悪魔の章・その21・これも商売でね
マチュアがグラハムをライオネル商会に届けた翌日。
大回帰に乗じて商隊を襲っていた冒険者達の噂は、城塞都市ワルプルギスの街中でも噂になっていた。
「それで、今日の配達が遅れた理由は?」
パスカル雑貨店の食品売り場にマフィン二箱を納品しているマチュアに、キセルを咥えたパスカルが問いかける。
いつものように切れ長な目で、ニコニコと問いかけているので。
「寝坊した‼︎」
えっへんと偉そうに告げる。
「ふぅん。まあ、商会で忙しそうだからなぁ。あ、マチュア、その拡張バッグもアハツェン師匠の作ったものか?」
カウンターに戻って代金を支払うパスカルが、受け取った代金を拡張バッグに入れるマチュアに問いかける。
「へ?なして?」
「あちこちの商会や旅商人が欲しいんだってさ」
まあ、便利な事この上ないのは使っているマチュアがよく知っている。
「へぇ」
「昨日、マチュアはあの箒で街の中を素早く飛んで、その拡張バッグから商隊の荷物を降ろしていただろう?だから問い合わせが殺到してね」
──ポン
手を叩いて納得する。
ならばとマチュアはパスカルに一言。
「これ、私が魔法陣で増やしたやつ」
──ポイ
するとパスカルが、後ろに掛けてある自分の肩掛けバッグを手渡す。
「宜しく頼むよ」
「うむ。パスカルにはいつもお世話になっているからね」
すぐさま床に魔法陣を描く。
『3m立方の体積を付与、時間進行は十分の一で宜しく』と漢字で魔法陣に書き込むと、そのままバッグを中に置く。
(まあ、書いてある通りで……アニメイト……)
無詠唱でアニメイトを発動すると、書いてある条件全てをバッグに付与する。
当然所有者のみの設定も忘れない。
そして魔法陣に魔力を流し込んで派手に輝かせると、光が収まってからパスカルにバッグを手渡す。
「ほい、できたよ」
「お代は?」
「銀貨三枚でいいよ。友達価格で」
そう告げて銀貨を受け取ると、パスカルはバッグに手を突っ込んで中身を確認する。
──ズボッ
拡張された空間を確認すると、ひょいと鑑定天秤に載せて見てみる。
『拡張バッグ:3m立方の空間を保有する。本人のみ使用可能、第一階位アーティファクト』
──ポリポリ
頭を掻きながらキセルを取り出すと、メンソールのタバコを詰めて火をつける。
──プカーッ
「これ、師匠に何か言われなかったか?」
「魔法陣としては初歩の初歩だけど、多用するなと言われたよ」
「だろうなぁ。これは失敗する事あるの?」
「中の空間を広げると失敗する」
「そいつの広さは?」
マチュアの拡張バッグを指差して問いかけるので、マチュアは一言。
「カナン商会の建物も入るよう。私が移動カナン商会もできるし」
──ドタドタドタドタ
その言葉で奥の冒険者がマチュアの元に来る。
「お、俺のも頼む」
「マチュアちゃん、私達友達よね?」
「金は出すから‼︎」
などなど、次々とバッグを持ってくるのでキッパリと。
「一回白金貨一枚で、パスカルさんと同じで良ければ」
──サササッ
またしても蜘蛛の子を散らすように散っていく一同。
その光景を見て、パスカルもやれやれと首を振る。
「パスカルさん、これ頂けますか?」
すると、奥にある薬品関係のカウンターに、ヒールポーションを並べて話しかけるアレクトーの姿が見えた。
「あ、ちょっと待ってな……どれどれ」
薬品カウンターに向かうパスカルに、マチュアもついていった。
「アレクトーさん、ちわ」
「あらマチュアちゃん、ちわ?」
「田舎の言葉。こんにちは、が、ちわ。親しい間の挨拶だよ」
おいおい。
変な事教えないように。
でもあれもクスッと笑ってから、パスカルと交渉を始める。
それを横目に、マチュアはさっきの魔法陣に戻ると。
少し目を離した隙に、あちこちの冒険者がマチュアの魔法陣を羊皮紙に写している所であった。
──ハッ‼︎
そして後ろから覗き込んでいるマチュアに気がつくと、気まずそうな顔をしている。
「あ……ら、マチュアさん……」
「これは、その……」
必死に誤魔化そうとしているが、それは魔法陣の形をしたラクガキなのでまともには機能しない。
なので。
「写し終わったら消すのお願いしていいですか?店の準備で戻らないとならないので」
そう話してから、マチュアはパスカルとアレクトーに手を振って店から出ていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「あら、悪魔マチュア、お久しぶりです」
パスカル雑貨店から酒場に戻ってから、マチュアはアスタードに戻ってきた。
酒場から外に出てのんびりと散歩していると、街のあちこちの人がマチュアに声を掛ける。
ここでは悪魔の姿でも何ともないので、いつもの悪魔モードで歩いていたのだが。
──ドダダダダダダッ
突然マチュアに向かって、甲冑姿の男が走ってくる。
そして剣の間合いに入った瞬間、いきなり三連撃を撃ち込んできた。
──スパァァァァン
その剣戟の合間を縫って、マチュアは男の顔面に突っ込みハリセンを叩き込む。
「ハウアッ‼︎」
フラフラと後ろに下がりつつ、どうにか構え直す。
「貴様を倒して、この国を昔のような活気ある国にする……覚悟しろ」
「うん。その気概は好きだが、相手の実力をちゃんと図ろうね」
──チョイチョイ
人差し指で掛かって来いと煽る。
するとすぐさま飛び込んで来て斬り掛かるのだが。
(剣の流れならB-か。他がダメだからC評価をあげよう)
次々とやってくる剣戟は見切り、すぐさま男にデコピンを入れる。
──ドゴォッ
これで男はノックダウン。
「あ、悪魔マチュア、申し訳ありません‼︎」
すると、息を切らせて騎士団長のクライフが駆けつけてくる。
「やぁ、クライフ、この命知らずは誰?」
「交易都市ララックの避難民の一人です。元自警団長のカヤベと言いまして、ララックではボーマン一家とやり合っていたらしいんですよ」
「ふぅん。そのカヤベさんが何で私を攻撃するかなぁ」
「ボーマンが悪魔マチュアと手を組んでララックを解放したという話がララックで広まっていまして。それで、この国は悪魔マチュアが裏から牛耳っていると勘違いして」
熱血漢かぁ。
それはまた面倒だなぁ。
「私を殺して、国をヒト族の手に取り戻すぞという事なのね」
「しかも、戦争の準備が出来たら外の世界にも侵攻して、人間の覇権を取り戻すんだって」
──ポン
「あ〜成程。よし、邪魔だから殺すか。後で面倒になる前に、今殺そう‼︎」
冗談まじりでそう話すと、マチュアは炎帝剣を引き抜いた。
「いやいや、お待ちくださいマチュア様、それは短絡です。今一度、彼の身柄を私に預けて下さい」
必死にマチュアに助命を求めるクライフ。
そう来る事はわかってますよ。
「え?それでカヤベが変わる?また私を殺しにくるよ?」
「そうならないように説得してみせます、ですからお願いします‼︎」
身振り手振りを交えて、必死にマチュアを説得する。
気がつくと、周りには大勢の人が集まっている。
クライフの声に共感した人々も、カヤベの助命を求めるので。
──シュンッ
マチュアは炎帝剣をしまう。
「クライフ、みんなにもお礼を言ってね。こんなに頼まれたら断れないじゃない」
そう話してから、マチュアは銭湯に向かう。
その後ろ姿に、クライフは頭を下げた。
──カポーン
広い銭湯。
女湯の湯船で、マチュアはのんびりと浸かっている。
「これで騎士団長は、市民のために自らのプライドも捨てる事の出来る人だと印象つける事が出来たと。そして私も慈悲深い悪魔と……クックックッ」
湯船でそんなことを呟く。
すると。
「あの、悪魔マチュア、声に出てますよ?」
「へ?」
子供と一緒に湯船に浸かっていた母親が、マチュアにそう話している。
「聞こえてた?」
──コクコク
親子揃って頭を縦に振る。
すると、マチュアはパチンと自分の顔を叩く。
「あっちゃあ。内緒ね?」
「わかっておりますよ。悪魔マチュアの慈悲深さは、この国では有名ですから」
そんな小っ恥ずかしい事言わないで。
「そ、そんな事ないわよ‼︎」
すぐさまマチュアは手を振りながら否定するのだが。
「いえいえ。私達に救いの手を伸ばしてくれたのはマチュア様です。ガイアの御使い、感謝します」
そう神に祈る親子。
ふう、危ない危ない。
全て神の思し召し、そういう事です。
そんな事を考えてから、マチュアは酒場に戻って晩酌を開始する事にした。
………
……
…
カウンターの外で酒を飲む。
焼いたソーセージとノッキングバードのホロホロ煮をつつきながら、シードルを飲んでいる。
いつもなら楽しい晩酌なのだが、どうも今日は雰囲気が違う。
──チラッ
軽く振り向くと、二つのテーブルはマチュアを気にせずに愉しんでいるのだが、二つのテーブルは緊張してどうしていいかわからないらしい。
そして残りの一つ。
見た感じだと自警団らしいしっかりした装備のパーティーが、今か今かと攻撃を仕掛けるタイミングを待っている。
「……もう、空気悪いなぁ」
──ガタッ
グラス片手に自警団の方に向かうと、すぐさま自警団も立ち上がる。
「ようやく我々の殺気に気がついたか」
「この悪魔め、覚悟しろ」
ジワリ、ジワリとマチュアに近寄る。
(相手するのも面倒いわ。敵性防御……)
体の表面に敵性防御を張り巡らす。
「全く。ここは楽しくお酒を飲む所で、戦う場所じゃないのよ?」
「黙れ、貴様のような悪魔がいて、楽しく飲めると思うのか?」
隊長格の男が剣を構えるが。
「うちらは楽しく飲んでますよ‼︎」
「仕事帰りの一杯は最高ですよね?」
「そんな所で武器を構えるなよ」
ヤンヤヤンヤと、ヤジが飛ぶ。
これには自警団も動揺するが、すぐに頭を振って構え直した。
「先程までいた、この店の少女も逃げてしまったではないか‼︎早くこの酒場から出て行け、ここは貴様がいていい場所じゃない」
──ズサァァァァァッ
一気に間合いを詰めて乱撃を撃ち込むが、全てマチュアの結界で止められる。
──キィィィン
すると、魔術師のような女性が、魔法で火球弾を生み出した‼︎
「悪魔は火に弱いはず、これでもくらいなさいっ」
高速でマチュアに飛んでいく火球弾。
こんなものが爆発したら、店の半分は吹き飛ぶ。
「あ、あんたアホだろ?」
──パチィィィィン
却下で火球弾を消滅すると、マチュアは魔法使いを睨みつける。
「何考えているのよ。そんな魔法使ったら、この店が吹き飛ぶわよ」
「正義の前には、多少の犠牲はつきものです。さあ、みなさん避難してフベシッ」
──スパァァァァン
魔法使いの前に縮地で飛ぶと、顔面に突っ込みハリセンを叩き込む。
「エセ勇者じゃないんだから何でも壊すな。ここは私の店だ」
「何だと、罪なき者から財産を捲きあげるとは言語道断。とっとと出て行け‼︎」
──ガキガキガキガキッ
どんだけ斬っても全く切れない。
それどころか、武器の刃が欠けていく。
「ねえ、そろそろ遊ぶの止めません?貴方達も別の都市の自警団なんでしょ?」
「我らはララックの自警団です、悪魔がこの国を蝕んでいると聞いて馳せ参じた‼︎」
ふぅん。
「なら、私の話は聞いているよね?」
「ああ。どうやらこの街の人々は悪魔に心を支配されてしまったらしいな……」
──ガチャッ
素早く構え直すと、じっとマチュアを睨みつけるので。
「連続拘束……そのエセ勇者っぽいの外に放り出して」
「イェーイ」
常連酔っ払い組が、拘束されて身動きの取れなくなった自警団を店の外に叩き出す。
そのまま離れの空き家に放り込むのを、マチュアはじっと見ていた。
「ありがとう。これはタダであげるね。タチの悪い客を叩き出してくれたから」
──ドン
と一升瓶をテーブルに持っていく。
すかさず乾杯が始まった様子を見て、ずっと様子を見てたテーブルの人たちも、ようやくマチュアに声を掛けた。
「あの、食事を八人分もらえますか、悪魔さん」
「はいはい、少し待っててね……」
………
……
…
翌日。
朝方に魔法の効果か切れた自警団の面々は、騎士団長に連れられて詰所まで連れていかれた。
そこでみっちりと説教されて、マチュアの元に謝りに連れて来られた事はいうまでもない。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
数日後。
ワルプルギスのカナン商会から荷物を載せて、マチュアはグラントリ王国・地方都市ドリュアストと向かっている。
本日は納品業務、まだ大回帰が収まっていないので、緊急措置としてマチュアが運搬業務を行っていた。
街を出発して街道上空を飛んでいると、先日ライオネル商会が襲われた場所までやって来た。
「お、人が一杯だ……」
倒れていた馬車などの近くに、冒険者や商人が集まっており、その中にライオネルの姿も見えたのである。
「何か困っているのか?」
──ス〜ッ
ゆっくりと高度を下げると、ライオネルの斜め上で止まった。
「ライオネルさんや、何をしているんだい?」
「この結界はどうやって解除するんだ?」
そう問いかけられたので。
「まあ、荷物を盗まれないように守っていた私にそういう事言う?」
「誰も頼んだ覚えはない……それに、これがこのままだと、商隊も通れないではないか」
ニヤニヤと笑うライオネル。
解除したら荷物を回収するのだろう。
ならばと、マチュアも近くに飛んでいくと、近くの草原に着地する。
──パッ
大地を手を当てて、ゆっくりと詠唱を始める。
「大地制御……」
──ムクムクムクッ
すると。結界に包まれていた馬車が、地面ごとゆっくりと草原に動いていく。
暫くすると、ライオネル商会の馬車全てが草原に移り、街道が緑で覆われた。
さらに草を枯らして地面を固めると、元の街道に戻った。
この光景を、ライオネルを始めとする商会や冒険者、結界内の敵対冒険者やリザードマンもポカーンと見ていた。
「よし、これで通れますよね?」
そう話して箒に乗ると、マチュアはゆっくりと上昇する。
「ま、まて、ワシの馬車の結界は解いてくれないのか?」
「へ?なんで?」
「あのままだと荷物が回収できない。とっとと解除しろ」
「まあ、解呪師やとうなり、80レベル以上の冒険者探せば?」
淡々と話をするマチュア。
「何故ここに来て魔術師に金を払わねばならんのだ‼︎」
「結界であんたの荷物守ってやったのに、ありがとうも言えんのか、外して欲しければ一台につき白金貨一枚だ‼︎」
「それでは赤字になるぞ‼︎纏めて白金貨三枚だ」
つい叫ぶライオネル。
慌てて口を閉ざすが、マチュアはス〜ッとライオネルの前に向かう。
──スッ
「まいどあり。白金貨三枚ね」
すると、ゴソゴソと懐から財布を取り出し、マチュアに白金貨を手渡す。
「ふん。とっとと解除しろ」
「なら、冒険者をちゃんと配置してね。あれ逃げるから」そう指示して冒険者を配置してもらう。
──パチィィィィン
軽く指を鳴らして結界を解除すると、中から逃げようとした者達は一斉に取り押さえられた。
それを見届けてから、マチュアは再びドリュアストへと飛んで行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
前回と同じく正門で通行許可証を発行してもらうと、マチュアはのんびりと箒に乗って交易ギルドへと向かう。
万が一を考えて箒と自身に敵性防御を張り巡らすと、トロトロと街の中を飛んでいく。
相変わらず、この街の人々はマチュアを好奇心の目で見る。
貴族ですらおいそれと手に出来ないマジックアイテム。
賢者や魔術師でしか使用できない魔法の箒を、ツノオレが普通に持っている事が不思議でならないらしい。
「ついに見つけたぞ、そこのツノオレ、その箒をよこせ‼︎」
はあ。
この街にはこいつがいるのを忘れてた。
無視してトロトロと飛んでいく。
「き、貴様、この俺を無視するのか‼︎」
無視無視。
相手するのも面倒くさい。
「護衛よ、あの女の箒を取ってこい‼︎どうせ盗品に決まっている‼︎」
「ハッ‼︎」
すぐさまマチュアに向かって護衛が走ってくる。
素早く剣を引き抜いて身構えたが、マチュアは無視して飛んでいく。
「こ、こいつツノオレの癖に」
マチュアに無視された事が気に入らないのか、護衛の一人が斬りかかったが。
──バジッ
マチュアにロングソードが届いた瞬間に、結界によって弾かれた。
「なっ‼︎何だと」
「退がれ、私がやる」
もう一人の女の子オーガが両手で印を組む。
20秒ほどすると、オーガの目の前に火球弾が浮かび上がった。
「どうだ、アリアのフレイムバーストは第三聖典の魔術だ。貴様程度は真っ黒に焦げてしまうぞ、さあ、命乞いをしろ、そこに跪け」
一番後ろで威勢良く煽ってくるオルファン。
ならば、とっておきの切り札をくれてやろう。
マチュアはゆっくりとオルファンを見る。
「お、貴様ようやく立場がわかったか……」
そう呟くので。
「ぷ〜クスクス。護衛の後ろで踏ん反り返って、自分では何も出来ないんでやんの」
力一杯の侮蔑の笑みと、どっかの駄女神譲りの煽っていく笑い。
これでオルファンは真っ赤になった。
「う、撃て、その魔法で焼き殺せ‼︎」
──ゴウッッッ
アリアと呼ばれたオーガが、マチュアに向かって火球弾を放つ。
それはマチュアに直撃して箒ごと全身を包み込むと、激しく燃え上がったのだが。
(今のうちに……)
炎のおかげで外からマチュアは見えない。
なので結界の範囲を大きくすると、空間収納から羊皮紙を探し出しで魔法陣もどきを書き込む。
それに魔力を付与して輝かせると、外の魔法を消滅する。
──パチィィィィン
何のことはない却下なのだが、マチュアはさっき作ったニセの魔法陣を右手で構える。
──フンッ
見下すようにオルファンに魔法陣を見せる。
「そ。それは、それはなんだ‼︎」
「第四聖典までの魔法全てを無効化する魔法陣ですが何か?それでは……」
会釈してのんびりと進む。
今の騒動で衛兵が駆けつけた時、オルファンは勝ち誇った顔で叫ぶ。
「衛兵よ、先の魔法はあのツノオレが放ったのだ‼︎捕らえよ」
──シーン
だが、衛兵は動かない。
「どうした、なぜ捕らえない」
「失礼ながら。ツノオレは第二聖典までしか魔法は使えません。先のは第三聖典、それは無理な話です」
──ブチッ
「煩い煩い、何でもいいからあの女を捕らえよ‼︎」
とうとう無茶な命令を始めるオルファン。
すると。
──ガラガラガラガラ
二台の豪華な馬車が街道の向こうから走ってくる。
そして先頭を走る馬車から、いかにも美中年風の男性が顔を出す。
「通りが騒がしいと思ったらオルファンか。一体何を騒いでいる」
「父上、この半魔族か貴族に楯突くのです。投獄してください」
「ほう。この都市で我が息子に逆らうとは、いい度胸だな」
「そうです、この者は得体の知れない魔法の箒を持っているのです。それに第四聖典までの魔術を封じる魔法陣まで。おそらくはこの国の転覆を企む何者かではないかと」
お、寸劇始まったぞ。
楽しそうだから付き合おうかなと思った時。
──ガチャッ
後ろの馬車の扉が開き、中からグラントリ女王が姿をあらわす。
この瞬間に、周りの人々は一斉に跪いた。
そしてマチュアだけが、グラントリ女王をじーっと眺めている。
「やぁ、元気?」
──ブッ
その場の全員が頭をあげてマチュアを見る。
ツノオレ如きが馴れ馴れしく女王に手を振っている。
するとグラントリもマチュアに近づいていく。
「これ、マチュアさ……ちゃん、妾はお忍びで街を巡回しているだけぞよ。そんなに簡単に手を振るでない」
お、耐えた。
マチュアの立場も理解し、何とか話を合わせてくれたらしい。
「そかそか、女王さまも大変ですね。頑張ってください」
「当然。して、マチュアちゃんは何をしておる?」
「仕事です。カナン商会の仕事で、荷物を搬入に来ました。ですが、あのガキンチョに絡まれまして困ってました」
あ、チクりやがった。
この瞬間、オルファンとその父は、死を覚悟した。
「ほぅ……マチュアちゃんがツノオレと思って迫害されたのか?」
「私の愛用の、箒を寄越せと言われて……」
乗っている箒を指差す。
すると、グラントリもにこやかに。
「これはあれか?妾が先日、ワルプルギスの雑貨屋に頼んで譲ってもらったやつか?話ではマチュアちゃんが作っているとか」
「そうです。また欲しかったら、注文して頂ければ作りますので」
そう笑うマチュア。
「そうか。サンマルチノ王やシャイターン王も羨ましそうだったぞ。また皆でティーパーティを楽しもうぞ」
それにはマチュアもコクコクと頷く。
「さて、アルバスト卿、市街の巡視を続けるとしよう。その後で、色々と聞きたい事があるからな……」
そう話をして、グラントリ女王は馬車に戻る。
そしてアルバスト卿も馬車に戻ると。
「オルファン、貴様は家に戻って謹慎しろ‼︎いつかやらかすとは思っていたが……」
そう叫んで馬車に戻った。
──ガラガラガラガラ
ゆっくりと馬車が走り出す。
それを見送ったら、人々は触らぬ神に祟りなしと、オルファンの近くから離れていった。
………
……
…
「おや、本日はどのようなご用件で?」
「ボンクラ相手にからかってたら、ボンクラがとんでもない事に……違う、これが納品書、こっちが買い付けたいリストです」
納品書はカナン商会の、買い付けリストはマチュアが欲しい物。
主に貴金属宝石関係で、これを日本で換金してウォルトコで買い物をするのである。
「畏まりました。まずは納品からお願いします。ではこちらへ……」
一階の倉庫で荷物を降ろす。
それの検品の間に、もう一つのリストの宝石や貴金属を手配してくれている。
ちょうど納品が終わるタイミングで買付けリストの商品も揃ったらしく、カナン商会の代金を受け取ってから、マチュアは自費で宝石などの代金も支払った。
そして帰りは誰にも絡まれること無く、マチュアはのんびりとワルプルギスへと帰って行った。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。