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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第10部・悪魔っ娘大騒動

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悪魔の章・その20・大回帰対策というよりは

 大回帰が発生し、各商会では取り扱い商品が欠乏し始めている。

 北東部に位置する城塞都市ワルプルギスは大陸でも東方に近い位置にあり、繋がる街道の数も少ない。

 更に、近くに亜人種の集落もあり、彼方此方あちこちの商会では商品の在庫切れが起こり頭を抱える事態になった。

 これはカナン商会も例外ではない。

 グラシアス王国領からやってくる商隊のいくつかが襲われ、大回帰が収まるまでは取引が停止してしまったのである。

 この大回帰対策のために、ワルプルギスの会議場には都市内の商会や商人が集まって相談しているところである。



「現在は冒険者を雇って商隊に付けるしかないのですが、そうなると莫大な経費が掛かります。大商会ならいざ知らず、我々のような小さな店ではどうする事も出来ません」

「いっそ、近くの集落全てを冒険者に討伐してもらうしか無いのでは」

「待て待て、もう冒険者は残ってないぞ。腕のいい冒険者は大回帰が始まった時、既に高額で囲われているではないか」

「新しい街道を整備するとか、何か方法を考えなくては」

 頭を抱えている商人たち。

 この会議にはフェザーの勧めでマチュアも同行していた。


(まあ、どうする事も出来ないわな。しかし、あのライオネル商会の余裕な態度は何だろ)


 斜め前に座っている、ライオネルの我関せずの態度。

 何か企んでいるのかもしれないが、どうも掴み切れない。


「カナン商会は何か対策をしているのですか?」

 突然何処かの商人がフェザーに話を振る。

 するとフェザーも話を始める。

「そうですねぇ、護衛の冒険者の補充は行いましたし、不足分の商品は在庫分を開放して対応しています。今の所はそれぐらいですねぇ」

「そうですか。カナン商会でもそれしか方法はありませんか……ライオネル商会も同じですか?」

 するとライオネルは開口一発。

「冒険者の補充ぐらいだな。在庫分を開放などするか。逆に、皆さんにとっては厳しい事態かも知れませんが、我が商会にとっては儲かるチャンスと考えていますからなぁ」

 フフンとマチュアを見るライオネル。

 これなら文句はあるまいと言う顔をしているので、マチュアも涼しい顔で微笑み返す。


(ん、ライオネル商会のやり方も間違いではないから静観。でもそのやり方は滅ぶぞ)


 そう思いながら、ジ〜ッとライオネルを眺めている。

 すると。

「なあライオネルさん、そちらの商隊と合流させて貰えないか?手数料は支払うので」

「おお、それが良いですな。元々ライオネル商会は私設冒険者の数も豊富ですし、その方が安全ですなぁ」

 突如湧いた商人の意見で、ライオネルに擦り寄る商会も出始める。

「まあ、うちとしては貰えるものさえ貰えたら、商隊に参加するのは構いませんよ。まあ、手数料は商会の規模によって変えますのでねぇ」


──クックックッ

 マチュアを見てニヤリと笑うライオネル。

 まあ、それはそれで良いかなあ。

 困っている商人達が助かるなら。

 ライオネルのやり方は間違っているとも思えないし。


 すると、横のフェザーがマチュアに耳打ちする。

「相変わらず強引ですが、カナン商会も乗りますか?」

「いいよ。足りない商品を後で書き出しておいて、私が買い付けするから」

 そんな話をコソコソとしていると。

「そうそう、カナン商会も乗りますか?手数料は高いですよ……ガッハッハッ」

 あ、完全勝利宣言しやがった。

 まあ、それは放置しよう。

「うちも独自のルートを持ってますから、安全快適なやつをね?」


──ピクッ

 これにはライオネルをはじめ、その場の商人の耳が動く。

「そ。それは本当ですか?」

「代金は払います、そのルートを教えて下さい」

 彼方此方あちこちから、そういう話が来るので。

 マチュアは天井を指差す。

 は?

 商人たちは一斉に天井を見上げる。

「カナン商会は、商品を空輸します。では準備がありますので私はこれで」

 カタッと立ち上がり、マチュアは部屋を出る。

 その後のフェザーに対する問い合わせは全てスルーしてもらい、マチュアはのんびりと箒に乗ってカナン商会に戻った。


………

……


「……」

 カナン商会一階ロビー。

 その隅っこのテーブルに地図を広げ、マチュアは交易ルートを考えていた。

 手元にはフェザーが用意した商品のリストと商会代表を示す割符、そして大量の白金貨の入った袋。

 これらを次々と拡張エクステバッグに収めると、マチュアは近くに座っていたフェザーに話しかける。

「そんじゃ行って来るわ。明日には戻るので」

「へ?どうやってですか?」

 この疑問には他の商会従業員も首を捻るのだが。

 傍に置いてあった箒をバンバンと叩く。

「空を飛んでいきますよ。それじゃあ」

 そう挨拶して外に出た。


 ゆっくりと箒で飛んでいくマチュア。

 そして正門までやって来て外に出ると、丁度ライオネル商会の商隊が街から出た所であった。

 あの従者もどうやら御者として同行しているらしく、横をのんびりと飛んでいるマチュアに気がついた。


「げぇ、カナン商会のマチュア……あの、まさかそれで仕入れですか?」

 恐る恐る問いかけて来る。

 すると、マチュアはニィッと笑う。

「私なら護衛いらないし。それは知ってるでしょ?」

「ええ。それはもう……でも遅くないですか?」

 マチュアの柔和な態度で少しホッとしている。

「まあ、本気を出せば、一刻掛からないから。そういえば、従者さんの名前は?」

 視界の中に表示されているが、間違って呼びつけないための保険として聞いておく。

「グラハムですよ。爵位はないので家名はありません。マチュア……さんこそ、家名があるでしょう?」

「家名かぁ……あれ?」

 ふと考える。

 商会登録した時の名前を使うのが商人の習わし。

 それが爵位名にもなるので。

「あ〜。マチュア・カナンかな?」

「あ、そっちでしたか。マチュア・マスケットではないのですね?」


──コクコク

 すぐに頷く。

 やがて正門が見えなくなってきたので。

「それじゃあ本気で行きますので、お気を付けて」

 ニッコリと微笑んで箒を加速すると、そのまま上昇して高度を上げ、真っ直ぐにグラントリ王国へと飛んで行った。


「は、ははは……もうあの人と喧嘩するやのは止めよう」

 ボソッと呟くグラハム。

 そしてライオネル商会の冒険者達は、空を高速で飛んでいくマチュアの姿に驚愕していた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 グラントリ王国・地方都市ドリュアスト


 この世界の街道事情で、馬車の速度は速くても時速15km。

 替えの馬を用意しない限り、一刻毎に休みを取る。

 なので、どう頑張っても一日に走れる距離は80km。

 ワルプルギスからドリュアストまでの距離は500kmもあり、いかにワルプルギスが辺境なのかよくわかる。

 平均的にワルプルギスからドリュアストまでは七日、それをマチュアはいつもの癖で一時間ちょいでやって来る。


「うおぁっ‼︎近くに行き過ぎないように……」

 一旦、ドリュアストの正門に見えない所に降りると、箒の速度を下げてチンタラと街道を飛んで行く。

 そして正門でカナン商会のギルドカードを提示して入国税を支払うと、マチュアはドリュアストの中に入っていく。


 ワルプルギスとは違う、喧騒に包まれた街。

 大勢の魔族が行き交い、ヒト族の姿は全く見えない。

「さて、目的地は交易ギルドか……商人ギルドじゃ無いんだ」

 キョロキョロと周りを見渡し、近くのオーク嬢に話しかける。

「あの、交易ギルドはどこですか?」

「交易ギルドですか……あらやだ、ツノオレじゃない」

 マチュアに声を掛けられて振り向いたオーク嬢だが、褐色の肌に帽子姿のマチュアを見て明らかに嫌悪感を露わにした。

「ここの道を真っ直ぐよ。それじゃあね」

 いそいそとその場を離れるオーク嬢。

 それを見て、マチュアは周囲を改めて見渡す。

 ワルプルギスとは違い、明らかにマチュアを見る目が違うのである。

 格下の『何か』を見るような目つき。

 これにはマチュアも動揺する。

 マチュア以外の半魔族も少しは見えるのだが、マチュアとの差が激しい。


「あ〜、ツノオレは元奴隷で人権無しか……交易ギルドもこれならヤバイよなぁ」

 そんな不安を抱えながら、のんびりと飛んで行く。

 やがて、大量の商隊馬車が集まっている建物が見えて来ると、マチュアはそこに向かって飛んで行った。


………

……


「お、おおう。カナン本国の商人ギルドよりも大きいぞ。何じゃここは?」

 規模でいうなら、建物の一階部分が倉庫と商隊馬車が入る大きさ。

 それも、いくつもの商隊を同時に収容できる。

 ラグナ・マリア王都の商人ギルドと同じぐらいだろう。

 その一階入り口にのんびりと飛んでいくと、すぐに箒をしまって中に入っ……れない。


「お、ここは奴隷は禁止だよ」

 入り口横の護衛が、入ろうとしたマチュアの襟首をつかんで持ち上げる。

「うひゃあ。私はワルプルギスのカナン商会の者だ、割符もギルドカードもあるぞ‼︎」

「へぇ。それなら見せてご覧」

 そう言いながら降ろしてくれたので、マチュアはすぐにカードと割符を提示する。

「ほう、本物だねぇ。ならついておいで、そのまま入ると危険だから」

 カードと割符を戻したので、マチュアはそれを受け取ってついて行く。


「人を奴隷と間違えて謝らないのかい」

 そう護衛に話しかけるが、護衛も歩きながら。

「はっはっはっ、それは済まなかったなぁ。奴隷は魔族の施設や店には入れない決まりだからねぇ」

「それって謝罪?」

「そ。だから俺が付いているだろう?」

 ふん。

 それなら許してやろう。

 そのまま端っこのカウンターまで向かうと、護衛が中の店員に一言。


「ワルプルギスのカナン商会代表だよ。ツノオレ半魔族だけど、交易許可証もギルドカードも確認したので」

 と話しかけた。

「それじゃぁこれで」

 そう告げてマチュアから離れていく護衛。

「割符とギルドカードの提示をお願い出来ますか?」

「ほい‼︎」


──コトッ

 カウンターに二つを置くと、店員は奥からもう一つの割符を持って来る。

 二つの割符を合わせ、真ん中のくぼみにギルドカードを嵌めると、カチッという音と共に淡く輝いた。


──カチッ

 すぐに割符とギルドカードをマチュアを戻す。

「遠路はるばるご苦労様です。商品の一覧はお持ちで?」

 すぐに拡張エクステバッグからリストを取り出して手渡す。

「あなたは私がツノオレでも差別しないのですか?」

「交易ギルドは、登録されている商人がどのような方でも差別はしませんよ。全てにおいて公平です……が、ここに来る商人はその限りではありませんので、お気を付けて」

「でも、入口で止められましたよ?」

「ツノオレの半魔族で商会の代表は見た事がありませんので。後程全ての護衛に通達しますので、ご了承ください」

 そう丁寧に頭を下げられた。


「あ、はい。後、その商品はすぐに揃いますか?」

 それを台帳と照らし合わせて内容を確認してもらい、問題がない事を教えてもらうと、すぐにマチュアは支払いを終わらせた。

「それでは荷物を引き渡しますね。カナン商会からの馬車の到着待ちでしたので。こちらへどうぞ」

 横の通路から裏に回る。

 建物の中の商隊馬車が止まっている所にやって来ると、その一角に案内される。

 そこはワルプルギスから来る商隊用の場所らしく、各商会ごとに荷物が区分けされて置かれていた。


──キョロキョロ

「カナン商会様のは、馬車十台分ですが、馬車はどちらで?」

 そう問いかけながら周囲を見渡す店員。

 なのでマチュアは、荷物の横に立つ。

「これ全部ですよね?」

 問いかけながら拡張エクステバッグを指差すと、マチュアは拡張エクステバッグの中に次々と荷物を収納する。


──ウオッ

 近くの商隊がその光景を見て驚き、慌てて何処かに走っていく。

 だが、マチュアはそんな事には気付かず、淡々と荷物を収納していった。


──スポッ

 そして最後の荷物を収納すると、受領のサインとカナン商会の印を押して手続きは完了。

「そこから外に出られますので。それではまたよろしくお願いします」

 店員が軽く頭を下げるので、マチュアも下げ返す。

 そしてそのまま外に出る事にした。


………

……


 箒に乗ってプカプカと飛ぶ。

 この街でも魔法の箒は珍しいらしく、街行く魔族たちがマチュアを不思議そうに見ている。

 マジックアイテムとしてはかなりの珍品に、ツノオレが乗って飛んでいるのである。

 珍しい以外のなんでもない。

「……うわぁ、嫌な予感しかしないわ」

 こっそりと自身に敵性防御を発動し、周囲に気を配って飛んでいる。

 ツノオレが迫害されているこの街では、のんびりとご飯食べて帰るなんて出来ない。

 そのまま町の正門まで逃げる事にしたのだが。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「おい、そこのツノオレ‼︎その箒を寄越せ」

 何だろう。

 このチンピラが絡むのは雛形なのか?

 一体どれだけこのやり取りを行なったのかと、マチュアは声のする方に一言。


「「その箒は、高貴な俺にふさわしい」」


 わざとハモってみせると、視界に立っている20歳前後のイケメンゴブリンが、真っ赤な顔になりながら護衛や美人ゴブリンを侍らせている。

「うわぁ、あんた過去最高のボンボンだよ、他人を苛つかせられる要素全部持ってるよ。boyaitterに投稿したいわ」

 そんな事を話していると、男はマチュアの足元に銀貨を三枚投げた。

「ツノオレなどそれで十分だ。早くそれを寄越せ」

「……」

 無言のままで銀貨を拾うと、マチュアはイケゴブリンの腹にめがけて銀貨を指で弾く。


──ビシビシビシッ

「ふうおわっ‼︎」

 軽くやらないと内臓が飛ぶので吹き飛ぶので、痛そうなレベルで飛ばす。

 すると、命中した腹を押さえて蹲った。

「お金は投げない。投げていいのはFFシリーズだけだよ、そんじゃあね」

 トロトロと飛んでいくマチュア。

「範囲2m、敵性防御っ」


──ブゥン

 マチュアを中心に直径2mの球形の見えない結界を施す。

 するとイケゴブリンの命令らしく、護衛のオーガが抜刀して切り掛かって来るが。


──ギン、ガギン

 全てが結界で阻まれた。

 そんな攻撃を無視して正門まで飛んでいくと、警備兵に通行証を見せる。


「そこの警備兵、そのツノオレを捕らえろ‼︎そいつは俺に無礼を働いた、この場で死刑だ」

 これには警備兵もやれやれと言う顔をする。

「オルファン様、この女性が何をしたのですか?」

 そう問いかけると、オルファンと呼ばれたイケゴブリンが腕を組んで堂々と。

「その奴隷に相応しくない魔法の箒を、俺が銀貨三枚で買い取ってやると言ったのだが、銀貨を投げ返しやがった……みろ、この痕を‼︎」

 ペロンと腹をめくると、コイン大に三箇所が内出血している。

 だが、目の前のツノオレにそんな力があるとは信じない。

 コインをぶつけるだけで内出血など、どんな怪力なのかと。


「あの、オルファン様、わたし達は貴方の父上にはある程度の便宜を図るようには言われてますが、その言い掛かりは余りにも納得出来ませんので……」

 その言葉でマチュアは外に通された。

「ぐぅぅぅぅ、構わん、力づくで奪い取れ」

 真っ赤な顔で叫ぶオルファン。

 そして護衛がマチュアに走ってきたので、マチュアは箒に魔力を注いですぐに護衛を引き離した。


──ヒュゥゥゥンッ

「……あの都市のボンボンか。また面倒だなぁ」

 離れて町の様子を見ていると、途中で息を切らせている護衛達の姿が見える。

 もう諦めたらしく、戻って行く姿が見えたので、マチュアもワルプルギスに戻る事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 帰りも高度を上げて高速で飛んでいく。

 このままだと夕方迄には戻れそうだと、マチュアはのんびりと構えていたのだが。


──ウワァォァァ

 街道の先の方で大勢の人の声がする。

 何かが争っている声に聞こえた。

「何処かの商隊が襲われている?」

 ヒュウンと声の方向に飛んでいくと、街道でリザードマンと冒険者が争っている姿が見えた。

 その向こうでは、倒れている馬車から荷物を略奪しているリザードマンも見える。

「あ〜、ライオネル商会かぁ。グラハムは……あそこか」

 街道横の草原を走って逃げているグラハム。

 後ろからはリザードマンと、ライオネルが雇った冒険者が一緒になってグラハムを追いかけていた。


「……何だこりゃ?まあ、グラハム助けるか」

 速度を上げてグラハムの後方に向かうと、すぐさま腕を掴んで急上昇する。

「ハアハアハアハア……ま、マチュアさんか……助かった……」

「何があったの?」

 そう問いかけると、グラハムはよいしょと箒に跨った。

「すぐそこでリザードマンが襲ってきたので、護衛に迎撃するように伝えたのですが。その中の数人がほかの冒険者を後ろから斬り殺して……」

 ははぁ。

 リザードマンとグルの冒険者が居るのか。

 それで口封じにグラハムも殺そうと言うのだろう。

「マチュアさんは、私を助けるのに引き返してきたのですね?ありがとうございます」

「いや、もうドリュアストで荷物を引き取ったのでワルプルギスに帰る所だよ」

……

 一瞬の沈黙。

 そしてグラハムは、ようやく自分が何に乗っているのか理解した。

「う、うわぁぁぁ、これは箒ですか、こんなに高く、こんなに早く飛ぶ箒なんて見た事ないですよ」

「まあね。そんじゃ下ろしてあげるから、頑張って逃げてね」

 そう話してゆっくりと降下するマチュア。

「い、いや、助けてください。このままでは荷物を全て失って、ライオネル様の逆鱗に触れます」

 あ、逆鱗という単語はあるのか。

「そんな他所の商会事情など知らん。私はこのままワルプルギスに帰るから、あんたはライオネルに報告すればいいんじゃない?」

 そう話して商隊の馬車に向かうと、マチュアは残っている馬車に範囲型の結界を施す。


──ブゥゥゥン

 荷物を運び出そうとしたリザードマン達もその中に閉じ込めて、マチュアは真っ直ぐにワルプルギスへと飛んでいく。

「さ、さっきは何を?」

「へ?あの馬車に結界の魔法仕掛けただけ。あれで荷物は運び出せないから」

「そ、そうですか。感謝します」

「……まあ、外せるのは私だけだから、外して欲しければ金を出せ」

 ケラケラと笑いながら、マチュアはワルプルギスの正門に辿り着く。

 そしてギルドカードを見せると、そのままライオネル商会まで飛んで行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「…………」

 突然マチュアが空から降りてくるのを見たライオネルは、慌てて外に飛び出した。

「空輸か。カナン商会はこれで空から安全に荷物を運べるのか……荷物は?」

 かなり悔しそうな声のライオネル。


──バンバン

 苦虫を噛みしめるライオネルの言葉に、マチュアはにこやかに自分の拡張エクステバッグを叩く。

「全てこの中。という事で、リザードマンに襲われた挙句、裏切った冒険者に殺されそうになったグラハムを届けにきた。代金寄越せ」


──パシッ

 いきなり金貨一枚をマチュアに投げる。

「毎度あり、詳しい話はグラハムに聞いてね。それじゃあまたね」


──ヒュゥゥゥンッ

 一気に高度を上げると、マチュアはカナン商会の前に着地する。

 この光景に、商会からは何事かと従業員が飛び出して来るので。

「ドリュアストから荷物を持ってきた。どこに置けばいい?」

「は、はい、こちらへ……」

 すぐさま裏の倉庫に案内される。

 従業員はマチュアが拡張エクステバッグからマフィンやジュースを取り出しているのを何度も見ているので、何かを運んできたのだろうと思ったのだが。


「…………はぁ」

 開け放たれた倉庫に、次々と取り出される巨大な荷物。

 その数、実に馬車十台分。

 何事かと横から覗き込んでいた他の商会や商人も目を丸くしている。

 報告を受けたフェザーも慌ててやって来ると、マチュアの近くまで来て頭を下げた。

「本当にドリュアストから持ってきたのですか……感服しました」

 と一言告げてから、耳元でコソッと

「アレ使ったのですか?」

「まさか。私の箒は第十階位アーティファクトだよ。ドリュアストまで一刻で着く。この拡張エクステバッグもそう、この三倍ぐらいの荷物は運べるけど、他の商会の荷物は引き受けるな、それはライオネル商会の仕事だからね」

 そう釘を刺す。

 側から見ると半魔族の娘と父親がこっそりと話しているように見えるらしく、皆か微笑ましそうに見ているのだが。

 その中身は真っ黒である。

 おお怖。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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