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悪魔の章・その39・ボンボン救出。

 カナン魔導王国を出発して半刻。

 マチュアと棚橋を乗せた絨毯は、深淵の回廊の近くにある街へとやって来た。


 回廊の入口が発見される前までは、よくある山岳地帯の農村であったらしい。

 近年になって崖崩れが発生し、そこに古い神殿遺跡が発見されてから、大勢の冒険者が訪れるようになった。


──ヒュウンッ

 街の中にやってきたマチュアと棚橋は、まずは回廊の地図が欲しかったので酒場に向かった。

 生き残った奴から聞き出したかったのだが、それ程時間が残っていないので、この街で地図を買い取ろうと考えた。


「いらっしゃい……二人連れの冒険者とは……あ、あれ?」

 マチュアと棚橋を見た酒場の主人が、目をこすりながらマチュアを見直す。

「カナン魔導王国のマチュアだよ。背が小さくなったのは呪いのようなものだ」

 堂々と告げてからギルドカードをカウンターに置く。

 それを見て、主人も慌てて頭を下げた。


「こ、これは賢者殿、こんな街までどのようなご用件で?」


 大きな声で告げるものだから、店内の人々がカウンターを向く。

「深淵の回廊の地図を買い取りたい。そこそこ深くまで潜ったパーティーを紹介して欲しいのですが」

 きっぱりと告げると、奥のテーブルの厳つい冒険者たちが手を挙げた。

「うちらで探索したものなら売ってやるよ。金貨30枚でどうだ?」


 その声を皮切りに、次々と地図を取り出してマチュアに交渉を持ち込む。

 今は商人ではないので、先着順と言う事はない。


「なら、その地図を見てからだね。信憑性が高くないと買わないし。わたし、鑑定眼持ってるから、ふっかけようなんて気は起こさない方がいいわよ?」

 そ〜っと近くのワイン瓶を見ると、目を細めて凝視して見る。


──ピッピッ

『ホルマのワイン:カナン有数のワイン職人ホルマの作ったワイン。安くて美味いと評判、ランクC +、一瓶銀貨一枚』


 よし。

 ジ・アースのコマンドは使える。

「なら、うちのはどうだい?銀貨二枚でいいよ?」

 奥で手をあげるパーティーがいるので、そっちに向かう。

 すると、テーブルに大量の地図が広げられている。

「ふぁぁ。随分と大量の地図があるねぇ」

「こっちが第一階層ね、これが第二……」

 次々と広がる地図の山。

 全部で第二十二階層までの地図が広がっている。

「一枚が銀貨二枚?」

「そう言うこと。纏めて金貨四枚でどう?」

 それならば問題はない。

「それでいいわ。ちょいと待ってね」

 すぐさま代金を支払うと、テーブル全体に魔法陣を開く。


──オオオオオオオッ

 その光景を見ている全員が驚きの声をあげ、これから何が起こるのかを見ていた。

量産化プロダクション……開始」

 白紙の羊皮紙を放り込むと、次々と地図を複製していく。

 これには地図を売ったパーティーも驚いていた。

 そして、ほんの五分程で全ての地図の複製が終わった。


──トントン

「はい、これが原版ね。ありがとう……」

 原版は綺麗に纏めてパーティーに返す。

 そして複製を広げると、さらに深淵の書庫アーカイブを起動して全てを取り込む。


(久し振りに使うなぁ……GPSコマンド起動、マッピングを展開)


──ピッピッ

 マチュアの脳裏に先ほど取り込んだ地図が広がる。

 こっちの世界に来た時しか使っていなかったマッピング能力。

 それを久しぶりに広げた。

「さて、それじゃあ行きましょうか」

 横で呆然としている棚橋に話しかけると、そのまま酒場から出ていく。

「あ、あれが世界最強の魔法使いかぁ」

「白銀の賢者……魔導女王マチュアさまかぁ……」

 酒場の一同は、マチュアの魔法を見て呆然としていた。


………

……


「神殿入口からもう迷宮化してますねぇ……」

「そうなのか?俺にはわからないんだが」

 入口から真っ直ぐに、綺麗に磨かれた大理石の壁が伸びている。


 高さ10m、幅は8m程はあろう。

 30m毎に十字路になり、そこからまた正面左右に30m進むとまた十字路になる。

 それをひたすら繰り返すのだが、正しい道は一つだけで、それ以外は全部魔障溜まりから生まれた魔物や罠で埋め尽くされている。


「あ〜、宝箱も全部同じ場所なのかぁ。一定時間で復活するから、危険さえ対処出来ればそこそこに稼げるんだなぁ」

 ワクワクしながら地図を見ているが、棚橋としては気が気でならない。

「そんな余裕あるのですか?急ぎましょう」

「そうだね。そんじゃあ高速で向かいますか」


──ヒュンッ

 空飛ぶ絨毯を広げると、マチュアと棚橋はすぐに飛び乗る。

「じゃあ、徘徊型モンスターがでたら対処、可能なら高度を上げて無視の方向で……」


──コクリ

 覚悟を決めた棚橋が頷くのを確認すると、マチュアは高速で絨毯を飛ばし始めた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 第十層からは壁が大理石から剥き出しのゴツゴツとした岩になる。

 壁に仕掛けられていた灯りの魔法ギミックもなくなり、真っ暗な通路が伸びていく。


──カッ‼︎

 絨毯に付与してある魔法のヘッドライトを点灯すると、更に速度を増していく。


──ドスン……ドスン……

 前方から、高さ5mものゴーレムがゆっくりと歩いてくる。

 そして上空からはワイバーンの群れ。

 この辺りが敵を避けて飛ぶ事が出来なくなってくる。

「マチュアさん、降りて戦わなくては‼︎」

 慌てて闘気を練り込む棚橋。

 だが、マチュアは空間収納チェストから炎帝剣を取り出して、カチャッと構える。

 右ひじを大きく頭の後ろに引き、剣の先を敵に向ける。

 頭の横から剣が伸びるように構えると、突然絨毯な周囲に真っ赤な炎が生み出された。


──ゴゥゥゥゥゥッ

 やがて絨毯の周りの炎が、アメリゴのステルス機のような形に変わっていく。

「こ、これは……」

「うんまあ。大規模近接攻撃でね。突進技なんで滅多に使わないんだけど、今日は使う‼︎」

 さらに加速すると、マチュアは敵の真ん中を一気に突き進んだ‼︎

「必殺、フレイムシュートっっっっ‼︎」


──ジュゥゥゥゥッ

 外部温度に耐えきれず、ゴーレムは溶けて崩れ、ワイバーンは燃え上がり墜落する。

 そのまま真っ直ぐに突き進むと、真後ろには大量の溶けたゴーレムとワイバーンの死体が転がっている。


──ゴクッ

 その光景には、棚橋も思わず固唾を呑む。

「正に敵なしですか……」

「まっさかぁ。正直言うと、ストームには勝てる気がしないわよ。後は……」

 ゆっくりと指折り数える。

 その本数の多さに、棚橋も唖然とする。

 マチュアでさえこの強さなのに、まだ上がいるという事が信じられない。

「結構いますねぇ」

「でしょ?さて、階層守護者の部屋だから本気出すからね」


──トン

 軽く棚橋を叩き、戦闘強化の魔術を付与する。

 そのまま守護者の間に飛び込むと、マチュアも絨毯から降りて術式を展開した……。


 体高8m、体長は15mの5つ頭のヒドラが、ゆっくりとマチュア達の目の前に現れた。

「グフォッグフォッ……」

 口から炎を吹きながら近寄ってくるヒドラ。

 すると、マチュアと棚橋は左右に分かれて真っ直ぐに走り出した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──シュゥゥッ

 マチュアの翳した掌から、棚橋の背中に魔力が注がれると、彼方此方あちこちの火傷の傷がスッと消えていく。

 先のヒドラとの戦いで、棚橋はあちこちをブレスによって焼かれ、中度の火傷を負ってしまった。

「闘気ではブレスは防げないのです……」

「いや、防げますよ。棚橋さんのは闘気が薄いのですよ。体表を覆う膜のような闘気ではなく、棚橋さんは純粋に身体強化、それも打撃力と反射力を高めてますからねぇ」

「やられる前にやれ。それと、プロレスで鍛えた自慢の体なんですけど」

「悪くはないと思う。ただ、闘気コントロールを身に付けた方がいいよ……」


──シュゥゥッ

 やがて全身の傷が癒えるのを確認すると、マチュアは空間収納チェストから豚汁の入った寸胴とおむすびを取り出す。

「ほい。ご飯にしましょう。ここから先は慎重にいかないとね」

 空の椀とおむすびを手渡すと、セルフサービスで食事を始める。

 棚橋も両手を合わせて一礼すると、黙々と食事を始める。

「この階層で二十階層はおしまいですか。あと三層ですね」

「そうだなぁ。ここまで二十二時間、後十四時間で五層かぁ……正直、時間ないんだよなぁ」


「もしパーティーが水や保存食を持っていたら?」

「また可能性は上がるけどねぇ。問題は、パーティーが動いている場合。体力を消耗するから、どうなるかわからないんだよなぁ」

 腕を組んで考えてしまう。

 マチュアのような拡張エクステバッグを所持しているのなら、食糧に困る事はない。

 だが、これは高額で取引されており、未だ一般に出回っているものではない。

 なら、出来るだけ早く向かう必要がある。


 急ぎ食事を終えると、マチュアは再び絨毯を飛ばした。


………

……


 深淵の回廊・第二十五階層。

 地下水脈の両側に伸びる道。

 ここも途中からあちこちに横道が発生し、どの道が正しいのか未だ不明である。


 階段を下りやってきた広いフロア。

 そこには、二つの死体が転がっている。

 絨毯のヘッドライトで死体を照らすと、既にあちこち食い散らかされた感じの死体が見えた。

 男か女かさえも分からず、転がっている防具や動画から、一人がレンジャーであることはわかった。

 だが、もう一つはローブ姿で、その下には金属製の胸当てが見え隠れしている。


「うん。まず二人の死体だね……」

 近くまで飛んでいってナムナムと手を合わせる。

 横では棚橋も一緒に冥福を祈っている。

「こういう方々は回収しないのですか?」

「どっちでも。回収する義理はないし、棚橋さんが回収して欲しいと言うのなら、それでもいいよ」

 そう告げるマチュア。

 すると、棚橋からは予想通りの答えが返ってくる。

「では、回収をお願いします。ここで出会えたのも縁ですから」


──シュンッ

 すぐさま別の拡張エクステラージザックを取り出すと、そこに死体と遺品を放り込む。


「そんじゃ、先に行きますか……」

「声掛けした方がいいのでは?」

「そんな事したら、敵もわんさか出るわいな……」


──ダン‼︎

 力一杯足踏みすると、魔法陣を起動する。

「生命感知……お、こっちかな?」

 魔法陣の示す方角にゆっくりと飛んでいく。

 いくつもの角を曲がり、複雑な道を進む。

 三時間ほどのんびりと飛んでいくと、広いフロアーのような空間に到着した。


………

……


「て、敵か……」

「頼む、もう許してくれ……」

「神さま……」

 マチュア達のヘッドライトに驚いた声が奥から聞こえて来る。

 なので、マチュアはのんびりと声の方角に進むと。

「はろう。幻影騎士団のマチュアですが、生きてる?」

 奥のくぼみに隠れて、6名の姿が見えた。


──ゴソッ

 マチュアの声、そして名前を聞いて、ひとりのエルフが姿を現した。

 弱々しく手を振っているが、助けが来た事で笑みを浮かべている。

「ぁぁ……助かりました……」

「そうかそうか。それじゃあ、今からそっちいくから、少し待っててな」

 そう告げてから、マチュアは棚橋の方を見る。

「これ、棚橋さんでも使えるので、みんなの元に向かってください……これが水袋、こっちがパン。急いでそっちに向かったら、くぼみに隠れてください」

「わ、わかりましたが……」


──ヒョイ

 素早く飛び降りると、マチュアは修練拳闘士ミスティック装備に身を固めて、今来た入口に向かって走り出した。


──ククククク……

 低い笑い声と、異様な雰囲気。

 そして感じられる膨大な魔力。

 やがてマチュアの視界には、紫色のローブで身を包んだ人物が見えて来た。

 フードの中から見えるのはミイラのような骸骨。

 全身のいたるところに装飾品を施したその姿は、見たものに恐怖を刻み込んでくる。


「やあ。まさかとは思うけど……真祖アンジェスター?」

「ほう。その言葉を聞くのは久しいな。だが、我は真祖にあらず。エルダーリッチとでも伝えれば理解できるかな?」

 そう告げて、エルダーリッチは右手をマチュアに差し出す。


──ヒョォォォォ

 その手から、次々と死霊が生み出されると、一斉にマチュアに向かって襲いかかって来た。


──ヒュヒュンッ

 すかさずマチュアも高速で印を組み込む。

「天秤の女神の名の元に。始原の魔よ、我が手に集いて力をなせ……聖盾招来っ」


──ビジィィィィィッ

 マチュアの目の前に透明な盾が生み出される。

 表面には古代魔法語による神々への賛美歌が記されており、そこから発する光で死霊達は全て浄化された。


「ほう。秩序の女神ミスティの加護があるとは。ならば、こちらも本気でいかせてもらえそうだな」


──ヒュヒュンッ

 エルダーリッチの周囲に黒い球体が生み出された。

 周囲を稲妻が走っている球体。

 これが生み出された途端、マチュアの体内から魔力と生命力がごそっとえぐり取られた。

「神聖魔法禁呪・混沌の大食らいケイオスイーターとはねぇ……」

「ほう。これを知っておるのか。ならば、もう貴様に勝ち目がないのはわかったであろう……これを通して得た力は全て我のものとなる……」


──ガクッ

 マチュアも膝をついてしまうが、どうにか意識は保っている。


 この魔術に対しての防御方法など、この世界には存在しない。

 一度でも混沌の大食らいケイオスイーターを召喚すると、召喚者の意思とは関係なしに周囲のものを喰らい尽くしてしまう。

 だが、命なき者のみが、これを使役し自在に操る事が出来る。

 まさにエルダーリッチの為の魔術のようなものである。


「はぁ……なら、その大食らいが腹一杯になるまで食わせてあげるわよ……」


──キィィィン

 マチュアの魔力が神力に切り替わる。

 神威モード1を解放した。

 それすらも、混沌の大食らいケイオスイーターは次々と吸収する。

 そしてエルダーリッチの全身が綺麗に輝き始めた。


──パァァァァァッ

「お、おおお……これは神の力……素晴らしい、実に素晴らしいぞ‼︎」

 両手を開いて歓喜に震える。

 だが。


──ドロッ……ドシャァッ

 突然左腕が溶けて崩れ落ちる。

 これにはエルダーリッチも驚きの顔になる。

「な、何が起こった?」

「アンデットが神の力を吸収するからだよ。神威祝福ゴッドブレス、バンパイアすら浄化する神の祝福を吸収したからねぇ……」

 その言葉をきいて、エルダーリッチは慌てて混沌の大食らいケイオスイーターを消滅させた。


──ヒュゥゥゥンッ

 マチュアはすぐに空間収納チェストに手を突っ込んで、ジャック・オ・ランタンのシャッターを開く。

 ランタンの中の魔晶石が光り輝き、マチュアの全身に魔力を循環させる。

「完全治癒……と、さて、ここからは私のターンだよ……」


──ガガガキィィン

 両手のアダマンタイトナックルを鳴らすと、マチュアはエルダーリッチに向かって縮地で間合いを詰める。


──キィィィン

 右拳に神威を集めると、そのままエルダーリッチの顔面を殴りつける。

秩序の女神の拳ジャッジメントブロウっっっ」


──カッコォォォォーン

 透き通った金属音と同時に、エルダーリッチが後方に吹き飛ぶ。

 顔面はゆっくりと溶け始め、全身を痙攣させて身動きも取れない。

「説明しよう‼︎秩序の女神の拳ジャッジメントブロウは、拳に神威を纏うことにより繰り出される一撃である。対象者が悪ならば死を、善ならは癒しを与える……つまりテメェは死ぬ‼︎」


──ウォォォォォォ

 悲痛な叫び声をあげていたエルダーリッチは、やがて物言わぬ白骨死体になり、やがて塵となって消えていった。


「ふぅ。久し振りに本気出したわ……と、そっちは大丈夫?」

 窪みに隠れていた棚橋達に話しかけるマチュア。

 すると、棚橋だけが姿を見せた。

「とりあえず水を食料を渡してありますが、一人は瀕死です……」

 ふぅん。


 エルダーリッチの倒れているところのアクセサリーや短剣などを回収してから、マチュアは窪みへと向かう。

 そこでは、かなり深手を負った壮年の男性とエルフの青年、若い戦士、スチームマン、そして日本人の青年と女性が横になっていた。


「お、お前が助けに来てくれたのか?早く助けろよ……」

「そうよ。もう一歩も動けないわ。その絨毯で運んで頂戴」

 そう叫ぶ日本人は無視して、マチュアは地元の冒険者に治療の術式を発動する。


──シュゥゥッ

「しっかし……報酬に目が眩んで連れてきたあんた達も責任あるわねぇ……」

 おそらくリーダーであろう戦士に話しかけると、申し訳なさそうな顔をしている。

「本来ならここまで来る気は無かったのですよ。何故かトントン拍子にここまで来れてしまって……」

「ええ。20層で帰る予定だったのですが、21層からは宝箱の中身も変わりますから……」

 女性型スチームマンがそう告げているので、マチュアも棚橋もやれやれという顔をしている。


「しかし、女性に良いところを見せようとして来たっていうのは、俺はどうかと思うが」

「まったくだわ。それで遭難していたら目も当てられないわねぇ」

 呆れた顔の棚橋とマチュアだが。

「そんな事はもう、どうでも良いだろ。早く助けろよ」

「彼のお父さんは国会議員なのよ?私たちにそんな口を聞いて良いと思っているの?」

 偉そうに呟く二人。

「君たちの所為で、彼らは全滅しそうになったのだぞ?それを分かっているのか?」

 声を荒げる棚橋。

 だが、マチュアは棚橋の肩をトントンと叩く。


──ゴソゴソッ

 するとマチュアは、空間収納チェストから予備の水袋や食料を取り出して床に置くと、棚橋の乗っていた絨毯に飛び乗る。

「さてと、そんじゃ、これが予備の食料と水ね。じゃ、頑張って帰って来てね?」


──ヒョイ

 すぐさま棚橋も飛び乗ると、マチュアと棚橋は来た道を高速で飛んでいく。


「あ、た、ちょっと待てよ、そんなことして良いと思っているのか?」

「い、今ならまだ許してあげるから……ね?」

 そんな声が後ろから聞こえるが。

 マチュアと棚橋は返事もせずに曲がり角を曲がった。


「……本当に帰るのですか?」

「いえーす。一言も謝らず頭を下げない奴など知らんわ。私は、あの手のボンボンは痛い目を見せてあげる事にしている。そう、痛い目に合わせるのです‼︎」


 大切な事だから二回言った模様。

 これには棚橋も頭を抱えている。

「ですが、遭難した彼らを救助しに来たのですよね?」

「怪我も治したし食料も水もあげた。ここまでの地図は多分あるから帰り道も判る筈。つまり、もう遭難者ではない‼︎」

 きっぱりと言い切る。

「でもまあ、可哀想だというのなら……」

 絨毯全体を遮音結界で包み込み、さらに透明化する。


──ヒュゥゥゥンッ

「……何をしましたか?」

「この絨毯の上の声や音は外には聞こえない。しかも透明化してるので外からは見えない。のんびりとついて行きましょう……」


──ドサドサッ

 空間収納チェストからティーセットや酒を取り出すと、マチュアは棚橋にも食べるように勧める。

「……本気で何もしないのですか?」

「する訳ないじゃない。依頼は失敗で構わないわよ。少なくとも、あのメンバーなら上の階で遅れを取ることはないわ。そういう事なので」

 にこやかに告げる。

 なら、棚橋も従うしかないという諦めた。


「これで日本に戻って、どういう反応をするか楽しみですか?」

「まあね。今の日本にとっては、カリス・マレスと縁を切るっていう選択肢はないはず。あのボンクラ達の言葉をきいて、それでいてカリス・マレスや私を叩くのなら、日本にとってどれだけの不利益が生じるか思い知るでしょうから……」


──クックックッ

 あ。

 黒いマチュアが顔を出してる。

 悪い笑みを浮かべて不敵な笑いをしている。

「はぁ……私が日本大使館の責務から外されるかもしれないのに……」

「力一杯擁護してあげるわよ。彼は、異世界等関連法の冒険者に関する条項に一つも違反していないって。それでも責任を追及するのなら、その時は、その議員を捻り潰すだけ……あ、来た」


 そんな話をしていると、冒険者達が窪みから出てきて出口へと歩き始める。

 例の男女はというと、パーティーの真ん中で何か文句を言っているようだが、冒険者達に怒鳴られてシュンとしていた。


「……まあ、これで懲りるとは思えませんが、少しは反省してくれると良いですね」

「むしろ報酬につられた冒険者が反省しろと言いたいわ。結果として二人死んでいるからね?」

 そここそがマチュアの怒りの根幹。

 それを告げられると、棚橋も黙ってしまう。

「この件については、事細かい報告書も作りますよ。生き残ったメンバーからも事情を聞いて」


──コクリ

 マチュアもそれには同意する。

 是非そうしてくれと告げると、マチュアと棚橋は20層までは危険がないかこっそりと同行し、彼らが20層まで戻ったのを確認すると、後は無視してカナンへと転移した。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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