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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第9部 三つの世界の物語
235/701

変革の章・その8 魔術師キラーとケンプファー

 マチュアが銃弾に倒れた翌日の朝。


 自活車と結界制御球(プロテクトオーブ)の周辺では、現場検証をしている警察官の姿があった。

 その横では、ミアとポイポイが朝食の準備をしているところである。

 器用にバーベキューコンロでトーストを焼き、ベーコンエッグとサラダを用意しているミア。

 その近くでは、先日の出来事について警察官に説明をしているポイポイの姿があった。


「それで、捉えた兵士は?」

「自活車の中に放り込んでいるっぽいよ」

「では、それを引き渡して欲しい。テロリストなので、日本国で正式に取り調べさせて貰う」

 そう問われると、ポイポイは頭を捻っている。

「ん~、マチュアさんに聞いてくるっぽいよ」

 そう返答して自活車に向うと。

 ちょうどマチュアが二人の兵士を引きずって外に出てきた。

「車の中まで聞こえているわよ。ほら、引き渡すので上手く話を聞き出してね」

 ドサッと車の外に放り出す。

 すると警察官はすぐさま兵士たちを引きずって連れて行く。

「マム・マチュア、ご協力感謝します」

「はいはい、何か判ったら連絡くださいな」

 そう話してから、マチュアは警察官を見送った後、朝食を取る為にテーブルについた。

「あ、マチュアさん、もう身体大丈夫なのですか?」

 ちょうど朝食の準備を終えたミアが、マチュアの元にフレッシュジュースを差し出した。

 それを受け取って一口飲む。

 カリス・マレスのオレンジジュースとは違う、マチュアの知っている味。

 濃縮還元ならではの味わいがある。

「さてと。昨日あれだけの啖呵を切ったんだから、第三帝国も動くでしょうねぇ」

 ため息を吐きながら呟いていると、やがて議事堂敷地内に次々と中継車がやってくる。

 すると、既に待機していたYTVの佐藤忍アナウンサーがマチュア達の元に走ってくる。


「マチュアさん、早く避難した方がいいです。昨夜のドンパチをカメラで収めてた局があって、朝一で流れたんですよ」

 息を切らせながら、佐藤アナはマチュア達に告げる。

「ファ?そうなの?あの戦いが放映されたの?」

「それもありますが、ここのマム・マチュアが大使館の方ではなくカナンの女王という噂が流れてます‼︎」

 はぁ?

 なんでそんな噂が?

 首を捻っているマチュアの背中を、ミアとポイポイが押していく。

「車に逃げますよ」

「何が何だかさっぱりっぽい‼︎」

「そうだねぇ。どうしてそうなったんだろ?」

 すぐさま自活車に入ると、間一髪で取材陣が駆けつけてくる。

 すると事情を察した自衛隊員が、報道関係者を後ろに下がらせた。

 進入禁止テープで自活車を囲うと、隊員が自活車までやってくる。

「マム・マチュア、取り敢えず一時的には取材陣を下げました。ですが、一言貰うまでは離れないと思われますが」

 若い自衛隊員が敬礼しながら報告するので。

 ならばとマチュアは一言。

「あ〜、信用できる報道陣と話ししたいから‥‥YTVとKHKの進藤だけ通して」

「了解」

 すぐさま隊員は報道関係者の元にかけていく。

 やがてYTVの関係者だけがやってきた。

 そっと自活車に乗り込むと、ミアがティーセットを用意する。

「おや?KHKの進藤は?てっきり来ていると思ったんだけどなぁ」

「進藤なら、多分北海道番だから来てないんじゃないかなぁ。 マム・マチュアに気に入られたって話ししたら札幌支局に転属させられたから」

「代わりの人なら来てますけど、進藤じゃないという事で自衛隊員に不許可言い渡されてましたよ」

 それは残念。

 いやぁ、実に残念である。

 そんな事を聞いていると、ミアが三人にアプルティーとレモンパイを差し出していた。


「どうぞ、これはミスト領産のアプルティーです」

「これは丁寧にありがとうございます」

「でも、何でわたし達だけ通してくれたのですか?」

 ADと佐藤アナがマチュアに問いかけると。

「下衆な記事とか書かなさそうだから。後は根掘り葉掘り聞いて来てしつこいから無視。そもそもわたし達は狙われているんだから、あそこにいると巻き込まれて死ぬよ?」

 その説明にコクコクと頷くと、佐藤アナが一言。

「マム・マチュアとカナンの女王が別人なのはわたしは知っています。第15査察団で民間からも向かった際に、わたしもカナンに行ったことがあります。その時にマム・マチュアとミナセ女王が親しそうに話しているのを見た事がありますので」

 おや。

 そう言えば、そんな事あったなぁと思い出す。

 ならば話は早い。

「カメラ回していいわよ。その事を説明してくれればおっけ。白銀の賢者の称号を名乗ったのも脅しだし。ミナセ女王からは異世界の全権を委ねられているので問題はないわよ」

 すぐさまカメラを回す。

 しかも番組差し込みで生中継である。


「戦時なので明るい話題が欲しいのもわかるけれど、私とミナセ女王は別人、カナンに来た事のある方ならすぐ分かるわよ。まあ、白銀の賢者の称号を名乗っても問題ないとは言われているからね‥‥」

「では、昨日の戦闘ですが、今後はどうする予定ですか?」

「一ヶ月は議事堂待機、そういう契約なのでね。なので結界を張っている場所以外が襲われてもどうする事も出来ないので。そこは自衛隊の皆さんを信じてください」

「成程。この結界の有効半径はどれぐらいですか?」

「半径2kmの円の中なら安全は保証してあげる。けれど、昨日みたいに結界の中に魔法陣による転移をされた場合は保証できないので。結界外からの物理攻撃は防げるから、もし結界内で怪しいものを見たらすぐに警察に通報してください」

「ゲルマニア解放のために国連から支援要請があった場合は?」

「地球の戦争にカリス・マレスは関与しない。日本を守っているのは『依頼』があったから。正確には結界制御球プロテクトオーブを発動しているのは依頼だからという事ね」

「では一旦スタジオにお返しします‼︎」


 中継ランプが消える。

「さて、ミア、朝ごはんにしましょう。佐藤アナ達も食べる?」

「ありがたくいただきます」

 すぐさまマチュアが空間からターキーサンドとクリームシチューを取り出す。

 それをミアが盛り付けると、YTVの三人にも差し出した。

――フワッ

 暖かいクリームシチューの香り。

 そしてターキーサンドのスパイシーな香りと混ざり合い、思わず食欲が湧いてくる。

「あの、これも異世界の料理ですか?」

「そうですよ。マチュアさんはカナンでは宿屋も経営しているのですから」

「モグモグモグモグ‥‥」

 後ろでは既にポイポイがターキーサンドを食べている。

「これも撮影したいけどなぁ。まあ、無視だ、食べる」

 黙々と食べ始める一行。

 やがて食事も終えると、外の報道関係者も撤収を始めていた。

 緊急生中継が効いたらしく、撤収指示が出たようである。


「よしよし。自社以外でトップニュースを取られたら、そりゃあ怒鳴られて帰って来いってなるわ、ごめんね巻き込んで」

 マチュアがYTVの三人に両手を合わせて謝る。

 これには三人も慌てて、マチュアに頭を上げるように伝えた。

「うちは良いんですよ。そもそもこの取材だって、局からは一ヶ月は帰って来るなって言われていたんです」

「それはまた。宿は?」

「ありませんよ。いつ何があるかわからないから、中継車の運転席の後ろの仮眠ベットですよ。後は車内にダンボールと布団を引いてかな?」

 それはきつい。

 男ならいざ知らず、女性でそれはキツすぎる。

 ならば、それも今日から解消してあげよう。

「むぅ。なら、佐藤アナは今日からこの車内で休んで良いわよ。ここは宿泊可能、シャワーもトイレもあるからね」

「え?そ、そこまで甘えるわけには行きませんよ」

「いいのいいの。ADさん達は男性なのであっちで我慢して、そのかわりご飯は一緒しましょう?」

 このマチュアの申し出には、一同ありがたかったのだろう。

「マム・マチュア、ありがとうございます」

「佐藤アナがいない分広く使えるから、こっちも身体が休まりますよ」

「それは重畳。さて、外も静かになったので、そろそろ仕事場に戻りますか」

 マチュアがそう話していたので休憩はおしまい。

「AD君、もしYTV本社が別のスタッフを送って来ても話しないって伝えておいてね。この三人だから私は話するの。そっちの都合なんて知らないってね」

 先にYTV本社に釘をさすマチュア。

 会社や組織の評価は二の次、人と仕事をするのがマチュア流。

 なので、ここで売れっ子アイドルやアナウンサーを派遣したらそれまでである。

「では、本部からの連絡にはそう伝えます。紅茶ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げると、三人は自活車から外に出て、中継車へと戻っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



 少し前。

 札幌・異世界大使館の早朝。


 早朝のロビーでは、夜勤の十六夜と何故か遊びに来ているカレン、シルヴィーが朝の情報番組を眺めている。

「うっわ、これは最悪ですわ」

「しかし、テレビと言うのはすごいのう。妾も欲しいぞ」

「シルヴィー様、ベルナーには電波が届かないから無理ですよ。でも、このニュースはまずいですねぇ」

 やっているのは昨夜の議事堂襲撃事件。

 そこでのマチュアと敵対勢力とのやりとりが克明に映し出されている。

 その中でのマチュアの啖呵が議論を呼んでいる。

――モグモグ

 厨房から持って来た、ティラミスの入っているケースを抱えて食べているシルヴィー。

 その横ではカレンが歌舞伎揚を齧りながら番組を眺めている。

「あの、マチュアさんの正体って、カリス・マレスでも殆ど知られていないのですよね?」

「ええ。公式にはカナンの女王はミナセ女王、酒場・馴染み亭のトリックスターのマチュアさんとは別人となっていますが」

 そうカレンが告げるが。

「カナンの古くからの住人も馬鹿ではないわ。マチュアが事情があってそうしているんだなあと理解している者の方が多いわ。そもそも各地のギルド員は全員知っておる、バレてない訳がなかろう」

 りんごジュースを飲みながら一息いれるシルヴィー。

 それにはカレンもウンウンと頷いている。

「なら、無理して隠している必要なんてないのでは?」

「身分や立場で対応を変える者が多い世界。そんなものには縛られとうないのぢゃろ。妾だって、ベルナー女王という立場で接してくる者の方が多い」

「昔からの領民にとっては、シルヴィーお嬢さん程度ですけどね」

 クスッと笑うカレン。

 そらにはシルヴィーも顔を真っ赤にしている。

「そ、それを言われると‥‥もう、妾のことは良い‼︎問題はマチュアぢゃ。これからどうするのか、大変ぢゃよ」

 暫くは情報番組を眺めている。

 やがて、職員達が出勤してくると、シルヴィーとカレンに挨拶をして事務室に入っていく。

 それを見ていると、ふと、番組で緊急生中継が入った。


「お、マチュアぢゃ‼︎」

「あら本当、お元気そうで何よりですわ」

 元気そうな顔を見て笑うふたり。

 そしてその生中継の中でマチュアが声明を出したのを見て、二人はふむふむと納得していた。

「杞憂ぢゃったな。マチュアはやっぱりマチュアのままぢゃ」

「そのようで、さて、どこかに遊びに行きますか?」

 そう二人が話していると、後ろから三笠が声を掛けた。

「申し訳ないですが、大使館の外への外出はご遠慮願えますか?」

「おお、三笠どの。それは何故ぢゃ?」

 キョトンとした表情で問いかえすシルヴィー。

 すると、三笠は真面目な顔で一言。

「昨晩のマチュアさんと第三帝国の戦いで、異世界大使館は第三帝国を敵に回しまして。お二人のような要人を護るだけの警備員はいません。いつ、どこで襲われるかわからないのですよ?」

 それだけ危険が伴う。

 それを理解している三笠だからこそ、二人にはこの建物から出て欲しくはない。

「それもそうぢゃな。ではカレン、帰るとするか」

「そうですわね。マチュアさまが元気そうで何よりですし。では失礼します」

 そう頭を下げると、カレンとシルヴィーは転移門ゲートの向こうへと帰っていく。

 それを見送ると、十六夜も事務室に入ろうとしたのだが。


――キィィィン

 ロビー中央に開く魔法陣。

 それはマチュアがいつも使うカナン式ではない、地球の魔法陣である。

 そこから第三帝国のプロテクターを付けた三人の兵士が姿を現すと、すぐさま十六夜と三笠に向かってマシンガンを構え。


――Broooom

 周囲に斉射した。

 調度品や絵画、テレビモニターなどが次々と破壊され、壁全体に弾痕が広がっていく。

 だが、その場には三笠も十六夜の姿も無くなっていた。

「やっぱり来るとは思いましたよ‥‥」

 兵士の背後の影から飛び出すと、十六夜はすぐさま一人の影に向かって闘気の苦無を飛ばした。


――ストーン

 これで一人の影は縫い込まれ、身動きが取れない。

「マチュアさんが襲撃を受けたと聞いてましたので、ここも危険だと判断していましてね、領事部の職員は別の場所で仕事していますよ」

 真後ろの壁に立って、兵士たちを見下ろすように呟く三笠。

「さて。それでは、まずは武器を下ろしてください。そして動かないように‥‥」

 そう呟いて指をパチーンと弾く。

――グッ

「ご、ご、こ、れ、ば‥‥」

 何かを叫ぼうとするが声にならない兵士。

 一人、また一人とマシンガンを床に置く。

 それを確認すると、事務室から全身鎧の騎士が飛び出し、マシンガンを全て拾い集める。

「よし。幽玄騎士ランスロット 、スタンバイ。少しでも抵抗しようとしたら、殺さない程度に痛めつけてください」

 高畑も事務室から出てくると、ランスロットの回収したマシンガンを全て受け取って事務室に運んでいった。

「しかし、相手が悪かったですね。普通の警官や自衛隊、機動隊なら制圧できたでしょう。けれどね‥‥」

 事務室から高嶋と池田も出てくる。

 そして身動きの取れなくなっている兵士たちを高嶋が正面から殴り飛ばす。


――ドッゴォォォォォォ

 その一撃で、殴り飛ばされた兵士は運動機能が麻痺した。

麻痺強撃スタンブローといってね。普通の人間なら一週間は体内の神経節が麻痺する代物さ。さて、もう一人と‥‥」

 横の兵士の顔面も殴り飛ばす。

 これで二人。

 残りの一人に向かって拳を構えると。

「高嶋くん、後は池田さんの仕事ですので」

 と、壁をゆっくりと歩いて降りる三笠。

「そういう事ですので‥‥」

 池田もローブ姿で兵士の前に立つと、そのゴーグル越しに目を睨みつける。


「貴方たちは何者かしら?」

 そう問いかける池田の目が赤く輝く。

 彼女が冒険者ギルドに登録した時のクラス

 は催眠術師ヒュプノス

 魔力で瞳をいくつかの『魔眼』に切り替えることができる。

 赤い瞳は心に問う瞳。

 魔力抵抗の少ない者ならば、これに逆らうことはできない。

「統合第三帝国・武装親衛隊ケンプファー‥‥」

「貴方達の目的は?」

「世界統合。全てのものは、我が第三帝国の民となる。選ばれしものは地位も名誉も。そうでない者には死に等しい立場を」

「何故、ここを襲ったの?」

「分からない。Mine Furrerの命じるままに」

「意識を閉ざして。眠りなさい」

 池田の瞳が青く輝く。

 相手を催眠状態にして、命令に従うようにする。

――ガクッ

 その場に膝から崩れる池田。

 それを素早く抱き抱えて、近くのソファーに連れて行く高嶋。

「しっかし、凄いクラスだよなぁ。催眠術師ヒュプノスって」

「そのかわり魔力消費は半端ないですよ。モンスターには殆ど効果ありませんし‥‥」

 謙遜する池田。

 すると守衛室から黒川三曹が駆けつけた。


――ガチャッ

「高畑さんから許可もらいました‼︎」

 すぐさま倒れている兵士たちを捕縛すると、他の隊員が外で待機していた護送車に連れて行った。

「すぐ飛んでくるかと思ったのですが、そうですよねぇ」

 ウンウンと頷く三笠に、黒川三曹が敬礼する。

「私たちは突入許可を貰えないと入れないのですよ。事務室の高畑さんからの連絡があってようやくなんですから」

「まあ、ご覧の通りです。高嶋くん、後でリフォームセンターに連絡して、壁の修理をお願いしてください。皆さんは取り敢えず掃除を、十六夜さんはネットで代わりのモニターを注文してください」

 そう指示をしてから、三笠は自分の席に座る。

 初めての実戦であったが、予めマチュアから話は聞いていたし、何よりも大使館政治部職員のダンジョン研修は有効であったのが証明された。


――ピッピッ

「三笠です。マチュアさんに報告ですが、今、大丈夫ですか?」

『ほいほい、何かあったの?』

「先程ですが、統合第三帝国のケンプファーの襲撃を受けました。魔法陣から三名の武装親衛隊、あれがケンプファーと言うそうです」

『‥‥はぁ?襲撃?よく無事でしたね。被害は?』

「調度品と壁とテレビモニターですね、すぐに修繕の連絡入れましたので」

『と言うことは、怪我人はないのね』

「人的被害はありませんよ。奇襲程度なら対抗出来るように鍛えてありますから。という事ですので、ご安心ください」

『適材適所が功を奏しましたか。では、もうしばらく留守ですので、宜しくお願いしますね』

「了解です。詳細は後ほど議員会館の方に送りますので」

――ピッピッ


 ブレスレットでの報告を終えると、三笠は厨房からティーセットを持ってくる。

 それをのんびりと飲みながら、いつもの業務を始める事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 議事堂のマチュアや異世界大使館が襲撃を受けたという報告は、すぐさま防衛省にも届いた。

 翌日の国会答弁では、今後はマチュアたちを狙って攻撃が行われる可能性があると指摘する議員もあれば、あの結界制御球プロテクトオーブの有用性を見出し、国産冒険者育成に力を入れなくてはという議員まで現れる始末である。

 いずれにしても、国連とアメリゴがどう動くのか、それが今後の課題でもあり、どのように連携を取らなくてはならないのか考える必要はある。


 そんなある日。

 早朝、朝六時にマチュアは自活車の外でのんびりとアプルティーを楽しんでいる。

 夜勤明けではなく、カナンでの生活によって培った早起きスキルである。

「平和だ。いつ襲撃されるか分からないけど平和だ‥‥」

「あ、マム・マチュア、おはようございます」

 自活車の中から佐藤アナも出てくる。

 身嗜みはしっかりと整え、すぐにでもテレビに映れるレベルで準備を終えていた。

「おや、おはやう。今日の朝食当番がまだ来ないから。取り敢えず飲む?」

 そう話しながら、佐藤アナにもアプルティーを差し出す。

 ほのかに甘く、林檎の香りのするハーブティー。

 それを一口喉に流し込むと、佐藤アナの眠気も一発で覚める。


「朝のこれは効きますね。このハーブティーは売らないのですか?」

「本当なら、今頃はカナンから商人が来るレベルにまでなっている筈なんだけどねぇ。あのヒトラーのせいで、色々と予定が変わったのよ」

「そうでしたか。それは大変ですね‥‥」

「売り出したら絶対に売れるのに。実に惜しいわ」

「最近は大使館でも色々と販売始めましたよね?あれって値下がりしないのですか?」


 佐藤アナの話しているのは、異世界大使館でネット販売を開始した空飛ぶ箒や絨毯、鎧騎士パンッァーナイトなどを指している。

 既に個数制限で販売を開始、その申し込みにサーバーが落ちた程である。


「ん?お値段以上の価値はあるわよ。ネット販売は中級品クラスだからあの値段、個数限定品なんてあの倍以上で売るわよ」

 楽しそうに話をするマチュア。

 少しして、寝坊した古屋が議員会館から走って来ると。

「おはようございます、寝坊しました‼︎」

「だと思った。代わりにポイポイさんが朝ごはん作っているから手伝って来なさい」

「了解です‼︎ポイポイさん手伝いますよ‥‥って。何作っているんですか?」

 横に置いてある、マチュアが作った移動式キッチンで、ポイポイが大量のおむすびを作っている。

 ちなみにミアはおかずのスクランブルエッグとサラダ、オニオンスープの準備をしている。

「何って、おむすび作っているっぽいよ?」

 その量、一升炊き炊飯器二つ分。

 恐ろしいほどのおむすびなのだが、問題はそこではない。

「ミアさん、ポイポイさんがおむすびを作っている所、見てました?」

「いえいえ。そんな余裕ないですよ。中の具材に塩ジャケというのを焼いてましたし、あのへんな酸っぱいのとかも使っているはずですよ」

 へぇ。

 ならば、横のゴミ箱に、昨日は無かったチョコレートやキャンディ、グミの袋が捨てられているのはなぜだろう。

――ザワッ

 一瞬鳥肌が立ったが、勇気を出してポイポイの近くに向かう。

「え、古屋さんだ。おはようっぽい」

「おはようございます。朝食の手伝いに来ました」

「なら、そこのおむすびに海苔を巻いて欲しいっぽいよ?今握っているので最後っぽい」

――ニギニギ

 そう話しながら最後の一つを握り終えると、ポイポイと古屋は全てのおむすびに海苔を巻いた。

 そしてマチュアたちの待っているテーブルまで、おむすびやおかずを運んでいく。


「今日のおむすびは、コシヒカリって言うお米っぽい。おむすびには最高っぽいよ」

「へぇ。中身は‥‥聞かないで楽しみますか」

――モグッ‥‥

 まずはマチュアが一口。

 そして不思議な焼き魚の味わいを楽しむ。

「モグモグ‥‥これって、シシャモ焼き?」

 マチュアの問いかけにコクコクと頷く。

「頭と尻尾を切って焼いたやつっぽい。ちゃんと具の大きさに切ってあるし、醤油を塗って焼いたっぽい」

 その後も不思議な具材のオンパレード。

 ツナマヨコーンやチーズおかか、梅カツオ、塩ジャケ、しゃけマヨなどなど、普通のおむすびの具が入っている。


 なお、余ったおむすびは通りがかりの蒲生副総理がうれしそうにもっていったらしく、後から複雑な顔の蒲生が歩いているのを見かけた議員が後を絶たなかった。

「マカダミアチョコとミルクキャンディーが具のおにぎりは、カナンの名物か?」

 いえ、単なる事故です。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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