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悪魔の章・その15・信念のぶつかり合い

 グランドリ一家が神聖アスタ公国に定住して数日後。

 マチュアはパスカル雑貨店で店主といつもの交渉をしている。

 

 カウンターには、マチュアがボトルからラベルをはがしたウイスキーが一本置いてある。

 グランドリ一家を捕まえる為に、店の中で封を切りまくって並べた酒。

 その香りで無事にドワーフの御一行様を確保できたが、酒が好きなのはドワーフだけではない。

 この世界、オーガもドワーフと並んで酒が好きなのであった。

 結果、酒場カナンの酒が気になったオーガの冒険者がパスカル雑貨店に頭を下げたらしい。


 カウンターには琥珀色の酒。

 蒸留酒のないこの世界には存在しない酒。

「へぇ。これがオーガの騒いでいた酒かい。鑑定していいかい?」


──カチャッ

 天秤にウイスキーを乗せてバランスが取れるのを待つ。

 そして水晶に価値が出るのを見ると、パスカルは頭を抱えそうになる。

「一本金貨一枚の酒かぁ。貴族向けだね。カナン商会で売ればいいのに」

「私の店のメニューにあるし。だから商会では売らない。パスカル買ってみるかい?」

「銀貨四十枚だね」

「嘘でしょ?銀貨八十枚で」

「うちも儲けないとなぁ。銀貨五十枚」

「あ、それで良いや」

 あっさりと引く。

「それで良いのなら助かるけどね。ほら、銀貨五十枚」


──ジャラッ

 早速それを食料関係のカウンターに持って行くと、何故かそこでは集まったオーガがオークションを始めていた。


「ん〜、マチュア、あと10本頼むわ」

「持ってきてきてない。別のもあるから、纏めて持ってくるわ」

 そう告げて、マチュアは酒場に戻っていく。

 すると店の前にカナン商会の馬車が止まっていた。

 向かいのパスカル雑貨店から出てくるマチュアを見て、慌てて馬車からフェザーが降りてくる。

「マチュアさま、緊急事態です」

 血相を変えてやってくるフェザー。

 でもマチュアはのんびりと。

「あ、どしたの?中で話聞くよ?」

 そう話しながら店内に入る。

 そして拡張エクステバッグからウィスキーや焼酎をケースごと引っ張り出すと、水に漬けてラベルを剥がす。


「シャルターン国王が、我がカナン商会に王室御用達を発行してくれたのはご存知ですよね?」

「うん。減免措置で下がった税率分だけ値下げしたんでしょ?周りの商会から恨まれて楽しいよね」

「……楽しんでます?」

「だって、うち悪い事してないよ?」

 全くだ。

 日本のような商業に関する法律が明確ではない。

 故に一社独占企業もなんぼでも可能。

 敢えてマチュアは手を出してなかっただけ。


「イスュタル商会とライオネル商会が手を組みました。これで冒険者の使う武器と防具を使っている鍛冶屋は全て押さえられました」

「なら、うちは貴族や普通の人相手に仕事しようよ。冒険者の利権なんて大した事ないよ。後……武器と防具屋を潰すのなんて簡単だから」

 ニイッと笑うマチュア。

 それにはフェザーも寒気を覚える。

「ラセツもシュテンも一緒にラベル剥がして。剥がしたら、この木箱に並べてね。下に毛布引いて、落としても割れにくくして」

 のんびりと鼻歌交じりでラベルを剥がす。

「あの、マチュアさま、このような雑務は私達に任せて構わないのですよ?」

「いいのいいの。後、これカナン商会で売ってみな。うちとパスカル雑貨店で独占で売ればいいから、相談して来なさいな」

 拡張エクステバッグから剥き出しになった◯乳石鹸や詰め替えたシャンプー、リンスなどを大量に取り出すと、すぐさまバラキが箱詰めする。


「はぁ……これはなんですか?」

「これは石鹸、こっちがシャンプーとリンスで……」

 一通り説明すると、フェザーはバラキとシュテンに箱を持たせてパスカル雑貨店に向かう。

 残ったラセツとマチュアはラベルを剥がして遊んでいる。


 昼頃には全てのラベル剥がしが終わり、マチュアは20箱の半分をカナン商会の馬車に積むように指示する。

 残りは自分の拡張エクステバッグにしまうと、フェザーが戻って来るのを待っていた。


………

……


 にこやかな顔のフェザー。

「話は付きましたぞ。これらはうちとパスカル雑貨店での独占権利です。しかし、これは何処から入手するのですか?」

 そう問いかけるフェザーに。

「グランドリ一家の商隊がこれを独占入手してるから。そこと契約して下さいな」

「はぁ、うちもグランドリ一家とは契約してますが、こんな商品は扱っていませんよ?」

「最近になって取り扱いを始めたんだってさ。数はそれほど多くないから、まずは……他の商会の奥方とかを味方につけて。数が少ないから買い占められないように」

 色々とアドバイスをして、マチュアは馬車を見送る。

 すると馬車と入れ違いに、レオニードやアレクトー、トイプー、ラオラオが歩いて来る姿が見えた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「マチュアちゃん、例の件でレオニードを連れてきたわ」

 アレクトーがマチュアにそう告げると、他の面々も笑いながら頷いている。

「立ち話もなんだから、まあどうぞ」

 そう告げて皆を店内に招き入れると、マチュアはテーブルに瓶入りりんごジュースと籠に入ったマフィンを出す。


──クンクン

「これは、前にアレクトーとマチュアさんから漂ってきた匂いです!アレクトー、抜け駆けしましたね」

「あ、あはは……美味しくて……」

「これってパスカル雑貨店で売ってるマフィーンだよね?一人一個限定で、いつ売ってるか分からない幻の菓子。よくこんなに手に入れたね」

 ラオラオがマチュアを感心してると、マチュアも一言。


「これ作ってるの私だし」

「へぇ。食べていいの?お金は?」

「注文されて作ったんじゃないし。アレクトーの友達なら私の友達、好きなだけ食べ……トイプーとアレクトーは食べてるわよ?」

 ラオラオがマチュアの方を向いて話しているうちに、後ろではアレクトーとトイプーが食べている。

「うわおっ‼︎僕の分も残してよぉ」

 すぐさまラオラオも食べ始めるが、レオニードはじっと黙ってる。


「レオニードさん、世間一般では蘇生は時間が経過すると成功率は落ちます。魂が体から完全に離れたら蘇生は出来ないからね……」


──ビクッ

 この言葉にレオニードは身体を震わせる。

「もう間に合わないか?」

「そうじゃないんだよなぁ」

 レオニードの言葉に、マチュアはのんびりと返事を返す。

 そしてカウンターから出ておかわり用のバターロールとクロワッサンをテーブルに渡すと、力一杯ハリセンでレオニードの頭をぶっ叩く‼︎


──スパァァァァン

 これには全員が驚いた。

 力一杯の一撃なのに、凄い音がしただけで痛みはない。

「何故、お願いと言えない。どうして助けてくれと言えない……自分のプライドを守って、仲間を犠牲にするやつにパーティーのリーダーの資格はない‼︎」

 淡々と話すマチュア。

「まあ、冒険者レベル6の私が言っても説得力ないけど」

 そう話してから、マチュアはカウンターに戻る。

「俺は……名門ガルガンチュア家の次期当主だ。代々王都で、シャイターン王の警護を務めているエリートだ……それが半魔族に頭を下げるなど……」

 グッと拳を握りしめるレオニード。


「分かるか……両親がヒト族に殺され、ガルガンチュア家が取り潰しにならないように兄と共に家を守ってた俺の気持ちが……」

 震える声のレオニード。

 だが、マチュアにはそんな理由は関係ない。

「知らん。わかりたくもないわ、騎士が剣を捧げた相手の命令を無視する意味こそ分からん。復讐は更なる復讐を生むだけだと理解出来ない騎士の話なんて聞きたくもないわ」

 カウンターの中で手をヒラヒラと振るマチュアに、レオニードは剣を引き抜いて襲い掛かる。


──キン‼︎

 その剣を、マチュアは炎帝剣で真っ二つにする。

 切断された刀身が床に落ち、焔に包まれて溶けていく。

「本音を突かれて怒った?相手の実力も理解せず、怒りに身を任せた攻撃なんて怖くないわ。ボンキチは私に二度負けてるし、あなただってさっきと今、二度負けてる……私が殺す気だったら、あんた死んでるよ」

 そう説教するマチュア。

 アレクトーたちは、その話をじっと聞いている。

「まだやるのなら、己の名誉を賭けて尚もやるのなら、私も本気でやるわよ……」


──シュン

 レオニードの真横に炎帝剣を投げる。

 綺麗に床に突き刺さる炎帝剣を眺めるレオニード。


「それを抜くのなら、私も本気を出すわ。でも、そうなると後悔するのは貴方だよ?」


──シュン

 マチュアもハルバードを横水平に構える。

「名誉なんてくだらないもの、命より価値があるものではない。貴方が抜くのなら貴方の名誉ごと命を叩き切る。どうする‼︎」


──ガシッ

 レオニードが炎帝剣の柄を握る。

 だが、全身が震えており引き抜く事は出来ない。

「くっそぉぉぉぉぉ、何で抜けないんだぁぁぁぁ」

 剣を掴んでいる手が震える。

 レオニードは既に理解している。

 これを抜いた瞬間に殺される。

 目の前に、半魔族の姿をした死神が立っている。


──ガクッ

 柄を握ったまま膝をついて体勢が崩れる。

「まあ、この位置なら、あんたの後ろの仲間も全てぶった斬るからね。騎士の持つ剣の重さ、リーダーの重さ、よく考えて抜きなさい」

 その言葉に、アレクトーもトイプーもラオラオも逃げる事はない。


──ゴクッ

 誰かが喉を鳴らす。

 すると、レオニードは剣から手を離した。

 そしてその場でマチュアに叫ぶ。

「ボンキチを、仲間の命を助けてくれ……」


………

……


「やっと話しましたわ。全く困ったリーダーです事」

 やれやれとトイプーが呟くと、ラオラオがレオニードに話しかける。

「本当に頭に血がのぼると何も見えなくなるんだなぁ。マチュアさん、ハルバードなんて構えてないよ?」

 ラオラオがそう話すのと同時に、マチュアは手にした掃除のモップをくるっと回す。

 幻術でレオニードにはハルバードに見えているだけ。

 それも簡単な初期魔法、レオニード以外の三人はすぐに理解した。


「もう、待ちきれなくて口の中が唾だらけですよ」

 ようやくシリアス場面が終わったので、アレクトーもクロワッサンを手にとって食べ始める。

 その三人の言葉に、レオニードはあっけにとられる。

「どういう事なんだ?」

「マチュアちゃんは貴方の本気が見たかったのよ。だって、私はマチュアちゃんの友達、その友だちが悲しむ事をする筈がないからね」

 アレクトーが自信満々にそう告げると、マチュアはジュースのお代わりを持ってくる。


「でも、レオニードが素直じゃなかったから、私はボンキチを蘇生しない」

 そう話して、蘇生の杖をアレクトーに手渡す。

「蘇生したい人の前で魔力を注いで。復活を願うなら蘇生を、失った部位を取り戻すなら再生、怪我を癒すなら治療を念じればいい。その杖は30回使えるから、使ったら返して」

 その言葉で、アレクトーはマチュアを抱きしめる。

「後、チャージ一回白金貨十枚。ボンキチの分は無料にしてあげる」

 ニイッと笑うマチュア。

「それはライトニング卿に払わせる。ガルガンチュア家次期当主として約束する」

 そう話すレオニード。

「まあ、明日には使用料とその杖持ってきて。ボンキチには、いつでもかかって来い喧嘩なら相手するって伝えて」

 そう話してから、マチュアは炎帝剣を回収して、レオニードに一振りの剣を手渡す。

 真っ赤な鞘の両手剣。

「これは?」

「いや、レオニードの剣折っちゃったからあげる。剣の名前は『ザ・フレイム』。この炎帝剣の配下の剣で、一応は炎の魔剣シリーズの一本だよ。エルダーリッチとヒト族に使ったら、この刀身はレオニードを燃やし尽くすから、よろしく」


──ブゥン

 鞘が赤く輝く。

 それを腰に浴びると、レオニードはマチュアに一礼した。

 そしてすぐさま酒場から出て行くと、アレクトー達も頭を下げてから外に出て行った。


「全く、私も甘いよなぁ……」

 頭を掻きながらテーブルの片付けをしようとするが、あれだけあったバスケットのパンが全て無くなっている。

「へ?あの短時間に?」

 いえ、皆さんアーデルハイドのようで。

 ポケットがパンで膨れ上がってましたよ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「このツノオレ半魔族がぁぁぁ」

 両手に構えた二本の剣を構え、ボンキチがマチュアに襲い掛かる。

 目の前のマチュアの装備は両手の籠手のみ。

 武器一つ構えずにボンキチを挑発している。

「無駄な動きが多過ぎるんだよ。ほらほら、足元が疎かだぜい」


──ズザザザザッ

 スライディングでボンキチの股の間をくぐり抜けると、背後から膝の裏に向かってローキックを叩き込む。

 それでボンキチは前のめりに倒れるが、すぐ真横からラオラオが投げナイフを飛ばす。

「まーちゃんこそ横が疎かに?」


──カカカッ

 飛んでくる三本のナイフを左手の指の間で全て受け止めて足元に投げる。

「力よ集え我が杖に。かの力、一筋の矢となりて……」

 さらにラオラオの背後からはアレクトーが杖を構えて詠唱しているが、それよりも早くマチュアがアレクトーに拳を突き出す‼︎

「力の矢っ‼︎」


──ブゥゥゥン

 24本の力の矢が浮かび上がると、一斉にアレクトーに飛んで行く。

 それは全てアレクトーの身体を掠める程近くを飛んで行くと、真後ろで消滅する。


──ヒュンッ

「魔術師は詠唱後の硬直が弱点だ」

 さらに背後からレオニードが掛かってくるが、後ろ回し蹴りで横に吹き飛ばす。

 そして立ち上がるボンキチの前に立つと、左手に蹴りを入れて剣を一つ落とした。

「二刀流はダメ。一つの武器だけにしなさいよ」

 ニヤッと笑うマチュア。

 するとボンキチも観念した。


 城塞外の草原で訓練を頼まれたマチュア。

 でも訓練をつける気は無いので、遊びで付き合ったのだが、予想外に連携はいい。

 マチュア以外が相手なら、そこそこに行けるだろう。

 カリス・マレス換算なら。

「ん、Bかな。A-までは届かないや」

 そんな独り言。

「あ、あれ?マチュアさんは何レベルですか?」

 アレクトーが問いかけるので、マチュアは自信満々に。

「レベル6だ。あと4レベルでカンストだ‼︎」

「かんすと?それはなんですか」

 ラオラオが問いかけるが、マチュアは一言。

「ツノオレは10までなの」

 そう説明すると、ボンキチが頭を捻る。

「マチュアの実力が6レベルなのは信用できん。どう見ても騎士団の、それも近衛騎士と同等の実力者だ‼︎」

「へぇ、褒めてくれるんだ」

「だから信用できないと……」

「ふーん。そう……」


──ゴキィィィン

 すかさず殴ってくるボンキチの拳を躱して、マチュアがクロスカウンターを叩き込む。

 これでボンキチは気絶。

「あ〜。これって酷いですねぇ」

 倒れたボンキチの元にトイプーが近寄ると、ボンキチの頭に手を当てる。

「ありゃ……軽治療ライトヒール……」


──ブゥゥゥン

 トイプーがゆっくりと詠唱する。

 そして一分間の詠唱ののち、ボンキチの意識が戻る。

 マチュアが教えた練習で、トイプーは軽治療ライトヒールだけ使えるようになった。


「それじゃ帰るね。酒場開けないとならないから」

 箒に乗って手を振ると、マチュアはのんびりとワルプルギスに飛んでいく。

 それを見送ると、ドラゴンランスのメンバーも一休みして街に戻って行く。


 街道筋をのんびりと飛んでいる。

 あまり速度を出すとまた騒がしくなるし、これだけ街が近く周囲が畑だと、目立った事は出来ない。

「ふぁ〜。明日からはあっちの街、一週間後は地球……単独で四皇潰した方が早いんだよなぁ……」

 そんな事を呟いていると、突然マチュアを真四角の結界が包み込む。

「……あ、転移結界か。掛かったものを閉じ込め、更に望みの場所に転移させるやつね」

 視界内の説明を読んでいると、スッとマチュアは何処かに転移した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 広い部屋。

 足元には巨大な魔法陣。

 その中心に、マチュアを閉じ込めた結界が浮いている。

 何処かの建物の部屋なのだろう、室内のあちこちにはいくつもの綺麗な調度品が並べられている。


「はて、ここは一体どこやら……」

 室内を見渡すが、現在地点を調べられそうなものは何も無い。

「これはこれは。シャイターンから聞いた話では、半魔族の割にはかなり強力な力を持っていると聞いていましたが、大したことはないのですね」

 何処からともなく声がする。

 すると、マチュアの目の前にスッとローブをきた人影が現れた。


──ピッ

『ステファン・ガルの幻影、グラントリ王家魔導騎士、本体lv68』


「あの、私に何の用ですか?ステファンさん」

 そう問いかけると、突然ステファンの顔が驚愕に震える。

「なっ、貴様、何処で私の名を?」

「ステファン・ガル?幻影使わないと話できない腰抜け魔導師?」

 あ、もう煽るスタイルですか。

 今回は早いなぁ。

「ふん。幻影と見破った所で、その結界は破壊することはできない。それは私が心血を注いで作り上げた魔術、相手の魔力を奪い、その魔力を糧に強度を増す……魔術師如きでは破壊する事など出来ない」


──フムフム

 結界の中をペタペタと歩き回る。

 時折コンコンと叩くと、確かに洒落にならない強度であることがわかる。

 ならば、マチュアのやることは一つ。

 ヘナヘナとその場に座り込み、幻影に向かって叫ぶ。

「わ、私をどうするつもりだ」

「シャイターン王からの連絡がありましてね。マチュアなる半魔族がシャイターンと謁見をしたと。その場で東方のヒト族への襲撃をやめると聞いたので、どれほどの力を持っているのか調べたかったのですよ」

 あ、解説ありがと。

「こ、この事はグラントリは知っているのか‼︎」

「はっはっはっ。シャイターンの話していた『愚か者』を捕らえたとは話してあります。間も無くその部屋にグラントリ女王が向かうでしょう。愚か者の馬鹿面を拝みにね」

 あ〜なんだ。

 勝ちが確定して狂気の笑みを浮かべるとはこの事か。

 そんな下卑た笑みを浮かべている。

「くっ‼︎深淵の書庫アーカイブ‼︎」

「は〜はっはっはっ。どのような魔術でも、それを解く事は出来ませんよ」

「あっそ……」


──ブゥゥゥン……ズルッ

 目の前にゲートを作ると、マチュアはそこに手を突っ込む。

 幻影から伸びる魔力を辿りステファンの場所を捉えると、ゲートを開いてステファンを中に引きずり込んだ‼︎


「な、何だこれは?一体どういう事なんだ?」

「はい‼︎愚か者が一人増えましたが?」

 にこやかに笑うマチュア。


──ギィィィィィィッ

 すると、扉が開き、大勢の騎士に囲まれて、グラントリ女王が入室する。


──プッ

 すると、情けない顔で結界にもたれかかるステファンを見て吹き出している。

「ステファン、確か報告では、シャイターンの話にあった愚か者を捕らえたと聞きましたが。私はそのような命令を出した記憶はありませんし……」

「グ、グラントリ女王……この者が、こいつが私を嵌めて」

 そうステファンが呟くと、マチュアは結界にもたれかかったまま結界を中和して抜けて行く。


──シュタッ

「初めましてグラントリ女王。命令を無視した愚か者を捕らえておきましたが如何に?」

 媚びず諂わず顧みず。

 正面から頭を下げる事なくグラントリに話しかける。

 すると騎士たちも一斉にマチュアに斬りかかるが、グラントリがそれを制する。

「止めよ。半魔族のマチュアと言ったな。王を前に頭も下げぬとは。それは万死に値するぞ……」

 言葉に魔力を乗せてそう呟くが、マチュアには効かない。

 ニコニコと頭だけ下げる。

「あの、それだけが言いたいのですか?なら私帰りますが宜しいですか?」

「女王よ、今一度チャンスを、そのものを殺す権限を‼︎」

 結界の中で叫ぶステファン。

 だが、グラントリはマチュアを見る。


──スッ

 ゆっくりと手を差し出すと、グラントリは何かを掴もうとした。

湾曲カーブ……」

 グラントリが何かをつかむ瞬間、マチュアはボソッと魔法を発動する。


「遅いわ。これはお主の心臓。我が魔力にて貴様の心臓を掴み取った‼︎」


──プシャァァァァ

 一気に握りしめると、結界内のステファンの心臓が握りつぶされ、絶命した。

「なっ‼︎何だと?」


──グッ

 そのグラントリの驚いた瞬間、マチュアは右手を魔力化してグラントリの心臓を掴む。

「なっ、ぐあっ、は、離せっ‼︎」

「あ、これで良いのか。原理がわかると難しくないわ。それで、一方的に攫った挙句に謝りもしない悪い子は誰だ?」

 ニィッと笑うマチュア。

「部下の不始末は上司の不始末、それを部下を切り捨てるとはなんてブラックな王国だ。そんな事で人心掌握できると思っているのか‼︎」


──モミモミ

 そう叫びながら心臓を軽く揉む。

 この世界の魔人って肉体持っているのかと、マチュアも感心する。

「グワッ……がはあっ……」

 力なく倒れて胸を押さえるグラントリ。

「き、貴様、妾を誰だと……」

「まだ言うか。このまま死ぬ?謝る?」

「……」

 マチュアの問いかけに無言で返事をする。

 成程、プライドよりは死を選ぶか。

 もしくは。


──スッ

 右手を外して転がっているグラントリに話しかける。


「今日はもう帰るわ。だから『本物のグラントリ』に伝えて。喧嘩売るなら買うけど、まだ話し合いの余地はあるって……身内に手を出したら、国ごと滅ぼすから覚悟しておけってね」

 そう告げると、目の前のグラントリはコクリと頷いた。

 そして周りを見渡すと、マチュアは静かに転移した。


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