変革の章・その11 サードストライクからの修羅場
燃え盛るエネルギー球体。
それが、マチュアを包む結界球を呼ぶに相応しい。
マチュアが核爆発を結界に封じ込めて、既に三日が経過しようとしていた。
未だ、マチュアの反応はない。
――ヒュゥゥゥゥゥゥッ
箒にまたがって、ポイポイとミアが結界球に近寄る。
内部を見たくても、この結界は外界からの魔術さえも遮断している。
「マチュアさま、まだその中にいますか?」
「ま~ちゅあさーん。早く出てくるっぽいよーー」
必死に叫ぶ二人。
声が返ってくるとは思えない。が、それでも叫ばずにはいられない。
『お、ミアとポイポイか』
いきなり内部から聞こえるマチュアの声。
「で、でたぁぁぁぁぁ!!オバケェェ」
「マチュアさん、ミアです。すぐに結界を解きますか?」
さらに近づいてマチュアに問い掛けるミア。
『出たぁぁって、誰がアンデットやねん。神威結界なかったら本気で消滅しているわよ』
白熱している結界球で内部は見えない。
だが、そこにマチュアはいる。
「出られないのですか?」
『うむ。諸般の事情で出られない』
「忍者になって結界無効化するっぽいよ」
そうポイポイが説明すると。
――ポン
と結界の中でマチュアは手を叩いた。
『あ、それ忘れていたわ‥‥って、心力は も残っていないかぁ‥‥なら、ミア、ポイポイ、私はここで身動き取れないので、そういう事で』
そう二人に告げる。
すると、ミアは判らない顔をしているが、ポイポイは頭を捻っていた。
「相手を油断させる? 誘うため?」
『そ。ポイポイはすぐ判るか。ミアは?』
「そうする意味がわからないのですよ。何故ですか?」
『これだけの事をしてまだ私が生きていると判ったら、今度は形振り構わずに仕掛けて来るでしょ? そうなると、今度こそ皆を守れない可能性があるのよ』
「‥‥マチュアさんなら、すぐにでもヒトラーの場所を特定し、反撃に出る事が出来るのでは?」
そのミアの話もごもっとも。
以前、ヒトラーの魔力の波長を見たマチュアなら、神威開放すれば何処に居るのか特定する事など簡単。
だが、それはマチュアの本意ではないし、何より神威は回復していない。
『ミア、私は言った筈よ。『カリス・マレスはこの戦争には関与しない』ってね。だから、私は何もしない』
「ここまでされてもですか? マチュア様は死にかけたのですよ?」
「まあまあ、ミアの言葉もごもっともっぽい。どうせマチュア様は、そのヒトラーとは話をつけに行くっぽい?」
笑っているポイポイ。
何故、ポイポイにはマチュアの考えがお見通しなのか頭を捻ってしまう。
『そういう事だよ。という事で、ミアとポイポイには引き続き任務をよろしく。この件は念話でツヴァイにだけ伝えて、そして絶対にここに来るなって』
「来たら怒られるっぽい?」
『ばっ、違うわ、ツヴァイまで来たらここに何かあるってバレる。なのでそろそろ二人も撤収しなさい』
そう告げられて、ミアとポイポイは元通りの表情になってゆっくりと降りていった。
「さてと。出る方法は理解した。なら、魔力の回復に専念しますか。このまま出たら、私が周りに放射線ばら撒きかねないからなあ」
少なくとも、マチュアの体内には放射線の影響はない。
結界には放射線を中和する能力がある。
だが、体表面についているものは、出る時には中和しないとまずい。
いつもマチュアの話している、便利なようで不便なのが魔法という意味の一つである。
「そうなると……アハツェンに頼むか。どれ」
ごそごそと空間収納から羊皮紙とペンをを取り出す。
「拝啓。魔力回復剤を作って入れておいてください。これでよし」
くるくるっと羊皮紙を丸めて空間収納に収めると、マチュアはウィンドゥを開く。
「ジョブ設定開始。生産職から薬師へ。アハツェンのステータスに薬師を同期……よし」
次々とアハツェンに同期する。
これで念願のポーションの開発もできる。
今まで考えていなかった訳ではない。
実際に簡単な薬は薬師という職業の人々が作っている。
ただ、より強力な薬の精製などは原料の希少度もあり、中々高価になっていた。
僧侶や司祭の魔法でも、ある程度の怪我や毒ぐらいは治癒できるが、病気を癒す事の出来る者はかなり希少。
それゆえに薬師は需要のある職業である。
なお、よくあるファンタジーで見かける瓶に入ったポーションも普通に売っている。
薬師の作った回復薬を魔法処理し、瓶に詰めて売っている。
サムソンの魔道具屋が古代遺跡で手に入れた秘術で、今では彼方此方で販売している。
割れにくい瓶と少量でも効果を発揮する為、多少割高である。
「さて、魔力回復薬は完成するかどうか……楽しみだなぁ」
そう呟いて、マチュアは静かに意識を閉じていった。
………
……
…
「ミアさん、ポイポイさん、マチュアさんいましたか?」
すぐさま古屋やYTVの佐藤アナ達も駆けつけるが、ミアは下を向いて頭を左右に振る。
「残念ですが、まだ判らないです」
「あの結界を解除出来ればいいんだけれど、それはダメッて小野寺さんから言われているっぽい。また少しして様子を見るしかないっぽい‥‥」
吉報ではなく現状維持。
それでも訃報よりはマシと、佐藤アナたちは仕事に戻る。
そして古屋も、すぐさま防衛省に連絡をして、次の指示を待つ事にした。
○ ○ ○ ○ ○
サードストライク作戦当日・午前十時
――ゴゥゥゥゥゥッ
デルタ編隊を組んで、高高度を進むステルス戦略爆撃機・B3アストラム。
その格納部には、最後の切り札であるMOABを搭載している。
アメリゴの発令した最後の作戦・サードストライクを速やかに遂行すべく、国連軍も一斉に行動を開始する。
ゆっくりとだが、着実にベルリンに向かって包囲網を狭めていく。
やがて第三帝国の機動部隊と接触すると、そこで激しい戦闘状態に突入した。
まさに多国籍軍と呼ぶにふさわしい機動兵器の数々に対して、第三帝国軍は機動兵器と重武装した武装親衛隊しか戦力はなかった。
そう。
今までは。
――キィィィィィィィン
戦線の彼方此方で魔法陣が展開する。
それを見ていた戦車隊はすぐに後方に下り、魔法陣からやって来る敵に備えたのだが。
――ムクッ‥‥
魔法陣から姿を現した『それ』は、現代人である地球人にとっては想像を超えていた。
戦場で死んだ者たちが、仮初めの命を与えられて敵となった。
それはまるで映画の世界。
ゾンビ映画さながらの世界が、目の前で始まったのである。
徘徊を始めたものの中には国連軍の兵士の死体もある。
それが全て、ゾンビやスケルトン、中には肉体の全てを捨てたレイスという幽体のアンデットとなって牙を剥いた。
だが、やはり映画を知っている者は対処法にもすぐさま気がついた。
恐怖を乗り越えれさえすれば、現代兵器の前には敵ではない。
激しい砲撃音とキャタピラの轟音が、生み出されたアンデットの群れを襲う。
最初は戸惑っていた国連軍だが、実弾兵器が有効であると知るとすぐさま攻勢に出た。
1時間もしないうちに、アンデットの軍勢はまさに屍の山を築き上げていった。
‥‥‥
‥‥
‥
同日・午前十一時
国連軍のフロントラインは更にベルリンに近づく。
だが、作戦指示により一定の距離を保ったまま、戦線を維持する事になった。
「神よ‥‥願わくば、この一撃で全てが終わりますように‥‥」
ひとりの兵士が空を仰ぎ、手を合わせて神に祈る。
――ゴゥゥゥゥゥッ
その視界で、三機の黒い爆撃機がベルリンに向かって通過すると、その直後に轟音と地響きが響き渡った。
――ドッゴォォォォォォッ
『こちらウィザード1、爆撃完了』
対地爆装したF36ボルテックスがベルビュー宮殿付近で待機していた機動兵器に向かって攻撃を開始。
ヒット&ウェイで三機の機体を破壊した直後に、上空を通過するアストラムがMOABを目標地点に向かって投下。
その直後に、高温の爆風と衝撃波が広がり、一瞬でベルビュー宮殿が消滅、巨大なクレーターが完成した。
『ウィザード1了解。引き続きウィザード2の爆撃を開始せよ』
『こちらウィザード2。爆撃を開始する』
すぐさま着弾点をずらして爆撃が始まると、ベルビュー宮殿を中心としたベルリンの地形がどんどん大きく変わっていった。
同日正午、ベルリンを中心に展開していた統合第三帝国の機動兵器群の姿は消滅、地上エリアには武装親衛隊の死体やアンデットの残骸だけが残っていた。
『魔法鎧小隊より、現在ベルビュー宮殿跡を調査、統合第三帝国らしき残骸はもう何も残っていなかった。
『マスターコントロールより各位、オペレーションコンプリート。各自帰還するよう。繰り返す、オペレーションコンプリート‥‥』
「ウィザード1了解、これより帰還する」
「ウィザード2、同じく帰還します」
「ウィザード3、帰還開始、シャンパンを開けて待っていてくれ」
『マスターコントロールより国連軍へ。全てのミッションは完了、各位帰還を開始してください‥‥チェイサー各位は地上捜索を開始してください』
国連平和維持軍を始め、全ての軍隊に帰還命令が出る。
そして最後の後始末として、国連平和維持軍の調査班が地上の残存勢力の掃討作戦を開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
サードストライク作戦の成功は防衛省にも届いていた。
対統合第三帝国戦は全て終了、後処理が始まったという報告は、防衛省に希望の光を与えた。
そしてその報告は、すぐさまポイポイ達の元にも届けられたのである。
「戦争終わったっぽい?」
「ええ。終わりました。国連平和維持軍、そしてアメリゴを始めとする常任理事国の力で全て終わったのですよ」
にこやかに報告している小野寺。
だが、それにはミアもポイポイも頭をひねった。
「ヒトラーという人は死んだのですか?」
「それが確認されていないと、すぐには納得出来かねますが」
「ミアと古屋くんのいう通りっぽい。相手を甘く見ない方がいいっぽいよ? 凄い魔術師っぽいし」
三人がかりで小野寺を諌めるが、どうやら聞く耳を持っていない。
「それについては、現在調査部隊が展開しています。あの兵器の前では、いくら魔術師といえども生きている筈がない。そうじゃないですか?」
両手を広げて話している小野寺だが。
三人はスッと頭上の結界球を指差した。
「「「まだ生きている可能性は諦めてませんよ(っぽい)」」」
それには小野寺も驚きの声を上げる。
「ま、まあ、気持ちはわかります。それと、結界制御球の維持契約ですが、更新はしなくても大丈夫ですので。先日二箇所分の代金は振り込んでありますので。それでは」
そう説明して、小野寺は議事堂にはいっていく。
サードストライク作戦が開始される前とは全くちがう雰囲気。
まさに生き返ったという言葉がよく似合う。
「さーてと。ミアは、ゲルマニアの戦争どう思うっぽい? 」
自活車横のテーブルで、ミアとポイポイ、古屋は呑気にティータイムを始めている。
戦争が終わったと小野寺は言っていたので、少しだけ警戒を緩めている。
「え? 地球の爆弾とかいうので終わったのでは? それともまた新しい敵ですか?」
「うーーん。ミア、ティアラに魔力を込めて。アンデットの検索するっぽい」
「あ、は、はいっ」
――キィィィィン
すぐさまティアラからアンデットの知識を検索する。
「不死者ですよね? 先のサードストライク作戦のときに、統合第三帝国が使用した『不死者創造』の魔法陣。ですが、あの文字配列は私達の世界のものではありませんよ?」
「そうだよ。だから面倒なことになったっぽい」
ズズズッとハーブティーを飲みながら、蒲生の差し入れの串団子を食べているポイポイ。
だが、そのポイポイの言葉の真意がミアにはまだ理解できていない。
「面倒‥‥ですか?」
「うん。少なくとも、あの魔法陣はニュースで流れてしまったっぽい。ミアやポイポイたちには理解できないけれど、この世界の魔術師はあれを理解できる。つまり、この世界の魔法の存在が、人々に知られたっぽいよ?」
魔術協会の自称魔術師たちならば、あれを理解出来るだろう。
そしてカナンで冒険者登録した者ならば、魔力回路が開いていてもおかしくはない。
マチュアの計画ならば、地球人が独自に魔術を身に付けるにはまだ10年は必要。
だが、マチュアたちがやってきて人々が魔術に触れる事が出来、そして地球独自の魔術が人々の目に触れられる。
次のステージは各地に残っているであろう様々な魔術の解読であろう。
それさえも、今回の統合第三帝国によって、魔法陣という形で公開されてしまっている。
来月号のオカルト雜誌ら・ムーには、フルカラー巻頭特集でこういう見出しが付くであろう。
『第三帝国・神秘の魔術の数々』と。
「確か、あの魔法陣は‥‥」
スウッと右手の人差指に魔力を注ぐと、ミアは空中に魔法陣を描く。
それはゲルマニアに現れた『転移の魔法陣』。
空中でそれを完成させると、ミアは人差し指を地面に向ける。
――ブゥゥゥゥゥゥゥン
すると、地面に魔法陣が展開するのだが。
輝いているだけで何も起こらない。
「あの、ミアさん、これって第三帝国の魔術ですよね?」
古屋がそーっと近づいて見ている。
だが、全くと行っていい程何も起こらない。
ミアの知識では、見た事のある魔法陣などを起動する事は出来ても、その文字配列や惑星の力の均衡などの知識がないので効果は発動しない。
「う~ん。やっぱり無理ですよ」
「これは単語の文字配列が地球のものだから。其々の単語の意味を理解する事で、力を生み出す事は出来るっぽいよ」
淡々と説明するポイポイ。
それには、ミアもきょとんとした。
「ポイポイさんはマスターニンジャですよね? どうして魔術の知識を?」
「ポイポイの昔いたパーティーの魔術師に教えてもらったっぽい。魔力回路が細いのでポイポイは魔術師になるのは諦めたけれど、知識だけならかなりあるっぽいよ‥‥けっこう忘れているけれど」
「へぇ、そうなんですか。そういう話は普段は聞かないものでして。今度ゆっくりと教えてくださいね」
――ブゥゥゥゥゥン
すると、ミアの書き上げた魔法陣が激しく輝く。
文字配列が一つ一つ輝くと、中から武装親衛隊が一人、姿を表した。
――ガチャッ!!
すぐさまマシンガンを構えた武装親衛隊だが。
「無理っぽいよ」
シュルルルルッと指先からミスリル鋼糸を射出すると、いきなり武装親衛隊を拘束した。
「ミア、それ消すっぽい!!」
「は、はいっ!! けれどどうして?」
慌てて魔法陣を消すと、ミアは瞬時に広範囲敵性感知を発動する。
――ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
ミアを中心に、広範囲に魔力の波長が放たれる。
それに触れたものでミアに対して敵対意思を持つものがいるなら、それはすぐに感知可能となる。
「反応は一つですが、そこの兵士だけですね。他には反応がありませんよ」
「ならいいっぽい。おーい、自衛隊員さーん、これ、拷問していい?」
足元に転がっている兵士を指差すポイポイ。
すると、警備をしていた自衛隊員が走ってくる。
「い、いえ、第三帝国の兵士ですよね? また魔法陣からですか?」
「そ。尋問してアジト聞いていい?」
「そ、それはどういう事ですか?」
慌てて問買える自衛隊員に、ポイポイは一言。
「だって、まだ魔法陣使えて飛んでくる兵士も残っているっぽいよ。ヒトラーはまだどっかに生き残っているっぽい?」
その言葉に真っ青になる隊員。
すぐさま敷地内で待機している84式指揮通信車に走ると、今のポイポイの話を防衛省へと送った。
「‥‥今更驚く程のものではないっぽいよ。それよりも、もっと大変な事があるのに‥‥」
そう呟いて、ポイポイはテーブルに戻る。
「もっと大変なことですか? また何かあるのですか?」
古屋が問い掛けると、ミアとポイポイは静かに頷く。
「ゲルマニアでの戦いで、かなりの血が流れましたよね? そこでヒトラーが不死者創造を発動しました。その影響下でゾンビやスケルトンが生まれていたでしょ? 多分あの魔法陣で土地が不浄になったので、近いうちにあの国はアンデットの徘徊する国になるっぽいよ」
「そうですよね。エルダーリッチに滅ぼされた国の伝承とかにもありますから」
ウンウンと頷くミアとポイポイ。
「そ、その事は小野寺さんは?」
「知らないかなぁ。あの土地で死んた者なら魂が負の領域に引っ張られているかもしれませんから」
「まあ、あの場で燃やせば問題ないけど、勝手に国に連れて帰ったりして埋めたりしたら‥‥ぱんでみっく?」
ポイポイさん、それ少し違う。
その二人の話を聞いて、古屋はすぐさま指揮車両へと走っていった。
○ ○ ○ ○ ○
――ウォォォォォォォォォォォン
深夜のゲルマニア、ベルリン郊外。
郊外型大型ショッピングセンターの駐車場では、調査部隊が仮設のベースキャンプを作り、本格的に調査を開始していた。
その日の調査は終わっていたため、歩哨を立てて睡眠を取っていたのだが。
「‥‥何の声だ?」
「さあな。狼か野犬か、そのどっちかだろうさ。この戦争で、郊外にもかなりの死体が転がっているからなぁ」
ーーカツーン……カツーン
暗い駐車場内を見回っていると、やはり敷地の外から声がする。
それも一つではない、かなり大量の声。
「お、おい!やっぱり何かおかしいぞ?」
「外からだろ?まさか武装親衛隊の残党でも?」
そーっと柵の近くに寄って外を確認すると。
ーーザッザッザッザッ……
建物に向かって、大量のアンデットがゆっくりと歩いて来る。
「う、うわぁぁぁぁ」
「バイオバザーっ、エマージェンシー、戦闘配備してくれっ」
走りながらベースキャンプに通信を入れると、すぐさま迎撃準備に入った。
………
……
…
「全滅?一体何があったのですか?」
ブレーマーハーフェンの本部で、国連平和維持軍司令・クリスティン・アールベックは偵察部隊からの通信に驚いている。
「ゾンビの群れ。大量のアンデットによる奇襲攻撃を受けたと。駐車場のベースキャンプは壊滅、残存兵力はショッピングモールに撤退して防戦中。急ぎ救出部隊を送って欲しいと」
「近隣の部隊に連絡して向かうように指示。せっかくヒトラーがいなくなって戦争が終わったというのに、何でゾンビの群れがいるのだ?」
拳を握り吐き捨てるように呟くクリスティン。
すると、別の通信兵が彼女の元に電文を差し出す。
「日本国防衛省からの緊急連絡です」
「何だ?こっちはゾンビの殲滅作戦を……何だと?」
手渡された電文の内容。
そこに記されている『アンデットによる被害拡大の危険性』『東京に現れた武装親衛隊』『ヒトラーがまだ生き残っている可能性について』の三つに目を奪われる。
書いていたのが日本人の科学者なら笑い飛ばすこともできる。
だが、情報ソースはカリス・マレスの人々、異世界大使館のマム・マチュアの部下によるもの。
ならばおいそれと無視する事は出来ない。
「装備変更、北海沿岸の第七艦隊に緊急要請。対地用爆装およびナパーム弾の投下作戦を実施します」
クリスティンの言葉で、戦時中のような慌ただしさが起こった。
そして、クリスティンは国連軍全てに向かって、同時通信で叫んだ。
「これより国連軍はデフコン4からデフコン3に移行。ゲルマニア全域の調査を開始します。仮想敵は統合第三帝国、繰り返す、仮想敵は統合第三帝国……」
これにより、各方面から作戦行動についての情報開示および作戦開始に至った経緯を求められると、クリスティンはただ一言。
「地球の友であるカリス・マレスの助言だ。信じない道理があったら教えて欲しい」
とだけ伝えられた。






