表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300/701

エデンの章・その1・なんて普通な異世界転移

ここから舞台がジ・アースからエデンに変わります。

相変わらずのマチュアですが、果たしてどうなる事やら。

 

 巨大な聖堂。

 その正面に掲げられているのは、この世界の慈愛の女神・クラスター。

 白いローブをまとった、穏やかな女性を象った女神クラスターの彫像の足元には、この国の国王と王妃、そして宰相が心配そうに立っている。


──ソワソワソワソワ

 彼らの目の前には、巨大な魔法陣。

 24分割された円の外周には、さまざまな供物が飾り付けららている。

 全てが、この儀式のために用意されたものであり、強大な魔力を秘めた水晶やら、古の書物、黄金竜の鱗など、どれも一朝一夕で手に入れられる代物ではない。


 そして、クラスターの像から、魔法陣を挟んで反対側には、一人の老齢の魔術師が立っている。

 スゥッと息を吸い込むと、落ち着いた、穏やかな声で、集まっている人々に聞こえるように、話を始めた。


「それでは、これより異世界より勇者召喚の儀式を行います……慈愛の女神クラスターよ、古き1000年の契約により、この門を開いて勇者を呼び寄せたまえ‼︎」


──バジッ……バジビジッ

 魔術師の声に呼応するように、魔法陣がゆっくりと輝きだす。

 陣内の魔力が一気に膨れ上がると、それは魔法陣を包む半球体の立体魔法陣に変化する。


──キィィィン

 やがて、大聖堂内に超高音の金属音が響くと、魔法陣の中にいくつもの人影が現れる。

 まだ受肉していない魂の存在。

 すると、魔術師は国王に向かって叫ぶ。


「さあ、陛下よ、望みを。どのような勇者を望むのですか。陛下のお言葉を、クラスターに伝えてください‼︎」


 ならばと。

 国王は一歩前に出ると、ゴホンと咳払い。

「慈愛の女神クラスターよ、我が望むのは、この大陸を蝕む悪魔、それを取り除くことのできる勇気ある者達である」


──ツンツン

 すると、横の王妃が国王の腕を突く。

「あなた。それでは悪魔も召喚しますわよ?」

 おっと。

 王妃の横やりが入りました。


「おお、そうだな。では、我が望むのは偉大なる勇者。よいか、あくまで勇者だ。出来れば勇者は三人がいい。強き者、慈悲あるもの、魔力溢れるもの……長き争いに終止符が打てる者を……少し若い人で……」

 そう告げると、向かいの魔術師がコクリと頷く。


──スッ

 高々と腕をあげると、魔術師は声高らかに叫ぶ。

「クラスターよ、王の言葉を受け入れよ。今こそ、この地に勇者を召喚し給え‼︎」


──キィィィン

 さらに魔法陣が光り輝く。

 やがて、中にいた人影がいくつも重なり合い、四人の姿を浮かび上がらせた。


「おお……勇者が……ん?」

「貴方……いよいよ来ますわ。我が国を救ってくれる勇者が‼︎」

 感無量にむせ返っている王妃と、ひいふうみぃ……と数を数える国王。


「あれ?一人多くないか?」

「え?」


 国王の呟きに、王妃も魔法陣を凝視する。

 たしかに、今、魔法陣の中には、四人の姿が生み出されていた。

 だが、そんな事はお構い無しに、魔術師は詠唱を続ける。

「出でよ!異世界の勇者よ‼︎」


──カァァァァッ

 突然、魔法陣の魔力が爆発し、立体魔法陣が消滅する。


──シュゥゥッ

 そして爆発の煙が収まったとき。


「ゴホゴホゴホッ……勘弁してくださいよぉ」

「……あら、ここは何処かしら?セバス、セバスは何処かしら?」

「イテテテ、またセバスかよ。そろそろ執事離れしろってば」


 ブレザーを着用している三人の高校生が、周りをキョトンとしながら見渡している。

 そして。


「ぬぁぁぁぁぁ、ここは何処だぁ、ウェァ‼︎」

 思わずオンドゥル語で叫ぶマチュア。

 すると、マチュアの声を聞いた高校生たちが、マチュアの方を向いて……。


──ビクッ

「何処って、それは私たちが聞きたいです……ヒッ‼︎」

「そうですよぉ〜。そもそも、あな……ふぇ‼︎」

「あわわわ、あ、悪魔、悪魔がいる‼︎」


 高校生たちは慌てて魔法陣から逃げ出す。

 そして入れ替わりに、彼方此方あちこちから騎士達が飛び出して来ると、すぐさま抜刀して盾を構え、魔法陣を取り囲んだ。


「ふむ……」

 一体全体、何が起こったのかさっぱり。

 なので、まずは自身に何が起こったのかを確認するために、マチュアは、そ〜っと視線を体に向ける。


 側頭部上方から前に伸びる二つの角。

 推定150cmの身体とダイナマイトボディ。

 意識すると動く背中の翼とお尻の尻尾。


「うわあ、またしてもルナティクスのままだぁ、ここは何処だぁ、また魔法陣で悪魔召喚されたのかぁ」

 思わず叫んで、周りを見渡す。


 何処からどう見てもファンタジー。

 もう、散々見慣れた風景。

 そして、怯える国王と王妃、宰相。

 この事態をどうにか纏めたいらしい魔術師。

 悪魔討伐のために集まった騎士。


 そして、三人の高校生。


「お、高校生とは珍しい。さて、考えろ私……」

 そう呟いて、すぐさまウィンドウを開く。


──ピッピッ

 全てのコマンドが使用可能、空間収納チェスト内部も従来通り。

 悪魔っ娘ルナティクスのコマンドも使える。

 なら、問題はない。


「あ、これは失礼しました……それでは」


──ヒュンッ……ドサッ

 すぐさま日本の異世界大使館に転移しようとしたが、飛べない。

 フワッと体が浮いたが、すぐにドサッと落ちた。


「ん?転移できない?」

 ならばと、カリス・マレスの馴染み亭に転移しようとするが駄目。

 さらにジ・アースの酒場カナンに飛ぼうとしても無理。

 マチュアの知る限りのところには転移不可能。

 しかも、慌てて右手を突き出して転移門ゲートを開こうとするが、それも繋がらない。


──ツツ……

 マチュアの頬を冷や汗が流れる。

「あ、あの、ここは何処でしょうか?」

 思わずそう問いかけるが、騎士達はマチュアを睨んだまま、ゆっくりと間合いを詰めてくる。


「こ、ここはペルディータだ、魔族の真祖トゥルース……悪魔よ、何をしにやって来た‼︎」


 マチュアの言葉に、ようやく落ち着きを取り戻した魔術師が、威勢良く叫ぶ。

「ん〜。多分だけど、私は、この魔法陣で召喚されたんじゃないかな?」

 ポリポリと頬をかくマチュア。

 すると、国王と王妃がお互いの顔を見合わせると、何やらヒソヒソと話し始める。


 なら、今、まともに話出来るのは魔術師と高校生。

 ならばと、敢えて高校生に話しかけて見る。


「そこの子供達。君たちは何処の世界から来た?」

 部屋の隅で震えている高校生に、優しく問いかけて見ると、どうやら話が通用すると理解したらしく、運動系男子と文化系眼鏡っ娘女子が、マチュアに返事を返した。


「お、俺たちは、日本からだ……」

「私は、北海道の北広島にある高校の生徒です」


 すると、最後の一人が立ち上がり、スカートの埃をパンパンと払いながら、腕を組んで構えた。


──ビシッ

「ええ、私たちは北広島西高等学校。 の生徒ですわ。私は生徒会長のマリア・立花。この子は会計のすめらぎ 綾奈あやな、そっちは庶務の衣波いざなみ 疾風はやてですわ」

 最後の一人、金髪縦ロールの生徒が仁王立ちしてマチュアに叫ぶ。


「へぇ。さしずめ生徒会役員っていうところですか」

 そう呟くと、三人はお互いの顔を見合わせてから、マチュアを見る。

「悪魔なのに、生徒会を知っているのか」

「あなたは何処の悪魔ですか?」


──ビシッ

「そうよ、私たちが名乗ったのですから、貴方も名乗りなさい‼︎」

 マリアがマチュアを指差しながら、力強く問いかける。

 ならばと、マチュアも立ち上がると、白亜のローブを身に纏って一言。


「私はマチュア。見ての通りの悪魔っ娘……何だろうなぁ」

 胸元に手を当てて、軽く頭を下げる。


 その、マチュアと生徒達のやり取りを見ていた国王が、スッと手を上げて騎士達を下げさせる。


「……さて、話を戻したい。貴殿ら四人は、慈愛の女神クラスターの導きでやって来た、異世界の勇者なのか?」


 その問い合わせには、高校生たちは静かに頷く。

 だが、マチュアはキョトンとしている。


「俺たちは、学校祭の買い物で郊外に向かっていたんだ。そうしたら、突然トラックが飛び出して来て……」

「気がついたら、真っ白な空間に立っていたんです。そこで、どうしたらいいか困っていたら」

──バーン

「そのクラスターとやらが、私達に語りかけて来ましたわ。世界を救いなさい、以上、宜しくグッバイと‼︎」


 うわぁ。

 大地母神ガイア並みに残念な女神だぁ。

 その説明を聞いて、マチュアは思わず涙ぐむ。

 この先の、この子達を待っている不幸に、胸を痛めていた。


「……ええっと、悪魔マチュアと言ったか?貴方は、慈愛の女神クラスターの加護を受けてやって来たのではないのか?」

 恐る恐る問いかけてくる国王。

 すると、マチュアは腕を組んで考える。


(何で私、ここにいるんだろう……確か……)


 無貌の神の罠から逃れる為に、無理やり神威をあげてジ・アースとの繋がりである鍵を破壊した。

 その際に、マチュアの魂と同化していた誰かを助けたのまでは理解しているが、その後は意識を失っていた。

 そして、誰かに呼ばれて、気がついたらここ。


「……この大陸を蝕む悪魔……悪魔で勇者って、誰かに呼ばれた気がしたんだよなぁ」

 少しずつ思い出す。

 すると、マチュアのつぶやきを聞いた王妃と宰相、魔術師が国王をジーッと見つめる。


「お、おおう、そうであったか、悪魔の勇者マチュアであったか。では、そなたを召喚したのも我々だ。では、話を聞いてほしい……」


 そう開き直った国王は、立ち話も何だからと、四人を謁見室と呼ばれる豪華な部屋へと案内した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 それほど豪華ではない謁見室。

 綺麗に掃除はしてあるものの、絵画や調度品なども最低限のものしか置いてない。

 そこにマチュアと高校生達、国王と王妃、宰相、魔術師が集まって席についている。


「では改めて。儂は、このペルディータ王国の国王、ジョージ・ゴールドン四世。そして妻のモーリス・ゴールドンだ」

 王家たるもの気軽に頭は下げない。

 淡々と告げると、今度はハゲ頭の無骨な宰相が頭を下げた。


「私は、このペルディータ王国の宰相を務めているカバネロ・ダバダです。彼は我が国の魔導兵長を務めるアルク・プラネテスです」

 アルクと紹介された、銀髪オールバックの男性が頭を下げる。


──バーン

「私たちは、先程自己紹介を終わらせましたので省略させて頂きますわ。そちらの悪魔さんも同様にね」

 ドヤ顔で話しているマリア・立花。

 それには両隣の二人も頷いている。


 しかし、何故いちいち構えを取るのかと、マリアに問いかけたい。

 分かりやすいからいいけれど。

 すると、カバネロがマリアの方を向いて、話を始めた。


「今、この国は滅びの道を歩いている。是非とも力を貸してほしい」

 唐突過ぎる話が始まる。

 まずは横槍を入れずに、じっと話を聞こうではないか。

 マチュアがそんな事を考えていると。


「分かりましたわ。北広島西高等学校生徒会が、皆様に力を貸しましょう‼︎」

 ドヤ顔で告げるマリア。


──ブホッ

 これにはマチュアも思いっきり吹き出した。

「待て待て、まだ事情も聞いてないだろう?何でいきなり引き受ける?」

「あら?私たち三人はクラスター様から『神々の祝福ギフト』を賜ってますわ。その能力があれば、滅びの道を歩いている国の再興など、恐るるに足らずですわ」

 これは……。

 つまり何だ。


「お前、馬鹿だろう?」

 思わず呟くマチュア。

「何を仰いますか。困ったものを助けるのが生徒会の使命。そんな当たり前の事を、悪魔さんは知らないのですか?」

 なおも演説を続けるマリア。

 すると、マリアとマチュアを放っておいて、綾奈と疾風が宰相と話を始めた。


「具体的に、現在のこの国はどうなっているのですか?」

「どうして滅びの道を歩んでいるのか、そこを説明してほしい」

 そう問いかけると、カバネロはテーブルに地図を広げた。


「まず、我が国はここ、大陸の中央に位置します。湖も森もあり、豊かな国土を持っています」

 ようやく話が始まったらしいから、マチュアもマリアも静かに話を聞き始める。


「北方には軍事国家ザナドゥがあり、東方は草原を越えて果てしない砂漠。南方には蛮族の国家であるガーランド国がありまして……」

「この一番でかい西方の国は何ですか?」

 綾奈が問いかけると、ジョージ国王が額の汗を拭いながら。


「パルコ・ミラー神聖王国です。人類至上主義を唱える国家です……」

 ふむふむ。

 つまり、この国は列強国に囲まれてどうしようもないと。


「それで、何故、このペルディータが滅びかかっているのですか?」

「それは、この国が弱いからです。豊かな土地はあるものの、それを求めて南方の蛮族はすぐに戦争を仕掛けてくる。それから身を守るのに、北方ザナドゥと西方パルコ・ミラーに騎士団を派遣してもらっています」


 ゆっくりと説明するジョージ国王。

 さらにカバネロも補足を付けていく。

「その代価として、我が国の地下資源である『魔導鉱』を無償提供していましたが、今年になって請求される魔導鉱の量が増えてしまいまして……満足出来る程の量を増やす事が出来なかったのです」

 そこまで説明すると、カバネロも一息つく。

 そして再び、説明を続けた。


「結果として、派遣される騎士の数が半分となり、国土南方の一部を蛮族に奪われてしまいました。最悪なことに、奪われた地域は、魔導鉱採掘場の一部でもあるため、このままでは、来年度の防衛は不可能となるかと……」

 ほうほう。

 そりゃあダメだなぁ。

 そりゃあ、国が滅ぶというのも理解できる。


 しかし。

「この問題、勇者召喚して解決するの?」

 ふと、マチュアは問いかける。

 すると、予想もしていない回答が返ってきた。


「そこなんですよ。北も南も西も、かなり強い勇者を召喚して国を大きくして来ましたから……うちも何とかなるかな〜と思いまして」

 あっけらかんと告げるジョージ国王。

 これには、宰相や王妃もウンウンと頷いている。


「……嘘でしょ?何で召喚勇者がそんなにホイホイといるのよ?」

「え?どの国でも勇者召喚の儀式は行えますよ。それを扱える魔導師なら、1000年に一度だけ」


 つまり、この世界には『勇者召喚魔導師』という家系が存在し、その家に伝えられている魔道具を用いることで、1000年に一度だけ、勇者召喚を行えるらしい。

 ここ数年の間に、隣国の勇者召喚魔導師が、異世界から勇者を呼び出して国を大きくして来たというのも、何となく理解出来た。


「まあ、まずはみなさんの力を測ってみましょう……」

 そうアルクが説明しながら、30cm四方の水晶のプレートを持ってくる。

 古代魔法の叡智の詰まった、能力測定器。

 それをテーブルに置くと、まずはマリア・立花が右手をプレートに乗せた。


──ブゥゥゥン

 プレートが銀色に輝くと、その表面に様々な文字が浮かび上がる。

 それを見ていた一行は、驚愕の顔を上げている。

「おおおおお、いきなり『銀の勇者』とは。これは幸先がいいですぞ」

 アルクがマリアを見て告げると。

 やはりマリアはドヤ顔である。

「当然ですわ。私の持つ固有スキル『威風堂々』と『才色兼備』は、王者の能力。寧ろ金でなくて不満ですわよ」

 フワサッと髪をたくし上げて呟くマリア。


 次は皇綾奈。

 スーハーと深呼吸をしてから、プレートに手を当てる。

──ブゥゥゥン

 綾奈のプレートの色は赤。

 これにはアルクが頷いている。

「ほほう。『赤の導師』ですか。さまざまな魔術を行使出来る方ですか」

「ええっと。それからどうかはわかりませんが、私の固有スキルは『文武両道』と『温故知新』。出来る限りのことはやらせてもらいます」

 眼鏡の真ん中を指でグイッと上げながら、綾奈もそう話していた。


「さ。それなら次は俺な?」

──ブゥゥゥン

 衣波疾風も楽しそうに手を乗せると、プレートは青く輝く。

「『青の騎士』。見た目からもそれらしい、実に良い事です」

 ウンウンと頷いているジョージ国王。

「当然。俺の固有スキルは『不撓不屈』と『疾風迅雷』。戦う為のスキルだからな」

 ニイッと笑いながらのサムズアップ。

 すると、最後はマチュアの番になった。


「はぁ……嫌な予感しかしないわ」

──プン

 軽い音だけが響く。

 プレートは輝かない。

「……おや?」

 無反応のプレートに軽く触れるアルク。


「誠に申し訳ない。もう一度、お願いして宜しいか?」

「はいはい……言っとくけど、私はクラスターから加護なんてもらってないからね」


──プン

 やはり軽い音。

 これには、国王たちも困った顔をしている。

「恐れながら。マチュアさんには、勇者の加護も何もありません」


──ゴトッ

 そう説明してくれると、急ぎ銀盤のプレートが運ばれた。

 形状も何もかも同じ、違うのは材質だけなのだろう。

「では、こちらで……」

 そう説明されたので、やれやれと思いながら手を乗せる。


──ブゥゥゥン

 すると、ほのかに輝いて文字が浮かび上がる。

「……冒険者レベル1。クラスはオールラウンダー……」

 カバネロが表示部分を読み上げているが、聞けば聞くほどに、国王や魔術師が絶望の顔をしている。


「無能力でしょ? 私だと力になれないから、これで失礼していいかな?」

「あ、い、いや、少々お待ちください……」

 すぐさまジョージ国王が宰相に耳打ちすると、急ぎ小さなカバンを持って来た。


「せめてものお礼です。それと、これは先程の鑑定板から取り出した、マチュアさんの身分証。悪魔の格好だと色々と不便でしょうから、国の認めた正式な身分証です」


 国章の入ったプレートと、金貨袋や食料などの入っているバッグ。

 それを手渡されると、マチュアは軽く頭を下げる。

「それじゃあ、もしも何かありましたらお呼びください。三人とも頑張ってね」

 軽く手を振るマチュア。

 するとマリアや綾奈、疾風は深々とマチュアに頭を下げる。


「わたし達は、出来る限りの事はするつもりですわ」

「何かありましたら、いつでも相談に乗りますので」

「戦闘なら教えられるから、頑張ってください」

 うん、いい子達だ。

 そのまま謁見室を出ると、護衛騎士に案内されて城の外まで向かう。

 そして城門を越えると、マチュアは街の中をのんびりと歩く事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「さてと。ジ・アースに帰れなくなったのは、まあ構わんが……カリス・マレスと地球に帰れないのはきついなぁ……」

──シュンッ

 とりあえず、受け取った荷物は空間収納チェストに放り込み、身分証カードは魂とリンクする。


 必要なのは情報。

 勝手知ったる元転移者。

 ならばと、のんびりと街の中を歩いてみる。


 雰囲気はベルナー王領によく似た感じ、街行く人も普通の市民や商人、冒険者らしき人々も見かける。

 人間以外にも、エルフ、ドワーフ、ジャイアントと言った種族もあちこちに見かける。


(さて、色々と調べますか……視認サイトをアクティブに設定して……)


──ピッピッ

 視界のあちこちに表示が増えた。

 街中の様々な物についての説明が加わり、露天商に並んでいる商品の説明と価値が表示される。


(ほうほう。なら次は……敵性防御発動……これをアクティブスキルに設定して)


──ブゥゥゥン

 無詠唱で、目に見えない魔法の防護膜が発動する。

 後、出来る事はないかと考えながら歩いている。

 ふらふらと歩きながら露店を見て歩くと、何かいい香りのする店の前までやってきた。

 なら、丁度いいやと買い物する事にした。


「……あの、これは何ですか?」

「ああ、旅人か……あんた魔人族?」

 少し驚いた顔をしている露天商。

 なら、マチュアは騒ぎを大きくしないようにと、軽く頷いてみる。


──コクコク

「これはサザシアという果実を、蜂蜜に漬けたものだよ。一本20銅貨カルだけど、食べるかい?」

 む、通貨がわからん。

 ならば聞こう。

「外の国から来た、貨幣が分からない……これで良いのか?」

 わざと銀貨を一枚だす。

 すると、露店商は、大銅貨を八枚お釣りで渡してきた。

「これが小銅貨、十枚で大銅貨一枚。大銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で大銀貨一枚な。大銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で大金貨一枚だよ」


──ポン

 串に刺さった果実を手渡される。

 すると、マチュアは丁寧に頭を下げる。

「お嬢ちゃんもあれか、戦闘召喚されて放り出された口か……まあ、頑張って生きなよ」

「戦闘召喚……って、何?」

 すると、露天商はマチュアを店の横に回るように促す。

「まあ、そこにポツンとしてても邪魔だから、横に周りな。記憶障害かなぁ……あれ、リスク高いからなぁ」

 そう話しているので、マチュアは露天商に促されるままに、店の横に回る。

 そして、客が一段落するのを、暫く待っていた。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 2シリーズ絶賛発売中 ▼▼▼  
表紙絵 表紙絵
  ▲▲▲ 2シリーズ絶賛発売中 ▲▲▲  
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ