変革の章・その19・開拓というか開発というか
異世界カルアド。
エアロニア大陸南東・アインセル平原。
そこにある巨大なドーム状都市を前に、蒲生を始めとした日本人はあまりのスケールに驚いている。
マム・マチュアから譲渡されたその地区は日本の行政区画として譲り受けた場所。
なので、まずはきっちりと測量から始めるらしい。
「測量班はすぐさまレーザー測量を開始。日本国の区画区分を明確にしてください。自衛隊は護衛として同行する部隊と、あの都市部の調査の護衛隊に分かれて」
次々と指示をする小野寺防衛大臣。
そして調査班は車に乗り込むと、真っ直ぐにドーム状都市へと向かう。
「さて、それじゃあ行きますか」
「私たちも急がないと」
KHKの進藤とYTVの佐藤も中継車に乗って移動しようとするが、それは自衛隊員が制した。
「ここから先は許可なく立ち入りを禁止します」
まだ連絡が徹底されていない。
なのでマチュアが自衛官の元に向かうと一言。
「悪いけど、この二つの報道局にはカナン魔導連邦が取材許可出してるのよ。このメンバーのリストをすぐに作って登録して。最初の譲渡契約にも、私の許可した者たちは自由に出入りでき、取材、その他の報道行動を自由に行えるものとするって明文化しているのよ?」
契約書の写しを見せると、自衛官もスッと下がってマチュアに敬礼。
「失礼しました、マム・マチュア」
「わかってくれて嬉しいわ。では、参りましょう」
――ス〜ッ
ゆっくりと箒に跨って飛んでいくマチュア。
その後ろを報道陣も付いてくる。
やがてドーム状都市の入り口、ぽっかりと開いた横穴にたどり着くと、先に到着した自衛隊と政府の調査班が既に調査を開始していた。
「これ程のものとはなぁ。相変わらず驚かせてくれるわ。これ貰っちまったんだよなぁ」
そう、遅れてやってきたマチュアに話しかける蒲生。
かなり興奮しているらしく、あちこちを歩き回りながら、落ちている物品を拾っては、それをトラックのコンテナに運んでいる。
「面白いでしょ?私は科学は理解出来ないから。でも、これは直したのよ?」
――ブゥン
空間収納からライドフロッサー(ロナルド大統領命名)を取り出して跨ると、すぐにエンジンを起動する。
――ヒュウィィィィィィン
高金属音が鳴り響き、やがて静かになる。
そしてアクセルを回すと、ライドフロッサーは音もなくフワッと浮かび上がった。
「な、何だ?映画の世界か?」
すぐさま蒲生や他の調査班がやってくると、マチュアの乗っているライドフロッサーを眺めている。
「ま、マチュアさん、それはここで?」
「これは私のドーム、第四都市で拾ったやつを直したの。いいでしょう」
「研究のために提供して欲しいのだが」
まるで子供のように瞳を輝かせている研究者が、マチュアに懇願するが。
「ダメ。これは私の。そこにもあっちにも落ちているから、自分で直せば?」
「そうか、そうだよなぁ。この都市はとんでもない宝物だな」
「他の都市も是非調べたい。それは難しいのか?」
そう話しかけるが、マチュアは頭を左右に振る。
「まだここも調べてないのに。まずは目の前のものから、別のドームはその後で。説明すると、ドームはこのエリアには6つあるけど、まともに使えるのは3つだけ。私の第四都市は自動防衛システムがあるので危険だよ」
残りの3つはマリオネットが都市を防衛している。
そのうちの1つをマチュアは自分用として選び、残りの2つはいずれ日本とアメリゴに委ねようと考えている。
「自動防衛?それはどんなものだ?」
その問いかけに、マチュアは一言。
「自律行動型戦闘アンドロイド。荷電粒子砲とか空間転移型ミサイルランチャーとか使うやつ。勝てる?」
――ゴクッ
科学者としては是非とも欲しい未知の技術。
それがあれば、今後の日本の防衛にも使えるかもしれない。
「それはやってみないとわからない。しかし……う〜ん」
是非とも回収したいのだが、それは危険が伴う。
残骸でも、迂闊に回収してもし自動修復でもされたら目も当てられない。
「まあ、このドームの中にそれがあるかどうかは分からないけど魔法であれは感知できないからあっても残骸。すでに日本に譲渡したものだから、好き勝手にやってね」
――フィィィィィィィィン
そう説明すると、少しだけ心配になって中継車を探しに向かう。
10分程走り回ると、ちょうどYTVの佐藤アナが中継している所に出くわした。
ス〜ッと中継車のとなりにライドフロッサーを停めると、マチュアは車の横のADに声を掛ける。
「どう?中継は上手く繋がってる?」
「ゲートから離れると電波が弱くなるので、ゲートの外にアンテナを設置しました。あとはケーブルで中継して、どうにかやってます」
「それは良かったわ。よし、これで私の仕事は終わった。後は日本国とうまく折り合いつけてね」
ヒラヒラと佐藤アナに手を振るマチュア。
すると佐藤もカメラが回っているのにマチュアの方に走ってくる。
「今回の異世界開拓の糸口を示してくれたのが、異世界大使館のマチュアさんです。全ての日本人を代表して、改めてお礼を言わせてください」
「ははは。そう来ますか」
――シュンッ
ならばとマチュアも白亜のローブに換装すると、横に停めてあるライドフロッサーに跨る。
――フィィィィィィィィン
エンジンをふかしてから佐藤アナに後ろに乗るように指示すると、一気に上昇して周囲を走り回る。
その光景にカメラはピッタリと追いつき、疾走するマチュアと佐藤の姿をしっかりと捉えていた。
そして数分後に、マチュアは元の場所に戻ると一言。
「皆さんは運が良い。わたし達カリス・マレスからは魔法技術を、この異世界カルアドからは先進科学文明の技術を手に入れる事が出来ました。これを平和利用してくれる事を、私は望みます」
そしてニッコリと微笑むと、すぐにカメラは佐藤アナに戻った。
「それでは一旦スタジオにお返ししま〜す‼︎」
――フッ
中継ランプが消えると、スタッフが全員拍手している。
「おおお?なんだなんだ?」
「スタッフ一同から、マチュアさんへの感謝の気持ちです。後、放送局長から、マチュアさんに是非一度局までいらして欲しいとの事です」
それには照れ隠し半分。
そして腕を組んで深く考える。
「どうしよっかなぁ。テレビに出るとあちこちで偏向報道されるから好きじゃないんだよなぁ」
「うちの局でも、最初はそうでした。けれど、他局のひどい偏向報道を見て、うちはこんな事はしないと方針を変えたのですよ」
中継責任者が頭を下げながら説明すると、マチュアも少し納得。
「う〜ん、恥ずかしいわ、なら、近いうちに顔出すからって話しておいて、HTNとYTVだけですよ、そう言って理解してくれるのは」
あとKHKの進藤な。
個人的に付き合いのある、真摯な記者も多数存在するが、逆にマチュアに敵対意思を向けている報道も存在する。
もっとも、そこはそこでカリス・マレスと関与しないレベルでの報道を心掛けているらしく、普通に頑張っているようだ。
この後も中継は続き、廃墟と化した街並みを放送している。
予め風化した死体などが転がっている場所は避け、視聴者にとって興味のある場所をboyaitterで募集し、それを探して歩く旅番組のようになっている。
面白いからマチュアも付き合おうとした時。
――ピッピッ
『三笠です。ロナルド大統領からホットコールですが』
「そんな電話置いてないよ。すぐ戻るから」
『了解です』
――ピッピッ
ブレスレットの通信を終え、ADに札幌に帰ることを伝えると、マチュアは急ぎ蒲生を探す。
そして蒲生にも一度札幌に帰る事を伝えると、すぐさま大使館へと転移した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「おー、ゲートを開けっぱなしにすると電波が届くのか。そういえば、中継も電波が届くって言ってたよなぁ……」
そんな独り言を呟きながら、マチュアは事務室に戻ってくる。
すでに夕方、職員はそろそろ帰る時間。
「アメリゴは深夜一時か。そんな夜中に電話とはこれいかに?」
「遅れるようなので、折り返すことを伝えてありますよ。こちらが番号です」
三笠からホワイトハウスの大統領執務室直通番号を教えて貰うと、すぐさま電話する。
――プルルルルル、ガチャッ
『はい、ミスエルフ。一一国の大統領を待たせるとは偉くなったものだなぁ』
「そんな冗談言いたいのなら切りますよ?」
『ま、待ってくれマム・マチュア。例の土地の譲渡、すぐさま手続きをとる。明日にでもホワイトハウスに来れないか?』
「……日本の緊急放送、見ましたね?」
『うむ。それで各方面から非難が届いてね。未知の技術を日本だけに独占させるのかと。そこで急遽、マム・マチュアにお願いしたいと』
「何処くれる?」
『まだ検討中だ。マム・マチュアの望む場所があるなら、出来る限り便宜を図ることになる』
「へぇ……なら、ロングアイランド島をください」
『……私の聞き間違いかな?』
「ロングアイランド、ニューヨークのロングアイランド、あそこをください」
『それは無理だよ。いくらなんでもそれは不可能だ』
「ならグァム島ください」
『それなら……ちょっと待て、今グァム島って言ったか?』
「グァム島。大宮島、アメリゴの自治未編入地域。今、それならって言いましたよね?」
『ま、まて、マム・マチュア、ことは私の持つ決定権では無理だ。その近くの環礁ならいくらでもあるが、そこならどうだ?』
「ミッドウェーとかいらんです。ちゃんとした人が住む島が良い。では明日伺いますので、アメリゴ時間の明日ね、では」
『ふぅ。私は歴史に名前を残せる大統領になりたかったのだがなぁ』
「2つの異世界との繋がり持つ事が出来る、アメリゴ史上最高の大統領ですよ。では」
――ガチャッ
このやり取りを聞いていた赤城や三笠、デビットは真っ青な顔をしている。
「いくらマチュアさんでも、グァム島を寄越せとは凄い事言いますね」
「マチュアさん、それ無理じゃないですか」
赤城とデビットがそう話すが、マチュアは一言。
「これでグァム島に大使館の保養所が作れるぞ、ゲート繋げておけばいつでもいける‼︎」
――キラーン
「頑張ってください、是非グァム島を勝ち取ってください」
「グァム島からは私のマムの故郷まですぐです。頑張ってください」
なんと現金な職員だろうと、マチュアは三笠をチラッと見る。
「まあ、無理しない程度で。パスポートなしで行けるのは実にいいですけど、やり過ぎないでくださいね?」
そう話す三笠もサムズアップ。
これでマチュアは引くに引けなくなった。
………
……
…
二日後の深夜。
マチュアは大使館からいつものようにホワイトハウス西門外に転移する。
いつもの警備員に話をつけて、箒に跨ってのんびりとホワイトハウス玄関に到着すると。
「はい、元気そうだな。マム・マチュア、こちらはエディ・カルロス。現グアム準州知事です」
「はい、マム・マチュア。どうぞ宜しくお願いします」
「ご丁寧に。マチュアです、よろしくお願いします」
がっしりと握手するマチュアとエディ。
そしていつものグリーンルームにやって来ると、これまたいつものようにマチュアがティーセットを用意する。
「今日のハーブティーはマルムティーです。カリス・マレスでは神々の果実と呼ばれるもので、滅多に手に入れることはできません」
コポコポと三人分のマルムティーを入れると、次はお茶菓子。
「ココナッツプリンです。かーなーり甘いのでお気を付けて」
そう説明して差し出したプリンを、エディはまず一口。
――ニイッ
するとエディの顔が柔らかくほころぶ。
「グァム島のココナッツプリンですね。異世界の方に我が島を理解してくれてありがとうございます」
「いやぁ、探すのに苦労しましたよ。さて、本題に入りますか」
――ブゥン
空間収納から異世界カルアドについての説明文章と契約書類を取り出すマチュア。
その初見文書を大統領とエディに手渡すと、二人はすぐにそれを読み始める。
時折、マチュアに質問をするが、既に日本で行った質疑と同じ部分が多かったので、難なく説明は終わる。
「ふぅ。正直言いますと、是非欲しいと思います、可能ならば今すぐにでも契約したい。ですが」
「グァム島の代表として申しますと、私はアメリゴの準州から離れるのは好ましくないと判断します。今のグァム島はアメリゴの一つの準州、海軍基地もあり、アメリゴの、太平洋拠点の一つでもあります」
ウンウンと頷くマチュア。
「なので、これをアメリゴが手放すことは難しいと判断します」
「もしマム・マチュアが時間をくれるのなら、他の島を探す事も出来る。だが、グァム島は難しい」
そう来ることは想定内。
だが、ここにグァム島準州知事がいるのは想定外。
なので考えるふりをして、マチュアは一言。
「なら、ハワイ州の島一つください」
「ハワイか……少し待ってくれ」
すぐさま大統領がどこかに電話をする。
そして直ぐに国防長官が書類を持って来ると、それを大統領に手渡した。
「ふむ。今直ぐにでもというのなら、少しだけ時間はかかるがカホオラウェ島がある。無人島で、ハワイ州の管轄になっているが、気候が厳しいと噂だ」
「そこ。核実験した島ですよね?放射能汚染施設ありますよね?」
すぐさま突っ込みを入れる。
その島の名前が出るのは想定済み。
マチュアとしても、そこでも良いと思っている。
「現在は放射線は自然レベル。施設は魔法でなんとかできないかな?」
「そうですねぇ。まあ、そこで良いです。海は?」
「周囲5kmまでの漁業権、魂の護符を持っていればハワイ州への出入りは自由、あとは何が欲しい?」
「カナン魔導連邦としての交易許可、免税、輸入制限など。日本国と同程度の条約を批准してくれれば」
それならば問題ない。
アメリゴも年末には異世界渡航旅券の発行が開始される。
渡航人数制限はあるものの、自由にカリス・マレスに向かう事が出来るようになるのである。
「良いだろう。それで条件は呑む。その代わり、こちらも追加要件をお願いしたい」
「はあ、どの辺ですか?」
そう問いかけると、ロナルドはアメリゴの入手するドーム都市周辺の土地についての記述を指差す。
「ドーム都市を中心に、半径25kmを50kmまで。このエリアをアメリゴの準州として認めると一文変更していただきたい」
そうなると、ドーム都市にアメリゴ軍が駐留してもどこも文句はない。
まあ、その程度は別に構わない。
「それと確認だが、そのアメリゴ準州以外の区画の調査などは勝手にやるとどうなる?」
「私が魔法で叩きだす。指定区画外には魔法による結界を施します。通過は出来るけど、すぐに私に連絡が来るので、魔法でぶっ飛ばす」
ニイッと笑うマチュア。その表情と口調が本気であることを理解すると、ロナルドは軽く頷く。
「了解した。それはマム・マチュアに許可を取った場合は?」
「申請してくれればどうぞ。まあ、結界外は自立型兵器マリオネットが徘徊してますから、人間なんて見つかったら瞬殺されますよ?」
――ザワッ
そのマチュアの脅し文句にロナルドは冷や汗をかく。
「そんなものが?」
「あら、ここに書いてありますが。指定エリア以外の安全については保証しないと」
すでに日本国に対して譲渡した区画には、結界を施して機械兵器がエリア内に侵入しないようにしてある。
当然ながら安全は確認してあるのだが、それでも保険は仕掛けてある。
これはアメリカにも有効で、契約の時点で最大半径100kmの領有権ぐらいは言われると思い、そこまで結界は広げてある。
「了解だ。では。この条件で審議を始める。最速で一週間、その時にはまた連絡は入れさせてもらう」
「了解しました。では、本日はこれで終わりという事で?」
そう問いかけると、ロナルドが一言。
「せめてドーム都市の見学ぐらいはお願いしたい。それは不可能か?」
「いえ、では一時間差し上げますので、それまでに護衛と記録官など、同行者の準備をお願いします。車両での移動でも徒歩でも構いませんが、一時的にゲートは西回りの中に開きますので」
そう話してから、マチュアは外でのんびりとティータイムに入った。
………
……
…
ホワイトハウス正面の庭に空飛ぶ絨毯を広げて、その上でのんびりとハーブティーを楽しんでいる。
柵の近くで楽しんでいたので、外からマチュアに挨拶をする人が大勢いる。
「はい、マム・マチュア。今日は大統領と何のお話?」
「楽しいお茶会ですよ」
「まだ異世界渡航旅券の発行はできないの?」
「今年のクリスマスをお楽しみに。既に事前申し込みはしてあるのかしら?」
「ええ、ネットで申請してあるわよ。すぐに発行されるのかしら」
「許可が下りればね。でも渡航手続きは日本で宜しくね」
「ステーツから直接行けないの?」
「それがねぇ、人手が足りないのよ。ちゃんと管理できるアメリゴのエージェントが欲しいわ」
「なら私がやりましょうか?」
などなど、次々とくる質問に答えていく。
子供達は空飛ぶ絨毯が珍しいのか、乗せて欲しいとせがんでくる。
ならばと柵の外に絨毯を一枚設置すると、高度を1mにセットしてその空間にロックした。
――フワッ
目の前でフワフワと浮かんでいる絨毯。
それを目をキラキラさせて眺める子供達。
「乗ってもいい?」
「靴は脱いでね。独り占めしない事、それで良いなら」
その言葉でワーツと子供達が殺到する。
近くの大人がそれを捌いて一人ずつ乗せると、保護者が記念撮影している。
「マチュアさん握手してください」
柵の外からマチュアに声をかける人。
ならばと柵の外にふわっと移動すると、絨毯の上で握手する。
――ヒュンッ
右手で握手すると、左手の中に魂の護符を生み出す。
「はい、これがあなたの魂の護符。記念にどうぞ」
「良いのですか?ありがとうございます」
「いえいえ、どうぞ……と。君たちも握手かな?」
マチュアの乗っている絨毯の近くに子供達が集まってくる。
その子たち一人一人と握手して魂の護符を手渡す。子供が最優先、その合間に大人たち。
そんな事を一時間程続けていると、柵の中で大統領のSPがマチュアを呼んでいる。
「マム・マチュア、こちらの準備が出来ましたのでお戻りください」
「はいはいと。それじゃあね」
浮かべておいた絨毯を回収して、マチュアは柵の中に飛んでいく。
そしてSPと共に西門に向かうと、そこで待機していた軍用車両の前で着陸する。
「流石に物々しい事で。大統領、準備はよろしいですか?」
車内で待機している大統領に問いかけると、コクリと頷くロナルド。
「異世界に行くと話したら、この通りだよ……」
「わかる気がするなぁ。では開きます」
ゆっくりと銀の鍵を取り出すと、マチュアは何もない場所に鍵を差し込む。
そしてカチッと鍵を捻ると、アメリゴに譲渡する第三ドーム都市の内部に空間を接続した。
――オオオオオオオオッ
あちこちから聞こえる驚きの声。
そしてマチュアが箒を取り出して横坐りすると、先行する形でゲートを越えて行く。
その後ろに護衛車両、大統領の乗っている特殊車両。そしてアメリゴ陸軍の装甲車両が続くと、ゆっくりと都市内部の巡回を始める。
都市中央部にある噴水広場。
この真ん中の建物が、都市全体を制御するコントロール施設。
まあ、崩れていて跡形もないので、何をどうこうする事は出来ないのだが。
都市中央部に辿り着いた一行は、ようやく安全であると理解したらしく車から出てくる。
まずはSP、そしてアメリゴ海兵隊、最後に大統領。
その後で、後ろの装甲車両に乗っていたらしい学者たちも車から降りると、すぐに近くの建物の残骸に走る。
「見たことのない金属、それにガラスのようだが違う。この都市を囲っている透き通った壁、恐らくはソーラーパネルであろうが……」
「土や水の成分は殆ど地球と同じ。あの資料の通りなのか」
「大気成分もほぼ同じとは……ここは本当に異世界なのか?」
各々が興味のある事を調べ、そして口にする。
ここが地球に近い世界であり、人が住まうのに十分な環境である事を今更ながら感じ取ったのであろう。
「マム・マチュア、サンプルとして都市内のものを採取してよろしいか?」
血気盛んな科学者がマチュアの元に駆けつけて問いかける。
ああ、このキラキラした目は、新しい事、おもちゃを貰った子供のように見える。
「カバン一つ分なら。それ以上は持ち帰らないで……そこの海兵隊、ライドフロッサーの残骸持ってくな‼︎まだここは私の物だ」
そーっと車両に積み込もうとしている海兵隊員に叫ぶ。
すると、すぐさまライドフロッサーを元あった場所に戻す。
「サンプルとしては大きすぎるでしょうが」
「い、いや、しかし、これは貴重な資料で……可能ならばサンプルとしてアカデミーからも回収して来いと命令がありまして」
そう取り繕う海兵隊員に近づくと、マチュアは正面から睨み付ける。
そしてNSAの身分証明を取り出すと、その海兵隊員に一言。
「所属と名前、階級を言いなさい。言わなければ魔法で焼き殺すわよ?」
――ザワッ
言葉に『恐慌』を乗せて問いかける。
それだけで海兵隊員は腰が抜け、地面に崩れた……。
「マム……自分はアメリゴ海兵隊第二師団所属、ライナス・ヴィッカーマンであります……階級は先任曹長……ご慈悲を……」
「ライナス曹長。貴方の権限で、ここから無許可で物品を持ち出す者を取り締まりなさい。アカデミーの命令と、大統領のサインの入ったこれを持つわたしと、どちらの命令を聞くのかしら……」
「マム・マチュアの命じるままに」
そう頭を下げて走り出すライナス曹長。
その姿を見て、ロナルドはマチュアに近づいた。
「マム・マチュア、うちのコマンダーをいじめないでくれないか?命令に忠実なだけなのだ」
「その命令には絶対のところで妙な歪みが出るとどうするのです?」
「それを正すべく、綱紀粛正は続けているよ。全く、うちのコマンダーにもマム・マチュアのような気合の入った海兵隊員が欲しくなるよ」
ほう。
その言葉に偽りはないな?
ならばとマチュアはしばし考えた。
「ロナルド大統領、もし私が海兵隊員になった場合、パリス・アイランドからの訓練ですか?」
「はっはっはっ。そんな不粋な事は出来ませんよ。名誉隊員として……何ですか?その悪そうな笑顔は?」
――ニィィッ
「私の時間が空いたら、不良隊員を訓練してあげましょうか?カリス・マレスのダンジョンで……」
その言葉の真意がすぐに理解できる。
だが、今はこの都市譲渡契約の成立が先。
「それはまた後日にして欲しい。今は、この未知の世界の技術に触れさせて欲しい」
そう告げると、ロナルドはSPと共に周辺の視察に向かった。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。