表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/701

悪魔の章・その36・お約束の武闘大会

 マチュアがレオニード達をアスタートに放り出し……送り届けた翌日早朝。


「た〜のも〜」

 貴族区正門前で、マチュアが横の警備騎士を呼んでいる。

「マッ‼︎」


──ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 マチュアの顔を見て、いきなり正門が開かれる。

 そしてすぐさま騎士がマチュアの元にやって来た。

「本日は、ライトニング卿をおたずねですか?」

「そ。案内も何もいらないけど、今日から二十五の日は朝と夕方通るから、お願いします」

 ペコッと頭を下げると、マチュアは箒に乗ってライトニングの屋敷へと向かう。

 その途中で。


──ガラガラガラガラ

 ライオネルの馬車が目の前から走って来る。

 そしてマチュアを見ると、ゆっくりと速度を下げた。


「なんだなんだ?ここは貴族区で半魔族の来る場所じゃないぞ?」

「うっさいなぁ……ライトニングの護衛だよ。仕事なんだから通ってもいいだろう」

「まあ、仕事なら仕方ないか。近隣の貴族に迷惑かけるなよ、それじゃぁな」


 それだけを告げて、ライオネルは走り去る。

「あいつの心臓は鋼が何かで出来てるのか?凄いなぁ……嫌いじゃないわ」

 苦笑しながらライトニングの屋敷にやって来ると、マチュアは門番にマチュアが来たと伝えて欲しいと話す。

 すぐさま門は開かれ、玄関の外でライトニングが待ち構えていた。


「これはマチュアさん、こんな早朝からどうしたのですか?」

 かなり緊張している。

 護衛がいないと、まだ慣れないのだろう。

「レオニードさん達は、今日から特訓に入りました。全員同時なので、今日から二十五の日、私がライトニングさんの警備と護衛を担当します」


──ペコッ

 深々と頭を下げるマチュア。

 すると、ライトニングは軽く目眩を覚える。


「マチュアさんが護衛とは最強ですが……正直、心臓に良くありませんよ。無礼な事をしたらどうしようかと不安になりますよ」

「いやいや、この格好ですからそろそろ慣れてくださいよ。それで、レオニードさんの仕事って何ですか?」

 そう問いかけると、ライトニングもハァ、と溜息をつく。

「では、朝食を食べながらお話しします。こちらへどうぞ」

「それでは、失礼します」

 にこやかに挨拶をして、マチュアはライトニング邸で朝食を呼ばれる。

 そこで仕事の内容を確認すると、この日からマチュアは警備を始める。


 それほど忙しい日々が続くわけでもなく、淡々と仕事をこなしていくだけ。

 普段はマチュアが警備をしている事を隠すために、暗黒騎士のフルアーマーを身に纏う。

 背中には炎帝剣を装備すると、久し振りの暗黒騎士を堪能する。

「はっはっはっ。両手剣二刀流ならモモン様なんだが、それは難しいからなぁ」

 そんな事を呟きながらも、気が付くと二十五の日が経過していた。


………

……


 早朝。

 マチュアは家を出る前に、アスタートの酒場二階へと転移する。

「やあ、おはよう」

 一階の酒場では、レオニード達がのんびりと食事をしていた。

 心なしか、皆、身体付きや表情が違う。

 引き締まったというか、精悍になったというか。


「ああ、今日が約束の日か。それじゃあ、あの地獄から解放されるのか」

「そうね。ようやく休めるのね」

「もう、あれから大変でしたのよ?お陰でかなりの魔術を使えるようになりましたけど」

 レオニードやアレクトー、トイプーがホッとした顔をしている。

 ラオラオとボンキチは、朝食を食べながらコックリコックリと居眠りをしている。

「こっちも楽しめたからよしという事で。一旦ワルプルギスに行って支度したら、ライトニング邸に集まってね。そこから全員まとめて移動しましょ〜」

 そう説明してから、マチュアも席について朝食を食べる。

 途中からはシャロンやフリージア、ステアも合流し、実に騒がしい朝食となった。


「それで、勇者育成訓練の成果は出たの?」

 そうシャロンに問いかけると。

「ん〜、たった二十五の日では最強の勇者は無理ですけど、そこそこ頑張れる勇者には仕上がっていますね」

「具体的には、冒険者レベルで85前後までの実力は付いてますわよ」

「竜語魔術は一通り教えたから、あとは勉強ですな」

 ほほう。

 それなら良い。

「後はそうねぇ。レオニード、試合で私と当たらないように祈ってね」

「はは……そうですね」

 乾いた笑いのレオニード。

 やがて食事も終えると、いよいよワルプルギスへと帰還することになった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 シャイターン王都・大闘技場

 これから十五の日を掛けて、大陸最強の英雄を決める。

 最初の10日間は予選、一度に三十人が闘技場内に入り、最後の一人になるまで戦うバトルロイヤル。

 午前と午後の二回行われ、決勝に進む二十人が決定する。

 そのあとは予選免除された十二名も加えてのトーナメント、優勝者が決定する。


──ガラガラガラガラ

 近郊までゲートを使ってやってきたマチュア達。

 そのまま闘技場に向かって参加登録を行うと、ライトニング達は用意された宿へと向かう。

「それでは、試合当日にお会いしましょう」

「わたし達は応援なので。それでは失礼しますわ」

 次々と挨拶すると、繁華街の方に向かう。

 そしてマチュアの登録になったのだが。


「半魔族か。まず明日の予備予選からだな」

「ふぁっ‼︎」

「何処から声出したんだ。予選に参加できるのは魔族のみ、半魔族や亜人種は明日からの予備予選。朝までにここに来なさい」

 一応は丁寧に説明してくれている。

 なのでマチュアは渋々登録する。

「ワルプルギスのマチュアだね。それじゃあ明日の試合頑張ってね」

 それだけを告げて、すぐに別の選手登録を始める。


「おや、私の宿は?」

 近くの係員に問いかけるが、鼻で笑われて一言。

「半魔族の参加者には用意されていませんぜ。自分でなんとか用意した方が良いですぜ」

「おやぁ。それじゃあ失礼します……あっれ、待遇違うなぁ……」

 頭を捻りながら、マチュアはのんびりと繁華街を歩いていく。

 どの宿も半魔族や亜人種お断りなので、あちこちを歩き回ったのち、めんどくさくなって酒場カナンへ戻ってゆっくりと眠る事にした。


………

……


 予備予選・初日。

 朝から闘技場前は大賑わい。

 ここぞとばかりに集まった半魔族や亜人種、その数百人以上。

「それでは予備予選を始めます。参加者は順番に並んでください。ゲートを通過する前に両手に鎖のついた枷を嵌めますので、それをつけたまま中に入ってください」

 ほうほう。

 中からは観客の声が聞こえてくる。

 どうやら先に集まったメンバーの予選が始まったらしい。

 中からは興奮した観客の声と、参加者達の悲鳴が聞こえてくる。

 やがてそれも収まると、マチュア達のグループが闘技場へと向かう。


 凄惨な光景。

 大量の半魔族や亜人種の死体。

 そして真正面に立って構えている、巨大な人影。

 ゆうに5mを超える、牛の頭を持つ化け物。

 ミノタウルスが、巨大な斧を持って立っていた。


「あ……予選を名乗った殺戮ショーだ」

 参加者の中には、棄権して出ようとする者もいた。

 だが、ガッチリと閉ざされたゲートの向こうで、騎士や戦士が槍を構えて立っている。


「予選は簡単。あのミノタウルスを倒したものが予選通過です。それでは頑張って下さい」

 柵の向こうから聞こえる声。

 それと同時に、ミノタウルスを抑えていた鎖が解き放たれた。


………

……


 突進し、斧を振るい、目の前の命を血の塊に変えていく。

 掴み、千切り、引き裂き、食らう。

 武器を持たない参加者は、暴力という名の殺戮に身を任せるしかない。

 巧みに逃げていたマチュアだが、気がつくと血の海の中にただ一人で立っていた。


「ふむ。一つ聞いて良い?」

 柵の向こうの関係者に話しかける。

「なんだね?」

「これを倒したら、本予選?」

「あすの本予選前の最終予選がある。それを勝ち残れば、本予選だ」

 よし、言質取った。

 すぐさまミノタウルスに向き直ると、マチュアはトントンとステップを踏む。


──ブゥォォォォォ

 走り込んでマチュアに向かって斧を振るうが、それをスッと躱すと、その右足首に向かって力一杯のローキック‼︎


──ブシュァァァ

 綺麗にくるぶしの関節から千切れる。

 バランスを崩してミノタウルスが倒れると、マチュアはすぐさま剥き出しの後頭部に向かってもう一発‼︎


──ガキグシャッ

 頚椎を砕く。

 これでミノタウルスは動かなくなった。


──シーン

 こんな光景を誰が想像しただろう。

 たったの二撃で、ミノタウルスが死んだ。

 それも弱き半魔族の手によって。


──パチパチ……

 小さな拍手。

 やがてそれは大きな拍手と歓声に変わる。

 ガラガラガラと柵が上がり、マチュアは勝者の権利として堂々とそこから出て行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌日、予選の予選決勝。

 まさかの展開に、大会本部も驚いていた。

 予定では、先日の予選で半魔族達は全滅し、本日はデモンストレーション。

 それなのに、マチュア一人が二日目にやってきた。

 元々、半魔族が本予戦出場するとは思ってなかったらしく、予選の予選を通過しても本予戦枠など用意してない。

 だが、昨日の盛り上がりがそれを許さない。


 大会本部は急遽、翌日の予選バトルロイヤル第一試合を繰り上げて、マチュアを含めての予選とした。


──ガシャガシャ

 マチュアは手首の鎖だけでなく、足にも鎖を嵌められた。

「これはどういう?」

「ハンディですよ。本日は如何なる武具の使用も許可されていますので、武器でも鎧でもご自由にお使いください。なお、この鎖を切ると負けになりますので」

 それだけを告げると、係員は控え室から出ていく。


(この鎖、切れそうなんだよなぁ……強化……)


──ブゥゥゥン

 手首と足首の鎖を魔法で強化し、そう簡単には切れなくする。

 問題は武器だが……。

 控え室にいるもの達は、みながっしりとした鎧や高級そうな武器を持ってきている。

 ならば、遠慮はいらない。

 テクテクと廊下に向かうと、通路にいる係員に話しかける。

「魔法は使って良いの?」

「構いませんよ。まあ、鎖で印が組めるかわかりませんけどね」

「相手の武器を奪っても良い?」

「はっはっはっ。落ちているものでもなんでもご自由にどうぞ」

 その返答ににっこりと笑う。

 よし、今日も言質取った。

 するとマチュアは、嬉しそうに控え室に戻っていった。


………

……


 次々と闘技場に案内される。

 マチュアを含めて三十一名。

 それが全員闘技場に入ると、全員が全員、マチュアを睨みつけた。


「あ、そういう事かぁ」

 昨日の予選を見ていたものなら、まずは全員でマチュアを潰すぐらいは考えるだろう。


──ジャァァァァァーン

 試合開始のドラがなる。

 すると全員が、一斉にマチュアに向かう。

「そんじゃあ……」

 スッ、と駆け寄った戦士の影に消えると、マチュアは次々と影を渡り歩いて長モノを構える重戦士に近寄る。

「スラッシュキーック‼︎」

 派手に影から飛び出して、鳩尾に低空からのドロップキックを入れる。

 それで体勢を崩した戦士の腕にさらに回し蹴りを入れると、その手からグレイブを叩き落とした。


──ガチッ

 すぐさまグレイブを拾うと、マチュアは両腕で器用に構えた。

「私に長もの持たせたな……かかって来いやぁぁぁぁ」

 そう叫びながらグレイブを振り回す。

 間合いに入ってきたものは全て斬り伏せ、打ち倒す。

 その姿はまさに戦鬼と呼ぶに相応しい。


 そして試合開始から一刻。

 最後の騎士もどきを叩き伏せて、マチュアは闘技場に一人で立っていた。


 まさかの半魔族の本戦出場。

 これには大会本部も血相を変えていた。

 だが、結果を覆すことはできない。

 マチュアは堂々と決勝トーナメント一番乗りを果たして、闘技場から下がっていった。


………

……


 ここから本戦までの間、マチュアはずっとワルプルギスでのんびりとしていた。

 どうせ大会本部からの闇討ちなどがあるだろうと考え、昼間だけは闘技場で試合を観戦し、夜になると何処からとなく酒場カナンへ帰ってくる。

 そんな生活を続けながら、いよいよ大会決勝トーナメントの日がやって来た。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 本日は一回戦。

 マチュアは第一試合の為、控え室に入っていた。

 流石に本戦では下手な細工はない。

「……まあ、マチュアなら負ける事はないと思うけど、殺すなよ?」

 控え室に様子を見に来たレオニードが、マチュアに声を掛ける。

「順当に進めば決勝かぁ。決勝まで進んだらどうしよう」

「あ、いや、本気でやって勝てる気はしませんので、うまくお願いしますよ」

「なら、決勝まで進んだら怪我で欠場にするよ。そんじゃあ、いってくるね」

 ガッチリと漆黒の鎧と炎帝剣を装備したマチュア。

 まっすぐに闘技場に入ると、目の前の戦士を前に一言。


「何で一回戦からあんたが相手かなぁ」

「抜かせ。この前の借りはしっかりと返すぞ」


 マチュアの第一試合の相手。

 アストラ・ビーステス。

 仕組まれたわけでもなんでもない。

 予選免除参加者の一回戦第一試合枠に、元々組み込まれていた。

「そんじゃあ、本気でやるから覚悟してね」

「上等だ‼︎」


──ジャァァァァァーン

 試合開始のドラがなる。

 それと同時にアストラは両手で剣を構えると、マチュアに向かって突撃した‼︎

「予選から貴様の戦い方は見ていたわ!この突進技……は……」


──ブゥゥゥン

 マチュアの正面に十六の魔法陣が浮かび上がっている。

 そこからゆっくりと燃え盛る槍が現れた時、アストラは両手を交差して身構えた。

「甘いわ‼︎」


──チュドドドドッ

 一斉に飛んでいく燃え盛る槍。

 それはアストラの足を重点に貫くと、アストラの動きを束縛した。


「クッソォォォ、これしきでぇぇぇ‼︎」

 どうにか槍を引き抜こうとするが、槍をつかんだ手がジュゥゥゥゥッと焼ける。

「さて、それじゃあトドメと行きますか……」

 スッと背中の炎帝剣の影にあった突っ込みハリセンを引き抜くと、マチュアは高速で間合いを詰めると、一気に四人に分散してダイナミックに殴り続けた。


──ズバババババババァァォァァ

 ドンドンと意識が朦朧とし、やがてアストラは立ったまま気絶した。


──ジャァァァァァーン

「勝者、半魔族のマチュアっ‼︎」

 勝ち名乗りに拳をあげると、マチュアは控え室に戻って行った。


………

……


 第二回戦、第三回戦もマチュアは順当に勝ち進む。

 そして第四回戦、準決勝の時に、それは起こった。


 控え室でのんびりとしているマチュアの元に、大会本部の責任者の一人がやって来る。

「無事に準決勝進出おめでとうございます」

 ニコニコと笑いながら、試合直前のマチュアに話しかける。

「はあ。これ勝ったら決勝ですから、頑張りますよ」

「でも。ここまで勝てば十分ではないですか?賞金も出ますし」

「いやいや、目指すは半魔族の優勝ですよ。どんな願いも叶うのでしょう?」

 そう笑うと、責任者の表情が険しくなる。


「次の相手は、この街の貴族の息子さんなんですよ。それもシャイターン王家に連なる方です。そんな方が半魔族に負ける事になると、貴族が黙っていませんのですよ、分かりますよね?」

 つまり、マチュアに負けろと言う。

 ここでゴネても仕方ない。

 試合に出られなくなるよりはマシである。

「そうねぇ。どれだけ払ってくれるの?」

 ニィッと笑うマチュア。

 すると金貨袋を一つ、マチュアの前に置いた。

「中身を見ても?」

「どうぞ……」

 その瞬間に、男の口元がフッと緩んだ。

 なので、マチュアはダミーで用意しておいた防具を入れる袋に、金貨袋を放り投げた。


──チッ

 軽く舌打ちする音を、マチュアは聞き逃すはずがない。

「まあいいや。あんたを信用するよ、適当なところで上手くやればいいんだね?」

「ええ。それではお願いしますよ」

 そう呟くと、責任者は控え室から出ていった。

 そしてマチュアは、敢えてチュニック姿にローブという出で立ちをして、闘技場へと向かった。


………

……


──ワァァァァァッ

 会場が喝采に湧き上がる。

 ここまで両者ともに無敗、しかも一方的に相手を倒して来たのである。

 すると、目の前の好青年がマチュアの前に進むと、スッと握手を求めた。

「おい、上手くやれよ。この国で生活したいのなら、無駄に暴れないで一方的にやられてくれよ……」

 にこやかな笑顔でそう呟く。

 するとマチュアも軽く微笑む。

「御心配な国で……」


──グッ

 ガッチリと握手すると、両者ともに間合いを取る。


──ジャァァァァァーン

 激しくドラが鳴り響くと、マチュアはスッ……と八極拳の構えを取る。

 右半身に構え、マチュアお得意のフットワークを殺す。

 すると、相手は躊躇なく間合いを詰めて切り掛かって来る。


──ヒュヒュヒュヒュンッ

 鋭い剣戟をさらりと交わし、相手の手首を受け流す。

 そして。


──ドゴォォォォォッ

 一発震脚を極めると、そのまま裡門頂肘(りもんちょうちゅう)を相手の剥き出しの胸部に叩き込む。

 鎧の胸当て部分が砕け散り、血を吐きながら倒れる。


 僅か一発。

 これには会場も静まり返る。

 そして貴賓席で誰かが立ち上がると、マチュアに向かって何かを叫んでいる。


「あ、よく聞こえないが、雰囲気は理解した」

 闘技場のあちこちの門が開くと、血反吐を吐いて転がっている青年を運んでいく。

 そしてマチュアをじわじわと囲んでいくと。


──ジャァァァァァーン

「勝者、半魔族のマチュア‼︎」

 同じ貴賓席のシャイターン王が叫ぶ。

 これにはマチュアを囲んでいた兵士たちもゆっくりと下がると、マチュアは天に拳を突き上げて堂々と闘技場を後にする。


「き、貴様。こんな事をしてただで済むと思っているのか?」

 先程マチュアにイカサマを持ちかけた責任者が、廊下で叫んでいる。

 すぐ横には四人の冒険者が控えており、全員が武器を構えて立っていた。


──ガシャ──ン

 闘技場へと続く、後ろの柵も降ろされる。

「せめて決勝だけはまともに出られなくしてあげますよ。半魔族が優勝などしたら、この栄誉ある大会に傷がついてしまいますからねぇ……」

 そう呟いて後ろに下がると、冒険者たちが前に出る。

「悪いな。腕が足の骨を下砕かせて貰うわ」

「よく見たら可愛いじゃないか。一晩じっくりと可愛がってやるよ」


──ベロッ

 下卑た笑みを浮かべ、舌なめずりをしている男たち。

 こんなの相手するのは面倒くさい。


恐慌ディプレッション……」

 正面から四人を睨みつける。

「ひっ!!」


──ガクガク……

 この瞬間に、男達はその場にへたり込んで動けなくなる。

 その横を、マチュアは悠々と進むと、奥で震えている責任者に近寄って一言。

「……まあ、あんまりおいたが過ぎると、後で酷い事になるからね……」


──トン

 軽く肩を叩いてから、マチュアはのんびりと会場から出て行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 決勝当日。

 マチュアは、前日のレオニードの試合を見ていなかった。

 彼ならば楽勝で決勝に進むと思っていたのだが、まさかの準決勝での敗退。

 対魔術戦を訓練していなかったレオニードは、相手の魔法剣士の幻術と体術によって翻弄され、僅かの差で敗れてしまった。

 大会本部としても、ヒト族と半魔族の決勝など見たくはなかったらしい。


「……面目無い」

 控え室にやってきたレオニードやアレクトー。

 昨日の試合はかなり白熱したらしい。

「それでも、今までのレオニードとは動きが違いました。もう少し訓練期間があれば、確実に勝てたかと思いますよ」

「そうそう。ここまで来れただけでも大したものだお。だからまーちゃんが仇を取るお」

 そう言われても。

「ん〜。予定が狂った。レオニードが優勝して望みを言えと伝えられたら、ヒト族に対しての粛清命令を取り消せと言えたんだけどなぁ……」

 腕を組んでウロウロするマチュア。

「それをマチュアちゃんが話してはダメなの?」

「ん〜。ダメじゃないんだけど、何かヤダ。そういうのは私の仕事じゃない……もう帰ろうかな」


「「「「「いやいや‼︎それは無理」」」」」


 全員同時の突っ込み。

 それでも、マチュアはフラフラしている。

「もうね、パッと一撃で終わらせて、賞金もらって帰っていい?」

「本当にやる気が無くなったのか……」

「ヒト族と魔族の共存なのでしょう?」

「まーちゃん頑張るお」

 必死にマチュアのやる気を引っ張りだす。

 それでどうにかやる気が出ると、やれやれとハルバード一つ持って闘技場に立つ。


「それでは、両者共に、正々堂々と……」

 決勝では、シャイターン王が貴賓席で試合開始を告げるらしい。

 マチュアの前には、ガッチリと装備を着込んだ歴戦のオーガロードが立っている。

 サンマルチノ王領の近衛騎士団の団長らしい。

「サンマルチノ王から話は聞いている。かなりの使い手らしいが、全力で掛かって来てくれ」

「あぅぅ。なんか良い方法ないかなぁ……」

 あ、話聞いてない。

「良い方法?」

「いやいや、こっちの話。試合に集中しないと……」

 パンパン

 軽く両頬を打つと、ようやく意識がシャッキリとした。


「さて。そんじゃあ本気で行かせてもらいます。殺しはしないけど、殺す気で行くので……」

 ニィッと笑ってから、マチュアは開始戦に立つ。

 相手も笑いながら立つと、突然笑みが消えた。

「ははぁ。こりゃあ強いわ。A+はある……もしくはS-か。レオニードじゃまだ無理……」


──ジャァァァァァーン

 ドラがなると同時に、両者共に前に出る。


──ズバァァァァア

 横一線にハルバードを薙ぐマチュアだが、目の前の戦士に直撃するとブウンと掻き消えた。

「え?」


──ドゴォォォォォッ

 その瞬間に、マチュアの横から痛打が叩き込まれる。

 ざっくりと皮膚が裂け、血が溢れた。


──シュンッ

 すると、すぐさま魔法で傷を塞ぐと、もう一度男の動きを眺める。

 視線ではなく、魔力の動き。

 すると、男の実体の横1mの空間から、さっきのオーガロードの魔力が感知された。

「あ〜」


──ドゴォォォォォッ

 その位置めがけて、ハルバードの柄で力一杯ぶん殴る。

 すると、目の前の実体が消えて、本体が姿を現した。

第四聖典ザ・フォースの幻影投影かぁ」

「な、何故わかった?これを見破るのは一流の魔術師でも不可能な筈だぞ」

 動揺しながらも、再びフッと消える。

 でも。


──ズバァァァァア

 今度は真正面から胴体を一直線に切る。

 紙一重でそれを躱すが、やはりそこで実体が現れる。

「そ、そんなバカな……」

 すぐさま魔法を捨てて、剣戟一つに絞ってくる。

 だが、そうなるとマチュアには敵う筈がない。


──ガキガキガキガキッ

 次々とハルバードでラッシュを掛けると、相手の剣を破壊する。

 更に鎧まで削り始めると、最後は全力のスタンスマッシュ‼︎

「これで終わりだぁぁぁ」


──ドゴォォォォォッ

 最後の一撃を受けて、戦士は吹き飛ぶ。

 そして立ち上がれなくなったのを確認すると、シャイターンが叫んだ。

 ──ザッ

「勝者、半魔族のマチュア。今大会の優勝はマチュアとする‼︎」


──ウォォォォォォ

 闘技場が絶叫に包まれる。

 大会運営本部は頭を抱え、賭けをしていた胴元は、マチュアの勝利が確定した瞬間に逃亡した。

 まさかの半魔族優勝に、会場は騒然となっていた。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 2シリーズ絶賛発売中 ▼▼▼  
表紙絵 表紙絵
  ▲▲▲ 2シリーズ絶賛発売中 ▲▲▲  
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ