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悪魔の章・その9・寝耳に水とはこれいかに

 ライトニング卿からの迎えの馬車。

 忘れ物をついでに取りに行くので、マチュアはまずパスカル商会にやって来た。

 やって来たのだが。

 パスカル商会には大勢の冒険者が集まっている。


「なんだなんだ?」

 ちっこい身体を駆使して中に割り込むと、どうにか店主のいるカウンターまでやってきた。

「はろはろ、何があったの?」

 カウンターの下からひょこっと頭を出したマチュアを見て、パスカルはホッとした顔をしている。

「このドジっ子、あんたのハルバード目当てに人が集まったんだよ。とっとと持って帰れ」

「ふぁ?」

 差し出されたハルバードを掴んでスッと消す。

 するとあちこちからマチュアに交渉を持ち込む声がする。

「パスカルビル商会です。ぜひそのハルバードを当商会に譲ってください」

「黙れ小童、伝統あるライオネル商会が貴様の武器を買い取ってやる」

「この筋肉馬鹿は放置してください。我がイスュタル商会は王室御用達のライセンスも持っています。是非当商会に‥‥あれ?」


――スッ

 店の入り口に転移すると、マチュアはすぐさま馬車に飛び乗る。

「どう?ハルバードはあった?」

「みんなが私のハルバードを狙っている‥‥早く馬車を出してください」

 そのマチュアの言葉と同時に、馬車が勢いよく走り出す。

 流石に馬車までは追いかけて来ないらしく、後ろを見てマチュアはホッとした。


「こわ‥‥何だろあの人だかり」

「店に忘れものをしたマチュアちゃんが悪いわよ」

 ん?

 なんで?

「どうして?それは分からないのですが」

「ああ、マチュアちゃんは外から来た人でしたか。シャイターン王家の治める地では、例え貴族といえども自分の荷物を外で忘れた場合、それは所有権を放棄する事と同じなのよ」

 何ですと?

 そんな恐ろしいルールがあるのかと、思わずマチュアは身震いする。

「でも返してもらいましたよ?」

「それはパスカル商会が冒険者相手に商売してるからよ。鑑定などで荷物を忘れる人はよくいるからねぇ。マチュアちゃんの場合、そのバッグは常に持ち歩かないとダメよ」

「でも、これは所有者以外は荷物を出せませんよ?」


――ウンウン

 アレクトーは静かに頷く。

「解術師って知ってる?」

 それは初耳。

「いいえ、それは何ですか?」

「格納カバンや魔導箒のように所有者が決まっている装備から、所有者権限を外す魔術師ですよ。王都に行けば何名か居ますので、気を付けた方が良いですよ」

 うわぁ。

 拡張エクステバッグを無力化する魔術師の存在など、マチュアも初めて聞いた。

 もしカリス・マレスに存在したら、シャレにならないだろう。

「そういえば、レオニードさんは炎の魔剣は見つけたのですか?」

 話題を変えようと、マチュアはアレクトーに問いかける。

 すると、マチュアのほうを向いて何故?という顔をしている。


「何でマチュアちゃんがその話を知っているの?」

「パスカル商会でレオニードさんとパスカルさんが話してたのを聞きました。そんな魔剣をどうするのです?」

 そう問いかけると、アレクトーはただ一言。

「人から生まれる厄災を滅ぼすため。大陸西部、王都の近くにそれが出現したらしいのよ」

「それは何ですか?」

「わたし達魔族では起こらない、ヒト族の禁断の魔術でね。自らを上位のアンデットに進化させる秘術があるのよ。それを行った魔術師がいてね‥‥よりにもよって、エルダーリッチに進化したらしいの」

――プーッ

 思わず吹き出すマチュア。

 慌てて拡張エクステバッグから缶ジュースを取り出すと、それを開けてゴクゴクと飲み始める。

「ングッ‥‥ぷはー。びっくりした。そんなものがあるなんて」

 そう話すが、アレクトーはマチュアの手にしている缶ジュースに驚いている。


「そ、それは何?見たこともないものだけど」

「ん、私の師匠アハツェン様が作ったマジックアイテム。何処でもジュースが飲めます」

――プーッ

 それにはアレクトーも吹き出す。

「そんなの、水筒で十分じゃない。マチュアちゃんの師匠っておかしい方なんですね?」

「ふっふっふっ。では、これを飲んで見てください‼︎」

 すかさず清涼飲料水メーカーSUZAKUのヒット商品であるSUZAKUレモンの缶とチョコチップマフィンを取り出してアレクトーに手渡す。

「これは何?」

「師匠から貰ったオヤツ。こっちの缶ジュースはここをつまんで、上に引っ張るの」

 ゆっくりと開け方を説明すると、アレクトーはおぼつかない手でプシュッと開ける。

 そしてチョコチップマフィンを一齧りすると、その味に驚いている。


「なにこれ、初めて食べる味。王都の一流菓子店でもこんなの無いわよ」

 うんうん。

「そこで、缶ジュースを一口‥‥」

――ゴクッ

 口の中に広がる優しいレモンの炭酸水。

 初めて感じる口の中の食感に、アレクトーは口元に手を当てる。

「ん〜、んんん‼︎」

「ゴクッて飲みなさい」

――ゴクッ

「ぷはー。何これ、さっきのオヤツといいこの飲み物といい、お師匠さんは王都にいったら大儲けできるわよ」

 お世辞抜きで褒めているアレクトー。

 でも、マチュアはやれやれという顔をする。

「師匠、そういう欲を持っていないもので‥‥」

 そう話して、マチュアも別のマフィンを取り出して食べる。

 一人で食べてもアレなので、紅茶とブルーベリー、バナナ、チョコチップの四つのマフィンと瓶入りアップルジュースをアレクトーに手渡す。

「はい、これはアレクトーさんにあげよう」

「え?こんなに良いの?」

 ちょっと遠慮するアレクトー。

 なので受け取りやすいように一言。

「このバッグには、このオヤツが100個以上入ってます」

「ふぅん。でも、これは売れるわよ?」

「まあ、パスカル商会の女将さんは一個金貨一枚出すから売ってくれと話してましたよ?」


――サーッ

 その言葉にアレクトーは生気を失う。

 それほどの価値があると、冒険者御用達の名店も認めたのである。

「そ、そんなもの受け取るわけには」

「でもね、材料費なら銀貨一枚だよ?だから気にしない。私だって師匠からオヤツだって貰ってるだけだし、売らないから価値はないのよ」

――モグモグ

 そう話しているマチュアに従って、アレクトーもお礼を告げてからバナナマフィンを食べ始めた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 やがて馬車は都市北方にある貴族区に入る。

 馬車にはライトニング卿の家紋が入っているのでフリーパスで正門を通過。

 街道を真っ直ぐに抜けた先にある大きな屋敷に到着する。


 馬車を降りたマチュアの前には、ドラゴンランスのメンバーが待っていた。

「ようこそマチュアさん。私達の主人がお待ちしています」

 頭を下げるレオニードやボンキチ、トイプー、ラオラオ。

 そしてマチュアとアレクトーの方にやってくると、トイプーが鼻をヒクヒクと動かしている。

「あれ?アレクさんから甘い匂いがする」

「そ、そんな事はないわよ、早く行きましょう」

 いそいそと先に屋敷に入って行くアレクトー。

 すると、トイプーはマチュアにも問いかけた。

「マチュアさんとアレクトーから甘い匂いがするのですが、蜜菓子でも食べてたのですか?」

――ん〜

 腕を組んで考えてしまう。

「私とアレクトーさんの秘密です」

 そう話して皆についていくと、マチュアは応接間に案内された。


「失礼します。外套と帽子をお預かりします」

 人と会うのに帽子を被っているのはマナー違反なのだが。

 それはどうやらこの世界でも通用するらしい。

 なので。

「外套は預けますが帽子は勘弁してください」

「ですが、領主様とお会いするのに帽子を被っているなど、マナー違反ですよ」

「それなら私は帰らせてもらいます。諸般の事情で、私は人前で帽子を取ってはいけないのです」

 頑なに断るマチュアだが、メイド長らしい人も譲らない。

「ライトニング卿はこのワルプルギスを治めている領主様です。外せないのでしたら、その訳を説明してください」

「お断りします‥‥もう結構、領主さんにはよろしくお伝えください」

 そう告げて立ち上がった時、扉が開いて身なりの良いオーガが室内に入ってくる。


「‥‥何だか雰囲気が宜しくないが」

「ライトニング様、この方が帽子を脱がないと申すので」

「まあ、構いませんよ。そのままで結構ですからお座りください。ジョリーヌ、ティーセットをお願いします」

 そう告げられて、ジョリーヌと呼ばれたメイド長は部屋から出ていく。


――バタン

「うちのメイド長が失礼した。私が城塞都市ワルプルギスの領主、ライトニング・アファームです。先日はレオニードに貴重な薬を売ってもらってありがとうございます」

 改めて立ち上がり、マチュアに深々と頭を下げる。

 するとマチュアも恐縮しながら一言。

「いえ、蘇生が上手くいったようでおめでとうございます」

「それで、教えてほしい事があるのですが、マチュアさんに薬を与えている方、アレクトーの話では師匠とお聞きしましたが、その方に協力をお願いしたいのですが、どうにか繋ぎを取ってもらえませんか?」

 ははぁ。

 目的はマチュアではなく薬の作り主ですか。

 なら断る一択である。

「折角ですが、お断りします」

「しかし、あれ程の薬を作る事ができる方ならば、第三階位のアーティファクトを作り出す事も可能な筈。そうすれば、王都を脅かすエルダーリッチをも滅ぼす事は可能でしょう」


 それって人間側の切り札を滅ぼすという事ではないかと、小一時間問い詰めたい。

 けど、そんな事も言えないので、マチュアは一言。

「師匠は世間から隔絶する道を選びました。師匠の技術の全ては私が継承しています。ですが、それをこの国の為に使う気はありません」

 きっぱりと告げると、ライトニングはマチュアをじっと見る。

「あなたが師匠の全てを受け継いだという証拠は?」

 ならばとマチュアは拡張エクステバッグから自作の魔法の箒を取り出してみせる。


――スッ

「これを鑑定して頂ければ。製作者の銘が入っているはずです」

 すると、ライトニングは手を叩く。

――ガチャッ

「お待たせしました」

 さささっとティーセットを皆にサービスするのメイド長。

「済まないが鑑定の天秤を待ってきてくれないか?」

「かしこまりました」

 頭を下げて部屋から出ていくと、すぐにワゴンに乗せた鑑定の天秤を持ってくる。


「では。私が乗せてみても構わないね?」

「どうぞ」

 その言葉でライトニングが天秤に箒をのせる。

――カタカタカタカタ‥‥カタン

 やがて鑑定が終わり中央の水晶に文字が浮かび上がる。

 それを眺めたライトニングは、言葉を詰まらせてしまう。

「どうしましたライトニング様」

「あ、い、いや、そんな筈が‥‥」

 頭を振ってもう一度確認するが、結果は同じである。


『第十階位アーティファクト:魔法の箒、マチュア銘』


「神器クラス‥‥それを人の手で作り上げるなど‥‥」

「お分かりいただけましたか。これで私が師匠から全てを受け継いだとご理解頂けましたでしょうか」

 そう話してから、箒を回収して拡張エクステバッグにしまう。

 するとライトニングは再び頭を下げた。

「頼む。このままでは、我々の世界が人の手によって滅ぼされてしまうかもしれない。エルダーリッチには我々の知る第四聖典ザ・フォースの魔術も効力を失う。伝承金属の武具でなくては傷一つつけられないのだ」

 うん、何度言ってもダメなものはダメ。

「お断りします。世界の命運など私には関係ない。私は毎日を面白おかしく過ごせれば良いのです」

――ガタッ

 この言葉に、またしてもボンキチが立ち上がると、腰の刀に手を掛ける。


「半魔族風情が、黙ってライトニング様の言うことを聞け」

 そう吐き捨てるように呟くボンキチ。

 うん、己の信念に生きる人は嫌いじゃないよ。

 君が人間だったら、部下にしてこき使っている所だよ。

「座りたまえボンキチ。しかし、どうしても無理なのか」

「はい。たとえ不敬罪と言われようと、私は私の好きなように生きます」


――ダッ

 テーブルを超えてボンキチが飛びかかってくる。

 神速とまでは行かないが、かなり高速の一撃である。

 だが、相手が悪い。

――キン

 一瞬で換装すると、マチュアは炎帝剣を引き抜いてボンキチの刀を真っ二つにする。

「お分りいただけましたか?」


――カチーン

 すぐさま炎帝剣を鞘に戻す。

 攻撃時の衝撃でその場に倒れたボンキチを見下ろす。

「相手の力量ぐらい見切って攻撃してくださいよ」

 そして切断されてなお、黒い焔に包まれて燃え盛る刀を眺める。


『名刀・左文字丸:ランクCの刀の中でも最高の切れ味を誇る』


「そ、それは‥‥俺が探していた炎の魔剣‥‥頼む、マチュアさん、それを売ってくれ、もしくはそれで戦ってくれ‼︎」

 そう叫びながら頭を下げるレオニード。

 だが、マチュアは頑なに断る。

「冒険者レベル4の半魔族では戦力になりませんよ。それに、私の持っている全てのアーティファクトは、私のものです‥‥では失礼します」

 スタスタと部屋の扉に近寄ると、マチュアはアレクトーに一言。

「マフィンが欲しかったら一つ銀貨一枚。シュワシュワジュースも同じ‼︎では」

 そう話して、マチュアは部屋から外に出て行った。


‥‥‥

‥‥


 扉を開いて外に出ると、部屋の外ではメイド長のジョリーヌが立っていた。

 先程までとは違い、明らかに敵対意思を見せている。

「ツノオレが……どうしても領主様に協力はしてくれないと?」

「そうよ‥‥貴方何者?」

 そう問いかけると、ジョリーヌの姿が消えた。


――ガキィィィィン

 マチュアの首筋に向かってダガーで切り掛かったジョリーヌだが、それよりも早くツインダガーを引き抜いて受け止めた。

「なっ、この一撃を止めるですって?」

 困惑するジョリーヌ。

 だが、マチュアはツインダガーをしまうと、ジョリーヌにも一言。

「やめやめ。私はあんた程度を相手したくないのよ‥‥じゃあね」

 そう告げてから、マチュアはのんびりと屋敷から出て行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 宿に戻って神聖アスタ公国に戻る。

 そして酒場に向かう途中、広場に大所帯の商隊がやって来ているのに気がついた。


――ガヤガヤガヤガヤ

 街の人々も商隊の露店を眺めると、のんびりと買い物を行なっている。

「やべ、半魔族の商隊か‥‥」

 フードを深々と被り、マチュアは急いで酒場に戻る。

 あらかじめ街の人たちには、外から来るものにはマチュアの正体を教えるなと話しているので問題はない。

 半魔族もこの国にやって来ている事自体が御法度らしく、ここで見聞きした事は外では口外していないらしい。


「なあ、この石鹸とかシャンプーっていうの売ってくれよ、あと、このロッド・オブ・銭湯も。こんなアーティファクト、魔族の国では手に入らないんだよ」

 隣の雑貨屋から声がする。

「これは外の世界には売ってはいけないと主人から言われてます。ですので、どれだけ頭を下げられても売る事はできません」

 きっぱりと告げるフロリダ。

 ならばと、マチュアは裏の扉から隣の雑貨屋に入る。

 酒場からは隣合わせに改築した全ての店に移動することができる。


「どしたどした?」

 帽子をかぶって、フードを深々と被っているマチュアが顔を出す。

 するとフロリダが困った顔でマチュアに助けを求めてきた。

「貴方がこのカナン商会の主人ですか。初めまして、私はリコットと申します。移動商人バスケット商会の主人です」

 褐色の皮膚に小柄な体、広いおでこにちっちゃいツノが二本。

 これが、この世界の半魔族なのかと頷いてしまう。

 そしてリコットも、同じ褐色の肌のマチュアに好感を持ったらしい。


「初めまして。このカナン商会の代表のマチュアです。本日はどのようなご用ですか?」

 屈託無く笑うマチュア。

 すると、リコットはマチュアの帽子をじっと見る。

「そうですか。マチュアさんはツノオレでしたか。それでこのニンゲン国に逃げて来たのですね?」

 ふぁ?

 ツノオレってなんだ?


『ツノオレ:奴隷化した半魔族はツノを折られて魔力と身力を失う。折られたツノは生える事なく、ツノを失うと同時に半魔族は全てのレベルが1となる。その生涯を終えるまで、ツノオレは冒険者としても10レベルを超える事はできない』


「‥‥こ、ここだと私を受け入れてくれるので‥‥」

 ヘルプを見て笑うしかない。


 しかし、説明文の最後の文字を見てマチュアはこっそりと拳を握る。


『習慣:ツノオレにとって、折れたツノを見られるのは裸を見られるよりも屈辱的である。その為、飾りや帽子を被っているツノオレは公的な場でもそれらをつけてる事が慣例として許されている』


「そうでしたか。でもご安心を、わたし達はここで見た事は何処にも話しません。ここで仕入れたものについても、全て他言無用ですので」

 そっか。

 それなら、ま、いいか。

 横のフロリダの方を向くと、マチュアは一言。

「一種類百個まで、販売できるのは二十種類、ここじゃなくてカナン商会全てでね。足りないものは倉庫から出していいわ。売値もここの値段でね?」

 そう話すとフロリダもコクコクと頷いた。

「では、この石鹸ですよね?一つ銅貨十五枚ですから、百個で銀貨十五枚です」

「な、何だと‼︎これが銅貨十五枚?そんな筈がないでしょ?」

 慌ててマチュアを見るリコット。

 だが、マチュアも笑う。

「この街の適正価格ですよ。日常使いのものですから。フロリダ、後は任せるわよ」

「はいマチュア様。では早速お話ししましょう」

 そう話が始まったので、マチュアは雑貨屋を出て商隊の露店を見に行った。


‥‥‥

‥‥


 大勢の半魔族たちが露店を開いている。

 海の向こうの綺麗な織物、食器、雑貨などもあれば、武具を扱っている店もある。

「しかしツノオレねぇ‥‥あ?」

 ふと思いついた。

 マチュアはウィンドウを開いて装備登録を始める。

「登録名はツノオレ、帽子とチュニック上下、ローブまで登録して‥‥エリア指定と」


 この世界で追加したコマンド。

 これでヒト族の結界外にマチュアが転移したり移動すると、自動でツノオレ装備に換装する。

 逆に自動解除は設定が細かいので、ツノオレになるように設定だけしておいた。

 そして露店をのんびりと眺めていると、ふと、綺麗な日本刀が売られているのに気がついた。


「へぇ。これはいい刀だね」

「わかりますか?これの価値がわかるとは素晴らしい。これは第三階位のアーティファクトなのですが、何処の国でも買い取ってもらえないのですよ」

「へぇ。見せてもらっていい?」

 そう話しながら、マチュアは刀を手に取る。


『日本刀:異世界の剣聖ストームの作りし名刀。異世界の剣豪でなくては抜く事が出来ない」


「ふぁ?」

 思わず頭を捻る。

 そして刀に手を当てると、マチュアはスルッと引き抜いた。

(使われた跡もあるか。でも手入れがなっていない。何らかの理由でこの世界に来たのか)


「ぬぁぁぁぁ、それを引き抜ける人がいるとは。どうです、お買いになりませんか?」

――チン

 鞘に収めて露店に戻す。

「悪いけど、第三階位のアーティファクトなんて赤金貨何枚になるかわからないよ。だから要らない」

 そう話すと、主人はがっくりと肩を落とす。

「でも、こんなのどうやって手に入れたの?」

「あ、これは多分、『聖遺物召喚の儀』で召喚したのですよ。年に一度だけ魔力が溜まると、異世界からこういう珍しい物品を召喚できる魔法でして。商人が使える第四聖典ザ・フォースの魔法です」

 何だ何だ?

 この世界の商人は魔法が使えるのか。

「へえ、商人も魔法が使えるのか。魔法の書は売ってる?」

「それは隣。でも高いですよ?」

 その言葉で、隣の本屋が軽く笑う。


「うちの本なんて第二聖典セカンドまでの魔法ですよ。目新しいものなんてありませんよ」

「え、ちょっと見せてくれる?」

 いそいそと本屋に移ると、魔法書を見せてもらう。

「どうぞ。これが黒魔法、これが白魔法、こっちが赤魔法、これが商人魔法で、こっちが盗賊魔法。これは召喚魔法ですよ」

 黒魔法を手に取ると、細かい魔法式が書き記してある。

 本を閉じて表紙に手をあて、魔力を注ぐと書物と契約が完了するらしい。

 そうする事で、初めて魔法が使えるようになる。


「成程。これはいくらなんだい?」

「一冊どれでも白金貨一枚。こういう書物は貴重なんですよ」

 ひいふうみい。

 全部で20冊僕程の書物。

「うん、全部で買うよ。はい」

――ジャラッ

 いきなり白金貨二十枚を出されて、商人は驚いている。

「うそうそ、ほんの冗談ですよ。これだからヒト族は疑わないんだから。そこから交渉で適正価格まで下げるでしょ?」

「あ、そっか。本当はいくらなの?」

「一冊金貨十枚。全部で白金貨二枚ですよ」

――ジャララッ

 マチュアに白金貨を十八枚戻す。

「ああ、済まないね」

「いいのいいの。これでも儲かっているんですから」

 ならお礼にと、マチュアはマフィンを四つ取り出して渡す。

「この街の名物ですよ。良かったらどうぞ」

 渡したのはいつものマフィンだが、実は酒場の厨房で作ったこの国のオリジナル。

 マチュアがレシピを調べて作ったのである。

 これも神聖アスタ公国の名物にしようとマチュアが商会のみんなにレシピを教えた。

 他には漏らしていない秘伝のレシピ、カナン商会の名物菓子。


――クンクン

 そっと匂いを嗅いで一口食べる。

 周りの商人たちは、その匂いにゴクッと喉を鳴らす。

「モグモグ‥‥」

 美味しそうに、無言で食べる魔法屋。

 それを見ながら、周りの商人たちは話しかける。

「どう?美味しい?」

「何かいってよ?」

――ゴクン

「ふわぁぁぁぁ」

 蕩けるような顔になった魔法屋を見て、近くの商人達は残りの三つを奪い合うように持って逃げた‼︎

「こ、こら、それは私のだぁ」

 慌てて追いかける商人。

 おいおい。

「お〜い、露店ほっぽっていくなよ‥‥全く」

 大量の魔法書を手に、マチュアは酒場に戻ろうとすると。

 さっきの武器屋がマチュアに問いかける。


「あの甘いパンは売ってるのか?」

「あれはマフィンって言うのよ。酒場で売ってるわよ」

「ならあとで買いに行くよ。四種類か?」

「そうよ。幾つ買う?」

「十個ずつお願いする。幾らかな?」

「一つ銅貨三十枚。では用意しておくわね?」


 笑いながら酒場に戻ると、マチュアは後を任せて部屋で魔法書と契約しまくっていた。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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