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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第9部 三つの世界の物語
257/701

変革の章・その30・それでも世界は回っている

この章はこれでおしまい。

新章からは、地球とカリス・マレスから少し離れます。

ここまでのお付き合いありがとうございました。

 今年のワールドホビーフェアでの、カナン魔導商会の目玉商品は『幻想の腕輪』と『可変型鎧騎士パンッァーナイト』、そしてマチュア用に仕上げた最新型の可変型魔法鎧メイガスアーマー・イーディアスⅡ。


 幻想の腕輪は、腕につけて宝石型のスイッチを押すと、登録してある服装に一瞬で変身できる。

 以前作った『換装の腕輪』と職員の持っているブレスレットを合わせて作ったもので、登録されている衣服の特徴や外見を、魔力により実体化して作り出す事が出来る。

 これには裏コマンドがあり、それを使うと獣人の耳と尻尾が生えてくる。

 可変型鎧騎士パンッァーナイトは言うに及ばず、イーディアスⅡにも大勢の人々が集まっている。


 最終日東京での販売ブースでは、個数限定で幻想の腕輪と可変型鎧騎士パンッァーナイトが販売された。

 当然ながら大使館に問い合わせが殺到したが、そんなものは高嶋たちが何とかしてくれるだろう。



「咲夜、ティータイムセットお願い」

 厨房で働いている十六夜型ゴーレム。

 名前は『咲夜』と命名され、外見も狐耳をつけて顔も少し変えた。

 今では大使館内の雑務全般をこなしている。


「今お持ちします」

 そのままマチュアは事務局に戻ると、彼方此方あちこちの部署からの報告書を眺めている。

 どこも特に変わらない。

 異世界大使館はいつも通りの平常運転。

 ならは、マチュアはスッと立ち上がって、ホワイトボードの前に立つ。

――キュキュキュ〜ッ

 マチュアは鼻歌交じりに、名前の横に業務予定を書き込む。

「私、暫く出張してくるわ」

 三笠と赤城十六夜の三人はウンウンと納得する。

「どちらまで?」

 と問いかける職員もいたので。

 ホワイトボードには『出張先・異世界』と書き込んだ。

「現場直帰する。朝も現場に直接向かうので、後は頼みますね」

 本当に出張にしか見えない一同。

 マチュアもその感覚なのだろうと騎士団組も納得している。


「大体の業務は私で何とかなりますけど、緊急時の連絡はつきますよね?」

「多分つかないと思うから、こっちから定期連絡するわ」

「それは助かります。同行者は必要ですか?」

「必要ない。現場で手が足りなくなったら呼びに来るので」

 それだけを説明して、また卓袱台に戻る。

 必要な引き継ぎについては問題はない。

「あ、幻影騎士団に勅命、対エイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンドの監視の強化、可能ならば日本を守る楯になりなさい。死ぬ事は許さない」

 この言葉に赤城と十六夜は立ち上がって一礼する。


「「命じられるままに‼︎」」


「ん。後は……カナン魔導連邦女王の名においてミカサに命じます。カリス・マレスと地球の架け橋として、常に良き答えを導き出すよう」

 すると三笠も立ち上がり一礼する。


「陛下のお心のままに」


 すぐさま三人は席に着いて仕事に戻る。

 これで引き継ぎはおしまい。

「あの、マチュアさん、ドラゴンの肉、また少し保管庫から貰って良いですか?」

 赤城が申し訳なさそうに問いかける。

「ん?この前バラしたのが数十トン単位であるから構わないけど……そっか」

 赤城の言わんとした事が理解できた。

「またわ。それまで食べ過ぎないように」

「はい‼︎」

 その言葉を聞いて、マチュアは手をヒラヒラと振りながら事務局から出て行った。


………

……


 マチュアは総務部に顔を出すと、総務部長の高千穂の席まで向かう。

「あら、マチュアさん、何かありましたか?」

「異世界大使館の軍資金、どれぐらい持つの?」

 単刀直入に問いかける。

 すると、高千穂も眼鏡をグイッと上げながら一言。

「ざっと説明します。人件費や諸経費などで掛かる年間経費は約四億です」

 初めて総務に来た職員はザワッとする。

 そんな金額を、どのように捻出しているのかと疑問を感じている。

 だが、マチュアはふうんと呟くと一言。

「なんだ、約一世紀は問題ないじゃん」

「正確には900年ですね。日本国の財務省が何としても税金払わせたいらしいですが」

「最悪の場合は三笠さんと相談して。私はしばらく出張ね」

「了解しました。いつお戻りで?」

「現場が落ち着いたら。それじゃあ後は宜しく」

 そう話すと、次は国際政治部へと向かう。


――コンコン

 軽くノックするが、ここは兎に角騒がしい。

 ファックス対応と国連からの報告、冒険者ギルド関係の出張などなど、人員を増やしても尚、忙しさも輪をかけている。

「吉成さん、調子はどう?」

「あ、マチュアさん。赤城さんから聞きましたよ、出張ですってね?」

「そ。世界関係は任せるわ、人手が足りなかったら三笠さんに話して異世界ギルドなり政策局なり好きに引っ張って。高畑さんと池田さんはゲルマニアかあ」

 キョロキョロと見渡すが、二人の姿が見えない。

「ええ。昨日向かいました。すっかり現地特派員してますよ」

「それで良いわ。そんじゃ、また何かあったら連絡してね」

「ええ。マチュアさんもお気をつけて」

 軽く手を振る吉成。


 そしてマチュアは文化交流部に足を伸ばした。

「古屋、生きてるか?」

「死んだら蘇生してください」

「そっか、まあ頑張れ……」

 軽いジャブから始まる挨拶。

 すっかりこのやり取りも慣れたものだ。

「国内はどんな感じ?」

「ワールドホビーフェアの件でもう凄いことに。後、各地の百貨店で異世界フェアをやりたいそうですよ。今うちの若いのがアルバート商会に向かって企画書練ってます」

 おや、中々の手腕。

 流石は部長になって貫禄が出ただけの事はある。

「高嶋たちは?姿が見えないが」

「今日から松前町に出張です。町民説明会で、異世界ギルドの方とうちの若いのも同行してます」

 ほう。

 責任ある仕事をしているようで実に結構。

 ここも問題なく機能しているようだ。

「後、もう少しでオタカラトミーとの契約ができます。その時はマジカルソリットの試作を作ってください」

 ふむ。

 そこまで話が進んでいるとは。

「了解。仕様書と資料を私の部屋に置いておく事、出張の合間に作ってみるから」

「お願いしますね。それでは出張お気をつけて」

 そのまま見送ろうとする古屋を手で制すると、最後に領事部に顔を出す。


「……ん、邪魔したらダメだなここは」

 ちょいちょいと部長を呼ぶ。

「おや?今日出発でしたか?」

「まあ、そうするわ。備品関係、特に追加の異世界渡航旅券パスカードなどの補充関係はツヴァイに申請して。そこから私に連絡が通るから」

「了解です。JFK空港の追加転移門ゲートの件はどうしますか?」

「ん〜」

 腕を組んで考えるマチュア。

 すると、ポン、と手を叩く。

「サムソンとベルナーにも異世界ギルドを設立する。その後でアメリゴからはベルナーへ、ルシアからはサムソンへ転移門ゲートを繋げるようにするので、しばし待たせて」

 いっそ近隣も巻き込もう。

 これでカナンの負担も大きく減る。

「そんじゃそういう事ですので、あとは宜しく」

 そう指示を出して、マチュアはゲートルームから異世界ギルドへと向かう事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 異世界ギルド。

 マチュアはのんびりと事務室にやってくると、フィリップとツヴァイの二人を執務室に呼ぶ。


「いきなりどうしました?」

 フィリップがマチュアに質問するが、ツヴァイはどうやら察したような顔をしている。

 なので。

「サムソンとベルナー両国に異世界ギルドを作ります。ベルナーはアメリゴ転移門ゲート、サムソンはルシア転移門ゲートを設置し、二つの国からの観光も受け入れる体制を整えるよう依頼してください」

「ふぁ?」

「それはそれは、大きな仕事ですねぇ。手段はこちらにお任せで?」

 呆気にとられているツヴァイをよそに、フィリップがマチュアに問いかけるので。

「ストームとシルヴィーにも協力を要請してください。親書関係はクイーンに書かせて、あの二国も第三城壁まで都市部を拡大して持て余しているんだがら」

「了解です。期限はいつまでで?」

「最初のような手探りからじゃないからなぁ。半年で機能出来るまでに仕上げて……ツヴァイ、いつまで呆けている?」


――ハッ‼︎

「こ、これは失礼を。まさかそれが来るとは思わなかったもので」

「出張は行くけど、戻って来るまである程度は進めておいて。後、後日だが、カルアドの別大陸に転移門ゲートを繋ぐ。冒険者ギルドに調査依頼を出せるように準備をしておいてください」

「では、私はそちらからやりますか。後にフィリップさんの方を手伝います」

「後は頼むわ。まあ、私がいなくてもギルドは機能しているでしょう?」

 その問いに、フィリップとツヴァイは頷いている。


「相変わらず、ずるいですねぇ。やる事はやって後は任せたですから」

 ツヴァイの言葉にはマチュアも苦笑するしかない。

 このカナンでさえ殆どクイーン達に任せっきり、そして異世界地球の件も軌道に乗ったら任せてしまったのである。

「面倒なのは押し付ける。私は楽をしたいんだ」

「では、マチュア様の命じるままに。私はサムソンに行ってきますので」

 そう話してフィリップは席を外す。

 そして残ったツヴァイは。


………

……


「同行者は必要ありませんか?ドライをつけますよ」

 心配そうに問いかけるツヴァイだが、マチュアはあっさりと。

「ん、いらない。必要になったら呼ぶから。それまでは指示通り頑張れ」

 にこやかに同行を拒否する。

「しかし、マチュア様に万が一があれば……」

 本気で泣きそうな顔になる。

 北方大陸でのマチュアの死がトラウマになっている。

 また一人で何処かで無茶をするのではと、心配でならない。

 マチュアもそれを察したのか、ツヴァイの横に座ると、そっと頭を撫でる。


「ツヴァイ、そろそろ私から親離れしなさい。他のシスターズはちゃんと独り立ちした。なのに、何故お前はそうなんだ?」

「マチュア様は私たちの創造主。例え独立して生きて行く力を与えられても、私はマチュア様から離れる事が出来ません」

 涙を流しながら呟く。


「そっか。ようやくツヴァイはそこまで進化したんだ」


 その問いかけに、ツヴァイはマチュアを見る。

「この世界には色々な種族がいる。その中でも凄いのがスチームマンというゴーレム種族。あれはね、普通のゴーレムが長い時間を掛けて自我を手に入れた種族なんだ……ツヴァイは、私が作ってからほんの十年程度で完全な自我を手に入れたんだよ」

 優しく、子供に語りかけるように話している。

 それをツヴァイはじっと聞いている。

「賢者マチュアの作りしゴーレムシリーズの始祖、そして私の娘。自信を持って生きなさい。それにね」


――ムニーッ

 ツヴァイの頬を左右に引っ張る。

「神威を操れる私が誰に殺されると思っているんだぁぁ」

「ま、まひゅははまひはひへふ」

 必死に逃げようとするツヴァイだが、マチュアからは逃れられない。


「覚えときなさい、ドライやクイーンがツヴァイの域に到達するのはまだ先。それまではツヴァイがみんなを纏めなさい。これは命令ではなく約束、いいね?」

「了解しました……お気を付けてください」

 その言葉を聞いて、マチュアはゆっくりと立ち上がる。

 馴染み亭はジェイクがいるから大丈夫。

 後は、やり残した事はない。

「ん?幻影騎士団はいいか。ストーム居るから大丈夫だろ」

 そう呟いでから、マチュアは転移門ゲートのある部屋に入っていく。

 そして白亜の回廊に出ると、胸元から虹色の鍵を取り出して瞑想を始めた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ゆっくりと目を開ける。

 そこはマチュアの作った白亜の回廊ではない。

 白い世界。

 何処までも続く地平線、そして何処までも広い空。

 全てが白に包まれている。


「ふぅ。大地母神ガイア、約束通りやって来たぞ、私は何をすればいいんだ?」

 周囲に響くように叫ぶと、マチュアの言葉がこだまする。

――スッ

 すると、マチュアの目の前に翼を生やした女性が降りて来る。

 純白のキトンを身に纏い、樫の杖を手に持っている。

「ようやくやって来てくれました。ですが、間も無く世界は終わりを迎えます……」

「ん?なら帰っていい?」

「あの、まだ話が終わってないので……お約束なので話を聞いてからにして貰えます?」

 困り果てたガイアがマチュアにそう告げるので、マチュアも空間収納チェストからティーセットを取り出して準備する。


「はぁ。従属神さまは、何でもありなのですか?」

「ここは神々の作りし白亜の世界。ならお茶を出せない道理はない‼︎」

 きっぱりと言い切るマチュア。

 ならばとガイアも諦めて話を始める。

「まず。マチュアさんの世界には普通にゴブリンはいますよね?」

「いるよ?」

「では、私の加護の世界では、人間の数とゴブリンの数が入れ替わっていると思ってください」

 ふむふむ。

 軽く指折り数える。

 まだ絶滅する程じゃないと確信する。


「次に、ゴブリンの文明と人間の文明が逆転していると思ってください」

「ほう……ゴブリンが文明を持って、都市圏で生活しているのか。で、人間は集落単位と」

 その問いに頷くガイア。


「そして、人間とゴブリンの強さを入れ替えてください。更に人間世界のオークやコボルトが亜人種のように地位も立場もあります」

 ふむふむ。

 成程。


「そして、ゴブリンの文明は魔人族が治め、その中には転生者がいます。異世界から転生したゴブリンは、神々のギフトを得て、この世界では勇者となりました」

「……」

 流石のマチュアも沈黙するレベル。


「そしてつい数日前。新たな転生の秘儀で、魔族は新たなる勇者を異世界から転生させました……もう、どうしようもないといいますか……」

「うん、終わったね。この世界終わったわ」

 あっさりと告げるマチュア。

 何処をどう聞いても無理ゲー状態。


「なので、マチュアさんには、人の文明を取り戻して欲しいのです。人々を立ち上がらせて、今一度人類が世界の頂点になるように……出来ればバックアップ的な?まあ、実力行使し過ぎない程度で」

「そんな都合のいい事を。そもそも、私の代わりに魂の修練を行う予定だった者はどうしたのよ?」

 そうガイアを問い詰める。

 だが、ガイアの答えは一つ。

「魂の修練者は、この白亜の世界にやってくる前に魔族の干渉で拐われてしまいました。そして人間から魔族に転生させられて、新たなる勇者として……」

「あ、あのね?創造神の行う魂の修練に干渉する力を持つ魔族って、それ不味いよ?まるで無貌の神の加護持っている……おい創造神、おまえ一枚絡んでるだろ?」

 思わず空を見上げるが、声は届かない。


「確かにその魔族は、無貌の神の崇拝者であります。ですが魂の略奪は禁忌の儀式、大量の生贄を伴う危険なもの。おいそれと使えるものではありません」

「ふぅん。例えば、私はその世界で人間に力をつけるチャンスを与えつつ、魔族を牽制すれば良いのかな?直接私が手を下さなくてもいい?」

――コクコク

 すぐさま頭を縦に降るガイア。

「そうなると、このエルフの姿以外に魔族の体も欲しい所だなぁ。それは何とかしてくれる?」

祝福ギフトとして魔族の肉体をアバターに追加します。それとマチュアさんの持つ全ての力も行使出来るようにします……もうこれで精一杯なのですよ」

――ボウッ

 マチュアの体が輝く。

 すると、側頭部上方から前に伸びる二つの角が形成される。

 身長も150cm程に縮むと、背中からは綺麗な蝙蝠のような翼が生み出される。

 薄い褐色の体に、密着するような黒いボディスーツを身につけて、ちょこんとインプのような尻尾も生えた。


「うわ、巨乳ロリッ子魔族かよ‼︎誰の趣味だ?」

「その姿は遥かなる過去に、この世界を滅ぼしかけた悪魔ルナティクスの肉体。今は存在しない魔族ですのでご安心を」

「そんなダイレクトに危険な体いらんわ‼︎もっとなんか優しい体を寄越せ」

「後は空いているスロットで色々と設定してください」

 うわぁ。

 カリス・マレスの神々の方がまだ話が分かる。

 ここの神さま、切羽詰まりすぎ。


「まあ、それは準備してから考えるわ。でも、ここまで滅びかかっても、ガイアは手を出さないの?」

「己の管理する世界に干渉するには、修練者や異世界転生者などに加護を与える事しか出来ません。因みに、人間にはもう異世界から勇者を呼ぶという儀式を行う力もありません」

 もう滅んで良いんじゃないかと考えるレベル。

「あのさあ、もう諦めて新しい世界の神になれば?」

 そう問いかけると、ガイアは頭を左右に振る。

「カルアドを知ってますよね?生きているものが消えると、私は消えます。人間が全て消滅すると、私も存在が消滅するのです……」

 ありゃ。

 それは不味い。

 しかし、何処まで出来るのか不安で仕方ない。


「人間の王国は残っているの?」

「後一つ。魔族の大陸の遥か東方、そこだけです。そこまで人間を助けてくれれば、あるいは」

「ふぅん……なら、取り敢えずは世界に行って、世界を見て、そして考える。結果として私が人間を滅ぼしても文句言うなよ?」

「マチュアさんに委ねます。出来れば穏便に……」

「なら、一度用意してから行く事にしますわ。行く時はこの鍵を回せば良いの?」

 その問いかけには、ガイアも頷く。

「ええ。鍵を捻った時点で、もっとも自然な方法でマチュアさんはジ・アース世界に行く事が出来ますので」

「どんな干渉しても構わないね?」

「お任せします……」

「なら、一度カリス・マレスに戻して。用意できたらすぐに向かうから」

 その言葉と同時に、白亜の世界がマチュアの知る回廊に変わる。

「さて、買い出しに向かいますか」

 やれやれと思いつつ、マチュアは転移門ゲートから異世界大使館へと戻って行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「……」

 ゲートルームからマチュアは大使館ロビーに出る。

 すると事務局から赤城や十六夜が飛び出してくると、すぐさま戦闘態勢を取った。


「まさかカナンから魔族が現れるとは」

「マチュアさんの留守は守ります‼︎覚悟してください」

 一瞬で間合いを詰めると、逆手に構えた忍者刀で斬りかかる十六夜。

「秘剣・黄泉送りっ」

 素早い剣尖がマチュアを襲う。

「おおう……何処に魔族?」

 その切っ先を指でつまんで止めると、十六夜の背後から赤城が詠唱を終えて飛んできた。

「英霊術式・虹の彼方っ‼︎」

 七色の矢がマチュアに飛んで行く。

――シュンッ

 だが、取り出した突っ込みハリセンに神威を乗せて全て弾いたのである。

――スパァァァァン

 そして突っ込みハリセン・無限刃で二人を後方に吹き飛ばす。

「こ、こんな魔族がいるなんて……」

「まだまだです」

 ぐっと体を起こす二人。

 そして事務局から三笠も出てくると一言。


「おや、もう出張終わりですか?」

「いや。忘れ物と準備で戻ったんだけど、何で私が襲われるのか理解……」

 三笠がロビーの鏡を指差す。

 それを見てマチュアは思わず笑った。

「悪魔だ‼︎」

――シュンッ

 すぐさまマチュアに戻ると、赤城と十六夜を両手で起こす。

「いや、これは私のミス。すまないすまない」

 そのマチュアの姿を見て、ようやく落ち着いた二人。

 まだ身体がガクガクと震えているらしく、両腕を抱きしめて震えている。


「か、勘弁してください……死ぬかと思いました」

「いきなり最上位悪魔が来るなんて想定してませんよ」

 そう苦言を呟く二人を連れて、マチュアは事務局へと戻る。

 館内放送でマチュアが悪魔の格好して遊んでいただけと放送してもらうと、取り敢えずはマチュアもお茶を飲んで一息ついた。


………

……


「今度の出張って、人間の敵ですか?」

「さぁ?よく分からない。何が善で悪かを見てから考えないと難しい案件です」

 そのマチュアの言葉には首を捻ってしまう一同。

 すると三笠が一言。

「逆転世界ですか?善と悪の区別がつかないというと」

「そ。人の文明と魔族の文明が逆転している。でも、元々は人間の文明だったものが何らかの方法で逆転したっぽい。取り戻してって話ししていたから……という事ですので、買い物終わらせたらもう一回行って来るわ」

 飲み終えたお茶を厨房に持って行く。

 ついでに保管庫から大量の食料を空間収納チェストに収めると、マチュアは箒に乗って郊外のウォルトコに向かう。

 そこで大量の日用品を訳の分からない量で箱買いすると、全て空間収納チェストに収めてからもう一度カナンへと戻った。


………

……


「ジェイク。ちょっと暫く出かけるからあと任せて良い?」

 馴染み亭のベランダ席で夕食を食べながら、マチュアはシードルを持ってきたジェイクにそう話しかける。

「了解しました。留守は預かりますので、ご安心ください」

 丁寧に頭を下げるジェイク。

 そして厨房の面々やウェイトレスにも声を掛けると、マチュアは自室へと戻って行く。


「さて、これで準備おしまい。向こうで空間収納チェストが開かなかったらまずいから、荷物の半分はこっちの拡張エクステバッグに収めてと」

 荷物を均等に配分して肩から下げる。

 どんな状況であっちの世界に向かうのか分からない。

 だが、どんな状況でも何とかなると自負する。

――シュンッ

 悪魔の格好に変化すると、マチュアは胸元から虹色の鍵を取り出した。

 それを空間に突き刺すと、ゆっくりと回し始める。

「それじゃあ、行ってきますか……ストーム、後は任せたよ」

――カチィィィン

 小気味良い金属音と同時に、マチュアの姿はスッと消滅した。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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[気になる点] マチュアが異世界大使館の軍資金一世紀は問題無いと言った後に正確には900年とありますが一世紀100年なのでそれだと九世紀では無いですか?
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