変革の章・その13 マチュアとヒトラーと
結界制御球が外されてから一週間後。
午前6時。
朝靄のなか、結界球の正面にある人物たちが姿をあらわす。
第三帝国親衛隊の服装に身を包み、深々と帽子を被ったエイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンド。
その背後には10名ほどの武装親衛隊が並び、マシンガンを構えている。
フワッと高度300mの結界球の前に浮かび上がると、ヒトラーは結界球に手を触れる。
「小癪な。しかし、あの女はもういない。我が元に来たのならば、死ぬこともなかったろうが‥‥」
ゆっくりと魔力を注ぎ、結界を解除しようとする。
だが、ヒトラーの魔力では、結界を和らげる事すら出来ない。
苦悶の表情となるヒトラー。
ならばと、背後にいる武装親衛隊に命じる。
「結界を無力化せよ!」
――ガチャッ
一斉にマシンガンを構える武装親衛隊。
そして一斉にトリガーを引いて、結界に向かって魔力無効化の術式を刻み込んだ銃弾を叩き込んだ。
――パチパチパチパチッ
結界表面に亀裂が入る。
だが、すぐにそれは自己修復された。
「むう。あと一歩か。ならば!」
すかさず右手で印を組むと、ヒトラーの目の前に小さな魔法陣が生み出された。
「我が結界を弱める。その上で破壊せよ‼︎この日本をまずは血祭りにあげよう‥‥」
徐々に魔法陣が輝きを増す。
そして光の弾丸が一斉に打ち出された刹那。
――バチィン
「却下っ‼︎ 貴方たちの好きにはさせませんっ」
結界上空に転移したミアが指を鳴らして却下を発動する。
それで光の弾丸は全て消滅し、魔法陣すら散り散りに消えていく。
「手加減はしないっぽいよ」
ミアのすぐ背後にポイポイが浮かび上がると、すぐさま両手で印を紡ぐ。
「雷神の術っっっ」
天空に黒い雲が作り出されると、武装親衛隊に向かって次々と雷撃が降り注ぐ。
――ビシィィィィッ
一瞬で炭化して墜落する武装親衛隊。
すぐさまポイポイは結界球の上に立つと、腕を組んで頭上からヒトラーを見下ろす。
そしてミアも、ヒトラーの右で箒を止めると、じっと彼を睨みつける。
「何故ここに来たのかなんて問う気もありません‼︎」
「ここに何しに来たっぽい‼︎」
いっていることが噛み合わないミアとポイポイ。
だが、ヒトラーはくっくっと声を上げて笑い出す。
「簡単だよ。この結界球を破壊する為さ。これさえ破壊すれば、まずは日本の中枢は機能しなくなるだろう?」
「まだ世界征服を諦めてはいないと?」
そのポイポイの問いかけには答えずに、すぐさま印を組む。
――シュルルルルッ
だが、それよりも早くポイポイのミスリル鋼糸がヒトラーの腕に絡みつくと、グイッと腕を上に上げさせた。
「もう貴方の国は無くなったのです。諦めて降参してください」
「はて。私の国がなくなった?君は何をいっているのかな?」
大胆にも笑みを浮かべながら告げるヒトラー。
それにはミアも背筋が凍りつく。
ただ笑っただけ。
ただ一言発しただけ。
それでも、ミアは恐怖感に包まれてしまった。
「ミア落ち着くっぽい。相手の言霊に騙されないっぽいよ」
さらに鋼糸を飛ばそうとするが、ヒトラーはそれよりも早く絡まっている鋼糸を睨みつける。
――ブツッ
それだけで鋼糸は切断された。
「そ、そんな。ミスリルの鋼糸を切断するなんて」
「おや、これがミスリルでしたか。なあに、分子の結合を解いただけですよ。では、そろそろ終わりにしましょうか」
――カッ‼︎
その瞬間。
自衛隊の戦闘ヘリAH09Sが高速で飛来すると、ヒトラーにサーチライトを照射する。
「二人とも下がって‼︎」
ヘリから叫び声がすると、素早くミアもポイポイを乗せて結界球から離れた。
そして。
――Broooom
ヘリの左右についているバルカンランチャーが、高速回転しながら弾丸を吐き出す。
それはヒトラーに直撃すると、全身を貫通してズタズタにした。
「やったか‼︎」
そう叫ぶが、まだヒトラーは上空に浮いている。
「まあいい。今宵は挨拶だけにしておこう。では地球の諸君、またいずれ会うとしよう」
それだけを告げると、ヒトラーはスッと姿を消した。
「消えたっぽい‼︎」
「まさか、実体ではないの?あれだけ魔法を駆使しても?」
驚愕する二人。
すると、ヘリから二人に下に降りるようにと指示がある。
それに従ってミアとポイポイはゆっくりと地上に降りた。
やがてヘリも緊急着陸すると、中から自衛官が降りてきた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「カナンのミアさんとポイポイさんですね?白川一佐から報告は受けてます。今回は危ないところでしたね」
敬礼しながら二人に挨拶する自衛官。
「私は後藤明宏一曹です。結界球でお二人がヒトラーと戦っていると聞きましたので、緊急出撃しました。お怪我はないですか?」
スカッと爽やかな笑顔。
そして口元から白い歯が輝いて見える。
「サイノスさんみたいな人っぽい。助けてくれてありがとうっぽいよ」
「ありがとうございます」
ペコッと頭を下げる二人。
すると後藤一曹の顔が真っ赤になる。
「後ほど小野寺司令が聞き込みに来ると思いますので。では失礼します」
そう説明をして、後藤一曹はすぐさまヘリに戻る。
そして急ぎ駐屯地へと戻っていった。
「え〜っと。この後は確か、報道の人が大勢来るっぽいよ」
すぐさま自活車の周囲にロードコーンを立ててコーンチェーンというFRP製のチェーンを繋いでいく。
これで報道関係は全てシャットアウト。
――ドドドドドッ
やがて中継車や報道関係者がやって来るが、チェーンで阻まれてポイポイの元に来る事が出来ない。
「目の前の特ダネをみすみす捨てられるかよって‼︎」
そう叫びながらどこかの記者がチェーンを越えようとするが、すぐさまポイポイが一言。
「そこ越えたら実力行使で排除するっぽいよ、ポイポイたちは防衛駐在騎士なので、身を守る権利を行使するっぽい‥‥佐藤アナ発見‼︎ 佐藤さん、中にはいるっぽい‼︎」
――ザワザワッ
大勢の記者たちの中から佐藤忍を見つけ出したポイポイ。
すると、名前を呼ばれた佐藤も前に出て来た。
「良いのですか?」
「朝ごはん食べるっぽい。佐藤さんのオムレツ美味しいっぽいよ」
「どうぞ。佐藤さんでしたら友達のようなものですから」
ミアもそう話しかけてくれたので、佐藤も頷いてコーンチェーンを越えていく。
「あ、ポイポイさん、KHKの進藤ですよ。ほら、札幌で‼︎マチュアさんと何度も話したことのある‼︎俺も入って良いですよね?」
――ヒュンッ
その言葉でポイポイはクナイを生み出し、チェーンの手前に投げる。
「進藤さんは今日はダメっぽいよ。卵とパンが足りなくなるっぽい」
――プッ‼︎
そのポイポイの言葉で、張り詰めていた現場の空気が和らいだ。
「ではポイポイさん、この前みたいに佐藤アナか代表で簡単な質問だけお願いしますよ」
もうカリス・マレス式のやり方に慣れた報道官がそう提案する。
ならばとポイポイも一言。
「1時間後。それまでみんなご飯食べてくるっぽいよ」
それであっさりと解散。
集合時間は1時間ごとなり、それまではのんびりとブレックファーストとなった。
‥‥‥
‥‥
‥
「まさかヒトラーが出るとは思いませんでしたわね」
「ええ。確かYTVの中継車はまだ残っているのですよね?」
ミアが佐藤に問いかけると、彼女もコクリと頷いている。
「まだ結界球が残ってますから。ですから朝方の戦闘も、全て緊急生中継してましたよ」
「あまり危険な時は逃げたほうがいいっぽいよ。まだヒトラーも第三帝国も健在っぽいし」
「承知しています。それにしても‥‥相変わらず大きい卵ですよね?」
ポイポイがバッグから取り出したのは、ラフィングバードという鳥の卵。
ベルナー周辺の森に住む、卵が美味な鳥である。
肉質は硬くて食べられないのだが、何故か卵は美味しい。
すぐさま佐藤アナがオムレツを作り始めると、議員会館から小野寺と蒲生がやってくる。
「ハァハァハァハァ‥‥朝一で報告がありました。ヒトラーと武装親衛隊の襲撃があったという報告を聞きましたが」
汗を拭いながら、小野寺がミアに問いかける。
「モグモグ‥‥ゴクッ。ええ、来ましたけど?」
「そんなあっさりと‥‥まだ戦争は終わってないという事ですか?」
青い顔をしている小野寺に、ポイポイは一言。
「ポイポイ達は終わったと思ってなかったっぽい。テレビで見てたけど、あの程度の攻撃なら結界で耐える魔術師はいるし、転移や防護の魔法陣とか、耐える方法なら何ぼでもあるっぽいね?」
そのポイポイの言葉にはミアも同意。
その瞬間に、小野寺はヘナヘナと地面に座り込んでしまう。
「そんな、ようやく戦後復興が始まるというのに‥‥どうにか出来ないのですか?」
縋るように問いかけるが、ミアとポイポイは同時に一言。
「「無理かなぁ(っぽい)」」
――クックックッ
その二人のチームワークに蒲生も苦笑いである。
「お嬢ちゃんたちの話をしっかり聞いていないお前が悪い。カリス・マレスは戦争には加担しないってマム・マチュアが話していただろうが」
「ですが、もうマチュアさんは死んだじゃないですか、どうです‥‥あ‥‥」
その小野寺の失言を見逃すほどポイポイは甘くない。
ギッと小野寺を睨み付けると一言。
「マチュアさんの命令は絶対っぽい。これは過去から未来まで‥‥マチュアさんが戦争に加担しないと言ったから、ポイポイ達も従うっぽいよ」
「あの、いくら温厚な私でもキレる時はありますので。幻影騎士団所属、賢者の弟子を甘く見ないでください」
その二人の迫力に、すぐさま謝罪をする小野寺。
「そ、それは失言だった‥‥それで、例の結界制御球の事なのだが、またレンタルすることは可能なのか?」
「三笠さんが窓口ですので。そちらへお問い合わせください‥‥でも、他に先約が入っていたらごめんなさい」
ミアがハーブティーを飲みながらそう説明すると、小野寺はすぐにそこから立ち去った。
「全く。いざ実戦になったら頼りねぇなぁ。打たれ弱いというか‥‥それで、朝方のヒトラー、ありゃあ本物か?」
蒲生が椅子に座ると、すぐにミアがハーブティーを差し出す。
「どうぞ。あれは多分本物ですよ。ただ、あれは霊的分身体という禁忌レベルの魔術ですね。私も知識しかありませんし、あれだけの魔力を保持した分身体を作れるなんて聞いた事はありません」
「マチュアさんなら、あれ何体か出せそうっぽいけどね。少なくとも、まだヒトラー本体は残っているっぽい。それに武装親衛隊も出て来たから、ゲルマニアの拠点は囮りっぽいよ?」
小野寺やロナルド大統領が聞いたら卒倒しそうな回答である。
「なら、早急に対応を協議する事になるか。緊急の委員会招集と‥‥今の二人の話だが、国会で説明していいよな?事は急務だからなぁ」
「蒲生さんの好きにするっぽいよ。マチュアさんからは、蒲生さんはマフィアみたいな人だけど裏は無いって聞いてたっぽい」
「まだ俺はマフィア扱いか。 今度マム・マチュアにあったら、そこんところしっかりと説明しないとなぁ‥‥」
それだけを告げて、蒲生は議員会館へと戻って行く。
ことは重要、今一度国連事務局や関係各位に連絡を入れる必要があると考えたのだろう。
「蒲生さんって、マチュアさんが生きているって信じているのですね。何だか嬉しいです」
「その通りっぽい。マチュアさまが信じていいって言ってた人に悪い人はいないっぽい」
そう話していると、ようやく佐藤アナも状況を整理し終わったらしい。
「まずは急いで朝食ですよ。さっさと食べないと冷めてしまいますし、もうすぐ記者も戻って来ますよ?」
「ふぁ?それはマズイっぽい。急いで食べないと」
慌てて食べ始めるミアとポイポイ。
やがて時間になって記者会見のような質問会が始まると、お約束通りの質問会となった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
札幌。
異世界大使館はいつものように平和な時間が戻ってきた。
ヒトラーが再び姿を現した事で、国連を始め世界各地で警戒態勢が敷かれる。
魔導師としての力を持ち、あの空爆の中でも生き延びている存在に、いったい誰が勝てるのか。
そんな話が世界をめぐり、地球を救ってくれる存在を探す。
だが、皆の知っているマム・マチュアの死は世界中に伝えられ、皆の心の拠り所は失われてしまった。
――トンカントンカン
異世界大使館正門を潜って右側の庭に建てられた、木と石造りの建物。
二階建ての事務所には、カリス・マレスから大勢の人々がやって来ている。
「全く。こんなに面倒な仕事はもうごめんだ。ツヴァイさんの頼みじゃなかったら、引き受けてはいないのだからな?」
渋い表情でそう話しているのはウィル大陸の冒険者ギルド総括、カニンガム・バーンクラウス。
丁寧に切りそろえられた顎髭を撫でながら、目の前のツヴァイにそう話している。
「今回の件は助かりましたよ。それで確認ですが、札幌冒険者ギルドの方針やルールは全てカリス・マレスと同じで良いのですよね?」
そうツヴァイが話しかけると、カニンガムはうむ、と一言。
「依頼人から依頼内容と報酬を受け取る。その上で誓いの契約を行い、ギルドへの依頼は完了。後は写しを魔法で作り出して張り出し、それを受諾したパーティーと再び誓いの契約を行う。完遂時には報告書を受け取り、魔法によって精査、問題がなければ報酬を支払う‥‥」
依頼を行う所から、最後の報告まで全てを『誓いの契約』によって監視される。
それがカリス・マレスの冒険者ギルド。
「しかし、まだ何も貼り付けてありませんよね?」
新品の依頼掲示板を眺める三笠に、カニンガムもガハハッと笑う。
「こいつは特製だからな。こっちの世界の依頼しか受けない。そしてここに貼り付けた依頼と同じものを、カナンの冒険者ギルドにも掲示する。依頼を受けたものは、異世界に来て仕事をすれば良いって寸法さ」
受付場所が増えた事以外はあまり変わらないが、地球で仕事をするというのが特別らしい。
「言葉の壁については、異世界ギルドから通訳が派遣されるようになっている。こっちの世界の仕事の受付は、まずはこの冒険者ギルドで受付をして、大使館に確認を取る。そこで正式に受けるかどうか決まるわけだ」
ふむふむと大使館職員も納得。
それならば、言葉について詳しい人を派遣しなくてはならないのだが。
「当面はイェーガーさんと吉成さんに、冒険者ギルドの方々の教育係をお願いします。こっちの世界の言葉と常識を教えてあげてください」
三笠がそう話すと、すぐさま吉成は集まっているギルド員にコモン語で挨拶する。
『はじめまして。異世界ギルドにいらしたことのある方はご無沙汰しています。異世界大使館の吉成と申します。早速ですが、皆さんの登録を行いますので私について来てください』
『と言うことだ。私も皆の教育係なのでね。じゃあ行きますか』
そう話して、吉成とイェーガーは大使館二階の会議室へと向かった。
「さて、ツヴァイさん、一つ頼みがあるのだが」
カニンガム統括が、建物の図面を眺めているツヴァイに話しかけた。
「何ですか?」
「可能なら、カナンの冒険者ギルドとここを繋ぐ扉が欲しい。一々異世界ギルドからこっちにやって来るのは大変なんだ」
確かに。
ギルド内部で繋げてしまえば、移動の手間も省けて一石二鳥である。
しかしツヴァイも少し考える。
特に問題はないのだが、出来るのはマチュアのみ。
それゆえに、現在は不可能である。
「まあ、マチュアさまが戻ってきたら申請しましょう」
「戻って来たら‥‥って、またどっか行ってるのか?」
呆れた顔のカニンガムに、ツヴァイも苦笑してしまう。
「そうなんですよ。生きてはいると思いますが、どこで何しているのかさっぱりでして。まあ、戻って来たら話をしておきますね」
そう話してから、再び作業を続ける。
カリス・マレス側の準備などすぐにでも可能。
後は日本国の法整備のみであるが、これがまた大変である。
‥‥‥
‥‥
‥
「冒険者ギルドの新設?」
冒険者等関連法案に関して、委員会審査を終えて参議院での審議が始まった。
この関連法案こそ、今回の統合第三帝国に対抗するための手段である。
提出者は蒲生副総理、当初の委員会審査では突然の議題には野党も喧々轟々していたが、どうにか参議院審議までこぎつける事になった。
ここまで実に一週間、予想外に早かった。
「あの、副総理、今回の議題について質問しますが。何故冒険者ギルドの設立と運営に関しての質疑なのですか?」
野党第一党の共進党代表・古賀議員が問いかける。
「え〜。既に皆さんの手元には資料があると思いますが、統合第三帝国、ヒトラー以下構成員は何処かに逃げて今尚何かを策略しています。それに対処する為というのが一点、現在のゲルマニア国内のアンデット騒動を沈静化しているのは日本の冒険者であるという二点ですが」
「それは熟知しています。必要ならば該当者に要請して、何とかして貰えば宜しいのでは?」
――ポリポリ
古賀議員の言葉に頬をかく。
やれやれと言う顔で蒲生が演台に戻った。
「彼らに対しての正当な代価。いつまでもボランティアで参加してもらえると?それに、今、日本でアンデット騒動が起こったら、誰が戦って貰えますか?」
「何の為の自衛隊ですか。彼らに魔法を学んで貰えば良いだけではないのか?」
お?
自衛隊無用論ではなく、自衛隊も魔法を学べに変わったのは凄い発展。
だが、それでは間に合わない。
「では、その為の研修に異世界に向かわせれば良いと?」
「そうですよ。何のための防衛予算ですか」
すると小野寺防衛大臣も挙手して前に出る。
「まず、今年度の予算では間に合いません。スケジュールの都合もありますが、魔術を行使するにはとんでもない量の秘薬が必要でして‥‥」
そう話しながらパネルを取り出す。
これは以前魔法についての説明をした時に使われたものらしく、秘薬を現代日本で手に入れるための代価が書かれている。
「ご覧のように、とんでもない予算が必要です。カナンに向かうための費用、魔法講習を行うための予算、全て今年度は無理ですので。冒険者ギルドを設立し、異世界の冒険者に仕事を依頼するのが良いかと思われます」
次のパネルが出る。
そこには様々な仕事の依頼についての報酬と期間などが記されている。
「まあ、これを見ていただいてわかると思いますが。国連からも日本の冒険者をアンデット対策に派遣して欲しいと言う要請もあります。ですが、冒険者は民間人です。我が国は民間人を戦地に送る事は出来ません」
淡々と説明する蒲生。
これには全ての議員が耳を傾けるしかない。
「自己責任という事で送り出す事など出来る筈もない。なので、冒険者ギルドを設立し、そのシステムの範囲で向かってもらうという形になります」
「それは傭兵行為であり、国として推奨する事は出来ないのでは?」
「冒険者ギルドの管轄はカリス・マレス。異世界の冒険者ギルドの依頼で動くのならば、それはカリス・マレスの法にある『全て自己責任』。このような手段でしか日本は冒険者を派遣することができません。ですので、冒険者ギルドの設立とその立場、権利についての法律を制定する事にしました」
それならばと、彼方此方から冒険者ギルドの認可についての声も上がる。
自衛隊よりはマシと、野党もこの法案には賛成スタイルを見せた。
「異世界関連法の一部改正及び冒険者等関連法の制定については、賛成215、反対27。よって本件は可決しました」
これで衆議院審議を通過すると、冒険者等関連法は成立する。
そしてここから四日後、衆議院審議も終了し、無事に法案は成立した。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






