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悪魔の章・その14・あっちもこっちも忙しい

 日本国・札幌。

 異世界大使館の卓袱台の前で、ロリ巨乳悪魔っ子がパチパチとクリアパッドを叩いている。

 定期連絡で札幌に戻ってきたマチュアは、開き直って悪魔アバターで過ごしているのだが。

 他の部署からちょくちょく職員がやって来るのが鬱陶しくなって来た。


「あの、マチュアさん、オタカラトミーの筐体データ持って来ました。これ、いつ頃になりますか?」

 高嶋が仕事モードの真剣な顔でやって来たので、仕様書を受け取る。

「‥‥これ、作るのかぁ‥‥」

「ええ。もう、マジカルソリッドシステムのみに集中して、筐体販売に切り替えましたよ。でも、これって出来ますか?」


――キラーン

 出来ますか?

 なら作る。

「要は、双方のデッキをインストールした筐体を中心に。そこから魔力でデュエリストのブレスレットに転送し、デュエリストの目の前に目に見えないポードを用意し、そこにカードを置くと目の前に実体化する‥‥ってとこでしょ?」

 すらすらと説明すると、高嶋も感心している。

「それって、かなり時間掛かりますよね?」

「必要なのは半年後のアニメの新シリーズ合わせ。なら間に合わせるわよ」

「ではお願いします‥‥」

 頭を下げて部屋から出て行く。

 それを見届けると、マチュアは頭をポリポリと掻いている。

「まあ、のんびりとやるのも面倒だから‥‥」

 羊皮紙を取り出して黙々と作業する。

 魔力で椅子作って座れるぐらいだから問題はない。

 それとデュエルレストを組み込むのだから造作もないので、仕様書はすぐに仕上がる。

 問題は時間との勝負。

「後四十五分で帰還時間‥‥うひゃあ」

 時計を目の前に、マチュアは全力で残った資料を目を通す。

「あ〜、何か大変そうですねぇ」

 赤城が問いかけると、マチュアは苦笑い。

「地球時間144分であっちの世界は一日経つのよ。だから余計な時間掛けられなくてね‥‥」

 そんな事を話していると、ツヴァイが書類を持って事務局にやって来た。

「三笠さん、新しくアメリゴに作るゲートの‥‥」


――バサッ

 言葉の途中で書類を落とす。

 すかさずマチュアの元に駆けつけると、両肩をガシッと握り締める。

「な、何があったのですか?悪魔化してますよ‥‥神の次は悪魔‥‥ハッ‼︎まさか堕天?」

「ツヴァイ、それは高嶋が話した。あっちでは悪魔で、全部終わるまでこの姿から戻れなくなった‥‥」

「はぁ。エルフでも狩ってるんですか?セルシアさんのように変身した姿の上に魔術的術式が何かで元に戻れなくなったのですか?」

 あ、そういうのもあったよね。

 あながち間違いでもなく感じるマチュア。

「まあ心配すんな。だからとっとと仕事しろ」

「あ、これは失礼‥‥」

 我に返ったツヴァイは、すぐに書類を三笠の元に持っていく。

 そしてJFK空港に新たに設置する転移門ゲートと、ベルナー王国領の異世界ギルドの打ち合わせを始める。


――ピッピッ‥‥ピッピッ

 アラームが鳴り響く。

 するとマチュアは立ち上がり、幻想の腕輪でハイエルフに姿を変えると、チェックの終わった書類を十六夜に手渡す。


「指示は全て書いてある。後は任せる」

「了解しました。この後はどちらまで?」

「ウォルトコで対ドワーフ用決戦兵器を買って帰る。また来週‼︎」

 そう話してから、マチュアはスッと転移した。

「何だろう?対ドワーフ用決戦兵器って?」

「ウォルトコに武器なんて無いですよね?」

 十六夜と赤城が首を捻るが、そこで三笠さんが一言。

「酒‥‥ですね?」


――ポン

 その言葉に一同納得。

 その後はまたいつものように静かに仕事が続けられた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 城塞都市ワルプルギス。

 この日、半年ぶりにドワーフの商隊であるグランドリ一家がやって来た。

 普通の魔族の商隊のようにこっそりとやって来て、お得意の貴族や商会にだけ顔を出す。

 一見さんお断りの商隊らしい。


「うわ‥‥すごい匂いですね」

 酒場カナンの店内で、アレクトーが鼻をつまみながらマチュアに問い掛けている。

 その隣の席では、やはりトイプーが鼻をつまんでいる。

 二人がマチュアの元にやって来た理由は簡単、ボンキチの蘇生依頼である。

 パスカル雑貨店の店主からレオニードに齎された絶望的な報告。

 その後で、パスカルは『マチュアが蘇生の杖を作ったよ』という話を聞いていた。

 それならばと、アレクトーとトイプーが交渉人としてやって来たらしい。


「ん?ドワーフを釣る。この匂いで釣られないドワーフはいない‼︎〇コーダさんもそう話していた」

 言ってない言ってない。

 ニュアンスは間違っていないが。

「それで、ボンキチの蘇生はどうですか?」

 真剣に問いかけるアレクトーに、マチュアは頭を捻る。

「どうしてレオニードが来ないの?」

「マチュアさんに顔見せ出来ないそうですよ。己の復讐心に心を蝕まれて騎士の何たるかを忘れてしまった。それに、主人に忠誠を誓ったにも拘わらず、仲間と主人を天秤に掛けてしまったって」

 アレクトーがそう説明する。

 するとマチュアは、アレクトーを見てそっと呟く。

「好きなんですね、レオニードの事が‥‥」

「いいえ?レオニードは結婚して子供も居ますよ?私は足りない魔術師枠を埋めるためにパーティに参加しているだけですから」


――キッパリ

 ありゃ?

 そんな真顔で言われると、マチュアも困ってしまう。

「そ、そうなの?雰囲気からてっきりそういうものかと」

「あははっ。レオニードは騎士です。浮気もしませんし、私もそういう感情はありませんよ」

「私もバッファーとして雇われているだけですし」

 トイプーもニッコリと笑いながら話している。

 君たち意外とドライだな。

 なら。

「レオニードに話しして。騎士なら、己の仲間を助ける為にこそ頭を下げなさいと。合わせる顔がないなんて甘えですよ」


――スッ

 そう話しながら、マチュアは拡張エクステバッグから蘇生の杖を取り出す。

「仲間の命と自分のメンツ。どっちが大切かって笑ってたと話してくださいな。そうしたらボンキチは蘇生しますよ、アレクトーとトイプーのお願いなら断る理由はないですから」

 ニッコリと微笑むマチュア。

「マチュアさん。ありがとう」

「きっとレオニードは来させますので」

 そう二人が頭を下げるので。

「それに、あのプライドの塊のレオニードがクッ殺しそうな顔を見てみたいからねぇ」


――クックックッ

 顎に手を当てて最高に悪い笑顔で笑うマチュア。

 それには二人も苦笑い。


「ここじゃ、この店から匂いがするぞ‼︎」

「何だと?ようやく見つけたか」

 酒場の外から嬉々としたおっさん達の声が聞こえてくる。

「さ、二人は早くレオニードのプライドをへし折って来て」

 そう話しながら二人を外に押し出すと、マチュアは外にやって来た四台の馬車を眺めていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「おお、半魔族の娘よ、ここの主人は何処にいる?」

 ドカドカとやってきたのは深々とローブを着た八人のドワーフ。

 店内に入るやいなや、カウンターにあるカップに入っている酒を凝視している。

 日本酒、焼酎、ウイスキー、バーボン、テキーラ、ラム酒、etc‥‥

 古今東西、日本で手に入る酒がほとんど並んでいる。


「私がこの酒場の店主、マチュアです。ドワーフの商隊・グランドリ一家ですよね。まずはお近づきの印として、どうぞお一人一杯ずつ」


――ゴクッ

 にこやかに酒を進めるマチュア。

 すると一番年長者らしいドワーフがマチュアの前に立つ。

「どうやらただ酒では済まなさそうだな。半魔族よ、酒を飲むのは交渉の後だ」


――エエエエエエエ‼︎

 その途端に聞こえるドワーフの叫び。

「親方、せっかくの酒ですよ?」

「ここはお嬢ちゃんの心意気に、ね?」

「旦那ぁぁぁぁ、頼むから飲ませてくれぇぇぇぇ」

 そう後ろから不平不満の声がする。

「むぅ‥‥な、なら、一杯だけ頂こう。だがな‼︎」


――ドドドドドドドッ

 一斉に走り出すドワーフ。

 そしてカウンターの酒を匂いで吟味すると、一杯ずつ持ってテーブルに座る。


――グビッ

 耐えきれずに喉に一気に流し込むと、彼方此方あちこちから驚嘆の声が聞こえ出す。

「なんぢゃこれは、こんな酒初めて飲んだぞ」

「こっちもだ、甘いが辛い、これは良いぞ」

「これは酒精が強い、だがいい‼︎もう一杯くれ」

 そう叫んでいるので、グランドリも一つ手に取ると、それを一気に飲み干した。


――グビッ‥‥

「ぷはーっ。確かに。わしらの知らない酒だ。さて、話をしよう。何が望みだ?」

 ならば話が早い。

 酒場の外に音が漏れないように遮音結界を施す。

 そしてマチュアは端的に一言。

「この先、大フリューゲル森林の神聖な結界。そこの向こうにあるヒト族にドワーフの金属加工技術を授けて欲しい。後、出来ればドワーフの叡智も」

「‥‥何を企む?また大厄災以前のような軍事国家を作るのか?」

 渋い顔でマチュアを睨むグランドリ。

 だが、それを微風の如く受け流す。

「まっさか。求めるものは失われたヒト族の文明の復活。このままでは滅んでしまうからねぇ」

「だが、また大きな争いを引き起こすかもしれぬぞ」

 グランドリたちは争いを好まない。

 それはこの話の中で理解できた。

 なら、マチュアは本心を告げる。


「私はね、人も魔族も共生できる世界を作りたいのよ。そうすれば大きな戦争は無くなる。小さな小競り合いはあるかもしれないけれど、それは進化に必要だから」

 そう話して、マチュアは帽子を外してフードを脱ぐ。

 その顔を見てドワーフ達は驚くが、すぐに理解したらしい。

「悪魔が平和を求めるか。それで、具体的にはどうすればいい?」

 先程までの険しさはない。

 なのでマチュアもすぐに帽子を被ると、手を広げて一言。

「グランドリ一家に商隊を辞めろとは言わない。二人だけ人の国に住んでドワーフの技術を教えて。そして定期的に人の国に商隊に来て欲しいのよ」


‥‥‥

‥‥


 しばしの沈黙。

 そしてグランドリの結論は一つ。

「我々は定住すると民ではない。お嬢ちゃん、すまないが‥‥」

 その話と同時に、マチュアはカウンターの残りの酒を中にしまい始める。

「はぁ。では話はこれまででしたか。あのエルフ達は喜んで手伝ってくれたのに」

 がっかりした顔のマチュア。

「それに人の国では、この酒が普通に酒場にあるのに、大変残念ですわ。後は西方のドワーフ達に助けを乞うしかありませんか」


――ゴクリ

 そのマチュアの言葉で、グランドリの後ろのドワーフが喉を鳴らす。

「な、なあ、お頭、こう言うのはどうだ?人の国には半年ごとに向かう、二人は定住して半年ごとにメンバーを変えるってのは?」

「そうすれば、みんな平等に酒の恩恵に預かれるし、この街に来たら残ったやつも飲めるんだろう」

 その言葉には、マチュアはニッコリと笑う。

「技術料としての代金も支払いますし、後、代金の中にこれらの酒も何本か入れておきますよ」


――カーッ

 グランドリの顔が真っ赤になる。

 そして後ろで乗り気の仲間達を睨み付けると、マチュアにむかって一言。

「30の日ごとに10本を代金にくわえろ、ヒト族の国でこの酒を仕入れさせろ、この街に来たら安く飲ませろ、これが条件だ‼︎」

「畏まりました。それでは、ではまず、みなさんをヒト族の街までご案内します。女王に謁見してもらい、今の話を締結してください」

 そう話してから、マチュアは店の入り口を固く閉めてからアスタードの酒場へとゲートを開く。


――オオオオオオオッ

 興奮して叫ぶドワーフたち。

 そしてマチュアは先に進むと、グランドリたちをアスタードに招き入れた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 突然街の中をドワーフ達が歩いているので、人々は少し驚いている。

 だが、その先頭を悪魔マチュアが歩いているので、皆落ち着いて仕事を続けている。


「驚いたな。とっくに滅んでしまったと思ったが、意外と昔の文明を取り戻しているではないか」

 感心するグランドリ。

 するとのんびりと買い食いしていた人型の混沌竜アドラステアが歩いてくる。

 すぐにマチュアを見つけたのか、ヨッ、と手を上げてくる。

「ようステア、暇そうだなぁ」

「まあね。平原と森林の範囲全てに竜族の感覚結界を施したから、それに何かが触れるとすぐわかるのさ‥‥ドワーフも連れて来たのか‥‥って、お前、グランドリか」

 いきなり警戒するステア。

 するとグランドリも背中の両手斧を構える。


――カチッ

「貴様は混沌竜‥‥何故ここにいる?」

「知れたことを。我は悪魔マチュアの召喚竜。我が主人の名により、この人の国を守護するものぞ」


――ん?

 その言葉にはグランドリも頭を捻る。

 そして斧を地面に置くと、瞼を押さえて何か考えている。

「まあ待て、お前、混沌竜じゃよな?」

「如何にも。この世界全てを破壊に導く存在よ」

「今の仕事は?」

「人の国の守護者なり‼︎」

 胸を張ってそう告げる。

 これにはグランドリの後ろのドワーフたちも腕を組んだり空を見上げて考える。


「破壊がお前の生き様だよな?」

「如何にも。平和など無用」

「人の国の守護者だよな?」

「如何にも。この人の世に平穏をもたらすのが使命なりや」

「‥‥矛盾しとらんか?」


――コクコク

 グランドリの言葉に他のドワーフ達も頷く。

 慌ててステアも指折り数えて考えるのだが、指を折る必要を教えてほしい。

「ぐ、ぐわはははっ。矛盾こそが混沌。なればそれこそが我の存在意義なりや‼︎ええいもういい。主人よ、我はこれで失礼する」

 プイッと横を向いて歩いていくステア。

 それ見てグランドリも高笑いする。

「わーっはっはっはっ。そうか、混沌竜も巻き込んだか。そうか‥‥」

 嬉しそうに呟くグランドリ。

 すると今度はフリージアとシャロンもやって来る。

「あ〜、何か下品な笑い声だと思ったらグランドリじゃないですか」

「本当。道理で酒臭いと思ったわ。こんな所で何してるのよ?」

 大量の弓と矢を運んでいるフリージアとシャロン。


「何だ、二人ともグランドリと知り合いか」

「かなり前のね。人の英雄達と私達二人、グランドリ、後は背徳の魔人とパーティを組んで、世界を混乱に陥れていた混沌竜を討伐に向かったのです」

「結果として討伐はならなかったけど、遥か地下迷宮の永久氷壁にあいつを封じたのですよ」


――カクーン

 その話には、マチュアも顎が外れそうになる。

「は、はぁ?何よそれ。みんな顔見知りじゃないのよ」

 がっくりと脱力するマチュア。

 するとグランドリがマチュアに一言。

「マチュアよ、この国のエルフというのはこの者達か?」

「ええ、そうですが‥‥」

 そう話すと、フリージアとシャロンは右掌をグランドリに見せる。


――ブゥゥゥン

 そこにはマチュアの魔術印が浮かび上がっている。

「わたし達はマチュアさまの使徒ですから」

「ええ。カナン商会の守護者です」

 ニヤリと笑う二人。


――クックックッ‥‥

 するとグランドリが笑い始めた。

「クックックッ‥‥アーッハッハッハッ。こんなにデタラメな国は初めて見たぞ。仲間達よ、グランドリ一家は解散だ、わしはここに住む」

「親方汚ねぇ、なら俺達もだ」

「そうっすよ。グランドリ一家は一蓮托生、みんなでここに住みましょうや」

「ここを拠点に商隊を動かせばいいんですよ‼︎」

 ドワーフ達が一致団結。

 ならば断る道理はない。

「まあ、いいんじゃない?それじゃあ王城に行きましょ。グランドリだけついて来て、フリージアとシャロンは後の方の家と、グランドリ商会の設置手続き、倉庫、店舗の確保、みんなの家も決めて来て」

「商会はカナン商会の並びで?」

「通り挟んで。一箇所に固まりすぎないように、区画の中なら何処でも。では行きましょうか」

 そう話すと、マチュアはグランドリと共に王城に向かう。

 そこでセシリアとの謁見も終えると、グランドリ一家も正式に神聖アスタ公国の国民となった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 グランドリ達の商隊も、ワルプルギスから出て、離れた草原からゲートを越えてアスタードに到着する。

 ここを拠点として、今後は人の作りしものもワルプルギスや近隣の都市に流通させる事が出来るようになった。

 だが、人の欲とは底を知らない。

 武器や防具などの技術を得た人々は、次の話を始めたのである。


 王城内、元老院議会

「我々も以前の人の文明を取り戻し始めた。次にやらなくてはならないのは、大陸全土に広がる人々を集め、衛星都市をしっかりと機能させることである」

 ある議員がそう叫ぶ。

 これには全員異議を唱えるものはない。

 すると今度は。

「今こそ、我々は魔族に奪われた地を取り戻す時である。かの蛮族達に人の力を知らしめる時。我らにはガイアの加護がある。そうではないか‼︎」

 ある議員が雄弁を振るう。

 これには多くの議員が賛同したが、セシリアの表情は曇っている。

「さあ、女王よ、今こそ立ち上がる時ですぞ‼︎」

 その問いに、セシリアは一言。

「なりません。そのような自信が何処から来るのですか?我らは弱い存在、大陸の覇権を持つ魔族と戦って滅ぶ道など見たくはないです。可能ならば共存を求めます」


――ザワザワザワザワ

 議会が大きくざわつく。

 若手の元老院議員のテレストはさらに手を挙げ、セシリアに問いかける。

「それは異な事を。今や我が国は悪魔マチュアを筆頭に混沌竜、それを封じたドワーフとエルフもいるのです。我らが力を合わせれば」

「戦うなら、あんた一人で戦いなさいよ。わたしとその僕、仲間達は手を貸さない。それどころか、わたしはセシリアの意見に賛成だからね」

 どかっと机に足を乗せて告げるマチュア。

 どうせこうなる事ぐらいは想定済み。

 その為にグリジットとアマルテアはマチュアに同席を求めたのである。

「しかしですよ、この世界は元々は我々のもの」

「違うわボケ。この世界はこの世界に住む全てのものだわ。その驕りが結果として今の破滅を呼んだと何故わからない‼︎人が偉いなどと二度と言うなや、一番偉いのは私や神様、後はみんな平等だわ」

 これにはテレストも真っ青になる。

 すると他の若手議員が恐る恐る手を挙げる。


「しかし、魔族は人の文明を奪い、我々をこのように虐げています」

「逆の時代は?あんたらがゴブリンやコボルトを亜人種といって襲って、討伐して、虐殺していた時代は?」

「それは所詮あいつらは亜人種だから」

「今は、魔族にとっては所詮はヒト族なんだよ。現実を理解しろよ‥‥椎名や辻原の方がもっと話甲斐があるわ」

「あ。あの、そのシーナとかツジワラとは?」

「私を目の敵にしている邪神だよ‼︎」

 あ、ひでえ。

 とんでもないかというが、しっかりと神格化しているからいいのか?

 するとセシリアが話を始める。


「元老院議員の皆さん。私達は滅びの道を進む人族です。ですが、悪魔マチュアの助力で、少しずつではありますが滅びの道から離れ始めています。ですが、先のような驕りが、欺瞞が、私達を滅びに導きます。今は、新しい道を探す時代なのです‥‥」

 これには、反対派の若手でさえも手を叩く。

 マチュアの先の言葉で、戦争は滅びの道しかないと渋々了承したのである。


「セシリア、これは私からの忠告。もしも貴方が、この国を使って人類の覇権を取り戻そうとするのなら、私は一夜でこの国を滅ぼすからね‥‥その時は慈悲もないわよ」

「寧ろ、悪魔マチュアが手を叩いて喜んでくれる国を作りますわ。では、これで会議を終わります」

 マチュアを除く全員が立ち上がると、全員が頭を下げて部屋から出ていく。

 それを見届けると、マチュアものんびりと部屋から出て行った。


「あ、あの、悪魔マチュアさま‥‥」

 議会室から出たマチュアの前には、テレストを始めとする若手議員が立っている。

 皆がマチュアに頭を下げているが、マチュアは全く気にしない。

「若いわ。気持ちはわかるわよ。かつての人間達の中には、貴方たちと同じ考え方をしていた人々が大勢いたのよ。停滞は破滅を導く、適度な刺激は必要。でも奢る事はしない‥‥難しいけど頑張れ」

 ポン、と肩を叩いて外に向かうと、マチュアはのんびりと街の中を散策しながら帰った。

 神聖アスタ公国は、ようやくスタートラインに就く事が出来た。




誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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