変革の章・その14・世界の危機より目の前の金
11月。
ゲルマニア内戦に国連軍が介入してから一月半。
ゲルマニアでは、未だ大量のアンデットがベルリン近郊を徘徊し、周辺衛星都市までその被害は広がっている。
これによりベルリンを中心に、アンデットが徘徊する魔都が完成しつつあった。
それと同時期、ベルリン全体が巨大な円形結界に包まれた。
虹色に輝くその結界は外から内部を見ることができず、結界内で何が起こっているのか確認する事が出来ない。
国連安全保障理事会では、日本国にいるカリス・マレスから来た人々の意見を参考に、内部に統合第三帝国が復活したと考え、急遽周辺都市に国連軍を派遣、結界の監視を始めた。
相変わらずアンデットによる被害はあちこちで発生し、犠牲となった者が更なるアンデットとなり、被害地域は少しずつ広がりを見せている。
国連軍としては、一刻も早く日本国からの冒険者支援要請が到着するのを待っていた。
そして11月5日。
異世界大使館敷地内に冒険者ギルドが完成した。
除幕式などの面倒な事は一切なく、朝方六時に普通に業務を開始した。
入り口は柵の外から入れるように作られている為、大使館敷地内ではあるが、誰でも自由に出入り出来るようになっている。
だが、冒険者ギルドから直接大使館に向うことが出来るのは職員のみで、ギルド内にある職員用通用口から直接大使館に入ることができる。
「さて、当面は暇ですけれど、あまり気を抜きすぎないように頑張りましょう」
札幌冒険者ギルドのギルドマスターにはカナンの冒険者ギルドのサブマスターが就任。
そしてサブマスターには、サムソンのサブマスターがそのまま就任することになった。
各ギルドからも3名ずつ、合計6人のギルド職員も配属され、合計8名のメンバーでギルドは構成された。
「それでは、早速冒険者ギルド最初の仕事と参りますか」
三笠が承認した国連からの依頼書。
それをギルドマスターのケーニッヒ・ティーガルが受け取ると、すぐさま掲示板に貼り付けた。
‥‥急募‥‥
都市部および郊外を徘徊するアンデットの討伐。
日当金貨二枚、契約期間は10日間。
募集人員20名、個人及びパーティーでの参加可能。
契約期間満了時に追加報酬として金貨二十枚。
「しかし国連も良くもまあ、ここまで踏み込んで来ましたねぇ」
「全くですよ。さて、もう一枚はカナンに貼り付けて来ますか」
そう話しながら職員に依頼書を手渡す。
すると受け取ってすぐに職員はカナンへと向かっていった。
「さて、ツヴァイさんは依頼受けませんか?」
掲示板の前で依頼書を眺めていたツヴァイに、ケーニッヒが笑いながら問いかけるが。
「あいにくと仕事がありますので。それよりも、そちらの方々が受けそうですよ?」
ふと入り口を見ると、建物内をキョロキョロと見渡しながら、和泉のパーティーが入ってきた。
すでに冒険者ギルドが機能することを異世界政策局で聞いてきたのだろう。
実に嬉しそうである。
「この依頼、うちのパーティーでも受けられますか?」
コンコンと壁の依頼書を叩く山田。
ならばとケーニッヒも一言。
「受けられますか? じゃねえだろ。受けるか受けないか。どっちだ?」
その言葉にやれやれと笑う和泉。
すぐさま山本が依頼書を剥がすと、それを受付に持っていく。
「こちらの依頼を受けます。リーダーは和泉、チーム名は大和国で登録されています」
冒険者カードを取り出して提出すると、すぐさま依頼は受諾された。
「はい、これで完了ですわ。メンバーが揃ったら出発ですので、それまでは宿で休んでくださいね」
「へ?宿?」
「ギルドは知っているけど、宿屋なんてあるの?」
「それは初耳ですよ。いつの間にそんな施設まで?」
頭を捻る和泉たち。
すると、受付嬢は入り口近くの掲示板を指差した。
そこには大量の張り紙が貼り付けてある。
・冒険者専用の宿、紫陽花亭へどうぞ
・日用雑貨は是非とも越屋雑貨店へ
・疲れた時は甘いもので、小熊ベーカリー
・ケーキハウス・イタリアントマト
などなど、すぐ外の商店街のポスターが貼り付けてあった。
「ツヴァイさん、これなんですか?」
「大使館前の商店街ですよ。一部シャッター商店街になっていましたから、空き店舗だったり営業しているところに協力を求めまして。異世界大使館と冒険者ギルドとも契約して、異世界大使館前の豊園通り商店街を冒険者特区として使えるようにしました」
「後日、ガストガル商会とアルバート商会も出店する予定だそうです」
ほほう。
意外と手回しのいい商会ですこと。
ならばと、和泉たちはすぐに商店街へと向かった。
「これでうまく機能するといいのですがねぇ」
「それはまだわかりませんよ。けれど、うまくいくんじゃないですか?」
ツヴァイの問いに、笑いながら三笠が返答する。
少しずつだが、マチュアの求めていたものが完成しつつあった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「へぇ。随分と溜め込んだねぇ‥‥」
のんびりと結界の中で羊皮紙を眺めるマチュア。
いつでも出る準備は出来ているのだが、どのタイミングで出るか困っている。
そんな矢先に、空間収納の中に大量の書簡や羊皮紙が放り込まれているので、一体何があったのかと見てみると。
カナン魔導王国関連の申請や許可、親書などが大量に放り込まれている。
そして全ての羊皮紙の上の一枚のメッセージ。
『マチュア様、お願いです手伝ってください』
というクイーンからのヘルプコール。
これは頑張らねばと、一枚一枚を吟味している。
「日曜学校が子供以外にも集まりすぎて場所が足りないと‥‥イーストカナンに学校を作るかぁ。馬車の定期便で子供を迎えに行くのもありだなぁ。スクール馬車ってか」
サラサラッと指示を書き込んで次を眺める。
そんな事を次々とやっていると、ある報告書に目が止まる。
「南方戦線についての報告か。西方大陸からの進軍を止める予定であったが、海上戦では迎撃しきれずに上陸作戦に移行されたと。その際に人身売買組織が裏で戦争に加担している事が‥‥幻影騎士団によって判明‥‥はぁ?」
パチンと頭に手を当てる。
ストームは潜入調査と話していたのに、何故行動がバレているのか。
「続きがあるか‥‥人身売買組織を壊滅するべく、ロットが敵船に侵入して単騎で‥‥西方大陸に向かったと‥‥ストームは現在ロットを追って西方大陸にて行動‥‥尚、ロットは現在は西方大陸側に加担し? はあ?」
報告書ではラチがあかない。
しかしここでは念話も届かない。
「またあの阿呆は何をやらかしたんだ?」
新しい羊皮紙を取り出して、すぐさま追加情報を集めるように指示。
ゼクスはストームと念話でコンタクトを取って詳細を確認するように、と書き込んで空間収納に放り込む。
そして次の書簡を手に取った時。
――ブゥゥゥン
マチュアの目の前、プラズマ煮えたぎる中にエイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンドの姿が現れた。
「やはり生きていたか。流石の貴公でも、この中から出るのは不可能とは‥‥」
皮肉を口から零しつつ、ヒトラーはマチュアを睨み付ける。
だが、マチュアも黙っている筈がない。
「へえ。この中に入ってくるとは大したものだなぁ。もうアンタも人間辞めたのか?」
「それは異な事を。その言い分だと、貴公は人間ではないと?」
「まあね、相手の力量を考えて喧嘩するんだねぇ。私が本気でやったら、アンタなんて瞬殺だよ?」
――クックックッ
少しだけ笑みを浮かべて苦笑するヒトラー。
だが、視線はじっとマチュアを睨み続けている。
「本気でないというのなら、何故、私が攻撃した時に反撃に出なかった? そこまで自信があったのなら、あの時に我を滅する事が出来たのでは?」
はぁ、と溜息を一つ。
「あのねぇ。どうせ赤城さんをスキャンして私とかカリス・マレスの事とか調べたのでしょ? ならわからないの? 私たちカリス・マレスの人間は、この戦争には加担したくないのよ」
「それは何故? 貴公らの知識と魔力あれば、我が第三帝国は滅びの道を歩むであろうが。理解出来ぬな」
苦笑いするヒトラーに、マチュアもニイッと笑い返した。
「あんたの身体の魔力回路は細いからねぇ。それを補うためのカリス・マレスの魔術知識、だけど秘薬がないので発動できない。魔法鎧だって、詳細な図面を作る事が出来てもミスリルやクルーラーがないので作る事が出来ない」
そう解説するマチュアに、ヒトラーは苛立ち始めている。
頬がやや釣り上がり、目力が強くなる。
だが、マチュアはその程度では引く事はない。
「せっかく赤城さんの知識を得られても、全てが無駄。まあ、エーテル体で体を作ってここまで来れたのは賞賛するわ。私には出来ない芸当だからねぇ」
「それ以上愚弄するなら、日本の各地に核を落としてやろうか? そうなった時の貴公の顔が見て見たいわ‥‥如何かな?」
お互いに一歩も引かない。
両者ともに落としどころを探しているらしい。
「あんたが外国でドンパチやっても私は知らないわよ。けど、この日本に手を出すのなら、本気で潰すわよ。これは脅しではなく警告。わかった?」
「ふん。そもそも核などとっくに使い尽くしたわ。我はこれよりゲルマニアにて世界を統合するための準備に入る。先程の警告は素直に受け止める、なので我の計画には手を出すなよ。それを誓うなら我は日本には暫しの間、手を出すのは控えよう」
「私はやらない。ただ‥‥異世界からあんたたちにケンカを売る奴がいるなら、個々に対処すればいい。わかった? 私は『あんたの居所』まで、この結界球を放り込む事ぐらい造作もないのだからね?」
瞳を細くしてヒトラーを睨みつけるマチュア。
だが、ヒトラーもニイッと笑みを返すだけ。
「お互いに留意しておこう。馴れ合いはしない、だが、国の代表として約束しよう」
――スッ
そのままヒトラーは姿を消した。
「しっかしまあ。これで日本は平和だけど、内緒にしておこう。ヒトラーと密約を交わしたなんて、噂でも敵対行動と取られかねないからなあ」
そりゃあそうだ。
世界を売って日本を守ったと思われても仕方のない会話である。
「まあ、あのヒトラーの魔力係数なら、そこそこの冒険者でもなんとかなる。問題は、あの無限に湧き出る兵士だよなぁ」
そこはどうにかしてやりたいが、手を出さないといった以上はマチュアは何もしない。
そして再び空間収納から書簡を取り出すと、一つ一つチェックを始めた、
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
東京・任天堂病院地下
病理解剖を終えた武装親衛隊の死体が並ぶ部屋。
目の前の検体とデータを見て、病理医は頭を抱えるしかなかった。
細胞、血液、骨格etc‥‥
全てのデータをもとにはじき出された結論は一つ。
「武装親衛隊は人間ではありませんね。人造的に作られた人間とでも申しますか。頭部に埋め込まれたこの小型の機械に命令を送り、自在に操っているのでしょう」
白衣を着た人々にわかりやすいように説明する病理医だが、居合わせた人々には理解できない。
「体細胞クローンとか、そういう類かな?」
「もしそうなら、第三帝国はクローン兵を生み出す技術を持っているという事になりますね。そこの所は如何なのですか?」
白衣を着た蒲生と阿倍野の問いかけにも、病理医は頭を左右に振る。
「クローンならまだわかります。ですが、この武装親衛隊には性別すらありません。もしも、この生命体に名前がつくとすれば、ホムンクルスとしか言えないですね」
――ゴクッ
誰となく息を飲む。
クローンならば最低でも18年は培養液の中であろう。
だが、ホムンクルスとなると話は別。
魔法によっていくらでも成長させる事が出来る。
そんなものが第三帝国の兵士であるなど、考えたくもない。
「ヒトラー率いる第三帝国は、魔術知識を持ち、アンデットを使役し、ホムンクルスによっていくらでも兵力を増す事が出来る……国連に対しての報告書にはなんて書けばいいのかわからなくなって来る」
「あ、ありのままに書いていいんじゃないか?隠していたって得なんてない。むしろ現実を突きつけて、あとはご自由にというしかないだろうな」
そう話してから蒲生が笑う。
「はぁ。蒲生さんは気楽でいいですよ。この後の展開がわかってますか?」
「まあ、地球人では対処できないのでカリス・マレスに泣きつくんだろうなぁ。でも、無理だぜ。マム・マチュアはカリス・マレスは戦争に関与しないって話していただろう?」
「事は重要。せめてホムンクルスやアンデットの対応策だけでもご教授願いたいですよ」
「だから、それをやると関与になるって。あんたも国会で散々叩かれていただろうが……」
ブツブツと何かを呟く阿倍野に向かって堂々と文句を言う蒲生。
これ以上はここにいる必要なしと判断して、二人は部屋から出ていった。
………
……
…
東京・いつもの国会議事堂横。
のんびりと読書しているミアと、ツインダガーを構えて演舞をしているポイポイ。
上空の結界球は未だ変化なし、マチュアが出てくる様子もないので、各々訓練に勤しんでいた。
「ポイポイさんは、アンデットと戦ったことはあるのですか?」
自活車前のテーブルでコーヒーを飲んでいる佐藤アナが、楽しそうにダガーを振り回すポイポイに問いかける。
まあ、冒険者にとってアンデットはよく見るモンスター。
ゾンビやスケルトンは言うに及ばず、レイスやスペクター、リッチまでなんでもござれである。
「エルダー級以外は大抵見たっぽいよ。如何して?」
「今、ゲルマニアに大勢のアンデットが徘徊しているじゃないですか?噂では冒険者の一群があれを退治するのに向かうらしいのですけれど、そんなに簡単に倒せるものなのですか?」
その佐藤アナの問いに、ポイポイもダガーをしまってテーブルにつく。
「魔法武器か魔法じゃないと無理っぽい。なので地球の人には無理。冒険者なら、そこそこの魔術かマジックアイテムを作れるのが道理。じゃないと依頼受けないっぽいよ」
「私はゾンビやスケルトンは見たことありますが、レイス系はまだですね」
ふうんと佐藤アナがポイポイたちの言葉をメモする。
「それじゃあ、私たち地球の人間がアンデットと戦う方法って?」
「「ないと思います(っぽい)」」
――ガクッ
「あっさりですねぇ。そんなにないのですか?」
「だって、物理攻撃が効くのはゾンビやスケルトンまで、レイス系は魔法しか効かないっぽいよ?」
「銀の剣や弾丸とか、聖別された武器とかありますよ?」
ふぅんとミアが納得する。
「聖別できると言うことは、神の声が聞こえるのですか。地球の司祭さんもなかなかやりますね?」
「え?そうなるの?」
「はい。きちんとした手順で聖印を組むか、神の奇跡によって武具に聖なる力を付与できなければ無理なので。それが聖別と言うものですよ?」
バッグから羊皮紙を取り出して手順を説明するミア。
それをふむふむと聞きながら、佐藤アナも身振り手振りで試してみるが。
当然ながら効果などでない。
「見様見真似じゃダメですよね?」
「いえいえ、ダメとかではなく、この聖印はカナンの守護を司る神の一人、秩序の女神ミスティの聖印ですので。ミスティ様を信じなければ効果はありませんよ?」
「ポイポイは亜人の神、魔神イェリネック様を信じているっぽい」
ススーッと右手でイェリネックの聖印を描くポイポイ。
司祭ではないが、描くことは出来る。
「ちなみに。佐藤さんの魔力は幾つですか?」
「私はですね……」
スッと魂の護符を取り出して裏返す。
そこには佐藤アナのスキルやアビリティが表示されている。
当然ながらステータスは記されていないのだが、ミアはそれを受け取るとゆっくりと詠唱を開始する。
「サーチステータス……おや、魔力係数は56ですよ、普通の人ですね」
「おおおおお、普通の人だ、ポイポイも久しぶりに見たっぽいよ」
感動するミアとポイポイ。
だか、佐藤は照れ臭そうに一言。
「何か恥ずかしいですよ、普通の人を連発されると」
「そうではないのですよ。え〜っと、普通の人というと誤解になりますか。佐藤さんのステータスはですね、私達の世界の普通の人々なのですよ」
「つまり、この世界の人々と比較すると高いっていうか、凄いっぽい」
地球人の魔力は30以上あったら奇跡、50超えてれば魔術師になれるレベル。
その中での56は中々凄いのだが、これには理由がある。
「でも、私は以前、魔力感知球というもので調べてもらったら、31しかなかったのですよ?ギリギリなんとかなるレベルだと伺いました」
「そこから25も上がるとは……一体どういう修行をしてきたのですか?」
流石のミアでも驚きの色は隠せない。
普通に考えても、いきなり25も上がるなど考えられない。
横で話を聞いているポイポイですら、頭を捻る案件である。
「わ、私は修行なんてしていませんよ。カナンから戻って来てからはすぐに就活、運良くYTVに入れましたけど、事故現場からの中継担当でまだまだアナウンサーとしては端っこですから」
少し悲しげに下を向く佐藤。
だが、ポイポイは笑っている。
「でもね。佐藤さんは出世するっぽいよ?ポイポイもミアも、佐藤さん以外の記者とは話ししたくないっぽいから」
「そうそう。ベルナー領シルヴィー付幻影騎士団専属記者として、ポイポイは佐藤忍さんを任命するっぽい‼︎」
ニイッと笑うポイポイと、その横で微笑むミア。
その言葉に、佐藤はポロポロと嬉し涙を流す。
そして近くで話を聞いていた他局の記者たちは顎が外れそうになっていた。
「ぽ、ポイポイさん、うちはいかがです?TVOの角川と申します」
「YTVみたいな小さい局ではなくうちをお願いします。TTSの横川です」
ちょうど結界球を取材に来ていたのだろう。
いきなりの佐藤の指名には驚くばかりであるらしいが。
「まあ、あんたたちじゃあ無理だよ、諦めなって」
くわえ煙草でそう話しているKHKの進藤。
札幌からわざわざ取材に来ているらしい。
「進藤さんのいう通りっぽいよ。後はマチュアさんに相談するっぽい」
「しかしですよ、もうマチュアさんは亡くなって今の大使はツヴァイさんじゃないですか」
「死んだ人から許可をもらえっていうのは……あ?」
角川、横川、共にポイポイとミアの逆鱗に触れた模様。
「二人の顔と局は覚えておくっぽい」
「そうそう。マム・マチュアが帰ってきたら言いつけてやれ‼︎」
真っ赤に怒っているポイポイに進藤が焚き付ける。
「ちょ、お前、汚ねえぞ」
「ここは公平にいかないか、KHKだってマム・マチュアの死亡は報道していただろうが」
「ありゃあ東京の馬鹿が流しただけだよ。俺は生きている方に賭けているんでね。お前たちはどうするんだ?」
「い、いくらポイポイさんたちが信じていても、あそこからの生還なんて人間では無理ですよ……申し訳ありません」
横川がポイポイに頭を下げる。
すると。
――ブゥゥゥン
ポイポイと横川たちの中間に魔法陣が展開する。
それはミアやポイポイの知っている、カナンの、マチュアの魔法陣である。
「来たぁぁぁっぽい‼︎」
「もう少しかかると思いましたけど。さて……どうしますかねぇ」
――バリバリバリッ
魔法陣がドーム状の結界に包まれると、結界内がプラズマに包まれた。
それはやがてゆっくりと人型を形成すると、マチュアの姿になる。
「はぁ、こういう方法か。さて、ABC兵器の中和……今はNBC兵器って言うのか……」
全身から放射性物質を初めとする全ての危険物質を浄化すると、すぐさまローブを身に纏う。
――パチイッ
軽く指を鳴らして結界を解除すると、ミアとポイポイの元に歩いていく。
「いよう、久しぶり……おや、佐藤アナまで、なんで泣いてんの?」
ミアとポイポイは知っていたが、佐藤はマチュアが生きている事を知らなかった。
信じてはいたらしいが、それでもやはり生還するところを見ると嬉しい。
「おかえりなさい。マチュアさん」
「お〜なんで泣いて?まさか進藤か?」
周囲を見渡すと、ニヤニヤと笑っている進藤と真っ青な顔の角川と横川が立っている。
「お、俺ちゃうわ、おれはマム・マチュアが帰ってくる方に賭けてたんだ。だから勝ち。この二人は死んでいるって言い切ったから負け。それだけだよ」
その言葉で納得したらしい。
ポンポンと佐藤アナの頭を叩くと、マチュアはニイッと笑った。
「心配かけたようで。まあ、こう見えてもギルドマスターなんでね。核程度は簡単に中和出来るさ」
「おかえりなさい……マチュアさん」
ゆっくりとローブを翻しながら、マチュアは自活車の方へと歩いて行った。
半月ぶりの帰還。
これまで何があったのか、一通り話を聞きたい所である。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






