変革の章・その17・カルアド移民が目の前に
11月下旬。
異世界大使館はやや忙しい毎日を送っている。
古屋、高畑、吉成の三人はゲルマニアの国連軍施設に派遣され、そこで、冒険者ギルドの依頼を受けて来た冒険者の対応に追われている。
池田の代わりに十六夜がドライとともに商店街に出向、日夜訪れる観光客や冒険者の為に多忙な日々を送っていた。
池田は三笠とともに国連との折衝に大忙し。
まさに手が足りない日々の中。
――ガチャッ
「赤城、ただいま戻りました‼︎幻影騎士団での実践研修も完了です‼︎」
にこやかに笑いながら事務室に入ってくる赤城湊。
以前とは違い、見るからに頼もしくなって帰ってきた。
「おや、もう終わりですか?」
「はい。それはもうしっかりと、ウォルフラムさんとズブロッカさんからもお墨付きをもらいました。それでですね、マチュアさんにお手紙を預かってます」
卓袱台でウトウトとしているマチュアの元に、赤城が近づくと。
――パチっ
「ふぁ!なんだこの魔力‼︎」
「私です、赤城が戻ってきました。こちらはウォルフラムさんからのお手紙で、これが私の魂の護符です。あと、こちらはシルヴィー様からの書簡ですね」
「はいお疲れ様。じゃあ今までのこちらの状況は三笠さんから聞いてね」
「はい。三笠さん、お願いします」
そう三笠の机に向かうと、三笠は両手を合わせて掌の中に記憶のスフィアを生み出している。
――ブフォッ
ちょうどお茶を飲もうとしていたマチュアが、その光景を見て力一杯咽せている。
「ゴフゴフッ……み、三笠さん、いつのまにスファア作成を覚えたの?私教えてないよね?」
「え?私はトリックスターですから、一度見た魔術ならある程度は使えるようにはなれますよ? これはミアさんにも驚かれまして」
――ブゥゥゥン
マチュアほどコンパクトではないのは致し方ないが、しっかりと記憶のスフィアを作り出している。
それを赤城も受け取ると、スッと魔力分解して取り込んだ。
「現在は……はぁ、戦争中でしたか、では私はアメリゴの担当官で繋ぎを取れば良いのですね?」
「そうですね。マチュアさん、それで宜しいですか?」
そうマチュアにお伺いをたてると、マチュアもコクコクと頷いている。
「それはもう……と、赤城さん、ウォルフラムのこの申し出受けるの?シルヴィーの推薦状もあるから私がどうこう言う筋合いはないけど」
それはウォルフラムからマチュアに宛てた、赤城湊の幻影騎士団入団許可申請。
シルヴィーからの推薦状が付いているため、マチュアが良しといえばそれで確定である。
「王城付き任務が厳しいのですが……どうでしょう」
「はい、赤城湊の幻影騎士団の入団を許可します。マチュア付きとして日本国異世界大使館勤務、以上よろしく」
――パーン
すぐさまマチュアが手を叩く。
「ちなみにこの時点で赤城さんの魂の護符はシルバーランク。貴族の爵位を受けられたので、カナンの名前は『ミナト・フォン・アカギ』を名乗る事を許可します。登録国は日本という事ですので」
つらつらと説明するマチュア。
これで赤城はベルナーの騎士であり、望めば小さな領地を持つことも許される。
「あ、ありがとうございます。ちなみに冒険者ランクはAまで上がりました」
おおう。
赤城……恐ろしい子‼︎
「そういえば……赤城さん雰囲気変わりましたね」
商店街から一旦書類を取りに戻った十六夜が、何か変化している赤城にそう話しかけて。
――ムニッ
と赤城の胸を揉む。
「お、大きくなっている?今のサイズは?」
「あは、あはは……は、87のEです……」
高嶋に聞こえないようにボソッと呟く赤城。
すると十六夜もニイッと笑う。
「マチュアさん、次は私が幻影騎士団に出向したいですわ……私も……美乳になりたいですわ」
「ふぁ?あ、そっか。ポイポイさんいるからいいか。なら明日から行っておいで、赤城さんは午前中に十六夜さんを連れてベルナーへ行って、ウォルフラムに話しておいて」
「「はい‼︎」」
威勢良く返事をする二人。
「という事ですので、三笠さん宜しいですね?」
「プラマイ0。出来れば実動班を一人欲しいところですが」
「デビット君をカナンから戻します。代わりに異世界政策局から数名、異世界ギルドに出向するように伝えてください」
「了解しました、ではすぐに」
ガチャッと電話を取る三笠。
そしてマチュアはふと思い出したかのように事務室から出ると、ロビーに設置してある転移門の前に向かう。
「……そろそろいいか」
そう呟くと、転移門の扉に手を当てて魔力を解放する。
先日冒険者ギルドで行った方法で、マチュアはカナンの異世界ギルドとこのロビーを繋げようとした。
足元に魔法陣が広がり、ゆっくりと回転を始める。
「……セット……浄化結界。犯罪者は弾く不可侵の領域。大使館職員および異世界ギルド職員、異世界渡航旅券所持者、幻影騎士団以外の通行を禁止する……ロットはダメ」
プッ。
まだ許されないロット。
すると、転移門が消えて、異世界ギルドの事務室に繋がった。
「?????」
突然何が起こったのか理解していないギルド職員が、扉のあった場所を覗き込む。
そこにマチュアがいたので、思わずぺこりと頭を下げてカウンターに向かったらしいが。
「あれぇぇぇ?繋がってます?」
そう叫びながら大使館ロビーに走ってくる。
そしてそーっとロビーに入ってくると、すぐに戻って行った。
そして入れ替わりにツヴァイとフィリップ、デビットの三人がロビーにやってきて一言。
「まあ、ギルドを繋げたからこっちも繋げると思ってましたよ。思ったよりも早かったですね?」
「ふむ。これは便利ですねぇ。誰でも通行可能で?」
「まあね。二つの職員と異世界渡航旅券所持者、幻影騎士団のみ通行可能でロットはダメ」
それには全員が苦笑する。
「そういう事ですので、デビット、本日今から大使館勤務、高畑と吉成の担当を任せるわ。異世界ギルドには近いうちに何人か回すのでよろしく」
そう指示すると、デビットはすぐさま荷物をまとめに向かう。
「成程。ではいつも通りに仕事しましょう。繋がっただけで特に何も変わりませんからね」
よく分かっているフィリップ。
という事で、特に何も変化はない。
尚、就業時間が終わった後、領事部の職員がロビーからカナンに行ける事を理解して、すぐさま皆で飲みに行ったのは言うまでもない。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「…………なんだこれ?」
ある日の早朝。
いつものように朝六時に出勤してきたマチュアが、いつものように大量のファックスを整理していた時。
国連事務局と安全保障理事会からのファックスを見つけたので、朝食を食べながら眺めていたのだが。
「欧州各国の避難希望者をカナンに受け入れて欲しい……無理だわ、何億人受け入れろというのよ……」
すぐさま食べかけのハムサンドを口の中に放り込むと、マチュアはホワイトボードの自分の名前の横に『国連本部まで出張』と書き込む。
ファックスでは埒が明かないと判断した。
「さてと、そんじゃあ行きますか」
――シュンッ
一瞬でニューヨークの国連本部ビルの前に転移すると、白亜のローブを身に纏って入口まで向かう。
「カナン魔導連邦のマチュアです」
魂の護符を提示してビルの中に入ると、そのまま受付へと向かった。
「これはマム・マチュア。ご無沙汰しています」
「こちらこそ。早速で申し訳ないのですが、すぐに国連事務総長と話をしたいのですけど」
回りくどい話はしない。
単刀直入に、それでいて簡潔に。
すると、胸元の名札にマリーと書かれている受付が連絡したらしく。
「それでは12階の会議室へどうぞ」
とエレベーターまで案内する。
そこから高速エレベーターで12階まで向かうと、会議室の入り口に立つ。
そこにも警備員がいたが、既に話は通っているらしい。
「お疲れ様です。ではこちらへ」
――スーッ
静かに扉が開き、 マチュアは室内に入る。
円形に繋がっているテーブルには、大勢の人が座っていた。
その一角にマチュアは案内されると、すぐさま国連事務総長のアンドリュー・グレーティスが立ち上がって、マチュアに頭を下げた。
「まさか朝のファックスで直接いらっしゃるとは思いませんでした。遠路はるばる、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げるアンドリュー。
すると、会議に参加している人々も、マチュアに頭を下げていた。
「ご丁寧にありがとうございます。今日は何の会議ですか?」
その問いかけに、参加者の一人がずっと手を挙げた。
「私たちは統合第三帝国のヨーロッパ進軍について、避難要請を国連に提出した各国の代表です。年老いた方々や女性、子供達、病人などを収容していただく施設を探すために、国連に議事提出しました」
成程なぁ。
そういう事なら話は別なのですが。
「現在、最低限の人数の避難民を収容できる国について協議を行っていました。そこでもし可能であれば、カリス・マレスに避難させていただきたいのですが」
事務総長がマチュアに進言するが。
「それについては今朝方、ファックスで確認しました。残念ですが、カリス・マレスでは皆さんの期待に応える事は出来ません」
――ザワザワッ
あちこちで何かを呟く声がする。
だが、マチュアの目的はこれではない。
「そうですか。最後の砦と、マム・マチュアにお願いしたのですが……」
「そうだと思いました。ですので、私からの提案です」
そう話しながら立ち上がると、マチュアは銀の鍵を魂から取り出す。
それを目の前の空間に差し込むと、銀色の扉を開いた。
――ギィィィィィィッ
そこはカルアドのドーム状都市。
マチュアとゼクスが調べて安全と認識した都市である。
その光景に、あちこちの席で代表者が立ち上がり、扉の向こうの世界を凝視している。
「マム・マチュア、そこは何処ですか?」
「これは私たちのカリス・マレスとも、この地球とも違う新しい異世界カルアド。私は偶然、この異世界の管理を任されました……もし望むなら、このドーム状都市を一つ、皆さんの緊急避難場所として提供しますが」
――オォォォォォッ
ざわめきが喝采に変わる瞬間。
マチュアは扉を超えて都市に踏み入る。
少し前にやってきた時と変わらず、都市は崩壊したまま。
「広範囲・敵性感知……なし。広範囲・生体感知……なし。広範囲・動体感知……なし。以前来た時と同じく、この世界には生き物がいません。もし心配ならば国連軍の部隊を派遣してもいいかと思います」
そう話してから、マチュアは会議室にいる人々を手招きする。
最初に踏み込んだのは国連事務総長。
その大地の感触を確認しながら、改めてカルアド世界を眺めていた。
「これを提供してくれるのですか?」
「ええ。ゲートのサイズを大きくして、車両なども通れるようにします。そして、ゲートは開放したまま固定します。後は修繕などは国連が主体となって行ってください」
――ガシッ
そう説明するマチュアに近寄ると、アンドリュー事務総長はマチュアの手を取った。
「こんなに尽くしてもらって、感謝の言葉しかありません」
「後はゲートを何処に設置するかですが。それは話し合いの上で、決定したら報告してください。その時点でゲートを開放、固定しますので、調査班を送るなり、移民用の準備をするなりご自由にお使いください」
そう説明してから、マチュアは空間収納から箒を取り出して横坐りする。
その光景に、ようやく代表たちも扉を越えてやって来ると、改めて周囲を見渡した。
地球にはない巨大な建造物。
明らかに科学文明のレベルが違う都市構造。
そんなものが廃墟となっているという事実が、彼らにとっては恐怖ではある。
だが、マチュアが踏み入り、そしてアンドリューも付き従った。
それが安全を保障するという意思であると、代表たちも理解したのである。
「マム・マチュア、この都市の大きさはどれぐらいなのですか?」
代表の一人が問いかけると、マチュアはクリアパットを取り出して確認する。
「ここは第三ドームだから、直径が8km、高度750mの円形ドームです。外は荒野で、都市の中央にある噴水施設が地下水脈から水を汲み上げています」
にこやかに説明すると、他の代表も気がついたらしい。
「第三ということは、他にもあるのですか?」
「ええ。第一ドームは日本に売り飛ばします。第二ドームはアメリゴに売り飛ばします。第四ドームまでは安全が確認されていますが、それ以外はまだ不明です」
その説明に再びざわめく一行。
「では、急ぎゲートを設置する場所の選定を行います。その上でマム・マチュアには報告しますので、その時にはゲートの設置をお願いします」
それで問題はない。
ならばとマチュアもダメ押しで。
「このドーム状都市は国連管理のもと、一切の国家間のわだかまりのないようにお願いします。地球に住む人々全てに等しく権利のあるドームとして有効に使ってください」
そのマチュアの言葉に力強く頷くアンドリュー。
その後は、時間の許す限りのんびりと都市の散策を行う一行。
マチュアもそれに同行しながら、被害の少ない区画の説明などを行なっていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
日本は正午。
国連から戻ってきたマチュアを待っていたのは、アメリゴ大統領からの連絡であった。
「おかえりなさい。先程アメリゴ大統領からの親書が届きまして、先日の異世界カルアドの件、一度視察をしたいとのことです。それでマチュアさんの都合の良い時間にと」
厨房からカレーライスとアプルティを持って出てきたマチュアに、赤城が手紙を手渡す。
それを口に咥えて卓袱台に座ると、ピッと指先で封書を開く。
「どれどれ……ふむ、まあ、いつでもいいや、日本との交渉にも使えるから、先に行ってきますか」
にこやかに告げてからカレーライスを食べ始める。
その光景を見て、ふと三笠がマチュアに問いかけた。
「戦争よりも、こういう日常の方がマチュアさんには似合ってますねぇ。カリス・マレスはやはり戦争には加担しない方向で良いのですね?」
「今回のような避難民受け入れの手配は構わないと思うわよ。後、冒険者ギルドの依頼は別ね。私や幻影騎士団は加担しない、当然カナン魔導連邦もね」
「そのスタンスで良いのでは。ここでブレないところを見せつけて、世界にしっかりと貸しを作るのは有りですから」
モグモグ。
そのまま食事を続ける一同。
「さてと、ホワイトハウスに行きたいけれど、夜じゃないと駄目だよなぁ」
「ええ、時差がありますので、深夜0時に出れば、ニューヨークは午前10時。ちょうど良いかと思いますよ」
デビットがそう説明すると、赤城もコクコクと頷いている。
「じゃあそれぐらいの時間に行ってきますか。あれ?高嶋君は?」
「午後イチでMINACO本社でデュエルレストのレンタルに関する話ですよ。来月がキンデュエの全日本大会ですから」
自分の仕事はしっかりとこなしている高嶋。
この辺りは評価が高い。
「そっか、しっかりと頑張っていますなぁ。デビットも雑務から何か仕事回すようにするね。今しばらくは離席者の仕事の代行をお願いしますね」
「了解です。今しばらくは皆さんのサポートも行いますね」
「それで良い。しかし、統合第三帝国は動かないなぁ」
「いえ、動いてますよ?今日あたりからまた、結界から機動部隊と武装親衛隊が進軍を開始してます。それに合わせて冒険者は後方に下がり、周辺都市部のアンデット退治に切り替わってますね」
何と。
既にヒトラーも新たに侵攻を開始している模様。
「へぇ。だから避難民収容施設の話をしていたのか。そりゃあ急ぐ筈だわ」
そう納得するマチュア。
その後はのんびりと時間一杯身体を休めると、午後の執務を開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ニューヨーク、午前10時
ワシントンD.C.。
マチュアは深夜0時に異世界大使館からアイゼンホーク行政府ビルのある西門の外に転移してやってきた。
敷地外なので文句を言われる事もないと思うと、西門の警備員に魂の護符を見せる。
「異世界大使館のマチュアです。大統領に会いに来ました」
「どこのチャーミングなお嬢さんかと思ったらミスエルフではないですか。少々お待ちください」
すぐに警備員が連絡を取ると、西門はすぐに開かれた。
「では案内しますので、こちらへどうぞ」
「はい」
警備員についてのんびりと敷地を進む。
やがてホワイトハウス正面に到着すると、入口から大統領が姿を現した。
「久し振りですね、マム・マチュア。まずはこちらへどうぞ」
「わざわざ大統領自ら出迎えていただけるとは。感無量ですね」
「はっはっ。相変わらず元気ですね。ゲルマニアの件は報告を受けてますよ。あの結界制御球ですか、あれは実に良いですね」
「レンタル料高いですよ?」
「まあ、国防総省にでも相談しますよ……どうぞ」
いつもマチュアとロナルドが談話しているグリーンルーム。
そこに案内されると、早速マチュアはいつものようにティーセットを用意する。
――カチャカチャッ
「本日はアプルティとティラミスです、どうぞ」
「ほう、これはまた芳醇な香りですね……うん、いい味です。それにこのティラミス、私好みの味ですよ」
「アプルティはラグナ・マリア帝国のファナ・スタシア産です。ティラミスは大統領の国、ウォルトコの商品ですわ」
――プッ
思わず笑うロナルド。
その場の雰囲気が和らいだので、早速本題に入ることにしたらしい。
「では、マム・マチュア、報告にあった異世界カルアド。その土地を譲ってもらえるという件について、どんな見返りが欲しいのかな」
ならば。
「私たちカリス・マレスの人が移民できる土地を下さい。領有権込みで、出来れば島を」
ドヤ顔でそう話すマチュア。
流石のロナルドもその話には眉をひそめる。
「大統領権限で自由にできる島がいくらあると思うかね?」
「ですが、大統領には喉から手が出る程欲しいものかと。少し庭に出ませんか?良いものをプレゼントしますよ?」
そう話して立ち上がると、マチュアが先導する形でホワイトハウスの中庭へと出る。
柵の向こうはサウスレーン、大勢の人々が歩いている。
その手前の庭園にたどり着くと、マチュアは空間収納からフロートバイクを取り出して跨る。
「これは、ギャラクシーウォーズのライドフロッサーではないか?このようなハリボテを貰っても……お?」
――フィィィィィィィィン
エンジンを掛けると甲高い金属音が鳴り響く。
やがてそれがおさまると、マチュアはゆっくりとスロットを開く。
――フゥゥゥン
トロトロと空中に浮きながら走り出すライドフロッサー。
それには大統領も目を丸くする。
そして中庭を一周すると、マチュアはロナルドの前に降り立つ。
「生きているうちに、本物が見る事が出来たとは。これは私の夢見ていたいくつかのものの一つだよ」
「ではこれとこれも差し上げますよ。三点セットでね」
――スッ
さらに空間収納から魔法の箒と空飛ぶ絨毯を取り出す。
「ロナルドの大統領、魂の護符をお貸しいただけますか?私の作るマジックアイテムは、オーナー権限を書き換えないといけないので」
「うむ」
シュンッと差し出した指の間に魂の護符を生み出すと、それをマチュアに手渡す。
それをクリアパッドに差し込んで、オーナー権限を書き換えると、ライドフロッサー、魔法の箒、空飛ぶ絨毯の三点を差し出した。
「プレゼント・フォウ・ユーです」
「夢が次々と叶うね。私はこれに応えると、何か賄賂を貰ったようで罪悪感しかないのだが」
苦笑するロナルドに、マチュアは一言。
「私がロナルド大統領に譲渡したい異世界のドーム都市とその周辺の土地ですが。その世界には、これが当たり前にあります」
パンパンとライドフロッサーのシートを叩く。
「それにドーム都市の大きさは直径約6km、天井までの高さは800m。都市は廃墟ですが、さまざまな文明遺産もあります。領有権をくれるのなら土地でも良いですよ?」
この言葉に乗らない大統領はいないだろう。
腕を組んで渋い顔をしているロナルドだが、このスタイルは非常に興味があるがゆえに、顔に出さないようにしているのをマチュアは知っている。
「取り敢えず一旦戻りましょう。それから話をしたい」
「そうですね。ですが、大統領としてもすぐには決断できないでしょうから、後日改めて伺いますわ」
丁寧に頭を下げるマチュア。
「では、本日はこれにて失礼します。折角のプレゼント、存分にお楽しみください。尚、ライドフロッサーをばらして解析するのはご自由ですが、私でもそれは修復出来ませんので……」
「そんな勿体ない事はしませんよ。技術が欲しいなら、そのドーム都市を手に入れますので」
そこで会談はお終い。
マチュアはスッと大使館に転移した。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






