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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第9部 三つの世界の物語
245/701

変革の章・その18・前略、ようこそ日本政府

 マチュアがロナルド大統領と非公式会見を行った事は、報道関係者から日本国政府にも届いていた。

 すぐさま担当部署に連絡が入ると、異世界大使館にも連絡が届いた。


 朝9時。

 いつもの異世界大使館。

――ガチャッ

「異世界大使館政治部です……おや、蒲生副総理、マチュアさんですか?今起こしてきますね」

――ピッ

 電話を保留にして、三笠が赤城に頼んでマチュアを起こしに向かわせると、すぐさまマチュアは仮眠室で電話を受け取った。


――ピッ

「ふぁ?蒲生総理?」

『そりゃあ昔の話だ、今は副総理。とっとと目を覚ましてくれないか?』

「……おや蒲生さん、おはようございます」

『おや、じゃねぇよ。昨晩はアメリゴでロナルドさんと話してきたんだろう?』

「随分と情報早いですねぇ。何処から?」

『アメリゴのホワイトハウス付き記者だよ。中庭でロナルドと遊んでいるのを見たらしいからな。それで、何の話してきた?』

「え?それ聞く?」

『お嬢ちゃんが、非公式で、アメリゴで、ロナルドと会見してきたんだ、日本政府は大慌て状態だよ。まさか見棄てられたとか、異世界大使館がアメリゴに移るんじゃないかとか、とにかく既得権益を守りたい奴らが必死なんだよ』

「はぁ、アメリゴに引越しなんてしませんよ。例の異世界カルアドのドーム都市譲渡についてです」

『お、いよいよ話が始まったのか?』

「ええ、アメリゴは見返りに土地を提供できるかどうか検討してくれているようなので、それに倣って、日本国への無償譲渡はやめました」

『……まあ、良いんじゃね?なら先に渡島大島くれてやるからドーム都市一つ寄越せや』


「……はぁ?」

『総務省と法務省、外務省、国土交通省、農林水産省、内閣府には話つけたぞ、後は書面での正式な交付でお終いだ』

「……手が早い。小野寺さんに恨まれますよ?」

『未だに防衛省の中であーだこーだと話し合っている時点で駄目だ。渡島大島の譲渡手段は無期限租借、租借地は陸地部分のみ、指定海域の経済権益は日本国と共有、緊急避難についてはこっちの国際法の通り、これでどうだ?』

「宜しいのでは。後程書面にサインします。一通り揃えておいてください。しかし国会通さなくて良いのですか?」

『久し振りの超法規的措置を発令するさ。これが日本からのカナン魔導連邦への贈り物、それに対しての返礼を期待するよ』

「昼までに調査班を編成してください。それと警備員、可能なら自衛隊員が好ましいかと」

『あ〜わかったわかった。学者も一揃い用意しておくよ』

「あ、それからゲートは開放しっぱなしにしますから、そこの警備員も。なので、ゲート開く場所を考えてください」

『……随分と急だなぁ、何か急ぐのか?』

「面倒なことは一回で終わらせたいのですよ。こちらからは書面でドーム都市一つの自由裁量権、ドームから半径25kmまでの日本国の領有権を差し上げますよ」

『了解。では昼にまたな』

――ガチャッ


 内緒の外交。

 それを終わらせると、マチュアはすぐさま宿直室から飛び出して事務室に向かう。


「おや、もう仮眠宜しいので?昨晩はアメリゴのロナルドさんと遊んで来たのでしょう?」

 三笠が笑いながら問い掛けると、マチュアは思わず苦笑する。

「いやだなぁ。外交ですよ、外交。さて、今から書類仕事しますので、しばらくは放置してください。アプルティとティラミスは大歓迎です」

 その言葉にデビットがスッと席を立って厨房に向かう。


 そしてマチュアは大量の羊皮紙を用意すると、異世界カルアドのドーム都市および土地の譲渡契約書の雛形を作成。

 それを魔術で大量に複製すると、日本に譲渡するドーム都市と土地、アメリゴに譲渡するドーム都市と土地、二つの権利譲渡書を作成した。


「よし、これにカナン魔導連邦のマチュア・ミナセのサインと王家の魔術印を刻み込んで……」

 スッと指先に魔力を込めると、全ての書面にマチュア・ミナセの名前のサインと、カナン魔導連邦の王家印を入れる。

 これで正式な書面は完成した。


「さて、それじゃあちょいと出掛けて来ますね。昼までに戻りますので」

 すぐさま魂から銀の鍵を取り出して扉を作ると、マチュアはカルアドに走っていった。


「……扉、開けっ放しですけど」

 赤城が扉の向こう、カルアドの荒野を眺める。

 漂う魔力がかなり薄く、地球よりも薄いかもしれない世界。

 草木も水も見えないが、太陽と大地。

 ある程度地球に似た環境なのは一目で理解した。

「まあ、赤城さん、その扉の向こうを監視しておいてください。何が出るかわからないですからね」

「はい。それじゃあ」

 席をずらして扉の横に移動すると、赤城ものんびりと仕事を再開した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 異世界カルアド南方

 ミドル・ルン海域と呼ばれる海の真ん中にある聖域サリュース。

 現在のカルアドの生命体全ての原種が眠る大地。

 ここで全ての生命は、大地母神フォルテシモによって永き眠りについている。

 その中央に、フォルテシモの住まう神殿がある。

 カルアドに存在する神威をサーチして、マチュアはその座標に向かって転移する。

 結界も越えて神殿の正面に立つと、マチュアはそこでスーッと息を吸う。

「あ、どなたかと思いましたら、秩序の女神マチュア様ですね?」


――ドキッ

 すぐ背後で穏やかな女性の声がしたので、マチュアはすぐさま振り返る。

 腰まで伸びる金髪。

 完全なる黄金比で作られた豊満な体。

 純真無垢という言葉がよく似合う笑顔。

 大地母神の名にふさわしい女性が、そこに立っていた。

「あ、どもども、この度は、カルアドの秩序の女神を拝命しましたマチュアです……あの、これってこの世界に私の名前が広がるっていう事ですよね?」

 照れながら問い掛けるマチュア。

 すると、フォルテシモも口元に手を当てて軽く微笑む。

「広がるのは信仰が広まってから。ですので、今はまだ。いずれマチュアさんが人々の前に顕現すれば、その時はあなたの名前を広める事でしょう」


――プッ

 思わず吹き出す。

 それだけはごめんだが、どうやらそれも神の仕事。

 ならばどうするか。

「名前と姿を変えるのはあり?」

「ありですよ。だって、名を変えてもそれは真名とつながり、マチュアさんの元に届きます。神が姿を変えて人の前に出るのも良くあること。どのような名前に?」

 そう問われて、腕を組んで考える。

「簡単明瞭。マチュアの名前を逆に呼べは……アュチマ?だめだ、なんか違う」

「では、名前を別の文字に変換して逆に呼べばいいのですよ」

 そうアドバイスをくれるフォルテシモ。

 さすが優しさでできている神様は違う。

「流石です。えーっと、MACHUAと綴るから、逆にすれば……AUHCAM、アウフカム?アーヒカム?お?」

 何か見えた。

 というか、拳を握るマチュア。

「アーヒカムじゃない、UHで伸ばしてアーカムか。あの魔族、そういう事かぁ」

 久し振りにでた魔族アーカムの名前。

 名前の由来を見つけたマチュアは怒り心頭。

「それで、名前はどうするのですか?」

「え?秩序の女神アーカムでいいよ。神名、秩序の女神アーカム……」

 するとマチュアの全身が光り輝く。

 カルアドでのマチュアの立場がこれで完全に安定した。


「後は外見かぁ、それはまた今度でいいや、フォルテシモさん、実はお願いがありまして」

 そう話しを切り出すと、フォルテシモもニコッと笑う。

「異世界・地球からの移民ですね?」

「ええ。カリス・マレスからも移民政策を準備します。二つの世界から、この世界に人間がやって来ますので、色々と忙しくなるかと思います」

「そうですね。まずは移民、そしてその者たちが子をなした時、私の仕事は始まります。今はそうですね、海域の生命を全て目覚めさせ、陸地の植物を活性化しましょう」

――ブゥゥゥン

 すると、フォルテシモの右手に一振りの杖が生み出される。

 老木から作り出したような飾りも何もない杖。

 それを大地にコン、と突き立てると、大地が虹色に輝いた。

「これで大地は目を覚まします。後は何か必要ですか?」

「えーっとですね、この場所、なんて言うのです?」

 マチュアはクリアパッドを取り出して、フォルテシモに見せる。

 ドーム都市のある大陸とエリアを知りたかったのである。

「このあたりはエアロニア大陸ですね。各神の守護力では、ここはマチュアさんの管轄になりますよ?」

「あ、そうなの?」

「ええ。では、この大陸を肥沃にしましょう……」

――コン

 再び杖をつくと、大地が軽く震える。

「これでエアロニア大陸は目覚めます。もし必要なことがあれば、都度おっしゃってください」

「これはご丁寧にありがとうございます。それでは、取り敢えず今日はこれで。急ぎ忙しくなるように頑張りますので」

――シュンッ

 そう説明して、マチュアはゲートの入り口まで転移する。

 そしてふと気がつく。


 さっきまでは荒れていた大地が活性化し、あちこちに植生が見え始めている。

 渓谷には水が溢れて川となり、それはやがて海にまで届くのだろう。

 エアロニア大陸の大きさは南北アメリカを合わせた大きさ。

 そこにこれから移住計画が始まるのである。


「さて、これでおしまい……おやぁ?」

 ふと気がつくと、ゲートが開きっぱなしになっている。

「しまった、って、何も出ないからいいか、ただいまっ」

 そう話しながらゲートを超えると、マチュアは鍵を出して扉を閉じる。

「おや、お帰りなさい。どうでした?異世界は」

「新しい世界カルアド。これで移住計画も最終段階ね……と、契約書を作り直しますか」

 すぐさま卓袱台に戻ると、マチュアは契約書の作り直しを開始。

 大陸名と地図座標をクリアパッドを元に算出すると、それらも全て契約書に書き記す。

「むう、地図が欲しい……デビット君、このクリアパッドの地図をデータ化して印刷できる?」

 そう問い掛けると、すぐさまデビットが卓袱台にやってくる。

「では、私のクリアパットに転送してください。すぐに印刷可能にしますので」


――カチャッ

 取り出したケーブルをクリアパットに接続すると、それをプリンターに繋げて印刷開始。

「……ええええええ?何それ欲しい。誰が作ったの?」

 その光景に絶句し、そして叫ぶマチュア。

 するとデビットも予備のケーブルをバッグから取り出してマチュアに手渡す。

「アハツェンさんが作ってくれたのですよ。結構時間が掛かったらしいですけれど、異世界政策局のプリンターで古くなった物を取り込んで解析してましたので」

 おう。

 流石はアハツェン。

「そっかぁ。こんなものがあるとはねぇ……」

 そんな話をしていると、チラッチラッと赤城や三笠もマチュアたちを見る。

「……ちょいと待ってね、量産化してくるわ」

 おねだり視線に耐えられず、マチュアは廊下に出ると量産化の魔法陣を起動する。

深淵の書庫アーカイブ。材質解析……」

 受け取ったケーブルを解析し、必要な材料を空間収納チェストから取り出して放り込むと、マチュアは量産化を開始した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 午後一時。

 マチュアはお昼ご飯の釜揚げ饂飩を食べた後、のんびりとロビーへと向かう。

「おや、もうお出掛けですか?」

 厨房からお茶を持ってきた三笠がマチュアに問い掛けると。

「そ。兵は拙速を尊ぶってね、まずは動く所から始めるよ」

 ニイッと笑いながら、マチュアは素早く転移する。

「孫子ですか。兵は神速を貴ぶ、ではないのはマチュアさんらしいですね。さて、こちらもマチュアさんのバックアップと参りますか」

 そう話してから、三笠も事務室へと戻って行った。


………

……


 永田町・国会議事堂前。

 定刻通りにやって来たマチュアの前に、蒲生副総理が待っていた。

「きっかり定刻か。日本国は大体30分前行動だがなぁ」

「そんなブラック企業知りませんわ。異世界大使館は9時から5時半まで、昼は一時間休憩、その他勝手に休憩、お茶とお茶菓子は食べ放題、大使館内の食事全て支給、休日出勤の翌日と翌々日の午前中は振り替え休。どうだ参ったか」

 そう力説するマチュアに、蒲生の公設秘書がフラフラと手を挙げる。

「あ、あの……新規採用ないですか?」

「おいおい、池田ちゃん引き抜いたら次はこっちかよ。何だその勤務条件、そんなので良く通用するなぁ」

「うちは日本ではありません、カナンですよ〜だ。病気や怪我も安価に魔法で治癒しますから医療保険もいらないし、退職時の補償もあるから雇用保険もいらないんですよー。しかも家族手当と魔道具も支給。ドラゴンの肉も食べ放題ですからね」

 蒲生とマチュアが話しているのを見ていた議員も集まってきて、マチュアの話を聞いている。

「へぇ。マム・マチュア、もし新しく大使館作るなら教えてくれよ、議員やめてそっちに付くわ」

「わ、私も」

――パンパン

 すぐさま蒲生が手を叩くと、全員がさ〜っと散っていった。


「本当に日本の基準が合わないなぁ。まあいいか、それじゃあ行きますか」

 そう話をしてから、蒲生とマチュアは議事堂内の参議院第一委員会室へと向かった。

――ガチャッ

 そこはいつもマチュアが呼び出されている部屋。

 良く野党や椎名議員とやり合った思い出の場所である。

 そして現在、そこには各省の大臣と関係各省の実務官僚、各方面の学者、そして自衛官が待機している。

「さて、それでは始めるとしますか。まず、こちらが私の管理する異世界カルアドについての所見を纏めたものです」予め用意してあったカルアドのデータ。

 それを纏めたものをコピーして、集まっている人々に配布する。

 それを受け取ってから暫くは、皆はマチュアに質問をしていた。


「カルアドの管理をマム・マチュアが行なっているそうですが、それは誰から?そしてそれを証明するものはありますか?」

「あ〜、誰からと問われると神様から。証明するものはこの銀の鍵。これでしか異世界の扉は開けませんし、私はこの鍵を使う事で、望まない存在をカルアドから弾き出す事が出来ますが」

――ザワッ

 マチュアが胸元から巨大な銀の鍵を取り出すと、それを皆にも見せた。

「それが異世界の鍵。はぁ、信じます。マム・マチュアが私達の世界に来れたのも転移門ゲートによるもの、ならばマム・マチュアの言葉を疑う必要もありませんでした」

 ほっとするマチュア。

 またごねられるのかと心配であった。

「あ、あの。マム・マチュアは神様が見えるのですか?」

「見えるというか、いる場所に行けば見えるし話も出来るけど。でも、それは教えない。教えてはいけない、人間はそこに辿り着いてはならないそうです」

 マチュアの背後にフッと現れた意識の言葉を、マチュアは代弁する。


(ち、地球の神様、いきなり背後を取らないで。怖い)


 心の中でクレームを入れると、意識はスッと消える。

 その瞬間、ドバッと汗が噴き出した。

「怖いわ……と、後は質問ないですか?」

「質問というか、後は直接転移門ゲートを開いてもらってからですね。では」

 すぐさま調印台の用意してある首相官邸へと移動する。

 そこでマチュアは、阿倍野首相と正式に渡島大島のカナン魔導連邦譲渡と、カルアドの第二ドーム都市、その周辺の土地の譲渡に関する調印を行う。

 これは国としての正式な調印、その光景は何も聞かされずに呼びつけられたKHKとYTVによって緊急報道された。

――スッ

 お互いにサインを終えて書面を交換すると、マム・マチュアと阿倍野首相ががっしりと握手した。


………

……


「ま、マチュアさん、いきなりの呼び出し、心臓に悪いですよ」

「そうそう、こっちだって心の準備があるって……これ何だ?」

 佐藤忍アナと進藤がマチュアの元で話していると、マチュアは二人に『カルアド報道許可証』と書かれたプレートを人数分手渡した。

「さ、異世界行くよ。そのプレートはカナン魔導連邦発行、それがあればいつでもカルアドに行けるからね」

 そう話してから、マチュアはその場にいる蒲生に話しかける。

「それで、何処にゲート開きます?一度開いたら日本国が使えるゲートはそこで固定しますので、慎重にお願いしますね」

「それでな。市ヶ谷駐屯地に頼むわ」

 あらあっさりと。

 しかし何でそこ?

「駐屯地に作ったら、うちの記者とかが入れないじゃないですか」

「その許可証があれば通してやるから。まずは安全を確保するのが先決、それからの開発っていうのわかるだろう?」

 理屈もわかる。

 むしろそれが安全策。

 なのでマチュアも折れた。

「わかったわよ。なら、移民団とか出す時に移して欲しいなら、一度だけ場所変えてあげるから」

「やっぱり移せるんじゃねえかよ、一度ぐらいケチケチするなって、ほら、行くぞ」

 笑いながら待機している車に乗ると、蒲生たち調査団は市ヶ谷駐屯地へと向かう。

「相変わらずフットワーク軽いわぁ……」

 そう呟きながら、マチュアも箒を取り出して横坐りすると、スーツと蒲生の車の後ろを飛ぶ。

 その横に佐藤アナも箒で飛んでくると、マチュアに軽く会釈する。

「あら、許可証届いたの?」

「はい。おかげさまで、無事に特殊飛行許可免許届きました、ありがとうございます」

 それは良かった。

 ならばとマチュアは空間収納チェストからショルダーバッグを取り出すと、すぐさま権限を佐藤忍に書き換えて手渡した。

「ならこれもあげる。私の空間収納チェスト程ではないけど、その中身は普通の八畳間と同じくらい空間収納できるから」

「へ?よ、宜しいのですか?」

「いいのいいの。頑張っている人にはご褒美だよ、権限は佐藤さんだけだから、あなたしか出し入れ出来ないので」

 そう言われて佐藤はすぐさま肩に下げていたバッグを受け取ったショルダーバッグに放り込む。

――スッ

 あっさりと入って行くが、逆さにしても落ちて来ない。

 それを肩に下げて嬉しそうな佐藤。

 やがて市ヶ谷駐屯地に到着すると、マチュア達は真っ直ぐ中に入って行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「マム・マチュア、俺にもバッグくれよぉ」

 車から出てきた蒲生が、マチュアに空間拡張エクステンションバッグをせがんでいる。

「どこのチンピラですか……あ、マフィアか」

「国会議員やってるとなぁ、何かと物もらったら賄賂だ献金だってうるせえんだよ」

「なら欲しがるなや‼︎普段、蒲生さんが使っているバッグは?」

「これだな」

 バン、と黒革のビジネスバッグを叩く。

 しっかりとした材質の、とても良い品物である。

「ゼロハリバートンの限定モデル。年間30個しか作られない特注品だ」

「ならそれ貸してくださいな」

――パン

 軽く足を鳴らして魔法陣を起動する。

「これをか?どうするんだ?」

「それを空間拡張エクステンションしますから。ついてだ、希望者はこの魔法陣の中にバッグを入れてくださいな」

 その言葉で、議員達も自分のバッグをそっと置く。

「さて。アニメイト起動、付与は空間拡張。大きさは5m立方で、オーナー権限は所有者のみ、使用者もオーナーのみでどや」

――キィィィン

 魔法陣が輝く。

 そしてスッと光が消えると、マチュアは頷いている。

 そして蒲生のバッグを取り出して手渡すと一言。

「カナンで私がこの加工したら、一回で二百万掛かりますからね」

「円か?ドルか?金貨?銀貨?」

「円ですよ。日本で話しているのですから。さ、議員の皆さんもお持ちになってくださいな。あと、自慢するのはご自由に、この手のものは私は気が向いた時しかやらないので、お金積んでも無駄ですよ」

 その話に一同は爆笑する。

 そして指定された駐車場に向かうと、蒲生はカラーコーンとセーフティチェーンに囲まれた場所にマチュアを案内する。

「ここ……目の前に見覚えのある建物が……」

 そりゃそうだ。

 市ヶ谷駐屯地といえば、中に防衛省のある場所。

 先日、マチュアもやってきたばかりのこの場所に、よくもまあ開けと言うものである。

 今頃は小野寺防衛大臣が卒倒しているかもしれない。


「まあ、渡島大島の件でマム・マチュアと交渉するのはやめましたよ」

 そう話しながら、小野寺防衛大臣もマチュアの元にやってくる。

「おや、そうなのですか。ではホムンクルスの件は必要ないと?」

「別の交渉材料を探す事にします。国益優先で考える事にしました」

 それはそれは。

 ならばマチュアもコクリと呟く。

「あれは地球の術式ですから、対応は地球の魔術師の方が詳しいです。それを冒険者にやらせてみてください」

 そう呟くと、マチュアはカラーコーンで区切られた中に入る。

「高さと横幅は?」

「横幅は20m、高さも同じで頼むわ」

 そりゃまた豪気な。

 するとマチュアは胸元から銀の鍵を取り出すと、それを目の前の何もない空間に突き刺す。

「あ、外枠はなにか指定がありますか?」

「え?外枠って、額縁みたいな奴か?」

 素っ頓狂な声を上げる蒲生に、マチュアはこくこくと頷く。

「それ。指定ないならアルミサッシにしますよ」

 なんとも味気ない。

 異世界との空間の接合部がアルミサッシとは。

「木製の額縁みたいので頼むわ、いきなりだとそれしか思いつかない」

「はいはい……」

 鍵を持つ手に魔力を注ぎ額縁をイメージ。

 そしてゆっくりと鍵を回すと、横幅、高さ共に20mの空間に両開き扉が現れた。

「それでは開きます。地球では二ヶ所目、契約にあった指定エリア。ようこそ地球の皆さん、これが異世界カルアドです」

――ガチャッ

 マチュアがゆっくりと鍵を回すと、突然扉が消滅し、まだ草がポツポツとしか生えていない大地と、その向こうに見える巨大なドーム状都市が視界に広がった。

 その光景に、その場の全員は身震いする。

 カリス・マレスではない、自分達の新たなる大地。

 未知なる土地に、その場の人々は感極まっていた。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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