悪魔の章・その38・やる事はやったから良いよね?
武闘大会から暫くして。
シャイターン王領、グラントリ王領、サンマルチノ王領、およびシュピーゲル王領の四つの地域全ての都市や集落に至るまで、全ての地域で『東方地区のヒト族への領地権』と『ヒト族領でのヒト族に対しての虐殺および略奪行為の禁止』が発令された。
これには三王も何処と無く嬉しそうに公布し、東方大陸においてのヒト族の領地内での地位は、魔族と同等に扱われる事となった。
ワルプルギスでもこの公布には色々と悶着があったが、大陸王とシャイターン王の命令のため、渋々ながら了承。
これから各都市でも、少しずつヒト族の受け入れが始まるだろうと噂が流れていた。
………
……
…
「よいしょ……」
ワルプルギスから離れた街道筋で、マチュアは土木作業をしていた。
冒険者ギルドで購入した地図を参考に、ヒト族に解放された土地の境界線を作っている。
「ここから直線で……そりゃあ‼︎」
──ドゴドゴドゴドゴッ
地面に向かって拳を叩き込むと、ストーンウォールの魔法で高さ5mの壁を作っていく。
直線で城壁を作っては、また地図を眺めて目視測量。
多少の前後は気にせずに、どんどん壁を作っていく。
「さて、そんじゃあここまでは魔法でロックして……よしよし」
ストーンウォールが消えないように永続化魔法で固定すると、またある程度の距離まで城壁を作る。
草原を超えて森を抜けて、湖は無理なので対岸へと渡る。
一定の距離までやったらワルプルギスに帰り、また翌日作業を始める。
十日もすると、地図上の国境線にはマチュアの作った城塞が完成した。
そしてワルプルギスに戻る途中。
城壁からほんの1kmの所がヒト族に解放された土地である事を、マチュアは改めて知った。
……
…
「うわぁ。また派手にやったなぁ……」
ワルプルギスからやってきた冒険者が、ヒト族との国境線にある城塞までやって来る。
この三人組のパーティーはパスカル雑貨店の常連達で、マチュアが国境沿いに何か作っているって噂を聞きつけ、狩のついでにやって来た。
ちょうど最期の城壁を固定したマチュアが、大きめの岩を設置して石碑に加工し、トンカンと文字を彫っている最中であった。
「ふぁ、誰かと思ったわ。どしたの?」
マチュアは削る作業をやめて、六尺の脚立から降りる。
「この先の森まで行きたいんだよ。ここ、通っても大丈夫なのか?」
「さぁ?」
あっさりと告げるマチュアに、今度は三人か頭を傾ける。
「さぁ?って、この前、東方はヒト族の領土として認めるって話だったよな?」
「マチュアさんも、それで壁を作っているんだろう?」
「街道筋に門とかは作ってないなら良いんだけど」
そう言われても、マチュアとしては『暇つぶしと示威行動』として壁を作っただけ。
そもそも神聖アスタ公国に対して、領土権を認める旨の書面など受け取っていない。
なので、答えは一つ。
「別に通っても良いんじゃない?ここにヒト族の騎士とかが常駐して、通行税を徴収し始めたら考えないとならないけど。まだ話通してないからなぁ……」
そう呟くと、三人もそうかそうかと納得する。
「じゃあ、それまでは自由ということで」
「行きましょうか」
「そうだな……それじゃあマチュアさんも頑張れよ」
手を振らながら城壁を超える三人。
それを見送ってから、マチュアはまた脚立に登って文字を刻み始める。
刻み込まれたのは『ここより神聖アスタ公国』の文字。
魔族が普通に使っている公用文字でしっかりと刻み込むと、石碑自体に保護と強化の魔法を付与する。
「永続化を施して……これで良し」
静かに石碑が淡く光る。
これを各街道に設置して、マチュアの仕事はおしまい。
「次に、この石碑を量産化……材料は石材で……」
──ブゥゥゥン
「量産化発動……おっふ、四日?」
大型石材の大量生産。
魔法陣も巨大なものとなり、時間も掛かる。
ここでのんびりと遊んでいても面白くないので、マチュアは一旦、ガイアと話を付けに行く事にした。
──ガチャ
虹色の鍵を取り出し、空間に差し込む。
そしてゆっくりと捻ると、マチュアは一瞬で白亜の空間へと転移した。
………
……
…
「お〜い、ガイアとファーマス。何処にいるの?」
大声で叫んで二人を呼ぶ。
──スッ
すると、空間から大地母神ガイアと暗黒神ファーマスが実体化して姿を現した。
「は〜い、マチュアさん、見てたわよ。よくぞあの勇者を叩き潰しましたわね。いよいよ魔族の絶滅ですフベシッ‼︎」
──スパァァァァン
にこやかに告げるガイアの顔面に、アダマンタイト製ツッコミハリセンを叩き込む。
「ひ、ひどい。痛くないけれどプライドがズタズタ……」
「魔族の殲滅なんて言うからですよ。それでマチュアさん、ここに来た理由は?」
ファーマスは丁寧に頭を下げる。
ならばと、マチュアは国境線を記した地図を取り出す。
「ここのラインで、わたしが城壁作ったのよ。この内側はヒト族の領地になったのよね。もうルフト・シュピーゲル王の名で公布もされたから、ここにヒト族の加護をあげて欲しい訳さ」
空間に地図を広げると、ファーマスは腕を組んでニコニコと笑う。
「あ、なら、そこまで神威結界を広げましょうよ。魔族絶対殺す結界を……」
──パシンパシン
手にしたハリセンでガイアの頭を軽く叩く。
「共存するって言ったでしょ?ガイア、ファーマス、隔絶するのではなく受け入れる結界は作れる?」
真剣に問いかけるマチュア。
すると、二人も真面目に考える。
「そうね。まず結界の基礎を作りましょう」
──パチン
ガイアが軽く指を鳴らす。
これで指定エリアは神聖化された。
「エリア内の魔族の力の半減……いえ、冒険者レベルのレートの均一化ね……土地全域に豊穣の加護。ここまではどう?」
ドヤ顔でマチュアを見るガイア。
すると、ファーマスが指を鳴らす。
「エリア内の魔族の凶暴化抑制、大回帰の中和……と」
ファーマスも加護を発動すると、ガイアと顔を見合わせる。
「……何で、これを前からやらなかったのよ」
呆れて問いかけるマチュア。
こんなものがあるのなら苦労はない。
だが、二人の理由を聞くとなんとなく理解できた。
「人間が希望を持たなかったので、わたしはこの加護を発動するだけの力はなかったのよ」
「そもそも、俺はかなり昔に消滅していたから」
そう力説する二人。
成程、それは仕方ないか。
「後、大前提として、わたし達ジ・アースの神々は、キッカケがないと直接的な干渉は出来ないわ。マチュアさんが領土問題を解決して、その世界でのルールで決めてくれたので、ならばとボーナスステージを作れただけ」
「そこは異世界転移者扱いのマチュアさんの力なので、我々が主導でどうこうする事は出来ない。この後はどうするのですか?」
興味深々で問いかけてくるのだが、マチュアはもう仕事はお終いと考えているので。
「へ?帰る。もうジ・アースでの仕事はないでしょ?」
あっさりと告げて見ると、ガイアとフォーマスの顔がサーッと青くなっていく。
「いやいやいや、まだ終わりじゃないですよ。大陸一つしか、それもまだ問題は残っているじゃない」
「ルフトはまだ色々とやらかしますよ。それに残りの三つの大陸が、復興を始めたヒト族を黙って見ている筈がないですね」
──ハァ……
思わず溜息をつく。
まだまだ課題はあるようだ。
こんな事、引き受けるんじゃなかったと、今更ながら少しだけ後悔する。
「仕方ないかぁ。じゃあ、もう少しだけ手伝いますよ……」
──ホッ
とりあえず胸をなでおろす二神だが。
「そのかわり条件がある」
「まあ、無理のない範疇でなら……」
「そうそう。出来る事はするから、何でも言ってくれ」
ニヤリ。
その言葉は絶対だな?
そう考えたマチュアは、ガイアとファーマスの二人に告げた。
「ヒトの勇者としてレオニード、アレクトー、ボンキチ、ラオラオ、トイプーに神託をあげてくださいな。全ての大陸で事を成しなさいと。ついでに召喚勇者レベルのチートパワーもね」
この申し出には、ガイアもファーマスも耳を疑う。
「……へ?」
「その面子はあれか。この前、ヒト族に転生した連中か……」
すぐさまガイアとファーマスは隅っこで相談を始める。
まあ、広い空間なので隅っこも何もないのだが。
「言っとくけど、無理、とか駄目って言ったら帰るからね。この世界の事なんだから、この世界の人がやるのが理想でしょうが」
──ビクッ
そのマチュアの言葉に、二人とも身体を震わせる。
事は重大、自分達の存在が消滅するかもしれないのだから。
そこからあーでもないこーでもないと盛り上がっている二人。
一時間程何やらやっているので、マチュアはその間に深淵の書庫を起動して、そこで昼寝を決め込んだ。
………
……
…
「マチュアさ〜ん、起きてくださいよ」
「話し合いは終わりましたよ」
深淵の書庫の外からマチュアを呼ぶ二人。
──パチン
「ふぁ?」
まだ眠い目をこすりながら、マチュアは深淵の書庫から外に出る。
「で?どうなったの?」
「最初にルフト・シュピーゲルに与える筈だった加護を、いくつかに分割して与える事にしました」
「幸いなことに、今の五人は役割がハッキリしているので、綺麗に分けられたので……」
ほうほう。
それは重畳。
あの五人が強くなって世界を旅するなら、それに越した事はない。
「そこで、早速、神託を授けてきましたので。あの五人は次代の勇者として、世界を旅してもらいます」
「まず、ルフト王からこの大陸の覇権を取り戻すように伝えました」
ふぅん。
ふと考える。
「……なら、私、やっぱりいらないじゃない」
「「いえいえ」」
同時に頭を振るガイアとファーマス。
「確かにこの先は勇者達の仕事ですが、どうしても手に負えない事があるかもしれないのですよ」
「ですから、その時には助言なりなんなりを与えてあげてください」
「もう、神託では、どうしても不可能な困難にあったらマチュアさんに助力を求めてくださいと……」
「悪魔は気まぐれ、答えをくれるかどうかはマチュアさん次第と話してありますので」
次々と無茶振りしてくれる。
まあ、それでもこの世界の人々に神託を与え、加護を発動したのは良い傾向である。
「なら、あとは私はのんびりとしているから。この件はセシリア女王にも神託で伝えてくださいね」
「ええ。同じ内容を伝えておきますので……」
そう呟くと、ガイアはすぐさま手を組んで瞑想を始めた。
「それでは、私はこれで……また何かあったら来るので、宜しくね」
そう二人に告げてから、マチュアは神聖アスタ公国へと向かう事にした。
………
……
…
神聖アスタ公国・公都アスタート。
酒場カナンに転移したマチュアは、悪魔っ娘モードで箒に跨ると、久し振りに王城へと飛んでいく。
城門から中に入り、正門で騎士と話をして、真っ直ぐに入城すると、ノンストップで謁見の間に案内された。
広い謁見の間には、すっかり立派になった近衛騎士団が控えており、正面玉座から降りてきたセシリアがマチュアを待っていた。
「お久しぶりです、マチュア様。本日はどうかなさりましたか?」
「一つ報告に来ました」
そう話してから、マチュアは新しくヒト族の領地となった場所を記した地図をセシリアに手渡す。
「今の大陸王、勇者ルフト・シュピーゲルから手に入れた神聖アスタ公国の領地です。この東方地区をヒト族の領地とする事、この地区でのヒト族に対しての襲撃は行わない事を認めさせ、公式に発令させました」
「え……そ、それは本当ですか?」
マチュアの報告に体を震わせる。
もう、結界の中で魔族に怯える必要がないのか。
この時が来るのを、セシリアはずっと待ち望んでいた。
「ああ。この日が来るのを、わたし達は待っていました……外の世界へ出る事が出来るのですね?」
「まだ先ね。これからルフト・シュピーゲルに正式な書面を書いてもらってから。ガイアからの神託はあったかしら?」
そう問いかけてみると、セシリアは嬉しそうにゆっくりと頷いた。
「はい。先程……人間の勇者に加護を授けたと……但し、勇者は魔族の討伐ではなく、人と魔族の共存のために力を振るうと……」
涙を浮かべながら話しているセシリア。
これでマチュアの仕事は殆どおしまい。
「なら、悪魔の仕事はここまでね。後は人間の勇者に委ねられてあるので、何かあったらフリージアかシャロン、ステアに話して私を呼んで。それじゃあね」
右手をヒラヒラと振りながら、マチュアは謁見の間から外に出る。
その姿を、セシリアは頭を下げて見送っていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「平和やわ〜」
久しぶりのカナン。
幻影の腕輪でハイエルフモードに変化して、マチュアはのんびりと馴染み亭のベランダ席で昼ごはんを堪能している。
ここで三日ほど過ごしてからジ・アースに戻り、アスタートのレオニード達とワルプルギスのボンキチを入れ替えて、またこっちで三日ほど堪能しようと企んでいる。
「……店内にアメリゴの人が多いのは何故だろう……」
日本経由でカナンにやって来るアメリゴの観光客が増えているせいか、店内でも大勢のアメリゴ人が食事を楽しんでいる。
──コトッ
ジェイクがシードルと簡単なツマミを持ってマチュアの 元にやってくる。
「マチュア様、近隣の酒場や宿からもWi-Fiを設置して欲しいという問い合わせが来ていますが」
「異世界大使館の仕事……っていうか、決定権は私か。どうするかなぁ」
しばし考える。
異世界ギルドや馴染み亭に引くのとはわけが違う。
相手の店舗に直接空間を繋げ、そこと異世界大使館を繋がなくてはならない。
一つ二つならいざ知らず、噂が噂を呼ぶと10や20ではきかなくなる。
それこそ電柱でも立てて、上を通した方が遥かに安全なのだが、それでは景観を損なう。
魔導式Wi-Fiでも開発しない限り、この案件は不可能である。
「……ん、却下。悪いが諦めて貰う。後、何かある?」
そう目の前に立っているジェイクに問いかけると。
「馴染み亭としては特にありませんね。転移門の向こうの商品をもっと扱って欲しいとか、商人ギルド向けの案件ならございますが」
「ん、その辺はフィリップさんとツヴァイに任せるよ……よし仕事終わりだ。何して遊ぶかなぁ」
そう呟きながら、ベランダ席で晩酌を楽しむ。
時折、記念撮影を求めてくる観光客と一緒に写真を撮ったりしているが、それもいつもの事。
やがて程よく酔いが回ったので、マチュアは久しぶりの自宅での熟睡モードに突入した。
………
……
…
──ピッピッ
枕元の目覚ましが鳴り響く。
まどろみながら手を伸ばし、ガチャッと止める。
「ふぁぉぁ……五時半か。起きる時間だと……」
パジャマのまま洗面所に向かうと、宿泊客に混ざって朝の身だしなみを整える。
そして朝食を取りに一階に降りていくと。
「あ、マム・マチュア。おはようございます」
日本大使館の棚橋とツヴァイが、マチュアを見て深々と頭を下げていた。
「おはようございます……って、朝っぱらからそのコンビだと、嫌な予感しかしないんだけど……」
そう
憎まれ口を叩きながら、マチュアはいつものベランダ席に向かう。
ちょうど席に着くタイミングで、ジョセフィーヌが朝食を運んでくる。
「さて、私は今朝食タイムですけど……何があったの?」
「深淵の回廊第25層の調査依頼をお願いしたい……」
深々と頭を下げる棚橋。
その横では、ツヴァイも頭を下げている。
「……何かあったの?」
一旦朝食の手を止めると、マチュアが二人に問いかけた。
すると、ツヴァイが一つ一つ説明を開始する。
「深淵の回廊25層到達者が出ました。ですが、そのパーティーはその直後に何者かに襲撃されたそうで、どうにか逃げ切ったらしいのですが、自力帰還は不可能だそうです」
「なるほどねぇ。で、その報告は誰が?」
「襲撃を受けた時に地上に向かって逃げた者がいたそうです。まだ中でメンバーが生き残っているので助けて欲しいとの連絡も受けてます」
「その中に日本人が二人いるのだ。捜索隊を出したいのだが、場所が場所なので、誰も受けてはくれない……急がなければならないのです」
そのツヴァイと棚橋の説明で、マチュアもなぜ急いだのか理解できた。
「はぁ。3の法則ですか……その帰還者は襲撃から何時間後に帰還したの?」
そうツヴァイに問いかける。
「帰還したのは一日半後です。それからすぐに来ました」
「という事は、残り三十六時間か……キツイなぁ」
「はぁ……カリス・マレスの人が3の法則を知っているとは思いませんでした……」
「黄金の七十二時間でしょ?地球で教えて貰ったわよ」
マチュアの言う黄金の七十二時間。
人間は、水を飲まなければ3日間でおおよその生存限界がやってくる。
これにより、脱水症状によって死に至る事になるので、3の法則と呼ばれている。
日本では七十二時間の法則と呼ばれているものであり、災害の状況にもよるが、この時間以内に要救助者を救助出来なければ、その生存率が一気に下がるというものである。
「今から道順を聞いて、パーティーを組んで救援に向かったとして……ギリギリかぁ」
「ですので、マチュアさんにお願いしたいのですよ。どうにか出来ませんか?」
日本大使館から異世界ギルドへの要請。
しかし。
「ギルド案件だから幻影騎士団もカナン魔導騎士団も動かせないかぁ……シスターズも手が余ってないし……」
「大使館の職員は?」
「無理だわ。仕事があるから」
アッサリと言い切る。
こうなると、諦めて貰うしかないのだが。
「そもそも、地球人の冒険者ならば自己責任でおしまいじゃない。この前は助けたけど、今回も助けてもらおうなんて甘くない?」
冷たくあしらうマチュア。
こんな事が続くと、そのうちカノン以外の国でも同じような事が起こるかもしれない。
「それはわかっています。ただ、今回は特別でして……」
「その特別の内容で考えるわよ。本当に、自衛隊から何名か派遣して貰って、冒険者訓練施設で講習受けろと言いたいわ」
そうマチュアが告げるも、棚橋は申し訳なさそうにマチュアに説明を始めた。
「今回の行方不明者は、ある国会議員の息子さんとその彼女でして。冒険者の素養も無く、ただ彼女に格好のいいところを見せたい一心でベテランパーティーを雇って同行したそうで……」
──ガクッ
申し訳なさそうに、流れる汗を拭いながら告げる棚橋。
「うん、死んで良いわそんな奴。自分の都合で他人を危険にさらすやつは生きる価値なし……ツヴァイ、この案件放棄して」
そう告げるマチュア。
するとツヴァイも棚橋に頭を下げた。
「と言う事です。最初に棚橋さんに説明した通りの結果ですよね?」
「では、マチュアさんに依頼という形では?報酬も支払いますよ」
そう来たか。
それなら、冒険者としての依頼なら考えよう。
「悪いけど、場所が場所、しかも殲滅では無く捜索任務。死んでいても文句言わないでね?」
「ええ。マチュアさんを雇う場合の支払い報酬はおいくらですか?」
──うーん
腕を組んで考えてしまう。
場所が場所だけに、白金貨一枚程度では割に合わない。
「世界最強の賢者を雇うのよ?白金貨20は欲しいところね?」
「ひいふう……二千万?捜索だけで?」
流石の棚橋も驚く。
それなら自衛隊に依頼した方が安上がりである。
「そ、それなら自衛隊に依頼して許可を取った方が良いですね」
「悪いけど近代兵器や機械類の持ち込みは禁止だからね。人道支援とか、うちは関係ないので」
「そこまでしますか‼︎」
流石の棚橋も唖然とする。
「そりゃそうよ。カリス・マレスに持ち込んで良い機械類はご存知でしょう?それを無視する訳にはいかないでしょう?異世界等関連法でも、地球人冒険者の救助活動に関する記述はあるわよ」
──グッ
それを持ち出されると、棚橋も引くしかない。
「そ、それでは……マチュアさんにお願いします」
「了解。ちなみに棚橋さんの冒険者クラスとランクは?」
「ランクAの総合格闘家ですが」
よし、それなら行ける。
「依頼報酬は金貨十枚、棚橋さんが同行。これなら良いわよ」
この言葉にも、棚橋は口をパクパクしながらツヴァイを見る。
「ね。事前に説明した通り、うちのマスターはノリで生きてますから」
「二千万が二十万に下がりましたが、それで良いのですか?」
「ん。その代わり、ボンボン見つけたら何発かぶん殴って良い?全力で」
「それはどうぞ。それぐらいは……え?」
──トン
棚橋の返事を、ツヴァイは肩を軽く叩いて止めた。
「棚橋さん、そのご子息の死亡原因がマチュアさまの一撃になるので迂闊なことは言わない方が」
「そんなまさ……か……」
──ゴキゴキッ
拳を鳴らしてストレッチするマチュア。
そして体がほぐれたところで、空飛ぶ絨毯を引っ張り出して開く。
「そんじゃあ行きますか。棚橋さんも乗ってください、とにかく急ぎましょう……」
「は、はい‼︎もうすぐに出るのですか?」
「時間が惜しいからねぇ……」
──ヒョイ
マチュアの言葉で棚橋もロープを飛び越えるように絨毯に飛び乗ると、マチュアは超高速で深淵の回廊の入り口のある『竜骨山脈・頭頂山の麓へと飛んで行った……。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






