変革の章・その10 人智などとっくに超えている
セカンドストライク作戦もいよいよ最終ステージ。
衛星軌道から確認している第三帝国の地下施設。
秦朝共和国郊外にあるその位置に向かって、ルシア連邦とアメリゴの爆撃機が飛来した。
レーダーでは捉える事が出来ず、地上で待機していた第三帝国の機動兵器も、突然の集中爆撃に対抗することが出来なかった。
――ヒュルルルルルル‥‥ドッゴォォォォォォ
対地下施設用の地中貫通爆弾‥‥通称バンカーバスターの連続爆撃により、地下施設および地下燃料施設は爆発。
巨大な爆発が連鎖して発生し、そしてトドメの巨大な爆発。
これにより地下施設のあった場所には巨大なクレーターが完成。
そして指揮系統を失った機動兵器群は、今までのような統制の取れていた動きからてんでバラバラの動きになる。
これを見逃すアメリゴとルシア連邦ではない。
すぐさま日本海上で待機していたアメリゴ第七艦隊とルシア連邦の空母アドミラル・クズネツォフから対地爆装を行った戦闘機が次々と出撃。
これで秦朝共和国は、その長かった歴史に幕を閉じた。
――ピッピッ
『マスターコントロールより第七艦隊へ。ゲルマニア方面軍は完全に沈黙。機動兵器との戦闘により国連軍部隊は壊滅。引き続き作戦を遂行するよう』
「了解。旗艦フィッツジェラルド、任務を遂行する」
『神は我が手に‥‥オーバー』
――ピッピッ
ドサッとキャプテンシートに腰掛けるスタンリー少将。
ここまで払った犠牲は大きく、手放しで喜べるものではない。
それでも、目の前に勝利が見えると、つい口元が緩んでしまう。
「対地攻撃部隊および秦朝首都制圧部隊により秦朝軍は完全に沈黙。魔法鎧小隊も任務完了、帰還準備に入ります」
「了解。全機回収後、本タスクフォースは北海に向かい第六艦隊に組み込まれる。各員準備を怠らないよう‥‥」
そう指示すると、スタンリーはキッと表情をきつくする。
まだ、全ての機体が戻るまでは、手を緩めてはいけない。
‥‥‥
‥‥
‥
ゲルマニア・ブレーマーハーフェン。
北海に面している、国連軍が駐留している港湾都市。
そして現在のゲルマニア解放作戦の拠点となっている。
港湾施設および海上には、各国の戦艦や駆逐艦、巡洋艦などから集まっており、次段攻撃の準備を開始していた。
ベルリン方面へ向かった機甲部隊と、各国の爆撃機による奇襲作戦により一旦は優勢に見えた国連軍であったが、魔法陣による機動兵器と武装親衛隊による立体的奇襲攻撃により、国連軍は挟撃を受けてしまう。
ここから戦線は後退を開始、ハンブルグとハノーヴァー、ライプツィヒを結ぶラインまで押し戻されると、第三帝国軍は各都市に対しての進撃を開始、接収したレオパンドン2による戦線押し出しを始めていた。
‥‥‥
‥‥
‥
「戦線の維持を最優先。防御の薄いところに援護を回してください」
ブレーマーハーフェンの本部で、国連軍司令・クリスティン・アールベックは苦悩している。
相手は第三帝国を名乗るテロリストと判断したため、各国の精鋭によって編成された国連軍がここまで押されるとは予想もしていない。
しかも、未確認機動兵器の運用や武装親衛隊による奇襲攻撃など、いかにも第二次世界大戦時の旧ゲルマニア軍の戦争をなぞっているのが、気に食わない。
「司令、アメリゴ第七艦隊から入電。秦朝共和国を完全制圧、第七艦隊およびルシア艦隊は北海まで移動を開始するとのことです」
――パン
「よし、これで形勢は逆転できる」
手を叩きながら呟くクリスティンだが、通信兵の表情は曇っている。
「どうした?まだあるのか?」
「はい。秦朝共和国の第二派攻撃時に合わせ、第三帝国は日本国に対して核融合爆弾を使用。首都東京上空で爆発するも、カナンのマム・マチュアの魔法結界によって被害はありません‥‥マムの死亡が確認されました」
その報告で、クリスティンはブルブルと震える。
核兵器の脅威などが魔法によって無力化出来る事が証明されたと同時に、それを出来る者が死亡した。
「もし、第三帝国が国連軍の、このベースに核兵器を使用した時。それは主要国を巻き込む核戦争につながる‥‥戦線を押し上げろ!!ベルリンまで押しまくれ」
その怒声が司令部に響くと、各方面オペレーターはすぐさま指示を飛ばし始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「もう、核ヘーキは来ないっぽい?」
核攻撃を受けた翌日早朝。
ポイポイは自活車の外で、足を運んでくれた小野寺防衛大臣に問いかける。
ポイポイはツヴァイの命令で、国会議事堂前結界の責任者となったのである。
「分かりません。秦朝共和国は完全に沈黙し、地下軍事施設も破壊できました。ですが、また核兵器がやって来る可能性はあります」
流れる冷や汗を拭いながら、小野寺が説明する。
その上で。
「もし、次も核兵器を封じ込めて欲しいという依頼をするとしたら、依頼料はどれぐらいになりますか?」
そう問いかける。
すると、ポイポイは首をカクンと捻りながら一言。
「ポイポイ、人一人の命の値段なんてわからないっぽい。この街にはどれだけの人がいるの?」
「大体ですが、千二百万人かと」
「それだけの人の命の価値は?それが依頼料っぽい」
そう話して、ポイポイは朝食を食べるためにテーブルに向かう。
佐藤アナやYTVのスタッフ、ミア、古屋、蒲生も席に着いて先に食べ始めている。
「蒲生さん、何でこの非常時にのんびりと食べられるんですか?」
黙々とサンドイッチを食べている蒲生を見て、小野寺は怒鳴り声をあげるのだが。
「今更慌てたってしゃーないだろう。人事は尽くしたんだ、後は天命を待つしかねーだろう」
「そんな悠長な事を。今、国民はですね、もし次に核が来た場合どうしたらいいか怯えているんですよ?それを国のナンバー2がのんびりと‥‥」
「ミサイル護衛艦の残弾は?」
「もう一回の出撃分です。PAC3は全弾撃ち尽くしました」
そう呟くと、蒲生はムシャッとサンドイッチに齧り付く。
「お手上げじゃねーか」
「だから慌ててるんですよ。カナンに助力を仰ぎたいのです」
「だったらここじゃなく皇居側に行きゃあいい。責任者はツヴァイさんだろうが」
「もう断られましたよ。あの結界はマチュアさんしか作れませんってね」
それで困り果ててここまで戻って来て、駄目元でポイポイに頼み込んだらしい。
「ポイポイさんは幻影騎士団の方ですよね?ミナセ女王に頼めませんか?」
「無理っぽい。残りの騎士団は王城待機任務、騎士団クラスの魔力保持者は存在しない。そんな化け物相手に戦える人なんて‥‥ストームさんだけ」
「なら、そのストームさんに依頼を」
「単独任務で別大陸で戦っているっぽい。あ、ロットも一緒か。どのみち無理っぽいよ?マチュアさんの言葉で言うなら、詰んだっぽい」
あっさりと呟くポイポイ。
小野寺は横のミアを縋るように見るが、ミアも首を左右に振る。
「マチュアさんの保有魔力は桁が違うんですよ。私でさえようやく七百ラインです。でも、マチュアさんの魔力は今では三十万超えてます。その魔力でやっとあの結界が作れます」
維持にはそれほど掛からない。
それでもミアとポイポイの魔力の大半は失われている。
「ふぅ。色々と無理なお願いをして申し訳ありませんでした。では‥‥」
小野寺はそう頭を下げて、その場から離れる。
それを見送ると、蒲生はコソッと声を落としてミア達に一言。
「それで、マム・マチュアはまだあの中なのか?」
「わからないっぽい。いるかもしれないし、いないかもしれない」
「私達にもわからないのですよ」
ふむ。
それならそれで蒲生には考える事があるらしい。
「それじゃあ、今日の国会を荒らすとするか」
ゴキゴキッと首を捻ると、蒲生はご馳走さまと一言告げて議事堂に向かった。
「‥‥何気なく話聞いてますが、これって報道していいのですかねぇ」
佐藤アナが食後のコーヒーを飲みながら一同に問いかけるが。
「事実のみを報道するのなら構わないと思いますよ。けど、その結果起こる混乱も考えてください。報道内容によっては、活かせる命すら失わせてしまいかねませんからね」
古屋がそう話してから、食後の片付けを始める。
そしてそれが終わったのち、一同はいつでも動けるようにスタンバイを開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
午前11時。
国会質疑答弁は盛り上がっていた。
「今回の戦争により、多くの命が失われました。自衛隊は軍事力ではなく自衛力であると言っていましたが、全然自衛出来ていないではないですか」
野党のおばさん議員が金切り声をあげて叫んでいる。
「総理、この事についてお答えいただきたいです。国としてどう責任を取るのかと」
その問いかけに、阿倍野総理ではなく小野寺防衛大臣が立つ。
「総理、私は総理に質問しているんです。防衛大臣は下がってください。総理、明確な回答をお願いします」
そう叫ぶ議員を無視して、小野寺防衛大臣が壇上に上がる。
「さて。以前あなたが仰っていた装備削減案、日本は防衛にせよ兵器を持つべきではない。確か貴方達が政権を取っていた時代に防衛費は大きく削られましたね? その後政権が変わったにもかかわらず、防衛費は削られたまま。以上、それが答えです」
そう告げて椅子に戻ると、すぐさま反論を持ってくる。
「明確な回答ではないですね。はっきりと責任について回答をお願いします」
「ならば。防衛省の計算では、後PAC3迎撃ミサイルが120発あれば、最後の核爆弾以外は防衛は可能性はありました。魔法に対しての防衛能力は予算に計上されていません。政府与党としては防衛予算を増額しなかったことを謝罪しますが、話し合いで解決できる、防衛力は不要と申した貴方達の明確な謝罪をいただきたい」
「い、今はそんな話をしている場合ではありません。多くの人が死んだのです。それすら守れない自衛隊は不要だと申しているのです」
――カチン
あ、小野寺さんが切れた。
真っ赤な顔で壇上に上がると一言。
「‥‥ふざけるなババァ。今回の秦朝共和国と第三帝国の攻撃でどれだけの命が失われたのか知っているのか?報告を受けている限りでも、死者は一万人弱、負傷者合わせると三〇万人は超える。だが、その影で、一人で千二百万人を助けた人もいるんだ‥‥」
「わ、私をババァ呼ばわりした事は後日謝罪してもらいます。死傷者がそこまで多くなった政府の避難誘導の失敗も取り敢えず置いておきます。では、その一人の持つ力があれば、確か魔法ですよね? 魔法があれば自衛隊は不要だと認めますか?」
その言葉に、小野寺は頭上を指差す。
すると、議員達はすぐさま上を見る。
「上空300mに、核融合状態の結界球が浮いてます。あれはマム・マチュアが命がけで核ミサイルの火力を閉じ込めました。内部はプラズマ融合炉のような状態だと専門家は話しています」
「それが?」
「結界が消滅すると、ここを中心に直径30kmのクレーターができるそうです。ちなみにマム・マチュア以外はあれは作れない、次に核爆弾が魔法陣から降ってきても、起爆までの時間が短ければ、異世界大使館では守れないという結論が出ています」
その説明にざわつく議員。
その中には、すぐにでも逃げようと及び腰になっている者すらいる。
「そんな魔力保持者は、カナンでも一人二人、地球人では体質的に不可能です。それを今から、使えるレベルまで鍛え上げると」
「そうですね。自衛隊の予算を計上すれば可能ですわね」
「ならそうしなさい。以上です」
はあ?
まさかそんな回答が来るとは思わなかったのだろう。
驚きのあまりキョトンとしているが、すぐに正気を取り戻して壇上に上がる。
「で、では、今回の犠牲者は自衛隊のミスであると認めるのですね?」
「やる事はやりました。ミスがあるとすれば、過去からの政策を無視して予算を取れば良かったという事、民生費を削減してでも、もっと防衛費を計上し、ミサイル防衛装備を増強していればミサイル防衛はより確実に行えたという二点に尽きます。尚、現在、各方面師団は被災地復興に尽力しています事を、ここで伝えておきます」
それ以上は小野寺は出ない。
代わりに蒲生が壇上に上がる。
「さて、うるせぇババァはとりあえず置いておくとして。現在日本国では、各地の被災者に対しての様々な援助も検討しています。出来る限りの事はやるべく、尽力を尽くす次第ですので、それまでお待ちください」
そう話すと、先ほどまで叫んでいた議員が壇上に上がる。
「またババァと言いましたね? 災害復興は当たり前田のクラッカーじゃないですか。それを今更ここで告げる必要があるとは思えません」
「え〜。私は貴方のことをババァと申したつもりはありませんが、どうやら自覚があったようで。それとなぁ、今、災害復興しているのは、あんた達が違憲だと話している自衛隊だよ。散々違憲だ違憲だと騒いでいる連中、悪いがそこまで反対するのなら助けの手が差し伸べられても突っぱねるぐらいの気合を見せろよ?以上です」
またしても蒲生の話のすり替えが成功し、ここからは更に白熱した意見のやりとりが行われたが、既にタイミングを逸した野党に勝てる見込みはなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
意識が混濁する。
正常な思考が失われ始める。
もうどれぐらい、この場所にいるのだろう。
周囲はプラズマによって白く輝き、何も見えない。
――スッ
すると突然、目の前に白亜の空間が広がった。
『私の声が聞こえますが‥‥貴方の命はもう尽きようとしています‥‥ですが、今一度、奇跡を与えましょう』
男性とも女性ともつかない声がする。
だが、何処にも姿は見えない。
「え~っと‥‥悪い冗談だよなぁ」
ポリポリと頬をかくマチュア。
すると、再び声が空間に響き渡った。
『貴方はこれから、ある世界に転移します。そこで貴方は魂の修練を行ない‥‥』
「ちょっと待った!!」
その声の途中で、マチュアは力一杯叫ぶ。
『え、ど、どうしましたか?』
「どうもこうもないわ。あんたは何処の神様だよ、ちょっと創造神呼べ、マチュアが呼んでいると言えばわかるから!!」
『え、は、はい‥‥私はジ・アース世界を統べる大地母神‥‥どうやら貴方は創造神さまを知っているようですね?』
マチュアの迫力に押されたのか、異世界の大地母神が創造神を呼びに行ったようだ。
『さて、私を呼ぶのは‥‥何じゃマチュアか。そんな所で何している?』
おっと。
いつも聞いている、いつもの声。
創造神様がやってきたようだ。
ならば話は早い。
「そんなもこんなもないわ。何かの手違いでまた『魂の修練』を受けさせられる所だったわよ。とっとと戻してちょうだい。どうせ時間は進んでないのでしょう?」
暫しの沈黙。
恐らくは創造神が、事実関係を調べているのであろう。
『だそうじゃ。ガイア、このものはカルアドの秩序の女神でカリス・マレスの亜神、魂の修練対象にはならない』
『そ。そんなぁ。これほどの魂の質があれば、修練も可能なのですが‥‥マチュアさん、人智を超えた力は欲しくないですか?』
「もう持ってるし、そもそもあの程度ピンチでもないわ。魔障酔い起こして身動き取れないだけだから、回復したらすぐに反撃に出るわよ」
ゴキッと拳を鳴らす。
『そ、それなら、そっちが終わったらどうかしら? どう? 今ならジ・アースの神々の加護フルセットつけるわよ』
突然、威厳も何もかも捨てて擦り寄るガイア。
だが、その程度では揺るがない。
「私、まだやる事あるので。それ終わってからなら、少しは遊んであげるけど。魂の修練はご遠慮させてもらうわよ」
『そ、そんなぁ‥‥創造神さま、どうにかなりませんか?』
どうやら創造神に食い下がっているようである。
だが、こればかりは例外は認められない模様。
『残念だが、亜神は魂の修練対象にならない。という事でマチュアは元に戻すので、別の魂を求めなさい‥‥』
『はぁ。なら、せめて、たまには遊びに来て少しだけ手伝って。困っている人々に救いの手を差し伸べて頂戴ね』
その声と同時に、マチュアの手の中に虹色に輝く鍵が現れる。
『まあ、その程度なら構わんじゃろ、さ、止まっている世界を戻すぞ‥‥』
‥‥‥
‥‥
‥
「うおわっ!!」
プラズマの中で、マチュアは意識を取り戻す。
全身汗だらけ、もうそれはびっしょりと。
「何だ今の、夢か?夢だな‥‥」
ゴキゴキッと拳を鳴らす。
魔力はまだ1/10も回復していない。
神威に至っては発動すら出来ない。
「念話‥‥も使えない。プラズマって魔力を阻害するのか?」
すぐさま深淵の書庫を起動しようとするが、それさえも起動しない。
「ふむふむ‥‥魔力回路は正常、魔障酔いからは醒めたが、魔力は回復していない‥‥あ〜っ、魔力回復ポーション使っておけばよかった。エリクシールとか作っておけばぁぁぁぁ」
結界の中で絶叫するマチュア。
だが、こればかりはどうしようもない。
地球圏での魔力回復力はごく僅か、定期的にカナンに戻って回復しているから維持できるのであって、現状ではこれ以上の回復は見込めない。
暫し考える。
何か忘れている。
そう、切り札を忘れているマチュア。
「まあ、考えてもわからない事は仕方ないかぁ」
いそいそと汗まみれの衣服を脱ぎ捨てると、汗を拭ってから別の衣服を身に纏う。
「さて、一つずつ自分の力をなぞってみますか」
そう呟くと、マチュアはゆっくりと意識を集中した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
夕方。
傷心の小野寺が、トボトボとポイポイの元にやって来る。
「あ、おのでらさーん、話し合い終わった?」
楽しそうに問いかけるポイポイ。
だが、小野寺は汗を拭うだけである。
国会では、どうにかカナンを説得して日本全域を結界制御球で包みたいという野党と、そんな予算も魔術師もいないという与党で完全にぶつかった。
防衛予算全てを回せば、日本全域を結界制御球で包み込む事は出来るという、どこかのおばさん議員が叫んだのをきっかけに、またしても自衛隊不要論が発生したのである。
本当に何処からでもネタを探すものだと、蒲生が感心する始末である。
「はい、現状維持でお願いします」
きっぱりと告げる小野寺。
もう余計な事をするのはやめたらしい。
「ならオッケーっぽい。でも、もう核爆弾は飛んで来ないって古屋くんが話していたよ?」
え?
どういう事?
「そ、それはどういう事ですか?」
小野寺は、近くのテーブルでお茶を飲んでいる古屋に問いかけてみる。
「簡単に説明しますと。ゲルマニアの核基地はブューヒェル空軍基地、そこにある航空機用掩蔽シェルターを核兵器備蓄用に使っているのですよ」
そう説明する古屋。
なお、情報元は高畑と池田の模様。
「そんな情報をどうやって?」
「ソースは教えられませんが、ゲルマニアの核は管理こそゲルマニアですが、使用許可はアメリゴです。ニュークリア・シェアリングといいましてね。そこの空軍基地は現在、国連軍の空軍施設として使用されています」
その説明で光明を見出す。
ならば、堂々と国防に集中できる。
「後は国連軍の動きだが‥‥」
「どうなるかわからないっぽいよ?」
ウンウンと頷く小野寺。
だが、アメリゴでは、静かに次の作戦が発令していた。
‥‥‥
‥‥
‥
ニューヨーク・ホワイトハウス。
その大統領執務室で、ロナルド大統領は報告書に目を通していた。
「セカンドストライク作戦により秦朝共和国は機能停止‥‥ゲルマニアの国連軍は後退か」
それらの報告書の中の、日本における核爆弾の被害について記されている部分で、ロナルドは目を止めた。
「マム・マチュアが命を捨ててまで核爆弾から日本を守ったか。その気概、アメリゴとしても見捨ててはおけない」
その言葉と同時に、国防長官が室内にやって来る。
「大統領、ご決断を」
「ああ。サードアタック作戦を発令する。MOABの準備完了と同時に発動する」
MOAB‥‥大規模爆風兵器。アメリゴ空軍の保有する大型燃料気化爆弾。
核を除けば、恐らくは世界最強の破壊兵器。
それの使用許可が下りたのである。
すぐさま各方面に連絡が始まると、大統領は窓辺で空を見上げていた。
‥‥‥
‥‥
‥
『マスターコントロールより各位に通達。我がアメリゴはオペレーション・サードストライクを発令した。各位は今回の作戦のために最善を尽くせ』
『戦略空軍司令部、了解。指定機体は直ちにMOAB装備に切り替える』
「戦略空軍基地、アストラムの爆弾倉へのMOAB搭載開始。ラストコールを待つ」
『了解。世界の平和のために、all over』
ふう。
最後の戦いとなるか、再びの作戦失敗となるか。
この作戦が通常戦争としては最後の切り札。
巨大な駐機場の中で、ステルス戦略爆撃機・B3アストラムは急ピッチでMOABを搭載している所である。
「作戦の切り札が、こいつで良かった。もしあっちを使うと言われたら、私は速やかに指示に従っていたかわからない」
戦略空軍基地司令官は、基地司令室で静かに呟いている。
魔法鎧小隊も特殊任務の為、フィッツジェラルド任務群と共に北海に向かった。
「司令、MOAB搭載と補給、整備に20時間掛かりますと整備部から報告が上がってます」
「了解。くれぐれも事故のないようにと連絡してください」
「了解です‥‥」
通信員が司令官の元から離れる。
サードストライク作戦についての情報を受け取ったローレンス司令官は、ゆっくりと、机の上にある写真を眺める。
そこには、マチュアが横須賀基地にやって来たときの記念写真が飾ってあった。
「さて、マム・マチュア、貴方が命を賭してまで守った日本、私も出来る限り守ってあげましょう‥‥」
そう呟くと、写真立てを静かに伏せた。
さて。
ロナルドといいローレンスといい。
後からマチュアにどんな仕返しをされるか楽しみである。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






