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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第9部 三つの世界の物語
243/701

変革の章・その16・それでも戦争は終わらない

 11月中旬。


 国連では異世界ギルドに対して、第三帝国との戦争の為の戦力としての傭兵派遣を要請した。

 だが、異世界大使館での依頼チェックで傭兵派遣は不許可となり、以前のようにアンデット討伐任務としての依頼書が掲示板に貼られ始める。

 それに伴い、ゲルマニアの他の都市からもアンデット討伐任務が依頼として成立し、異世界ギルド札幌支店の掲示板には常時20以上の依頼が貼り付けられている。

 そして、その依頼書を見るために大勢の地球産冒険者も集まり、札幌冒険者特区は大勢の人でにぎわい始めている。


「……ぬぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 卓袱台で国連からの要請書を眺めながら、いつものようにマチュアが絶叫する。

 常任理事国からの、統合第三帝国との戦争における参加要請。

 手を替え品を替え、連日のようにファックスが届く。

「もう国連関係の書類や申請は却下して‼︎」

「そうも行きませんよ。中には正当な理由もあるのですよ。こちらは医療班の派遣依頼です」

 三笠が笑いながら書類を回す。

 それを受け取ってじっと眺める。

「冒険者ギルドに治療師を派遣して欲しいと。ふむ、ゲルマニアの避難民キャンプか。承認、ギルドに回して」

「人道的なものは受けるのですよね。そうでなくては」

 十六夜が嬉しそうに話していると、高嶋もウンウンと頷いている。

「それにしても、随分と減ったなぁ……」


 政治部の席はあちこちが空席状態。

 というのも、国連からの依頼でゲルマニアに冒険者を派遣する際、責任者として大使館職員が一人随行している。

 現在は三つの依頼で吉成と高畑、古屋の三人がゲルマニア入りしているので、残っているのは十六夜と高嶋、三笠、池田の四名のみ。

 ツヴァイはカナンの異世界ギルドに戻り、代わりにドライが札幌入りしている。

 そのドライは豊園通り商店街の中にある『冒険者相談所』に出向、池田と二人で相談員を務めている。


「あ、あの、マチュアさん、ミアさんはもう来ないのですか?」

 高嶋がマチュアに問いかけるが、マチュアは目を細くして高嶋を見る。

「何で?もう仕事終わったから帰ったわよ?ポイポイさんもね……」

「い、いやぁ……ミアさんは恋人いないのかなぁって。別に下心なんてないですよ」

 下心しか見えない。

「ミアは幻影騎士団。ポイポイも任務。全く……そんなにミアに会いたいのなら、仕事で送り込むよ?」

「カリス・マレスで仕事ですか‼︎」

「サムソンとベルナーにも異世界ギルドの支店を作るかどうか話しているところ。もし行くのなら三年は行ったままだよ?」

 おおう。

 流石に三年間はきついでしょう。

「そ、それは考えさせてもらっていいですか?」

「冗談だよ。まだサムソンとベルナーにはギルドを作るのは早いわ。なので今しばらくは高嶋くんは国内イベント関係で」

「了解っす。はあ……ミアさん……」

 あかん。

 恋の病再びというところであろう。

「またこの阿保が……」

「まあ、恋する気持ちは分かりますよ。いつでも男性というのはそうでしょうからね」

 和やかに書類作成をしている十六夜がそう話すと、三笠もウンウンと笑っている。

「まあ、そういうものかぁ」

「そうですよ。マチュアさんはそういう経験はないのですか?」

 突然話を振る高嶋。

 すると、マチュアも腕を組んで考える。

「ん〜、ないなぁ。ハイエルフだからそういうのは興味ないしなぁ。男はいらん女が良い」

 きっぱりとカミングアウトするマチュア。

 それには三笠以外が驚いている。

 というか、どこまで冷静なの三笠さん。

「そ、そんな……マチュアさん、私でよければ」

 頬を染めながら冗談を呟く十六夜。

 そうかそうかと、マチュアも調子に乗って十六夜の近くに向かうと、彼女の顎に手をかけてクイッと上を向かせる。

「そんなこと言ってると食べちゃうよ〜」

「食べないでくださ〜いですわ」

――プッ

 突然笑い始めるマチュアと十六夜。

 その瞬間をドキドキと見ている高嶋。


「さて、そろそろ次の仕事の準備もお願いしますよ。アメリゴから、例の異世界についての調査を行いたいという話が届いています。それに日本国も動きましたから」

 そう話しながら、三笠がマチュアに二通の書簡を手渡す。

 それを受け取って軽く流し読みすると、アメリゴは今回の件については無償での開放はのちのち禍根を残すのではと、こちらからの要求を求めている。

 かたや日本は手放しで喜んでいるのだからどうもならない。

「アメリゴからの話を優先。交渉条件を新たに設定しますか」

「ほう。どのように?」

 そう問いかける三笠に、十六夜や高嶋も興味津々。

 するとマチュアはニイッと笑う。

「異世界カルアドに、一足先にカリス・マレスから移民を開始する。その上で、移民に参加したい国はカリス・マレスに何を差し出すかという問いかけをしてください」

「日本からは何を?」

「そうだなぁ。与える土地と同等のものを頂きますか。北海道を寄越せと」

――プーッ

 その場の全員が吹き出す。

「いやいや、それはあまりにも難しいのでは?」

「冗談よ。でも、日本がどういう風に出るか、ここから見ものよね」

 ニイッと笑うマチュア。


(((また悪い事考えてる……)))


 その場の誰もが思っただろう。

 そしてそれは、思いもよらない方向で的中するのである。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 冒険者ギルド札幌支部。

 そこは、いつものように大勢の日本人で溢れている。

――ガチャッ

 大使館から入る職員用扉を開いてマチュアがやって来ると、ギルド職員が一斉に立ち上がる。

「これはマチュア様、本日は……いかん全員座って‼︎」

――スパァァァァン

 遅い。

 すぐさまギルドマスターの前に縮地で間合いを詰めると、マチュアはツッコミハリセンでギルドマスターの頭をスマッシュ‼︎

「私は異世界ギルドのギルドマスター、そこんところ間違えないように」

 パンパンと手の中でハリセンを叩く。

「教育が行き届いていなくて申し訳ない。それで、本日はどのような要件で?」

 そう問いかけると、マチュアは二階を指差す。

「二階の出入り口とカナンの異世界ギルドを繋げます。

 二階にはカナンの冒険者も出入りしますが、依頼を受けるには階下に来る必要があります」

 淡々と説明する。

「そして依頼を受けないと、一階から外に出ることはできません……という事ですので、不良冒険者の取り締まりを徹底してくださいね」

「はい。了解しました」

 すぐさまギルドマスターのケーニッヒもマチュアの後ろからついていく。


………

……


 二階は階段を上がってすぐにカウンターがある。

 ここで降りる許可を貰わないと、階下に降りることはできない。

 階段手前には、カナンから来た冒険者が勝手に降りられないように結界が施されているのである。

 そしてこの結界前のカウンターは、異世界ギルドの検疫室と同じ役割をするように設定されている。

 広いフロアーの壁には大量の掲示板、そして窓辺とフロアーの中程には、打ち合わせをするための席が点在している。


「さて。それじゃあ開けますか‼︎」

 奥の扉の前に立つ。

 そこはカナンの異世界ギルドのフロアーに繋がり、扉も撤去されて自由に出入りできるようになる。

――ブゥゥゥン

 扉に手を当てて魔力を解放する。

 マチュアの足元には今まで誰も見た事のない魔法陣が広がり、ゆっくりと回転を始める。

「……セット……浄化結界。犯罪者は弾く不可侵の領域。未成年者は保護者の同伴が必要……私の嫌いな奴はいらない、以上‼︎」

 おいおい。

 最後の設定はなんだと一同は頭を捻る。

 すると、扉がスッと消滅して、見慣れたカナンの冒険者ギルドが見えるようになった。

 向こうではツヴァイが待機して、無事に二つの世界が繋がったのを見てホッとしている。


「お疲れですギルドマスター。どうやら無事に繋がったようで」

 頭を下げるツヴァイを見て、マチュアはスタスタとカナンに向かう。

 そしてあっさりとカナンの異世界ギルドにやってこれるのを見ると、周りに集まっている冒険者や職員にサムズアップ。

「接続完了‼︎後は宜しく」

――スタスタ

 そのまま札幌支部に戻ろうとするが、次々と冒険者や野次馬が殺到して帰るに帰れない。

「ありゃりゃ。ここから帰れなくなったわ。仕方ないなぁ」

 ポリポリと頬を掻きながらカナンの依頼掲示板に近寄ると、今、どんな依頼があるのか見て回った。

 簡単な採取依頼から初心者育成、物販探索、はてはダンジョン探索メンバーやらモンスター討伐、知識の探求のための教員募集まである。


「色々とあるけど、いつも通りだなぁ」

「あ、マチュアさん、お久しぶりです。最近は頑張っていますか?」

 そうマチュアに話しかけたのは、いつぞやのドラゴン討伐の際の新人受付嬢。

 相変わらず偉そうであるが、嫌味ではないのでマチュアも、つい笑ってしまう。

「ええ。そこそこには」

「それは結構。冒険者というのは、常に鍛錬です。いいですか、立派な冒険者というのは常に切磋琢磨です。貴方のようにお金が入ったら来なくなり、またお金が足りなくなったら来るようなその日暮らし冒険者ではダメなのですよ」

 おもむろに説教されるマチュア。

 この荒くれギルドで働くのなら、この程度の度量は必要なのだろう。

「ふぁい……すんません……」

「わかれば宜しい。マチュアさんクラスの冒険者がこんな低レベル依頼を見てはいけません、貴方はあっち‼︎」

 一番奥の掲示板を指差されて、マチュアはスゴスゴと奥の掲示板にやって来る。


「おや、誰かと思ったらマチュアか。久し振りに依頼を受けるのか?」

「何だザックスか。いやあ、あの子に怒られた……」

「リリアーナ嬢か。あの子は怖いからなぁ……ほら、カウンターの奥で、ギルドマスターが薬飲んでるわ、また胃がキリキリと痛むんだろうな」

 ふと見ると、胃のあたりを押さえながら薬を飲んでいるギルドマスターの姿が見える。

 こっそりとマチュアに謝っているのも分かったので、マチュアもこっそりと指で輪を作って知らせる事にした。

「それで、マチュアはどれ受けるんだ?」

 ザックスに促されて頭を捻る。

「いや、私ギルドの仕事忙しいから……」

――ゴホン

 そのマチュアの言葉に、少し離れた所にいたリリアーナが咳払い。

「うおあっ‼︎依頼受けないと帰れない」

「そういう事だ。どれにする?」

 もうどれでもいい。

 時間が掛からなくてあっさりと終わって難しくないものを探す。

「……ダンジョン探索かドラゴン退治しかねぇぞ?」

「当たり前だ。ここは最低でもAランク依頼、その辺りしかないだろうが」

「ならドラゴンでいいよ。これでいい」

 適当なドラゴン退治依頼をひっぺがすと、マチュアは受付に持っていく。


「ドラゴン退治してくるわ」

「ま、マチュアさん、うちの新人がすいません……さて、この依頼ですね?ギルドカードの提示をお願いします」

――スッ

 そのまま受付に差し出すと、受付嬢が首を捻る。

「ん?どしたの?」

「マチュアさん、いつのまに転職したのですか?」

「した記憶もないけど……まさか賢者ワイズマン?」

「いえ、なんというか」

 カードを戻して自分でみる。

「はてさて……適合者ワイルドカード?なんじゃこりゃ」

「トリックスターの上位です。いかなるクラスにも適合するもの。先導者ヴァンガードと対となる存在ですが、まあ、納得という事で」

――ポン

 あっさりと依頼受付の手続きを終わらせる受付嬢。

「そんな簡単な……まあいいけどね、さて、とっとと終わらせてくるわ。依頼主はドラゴンの頭を持って来いという事だね?」

「ええ。魔道具の材料となるドラゴンの頭。指定はミドルクラスです……生息地がここの森林一帯、人里がないので思う存分に」

「地図を見ると、カナンの南方森林のさらに南。

 竜骨山脈の麓にある大森林に住み着いているらしい。

「あ、あの洞窟の近くか。なら早いわ、行ってきます」

――シュンッ

 すぐさまそこから転移するマチュア。

 そして、初めてカリス・マレスに来た時に受けた最初の依頼、マギアスの大洞窟にやってきた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「ふぃぃぃぃ。疲れるわぁ」

 森を徘徊するクロウカシスの眷属。

 その中でも、あの戦争後にクロウカシスの元から袂を分けた野良ドラゴン。

 全長30m、スモールとミドルの中間の大きさ。

 白銀の鱗を持つこのドラゴン種は、その希少さゆえシルバードラゴンとも呼ばれている。

 マチュアの目の前には、首から切断されたシルバードラゴンの死体が転がっている。

 全身に傷はなく、首を切断されての一撃。

 今は傷口を魔法で封じて血が流れるのを止めている。


「うん、カリス・マレスでも神威は開放しても一段目までか、二段目は開放しちゃいけない」

 右拳をグーパーと握ったり開いたり。

 拘束術式で身動きを封じたシルバードラゴンに向かって、マチュアは神威魔力を上乗せしたフォトンセイバーて一撃で切断したのである。

「しかし……随分と溜め込んでありますこと」

 シルバードラゴンの巣。

 マギアス大洞窟のさらに上の火山火口部にある巣には、大量の財宝や魔道具が溜め込まれている。

 どうやら元々の巣の主人をシルバードラゴンが殺して奪ったのだろう。

「ここは黒神竜ラグナレクの眷属の巣なんだよなぁ。勝手に持って行ったら怒られる?」

 魔力で周辺を探知する。

 どうやらドラゴンの反応はない。

「よし、なら持ち帰りだ。たまには冒険者の仕事してもいいでしょう」

 ラージザックを空間収納チェストから取り出して、そこに全てを収めていく。

 昼前にやって来たのに既に夕方。

 全てを収めてからシルバードラゴンの死体を空間収納チェストに収めると、マチュアはすぐさま馴染み亭の自室に転移した。


――スッ

「さて、また着替えて風呂入って……」

 あまりのんびりしてはいられない。

 とっとと身支度を整えると、急ぎ店から外に出る。

 すぐさま冒険者ギルドの受付に向かうと、依頼完了の手続きを行う。

「はいまいど。ドラゴン退治して来たよ。これが依頼書、納品はここの納品カウンターで良いの?」

 スッと差し出した依頼書を確認する受付嬢。

 それをみて絶句しているが、まあ、マチュアの事だからと納得したらしい。

「え〜っと。納品カウンターに収まります?」

「裏の倉庫がいいと思うよ。出せるけど、建物からは出せないんじゃないかな」

 成程納得。

 という事で、裏の倉庫に向かうと、倉庫番の担当職員に声をかける。

「こんちわ。これが依頼書で、納品はこっちでするから証明書おくれ」

――ブゥゥゥン

 空間収納チェストからシルバードラゴンの頭を取り出す。

 取り出すというよりも、座標指定で放り出したという方が早い。

 ドサッと置かれたドラゴンの頭部を見て、倉庫の担当職員たちは悲鳴を上げそうになる。

「まままま……マチュアさん、これなんすか?」

「なんすかというか、シルバードラゴン。ミドルよりも小さい」

 それでもやっぱり頭部の長さは4mより少し大きい。

 左右に広がる小角と頭部中央から伸びる一角獣のようなツノ。

 魔力を蓄積するそのツノは、魔道具の核として重宝される。

「……よし、確認完了。これが納品証明ですので、これを持って中のカウンターにどうぞ」

 納品証明の羊皮紙を受け取って、マチュアはもう一度受付カウンターに戻る。

「はい、納品も完了、これで良いでしょ?」

「問題ありませんね。では、報酬の白金貨1200枚です」

 ドサッとおかれた白金貨袋。

 王国の紋章の記されているその袋から一握り分の白金貨を取り出すと、残りはすぐさま空間収納チェストに放り込む。

「こっちは小遣いと。役得役得」

 財布に白金貨をしまい込むと、マチュアはそれを懐に放り込むふりをして空間収納チェストにしまう。

 そして急ぎ札幌支部へと向かうと、急ぎ大使館へと戻って行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 夕方4時。

 すでに仕事は一段落したらしく、政治部はのんびりとしている。

「あら、マチュアさんおかえりなさい。ツヴァイさんから暫く帰って来ないって聞いてましたけど」

「カナンで色々あったのですか?」

 十六夜と高嶋がコーヒーを飲みながら問いかけるので。

 マチュアは一言。

「三笠さん、島松駐屯地に連絡してください。週末にドラゴン解体するので、場所貸して欲しいと」

「はいはい。また捕まえて来たのですか?」

「そ。今度は少し小さい。けれど鱗が希少でね。一枚で白金貨2枚はつくんじゃないかな?」

「ではすぐにでも。それと、ゲルマニアの件ですが、第三帝国が動きましたね。結界が透き通って内部が見えるようになったそうです」

 その三笠の話で、マチュアはロビーのモニター前に向かう。

 そこでチャンネルを次々と切り替えてニュースを探すと、ちょうどゲルマニアからの中継が映し出されていた。


 ベルリンの都市部は綺麗に修復されている。

 そこに機動兵器が配備されており、内部には普通の市民や武装親衛隊ケンプファーの姿も見える。

「ほう。第三帝国市民と武装親衛隊ケンプファー、機動兵器も最新型ねぇ。それで、ヒトラーは何か話しているの?」

 事務室からほうじ茶片手に出て来た三笠に問いかけると。

「再度通告です。まずは欧州各国に対してですね。アメリゴやルシア連邦には宣戦布告しないようです、あくまでも欧州統一を基盤とするようですが……」

 そんな話をしていると、再びヒトラーの演説が映し出された。


………

……


『愚かなる地球の諸君。先日の空爆程度で我が帝国を破壊できると思うとは実に嘆かわしい。この風景を見たまえ、我が帝国に支持した国民が帰ってきた。偉大なるアーリア人よ、我が帝国に帰って来るが良い。我は、この欧州を統一する。そののち、アフリカ、アジア。そしてアメリゴをも、この手中に収めるとしよう』

 巨大な演台で熱弁を振るうヒトラー。


『さて、この放送を見ている諸君に通告する、とくにアジア、ルシア、アメリゴ、オーストラリア、アフリカ……我は貴殿らとはまだ戦わぬ。まずは欧州統一を全力を尽くす。もし欧州以外の国で我が国に手を出すものがあれば、その国には核が落ちるであろう』

 天を見上げながら叫ぶ。

 その姿は正に、第二次世界大戦時のアドルフ・ヒトラーそのものである。


『そして異世界より参った冒険者よ、我は貴公らを正面から迎え撃とう。勝てると思うならばかかって来るが良い、貴公らが軍を率いなければ、我も貴公らには軍を使わぬ。個の兵力で相手をしよう‼︎』

 両手を広げ、正面からカメラを見据える。


『戦う意思なき者は欧州より立ち去れ。我は、戦う意思あるものとの戦争を望む。願わくば、欧州全ての国が、我が帝国の傘下に加わる事を期待する……』

 そこでカメラの映像は消えていく。


………

……


「へえ。という事は、日本は喧嘩仕掛けなければ手出しされないんだ、これは小野寺さんもホッとしていますなぁ」

「そのかわり、国連の安全保障理事会からマチュアさんに出撃要請ですよ。冒険者として参戦して欲しいと」

「うん、断る。散々カナンは参戦しないって話していたよね?それを唱えていた私が参加する訳にはいかないって伝えてください」

 きっぱりとそう三笠に告げると、三笠も手にしていたいくつかの書類から一枚を取り出して、高嶋に手渡す。

「では、こっちを国連事務総長宛にファックス流してください」

「なんだよ、もういくつか回答文用意していたの?」

 呆れた顔で問い返すと。

「全てお断りの文章ですよ。怒りのニュアンスが違うだけです。こっちがブチ切れたバージョンで、こっちが静かに怒っているバージョン。さっきのは事務的鉄仮面モードとでも」

 一枚ずつマチュアに見せながら、三笠が説明してくれる。

 どれもマチュアの話そうな内容である。


「はぁ。このまま三笠さんに影武者して貰おうかな」

「それはお断りですよ。小野寺さんのように胃薬を常駐させたくはありませんので」

 ハハハ……。

 乾いた笑いしか出てこない。

 さて、ヒトラーの対応はもうマチュアの手の中から離れたと判断して、ここから国連や日本がどう出るか見物である。


「アメリゴや日本よりも先に、ヨーロッパにカルアド世界を開放することになりそうだなぁ」

 そんな事を考えながら、マチュアも深淵の書庫アーカイブを起動して次の対策を考え始めた。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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