悪魔の章・その28・悪役同盟成立
のんびりと城塞都市ワルプルギスに向かう商隊。
帰り道は実にスムーズであった。
小規模なリザードマンの襲撃はあったものの、数が少なかったので相手はすぐに逃亡。
その後も順調に街道を進み、商隊は無事にワルプルギスに帰還した。
街道を覆い尽くす魔族の人々。
ヒト族との交易を無事に終えた一行を、皆、英雄のように出迎えている。
真っ直ぐに交易ギルドまで戻ると、リンダは結界中和の杖をギルドに戻した。
「これで今回の交易は終わりです。ありがとうございました」
リンダがそう説明して、ここを出る時に受け取った割符を戻す。
ヒト族交易許可証があっても、このワルプルギスの交易ギルドの発行する割符がなくてはミッドガルには出入りできない。
予めマチュアが手配したものを、シャイターン王が裏から回したのである。
ヒト族交易許可証がなくては受け取る事が出来ない割符。
これと杖をギルドに納めて、今回の交易は全て完了した。
「これで全て完了です。長旅お疲れ様でした。売却が必要なものはこちらで引き受けますので」
「そうね。でも、これはうちの国に持って帰るわ。それじゃあね」
そう告げてリンダが外に出る。
そして、集まっている商隊の前に出ると、ス〜ッと息を吸って一言。
「今回のヒト族との交易はこれで終了します。また次回、ヒトの国に向かう事が出来るのでしたら、その時はまたご一緒しましょう。皆さんお疲れ様でした」
──ウォォォォォォッ
商隊から歓喜の声が上がる。
これで全て完了、後は本国へと帰国するのみ。
カナン商会は真っ直ぐに自分の倉庫へと馬車を走らせ、カマンベーン商会とビーステス商会は宿屋街へと向かう。
この後は久し振りの街での休暇、そして母国への帰還であろう。
そして街が歓喜に溢れている中、ドラゴンランスのメンバーは憂鬱な顔でライトニング卿の元へと向かう事になった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──グビッグビッ
「ぷはー、生き返ったぁぁぁ」
倉庫に戻ったマチュアは、まずは冷えた缶ジュースを大量に取り出して商隊のメンバーに手渡す。
荷物の積み下ろしなどどうでも良い、今はみんなで無事を喜ぼう。
「さあさあ、好きなものを好きなだけ食べて飲んで」
大量の寸胴も酒も大盤振る舞いし、昼から夕方までのどんちゃん騒ぎに突入した。
彼方此方からお疲れ様でしたの声が掛けられ、楽しそうな声が倉庫に響く。
そんな中、フェザーもホクホク顔でやって来る。
「お疲れ様です、マチュア様。無事に戻られて何よりです」
「ん、これ預かってきたよ」
ゴソゴソとウィンドから預かった手紙を手渡す。
それを受け取ると、フェザーは早速中身を確認して、コクコクと頷いている。
「元気そうで何よりですね。荷物の仕分けなどはこちらでやっておきますので、暫くはのんびりしていてください」
「そうさせて貰うわぁ。そんじゃ、食べ終わったものは洗っておいて、私がいると落ち着かないだろうからまたね〜」
手をヒラヒラと振るマチュア。
「「「「お疲れ様でした」」」」
そして倉庫を出る前にもう一度、深々と礼をする。
そして箒を取り出して座ると、マチュアはパスカル雑貨店へと向かって行った。
………
……
…
いつもと変わらない光景。
箒から降りて店内に入ると、マチュアは買い取りカウンターの奥に座っているパスカルの元に向かった。
「おや、予想よりも早かったなぁ、お帰り」
「ただいま戻りました……って、早い?」
「ああ。さっき街について、ギルドに報告。それから商会に行って荷物の積み下ろしや仕分けとか、やる事は色々あるだろう?」
それが普通の商会。
でも、マチュアはカナン商会では名誉会長みたいなものなので。
「全部任せてきたから大丈夫だよ」
──ゴソゴソッ
明るく返事を返してから、拡張バッグからゴソゴソと色々なものを取り出す。
ミッドガルで個人的に買ってきたアクセサリーをカウンターに並べる。
「買い取り?」
「お土産。あとこれも」
ガサッと引っ張り出したのはロッド・オブ・銭湯。
しかも作り方を教えてあげたシャロンの手作り。
彼女だと一本作るのに一週間は掛かるらしいが、それでも早い方である。
「つまりなんだ?」
キセルを取り出して火を付けると、いつものようにプカーッと吹かす。
「ここで試して良い?」
「構わんよ。使い方の説明も頼むよ」
そういう事ならと、広いフロアで銭湯の実演を始める。
大きめのお湯の球体を作ったり、お湯を増やしたり減らしたり、浄化のボタンも押してみたりすると、集まっていた冒険者が売ってくれと集まる。
「カナン商会では取り扱わないのか?ぜひ売って欲しい」
「これは貴族なら欲しがる一品。是非譲ってください」
「言い値で買おう‼︎」
などなど、マチュアの元には大勢の客が集まって来るのだが。
「いやいや、これはパスカルさんへのお土産。カナン商会でもこれは取り扱わないのよ、殆どカマンベーン商会が買い取っていたから」
──コン
そう話してからカウンターに置く。
するとパスカルも後ろの拡張バッグに放り込んで、キセルを吹かす。
──モクモク……
「プハーッ。これで毎日、あったかい風呂に入れるよ。お湯を沸かすのが面倒でねぇ」
「なら、風呂上がりの一杯もあった方がいいよね」
ニィィィッと悪そうな笑みを浮かべて、拡張バッグから日本酒の一升瓶を三本取り出す。
それもカウンターに並べると、パスカルはすぐさま金貨を一枚取り出してマチュアの前に置く。
「これで足りるんだよな?」
そう話して、すぐさま自分の拡張バッグに収めていく。
「早いわぁ。貰いすぎなんだけどいいの?」
「それだけの価値はあるよ。まあ、マチュアは基本的に鑑定天秤を信用していないだろう?」
そう問いかけるパスカルに、マチュアも腕を組んで考える。
「そうなんだよなぁ。自分の作ったものは自分にしか価値は判らないのに、知らない内に高額になるのがわからない」
「そんなものだよ。魔法陣の腕は上がったのか?」
「変わらないかなぁ。そんなに早く変わるものでもないし、こうやって色々と持ち歩いているから、何が来ても大丈夫だよ」
そう話しながら、ローブの中からホッチキスで留められた大量の羊皮紙を取り出す。
魔法陣の中に書いてある文字で、それが何かマチュアには識別できる。
これで間違える事はないし、かなりの無茶もこれで誤魔化しが効く。
「まあ、マチュアが楽しそうならいいわ。お土産ありがとうな」
ニッと軽く笑うパスカル。
「いえいえ、それじゃあ今日は帰って休むわ。そんじゃ」
そう話してから、マチュアもいそいそと酒場カナンに帰って行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
夜の繁華街。
ワルプルギスの中でも一、二を争う高級酒場『太陽と月』の二階、お得意様しか入らないフロア。
そのとある席では、ライオネルとグスタフが自棄酒を飲んでいる。
「……ヒック……なあグスタフ、この前の作戦もダメだったろう。後はどんな手が残っていると思う?」
真っ赤な顔で隣に座っているグスタフに絡むライオネル。
かなりの量の酒を飲んでいるらしく、かなりへべれけ状態である。
隣のグスタフも酔ってはいるが、付き合い程度なのでそれほどでもない。
「この前って、何かやったんですか?」
「東方のケンタウロスの種族に、ヒト族の国に向かう商隊の情報を流した……んだがなぁ。おーい、もう一本頼むわ」
カウンターの店員に叫ぶと、綺麗な琥珀色の酒が運ばれていく。
それをカップに注いで、ゴクゴクと飲み干す。
「うわ……そんな事……」
「それだけじゃねーぞ。うちの手の冒険者もガッツリと送ってやったわ。ケンタウロスの襲撃にあわせて、あいつの護衛やあの女を襲えって……」
うわぁ。
悪の根源こいつか。
そんな愚痴を吐こうとも、この酒場はそもそもがとあるギルドの経営。
外にこの話が流れることはない。
そして隣の席でも。
「……あの女のせいで大損だわ。俺は怪我するわ、カマンベーン商会もあの女に付くわ……くそっ、忌々しい……おい、もう一本だ」
同じように愚痴を呟くアストラ・ビーステス。
まだ怪我が癒えないのだが、フラフラと酒を飲んで愚痴を呟いている。
傍には商会の従業員が付いてきており、何とか宥めようと必死である。
こちらの席にも綺麗な琥珀色の酒が運ばれてくると、従業員がそれをコップに注いで勧めている。
「予想ではなぁ、ヒト属の財産すべてを奪い取って、大手を振って凱旋するはずだったんだ。それなのに、上手い儲けは殆どカマンベールとカナンに取られて、こっちは完全に出遅れたわ」
──ゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッ
グラスのウイスキーを一気に飲み干すと、残りも全部注がせる。
「それになぁ……あのケンタウロスの襲撃で、うちのお抱えの冒険者もすべて全滅だ。後から雇った護衛は勝手に動き回って余計な事するし……」
──ダン‼︎
ライオネルとアストラが同時にグラスをテーブルに叩きつける。
「「マチュアさえいなければ、こんな事には‼︎」」
同時に叫ぶ二人。
すると、隣の席同士顔を合わせると、ニィィィッと笑う。
「俺はライオネルだ。あんたもあの女に恨みがあるのか」
「当然だ。俺はアストラ、あんたとはいい友達になりそうだな」
──コン‼︎
ライオネルの残ったウイスキーを注いで、二人で乾杯する。
「よし、ここは共同戦線だ、あんたと俺で、カナン商会をぶっ潰すぞ」
「おうよ。あの店の権利を全て奪ってやるわ‼︎この酒をもっと持ってきてくれ、ジャンジャンやるぞ」
楽しげに飲んでいる二人の元にウイスキーを持っていく店員。
そしてカウンターの中に戻ると、横に立つ店長に一言。
「あの二つの席の注文って、カナン商会のウィスキーですよね?わかっているんでしょうかねぇ」
「さあ。一本金貨一枚、あの商会なら払えるのでしょう?足りなくなりそうなので、カナン商会まで買い付けてきてください」
店長がそう告げると、すぐに外に飛び出す店員。
そして店長はのんびりと酒のつまみになりそうなものを作ると、サービスとして持っていった。
カウンターに戻り、耳だけはライオネル達の方に注意を傾ける。
「まあ、我がアサシンギルドにマチュアさんの暗殺依頼が来ても受けませんけどね……」
アサシンギルドのマスターである彼も、まさか送り込んだ腕利きアサシンが記憶を失って帰って来る事など予測していなかった。
あれ以降、アサシンギルドはカナン商会に関する依頼を全て断ってきた。
今後もそうするのだが、あの二人がどんな事をするのか、店長は少しだけ興味を持っていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ライトニング邸。
先日、ヒト族の国から戻った交易商隊と同行していたドラゴンランスのメンバーもワルプルギスに帰還。
翌日となる今日の朝、彼らは報告の為にライトニング邸にやって来たのだが。
その報告を聞いているだけで、ライトニングは目眩を覚えてしまう。
「あの先代ライオネル卿を殺害したウィングが領主とは。それに黒燐の竜族と英雄フリージアとシャロン、グランドリまで揃っているとは……」
ライトニングの計画は大きく変更を余儀される。
あの都市を手に入れて、そこを拠点としてヒト族を支配するという計画。やがてはあの領地の全てを手に入れ、大陸東方を支配するという野望。
それがほぼ不可能となった。
ワルプルギスの全ての魔族で進軍しても、あの混沌竜までもが住み着いている。
あの竜の機嫌など損ねたら、このワルプルギスなど一撃の元に滅ぼされる。
そして……。
「全ての鍵を握っているのはマチュアか」
ボソッと呟くライトニング。
──ビクッ
この言葉には、アレクトーやトイプーは言葉を挟む。
「確かにマチュアちゃんは凄い魔術師です。半魔族でありながら、魔法陣を使ってまざまな魔術を使いますし、あの子の作った蘇生の杖の力は、ライトニング様もご存知の筈です」
ゆっくりと、そして力強く語るアレクトー。
横ではトイプーもウンウンと頷いている。
「マチュアさんは、私達魔族では不可能な回復魔術の原理を教えてくれました。残念ながら、私ではその力の全てを理解出来ない為、強い回復は行う事が出来ません」
二人の言葉も理解出来る。
だが、それよりも、マチュアがヒト族にそれらの力を与えている可能性がある事が恐ろしい。
「……私は、この東方に魔族が争いもなく生きる土地を作りたかった。シャイターン王の為には、いつか力を付けるであろうヒト族の脅威を払っておきたかった……」
絶対な忠誠。
それも妄信的となるとタチが悪くなる。
今のライトニングがそうなのであろう。
順調に計画は進んでいた。
あの結界を越える為に用意した結界中和のタリスマンも有る。
だが、それらを持ってしても、結界の前にマチュアの影が見える。
「……レオニード、マチュアを殺せるか」
──ビクッ
その領主の言葉には、アレクトーが、トイプーが、ラオラオが驚く。
だが、ボンキチはいつかその言葉が来るだろうとは考えていた。
そしてレオニードも、その言葉がいつか来るだろうとは思っている。
それが今、領主からはっきりと告げられた。
違うのは、『殺せ』ではなく『殺せるか』。
命令ではなく、問いかけ。
「ライトニング様、これは私の意見ですので、気を悪くしないでください」
少しの間考えて、レオニードはライトニングに語りかける。
「正直に申します、私ではマチュアを殺せません。この城塞都市ワルプルギスで、あの子を殺せる可能性があるのは、おそらく一人だけです……ですが、それも不可能かと」
そのレオニードの言葉の後をボンキチが続ける。
「相手が魔術師なら、あの方の『魔術殺し』の魔眼で魔力を封じる事ができるでしょう。ですが、あの異様な武器の扱いや体術は、レベル70の戦士でも止めることはできないでしょう」
「それと、あの無限と思えるほど様々な武具が生み出されるバッグ。まーちゃんを止められるのは魔力と武力と装備を同時に止めないと無理だお、つまり不可能だお」
ここまで推測しても、マチュアを止める方法はない。
「ふぅ……そうなると下策を取るしかないのか」
「おやめください。それはマチュアちゃんを本気で怒らせるだけです。あの子が死者を蘇生できる事をお忘れですか?」
アレクトーとしては、マチュアに手をかける事はしたくない。
マチュアは、一度死んだアレクトーを救ってくれたから。
ドラゴンランスのメンバーも意見は一致しているのだが、レオニードとボンキチだけは、君主であるシャイターン王と主人であるライトニングの命令には逆らえない。
この矛盾が、常にレオニードたちを再悩ませている。
「……わかった。近いうちに私はシャイターン王に御目通りをお願いしよう。その時は同行するように。下がって良い」
──ガタガタッ
一斉に立ち上がり一礼する。
そしてレオニードたちは屋敷を後にした。
彼らにとって、今回の依頼は後味の悪いものとなってしまった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
数日後。
──コンコン
朝一番の酒場カナンに来客がやって来る。
店内は大量のマフィンとクロワッサン、バターロールの香りに満ちている。
最後の天板をオーブンから取り出した所だったので、マチュアはエプロンをつけたまま入り口に向かう。
──ガチャッ
扉を開くと、ミミズク型獣人のマルコが立っていた。
「いらっしゃいませ。ひょっとしてマフインですか?」
そう問いかけると、マルコはギョッとする。
「おや?まさか貴方は私の事を?」
「あははは。最近は朝一番でうちからパンの匂いがするのを待って買い物に来る方がいるんですよ。お客さんもその口でしょう?」
ニィィィッと笑うマチュア。
するとマルコはホッと胸をなでおろしている。
──ピッピッ
(『対監視に反応か。マルコではなく、ベルファストか……平穏を自分に付与してと)
「バレましたか。マフィンを四種類八つお願いできますかな?」
「はいはい、お待ちくださいね」
すぐさま少し冷めて味の馴染んできたやつをバスケットに詰め込む。
それを手渡して代金を受け取ると、マルコはそのまま酒場カナンから出て行った。
「さてと、先に納品して来るか」
箱に収めたマフィンを二箱分持って店から出る。
街道を挟んで向かいのパスカル雑貨店に入り、食品カウンターに納品する。
──ピッピッ
『対監視から反応消失』
(お、消えた。買い物に来て様子見ただけか)
ならばもう良いと気にするのを止めて、マチュアは暫しパスカルとの雑談を楽しむ事にした。
相変わらずパスカルはキセルを咥えてノンビリとしている。
たまに来る冒険者から、ダンジョンで回収したアイテムを鑑定して買い取り、それを点検整備して店内で販売する。
街の魔法屋からポーション系も配達してもらって並べたり、普通に冒険に使う油瓶や松明、大袋などの冒険雑貨も並んでいる。
「へぇ〜。今更ながら、ちゃんと雑貨屋なんだ」
店内をウロウロと歩きながら見て回る。
すでに馴染みになった冒険者達もパーティーでやって来て道具を揃えたり、何が必要かを吟味している最中である。
そんな中、何にも商品の置いてない棚が一つあるのに、マチュアも気がついた。
「パスカルさん、この棚は何が並ぶの?」
空の棚の前で、マチュアはパスカルに問い掛ける。
手にしたキセルを吹かしつつ、パスカルは興味なさそうに一言。
「中央山脈の、灼熱回廊の発掘品を置く予定だったんだけどねぇ。取って来るって話していた冒険者が二十年も帰って来ないからなぁ……」
「そこは難攻不落のダンジョンなのかな?」
隣でスクロールを吟味している冒険者に問いかけると、何故か腕を組んで考えてしまう。
「そこかぁ〜。パスカルさん、まだクルスさんたちを待っているのか?」
誰だそれは?
そう聞きたくなったが。
「あの馬鹿クルスは、もう死んだんじゃないかなぁ。あそこに行くって話ししてから二十年だから、生きているとは思えないよなぁ」
──コンコン
キセルの火皿に残った灰を落とし、口当たりの軽いタバコを詰めると、火をつけてノンビリと吸う。
「クルスさんって?」
「パスカルさんの昔のパーティーメンバーだよ。大陸で一番の難攻不落迷宮『灼熱の回廊』に挑んで戻らなかったらしいよ」
「へぇ。そこには何があるの?」
そう問い掛けると、パスカルは一言だけ。
「世界最強の四大精霊剣の一つ、炎の魔剣が安置してある。回廊を突破したら炎の魔人の加護が得られ、爆炎剣士の名を授かるらしい……」
「それで、そこに向かう者が後を絶たないという事だね」
ウンウンと納得するマチュア。
それには冒険者たちも苦笑いである。
「灼熱の回廊は、皇王ベルファストの居城の地下だから、今は行く事も禁止されていてね。誰も挑む事が出来ないんだよ」
なんとまあ。
「 そんなものがあるとはねぇ。じゃあ、今は行く事も出来ないのか」
「まあね。マチュアはそんな所に興味を持つんじゃないよ、危険すぎるっていう代物ではないから」
そう心配そうに話しかけるので、マチュアもコクコクと頷いた。
「私の魔法陣は火と水に極端に弱いからなぁ。そんなとこ行ったらやけ死んじゃうから、絶対に行かないわ」
たまには弱点らしいところも見せておかないと、万能化け物娘のように思われてしまう。
すると、店内の冒険者が驚いたような表情でマチュアを見る。
「弱点あるんだ……」
「当然。暑いのはダメだし火と水も無理だし、何より泳げない。こればっかりは魔法陣でもどうにもならないのよ。海なんてとんでもないですよ」
へぇ。
「以外な弱点だなぁ」
「船に乗ったこともあるけど酔うから無理。カナン商会は島の外には行かないから安心だけどね」
余計なフラグを立てるマチュア。
この話を聞いて、何名かの冒険者や客がいそいそと店内から出て行く。
「それじゃあ、大陸交易商会に認定されないようにな。まあ、あれは三王もしくは皇王の認可がないと無理だからなぁ」
そう説明するパスカル。
それならば問題ないと、マチュアもホッとする。
「もし選ばれても、フェザー伯父さんに行ってもらうよ。私は行かないから。そんじゃあまたね」
──スタスタ
のんびりと店内から出て行くマチュア。
そして酒場カナンに戻って行くと、マチュアは二階からアスタードの酒場に転移した。






