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悪魔の章・その42・無貌の神とマチュア

悪魔の章、これにて終了です。

引き続きエデンの章か始まります。

此処からは、暫くはカリス・マレスやフェルドアースとの繋がりが消えます。

しばしお笑いください。

 結界の中で体を休めているレオニード達。

 しっかりと魔力を回復する為には、最低でも六時間の休息が必要。

 前半と後半に分かれて、食事と睡眠をとっている一行の頭上では、マチュアが深淵の書庫アーカイブの捉えた『何か』を注意深く観察している。


「う〜ん。この階層の奥……黒焔龍の部屋なんだよなぁ……位相空間?転移?何だろ」


 表示されたのは時空の歪み。

 話しにあった『勇者召喚の儀』に使われていた部屋なのかもしれない。

 そこから僅かながらの違和感が発生し、マチュアは飛び起きて眺めている。


──ピッピッ

『解析不能……』


「うん、直視しないとダメだよなぁ……まあ、実際に奥に向かう必要が出てくるし……最悪のケースも考えないとダメか」

 そう考えたマチュア。

 いつ、如何なる時にも保険を掛けて来たマチュアの防衛本能が、今までにない何かを感じ始めていた。


──ヒュゥゥゥンッ

 ゆっくりと高度を落としてレオニード達を見る。

 丁度全員が食事を取っている最中であったので、ならばとマチュアは話し掛けた。


「レオニード、この先とんでもない事が起きるかもしれない。もし、それが起きたら、私が何とかするけれど、どうしょうもなかった場合、この世界はあんた達に託すから」

 淡々と説明するマチュア。

 すると、全員が神妙な顔つきに変わった。


「この先ですか。確か黒焔龍の回廊で、敵はそこそこに強いと聞いてますが」

「マチュアちゃんでもどうしようもない敵なんて出たら……私達では無理ではないですか?」

 レオニードとアレクトーが告げると、ボンキチ達も静かに頷いた。


「そんな敵がいるのか?」

 腕を組んで考えるボンキチ。

「いや、わからない。今回は本気で私にも見当がつかないのよ。今までも不安な事や危険な事は何度でも味わったけれど、今回のレベルは初めてで……何だろ」

 ずっとマチュアに降り注いでいる不安感。

 過去の様々な戦いでも、こんなに不安になった事はない。

 それ故に、マチュアは防衛本能が働いている。


──ピッピッ

『マチュアより、使徒および僕ご一行に連絡。もし私が消滅したら、各自の判断で行動するように……使徒の二人は神聖アスタ公国の守護を、ステアは……人を守る守護龍となりなさい。フェザー達は、人と魔族の架け橋となるべくがんがれ』


『『『主命のままに』』』


 全員の声が脳裏に響く。

 よし、これで問題はない。


──パン‼︎

 両手で頬を打って気合いを入れる。

 これで何が来ても怖くはない。

 すぐさま空腹を癒す為に馴染みのターキーサンドを食べると、いよいよ第三階層攻略について行った。


………

……


 複雑怪奇な迷宮を進む。

 途中で中央山脈噴火口を横に眺めるルートを通り抜け、どうにか階層守護者のいる部屋の手前までやって来る。


──ザワッ

 またしてもあの感覚。

 それがこの先の空間から感じ取る事が出来る。

 やがて最後の回廊の先、巨大なフロアーにやって来る。


 部屋全体が異質な空間になっており、天井も横壁も、そして奥行きさえ魔法によって拡大されている。

 その部屋の中央で構えている、黒い焔を体に纏った龍。

 全長なら40mはあろう。

 頭部に五本のツノを生やし、背中には二枚二対、合計四枚の翼を持つ。


「ほう。ここに人間が来たのは300年以上も前になるなぁ……」

 そう呟くと、黒焔龍は、マチュアたちを見るとすぐさま体を起こし、戦闘態勢を取った。

 するとレオニード達も武器を構え、黒焔龍を睨みつける。


「貴方に恨みはない。が、俺達がどれぐらい強くなったのか、それを見極めさせてもらう」

「ぬうぉぉぉぉぉ」

 レオニードとボンキチが走り出すと、アレクトーとラオラオ、トイプーも支援態勢に入った。


………

……


 正面奥ではレオニード達が黒焔龍と戦闘している。

 だが、マチュアは其処には一切興味を示さない。

 足元に記された巨大な魔法陣、これがどうにも気になって仕方がない。


「あっちは……まあ、死んでもなんとかなるか……深淵の書庫アーカイブ……」


──ブゥゥゥン

 跪いて魔法陣に手を当てて、深淵の書庫アーカイブを起動する。

 次々と魔法陣の解析データが正面に映し出されるが、現在は起動していない、表面に大量の傷が記された勇者召喚の儀である。

「こんな魔法陣に何で恐怖を?」


──ブゥゥゥン

 すると、ほんの僅かだが、魔法陣が共鳴する。

 しかも、さっき調べた術式とは違う魔法陣。

「なっ‼︎」

 慌てて立ち上がり後ろに飛ぶ。

 すると、魔法陣はまた沈黙する。

「どういう事? 深淵の書庫アーカイブでも解析できない存在?」

 再び手を当てて解析を開始する。


──ブゥゥゥン

 すると、先程とは違う術式が浮かび上がる。

 強制転移術式、それも越界転移。

 この世界ではない、何処かの世界へと対象者を送り出す術式である。

 だが、それも不完全。

 完全に起動するには術式が足りない。


 その後も時折、魔法陣が共鳴する。

 その都度深淵の書庫アーカイブで調べるが、転生術式であったり、神殺しの法印であったり、とにかく半端な術式の反応しかしない。

 そして深淵の書庫アーカイブが出した最終的な結論。


「ここは様々な儀式の行われた、魔力の循環路か。なら、この様々な儀式の跡も理解できるわ。でも、それだとあの不安感には繋がらない……何だろ?」


 そう頭を捻りながら、マチュアはレオニード達を見る。

 黒焔龍とドラゴンランス、どちらも一進一退。

 全身から大量の血を流しながらも、黒焔龍は果敢にもレオニード達に引く姿勢を見せない。

 それはレオニード達も同じ、前衛のボンキチやレオニードも全身の至る所から血が滲んでいる。


──ボウッ……ボウッ……

 すると、黒焔龍とレオニードたちの足元が、時折光っている。

「ん……んんん?」

 よくよく観察するマチュア。


 すると、部屋全体の傷と魔法陣、法印の跡に血が染み込み、複雑怪奇な紋様を作り出していた。

 そこに黒焔龍の魔力とレオニードたちの魔力がぶつかり合い、魔法陣が活性化を始めていた。


「や、ちょ‼︎」

 すぐさま深淵の書庫アーカイブを展開して、魔法陣の起動を停止するコードを調べようとしたが。


──ブゥゥゥン

 深淵の書庫アーカイブ全体が、さらに巨大な球形の立体魔法陣に取り込まれた。

「り、却下リジェルトっっっ‼︎」


──パチィィィィン

 すぐさま立体魔法陣を消去しようとするが、その却下リジェルトが更に上書きされて消滅した。


「ぬぁぁぁ。何じゃこりゃぁぁぁ」

 思わず絶叫するマチュア。

 すると。


『ようやく捉えることができたか……我が復活を妨げる存在よ……』


 そう声が聞こえてくる。

 今までに聞いたことのない声。

 男とも女ともつかない、正体不明の声。

 それが聞こえたとき、マチュアは魂を握り締められたような感覚に陥った。


「あ、貴方は何者……」

『さあ。我に名前は存在しない。アンリマユと呼ばれたり、アンラ・マンユと呼ばれたり……そうそう、ニャルラト……とも呼ばれている……』


──ゾクッ

 それは、マチュアにとって一つだけ心当たりがある。

「そう……創造神の対の存在、無貌の神でしたか。なら、私は貴方をアーリマンとでも呼べばいいのかしら?」


『その呼び名も久しいな。我が眷属カーマインから、貴女が我の復活を邪魔していると聞いていた。そして、那由多の率の中から、この時を待っていた……』


 つまり、今、この場所にやって来るのを、アーリマンは待っていたらしい。

 すると、部屋の床全体の魔法陣が集まり、幾重もの立体魔法陣を展開した。

 しかも。

 その光景は室内で戦っているレオニード達には見えていない。


『魂の分解、分割……八の創世と六十四の世界に、貴女の魂を飛ばしてあげよう。そうすれば、貴女は全てを失い、新たなる六十四の人間として生まれ立つ……邪魔な存在よ、これでお別れだ……』


──ミシッ

 絶対無敵の深淵の書庫アーカイブに亀裂が入る。

 創造神の対である破壊神。

 それのもたらした強制転生の術式。

 八つの世界に分割封印された無貌の神であるが、それでも世界神以上の力を持つ。

 神威解放したマチュアでも、従属神クラスまでしか力は発現出来ず、僅かながら無貌の神の術式には及ばない。


「……転移もダメ……転移門ゲートも開かない……こりゃぁ、詰んだかな?」


『では。もう二度と会う事はないだろう……さようなら、小さい存在よ……』


──フッ

 無貌の神、破壊神アーリマンの意識が消滅する。

 八つの世界のいずれかでしか意識を持てない存在。

 恐らくは、歪みを作り出して強制的にジ・アースに干渉したのであろう。

 この世界での顕現時間の限界なのか、既にジ・アースにはアーリマンの力は干渉していない。

 なら、逃げるのは今しかない。


「さて……今の切り札は何かな?」

 空間収納チェストの中身を一つ一つ調べる。

 ついでにステータスも調べて見る。

 記憶の中にある術式を駆使し、さらに色々と調べていく。


──ミシミシッ

 深淵の書庫アーカイブのあちこちが崩れ始める。

「……うん。これしかないか……」

 すると、マチュアは体内から賢者の石を取り出す。

 そして世界の天秤のかけらを空間収納チェストから取り出すと、その二つを自身の魂と同化させる。


──ブゥゥゥン

 これでマチュアの魂を一段階引き上げると、虹色の鍵を取り出す。

 マチュアとジ・アースを繋ぐ鍵。

 神々の力で作られたこの鍵は、やはり神の力でしか破壊できない。

 ここがカルアドなら、マチュアは秩序の女神である為に破壊出来た。

 だが、ジ・アースでは亜神。

 創造神の従属神ではあるが、世界干渉能力はない。

 なので、ジ・アースの産物である世界の天秤を取り込み、賢者の石で魂をブーストする。


「一か八かの勝負。『神威解放・モード3』っっっ」


 一瞬でマチュアの神威が急激に高まり、ガイアやファーマスを超える干渉力を身に付けた。

 そこで虹色の鍵を手に取ると、その上下を握りしめる。

「ふん。創造神と並ぶ神であっても、その力は1/8。なら、これならどうする‼︎」


──バギィィィィィィッ


 力一杯、虹色の鍵を破壊する。

 その瞬間、鍵の中の魔力が暴走し、マチュアを包み込む。

 鍵によって結ばれた因果が消滅し、マチュアはジ・アースから強制的に弾き出された。

 その力は、一瞬だけ、無貌の神の神威を超える事が出来た。


………

……


──ドサッ

 まさに瀕死一歩手前。

 どうにか黒焔龍を駆逐したレオニード達は、まずは一息いれる為にその場に座り込んだ。

「ハァハァハァハァ……」

「こ、これで黒焔龍のドロップアイテムも回収できた」

「もう限界だお……」

 ボンキチもレオニードも、そしてラオラオも、その場に座り込んで体を休める。

 そしてトイプーが、全員の怪我を癒している時、アレクトーは自分達が入って来た通路を眺めていた。


「ん、アレクしゃん、何かあるお?」

 そうラオラオが問いかけると、アレクトーは首を捻る。

「マチュアちゃんがいなくなった。何処に行ったのかしら?」

 キョロキョロと周囲を見渡すアレクトー。

 すると、入口から全身がボロボロになったマチュアが姿を現した。

「ふう。死にそうになった。で、こっちは終わったの?」


──シュゥゥッ

 完全治癒を施しながら問いかけるマチュア。

 すると、レオニード達がやれやれという顔をしていた。

「こっちはなんとかな。で、何と戦っていたんだ?」

「ん〜。ラスボス?負けたけど……いや、引き分けかな?」

 笑いながら告げるマチュア。

 何はともあれ、第三階層の突破には成功した。

 ならばと、万全を期すために、レオニード達はこの場所でベースキャンプを設置すると、ゆっくりと体を休める事にした。


 誰も気づいていない。

 虹の鍵の破壊と同時に、マチュアはジ・アースとの繋がりを完全に失い、外の世界へと弾き飛ばされていた。

 今ここにいるマチュアは、マチュアであってマチュアではない。

 創造神と、大地母神ガイアしか知らない、もう一人のマチュアである。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 カリス・マレス、エーリュシオン。

 神々の神殿では、上に下にの大慌て状態。

「うわぁぁぁ、マチュアさんが消えたぁぁぁぁ」

「ま、待て、ストームはまだ存在している。まだカリス・マレスは安全だ。あの無貌の神の干渉にも耐えられる」

 秩序の女神ミスティが神殿内の広間でオロオロしているが、武神セルジオは努めて落ち着いている。


「それにしても、まさか無貌の神が動くとは思わなかったわぁ……どうしよ?」

 腕を組んでウンウンと頷いている魔神イェリネック。

 だが、事は重大である。


「あんたのところの眷属が何かしでかしたのでしょ?」

「知らぬわ。そもそも、わらわには無貌の神をどうこうできる力なんてないわ。いまのウィル大陸地下の無貌の神の封印が自然に効力を失うまでは、後千五百八十年はかかるのじゃよ?」

 ミスティの突っ込みに、イェリネックも必死に否定するが。


──ヒュゥゥゥンッ

 旋風と共に、創造神が姿を現した。

「何じゃ、一体何を騒いでいる?」

 そう問いかける創造神だが。


「マチュアさんが消滅して、別のマチュアさんが出てきたのじゃよ?」

「あの無貌の神がマチュアさんを殺そうとして、マチュアさんは神威を限界まで引き上げて逃げたのですが……」

 イェリネックとミスティが説明するが、どうも要領を得ない。

 ならばと、創造神はゆっくりと話を始めた。


………

……


「マチュアの消滅は私も見ていた。だが、それではいくつかの因果がねじ曲がる。なので、天狼に頼み込み、時間の因果を組み直す事にした……」


 マチュアがジ・アースとの繋がりを失い、ジ・アースから消滅しそうになった時。

 創造神は時間を逆行し、マチュア、つまり水無瀬真央の魂と最も波長の似た存在を呼び出した。


 最悪なことに、その者は二年も前に無貌の神によって殺害されていたのだが、転生の枠に乗れなかったので、創造神が至急、救済措置を行なった。


 その者には新たな転生の秘儀を行い、無貌の神によって滅ぼされた世界を救うべく、魂の修練を行わせたのである。

 まずはマチュアの魂の中にこっそりと眠らせると、マチュアのなぞった記憶からジ・アース以外の全ての繋がりを切り取る。

 そして、虹の鍵が爆発した時の魔力を元に、マチュアの魂から分離し、彼自身の肉体を新たに構築したのである。


 レオニード達が黒焔龍を倒した後に合流したマチュアは彼。

 だが、マチュアとして生きていたので、彼もまたマチュアである。

 それも、ジ・アースを救うべく存在する、余計な使命を持たない、純粋なマチュアである。


………

……


「……まあ、この処置は止むを得ず。しかし、マチュアの転移先がどこに渡ったのか……」


 長い髭を撫でながら、創造神も頭を捻る。

 この説明を聞いて、その場の神々もあんぐりと口を開く。

 まさか、そこまでの事をしていたのかと、神々でさえ信じられない気持ちであるが。

 そこは創造神の思し召し。


──カツーンカツーン

「さて、そうなるとマチュアさんの行き先は、創造神様の管轄世界では無いのですか?」


 正義神クルーラーが問いかけながらやって来るが。

「それが、見えぬのう……可能性があるとすれば、ハつの世界の中の滅びし世界。グランアークか、もしくはエデンのどちらかであろうなぁ」

 淡々と告げる創造神だが。

 その言葉には、集まりつつある八神も首を捻る。


「滅びし世界は、創造神でもまだ見えないのですか?」

 魔神ゼゲルシャフトが問いかけると、創造神は首を縦に振る。

「グランアークは、今は再生期のために世界を封じている。何もない、カルアドのような世界。じゃが、問題はエデンでなぁ……」

 その言葉には、何か困惑した表情が見え隠れしている。


「エデンには何かあるのですか?滅びし世界の一つであり、人が住まない世界なのですよね?」

 ミスティが問いかけるが、創造神は首を左右に振る。


「エデンには、普通に人々も生活している。問題は、エデンに張られている神威結界。あれは無貌の神がエデンを自らの実験場とする為に、外の力を受け付けないように世界を封じたのじゃ。故に、我の加護が届かない……故に、滅びし世界とした」

「では、そこにマチュアが送られたとしたら、普通のハイエルフとして対処方法を考えなくてはならないのですか……」

 腕を組んで考える魔神エクリプス。

 しかし、それさえも創造神は否定した。


「加護はマチュアの魂に刻まれているから、今のままでも問題はない。外世界との交信が出来ないだけなので、中でどんな事になっているかは見当もつかない……と、こらこら、何処に行く?」


 その話を聞いて、神様たちはその場を離れる。


──スタスタ……

「え?マチュアの能力はそのままなんですよね?」

「なら、放っておいても問題はないですよね?」

「もっと外の世界に飛ばされて、帰って来ないのではないかと心配していたのですが……心配して損しましたわ」


 次々と呟きながら立ち去る神々。

 やがて、その場には創造神のみが立ち止まっていた。


「何じゃ、この神々の信頼感は……まあ、そういう事なら構わぬか」

『創造神様。エデンには、私の力も干渉できません……マチュアの持っていた空間収納チェストは、エデンでしか使えないのですが……』


 つまり、ストームがやっていたような手紙のやり取りもできず、スキルのリンクも切れている状態である。


「やれやれ。なら、マチュアの代理をカリス・マレスに立てるしかあるまい……」

『それが宜しいかと』

「では、マチュアの代理人となると。確か、魂のコピーを持っていたものがいたのう」


 創造神はそう呟くと、カナン魔導連邦からツヴァイを無理やり呼び出した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 そして、カナン魔導連邦。

 王都カナンの王城地下の秘密基地では、全てのシスターズが集まって話し合いをしていた。


 ツヴァイはエーリュシオンに強制転移させられると、創造神から直接事情を聞かされた。

 そしてマチュアの持つ権限をツヴァイにもコピーし、マチュアが帰還するまでは代行を務めるように伝えられたのである。


「……何で、うちの主人はフラフラと何処かに行くかなぁ」

「いや、今回は違う。無貌の神の陰謀に巻き込まれてしまったというのが正解なんだ」

 ドライの言葉には、ツヴァイか説明を追加する。


「それで、自力帰還は可能なのですか?」

「そこが重要ですね。もし不可能なら、今後の事を考える必要もあります」

「すでにツヴァイがマチュア様の力のコピーを預かったという事は、そういう事なのか?」


 クイーンやゼクス、ファイズもツヴァイに詰め寄るが、それにはあっさりと一言。


「いや、マチュア様が戻ってきたら、この能力は消滅するらしい。帰還前提の能力付与なので、帰って来るんじゃないかなぁ」


 意外とあっさりしているツヴァイ。

「そ、その余裕はなんだよ? それでもシスターズのリーダーなのか?」

 鋭い剣幕でツヴァイに詰め寄るドライだが。


「そのなぁ。創造神が言うには、エデンって、無貌の神が色々と実験して、飽きて捨てた世界らしくてな。その外に創造神も結界を施してくれたので、無貌の神の干渉は一切出来なくしてくれたんだとさ」

「つまり、無貌の神には狙われないから安全だと?」

 クイーンの言葉には、ツヴァイも静かに頷く。


「そこでだ。創造神の言葉を伝えるなら、マチュアの力ならそのうち自力で帰ってこれるから、それまでは代理よろしくと。こっちでマチュアは働きすぎだから、いい機会だから少しのんびりさせてやれってさ……」


「「「「はぁ?」」」」


 アハツェン以外が素っ頓狂な声を上げている。

「成程。つまり、マチュア様は暫く休暇と。では、私は仕事に戻りますので」

 そう告げて、アハツェンはスッと消えた。


「そ、それで……ジ・アースはどうするんだ?マチュア様の代わりが必要になるんじゃないのか?」

「そこな。なんだか、あっちには別のマチュアさんがいるらしくて、問題はないんだと……」

 ドライの問いかけにツヴァイが返答すると、その場の全員が首を捻る。


「別のマチュアさま?」

「いや、マチュアさまは一人だが。またシスターズ?」

「そんな話は聞いていない……ツヴァイは聞いているんだろう?」


 当然同じ質問はした。

 そして答えは聞いている。

 だから一言。

「フェルドアースの水無瀬真央。彼は、二年前に事故を装って無貌の神に殺された。その魂を、マチュア様の魂の中に眠らせて、ジ・アースからマチュア様が飛ばされる寸前に再生したらしい」

「……そ、それはまさか」

 ゼクスか問いかけるので、ツヴァイは一言。


「赤城湊の師匠、昔バイトしていた居酒屋・冒険者ギルドの水無瀬真央チーフだ……何の因果なんだか……」


 その言葉には、全員が絶句する。

「当然ながら、この事は他言無用。マチュア様は長期出張で、その間の代行も今まで通り。スキルや空間収納チェストは私が予備リンクを可能にしているので問題はないが、空間収納チェストの中身だけは空なので」

「色々と追加しておきますよ。それで、シルヴィーさまやカレンさん、後……ストームさまにはどのように?」


「出張だとは話していたみたいだから。それで押し通す。但し、ストームさまには、後日私が説明します。では、この件についてはこれでおしまいです」

 そうツヴァイが締めると、全員が秘密基地から退出した。


 しかし。

 本当に巻き込まれ体質なんだなぁ……。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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