悪魔の章・その11・国王、ご乱心
シャイターン王国王都・アルデバラン。
その北方にある王城城塞と呼ばれる要塞のような王城にマチュアはやって来た。
跳ね橋を越えて中庭を抜け、マチュアは城内に案内される。
ボールマン執務官がマチュアを控えの間に案内すると、マチュアはそこでのんびりと待っている。
広い部屋。
さまざまな調度品が並べられている。
そこに翼を生えているメイドと二人っきり。
「あの、あなたハーピィ?」
バナナマフィンとりんごジュースを拡張バッグから取り出して食べ始めると、マチュアはメイドにも同じものを勧める。
「はい。シャイターン家に勤めるハーピィです。私の事はお構いなく」
「でも、食べないと固くなって美味しくないのよ。私の為に食べてください」
私の為にと言われると、そうそう断れるものではない。
「そうですか。では、折角ですので遠慮なく」
口元から溢れそうな涎を飲み込んで、メイドはモグモグッとマフィンとりんごジュースを堪能する。
「あら、あらら‼︎この味は?、あらら‥‥」
もうやめられない止まらない。
黙々と食べているのなら今のうち。
(魔力探査‥‥絵画の目か。それなら、鑑定‥‥)
『監視絵画:対象に遠目の魔力を付与したもの。対となる水晶により、遠目で見たものを監視する』
そう出ますか。
ならばと、マチュアは拡張バッグからターキーサンドとハーブティーセットを取り出すと、絵画に向かってカップを持ち上げ、ニッコリと微笑む。
――ダラダラ
すると、マチュアの目の前のメイドが涎を垂らしながら頭を下げている。
「大変美味しいものをありがとうございます」
ニッコリと笑っているが、視線はターキーサンドに注がれている。
「はぁ。ハーピィがターキーサンドって、共食いではないけど何かなぁ‥‥こちらもどうぞ?」
「あら、宜しいのですか?」
「折角ですので、他のメイドさんとこれも分け合ってください」
拡張バッグから大量のバターロールとクロワッサンを取り出してテーブルに置く。
すると、楽しそうにターキーサンドを食べていたメイドの視線が、テーブルの上のパンに釘付けになる。
――ジーッ
「あ、あの、これはみなさんで分けてくださいね?」
「はい。ちゃんとみんなに一つずつ分けます」
「‥‥全員で均等に分けてくださいね?」
「え?」
‥‥
‥
なんだろ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるハーピィ。
こんなに滑稽なものは見たことがない。
というか、一人一個で残りは独り占めする気だったのか‼︎
「はぁ‥‥何処にもこんな子いるんだよなぁ」
そう思わず呟くと。
――コンコン
扉をノックする音がする。
ガチャッと扉が開くと、別のメイドがやって来る。
「失礼します。マチュア様、国王陛下の謁見ですので、こちらへ‥‥」
別のメイドが来たことで、ハーピィは目の前のクロワッサンを慌ててポケットにねじ込んでいる。
貴方は何処のアーデルハイド?
「あは、あはは‥‥ゴホン。ではマチュア様、ごゆっくりと」
すぐさま頭を下げるハーピィ。
そして部屋から出て行くと、室内が何やら慌ただしそうである。
「プッ」
思わず吹き出してしまうのも無理はない。
人間のメイドよりも種族本能が高いのでこうなるのだろう。
そのままオーガのメイドに案内されて、マチュアは国王の待つ謁見の間へと案内された。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
広い謁見の間。
中央には階段状になっており、その上に王座がある。
そこに真っ赤な皮膚をした人魔族の王、シャイターンが座っている。
真っ直ぐに天を向く細長いツノ
左右、そして額にある細長い瞳
均整の取れた凛々しい顔。
そして服の上からもわかる、ガッチリとしたボディビルダー体躯。
身長が大きい分バルクはありそうだが、切れは良くない。
ストームと比較するならば、ストームはキュア・フィジーク、そしてこっちはキュア・バルクと言うところだろう。
二人合わせて、『二人はマスキュラ〜』。
日曜日朝の女の子向け魔女っ子シリーズのようである。
「‥‥そなたがマチュアか。ニコニコと嬉しそうだな」
ハッ‼︎
変な妄想している場合じゃない。
「これはシャイターン国王陛下。お会い出来て光栄です。本日はお招きいただきありがとうございました」
そう挨拶をするマチュアだが、周囲で待機していた近衞騎士やボールマンは真っ青な顔になっている。
「ふふふふ。跪くことなく堂々とした出で立ち、大した勇気を持っている」
あ、忘れてた。
普段のマチュアの立ち位置が上なので、つい外交か何かと同じ反応してしまった。
「国王陛下は、台座の分だけ私より頭高いですよ?」
「ま、マチュアさん跪いてください、陛下の前です」
「へ?」
もう開き直ることにしよう。
するとシャイターンは王座で高らかに笑った。
「はーっはっはっ。こんなに面白い者は久し振りだ。さて、マチュアよ、今日ここに呼ばれた理由は知っているか?」
ようやく本題に入った。
ボールマンもホッと胸をなでおろしている。
「えーっと、私の持っているアーティファクトが見たいという事ですよね?」
「うむ、では早速見せてくれるか?」
そう話しながら王座から降りてマチュアの前にくる。
身長は2m30cmぐらいだろう。
ならばとマチュアは拡張バッグからハルバード・ブレイザーを引き抜いた。
――スッ
「どうぞ手に取ってください」
「うむ。どれ‥‥」
ハルバードを受け取って軽く振るう。
その腰の入り方から察するに、かなりの武を修めているようである。
「これは凄いな‥‥」
――ブゥゥゥン
そう呟くと、シャイターンは真っ直ぐにマチュアの首に向かってハルバードを、力一杯薙ぐ。
――ガギィィィィン
その攻撃を炎帝剣で受け止めると、今度はそれをシャイターンに見せる。
「こちらは炎帝剣。精霊イフリートの封じられている剣です」
――ドゴッ
自身の真横にハルバードを突き刺すと、今度は炎帝剣を手渡す。
それも受け取って軽々と振り回す。
振るたびに刀身に黒い炎が湧き上がっている事から、イフリートもシャイターンを認めているらしい。
そして両手剣・炎帝剣を片手で構えると、それをマチュアの頭上に叩き落とす。
――ガギィィィィン
今度はツインダガー『月光』『日光』を交差して受け止めると、炎帝剣を右に流す。
「それはなんだ?」
興味津々に問いかけるので。
「ツインダガー、日光と月光。二つで一組のダガーです。お試しください」
――ガン‼︎
ハルバードのとなりに炎帝剣を突き刺し、ツインダガーを構える。
まるで踊るようにダガーを払うと、今度は突然マチュアに向かって高速の十二連撃を入れてくる。
――ガガガガガガッ
その全てを、拳につけたガントレット『フィフスエレメント』で受け止める。
それにはシャイターンも驚いていた。
――トストスッ
二つのダガーを床に突き刺すと、今度はマチュアをそれを寄越せと手を差し出す。
「流石はお目が高い。どうぞ」
そう告げてガントレットを差し出すと、それを拳に装備する。
そしてシャドウボクシングのように振り回すと、力一杯のスマッシュをマチュアに向ける。
――ビジィィィィィッ
すると、マチュアはその攻撃を右掌で受け止める。
それも素手で。
‥‥‥
‥‥
‥
室内が沈黙する。
誰もがマチュアの死を予感したが、その全てを覆していく。
そして最後は、シャイターン渾身の一撃を素手であっさりと受け止めたのである。
「ククククククククッ。楽しかったぞ」
そう笑いながら、シャイターンはハルバードや炎帝などを次々と抜き取り、マチュアに手渡して行く。
そして全てを手渡した時、シャイターンはマチュアに一言。
「よい余興であった。褒美をとらせる、何でも申せ」
実にご機嫌である。
「ならば、城塞都市ワルプルギスにあるカナン商会の納税に関して、特別減税措置をお願いします」
そう告げる。
「ん?カナン商会とは聞かない名前だが」
「以前はマスケット商会と申していました。今は私の商会です」
ニイッ
力一杯の悪い笑み。
これにはシャイターンも高笑い。
「良い。ボールマン、カナン商会の減税措置を。王室御用達と同じレベルまで下げるが良い」
「仰せのままに」
胸に手を当てて頭を下げるボールマン。
すると、シャイターンはその場の全員に対して話し始める。
「全員この部屋より下がれ。我はマチュアと二人で話をしたい」
これにはボールマン含めて全員が驚く。
初見の、それも得体の知れない半魔族などと王が二人きりで話をしたいなど前代未聞である。
「恐れ多く‥‥陛下、せめて私、ボールマンだけでも側に置いてください」
スッと前に出て頭を下げる。
すると、シャイターンはマチュアの方を見る。
何だ?
何で私の方を向く?
よくわからないから頷いてみる。
――コクリ
「許す。騎士よ、今より謁見の間から外に出て、一つ下の階まで下がれ」
――ザッ
すると、その場の騎士団が部屋から出て行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
広い謁見の間。
その中央に、シャイターンは地属性魔術でテーブルと椅子を生み出した。
――スッ
ゆっくりとそこに座ると、シャイターンはマチュアとボールマンにも座るように促す。
「陛下御自ら、このような事を。わたしにおっしゃって頂ければ」
「さて、そのような事は、このテーブルの席では無用。ここの席に着いたなら、全て等しく無礼講とする。マチュアよ、それで良いな?」
ははぁ。
なるほど。
そういう事かと納得すると、マチュアもコクコクと頷く。
「ならばお茶とお茶菓子も必要。さて」
次々とテーブルの上に食べ物を並べる。
マフィンやらホットドッグやらターキーサンドやら。
そしてティラミスとケーキ、缶コーラやらジュースやらを並べてコップと取り皿を置く。
「それではわたしが取り分けましょう」
すぐさま三人分のコップにジュースを注ぐと、それを二人にも差し出す。
「あ、あの、シャイターン様、何処までご存知で?」
「全てではない。予知夢を見た。我が一撃を受け止める存在が来る。それには勝てないと‥‥たが、ならばこそ、我は王としてこの場を設けた」
そう話すと、ボールマンはマチュアとシャイターンを見る。
「陛下、それはつまり、このマチュアがそうであると?」
「うむ。ボールマン、貴殿はマチュアを呼び捨てにしていた事を後悔するかも知れぬぞ」
そう笑っていると、マチュアも覚悟を決めた。
「ではシャイターン陛下、そしてボールマンさん、ここで見たことは御内密に」
そう告げて立ち上がると、マチュアはローブを脱ぎ捨てて帽子をとる。
尻尾と翼も元に戻すと、そのまま席に着いた。
――カコーン
シャイターンは、マチュアが何処かの王族の者だと思っていた。
最初の立ち居振る舞い、それは王家のものが同等のものに対して行うもの。
その後の演武、殺す気はなかったので全て受け止められると思っていたが、最後の一撃は本物である。
何処かの王家の者がお忍びでやってきて、シャイターンと話がしたかったと考えて全員を部屋から出した。
ボールマンは執務官ゆえに、同席しても構わないと思ったのだが。
現実は、想像の斜め上をスキップして駆け抜けた。
「あ、いや、まさか‥‥悪魔ルナティクス様?」
シャイターンはそう問い掛けるのが限界。
ボールマンに至っては、今すぐに無礼を侘び、その場で自分の首を差し出しても構わないと考えている。
「ん、私はあくまでマチュア。ルナティクスを継ぐ者だよ」
そう話してから、マチュアは椅子に座りティータイムを開始した。
――ズズズッ
「プハー。りんごジュース美味しい。温くなる前に食べたほうがいいよ」
シュルルルルッと尻尾と翼を収納すると、マチュアは好物のティラミスを食べ始める。
「そうか。では私もいただこう」
「そうそう。さっきシャイターン様もここは無礼講と話していたからいいの。ボールマンさんも食べないと」
シャイターンとマチュアが楽しそうなティータイムを始めたので、ボールマンも覚悟を決めた。
「では、私も折角なので」
ティラミスを取り皿に盛り付けて食べるボールマン。
その横ではシャイターンがクロワッサンを食べながらコーラを飲む。
マチュアものんびりと食べながら、今の国内の事をシャイターンに聞いていた。
‥‥‥
‥‥
‥
「はぁ、ここは平和やね?」
「東方の、ヒト族の結界をどうにかしなくてはならないがな。あれは後に災いとなるだろうから」
「どうにかしなくていいよ。あれはあのままにしておいて」
そうマチュアが告げると、シャイターンは驚いた顔をしている。
「それは悪魔マチュアの言葉とは思えない。ヒト族を放置しておけと?」
「ルナティクス様を継ぐものの言葉とは思えませんが、何か深い意味がおありで?」
そう二人が言うので、マチュアは一言。
「あそこは私のものだ、手を出すのを禁止する」
――ビクッ
シャイターンの眉が動くが、すぐにマチュアはシャイターンを見る。
「話は聞くよ、言ってみて」
「ならば。我ら人魔族は、長い間人間によって苦渋を飲まされてきました。それが解放され、今は立場が逆転している。ヒト族は我らが支配し、奴らはそれに従う存在だ」
「シャイターン様の仰る通りです。それでも尚、マチュア様はヒト族を擁護するのですか?」
二人がそう告げると、マチュアもスプーンを銜えたまま考える。
「そこなんだよなぁ。ヒト族によって統治された世界、それが終わって今は魔族が統治する世界。なら、その次は二つの族が共存する世界でもいいんじゃないかなぁ」
「我らがヒトと手を組めというのか?」
ややドスの利いた声でシャイターンが告げる。
ボールマンも静かに頷いている。
「組むんじゃなくて共存してみたら?恨みつらみはわかるけどさぁ、このままなら、いつまでたっても良い道はないよ?お互いが修羅の道を進んだら、最後は両者破滅しかない。私はね、こっそりとワルプルギスに住んでいるんだけど、あそこはいい街だよ?けどヒトには厳しい」
「当たり前だ。あの地の領主は人によって一度殺されていると聞く」
「まあ、蘇生薬作るのに私も力貸してあげたんだけどね。でも、元々あの街は人間のもので。それを取り返そうとしているだけ。どっかに妥協案ないかなぁ」
そこまで話すと、マチュアはティラミスを取り分けて二人に渡す。
「かたじけない」
「これは、ありがとうございます」
そう話して食べる二人。
「ねぇ、こうやって一つのお菓子をみんなで分け合えば、みんな美味しいじゃない。こういうの無理かな?」
するとシャイターンもボールマンも食べている手が止まる。
「長き恨みを捨てろと?」
「私たち魔族の悲願をですか?」
「捨てられるわけないじゃない。それはそれ、これはこれよ。人間同士だって戦争するのに。種族が違うと余計に混乱するだけじゃない」
にこやかに話す。
しばらくはそんな雑談が進められる。
そしてそろそろ御開きという所で、シャイターンはマチュアに問いかけた。
「マチュアはどちらの味方だ?」
「ん?ヒト族よりの魔族だけど、今のところ魔族を滅ぼす気はないよ。私はヒト族を鍛えて反乱させる気はないし、今は失った文化を取り戻して、国を再興するのが忙しいからね」
「我々にそれを見ていろと?王国を襲うヒト族を受け入れろと?」
その言葉には、マチュアはきっぱりと。
「そんな喧嘩好きは好きにしていいんでない?戦って勝てると思っているから戦争するんでしょ?そんな奴らは知らんよ」
あっさりとヒト族を切り捨てたマチュア。
「つまり結界内で国を興しているものには手を出すな、けど外でケンカを売るものは好きにして良いと」
――シュワーッ
ゴクゴクゴク‥‥。
「ぷはー。お好きにどうぞ、そんな奴ら知らんわ」
そう話してから、マチュアは食べ散らかしたゴミを片付ける。
すぐにボールマンも手を出した。
「あ、私が片付けましょう」
「瓶と缶は持って帰るから、燃えるゴミだけお願いします」
いそいそと片付けを終わらせると、マチュアはローブを羽織って帽子を被る。
「さっきの話ね、すぐに返事欲しいなんて言わないから。何か考えてみて、それで進展があったら、ワルプルギスのカナン商会に連絡をください。後、私の正体を知っているのは、カナン商会責任者代行のフェザーとヒト族の結界の中の人間だけだからバラさないでね?」
その言葉には、シャイターンは驚いている。
「ヒト族は、マチュアのその姿を、悪魔を受け入れたのか?」
「助けてくれた者は信じるよ、それが人間さ‥‥さてと、シャイターン様、後何かある?」
少し考えるシャイターン。
すると、突然マチュアの前に跪く。
すかさずボールマンも跪くと、シャイターンは一言。
「道は険しく、共存など考えた事はない。が、今は心には留めておく。結界の中のヒト族には元々手を出す事は出来ないから今までとは変わらない。ただし、侵攻は止めておきます」
「シャイターン様もボールマンさんも立ち上がってよ。今は無礼講なんでしょ?」
そう告げると、二人はゆっくりと立ち上がる。
「あ、ライトニング卿にだけ釘さして。あの人やり過ぎ、あまりお痛が過ぎると、私が本気で潰したくなるから」
「それは了承した」
――ブゥゥゥン
ゆっくりと目の前に開放型ゲートを作る。
これには二人とも驚愕の顔をしている。
「た、たった一人で‥‥それもこんな高速で」
「そんじゃ後何かある?」
そう聞くと、シャイターンは一言。
「ティータイムならいつでも付き合う」
「素直に菓子が欲しいと言いなさいよ。カナン商会に注文してください‥‥私自ら届けますので」
そう話すと、マチュアはゲートを越えて宿に戻っていった。
――フッ
宴の終わり。
シャイターンは王座に戻っていく。
「ボールマン。ライトニング卿の件は急ぎで頼む。あんな魔力に‥‥勝てるとは思えん」
「君子危うきに近寄らず。ここは静かに受け入れた方が得策です。もっとも。残りの二国は受け入れがたいでしょうし、魔王様がどう考えるか」
コクリ
ゆっくりと頷くシャイターン。
「もしも、だ。マチュア様が魔王と戦い勝利し、人と共存せよと宣言したら、その時は」
「従うしかありません。マチュア様は魔王よりも格上の存在です‥‥」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
話し合いも終わり、マチュアはワルプルギスに戻って来た。
部屋から出てギルドに戻ると、マチュアはギルマスに戻ってきた事を報告する。
「ギルマス、戻ったよ」
「早いなぁ‥‥帰りはゲートで送ってもらったのか。それでどうだった?」
するとギルドカードを高々と掲げる。
「6レベルになった‼︎」
「そっか。また頑張って仕事しろ。マチュア指名の冒険者が彼方此方にいるんだ」
へ?
何それ?
「何でまた半魔族なんて入れたがるかなぁ」
「魔族初のヒーラーだろうが。マチュアの理論でも、魔族じゃ回復使えないんだよ」
ほほう。
「なら、半魔族が覚えると使えるかと。半分人間なんだし。そうは思わないかな?」
ふむ。
それなら可能性はあるかもしれない。
ギルマスはそう考えて、後ろの職員に何か指示をしている。
その間にマチュアはこっそりとギルドから逃げようとして、あっさりと見つかった。
「そこの半魔族、ちょいと面貸せ」
ちょいちょいとギルマスがカウンターまでマチュアを呼ぶ。
「あ、あの、私商会まで戻って仕事しないと」
「商会?何処か就職したのか?」
「いや、私の商会‥‥」
「は?マチュア、商人ギルドにも登録したのか。そりゃまた暇な奴だなぁ」
「ほら、これが商会のギルドカード。信じてくださいよ」
にこやかに商人ギルドカードをギルマスに見せる。
「どら、見せて見ろ‥‥カナン商会か、あれ?確か元マスカット商会じゃ無かったか?」
「私が継承したの。全てフェザー伯父さんに任せているけど、私が代表なのよ?」
ドヤ顔のマチュア。
それにはギルマスもふぅんと感心している。
「そりゃあ凄いが、名前だけの代表で実質フェザー卿が経営者なんだろ?ここで遊んでいるぐらいなんだから」
「ふっふっふっ、その通り、カナン商会は私がいなくてもしっかりと機能するんだか‥‥ちょっと待って、今のなし」
――ヒョイ
あっさりとカウンターの中に入れられると、マチュアは奥の事務室で半魔族の職員に魔法の何たるかを説明した。
その結果、職員は毒消し麻痺消しなどの魔法を覚える事が出来るようになったという。
おそるべし半魔族。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。