ストームの章・その11 旅は道連れといいますが
ストームの章は、次で一旦少量。そのまま合流の章がスタートします。
辺境都市ベルナーから王都ラグナへは、幾つもの街道が繋がっている。
竜骨山脈を越えて向かう、もっとも近くて険しい道もあれば、なだらかな平原をただひたすら通る長くて退屈な街道もある。
そして森を縦断して向かう、危険と隣り合わせの街道等。
先日のマチュア達『ギャロップ商会』の通った道は森と平原の中間で、商人たちが好んで使う様々な村や都市を中継する『商人街道』と呼ばれているものである。
「行きませい????!!」
シルヴィーの掛け声で向かった街道は、森を縦断する超高速街道。
安全面ではかなり危険な部類に入るらしいが、兎に角最短で王都まで向かうことが出来るので、冒険者ギルドで護衛を雇ってでもこの道を通る商人もいるそうだ。
最も、今この街道を走っているシルヴィー達の馬車を襲うような盗賊や魔物はそうそういない。
シルヴィーの放った【局地型加護結界】の魔法により、ある程度のレベル以下の魔物達は、彼女達の馬車に対して攻撃をすることが出来ないのである。
「しかし、まさかシルヴィーが魔法を使えるとは」
「ふふん。どうぢゃ? もっと褒めるのぢゃ」
「シルヴィー様は、王家の血筋の者にしか使うことのできない【古き魔術】を自在に操る事が出来ます」
ほほう。
と驚きの表情を見せるストーム。
例えば、この馬車に唱えてある『加護』の魔法もその『古き魔術』の一つらしい。元々は勇者を召喚した巫女マリアの唱えていた『高位司祭』の魔法であり、今の時代ではそれを自在に使える者は殆どいないらしい。
巫女マリアは、自分が使っていた魔法をもっと大勢の人々にも使って欲しいと、誰でも使えるように難易度を下げた魔法を普及した。
それが現在の司祭の齎す奇跡である。
だがシルヴィーの使った魔法は、巫女マリアの使った『古の魔術』そのものである。
今では、ウィル大陸で唯一の『高位司祭』の階級を持つ、五大家の一人『パルテノ・ラグナ・マリア』が嘗てのマリアの奇跡を継承し、彼女に師事する事を許された五大王家の血筋の者のみが、それらを学ぶ事を許されていたのである。
シルヴィーは幼き頃に、この『白の導師パルテノ』の元で1年間のみ魔法の修行をする事が許された。
その1年間で、才能が発揮できなければ破門されてしまうらしい。
幸いなことに、シルヴィーの才能はゆっくりだが芽吹いた。が、その直後にあの国王暗殺事件が起こり、シルヴィーは王家から外されてしまう。
王家でないものは、白の導師の元に師事することは許されない。
それゆえ、1年だけであったが、シルヴィーは『高位司祭』としての魔術を学ぶ事が出来たのである。
「ほう。大したものだな」
と驚きの表情をしているストーム。
「実は‥‥高位司祭には、死者の魂を呼び起こす魔法もあったのぢゃ。ぢゃが、妾は魔力が少ないので、それを扱うことは出来ぬ。それに、滅した肉体は高位司祭の奇跡でも元には戻らぬ‥‥それを知った時、妾は高位司祭の魔術の勉強をやめてしまったのぢゃ」
少し寂し気に呟くシルヴィー。
「ストーム殿はどうやらこの大陸の方ではないようですので。このウィル大陸では、死者の蘇生は禁じられてはいません。滅した肉体には良き魂は戻らないと言われているのです。肉体から全てを再生する秘術もあったそうですが、それにはかなりの代償を必要としますし、何より今は、死者の肉体に魂を呼び起こすことが出来るのは『パルテノ様』ただ一人ですので‥‥」
シルヴィー付きの侍女『ミリア』がそうストームに告げる。
「そうか。済まないな」
とシルヴィーの頭をポン、と叩く。
「だ、大丈夫ぢゃ。今の妾にはやらなくてはならぬ事がある。まずは一つ一つ、しっかりと足元を固めていくのぢゃ」
「そうか。まあ頑張れ」
「うむ。ちっちゃな事からコツコツとぢゃ」
しっかりとした意見を放つシルヴィー。
普段から気を張っているのか、大人には決して気後れしない程の雰囲気を出している。
だが、時折その表情が子供へと戻る。
ベルナー家の家督として、かなり無理をしているのだろう。
すると。
「シルヴィー様は後ろで‥‥敵の襲撃です」
護衛の騎士たちが突然加速する。
街道の前方に何かが出たらしい。
その敵には、どうやらシルヴィーの放った加護は効果がないようだ。
「手伝うか?」
「いえ、ストーム殿はシルヴィー様を!!」
そう叫ぶと、前方に姿を現した魔物に向かって、スコット騎士団長以下、護衛の騎士達は走り出した。
目の前の大地に広がる、輝く魔法陣。
その中心に現れたのは、山羊の頭と4本の腕を持つ人型の魔物である。
それは筋肉質な身体をゆっくりと動かすと、魔法陣から出てくる。
――ズシッ‥‥ズシッ
その姿に、騎士達は一瞬怯む。
だが、それでも騎士たちは下がることを許されない。
「見たこともない魔物め。実力で排除させてもらう」
スコットはそう叫ぶと、騎士達も目の前の魔物に向かって武器を振るう。
――ギンッ、ガギィンッ
次々と抜刀して斬りかかる騎士たち。
だが、その騎士達の攻撃を躱すことなく、魔物はまるで何もなかったかのように平然としている。
――ドゴォッ
すると、騎士の一人が魔物の拳によって吹き飛ばされた。
腕が曲がってはいけない方向に折れ捻れた。
「グァァァァァッ」
絶叫して、その場でうずくまる騎士。
さらに一人、また一人と護衛の騎士たちが魔物に殴りつけられ、吹き飛ばされていく。
「な、何であれが。いや、居てもおかしくは無いのか」
ストームはその姿をまじまじと見つめると、思わずそう呟いていた。
「ス、ストームどの、あれが何か知っておるのか?」
と言うシルヴィーの言葉に、ストームが一言。
「あれは下級悪魔の一つ、レッサーデーモンだ。魔法の武器か、または武器に魔力を付与しない限りは奴には手傷一つ与えられない」
と告げた時。
シルヴィーが驚きの声を上げる。
「‥‥そ‥‥そんな馬鹿な。悪魔たち魔族は勇者達によって遥かな過去に滅びた筈ぢゃ。生き残った魔族も、マリアの施した異界封じの魔法によって、この世界には降りてくる事が出来なくなった筈。どうしてそのような者が‥‥」
ガクガクと震えるシルヴィー。
「という事は。スコット退がれっ、シルヴィーの護衛を代われっ!!」
と叫び、レッサーデーモンの方に走り出すストーム。
「うむ、ストーム殿頼むっ。騎士団は一時後退、姫の警護に付け!!」
とスコットが告げると、他の騎士たちは楯を構えて後退を開始した。
――ニィィィィィィィィッ
と、突然レッサーデーモンの口角が上がる。
「貴様達がスコットとストームだな。盟約に基づき、貴公らには此処で死んで頂く」
とレッサーデーモンが告げた時。
――ヒュンッ‥‥ズバァァァァァァァァァァァァァッ
と風がスコットの横を撫でる。
それと同時に、スコットの左腕と左脚が根本から切断された。
「グウォォォォォォォォォォォォッ」
絶叫を上げつつ、その場に崩れ落ちるスコット。
大量の血が切断された付け根から吹き出す。
そしてストームの前に現れたレッサーデーモンは、上段に構えた腕を組んで、ストームに振り下ろした。
――ガギィンッ
誰しもが、ストームの死を疑わなかった。
だが。
「悪い。どうやら、こういう機能があるとは思わなかったのでね」
全身を銀のフルプレートに包んだストームが、左手に構えた楯でレッサーデーモンの一撃を受け止めていた。
モードチェンジで聖騎士になると同時に、『装備の最適化』を行なったらしい。
「なん‥‥だと!!」
慌て後ろにとび退がるレッサーデーモン。
――ガチャッ
素早く腰に下げられていた『聖剣カリバーン』を引き抜き、レッサーデーモンと対峙する。
「生憎と、貴様たちレッサーデーモンは、俺にとっては既に通り過ぎた通過点に過ぎなくてね」
――ヴゥウゥゥゥン
カリバーンの刀身が輝きを増し、鳴動を始める。
「フン。その程度の装備で驚くとでも」
「いや、驚かなくていい。そんな暇も貴様にはやらん」
と告げると、素早く間合いを詰め、一撃でレッサーデーモンを真っ二つに切断した。
――ブシャァァァ
周囲に体液を撒き散らし、レッサーデーモンが崩れていく。
やがて崩れた肉体は炭化し、スッと消えていった。
「護衛の騎士たちは周囲の警戒と怪我人の手当を!!」
ストームは叫びつつ騎士たちに指示を飛ばすと、そのままスコットの元へと駆けつける。
「スコット、しっかりするのぢゃ」
一足先に、シルヴィーがスコットの元に駆け込むと、傷口に手をかざす。
――ヴヴヴヴヴヴウン
淡い輝きが、スコットの切断された傷口に注がれる。
やがて傷口は塞がったが、腕と足は切断されたままである。
「シルヴィー、切断された腕や足は魔法で接合できないのか?」
「高位の僧侶ならあるいは。ぢゃが、妾の魔力ではそこまでは出来ぬ‥‥スコット、すまぬ」
涙を流しつつ、シルヴィーはスコットに頭を下げる。
「シルヴィー様。そんなもったいない‥‥」
大量の出血で意識が朦朧としている。
「失礼‥‥」
と告げて、ストームはスコットの容態を確認する。
接骨医であったストームにとっては、この程度の診察は難しくはない。
(失血性ショックはないか。顔色、呼吸、脈拍も安全圏。よし‥‥)
ストームが近くの騎士を呼ぶと、スコットを馬車に乗せるように指示した。
「両足は少し上げて横にしてくれ。少しでも心臓や脳に血をめぐらさないといけない」
テキパキと指示を飛ばすと、今度は殴り飛ばされた騎士たちの容態も見る。
幸いなことに腕の複雑骨折や肋骨の損傷などはあったが、命に関わる程度ではなかった。
「シルヴィー、この辺りで一度皆の手当を行う‥‥あ!!」
――ピッキーン
と何かを思い出すストーム。
「塩はあるか?」
「塩‥‥あることにはあるが」
「なら、大きめの水袋に塩水を作って欲しい。そして別の袋に傷口を布で包んだスコットの腕と足を入れて水が入らないように固く口を閉じてくれ。その袋を、先に作った塩水の入っている袋に漬けて置いてくれ」
そう指示を飛ばしてから。
「これであとは‥‥水の精霊よ、永久なる氷を生み出したまえ」
とこっそりと【モードチェンジ・精霊魔術師】を起動すると、塩水の中に大量の氷を発生させた。
魔法の力で作り出した氷である。
「‥‥精霊魔法まで。ストーム殿、お主は一体何者なのぢゃ。それに一度切断された手足は、時間が立つと接合出来なくなるぞ」
と、驚きと不安の表情で告げるシルヴィー。
ストームはそのまま袋を無限袋に収納すると一言。
「王都についたら、急ぎ商人ギルドを通してマチュアという異国の料理人を探してくれ。ついでに、マチュアもシルヴィーの名で推薦状を頼む!!」
「わ、分かった。それで全て大丈夫なのぢゃな?」
「とりあえずは、王都ラグナの神殿で接合できるか聞いてみよう。それで駄目だったらマチュアになんとかしてもらう。後ろを任せた時のマチュアは最強だ」
と告げて、再び他の騎士たちの治療を開始する。
夕方を過ぎて、ようやく全ての手当を終えると、その日はそこで野宿する事になった。
○ ○ ○ ○ ○
翌日からは、馬車の速度を下げて王都ラグナへと向かう事にした。
本来ならばもっと早く向かいたいらしいが、今の騎士団の怪我と疲労状態では、それを行う事は難しそうである。
「しかし‥‥『先導者』というのは凄いのう。戦闘だけでなく怪我の手当、果ては精霊魔法まで使えるとは」
ウンウンと腕を組んでシルヴィーがそう呟く。
先日のレッサーデーモンの戦いから始まった一連のストームの動き。
どう説明すればいいか分からなくなったので、ストームは全て『先導者』の一言で片付けたのである。
「ああ、まあ、あまり人には言わないように」
「当たり前ぢゃ。そんなことが回りに知られたら、五大王家や貴族たちがストームを勧誘しに来る。それはそうと、一つ尋ねてよいか?」
「ん? どうしたシルヴィー」
「その‥‥ストーム殿の知り合いのマチュア殿とやらも、『先導者』なのか?」
「そうさなぁ。多分そうだが、意外とマッチュのことだから『トリックスター』とかいう奴だったりしてな」
はい正解です。
よく出来ました。
「ふむ。ではトリックスターとしても商人ギルドに問い合わせて見よう。トリックスターは、この世界ではあまり見かけないしのう。それと、もう一つだけ‥‥よいか?」
もじもじとしながら、シルヴィーがストームに話しかける。
「あ、どうした?」
「その。マチュア殿というのは‥‥ストーム殿の恋人か何かなのか? お、想い人とか‥‥」
――ブーーーーーーーーーーーーッ
丁度飲み始めた水袋の水を、力いっぱい吹き出すストーム。
「そ、そんなに驚くとは‥‥やはり」
「シルヴィー。俺はマチュアとそんな関係はない、絶対にない。天地がひっくり返ろうとも、それはありえん!!」
と必死になって否定するストーム。
その動揺は、シルヴィーがストームと出会って初めてみた、最大級の動揺であった。
パァァァァァッと、明るい表情に戻るシルヴィー。
「そうか、そうなのか。マチュアの事をマッチュと呼ぶから、てっきりそういう仲なのかと‥‥」
こっそりと、グッと拳を握るシルヴィー。
「そういう事か。なら心配を解消するために一つ付け加えるとだな。マチュアは男に興味はない。女は好きだがな」
間違いではない。
「そ、それは‥‥それはそれで困るのだが」
と動揺するシルヴィー。
そして翌日には、森を抜けて商人街道に合流する。
今までの人気のなかった所から、大勢の人が行き交う光景が広がった。
「ここまで来るともう大丈夫だな‥‥」
ストームはモードチェンジでメインを聖騎士から侍に変更。サブは精霊魔術師と聖騎士に切り替える。
傷が塞がったとは言え、騎士団長であるスコットは動けない。
となると、ストームは騎士達の手伝いも兼任しなくてはならなくなっていたのである。
「シルヴィー様、前方を進む馬車は、おそらく」
と侍女がシルヴィーに話しかけた。
その言葉を聞いて、シルヴィーは目の前の馬車が掲げている紋章を確認する。
天秤と二つの水晶。
それはサムソン辺境都市の『アルバート男爵』の紋章である。
「ストーム殿のいた街の男爵だ。アルバート男爵といって、武具を収めた事で財をなした家系ぢゃ。妾の近衛騎士団の装備も、アルバート家のものぢゃよ。ちょっと速度を上げてたもれ」
そう御者に指示をすると、馬車はやがてアルバート男爵の馬車の横に並ぶ。
と、それに気がついたのか、馬車はゆっくりとシルヴィーの馬車の後ろに付き、そしてゆっくりと速度を落とすと止まった。
シルヴィーもまた速度を落とすと、静かに馬車を止める。
――カチャッ
馬車からは、家督であるフィリップ・アルバートとその一人娘であるカレン・アルバートが出てきた。
「これはシルヴィー殿、ご機嫌麗しく。このような場所で出会えるとは光栄です」
「いや、フィリップ殿もご顕在でなによりぢゃ。そちらは」
と社交辞令を交わすシルヴィー。
ストームは護衛としてシルヴィーの斜め後ろに立ち、その様子を見守っていた。
「娘のカレンです。アルバート商会の武具の取扱いは、今はカレンが執り行っています」
と告げられて、カレンもまたスカートの裾をチョンとつまむと、貴族の礼を行う。
「シルヴィー様、お会い出来て光栄ですわ。今ご紹介に上がりましたカレンと申しま‥‥しましま‥‥」
と、シルヴィーの背後に立つストームに気がついた。
「こら、カレンなんだその挨拶は」
「ひゃい!! これは大変失礼しました。カレンと申します。今後とも宜しくお願いします」
「これは丁寧な挨拶を。シルヴィー・ベルナーぢゃ。竜王祭が終わったら一度我が城に来てたもれ」
と告げる。
「こちらはうちで鍛冶を頼んでいるストームという。サムソンの鍛冶師なのぢゃから、アルバート殿もご存知かとは思うが」
とシルヴィーが紹介したので、ストームは取り敢えず頭を下げる。
「鍛冶師のストームです。サムソンの北東門の近くで『サイドチェスト鍛冶工房』を営んでいます」
と丁寧に挨拶をするストーム。
(あ、ああ。あのコソコソとしていたお嬢さんか。こんな所で会えるとはまた合縁奇縁というか‥‥)
挨拶を行った時のカレンの視線が、サムソンで受けていた視線と一致したのに気がついた。
「そうかそうか、あの鍛冶工房か。娘から評判は聞いている。今度是非、うちの店にも武具を卸して頂けるか?」
「そうですねぇ‥‥前向きには検討しておきましょう」
シルヴィーの知り合いというのなら、無下に断ることは出来ない。
が、工房の方針を変える事も出来ないので、取り敢えずは無難な挨拶を返した。
「では、私たちはこれで失礼します。道中お気をつけて」
と頭を下げるアルバート男爵。
カレンもそれに続いて頭を下げた。
「うむうむ。ではお先に失礼させて頂くぞ」
とシルヴィーも挨拶を返すと、馬車に戻って再び王都へと向かっていく。
そして翌日には、王都ラグナの城塞が見え始めた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






