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悪魔の章・その37・勝利の代価と

 騒然とする武闘大会会場。

 マチュアの勝利は、誰も信じていなかった。

 予選の予選という訳の判らない所から、ずっと勝ち進んで来たのである。


「では、半魔族のマチュアに名誉と褒賞を与えよう」

 貴賓席の一番高いところから、ルフト・シュピーゲルがマチュアに叫ぶ。

 魔法によって声は会場全域に広がっている。

「なら、大陸東方をヒト族の領有地と認め、手を出すな!」

 堂々と言い切ったマチュア。

 まずはこれを認めさせる。

「それは無理だ。ヒト族や亜人種は滅ぼさなくてはならない……例え大会で優勝しても、それは認めない」

 うん。

 そう来るとは思っていた。

 ならばやることは一つ。


「ならばルフト・シュピーゲル、今、この場で私と戦え。それで私が勝ったら認めろ‼︎私が負けたらこの首をやる‼︎」

 ここまで堂々と言い切ったら、ルフト王も引くわけには行かない。

「よし、その勇気に免じ、我と一騎打ちする事を認めよう。そこで待っていろ」

 良し良し。

 言質取った。

 ならばマチュアも全力で行こう。


──シュンッ

 久しぶりの白銀の賢者装備。

 中身は当然修練拳闘士ミスティック装備である。


──ガインガイン

 拳を鳴らして待っていると、全身にがっしりと鎧を身につけたルフト王がやって来る。

 両腕には炎龍の籠手を装備し、マチュアの前に立っている。

「さて、約束は約束だ。俺に勝てたなら、大陸東方の地域はヒト族に開放し、魔族はヒト族の支配地域を侵さない……俺が勝ったら…貴様の命を貰う」

「了解です。そんじゃあ死合しあいますか」

 ペコッと頭を下げると、マチュアは開始線に向かう。

 ルフト王も同じ位置に立つと、マチュアの前で剣を両手に持って目の前に掲げた。


──ジャァァァァァーン

 大きくドラが鳴り響く。

 するとルフト王は素早くマチュアに向かって走り込むと、真っ赤に燃え盛る拳を叩きこんで来た。

粉砕ブレイクっ‼︎」

 すかさずマチュアもルフト王の拳に向かってワイズマンナックルを叩き込む。


──グワシャァァァッ

 その一撃で炎龍の籠手が砕け散り、ルフト王の拳も粉々になる。

「なっ、馬鹿な、第三階位アーティファクトだぞ、それを砕くなど」


──ブゥゥゥン

 さらに左拳でマチュアの腹部を狙うが、その拳に向かって、マチュアは上段から左拳で迎撃した。


──グワシャァァァ

 これでルフト王の両拳は破壊した。


 そこでマチュアは後ろに下がって構えると、ルフト王の両手がスッと輝き、拳が再生する。

「おおおおお、流石は勇者。回復魔法完備ですか」

「当然だ。それに……俺にはこれがある」


──シュンッ

 一瞬で巨大な両手剣を構える。

 それにはマチュアも数歩下がる。

「……さっきの拳ではなく、最初からそれを使えばいいのに……」

「切り札は最後まで取っておく。それが勇者だよ」


──フッ

 縮地でマチュアとの間合いを詰めると、すぐさま四連撃を叩き込む。


──ガガガガッ

 だが、マチュアは全てをナックルで弾くと、さらに懐に踏み込んだ。


──ドゴォォォォォッ

 会心の裡門頂肘(りもんちょうちゅう)

 これでルフト王の胴装甲も破壊され、後ろに吹き飛ぶ。

「そ、そんな……半魔族如きに、この俺が負けるだと?」

「そんな言葉いらないですから。ここで負けを認めておけば、無様に敗北する事はないですよ……」

 ボソッと呟く。

「ふざけるなよ。超身体強化ブレイジョンっ」


──ヒュンッ

 突然ルフト王の動きが変わった。

 全身の身体能力を何倍にも高まる技を駆使して、再びマチュアに挑む。


──ヒュンッヒュンッ‼︎

「この俺の動きが捉えられるか?どうだこの速度は‼︎」

 そう叫びつつ、マチュアにヒット&ウェイで殴りかかる。

 それは次々と命中するが、まったく大した傷にもならない。


──スッ

「あのね。殴るなら足を地面にしっかりとつけて。踏ん張りが効かないと威力は上がらない……」

 そのまま右拳をスッと引くと、その状態で手のひらを見せる。


──ドカドカッ

 次々と打ち込まれる打撃にも、マチュアはピクリとも動かない。

「どうだ、この動きが見えるか?」

 ドヤ顔で動き回るルフト王。

 だが。

「うん。しっかりと」

 真っ正面に高速で回り込むと。


──スパァァァァン

 ルフト王の右胸元に掌底を叩き込む。

勁砲けいほうっっ‼︎」


──ブゥン

 そこから浸透勁(しんとうけい)で衝撃波を流し込むと、ルフト王は後ろに吹き飛んで意識を失った。


「よし、ルフト王、約束だかんね‼︎」

 スッと拳を天に突き上げる。

 彼方此方あちこちから拍手が湧き上がると、それは会場全体を包み込んだ。


──ジャァァァァァーン

「この勝負、マチュアの勝ちとする‼︎」

 最後にシャイターン王が叫ぶと、ルフト王は再び騎士達に連れられて奥の間へと運ばれて行く。


 対ルフト王戦、マチュア二勝。


 盛大な拍手の中、マチュアはとっとと帰っていく。

 控え室に向かい装備を戻すと、マチュアは廊下をキョロキョロと確認して闘技場から外に逃げ出した。


………

……


 勝者なき閉会式。

 マチュアの代理人として、ライトニング卿が意識を取り戻したルフト王から勝者のメダルを手渡される。

 そして、その場で約束通りに東方地域全てをヒト族に開放する事を宣言し、魔族はヒト族に手を出す事を禁止した。

 その宣言の最中、ルフト王が幾度も歯を食いしばり苦痛に耐えていたのを、シャイターンやライトニングは見逃さなかった。

 それ程までに、マチュアに負けたのが悔しかったのだろう。

 そして大会は終わり、人々は帰路に就いた。


 ライトニングとレオニード一行が闘技場から出ると、マチュアがコソコソとやってくる。

「はぁ。マチュアさん、どこに隠れていたのですか?」

「林の中。とっとと帰ろ。もうここはいいわ」

 すぐさま馬車の中に逃げ込むと、マチュアを乗せた馬車はいち早くシャイターン王都から出る。

 そして適当な場所まで向かうと、マチュアがゲートを開いてワルプルギスのライトニング邸の敷地の中に帰って来た。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「……」

 ライトニングの屋敷に戻ってきた一行だが。

 レオニードたちは今ひとつ浮かない顔をしている。

「どしたの?」

「いえ、なんかこう……この大会で、自分の実力のレベルが以前よりも上がっているのは理解出来たのですが……」

「まだ足りないのですよ。大陸東方地域はヒト族に開放され、この大陸は三王と人の王が統治します。けれど、その上には、いつ気が変わるかわからない勇者王ルフトがいるのですから」

 そこはマチュアも懸念している。

 あのわがまま国王が、この後も黙っている筈がない。

 何処かで何かを仕掛けてくるとは思うし、何よりも。


「東方地域開放は宣言していましたが、亜人種・ヒト族の討伐命令は撤回していませんわ。生きたければ東方に行け、それ以外は殺すって話しているのと同じ……」

 トイプーが顎に手を当てて考える。

「みんな考え過ぎだお。人が平和に住む場所が手に入ったから、それでいいお」

「ラオラオ、事は簡単ではない。あの約束も永久ではない。どこで手のひらを返すか分からん、それも考えろ」

 意外と慎重なボンキチ。

 ならば。


「うん、レオニード、ルフト王倒せ‼︎」

 あっさりと告げるマチュア。

 これには、全員がやれやれという顔をしていた。

「そう来るとは思ってましたよ。この後、メンバーの半分をアスタードに送ってください。三十の日毎に交代で特訓を続けて来ます」

「以前、マチュアちゃんが話していた三人と二人で。まずは私とレオニード、ラオラオで向かいたいのです」

 レオニードとアレクトーが告げるなら。

 それがメンバーの総意なら問題はないが。

 チラッとライトニングを見る。


「私は構いませんよ。二人が残るのなら護衛や警備は務まります。この大会でのレオニードの活躍を聞けば、皆が認めるでしょうから」

 諸手を上げる勢いで喜ぶライトニング。

 なら、マチュアとしても問題はない。


──ブゥゥゥン

 すぐさまアスタードの酒場カナンに繋がるゲートを開くと、レオニードとアレクトー、ラオラオはライトニングに頭を下げて、ゲートの向こうに向かった。


──ヒュンッ

 そしてすぐさま閉じる。

第六聖典レジェンドの空間接続ですか。この前見せてもらった時から考えていたのですが、そのレベルを使いこなせるマチュアさんなら、ルフト王を倒せたのでは?」

 ライトニングがそう告げるので。

 マチュアはニイッと笑った。


「今日のルフト王との戦いだって本気じゃないよ。ね?私の本気とやりあったボンキチとトイプーならわかるでしょ?」

 ドン、と軽くボンキチの胸を叩く。

 すると、ボンキチもトイプーも思い出したのか身震いした。

「たしかに、今日のマチュアは本気ではない」

「ええ。魔法による強化も何もしていませんでしたわ」

 ウンウン。

 それがわかるようになったのは嬉しい。

「本気でやるなら、肉片も残さないわよ。魂レベルで分解してやるわ。けど、それは私の仕事じゃないの」

「仕事……ですか」

「悪魔がホイホイと何でも与えたらダメ。そもそも自分たちの平和ぐらい勝ち取れってね。私が勝ち取ってはいって渡しても、また取り返されたら頼って来るでしょ?」

 つまり依存するなと。


 神や悪魔なんて、適当に信じて祈っていればいい。

 見ている時は少しだけ力貸してくれるし、努力しないで神頼みしても何もしてくれない。

 つまり、そんなもの。


「ふむ。そういう話を聞いていると、成程ヒト族というものが何故強かったのか理解出来ますね」

「そ、魔族は個人個人の能力が高い以外は、技術を磨くという点でヒト族に遅れをとる。ボンキチだって、昔は力任せの大技しかなかったけど、今は違うでしょ?」


──コクリ

 ゆっくりと頷く。

「なので、魔族があのルフト王に勝てない理由は三つ。スキルの練度、回復魔法の有無、装備の質。レオニード達に足りないのは練度だけ、装備はまあ、買うかダンジョン潜って拾って来なさい、そんじゃあね」

 そう説明してから、マチュアは箒に乗ってのんびりと貴族区を後にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 シュピーゲル王国・王城。

 武闘大会を終えたルフトが、窓辺の席に座り、テーブルの上の残骸を見る。

 試合中にマチュアに砕かれた炎龍の籠手。

 マジックアイテムの要である核が破壊されたので、もう修復は不可能。

 灼熱の回廊の守護竜の一体である炎龍を討伐する事で手に入れたのだが、これでもマチュアには届かなかった。


「もうすこし下の階層まで向かうべきか。それとも……」

 腕を組んで天井を見上げる。

 謁見の間に誰も来訪者がいないのに、玉座に座っているのも変であると考え、ルフトはこの先で思考する。

「マルコ、この世界でマジックアイテムの修復ができるものは存在するのか?」

 傍で座っているマルコに問いかける。

 可能ならば直したい。

 炎龍の籠手は、所有者の意思で、様々な形に変化する

 気に入った武具だから尚更、これは修理したい。


「マジックアイテムの修理師というのは、私が知る限りでは一人だけです。ヒト族の錬金術を継承したもの、そのものは如何なるものも魔法で修理しますが」


──ダン!

 テーブルを叩いて立ち上がる。

 それだ。

 そのものに依頼すればいい。

「でかしたぞマルコ。そのものはどこにいる?」

「……城塞都市ワルプルギス。ルフト王を倒した半魔族のマチュアが、稀代の天才錬金術師ですが……」


──ギリッ

 その名前を聞いて拳を握り締める。

 今、一番聞きたくない名前。

「……やはり、あの半魔族は急ぎ何とかしないと……」

「ですが、王の主催した武闘大会で、マチュアは全ての強豪をねじ伏せ、大陸最強の名を得てしまいました……。それも」


──ダン‼︎

 力任せにテーブルを殴りつける。

「……言うな……くそっくそっくそぉぉぉぉぉ。マルコ、あの女の苦手なものを探せ、それとこれを修復させろ。大陸王の命令だ」

 その言葉に、マルコは頭を下げる。

「かしこまりました。全ては陛下のために……」

 そう告げてから、チラッとマルコを見る。


(もう、世界の天秤の力は感じない……マチュアとの力の格差があり過ぎたのか……世界の天秤は、新しい主人を選びましたか……)


「それでは失礼します」

 そう告げて、スッと下がるマルコ。

 まずは預かった炎龍の籠手の修復を依頼しなくては。


………

……


──ガラガラガラガラ

 中央山脈からは馬車で五日。

 街道はなだらかな道を上り下り蛇行を繰り返し、森や草原をいくつか越える。

 直線距離ならば300kmにも満たない距離だが、まあ、この世界の人々にとっては馬車で五日も六日もさほど気にはならない。


「……さて、どのようにお願いしますか……目を使っても、おそらく気付かれてしまうでしょうから」

 そう呟きなから、マルコはそっと右目を手で覆う。

 マルコの右目の魔眼は、右掌の向こうの存在に『魅了』の効果を発揮する。魔眼の力を発揮するのに、その魔眼を覆わなくてはならないというややこしい力。

 だが、この動作のおかげで魔眼が発動した事も相手には気取られない。


「気が重いですなぁ」


──ガラガラガラガラ

 やがて馬車はワルプルギス西門を通過し、貴族区の横街道から中央街道へ。

 そして冒険者区へと真っ直ぐに進む。

 そして以前ルフト王が吹き飛ばされた場所、パスカル雑貨店の前に着くと、斜向かいの酒場カナンへと歩いていく。


──ゴンゴン

 ドアをノックして見ると、中からマチュアの声がした。

「はいは〜い。丁度今朝一番が焼きあがりましたが、おや、以前どこかで?」

 笑いながら頭を傾げる。

 マチュアにとっては三度目か四度目のマルコが、店の入り口に立っている。

「あ、ルフト王の側近さんだ。本日は何をお幾つですか?」

 すぐにカウンターに並んでいるマフィンの元に向かう。

 すると、マルコが口を開いた。

「マジックアイテムの修理を依頼したいのですが」

 そう話してから、近くのテーブルにカバンを置くと、砕けた炎龍の籠手を置いた。


「あ〜、その依頼は初めてですねぇ。これって、この前私が破壊した奴?」

「ええ。ルフト王の大切な武具、炎龍討伐の折に手に入れたものです。直りますか?」

「直りますよ。でも、どうするかなぁ」

 ポリポリと、頭を掻きながら考える。

 マチュアが考えている最中、マルコはマチュアから世界の天秤の力が発しているのかそっと眺めた。

 マルコのもう一つの魔眼…左目の付与感知…を使って、マチュアを見る。


──ボゥッ


 マチュアの中、身体の中心から、『右の受け皿』の持つ魔力を確かに感じた。

 なら、この先どれだけルフト王が頑張っても、マチュアには敵うはずがない。

 やがては王座を脅かされ、誰かに奪われる。

 それでも。

 ここに切り札があるのなら、マリオは安泰。

 この後の王など、適当に疑われない程度に忠誠を誓っていればいい。

 マチュアに取り入って、少しでも気に入ってもらえれば。


「ど、どうでしょうか。マチュア様は稀代の錬金術師とお聞きしました。王の大切な武具、何卒お願いします」

「う〜ん。ま、いっか。直したからって、すぐに殴りかかってくる訳でもなし」

 テーブルに近づいて天板全体に二つの魔法陣を起動すると、ここでは物品修復レストレーションを発動する。


──シュゥゥッ

 すると、マジックアイテムの要の核までもが、ゆっくりと修復し始めた。

「あら、予想外に早いなぁ……まあ、こっちの席でのんびりとどうぞ。一刻もすれば直りますから」

 カチャツとマルコにハーブティーを勧めると、マチュアはカウンターの中で仕込みを続ける。

 その様子を、マルコはじっと見ている。


 何故、あのような力を持っているのに、この半魔族は酒場なんかで働いているのか。

 錬金術師なら、王に進言すれば何処ででも高待遇で迎えて貰える。

 それなのに、こんな小さな酒場で満足している。

 マルコの調べでは、カナン商会からもマチュアは手を引いている。

 何故、手にした権力を駆使しないのか?

 わからない。

 なら、聞いて見たほうがいい。


「マチュアさん、何故、酒場なのですか?」

 突然のマルコの問い掛け。

 これにはマチュアも驚く。

「へ?酒場が何か?」

「錬金術師であり、大陸最強の称号も手に入れて。望むならば、どんな所にでも仕官出来るのではないですか。酒場の主人で良いのですか?」


 ああ、そう言う事ね。

 なら、マチュアの答えは一つしかない。


「自由だからね。仕官なんかしたら面倒臭い。もっとこう、のんびりとしたいのよ」

「ですが、先の大会ではっきりとわかりました。マチュアさん、貴女はこの大陸を統べる力を持っています」


 ルフト王の側近の言葉ではない。

 取り方によっては、王を倒せと同じ。

 だからこそ、マチュアははっきりと告げる。


「だろうねぇ。あの場で殺す気になれば殺せたからねぇ。でも、本意じゃないし……私の信条とも反する。まあ、あれだけやったんだから敵視されているだろうけど、今暫くは手を出さないでしょ?」


──カチャツ

 オーブンにクロワッサンの載せられた鉄板を放り込む。

 薪を追加して火加減を調節すると、マチュアもカウンターに戻ってハーブティーを飲む。


「……それにしても、あのルフト王になんでベルファストさん負けたかなぁ……明らかにベルファストさんの方が格上なんだよ?」

「その理由は、そこの籠手でしょう。灼熱回廊のアーティファクトの一つ、炎龍の加護を持ってますから。我々魔族が竜族に敵わない理由の一つですよ」

 へぇ。

 世界ランキングなら、竜族がトップかぁ。

 焼きたてのマフィンを一つ手に取ってマルコに放り投げると、マチュアも一つ取って齧り付く。


「サービスだよ、どうぞ……でも、竜族って、そんなに強いのかぁ」

「世界の王。まあ、その遥か上の存在もいましたけど、それはまあ、遥か過去の話ですから」

「その遥かに上って?」


──モシャッ

 のんびりと食べながら問いかけると。


「悪魔ルナティクス様ですよ。言うなら絶対存在。竜族の王である混沌竜でさえ、手も足も出ないでしょうなぁ……」

 うっとりとしながら呟くマルコ。

 これにはマチュアもややドン引きする。

「そ、そうですか。まあ、もう暫く掛かりますがごゆっくりとどうぞ」

 そう話して、マチュアもクロワッサンが焼けるのをのんびりと待つ。

 何度か焼きあがったクロワッサンやバターロールを並べていると、やがて炎龍の籠手の修復は完了した。


──ブゥゥゥン

 魔法陣が消滅し、マチュアは籠手をマルコに手渡そうとして……やめた。

「おや、まだですか?」

「修理費用。この籠手と等しい価値のものをください」


 むむむ。

 白金貨や赤金貨なら持ってきている。

 だが、マチュアの求めているものは同価値の何か。

 そんなものを持って来てはいない。


「等しい価値……ですか」

「そ。ルフト王の大切なものを修復したのだから。何かありますか?」

「そうですねぇ……では一つ情報を。灼熱回廊の第三回廊から下は未知の世界ですが、そこにはルフト王でも無事では済まない魔物が大量に巣食っていまして。各階層守護者を倒すとアーティファクトがドロップします」

 おお、情報ですか。

 それは助かります。

「もしもお望みでしたら、私は空間接続魔法が使えるので、一度だけそこに送ってあげますよ」

 そう話されても、特に必要ないからなぁ。

 ん?

 まてよ?

 それって、レオニード達に取りに行かせたら宜しいのでは?


「おっけ。なら、今度私のパーティーで挑戦させてくださいね」

「構いませんよ。では、こちらは受け取りますので」

 頭を下げてから、炎龍の籠手を袋に収めると、マルコは酒場を後にした。


………

……


「ふう。マルコさんって、詰めが甘いよなぁ……」

 そう呟きながら、物品修復レストレーションの魔法陣に仕込んだもう一つの魔法陣を見る。

「メモリー解析。材料はと……」

 炎龍の籠手のデータを解析させておいたので、マチュアはそこに魔法竜の素材を放り込む。

「ゼロからの修復……物品修復レストレーション開始」


──シュゥゥッ

 次々と素材が分解され、やがて魔法陣の中に銀色の籠手が生み出された。

「ふむふむ。銀竜の籠手と……」


──カチャツ

 すぐさま装備してステータスを調べる。

 装備することで追加される新しい能力や効果などがないか。

「魔力の向上、コンビネーションウェポン……へえ。追加ステ……へ?」

 ふと見ると、マチュアの付与効果に『覇王の支配』と言う付与効果後増えている。

「うはぉ。この籠手危険だなぁ……外して……消えない。なんだと?」

 慌てて『覇王の支配』を確認する。


──ピッ

『覇王の支配:世界の天秤の右皿の力。あらゆる種族を支配下に置くことができる』


「……………………はぁ?」


 思わず目が点になる。

 いつのまにそんな力を得たのか、慌ててウィンドウを調べると。

 マチュアの魂と同化している『世界の天秤の右皿』を発見した。

「と、とりあえずこの能力はアクディブからカットして……よしよし。それは出来るのだな」

 すぐさまカットしてから、今度は『右皿』を魂から引き離して物理化してみる。


──ブゥゥゥン

 いずれは一つの天秤に戻ることが前提らしく、それは簡単に外すことができた。

 ならばと空間収納チェストに放り込むが、魂とのリンクは繋がっているらしく、表示が消えることはない。

「よし、これで外からは見えない。後の事は今度考えよう‼︎」

 そう自分に言い聞かせると、マチュアは配達分のマフィンを手にパスカル雑貨店へと走って行った。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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