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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第9部 三つの世界の物語
242/701

変革の章・その15・だから戦わないって

 マチュアの帰還。

 それを目の当たりにした一行。

 事情を知っているミアやポイポイ、生きていると信じていた佐藤と進藤は置いておくとして。

 それを目の当たりにした横川と角川の二人の記者は、ゆっくりと自活車の近く、ガードコーンへと近づいていく。


「マム・マチュア、TVOの角川と申します、生還おめでとうございます。ぜひお話を」

「TTSの横川です。どのようにしてあの中から?詳しく聞かせていただけますか?」

 そう擦り寄ってくる二人。

 事情を知らないマチュアはふむふむと納得して振り向くが。

「マチュアさん、この二人はさっきポイポイさんとミアさんの逆鱗に触れた。話す必要なんかないよ?」

 タバコをふかしながら進藤がマチュアに話しかけると、マチュアはポイポイとミア、そして佐藤の方を向く。

「進藤の話は本当?」

「あの人達なんて知らないっぽい」

「マチュアさんが死んだと。生きている可能性すら否定してました」

 二人の言葉には腕を組んで考える。

「むぅ。あの状態なら死んだと思われても仕方ないよなぁ……」

 その言葉に、気まずそうな顔の角川と横川も息を吹き返したが。

「だが、この二人の言葉を無視して否定したことは許さない。進藤は入って良い、自活車の中でインタビュー聞きましょう」


「「はぁ?そ、そんなぁ」」


 膝から落ちる二人だが、そんなの無視。

「そう言うこと。それじゃあな」

 そう話してから自活車に向かうと、進藤は中に入って行った。

 そしてすぐさまYTVのカメラマンたちも許可を貰って入ると、すぐさま緊急特番でマチュアの帰還が報じられた。


………

……


「……戻られたばかりでお疲れのところを、インタビューありがとうございました」

 ニッコリと微笑む佐藤アナと、椅子に座って笑っているマチュアがテレビに映ると、すぐさま各局も取材のために中継車を走らせる。

「それでは……と、ポイポイさん、何かあるの?」

 カメラに映っているマチュアの前にポイポイが出てくると、ポイポイはテレビカメラに向かって一言。

「それでは、今、この場でYTVの佐藤忍アナウンサーを、カリス・マレスのベルナー王国・幻影騎士団専属記者チームとして任命するっぽい‼︎」

 この言葉にマチュアがミアの方を向くと、ミアも笑いながらコクリと頷いた。


(二人の信頼出来る人ね。ならいいわよ)


 そしてポイポイを見ると、マチュアは笑いながらサムズアップ。

「と言うことですので、特務全権大使・マチュア名で、今ここにいるYTVスタッフに権限を与えます。取材機材の持ち込み制限解除、カナン以外のラグナ・マリア帝国王都への取材許可を与えます」

――ブゥゥゥン

 右手に人数分の異世界渡航旅券パスカードを取り出すと、それをその場のスタッフに手渡す。

「ここで契約を。以降は、赤煉瓦庁舎前転移門ゲートと千歳空港転移門ゲートの使用を許可します」

 それには、横で見ていた進藤も手を叩いている。

「ほら、進藤の分もやるから、とっとと契約しなさい」

 ぽいっと進藤にも手渡されると、受け取った進藤も目をぱちくりする。

「へ?俺も貰えるの?」

「あんたがここでミア達を見ていた事ぐらいわかるわよ。わざわざ札幌から出てきて、何かあった時の為にいたのでしょ?」

 そのマチュアの問いに、進藤もヘラヘラと笑う。

「そりゃあ買いかぶりすぎだけど。まあ、ありがたくいただきます」

 マチュアに一礼してから佐藤アナやスタッフ、進藤がカメラの前で契約を行う。

 これで大使館職員のように自由にカリス・マレスに出入りできるようになった。


「さて、ここではっきりと明言します。今渡したカードは、カリス・マレスを自由に旅行できる権限。誰にでも発行しませんし、申請は全て却下します。私は、私と私の仲間達の信じる者達にのみ、この異世界渡航旅券パスカードを発行しますので」

 この言葉が最後の締めとなり、緊急特番は終了した。


………

……


「ま、まだ震えが止まりません‼︎」

 カメラが収まって少しして、佐藤アナもマチュアたちと一緒に自活車の外でティータイムに参加したいた。

「まあ、気持ちはわかるわ。さてと、ミア、ポイポイ、記憶を頂戴な」

「そうですね。では」

「ぽいっ」

 すぐさま二人とも両手を合わせると、その中に記憶のスフィアを生み出す。

 それをマチュアは受け取ると、頭の中でのんびりと噛みしめる。

「あ、あの、それは何ですか?」

 マチュアは瞑想しているので、佐藤アナはミアに問いかけた。

「さっきのは記憶のスフィアと言いまして。私達はこれで記憶を共有する事が出来るのですよ。例えば、天才数学者がこれを作り出すと、彼の記憶を受け継ぐ事が出来ます。ただし、記憶ですので、理解出来るかどうかは別ですよ?」

 なので、マチュアは瞑想している。

 記憶を体験につなげるために。

「受験勉強に使えるかと思いましたが、難しいのですね?」

「受験が何かわからないですが、記憶の受け継ぎはこう言う事ですよ」

 ミアがフッと手の中に記憶のスフィアを取り出すと、それを佐藤アナに手渡す。

「あの、ミアさん、これカメラ回していいですか?」

「どうぞ」

 すぐさまカメラを回すスタッフ。

「これはミナセ女王のオリジナルマジックですので、彼の方から許可を貰わないと使えない魔法です。私やマチュアさんは使えます。受け取るだけなら、このように」

 スフィアを受け取った佐藤アナが両手でスフィアを包み込む。

「ここからどうすれば?」

「両手の手のひらに魔力を循環させるだけ……」

「こうですか?」

――フッ

 少しだけ佐藤の手が輝くと、スフィアが消えた。

「……わかりますか?」

「今のは4つの魔術の知識ですね」

「ええ。本来は知識のスフィアというもので継承しますが、4つ程度の魔術なら記憶のスフィアで賄えます。秘薬はご自分でお買い求めください、先程の魔術なら、野菜売り場に並んでいるもので代行出来ますよ?」

 そう話すと、横でポイポイも知識のスフィアを作り出す。

「ミアばっかりずる〜い。佐藤さんこれあげるっぽい」

 そう話しながら佐藤に知識のスフィアを手渡すと、佐藤はそれを魔力分解して取り込む。

「ぽ、ポイポイさんこれって‼︎」

「気配感知と殺気感知と気配消しと闘気治癒っぽフベシッ」


――ビシッ

 そう自慢そうに告げるポイポイの頭に、素早くチョップずるマチュア。

「闘気ベースはまた修行が別でしょう?ポイポイは責任持って佐藤さんに闘気修練、三日でよろしく」

「ぽいっ‼︎」

 慌てて敬礼するポイポイ。

 すぐさま佐藤アナの手を引いて、ポイポイは近くの広場で訓練開始。

「あの、マム・マチュア、あれは撮影して良いですか?」

「さっき発行した権限を行使しなさい。幻影騎士団付きの記者って、かなりの権利あるわよ。魂の護符(ソウルプレートを見てごらんなさい」

 恐る恐る魂の護符(ソウルプレートを確認すると、身分の所に『幻影騎士団付き報道官』という表記が追加されている。

 しかも、魂の護符(ソウルプレートの色がクリアからシルバーに変化していた。

 マチュアの言葉が肯定と理解して、すぐにカメラを回す。

 やがて中継車が集まりだした時、マチュアは箒を取り出して頭上の結界球まで近寄った。


「これは一応閉まっておきますか」

 右手を結界にかざすと、結界球を野球ボール大まで圧縮する。

 それを空間収納チェストに収めると、ゆっくりと下に降りて行った。

「さて、これで憂いもない。ヒトラーに悪用される事もないと」

 笑いながら地上に降りていくと、マチュアはガードチェーンの中に降り立つ。

 外では大勢の記者が集まっており、取材したいらしく待機している。

「……さっきの特番見たでしょ?まだ聞きたい事があるの?」

「国連では、ヒトラー率いる第三帝国絶滅にカリス・マレスの協力要請の準備をしているそうでして。それについて一言だけお願いします」

 ははぁ、成程。

 それならばとマチュアはマイクを受け取って一言。

「カナン魔導連邦およびラグナ・マリア帝国は、ヒトラーとの戦闘には一切関与しない‼︎地球の戦争は地球で勝手にやってください」

「もし日本にまた核ミサイルが飛んできたら?」

「日本が迎撃する事で、私は知らないわよ」

「もし札幌の冒険者ギルドに、仕事の依頼として第三帝国との戦争関係が来た場合は?」

「そもそもギルドが受理しないわよ。冒険者ギルドは傭兵の斡旋はしない、冒険者が仕事として依頼を受けたのなら個人的に好きにすればいいわ……って、いつのまに札幌に冒険者ギルドが出来たの?」

「この前ですよ?」

 ふうん。

 なかなか手回しのいいことで。

 そんな話をしていると、小野寺防衛大臣が急ぎ車に乗ってやってきた。


「マム・マチュア、無事でしたか?」

「あの程度の核攻撃で破壊される結界を使った記憶はないわよ。あの結界球の中にもう一つ結界を張って中に避難していたのよ」

 嘘ではない。

 かなり際どかったけれど。

「ちょっとお話というか相談がありまして。ここでは何ですので」

 相変わらず汗をかきながら話しかけてくる。

 すると。

「それには、俺も同席させてもらっていいか?」

 ちょうどニュースを見ていたらしい蒲生もやって来ると、小野寺に向かってそう告げる。

「これは防衛省の問題でして。席を外していただけますか?」

「そんな事言うなや。マム・マチュア、同席よろしいかな?」

 その言葉に何か含むところがあるのを見切った。

 ならば、蒲生も同席してもらおう。

「そうですね。小野寺防衛大臣、蒲生副総理も同席してくれるなら、お話を伺いますが」

「ほらな。そういうことだと諦めろや」

 カツカッカッと笑う蒲生と、がっくりと項垂れる小野寺。

 さしずめ第一ステージは蒲生の勝ちというところだろう。

「では、仕方ないのでこちらへ。車を回しますので」

「それには及びませんよ。失礼」


――スッ

 空間収納チェストから魔法の箒を取り出すと、ふと、マチュアは何かを思い立った。

 箒を持ったまま、中継車で打ち合わせをしている佐藤の元に向かうと。

「佐藤さん、ちょいと魂の護符(プレートを見せてくださいな?」

「は、はい、どうぞ」

 いきなり話しかけられて慌てたのか、すぐさま魂の護符(ソウルプレートを取り出すとマチュアに手渡した。

「どうも……と」

――カチッ

 クリアパッドに佐藤の魂の護符(ソウルプレートを差し込んで登録すると、すぐに魔法の箒の所有権を切り替える。

「アニメイト……オーナー権限の設定。メインを私に、サブを佐藤さんに。魂の護符(ソウルプレートとの同期……と、これでよい」

――カシュッ

 排出された魂の護符(ソウルプレートを手渡すと、マチュアはニイッと笑いながら一言。

「魔法の箒、あげるね。登録はしておいたので、すぐに乗り回してもいいわよ」

 そう話しながら、魔法の箒の取扱説明書と箒を手渡す。

「は、はは、はあ?」

 ようやく何がおきたのか理解した。

 軽く十億を超える魔法の箒をプレゼントされて動揺する佐藤。

「それ、佐藤さんしか使えないからね。道交法は守るように……国土交通省から登録カードが届くまでは空き地ででも練習する事、これが仮免許と」

 特殊飛行許可証の仮登録証を手渡すと、マチュアは笑いながら蒲生の元に向かう。

 その姿を見送りながら、佐藤は何度も頭を下げていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 防衛省会議室

 収容人数50名程の大きな部屋。

 そこのテーブルに座ると、マチュアと蒲生は小野寺とその部下たちの列席する姿に驚いている。

「お茶……自前で出していい?」

「いやいや、まもなく届きますからお待ちください」

 すると女性士官がティーセットの乗せられたワゴンを押してくる。

 そしてマチュアと蒲生の前にケーキセットを差し出すと、一礼して部屋から出て行く。

「物腰のしっかりした士官ですね。小野寺さんの好み?」

「何をバカな事を。さて、まずはこれを見ていただきたいのですが」

 そう切り出して、いくつもの書類を取り出し、マチュアに手渡す。

 それを受け取って一通り目を通すと、マチュアは頭が痛くなってくる。


「呆れたわ。ヒトラーって、ホムンクルスまで作り出したのかぁ。道理で統制のとれた軍隊を作り出した訳だ」

「そうですか、マチュアさんなら理解できますか。それで、ホムンクルスの対処方法を教えて欲しいのです」

 はあ、成程。

 戦術アドバイスということか。

 ならばとマチュアも軽く笑う。

「もし統合第三帝国との戦闘に必要な事ならば、アドバイス料を頂きますが」

「事は急を要する。いくらほど必要かな?」

 その言葉にマチュアは人差し指を立てて一言。

「百億。私はカリス・マレスの代表として宣言しましたよね?この地球での戦争には加担しないって。その言葉を捻じ曲げろというのでしたら、それ相応の代価を払ってもらいます」

 これには数名の幹部も立ち上がった。

「ふ、ふざけるな、百億だと?」

「防衛大臣が下手に出ていれば……。その金額を払えば、貴様はホムンクルスを排除できる方法を教えてくれるというのか?」

 怒声を浴びせる士官だが、小野寺はそれを手で制する。

「流石にその金額は無理だ。代替案はないのか?」

「そうですねぇ。代替案はありますよ」

――ゴクッ

 息を飲む小野寺。

 そしでマチュアの放った言葉に呆然とする。

「無人島を一つ。カリス・マレスに開放してください……というか下さい。当然カナン魔導連邦の領地として」

――プッ

 そのマチュアの言葉に、隣で話を聞いていた蒲生が吹き出す。


「お嬢ちゃん、そりゃあ俺に対する当てつけか?」

「蒲生さんに話をしてもくれないからですよ。という事です。できれば渡島大島下さい」

 その言葉には頭を抱えるしかない。

 まさか島をよこせと言ってくるとは思っていなかったのだろう。

「事は政治的な部分が多く含まれている。すぐに回答する事はできない」

「結構です。では次の議題をどうぞ?」

「ゲルマニアのアンデット騒動なのですが。現在カナンから来た冒険者の一隊がゲルマニアのハノーファーに展開しています。戦績は一方的で、冒険者の被害は0、かなりの数のアンデットが駆逐されています」

 へぇ。

 それは大したものだ。

 腕を組んで踏ん反り返りたいマチュアだが。

「契約期間が終われば国に帰る手筈になっています。再び依頼を出して来て貰えばいいのですが、国連軍では余所者を歓迎できないという風潮がありまして。ぶっちゃけると、冒険者のおかげで軍の士気が下がっています」

「知りません‼︎そんなの司令官の仕事。冒険者が活躍して自分達の仕事が奪われているんなら、別の仕事をやりなさいな」

 それには他の士官たちも俯いてしまう。

 さっきの勢いはどこに消えたのだろう。

「それで、国連軍が魔法の指導教官を派遣して欲しいという事ですが」

「その依頼をギルドに出しなさいよ。私はごめんだわ、ギルドはどんな依頼を出してもいいのよ、それこそ迷子の猫探しから暗殺まで……と、暗殺はダメだ、あれはアサシンギルドだ」

 その返答は想像していなかったらしい。

 キョトンとした表情の小野寺に、蒲生も一言。

「異世界の冒険者ギルドってのは、何でも屋の斡旋所みたいな所だよ。依頼内容と報酬、それが見合ったら冒険者が依頼を受ける。ただ、だからといって何でも出すなよ?地球での審査はまず異世界大使館が行うんだからな?」

 へえ。

 そんなシステムがあるのかと、マチュアは感心する。


「いつのまにそんなシステムが?」

「お嬢ちゃんがあの結界の中で眠っている間かな?国会で冒険者等関連法が成立して、大使館敷地内に冒険者ギルドが、その外の商店街を含む一角が冒険者特区として法的に認められたんだよ」

「ふぁ?」

 あまりの展開にマチュアの頭がついていかない。

「ミアとポイポイの記憶では……あの二人に国会がどうこうはわからないのかぁ」

 ならば話は早い。

「小野寺さん、ここに書かれているものですが、大半は冒険者ギルドに依頼すれば話はつきます。当然予算はしっかりとね。ですがホムンクルスの件については、カリス・マレスでは私以外には無理です」

 きっぱりと言い切る。

 それには蒲生もほう、と驚いている。

「魔法使いでホムンクルスを理解出来る者は?」

「賢者でも難しいかと。ですので私も報酬を請求します。ホムンクルス対策のアドバイスで無人島一つを租借させてください。その島自体を大使館同様のカナン領として、島から10海里の経済的権利…漁業権も、寄越してくれたら考えます」

 淡々と告げるマチュア。

 その隣では、蒲生が必死にメモをとっている。

「無人島の租借……他の国の連中に取られるぐらいならいいんじゃね?」

「蒲生さん、そんな無責任な事は言わないでください。事は重要なのですよ?」

「お前さんが話を始めないのなら、俺が勝手に話するぞ。以前からマム・マチュアからは異世界の人々を受け入れるための特区を作って欲しいと言われていたからな」

 真剣な目で小野寺を見る蒲生。

 これには小野寺も少し引いてしまった。


「管轄は北海道管理でしたよね。無償貸与なら可能でしょう。それに伴って島を開発するのですか?」

「そりゃあね。町ぐらいは作るさ、転移門ゲートも繋げて色々と持って来る予定ですよ」

「それはまあ良いですよ。領有権と漁業権は厳しいですよ?」

「島で生活するのですから統治権と漁業権は譲れませんよ。別に日本人は島の近くで魚獲ったらダメっていうのではないの。一緒に獲らせてくれたら良いんだから」

 今回はマチュアも引く気はない。

 それで小野寺も理解した。

「平行線ではないですが、時間は掛かりますね。参考までにですが、マム・マチュアならホムンクルスを作り出す事は可能ですか?」

 その問いかけには、マチュアは首を左右に振る。

「作れるが作らない。そんなものを作るぐらいなら、人型のゴーレム兵を作った方が安いからね。石切り場があればなんぼでも作れるよ?ゴーレムの兵団を……」

「そ、そんなものを?」

「ええ。それこそ魔法鎧メイガスアーマーに自立魔術を施すだけで。地球の技術では対処出来ない魔法兵団なんて簡単ですよ?ヒトラーだって簡単に潰すことができます」

「ならばどうして……」

「再三の説明。カリス・マレスは加担しません。変に加担するとこっちに被害が来るので。以上です、何かありますか?」

 そう問い返すが、小野寺は頭を左右に振る。

「正直、マム・マチュアはもっと日本に対して理解してくれていると思いましたよ」

「立場が逆なら、日本国は私たちカリス・マレスに助力してくれますか?カナン魔導連邦が窮地に陥った時、自衛隊を派遣してくれますか?」

「それは出来ない。カナン魔導連邦とは安保条約も締結していない。それに戦争に関与するなど自衛隊の仕事ではない」

「そういう事です。私は大使館職員でギルドマスター、軍人ではありません」

――ガタッ

 ゆっくりと立ち上がると、マチュアは頭を下げた。

「ホムンクルスの件以外なら冒険者ギルドへ。ホムンクルス関係でしたら、先程の条件です」

 そう話すと、マチュアは部屋から出て行く。

「さてと、俺も帰るか……小野寺さんや、あんたはまだマム・マチュアの扱い方を理解していないんだなぁ……」

 蒲生もまたマチュアの後ろについて部屋から出て行く。

 そして小野寺も、資料を纏めると、士官と共に退室した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ゲルマニア・ハノーファー。

 現在の国連軍の防衛ラインの一つ。

 そこに簡易宿舎が設置されており、カナンからやって来た冒険者もそこに寝泊まりしている。

「さて、明日も忙しくなるなぁ。確か地図ではこのあたりまで制圧したよな?」

 重装騎士が広げられた地図の一箇所を指先でトントンと叩く。

 それに呼応するように魔術師や司祭、戦士、レンジャーと言ったパーティーメンバーも頷いている。

「和泉くん、君のチームは明日はどこまで向かうんだい?」

 となりのテーブルでのんびりとカードゲームをしている和泉たちに問いかけると、和泉は一言。

「地図のDー6エリアですね。うちの担当はDエリアですから。ボイジャーさんところはBエリアでしたよね?Aがマリアさんのチーム、Cがハンソンさんの傭兵団と」

 担当地区の確認をする和泉。

 それに対しては、離れているテーブルの司祭・マリアンも手を振る。

「うちはAー5エリアですよ。レイスが多いので少し手間取りますが、何とかなるでしょう」

「俺のところはまだCー4だ。予想外に数が多い」

 獣人だけの混成チームであるハンソン傭兵団。

 今回の募集で最もランクの高いチームである。

「しかし、まさかハンソン傭兵団が参加するとは思いませんでしたよ。確か南方の戦争に向かった筈では?」

 そう問いかける魔術師のボイジャーに、獅子獣人のハンソンが一言。

「あっちは参加したんだがなぁ。きな臭くなったんで撤退してきたんだ。西方大陸側に魔族が付いていて、かなり不利になりそうなのでな。それでも幾らかは儲かったぞ」

 笑いながら瓶ビールを開けてラッパ飲みしているハンソンたち。

 それには他のチームも笑っている。

「そりゃあ仕方ないか。ハンソンが危ないと感じたのなら、かなり危険なんだろうなぁ」

「そりゃあそうさ。まあ、この依頼も次に来たら考えるがな」

 そう呟くハンソンに、他のチームが驚いている。

「そうなのか?」

「そりゃあまたどうしてだ?」

 すぐ不安そうな問いかけもあるが、ハンソンは一言。

「C地区にアンデット以外の戦士がいてな。何かマシンガンとやらを撃ってきたんで殺したんだが、あの辺りはそいつらが多くて面倒臭い。放置したら軍の奴らが文句を言って来るし」

 そう文句を言いながらさらにビールを煽る。

「んぐっ……ぷはー。この瓶ビールとかいうのは美味いから、こいつを報酬に追加してくれたら仕事はするさ。ただ、あの戦士を倒すのなら追加報酬をもらわないとなぁ」

「そりゃあそうだ。仕事以外の敵を倒せだなんて無茶言わせるなよ」

「俺達が来なかったらレイスなんて雑魚すら倒せない奴らだからなぁ。稼げるといえば稼げるから、いい仕事場だと思うぜ」

 各々がそう話しながら酒盛りを始める。

 そして夜も更けて来ると、また明日のために英気を養う。

 それが冒険者の生き方である。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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