変革の章・その20・ヒトラーとの確執とWi-Fi始めました
12月1日。
国連に無償提供したドーム都市の復興が始まった。
ゲートの設置場所はスイスのジュネーブ郊外、その他にも復興協力をするという名目でアメリゴの国連本部横にもゲートを開放、国連平和維持活動の一環で各国がドーム都市の復興に手を挙げた。
それと同時期、アメリゴのニューヨーク・ロングアイランド島にもゲートが完成。
マチュア達カナン魔導連邦とアメリゴ合衆国との間でも、無事に譲渡契約が成立、ハワイ州オアフ島にて調印式も終わった。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴ
大量の工事車両や資材が市ヶ谷駐屯地に運び込まれる。
真っ直ぐにゲートを越えて、すぐに作業現場へと届けられる。
その光景を、マチュアは箒に座ったまま眺めている。
「意外と作業が早いというか、何というか」
「これが日本の建設企業の強さですよ。まずは外に作業ベースとなる建物を作ります。実際に修繕が始まるのは、学術調査と物品の搬出が終わってからですよ」
小野寺防衛大臣がマチュアにそう説明する。
「まあ、いいんじゃないですか?私もそろそろ自分のドームを修復しますか……」
ポリポリと頭を掻きながら、マチュアが呟くと。
「カナンですと、ドワーフ達による修復ですか」
「んにゃ、魔法。魔法で一発で修復する」
――ハァ?
その呟きには、小野寺も目を丸くする。
「ま、魔法で一発?」
「そうだよ。今まですっかり忘れてたのよ。修復魔術、それを使えばなんとかなるかなぁと」
「そんな魔法があるのですか?」
ない。
そんな魔法は存在しない。
なので。
「へ?ないから作るんだけど?それぐらいの魔法作れるよ、きっと」
「んー。マム・マチュアの魔術は、我らのわからない世界なのですね。まあ、完成した暁には、ぜひ日本国の新しい県『瑞穂』にゲートを開いてください」
目の前のドーム都市、日本国の新しい県『瑞穂』。
完成した暁には、自衛隊駐屯基地と研究施設、そして入居者を募って新しい県として機能する。
アメリゴは新しい準州として設定され、州名は『アレスト』と命名されたらしい。
国連ドームはその名も『アークシップ』と命名され、国連平和維持活動の元で、有用活用されるようになる。
「まあ、その時が来たらね。じゃあ、私は自分のドームに向かうので」
かちゃっと銀の鍵を取り出して扉を開くと、マチュアは第六ドーム都市へと向かった。
………
……
…
ゲートを閉じてドームに入る。
このドームにいるマリオネットは全部で4体、マチュアの持つ魔力を感知して、すぐさま防衛行動を開始した。
間合いを詰めて攻撃してくるタイプ、ミサイルで攻撃してくる遠距離支援型、中距離でマシンガンを放つタイプ、そして……。
「ちっ、マジックジャマーとはねぇ‼︎」
広範囲に魔法を阻害するジャマーを発動するマリオネット。
それによりマチュアの魔力でさえも中和され、発動しない。
「さすがは対魔族用戦闘人形ね。けども」
暗黒騎士に換装して両手剣を引き抜くと、まずは近接の一体の胴体を真っ二つに分断する。
切断されても地面でジタバタしていたマリオネットだが、やがて電源が落ちて身動きが取れなくなってしまう。
「あと三つっ‼︎」
中距離で間合いを取るマリオネットに接敵すると、突然目の前のマリオネットがマシンガンを捨ててマチュアに抱きついた。
――ミシミシッ
両腕をガッチリとホールドされ、身動きができない。
まさかの力技に、マチュアの全力でも外すことができないのである。
「油断して……まさかここまでのパワーがあるなん……」
――バキバキッ
両腕が肘から砕かれる。
痛覚遮断も出来ず激痛がマチュアを襲う。
「こっちは神威を纏った亜神モード。、その私をここまで追い込む……待て‼︎」
マリオネットの肩越しに見えた光景。
マチュアの視界前方で、遠距離型マリオネットの両肩のミサイルポッドが開く。
「嘘だろ?仲間ごとかよっ」
――チュドドドドッ
左右合わせて十六発のミサイルランチャー。
それが一直線にマチュアに向かって飛んでくる。
「南無三っ、神威mode2っ‼︎」
――ドッゴォォォォォォ
全弾マチュアとマリオネットに着弾。
もうもうと煙る光景。
バラバラになったマリオネットの残骸と、全身の鎧が吹き飛び血まみれのマチュア。
「ハァハァハァハァ……そっか、この世界の魔王って、亜神クラスかい……こんなに一方的な戦いは久しぶりだけど」
全身の神威を解放し、傷を癒す。
――シュゥゥッ
砕けた骨も再生すると、マチュアは肩をごきっと回した。
「さて、後457秒の神威モード、存分に味わってもらいましょうか」
――シュンッ
一瞬でジャマータイプとの間合いを詰めると、素早く裡門頂肘を叩き込む。
それだけでマリオネットの胴体は完全に砕け散る。
「完全回復……よし」
傷が全てふさがり、遠距離型を睨みつける。
「悪いが本気でいくよ」
マチュアの前面に二つの魔法陣。
それが高速回転すると、直線状のレーザーが放たれた‼︎
――ジュッ
それは一瞬でマリオネットの両肩を蒸発させると、そこから横薙ぎにレーザーを走らせる。
――ジュゥゥゥゥッ
ドロっとマリオネットの上半身が蒸発すると、完全に稼働停止した。
「ふうふう……動体感知……生体感知……マリオネット完全消滅」
ガクッとその場に崩れると、どうにか胡座をかいてそこに座る。
「ハァハァハァハァ……残存魔力100以下。ヒットポイントの数値換算でのこり80。今、追撃が来たら終わるわ」
ボソッと呟くマチュア。
すると。
――シュンッ
「……無様だな……」
マチュアの目の前に現れたのは、エイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンド。
その背後に30以上の武装親衛隊が待機している。
「まあ、キツイ事は確かだわ。しかし、ここまで転移するとはねぇ……一体何の用事かしら?」
そっと空間収納に手を突っ込んでジャック・オ・ランタンのシャッターを開く。
――ヒュゥゥゥンッ
徐々にマチュアの魔力が回復していくが、全快まではまだ遠い。
「何、貴公が開いたゲートの先が気になってな。国連が避難民を送り出した先、日本、アメリゴ。そしてここ。実に興味があるが」
――シュゥゥッ
全身の怪我を回復し、ゆっくりと立ち上がる。
「ここでやるの?悪いけど、あんたでもこっちの世界に手を出すのなら異物として排除するわよ」
「……そんな不粋な事はせん。欧州の避難民収容が終わるまで、戦線を広げていないのは何の為だと思う?」
「おや、ヒトラーともあろう方が随分とお優しい事で、何か裏があるの?」
そのマチュアの言葉に、ヒトラーは軽く笑う。
――クックックッ
「支配するものとされるもの。搾取する方とされる方がハッキリとしている。弱きものには手を出す気は無い、だか、歯向かうものは潰す……この後、けが人の収容にもこの世界は使うのであろう?」
「へぇ。それで手を出さないと?全ての欧州の人がこっちの世界に移民したらどうするの?」
するとヒトラーはマチュアを哀れむような目で見る。
「人は、生まれた土地を捨てられない。今は逃げることになっても、たとえ苦渋を飲む事となってもな。搾取される側になろうとも、我が第三帝国の配下となるならば平穏は約束される……貴公のように、故郷を捨て切ったものと地球の民を一緒にするな……」
「……捨て切ったわけでは無い……もう、私は水無瀬真央では無いんだ、魂も、記憶も、心も……全てマチュアだ‼︎」
「愚考だな。そうやって自身を欺くのか?」
――ゴキッ
力一杯拳を握る。
「欺くだと?何も知らないくせに……」
すると、ヒトラーはトントンと自分の頭を指先で叩く。
「私の記憶の中には、先代の魂の修練者の記憶もある。創造神のオモチャにされた、かわいそうな魂の記憶がな」
「なら分かっているだろう、全ての修練者の道筋が、どう考え、どうして生きてきたか」
「だから、この中の記憶の保持者は転生の秘儀を用いたのだよ。修練者の楔から解放されるために。だが、それでは楔は外れない……外すためには」
「「死ななくてはならない」」
ヒトラーとマチュアが同時に呟く。
「分かっているのなら何故死なない。せめて水無瀬真央として死んだ方が、さっぱりとするのではないか?」
そんなこと考えた事がない。
だが、死んでもう一度やり直したとしてどうする。
修練者の楔など、マチュアとマオに別れた時から外れている。
カリス・マレスでのマチュアの生き方に満足している。
何よりも。
友がいる。
マチュアを知っている人々がいる。
困った時に、そっと手を差し出してくれる仲間がいる。
ストームが
シルヴィーが
カレンが
シスターズが
ラグナ・マリアの王たちが
幻影騎士団のみんなが
カナン魔導連邦の人々が
異世界大使館の職員たちが
日本国の人々が
そして、二つの世界が、マチュアを必要としている。
「そっか、先代修練者と私の違いはこれかぁ」
マチュアはニイッと笑う。
「違い?」
「ああ。私とヒトラーの違いだよ。信じられる仲間がいるかどうか。私はね、私を信じてくれる人がいるから私でいられる、でも、あなたは違うんだね」
「信じるものか。昔はいたかもしれないが、今は必要はない」
「ああ、それで良いと思うよ。ほら、査察が終わったんならとっとと帰りなさい、あんたの戦争の相手は私ではないでしょう?」
「そうだな。いずれは戦う事になるかとは思うが、それまではな……安心しろ、ちゃんと約束は守ってやる」
振り返りながら、ヒトラーは足元に転がっているマリオネットの頭部をヒョイと拾い上げる。
「まあ、これは報酬として貰っておく……では、またな」
そう呟いて、ヒトラーはスッと姿を消す。
そして武装親衛隊もまた、一瞬で消滅した。
「威力偵察かぁ、人の心の中までズカズカと入ってきやがって……あのヒトラーめ……」
そう呟くと、マチュアはマリオネットの残骸を全て空間収納に放り込む。
そして中央噴水まで歩いていくと、ドーム全体を見渡した。
「あんたの記憶の中の修練者と私は違うわよ……まあ、同じ道を歩まないようにはするわよ」
そう誰となく話しながら、マチュアは大使館へと帰って行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
札幌に戻って来たマチュア。
まだ昼過ぎという事もあり、みな忙しそうに仕事をしている。
仕事の邪魔にならないようにロビーに転移して来ると、そのまま事務室に入ろうとして、慌ててロビーに戻った。
マチュアはロビーから繋がっている、異世界対ギルドの事務室の光景を見て首を捻る。
大勢の人々が、異世界ギルドのロビーや建物の外に溢れかえっているのである。
「な、何があったの?」
近くのギルド員に問いかけると、獣人ウサギ族のミニーメイが一言。
「あ、マチュアさま、最近、うちのギルドの近くでワイワイとかいうものが発見されたとかで、観光客が集まっているのですよ?」
「わいわい?居酒屋?」
そう問い返すと、カウンターにいたツヴァイがマチュアに一言。
「そこが繋がったことで、Wi-Fiの電波が届くんですよ。どうしますか?」
「ふぁ?」
転移門を通じてではなく、直接空間を繋げたことでWi-Fiの電波が届くようになったのである。
これは思わぬ誤算。
「え〜っと。ロビーの観光客に、ロビー内ではなく外で使ってくださいと伝えて。今すぐに対処するから」
そう叫んで、再び事務室へと飛び込むと。
「誰でもいいから、オトバシカメラ行って超高速Wi-Fiを10台、ドラム型延長コードを5つ買ってきて‼︎」
「あ〜、やっぱり電波が届きましたか。高嶋くん行ってきてください」
そう三笠が指示すると、すぐさま高嶋が席を立つ。
「マチュアさん、北電に連絡してアンペア数上げてもらってください」
そう説明してから、高嶋は箒片手に飛んで行った。
「あ、あいつ詳しいなぁ……凄いなぁ」
「パソコン関係は高嶋くんの独壇場ですからね。彼に任せておいて問題はないでしょう。それと、明日、吉成さん達が戻ってきますよ。次はどうしますか?」
「吉成、高畑、古屋は一週間の休暇。入れ替わりでデビット、赤城、池田にゲルマニア入りを命じます。高嶋は国内担当で引き続き、ドライ一人で商店街はキツイだろうから、領事部にも商店街シフトをお願いしましょう」
すぐさま三笠がスケジュールを作成。
「そろそろ政治部も国際部門と国内部門に分けますか。一階の空いてる事務室が勿体無いですからね」
そう話しながら、三笠がマチュアに同意を求める。
「では三笠執務官、国際政治部新設の準備をお願いします。必要な人材は」
「はいはい、全てお任せください。マチュアさんはのんびりとしていて結構ですよ」
「むう、私いらない子ですか」
そうふくれっ面をするマチュアに。
「一人であれこれやり過ぎですよ。そうカナンでも言われませんでしたか?もっと私達を信用してください」
――フッ
その言葉に、マチュアは瞳がウルウルする。
ここに来て優しい言葉。
「不意打ちはあんまりだあ……なら、私はロビーで魔法作ってくる」
そう告げて、マチュアはロビーに出ると、隅っこで魔法陣を展開した。
「さて、記憶探査とアニメイト、そして物品再生の術式をリンク……完成した魔法陣を一つの魔法陣として登録……」
作り出したのは創生魔術・物品修復という魔術。
物品に残る記憶のようなものを読み取り、それを復元再生するのであるが、まだ完成したのは雛形のみ。
ここから魔力や強度の調整を行う必要がある。
深淵の書庫を起動して物品修復の微調整を始める。
足りない部品があれば、それは魔力による複製を作り出し、補う。
この複製は精密機器には使えないが、予備パーツを魔法陣に入れておけば、それで補うことも出来る。
この調整で、すでに夕方の終業時間近くまで掛かっている。
「さて、それじゃあ始めますか」
そう呟いて厨房に向かうと、ガラスのコップを一つ持ってくる。
――ガシャーン
それを床に落として割ると、カケラを中心に魔法陣を展開した。
「それ、いきますか……魔力強度10の物品修復……」
――ブゥゥゥン
魔法陣がゆっくりと回転し、淡く輝く。
落ちているガラスのかけらは魔力分解され、そしてコップにくっついて物質化する。
やがて、真横に穴の空いたガラスが完成した。
「おおう、カケラがどこかに飛んだのか……あ、あった、もう一度っ」
――ブゥゥゥン
穴の空いたグラスとカケラを中心に魔法陣を展開すると、ゆっくりと穴が修復されていく。
「おおおおお、出来た。どれどれ、深淵の書庫……」
破壊する前と後のグラスの状態を比較するが、差異はない。
ならばと厨房で水を汲むと、それを一気に飲み干す。
「プッハァ‼︎冷たい水だ。よし成功、次は第二段階と」
次は精密機器の修復実験。
しかし、魔道具はあっても精密機器などマチュアは持ってない。
なので。
「三笠さ〜ん。物品修復魔術の実験するからスマホ貸して?」
「ええ、どうぞ」
――ポイッ
あっさりとマチュアにスマホを投げる三笠。
その光景を見て赤城は驚く。
「三笠さん、もし壊れたり失敗したらどうするのですか?」
「最新機種をマチュアさんに買ってもらうだけですよ。今の大使館の予算を考えたら、軽いものですよ」
「そうそう。貯金四桁あるから大丈夫、じゃあ派手に壊すからね」
そう説明してロビーに戻ると、三笠のスマホを床に置いて、すぐさまウォーハンマーを構えると、インパクトスマッシュを叩き込む。
――ドッゴォォォォォォ
建物全体が震え、領事部から職員が飛び出してくる。
「ま、マチュアさん何してますか?」
「三笠さんのスマホを粉砕した。さてと」
――ブゥゥゥン
素早く魔法陣を起動する。
「魔力強度100、物品修復発動‼︎」
――キィィィィィィン
ゆっくりと魔法陣が回転をはじめ、やがて半円状のドームが形成される。
その中で、粉砕されて跡形もないスマホがゆっくりと修復を開始した。
――ピッ……ピッ……
タイムカウントは200からスタートしてカウントダウンを始めていた。
完了まで200秒というところであろう。
「う、うわぁ……スマホが直っていく。マチュアさん、私のスマホ、表面にヒビ入ったの直りますか?」
そう問いかける職員に、マチュアは一言。
「よし、ここに置いてみて」
「はい、お願いします」
そう頭を下げる職員。
そして物品修復を発動すると、ひび割れ程度なら瞬時に修復を完了した。
「うわぁぁぁ、ありがとうございます」
「いえいえ、動作確認はしておいてね……っていうか、新品買えばいいのに、給料いいでしょ?」
「そんな勿体ない。ヒビぐらいなら使えますよ」
うむ、物を無駄にしないのは良い事だ。
ウンウンと頷くマチュア。
やがて200秒経過して魔法陣が消滅すると、修復の完了した三笠のスマホが置かれている。
「おう、三笠さん、これ動作確認してくださいな」
三笠の机まで向かいスマホを手渡す。
するとすぐさま三笠はメールを出したりラインを繋げたりしている。
「完璧です。というか、以前よりも動作がスムーズのような気がしますが」
「それは知らない。けど、これで証明されたわ」
満足そうなマチュア。
「それじゃあ、完成したのですか?」
「だと思うよ。魔導書見てみて?」
そう問われたので、赤城は右手を差し出して魔導書を取り出す。
すると新しい項目に『創生魔術』が増え、物品修復のページが増えていた。
「わわわ、ありますよ、あるという事は使えますよ」
「魔力強度100使える?」
「日に三回ですね。それなら可能です」
予想外に優秀な赤城。
それには納得していると。
――ガチャッ
大量の荷物を抱えて高嶋が帰ってきた。
「買い物完了です。設置しますか?」
いきなりショルダーバッグから電気設備用工具箱を取り出す高嶋。
「へぇ、私が何をしたいのかわかる?」
「大使館内のルーターに超高速Wi-Fiを接続、ロビーから電源を引いて異世界ギルドまで伸ばす、そこにWi-Fi中継器を設置、可能ならギルドの中に一台と外に向けて二台設置して登録。あとはギルドの外と中に、Wi-Fiありますのステッカーを貼り付ける、ですよね?」
お、おおう。
マチュアの言葉が全て読まれた。
「おおう……それじゃあ宜しく」
「ならマチュアさん、ちょっとお願いなんですが」
そう話してマチュアをロビーに呼ぶと、高嶋はロビーのコンセントを指差す。
「ここから直接引っ張るので、この横に小さい窓のようにゲート繋げて貰えますか?後日、ここまで回路増やして、ここで管理しますので」
お、おおう。
2度目の、おおう。
高嶋恐るべし。
「ふぁ、あんた凄いわ」
「へへっ、惚れ直しましたか?」
「惚れた記憶はないが、偉い‼︎ならば」
スッと魔法陣を起動して、指定の窓を二つ作る。
一つは異世界ギルド、そしてもう一つは馴染み亭のマチュアの部屋。
更にマチュアの部屋へのゲートも開く。
――ブゥゥゥン
「ゲートオープン。高嶋くん、ちょいとこの部屋にも電気引いて、Wi-Fi繋げてもらえる?あと一階の店舗にもね」
開かれた空間の先は女の子の部屋?
というか研究室。
「はぁ、コレってマチュアさんの部屋?」
「そ。私の部屋に一台と、建物の中に向けて一台、居酒屋スペースに繋げて欲しいのよ」
「そりゃあお安いご用で、ではやっておきますので」
そのまま高嶋に設置を任せると、マチュアは三笠に外に出ることを告げて、カルアドの鍵を使って第六ドームへと向かった。
………
……
…
マチュアの部屋。
甘酸っぱい女性の香り……。
「じゃないや、甘酸っぱいのはこの秘薬入れからか」
浪漫も何もありません。
高嶋は歩く邪魔にならないように、窓から電源を引っ張ると、壁側を沿って配線を始める。
「それにしても、普通の女の子の部屋だなあ。ちゃんと洗濯物も干して……パンツとブラがある‼︎」
デラ・マンチャで購入した高級下着。
それが室内に干してある。
赤や黒のレースの下着、普段使いらしい青いストラップ入りなど、普通の女の子の部屋の光景が広がっている。
「うわあ……これは目の毒、目の毒だあ……」
すぐさま配線を開始するが、すぐにチラッと下着に目がいってしまう。
「む、むぅ、これは、マチュアさんから頼まれた仕事、公務のやうなもの……」
違います。
ギルドの配線は公務かもしれないが、部屋の配線は私用です。
「さて、これで室内は問題なし。ここから店に配線を一つ下ろすとして、ここに穴を開けてか」
道具を取り出して窓の桟ギリギリを削る。
そこから外に配線を出すと、今度はマチュアの部屋から外に出て一階の店内に向かう。
「おや、大使館の高嶋さん、如何なさいました?」
「マチュアさんに頼まれて、Wi-Fiを設置に来ました」
――ザワッ
その高嶋の言葉に店内の観光客が騒めく。
「え?異世界にWi-Fi付くのですか?」
「設置してから設定まで時間が掛かるので、使えるのは明日以降ですよ」
そう説明して建物の外に出る。
ちょうどマチュアの部屋の窓が3階にあり、表街道に面しているので、真っ直ぐに一階まで配線を伸ばして店内に引き込む。
そして天井近くに棚を設置して、そこにWi-Fiを設置する。
「あとは外の配線の固定と……」
まさか、大使館の誰もが、高嶋が第一種電気工事士の、資格を持っているとは信じないだろう。
だからこそ、ここまでサクサクと手際よく作業出来るのである。
「二階は届かないからなぁ」
――バン‼︎
足元に魔法陣を発動すると、高嶋は魔法鎧を召喚する。
その腕に乗って二階まで上がると、そこでしっかりと配線を固定する。
一時間もすれば設置は完了し、再びマチュアの部屋に戻ってくる。
「さて、それじゃあ戻ってギルドの設置と……」
部屋から出ようとして、またしてもチラッと干してある下着を見る。
「まあ、マチュアさんも立派な女性、あんな勝負下着みたいなものを身につけても……あははぁぁぁ」
あ、妄想が全開になった。
干してある下着の前でヘラヘラと笑っているのは、側から見ると変態そのもの。
「い、いかん、こんな事では、さて、戻って……あらぁ」
振り向くと、ロビーから中を見ている赤城が一人。
「最低……」
「い、いや待て誤解だ。おらは仕事をしっかりとした、だから。この、下着を眺めていたのは……そう、報酬だよ、正当な代価なんだよ‼︎」
何を訳のわからない事を。
だが、赤城には理解出来ない。
「は、や、く、ギルドの設置もお願いしますね。今日の夜勤は私なので、ここを見張ってますから」
「そんな、大丈夫だよ、もうマチュアさんの部屋には入らないから」
「空間を閉じる方法を私は知らないの。誰彼構わず室内を覗いたらまずいでしょ、とっとと出て下さ〜い」
「あわわわわっ」
慌てて飛び出す高嶋。
すると赤城がバッグからマントを取り出すと、それを画鋲で固定して部屋の目隠しを作った。
「ふん、男って最低っ‼︎」
そう呟くと、赤城は事務室へと戻って行った。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






