安く売れますけれど。あのような珍しい調味料や香辛料などは好事家が目をつけると、金に糸目はつけずに買い込むでしょ? そこで欲目を出さないように・・・・仕入れ値以下で売る事は無いでしょうから、そこは任せるけど?」
「・・・・私一人ではどうにも。皆さんと相談して宜しいですか?」
「どうぞどうぞ。では・・・・」
ちょうど料理もやって来たらしい。
焼いた腸詰めと川魚の塩焼き、茹でた野菜とパン。
ならばと、今日はガーリックバターと粒マスタード、カレーペーストを取り出す。
これを小皿に取り分けると、のんびりと食事を楽しんだ。
そして。
「・・・・食事中、宜しいですか?」
話し合いを終えてマルイがやって来た。
「立ち話もなんですから、そこにどうぞ。料理は自分持ちで注文するのでしたら、これも味わって構いませんよ?」
三つの壺を並べて進める。
すると、マルイも腸詰めと温野菜を注文する。
それに合わせて、他の商会の人々も席に着くと、自己紹介を始めた。
「改めて自己紹介します。食料品を取り扱っているマルイ・イマーイです。ランクはアクアマリンです」
先日もお話したマルイさん。
丸々とした、恰幅のいい紳士である。
「ケビン・トライモア。燃料店だ。代々パールランクで商いをしている」
モノクルをつけた初老の紳士。
切れ長の細い瞳が、なかなかの切れ者感をかもし出している。
「レオン・ライナー。日用雑貨を扱っています。オパールです」
今度は獅子族獣人の男性。
立派な鬣を持つ、いかにも獣人という雰囲気の、ワイルドな男性である。
「妾はナナ・ナナツボシと申す。アクセサリー全般を扱っておる、階位はアクアマリンじゃ」
華麗な和装の女性、年の頃なら20歳中盤という所だろう。
何処か、平安貴族のような雰囲気を醸している。
今日は、この四名が交渉に来ていたらしい。
全員が席に着くと、それぞれも料理を注文する。
「本日は参加していませんが、私達以外にも大体20程の商人が、商業組合に登録しています」
「妾たちとしては、現在、このペルディータの商業の大半を牛耳ってある『クルセイド商会』の横暴をどうにかしたいのじゃ・・・・だが、相手はエメラルドランク、資本力が違いすぎる」
「そこでだ、昨日のマチュアさんの持っていた壺、あの調味料を使って起死回生を狙っていたんだがなぁ・・・・」
ケビンとナナツボシ、レオンがそう呟くのだが。
「成程ねぇ。まあ、そのクルセイド商会のやり方はどんな感じで?」
「まず、大抵の商品などは、大市場でセリにかけられる。そこで等級の高い商品は大抵クルセイド商会が競り落とすので、我々の元には二等級以下、運が良くても一等級の商品しかやってこない。特級の商品なんて夢また夢の世界ですよ」
「それでも、われわれの顧客の大半は一般市民、贅沢さえ言わなければそれほど問題はないのだが、クルセイド商会の取引先の殆どが貴族、特級品を販売出来るという事もあって、それらを元手に色々な面で融通して貰っているらしいのです」
淡々と説明してくれるケビン。
それに続いてマルイとナナツボシも話を進める。
「武具関係ならシルバーブリッツ商会、食料品ならキノクニヤ商会。そして、マジックアイテムのグレートモルデン商会。これにクルセイド商会が加わって、ペルディータの四大商会となります」
「そこで、マチュアさんの・・・・ええっと、カナン商会であったか?そなたの商会では何を専門にするのじゃ?」
そうねえ。
「得意分野は調味料とマジックアイテム。特にマジックアイテムなら、どんなものでも作れますから・・・・後、こういうのは高いのですか?」
──コトッ
黒胡椒と塩の入った壺を取り出して見せる。
これには、集まっている全員が驚いている。
「まさか、ここまでしっかりとした味の胡椒があるとは思いませんでした。クルセイド商会の胡椒でも、ここまでのものはありません」
「ええ。まあ、仕事の話はこれぐらいで、後はのんびりと食事でも楽しみましょうよ」
そのマチュアの提案で、各々が注文した料理に、マチュアの取り出した調味料で味付けを楽しむ。
そして日も暮れてくると、また部屋に戻ってのんびりと過ごす事にした。
・・・・・・
・・・・
・・
──ピッピッ
深夜。
部屋に仕掛けてあった警備保障に反応が出る。
(・・・・泥棒?)
ゆっくりと目を覚ますと、ちょうど窓から室内に侵入する二人組の人物の姿が見えた。
「・・・・」
無言のまま、ベッドから起き上がったマチュアに向かって、ナイフを構えて走りこんでくる。
──シュシュンッ
鋭い突き。
窓の外から差し込む月明かり以外は光のない暗闇で、しっかりとマチュアを攻撃出来るのは大したものであるが。
──ガシガシッ
『魔神の力』と命名した、魔力による肉体部位構成。
透き通った、巨大な魔神の腕でその突きを受けきると、シーツを蹴り上げて襲撃者の一人に被せた。
「魔力の鎖っ‼︎」
すかさずシーツごと襲撃者を鎖で固定すると、更に攻勢防壁の結界に取り込む。
これで一人は完了。
すると、もう一人が窓から飛び降りて逃げようとしたので、魔神の腕を伸ばしてムンズと捕まえる。
「クッ・・・・」
必死にもがく襲撃者だが、全く身動きが取れないのを確認すると、力一杯舌を噛み切った‼︎
──ブヒュッ
「こ、この阿呆が‼︎」
襲撃者を近くまで引き寄せると、マチュアはすぐさま魔法で舌の再生、そして怪我の治療を行う。
意識は失っていたので、そのまま猿轡を噛ませると、拘束術式で身動きが取れなくする。
その襲撃者も結界の中に放り込むと、マチュアはシーツを破って出てきた襲撃者に一言。
「舌を噛み切って死んでも蘇生する。毒を飲んで死んでも解毒して蘇生する。貴方達の助かる道は、雇い主を明かす事。そうしたら、ここから逃がしてあげる」
──ニイッ
笑いながら問いかけると、襲撃者も観念したのか頷いている。
「・・・・ディビット・クルセイダル。クルセイド商会の主人です・・・・」
「本当?魔法で嘘か本当か調べてもいい?」
「・・・・キノクニヤ商会です。ブンザエモン・ブラッドリー・キノクニヤ。貴方を殺して、荷物を全て奪えと」
「まあ、そんな所だよね・・・・」
──パチン
指を鳴らして結界を解く。
すると、侵入者は窓辺に飛び退る。
「・・・・」
無言のままマチュアに振り向くと、軽く頭を下げる。
「もし出来るなら、カナン商会には手を出すなと伝えてくれる?どんな襲撃者でも、一撃で仕留められる自信があるので・・・・」
そのマチュアの言葉に返事はない。
すぐさま窓から飛び出すと、スッと消えていった。
「・・・・しかし、今日の夜ですぐに襲撃とは、なかなかやりますなぁ」
思わず感心してしまう。
ここまで仕事が早いとは、マチュアも思っていなかった。
それでも一日に二回の襲撃はないだろうと考えて、マチュアはゆっくりと眠りについた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌朝。
朝一番で食事を終えると、マチュアは箒に乗ってカナン商会へと向かう事にした。
朝一番の美味しい空気。
それを胸いっぱいに吸い込むと、街道をゆっくりと飛んでいて・・・・。
「あら、マチュアさんではありませんか。お早うございます」
「あ、おはようございます。朝から忙しそうですね?」
主要街道を歩いている皇と衣波が、のんびりと飛んできたマチュアに話しかける。
──フワッ
その場にホバリングして浮かんだまま、マチュアも二人に頭を下げる。
「おや、おはようさん。散歩?」
「ええ。少しでもこの国や街の事を知りたくて。マチュアさんは馴染んでるようですね」
「それに、これは魔法の箒ですか。映画のポッタァ君みたいで格好いいですね?」
「まあ・・・・異世界転移も三回目になると、勝手知ったるなんとやらだよ。早く元の世界に戻りたいけど、すぐには無理だからなぁ」
そう呟くと、二人ともへぇ、と驚いている。
なので、取り敢えず話を戻す事にする。
「王城の生活はどう?」
「もう大変ですわ。衣食住が全く違うので、立花さんなんて、今日は体調が優れないとかで、部屋で休んでますわ」
へえ。
まあ、そんなことだろうと思ったので。
──ガサゴソ
空間収納からバスケットを取り出すと、ウォルトコのマフィンと缶コーラを取り出して詰め込み、皇に手渡す。
「ほら、差し入れ。これでも食べて元気付けなさいって」
「ありがとうございます・・・・って、これ、日本のものじゃないですか?」
「しかも、このマフィン・・・・ウォルトコのやつですよね?どうしたんですか?」
バスケットの中身を見て、大慌てでマチュアに問いかける二人。
「へ?持って来ていただけだし。しかし、君達の世界にもウォルトコはあるんだ」
「ええ。ウォルトコは普通ですよね?」
「良く買い物に行きますよ。少し前には、珍しい人も見かけましたし」
「へえ、有名人?」
──カシュッ
缶コーラを開けて一口飲むマチュア。
すると、皇がクスクスと笑いながら。
「マチュアさんと同じ名前の方がいまして。私たちの世界には、カリス・マレスという異世界と国交が結ばれているのですよ」
「ほら、これがその証拠。魂の護符っていうんですよ・・・・あれ、マチュアさん?」
その二人の言葉、そして衣波の取り出した魂の護符を見て、マチュアは思わず絶句する。
こんなに近くに・・・・元の世界に帰る為のヒントがいた。
「へ、へぇ。そうなんだ。なら、早く帰りたいよね?」
「そうですね。まあ、この世界を救ってから帰るとしますよ。帰還方法は今はないけれど、送還の魔法陣に魔力が溜まると帰れると話してましたから」
なんと。
それは初耳である。
「その送還の魔法陣に魔力が溜まるのはいつ頃?」
「王城の魔術師の方の話では、最低でも一年後だそうです。 ですから、それまではこの世界の事を色々と調べて、手伝える限りは手伝いたいのですよ」
「そうすれば、そのうち帰る事もあるでしょうから」
なら、これに乗らない手はない。
「もし帰ることがあったら、私も一緒について行きたいわ。その時は同行しても問題ないかしら?」
「それは問題ないですわ。魔術師の方も、四人まとめて送り返してあげたいと話してましたから」
「よしよし。なら、良い情報を貰えたお礼に、良いものをあげよう」
──スルッ
取り出したる魔法の箒二本と空飛ぶ絨毯。
オーナー権限はつけないでフリー設定すると、それを二人に手渡す。
「こ、これはマジックアイテムですよね?宜しいのですか?」
「こんなに高価なものをくれるなんて」
「あ、気にしなくて良いわよ。こんなのすぐ作れるから。後、この収納バッグも一つあげるから、無くさないように気を付けてね」
手渡された収納バッグに箒と絨毯をしまうと、二人ともオオオッと驚いている。
更にバスケットをしまうと、マチュアに深々と頭を下げた。
「管理はしっかりと。それ、日本円だと一つ五億円ぐらいで取引されるらしいから、地球に戻ったら、異世界大使館に行って登録も忘れずにね?」
そう告げると、二人ともポカーンとしている。
「マチュアさん、どうして異世界大使館の事を知っているのですか?」
「日本円とか、ウォルトコとかも・・・・」
──チラッチラッ
軽く取り出す魂の護符。
それをチラチラとちらつかせて一言。
「私はカリス・マレスからの転移者だからねぇ。まあ、魔族なんだけど、同じ名前のよしみで登録したこともあるし、日本にもこっそり行ったことがあるのよ」
「そ、そうなんですか‼︎」
「そうよ。なので、もし困った事があったら、この先の商業区に私の商会があるから、いつでもいらっしゃい。地球とカリス・マレスの料理も作れるから」
そう説明してから、ヒラヒラと手を振って、マチュアはカナン商会へと飛んで行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
暗い室内。
その中にある、三つの魔法陣の前で、マチュアは最後の調整を行なっていた。
「さてと。まず店の管理代行。執事のおじ様、名前は・・・・セバスチャンで登録・・・・はい起動して」
マチュアの言葉で命が目覚める。
そしてゆっくりと立ち上がると、マチュアが用意しておいた黒いスーツを身につける。
「さて、マチュア様の事はどう呼べば?」
「そのままで構わないわよ。やる事は、この店の準備と責任者代行。管理の全て・・・・」
「ハッハッ。中々忙しいお仕事ですなぁ」
「そういう事。後二人も起動するから、それまで待っててね」
そう話していると、隣の魔法陣の中で眠っている少女タイプのゴーレムも命を吹き込む。
「名前・・・・コトヒメで登録・・・・はい起きろ‼︎」
「ひゃあ、コトヒメという名前ですか、わらわは、のじゃロリ姫で?」
「それで良いよ。君は店員さん兼戦闘要員でよろしく」
「うむ、了解じゃ」
「後一人・・・・商会の顔だな」
最後の一人は淑女。
カナン商会の統括代行をお願いする女性。
すぐさま命を吹き込むと、名前をどうするか考える。
「ならば・・・・アナスタシア。さあ、起きなさい」
「あら。なかなか良い名前ですわね。私はカナン商会の統括代行ですね?」
「そ。ジェイクみたいな立場。これが服で、こっちが下着で・・・・必要な道具は全て空間収納から使ってよし。店のイメージは知識のスフィアから引っ張って、それじゃあ準備をお願いしますね」
「畏まりました。では、私は建築ギルドで二階の改装の手続きを行ってきますので、セバスチャンとコトヒメは一階から掃除をお願いしますわ」
そう指示をして、アナスタシアは外に出かける。
残ったセバスとコトヒメは、早速掃除を開始したので、マチュアは商店街で買い物・・・・に行く前に。
──ブゥゥゥン
「深淵の書庫、成分解析を開始・・・・この世界で代用可能な材料もピックアップして」
そう入力したのち、深淵の書庫の中に各種缶ジュースやマフィンなどの食料品を放り込む。
「これで良し。この封じられた世界なら、好き放題やらせて貰える・・・・と言うか、色々と実験させて貰うわ」
後は放置の方向で、マチュアは店内に必要な物品を購入する為に、商店街へと走り出した。
・・・・・・
・・・・
・・
──ヒュゥゥゥンッ
空飛ぶ絨毯に乗り、街道を飛んで行く。
行き交う馬や馬車、大勢の人々がマチュアを見て驚いている。
「それにしても、知識が欲しい。書庫、もしくは図書館の知識・・・・一般常識がまだ少ないので、どうしたものか・・・・」
そう考えながらも、大勢の人が行き交う商店街にやってきた。
まずは食料品の買い出しから。
絨毯は路肩に寄せてから、浮かべたままロックする。
そして、絨毯から飛び降りて店に入って行く。
この絨毯は地球での販売用に作ったもので、安全灯や耐衝撃魔法、その他の安全設備は付与されている。
その中の一つが、この浮遊状態のロック。
ちゃんと前後にパーキングランプが付くなどのこだわりようである。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「まあ、食べ物を買いに来たんだけど・・・・まあ、いいか。ここにあるもの全て、半分ずつください」
「は、半分ずつ‼︎少々お待ちください」
店員が慌てて奥に走って行くと、恰幅のいいおかみさんが出て来た。
「いらっしゃい。全て半分ずつって本当かい?魔族はこういう食料品は食べないんじゃなかったかしら?」
「いえいえ、料理に使いたいのですよ。それで、どんな食材があるのか興味がありまして。だいたい値段はどれぐらいですか?」
そう問いかけてみると、おかみさんは算盤のようなものを持ち出してパチパチと弾き始めた。
「そうさねぇ。ここにあるものと同量のものが裏にあるから、そこから持って行ってくれるのならまけてあげるよ。ここのを持っていかれると、品出しが大変だから・・・・そうだねぇ、全部で金貨六枚でいいよ」
「了解した・・・・ちなみに、それはそろばん?」
つい好奇心で問いかけて見た。
すると、おかみさんは嬉しそうに一言。
「うちのご先祖様ご作った奴さ。ご先祖さまは、勇者召喚でこっちにやって来た人らしくてね、その人が計算するのに簡単だからって作ってくれたらしいよ。今じゃあ、どの商人も算盤ぐらいは使えるさ」
「へぇ・・・・すごいなぁ」
「ほらほら、代金を支払っておくれ、そしたら裏に案内してあげるから」
──ジャラッ
空間収納から金貨を取り出して支払うと、すぐに店員が裏の倉庫に案内してくれた。
そこで、範囲指定で次々と空間収納に放り込むと、一言お礼を告げて外に出る。
──ガヤガヤガヤガヤ
すると、絨毯の周りに、大勢の人が集まっていた。
「これはなんだろう?」
「さっき、魔族の女の子が乗っていたぞ」
「じゃあ乗り物が。でも、これは絨毯だよなぁ?」
「ああ。それにしても、この手触りはなんだ?最高級品じゃないのか?」
「そうだよなぁ・・・・これは、売って欲しくなるよなぁ」
そんな声が聞こえてくるので、マチュアはゴホン、と咳払いをしてから人を掻き分けて絨毯に向かうと、ヒョイと飛び乗った。
「うお、魔族のねーちゃん、これはあんたのか?」
「そうだよ。空飛ぶ絨毯。じゃあね」
──フヨフヨフヨフヨ
すぐさま飛び始めると、今度は肉屋で同じ事をする。
そんなこんなで、商店街で買い物しまくっていると、ふと、大きめの商店の前で停止した。
看板には『グレートモルデン商会』と書かれており、身なりのいい人々が頻繁に出入りしている。
よくみると、建物の横には大きな停車場があり、でかでかと家紋が彫り込まれた馬車が何台も停まっていた。
「あ、ここがマジックアイテム売っているところか」
堂々と店の前に絨毯を停めると、そこでロックする。
すぐさま階段を上がって入口に向かうのだが。
「失礼ですが、何か身分を証明するものはございますか?」
入り口の警備員がマチュアを止める。
なので、王城発行の身分証を取り出して見せると・・・・。
「王家発行の身分証でしたか、これは失礼しました」
「ん」
パスカルの真似をして目を細めながら呟くと、堂々と店内に入って行く。
そして壁に掛けられている展示品や、接客中の店員と客の近くを通ってやり取りを聞いたりしていた。
「視認・・・・まあ、悪くはないか。等級ならCからBの魔道具、カナン魔導商会で売っている量産品ってところか・・・・」
品質は様々、彫金などの細かい装飾がある、古いもの程高い。
日用雑貨レベルの魔道具が殆どであり、含まれている魔力量も少ない。
中には魔力核が限界ギリギリのものまである。
「あ〜、そうかそうか。魔道具って、殆ど手に入らないのか・・・・」
そんな事を呟いていると。
「そんな事はありませんよ」
一人の老紳士がマチュアに近寄ってくる。
「そうなのですか?この手のものは魔族しか作れないのでは?」
「ええ。ですから、魔族がまだこの世界に共存していた時代の、さまざまな遺跡から回収しています。貴方達が、鏡刻界に避難する前に住んでいた遺跡群などです」
ほほう。
説明ありがとう。
「でも、古いものばかりで、新しいものはないのですね?人間の作った魔道具などはないのですか?」
「それは異な事を。魔道具の製造方法など、魔族の中でも今や伝える事のない技術。ほんのごく僅かの、それも限られた血統にのみ伝えられている秘技ではないですか」
「あ〜そうかそうか、それは失礼しました」
別に商売の邪魔をする気は無いので、後は適当に店内をプラプラとうろつき廻って品物や値段を見て回るのだが。
「まあ、鑑定盤があるから、あまりごまかしはできないのか。その点だけは評価していいか・・・・」
そう納得してから、マチュアは外に出る。
すると、また大勢の人が集まって、浮かんでいる絨毯にあーだこーだと意見をぶつけ合っていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






