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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第9部 三つの世界の物語
234/701

変革の章・その7 帰還者と魔導師

「ゆかり」は三島食品株式会社の登録商標です。

 ゲルマニア・首都ベルリン。

 ベルビュー宮殿正門前には、第三帝国の兵士が左右に整列している。

 その中央を、ヒトラーはゆっくりと歩いている。

 ベルビュー宮殿がこれからのヒトラーの居城であり、第三帝国司令部となる。

 正面左の掲揚ポールには高々と鉤十字(ハーケンクロイツ)の旗が掲げられ、左右に機動兵器も待機している。

 この光景だけでも、ゲルマニアに統合第三帝国が成立したと言えよう。


「さて、まずは我がゲルマニアに対して牙を向いた全ての国を粛清するか‥‥」

 両手を後に組み、ゆっくりと宮殿入り口に立つ。

 そのまま振り向いて、背後に並んでいる兵士たちを見渡すと。

――スッ

 宮殿入り口に向かって、旧ゲルマニア武装親衛隊の制服を着用した人々が大勢集まってきた。

 制服姿にスキンヘッド、腕には鍵十字の腕章。

 階級章こそないものの、皆、ヒトラーに心酔しているものたちである。

 そして親衛隊員は一列に整列すると、右手を斜め上に掲げる。


「「「Sieg Heilジークハイル‼︎」」」


 一斉にヒトラーに対して叫ぶと、ヒトラーも彼らの前にゆっくりと向かう。

 その光景を見渡しながら、ウンウンと頷いている。

「諸君は何処の組織のものかな?」

 一番右の親衛隊にゆっくりと問い掛けると、問われた40代ほどの男性は声を上ずらせながら話し始めた。

「私はミハイル・ディードリヒ、父はゼップ・ディードリヒです。此処にいる彼らはネオ・ナチ党員、ヒトラー総統の意思を継ぐ者が第三帝国を復興すると信じていた同志です」

 その言葉に満足したヒトラー。

 ウンウンと頷くと一言。

「我が隊列に加わりたまえ。まずは久し振りの凱旋を愉しむとしよう」

 そう話して宮殿に入ると、ミハイルたち親衛隊員もその後ろについていった。


 ‥‥‥

 ‥‥

 ‥


 そして統合第三帝国との開戦から三日。

 ヒトラーはあれから動く様子はない。

 敵の機動兵器の攻撃力を目の当たりにした国連軍やアメリゴ地上軍は、今後の作戦をどうするか考えているところである。

 秦朝共和国も時折日本海上空に偵察機を飛ばしてくるのだが、その都度第七艦隊によって追い払われているのが現状である。

 日本も急遽PAC3の補給と金剛型イージス艦のSM3補給に時間を充て、次の攻撃までの迎撃準備に余念がない。

 さらにゲルマニアの主力戦車の敗北で、ゲルマニア国内に進撃した国連軍の陸戦部隊は後方に下がっていった。

 北海に位置しているアメリゴ第二艦隊も、現在は次の作戦の為の準備を開始している。

 

‥‥‥

‥‥


 日本海・第七艦隊

「出撃24、未帰還機18か‥‥」

 旗艦フィッツジェラルド艦長のスタンリー少将は、ブリッジで目頭を押さえながら呟いた。


 当初の作戦は成功したものの、反撃への対応に失敗した。

 爆装型のF/A36ボルテックスと対地攻撃機サンダーボルト2による首都・韓城への攻撃により、都市周辺の基地や陣地などは完全制圧。

 さらに大統領府へのピンポイント爆撃により、秦朝は政治中枢を完全に失った。

 だが、攻撃終了後に、突如上空に魔法陣が展開、ゲルマニアを制圧した機動兵器が降りて来た。

 地上攻撃隊の護衛として追従していたF35ライトニング3による空中戦はできたが、地上に降り立った機動兵器の圧倒的火力により、深追いした攻撃機は次々と撃墜されていく。

 それでも、ライトニング3の放ったミサイルにより機動兵器が一撃で破壊されたのを皮切りに、サンダーボルト2はすぐさま空母に引き返すと、弾薬を補給し、すぐさま機動兵器の殲滅に切り替えた。

 だが、いくら潰しても機動兵器は次々と出現したため、スタンリー少将の判断で作戦は中止、全機帰還の命令が出た。


――カチャツ

 通信機を手に取ると、スタンリー少将はジェームズ・フォレスター中将のいる太平洋艦隊に連絡を入れる。

「こちら第七艦隊旗艦フィッツジェラルド。ジェームス中将に連絡。ファーストストライクは成功したものの、機動兵器により迎撃され、大きな被害が出ました」

『分かった。ご苦労だっなスタンリー少将。我々には時間が足りなかった、もう少し時間があれば敗北はなかっただろう。セカンドストライクのために必要な物資リストを送りたまえ、引き続き第七艦隊は日本海に待機、セカンドストライク作戦の準備に入りたまえ』

「サー・イエス・サー」

――カチャツ


「さて、艦隊各位に連絡、第一級警戒態勢のまま待機」

 そう指示をすると、スタンリー少将は自室に戻っていく。

 この戦いで命を落とした兵士全ての遺族に対して、手紙を書くために。


‥‥‥

‥‥


 日本国・横須賀米軍基地。

 滑走路横の駐機場の前では、水平尾翼と垂直尾翼がない全翼機が三機、静かに発進を待っていた。

「セカンドストライク作戦は、こいつの出番となるのか‥‥」

 機体の前でローレンス少将がボソッと呟く。

 ステルス戦略爆撃機・B3アストラム。

 核搭載可能なこの機体が日本に三機も来たことで、周辺住民はかなり苛立っている。

 だが、敷地内はアメリゴ、ここまでやって来る事は出来ない。

 敷地の中は治外法権、日本人はパスポートなくては入る事が出来ない。


 すると、基地司令部から通信官が歩いてくる。

「ふむ、何かあったのか?」

「ええ。ローレンス少将、ロナルド大統領からの指令が届いています」

 通信官が電文をローレンスの元に届けると、それを受け取って目を通す。

「‥‥セカンドストライク作戦の全容か。さて、どうしたものか‥‥」

 その文章を眺めながら、今まさに着陸しようとしている大型輸送機を見る。

 指令書によると、その輸送機に16機の魔法鎧メイガスアーマーが搭載されている。

 マチュアがレンタルした4機と、アメリゴが魔法鎧メイガスアーマーを解析して独自に作り出した機動兵器『ギガンテス1』が12機。

 ギガンテスは今回の作戦には組み込まれず、テスト稼働用に横須賀に配備された。

 マム・マチュアに見てもらい、微調整や改良点を教えてもらうためだ。

 そして魔法鎧メイガスアーマー用の最新鋭装備も、輸送機に載せられている。

「神よ‥‥願わくばサードストライク作戦は発令されませんように」

 軽く十字を切るローレンス。

 そして足早に輸送機に向かう。

 少しでも時間が惜しい。

 ギガンテスの実稼働テストを行わなくてはならない。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



「最近は平和だなぁ‥‥」

 マチュア達は、国会議事堂正面右の広場に停めてある自活車の前で、バーバキベキューセットを広げている。

――ジューッ

 新鮮な肉と野菜の焼ける匂い。

 今日はベル・ジンギスカンのタレ。

 そして炊きたてのご飯で作ったおむすびには、軽く『ゆかり』がふりかけてある。

「マチュアさん、この赤いの何っぽい?」

「ゆかりだよ。赤紫蘇のふりかけ。焼肉と一緒に食べると美味しいよ。ミアもご飯にするよ‥‥と、古屋くん焼肉やってるから食べにおいで」

 近くで魔法鎧メイガスアーマーを調整していたミアと、ブレスレットで古屋も呼ぶ。

「はい、本日のランチは焼肉ですか。良いですねぇ‥‥あれから三日経ちますけど、何もないんですね」

 ミアが、焼き台の上から焼けている野菜や肉を皿に取りながら問いかけてくるが、こればかりはマチュアにも先が読めない。

「ムグムグ‥‥来たら戦うだけっぽい。それまではここでゆっくりとしているっぽいよ」

「それしかないのよねぇ。ここがカリス・マレスなら、真っ先に敵の懐に侵入して潰しにかかるんだけど。私達はよそ様だから、お手伝いするだけ」


――タッタッタッッッ

 少しして、古屋が蒲生と一緒にやってくる。

「何だか、古屋くんに誘われてな。一緒して良いか?」

「という事です‥‥けれど良いですねぇ、この自活車。僕なんて議員会館の一室に布団用意して泊まり込みですよ?」

 早速遅めの昼ごはんタイムを始める一行。


「これは何の肉だ?」

 甘味が強く、肉汁たっぷりの肉を噛み切りながら蒲生が問いかける。

「グランドドラゴンのモモ肉。こっちがヒレ、これがサーロイン‥‥これがリブだったかな?」

 テーブルに並んでいる、肉の入ったバットを指差しながらマチュアが解説する。


――プウ〜ン

 近くでマチュア達を取材していたテレビ局や新聞社のスタッフも、この焼肉の匂いには耐えられないらしい。

――ゴクッ

 彼方此方あちこちから喉が鳴る音が聞こえて来る。

 止むを得ずどこの局も休憩に入り、記者控え室や中継車に戻って行く。

 だが、マチュア達はそんなの御構い無しである。

 冗談を交えながら食事を楽しむ一同。

 すると、残っていた何処かの局の人間が、マチュア達に近づいていく。

「あの、マチュアさん、取材でなく教えて欲しい事があるんですが」

「は?取材抜き?いつもならどんなネタにでも食いつく皆さんが取材抜きってどういう事?」

 その言葉に、記者も苦笑いしながら。

「焼肉、一人前食べたいのですよ。すごく美味しそうで‥‥おいくらで参加させて貰えますか?」

――プッ

 思わず吹き出すマチュア。

 いつもの調子なら、その中は何処のものだとか、食事中の他愛ない会話から何か情報を探すはずなのに。

 流石にマチュア達の食事中は、カメラも回していない。

「あ〜、何人?」

「うちの社なら三人で‥‥」

「別に良いわよ。おにぎりだけは足りないからコンビニで買って来て。ジュース奢ってくれたら参加して良いわよ」

――ダッ‼︎

 その言葉に、すぐさまADが買い物に走る。

 やがて大量のおにぎりとジュースを抱えたADが戻ってくると、すぐさまマチュアの焼肉パーティに参加した。


「この肉は何です?食べたこともない味ですねぇ」

「流石は異世界大使館、いい肉食べてますね。国産和牛ですね?」

 ADとカメラマンが味わいながら食べていると、アナウンサーの女性が一言。

「あら、これってドラゴン肉ですか?」

 その味わいにピンときたらしい。

「お、正解。どうして知ってるの?」

「叔父が島松駐屯地勤務なのですよ。こんな味だって自慢していましたから」


――ングッ

 その名前に吹き出しそうになりながらも、勿体無いから全て飲み込む二人。

「ドドドドドラゴン?コモドドラゴンとかではなく?」

「チッチッチ。以前聞いた事ない?島松駐屯地でのドラゴン解体。その時の肉よ」

 それにはアナウンサーも嬉しそうに頷いている。

「うわぁ〜カメラ回したぃぃぃぃ」

 思わず叫ぶカメラマンに、マチュアは一言。


「人を映さないなら構わないわよ。でも、映していると食べられないしねぇ」

「こ、これでもプロです‼︎」

 すぐさまハンディカメラを回すと、一つ一つ丁寧に撮影する。

 まさにプロの仕事である。

 真横では美味しそうに食べているスタッフやマチュア達。

 だが、カメラから手を離してはいけない‥‥。

 やがて全ての肉が焼き終わると、ようやく彼はカメラから手を放した。

「ふぅ。マチュアさん、これ解説付けて放送していいですか?」

 汗を拭いながら、満足そうな顔で問い掛けるカメラマン。

 地球ではまず食べる事が出来ないであろうドラゴンの肉。それを我慢してまで映像を取り続けたその心意気やよし。


「許す。思う存分に使ってください!!」

 そう説明してから、マチュアは空間からタレに漬け込んだドラゴン肉を3袋取り出すと、それをカメラマンに手渡した。


「これは?」

「漬け込んだモモ肉とサーロインとリブ。個人で楽しんでください。早めに冷蔵庫に入れてね」

「あ、ありがとうございます!!」

 何度も頭を下げてから、カメラマンは中継車に走って戻る。

 それを見届けてから、マチュアは後片付けを始めたのだが。


「あ、あの‥‥何でYTVだけマチュアさんと一緒にいるのですか?」

「ええ。取材禁止では?」

 二社がマチュアの元にやってきて問いかけたので。

「へ? 取材ではなく一緒に焼肉食べていただけだよ? そこに何か問題でも?」

「さっきまで、あのカメラマンハンディカメラ回してましたよね?」

「私達を撮っていた訳じゃないよ。焼肉を撮っていたの」

――????????

 首を捻っている二人。

「焼肉ねぇ‥‥」

「まあ、YTVらしいか。マチュアさん達の食事を撮っているなんてねぇ。では失礼しました」

 頭を下げて戻っていく記者を見送りながら、マチュアたちは車の中で洗い物を始めた。



 ○ ○ ○ ○ ○



 深夜。

 この日の夜勤はマチュア。

「‥‥アメリゴもヒトラーも国連も動かない。このままゲルマニアが引っ込んでいるとは思えないけど、動きがないのもなぁ‥‥」

 自活車を中心に直径100mにも結界を発動しているマチュア。

 秋の寒空の中でも、この結界内は温かい。

 ハーブティーの入っているポットと紙コップを手に、外に置いてあるイーディアスの近くにやって来る。

 正面入口近くには、駐車許可を取った放送局の中継車が24時間態勢で待機している。


「しっかし、大変よねぇ‥‥」

 ポットを手に中継車まで歩いていくと、中からADが眠そうな目を擦りながら出て来る。

「あれ、マム・マチュア、こんな夜中にどうしたんですか?」

「夜勤だよ。今日は私の番‥‥こっちは何人起きてるの?」

「僕とカメラの斎藤さんです」

「なら二つね‥‥」

 と確認してから、マチュアは紙コップに暖かいハーブティーを入れて差し出す。

「それはベルナー領特産の疲れが癒やされるハーブティー。飲んでもう一息頑張ってね」

 そう説明してからコップを手渡す。

 ADはそれを受け取ろうとして、手が止まった。


――ブゥゥゥゥン

 マチュアの背後、結界制御球(プロテクトオーブ) の真下の地面に、直径2mの魔法陣が展開した。

 それはマチュアの知らない地球の魔法陣、ラジエルの書に記されていた惑星の力を借りた魔術である。


「ちっ!! すぐに車の中に逃げて!!」

 素早く魔法陣に向かって走り出すと、その中から姿を表した兵士に向かって魔法を発動する。

――ブゥゥゥンッ

 燃え盛る炎の槍。

 それが4本空中に浮かび上がると、マチュアは兵士に向かって打ち込む。

――Brooooooom

 兵士がマシンガンをマチュアに斉射したのと、炎の槍が兵士を貫いたのは同時。

 マシンガンの弾丸はマチュアの手前で止まり、兵士は槍に貫かれて燃え上がった。


 だが、更に三人の兵士が姿を現すと、その後にナチス親衛隊の制服を来た男が姿を表した。

――シュンッ

 素早く白銀の賢者モードに換装すると、マチュアは男の出方をじっと見る。

 歳にして50代後半から60代前半。

 ナチス親衛隊の制服を身に纏い、深々と帽子を被っている。

 ピン、と張り詰めた空気が流れる中、男はゆっくりと口を開く。


「初めまして、マム・マチュア。私はルドルフ・ブラウニィ。統合第三帝国の魔導師顧問をしている者です。我が主、エイブラハム・ヒトラー総統が、貴方を我が第三帝国の魔導師団に迎えたいと仰っています」

 丁寧にそう告げると、右手を前にだし、腰を折って頭を下げる。

「へぇ。ならヒトラーに伝えて。お、こ、と、わ、り、よ。私はラグナ・マリア帝国の白銀の賢者、二国に仕える気はないってね」

 すっと頭を上げるルドルフ。

 その頬がピクピクと動いている。


「この私がわざわざこのような辺鄙な島国までやってきて、頭を下げたにも拘わらず、返答はそれですか‥‥」

「ええ。貴方が何者か私は知りませんし。天使ラジエルの魔術を理解して使いこなしているのは大したものですが、それだけですよ」

 歯を剥き出しにしてニイッと笑うマチュア。

「ふん。そのような減らず口をいつまで叩けるかな?」

 パチンとルドルフが指を鳴らすと、護衛の兵士たちがマチュアに向かって一斉にマシンガンを打ち込んだ!!


――DRoooooooooom!!

 先程までの弾丸とは違う、マチュアの結界を無力化する弾丸。

 それが一斉にマチュアに向かって打ち込まれていったのである。

 咄嗟に腕のローブで頭を覆う。

 その白銀のローブに弾丸が次々と突き刺さっていったが‥‥。


――キキキキキキキキキキキキン!!

 ローブを貫通してマチュアの身体に直撃した弾丸は、全て中に着込んでいた鎧に弾かれていく。


「いたたたたた‥‥魔力無力化とは、恐れいったわ」

 弾倉の弾を打ち尽くした兵士たちは、無傷のマチュアを見て動揺している。

 それはルドルフも同じ。

 確実にマチュアを仕留められる自信があったのだろう。

 だが、結界は無効化しても、マチュアには傷一つついていない。

「そんな馬鹿な‥‥聖別した純鉄の弾丸だぞ? 魔術中和の法印を仕込んであったのにどうやって‥‥」

 動揺のあまり後に下がるルドルフ。

 そして兵士たちも後に下がった時、突然兵士の首が堕ちた。


――ドサッ‥‥

「それ以上動かないほうがいいっぽいよ。ミスリル鋼糸の結界っぽい。迂闊に動くと」

 一体の兵士がポイポイの声の方を振り向くと、突然全身が細切れになった。

 頭、腕、足、胴体、それが幾つもの肉片にまで切断され、その場に崩れ落ちる。

 やがて宵闇の中から、黒衣の装束に身を包んだポイポイが姿を現す。


「忍法・鋼糸結界っぽい‥‥」

「そんな馬鹿な‥‥」

 ほんの僅か動いただけで、ルドルフの衣服は切れ、肉に鋼糸がめり込む。

「それ以上動くと、あなた達は生きては帰れません。ここは捕獲させてもらいます!!」

 ルドルフの背後でミアが姿を表わすと、素早く印を紡ぎ韻を唱える。

「永劫なる眠りの妖精よ、かの者達に安らかなる眠りを‥‥」

 それで兵士は意思が消滅する。

 全身が刻まれないよう、倒れる直前にポイポイは鋼糸から解放する。

 ドサドサッと二人の兵士が崩れ落ちると、ルドルフはクックックッと笑い始めた。


「形成逆転かな?」

「そうですねぇ。まあ、今日のところは挨拶程度、これで引かせてもらいましょう。最後にもう一度お尋ねします、貴方は我が第三帝国に対して敵対するという事で宜しいですね?」

 ピクリとも動かずにそう問い掛けるルドルフ。

 ならばとマチュアは一言。

「ヒトラーを騙る偽物に伝えておいて。喧嘩するなら買うってね」

 そう話すと、ルドルフの足元の魔法陣が輝く。

「逃しませんっ!!」

「影縫いっぽい!!」

 素早く理力の矢を放つミアと、クナイをルドルフの足元の影に飛ばすポイポイ。

 だが、それらが発動する前に、ルドルフはスッと魔法陣の中に吸い込まれていった。


「ふう。ポイポイさんはそこの兵士を捕獲しておいて。ミア、周辺警戒態勢に。私は着替えて来ますわ」 

「はい」

「ぽい」

 同時に返事が返ってくると、マチュアはゆっくりと自活車に戻っていく。


――ポタッ‥‥ポタッ‥‥

 その足元に、ポタポタと鮮血が落ちていく。

 だが、暗闇なので誰にも見えていない。

 やがて、自活車の中にはいると、マチュアはすぐさま装備を解除して全裸になる。


「鎧で全部弾ける訳ないでしょうが‥‥それでも予想外だわ‥‥」

 ドサッとベットに崩れるマチュア。

 どうにか魔法で止血すると、ローブだけは換装して意識を失った。


‥‥‥

‥‥


「マチュアさん、大丈夫ですか?」

 ミアがマチュアに声を掛ける。

 その後ろではポイポイとツヴァイの姿もある。

「ふぁ‥‥なんとか動けるわよ」

 よっこらせと身体を起こす。

 傷は塞がっているものの、明らかに血が足りない。

 兵士を縛り上げて自活車に戻ってきたポイポイと、周辺に敵性感知結界を施したミアが自活車に戻ってきた時、床が血の海になっていたのである。

 それ程までに、マチュアの傷は深かった。


「この弾丸ですか。気をつけて下さいね」  

 ツヴァイがマチュアに一つの弾丸を見せる。

 それを受け取った時、マチュアは手がピリッとしびれる感覚を受けた。

「なんだこれ? こんなの身体に突き刺さっていたのか」

「ええ。その弾丸の傷、魔法では塞ぎきれていません。魔族の瘴気のような力も感じ取れます‥‥」

 ツヴァイが何かを思い出したように話す。

 それにマチュアはすぐさま察した。

「アーカムの、魔障毒みたいなものか」

「ええ。それもマチュア様にしか効かないように調整してあります。毒ではなくで術式、簡単に説明します‥‥神殺しの術式です」


――ザワッ

 それにはさすがのマチュアでも寒気を感じる。

 亜神であるマチュアには、これほど有効な弾丸は存在しない。

「道理で。鎧では防げたけれど、その継ぎ目や薄い所は貫通していたからなぁ」

「頭にでも当たったら即死ですよ?」

 心配そうに告げるツヴァイ。

 それにはポイポイとミアも頷いている。

「それにしても、どうして私が亜神だってわかっているんだろう‥‥偶然という事はないだろうねぇ」

「何処かで調べたとしか思えませんよ。さて、意識も戻ったので、私は持ち場に戻ります。マチュア様は少し身体を休めていて下さい」

 それだけを告げて、ツヴァイはスッと転移した。

 それを見送ってから、マチュアはミアとポイポイに一言。

「この事は内緒。私は少し身体を休めるから後は任せたよ」

「了解です。では外で待機していますね」

「同じくっぽい。朝ご飯まで時間あるので、もう一度寝るっぽいよ」

 そう告げてミアとポイポイは外に出る。


 既に警備員や待機していた自衛隊員が戦闘のあった場所を調べているので、ミアとポイポイはそれに協力する事にした。

「しっかしまあ。ここまで動きが早いというか筒抜けというか、厄介だなぁ」

 淡々と呟いていると、やはり疲れが影響しているのか眠くなってきたので、マチュアはゆっくりと眠る事にした。

 朝からは、また色々とやらなければならない。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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