変革の章・その2 統合第三帝国との邂逅
マチュアがカルアドに向かった三日後。
地球では、まさかの事態が起こっていた。
ヨーロッパ・ゲルマニア国、早朝7時。
大勢の人が行き交う街並み。
まだ目覚めたばかりのゲルマニアで、それは起こり始めた。
――ブゥゥゥン
突如ゲルマニア上空を覆い尽くす巨大な魔法陣。
そこからゆっくりと、全長10m程の未確認機が大量に出現したのである。
今までの未確認機とは明らかに違う、異質な外観。
頭部には第二次世界大戦時の鉄兜にガスマスクのようなフェイスカバー。
全身をプロテクターで覆い、巨大なマシンガンを構えている。
背中にはやはり巨大なブースターを搭載し、空中機動が可能に見える。
そして、その腕についているハーケンクロイツの紋章が、人々に失いつつあった恐怖を呼び起こした。
それらが地上から200m程で停止すると、次に空中に巨大なエイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンドの姿が映し出された。
その出で立ちも第二次世界大戦時のヒトラーの姿そのもの。
そしてヒトラーは、ゆっくりと口を開く。
「偉大なるゲルマニアの諸君。私はエイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンド。かの第三帝国を統治していたエイブラハム・ゲオルグ・ヒトラーの意思を継ぐ者である」
街の彼方此方で空を眺めている人々は、その名前を聞いて驚愕する。
かつて世界を征服しようとした人物の名前。
「私は今、ここで、新たなる統合第三帝国の設立を宣言する。現ゲルマニアの政治中枢の諸君に告ぐ、速やかにその座を明け渡したまえ。猶予を一週間与えよう、それまでに賢明なる判断と決断が行われるのを期待する‥‥」
――スッ
やかてヒトラーの姿がきえると、未確認機は全て魔法陣の中に吸い込まれ、やがて消滅した。
‥‥‥
‥‥
‥
「うわぁ‥‥洒落になっていませんよ」
午後三時の札幌。
異世界大使館では、職員達がロビーのテレビをじっと見ていた。
緊急速報と同時に全てのチャンネルで今、ゲルマニアで起こった出来事が放送されていたのである。
偶然生中継していた局などもあり、あちこちで特番が組まれていた。
「さて、ツヴァイさん、さっきの未確認機動兵器について、カリス・マレスの公式発表はどうしますか?」
三笠が事務所に戻りながら問いかけるので。
ツヴァイは堂々と一言。
「当然、全否定。私たちは一切関係していませんと声明を出してください。高嶋さんと古屋さんは国内メディア向けの説明文をお願いします」
その指示で三笠達はすぐさま作業を開始する。
「高畑さんはアメリゴのホワイトハウス隣の領事会館に連絡をお願いします。今後のアメリゴの動きを確認してください。十六夜さんは防衛省に、吉永さんは蒲生副総理に連絡をお願いします。異世界大使館は今回の統合第三帝国関連については基本ノータッチで行くと説明してください」
そう話してから、ツヴァイは席を立つ。
「どちらへ?」
「異世界ギルドです。30分で戻りますので」
すぐさま転移門を潜ると、ツヴァイは異世界ギルドのカウンターの中に入る。
‥‥‥
‥‥
‥
「ドライ、フィリップさん、ちょっと会議室にお願いします」
ちょうど手が空いていたらしく、休憩していたドライと、カウンターで事務処理の説明をしていたフィリップがすぐに会議室に向かう。
「緊急要件ですか?」
「マチュアさまが留守の時に限って事件が起こるんだよなぁ。で、何があった?」
そう問いかけるので、ツヴァイは一言。
「異世界地球で、大規模戦争が起こる可能性があります。基本カリス・マレスは無関係で、協力体制を取る気はありません。が、日本国からの要請によっては、転移門を開放する可能性があります」
――ツツーッ
ドライの頬を冷や汗が流れる。
「バイアス連邦の侵攻みたいな感じか?」
「そんな感じですね。違うのは、私達は当事者ではない事。ですが、国交を正式に開いた以上は、避難民の受け入れも視野に入れる必要があります」
「了解しました。今のうちにアルバート商会とガストガル商会に非常時用の食料の確保をお願いしておきます。ちなみに避難民の受け入れ先はどちらに?」
フィリップが問いかけると、ツヴァイは苦笑いした。
まさか、その受け入れ先をマチュアが探しているとは誰も思っていないだろう。
「現在マチュア様が探しています。このカナンでは収まらない人数になる恐れもあるので。もしマチュア様が戻ったら、この事を伝えてください」
一通りの伝達事項を終えると、ツヴァイはすぐさま日本へと引き返していった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ヒトラーがゲルマニアに対して宣告して3時間。
在ゲルマニア日本大使館からは 、大使や領事を始め、日本から派遣されていた職員達の家族を帰国させたいとの連絡があったらしい。
同時刻、ニューヨークでは緊急の国連安全保障理事会が開催され、日本でも国会が緊急開催された。
‥‥‥
‥‥
‥
永田町・国会議事堂。
現在、緊急議会の真っ最中である。
「ゲルマニアが第三帝国に落ちた場合、次に彼らが求めるのは地球全域の覇権でしょう。カリス・マレスはどう動くのですか?」
「国交を結んでいるカナンは、日本が有事の際には助けてくれるのか? 避難地域として開放してくれるのでしょうか?」
そう質問する議員たちに対して、異世界政策局の解答は一言。
「それはありません。まず、カナンは難民受け入れを行なっていない。更に安全保障などの条約も結んでいません。魔法鎧も現行法では稼働してもらえるように申請できるかもしれませんが、災害時などの有事ならいざ知らず、戦争になるから貸してくれなどは絶対にありませんね」
現在の異世界政策局政策局長である唐沢浩二が、笑いながら叫んでいる。
「で、では、もしもゲルマニアが日本に侵攻して来たらどうすれば良いのですか?」
「カリス・マレスとしての意見ならば、『知りませんよ』の一言ですね。日本はアメリゴと安保条約を結んでいるではないですか。それに世界に誇る自衛隊があるではないですか。今更自衛隊が違憲だから侵略しても手を出すななんて言いませんよね? 殴られたら殴られっぱなしは、日本の敗北ですよ‥‥」
「もしも日本がだね、ゲルマニアに占拠されたとしたら」
「その時は異世界大使館を畳んでアメリゴにでも移りますよ。言っておきますけど、異世界政策局や異世界大使館に助けを求めても無駄ですよ。魔法なら何とかなるという甘えた根性は捨ててください」
兎にも角にも、野党は逃げ腰。
自衛隊を使うぐらいならカナンに援助要請をしろとか、もうしっちゃかめっちゃかな話をしている。
与党はというと、すぐさま防衛大臣からの命令で、全自衛隊が有事の際にはすぐに動くように待機している。
これ程までに温度差があるのは凄いことであるが、自衛隊が動く事で違憲だ何だとこの場において騒いでいる議員には、もうやめて欲しいという感じであろう。
‥‥‥
‥‥
‥
さて。
異世界大使館は、ずっと電話が鳴り続けている。
ヒトラーの宣言の影響で、日本からカナンに逃げたいという申し込みが殺到してあるのである。
現在は自動音声での対応を行なっているが、それでも直通回線には繋がるので、彼方此方のお偉いさんや自称政財界の重鎮がすぐにカナンに逃げたいと連絡して来ている。
「‥‥それで? あなたがどこのどなたか知りませんが、既に出国枠は埋まってまして‥‥へ、元民権党の大沢? 知りませんよ。それでは失礼します」
「六名分? 渡航予約はされてますか? へ? そもそも異世界渡航旅券を持っていないのですか。それは誠に申し訳ありませんが、渡航できませんので」
「ええ、あなたがどこの華族か貴族かどうか知りませんが、それを証明できますか? カナンの貴族なら魂の護符を提示していただければ確認できますが‥‥魂の護符を無くされた? それはまたご愁傷様で‥‥それでは」
次々と断りの電話をする職員たち。
すると。
「定時を過ぎましたので、回線対応を留守番電話に切り替えます。政治部も緊急対応に備える事にしましょう」
そう三笠が話をして回線を全て切り替える。
これでようやく事務室が静かになる。
「まさかここまで凄いとはねぇ。最悪の事態には、私達は転移門で逃げられるのですか?」
吉成がツヴァイに問いかけると、ツヴァイは頷いている。
カナンの職員である政治部と領事部ぐらい、カナンに逃がすのは難しくはない。
それでホッとしたのか、一同は安堵の表情を浮かべている。
「カナンでいいのなら逃げて下さい。幸いなことに職員寮もありますからねぇ、みなさんの命は守りますよ。もっとも、異世界大使館の防御結界を破壊できる兵器があるのなら、という話ですけどね」
「へぇ‼︎そんな結界が敷いてあるのですか」
「ヒトラーの宣告の後に発動しておきましたよ。マチュアさん程ではありませんが、私の結界もそこそこの強度を持ってますからねぇ‥‥」
「あのゲルマニアの機動兵器、かなり強そうですよ?」
「見た感じではどうとも言い難いですねぇ。ぶっちゃけると、魔法鎧の方が機動力ありますよ?」
「で、でも、私達の機体は飛べませんよ?」
高嶋の問いに答えたツヴァイだが、すぐに高畑も問い返す。
「‥‥何で飛べないのです?」
「そんな機能ありませんよ。私達のはゼロスリーです。マチュアさんのイーディアスとは訳が違いますわ」
「いや、ゼロスリーも飛べます。飛行システム組み込んでありますよ。多分魔力が足りないのでしょうねぇ」
そう話しているツヴァイ。
いずれにしても、一週間の間に何が出来るのか、それを考えなくてはならない。
「‥‥さてと。ゲルマニアからの要請はありませんよね?」
「ええ。むしろゲルマニアとアメリゴは安全保障協定を結んでいますので、今後の動向によっては‥‥という所ですか」
ツヴァイの問いかけに、三笠がコクリと頷いている。
すると‥‥。
――プルルルルル
守衛室からの内線がかかってくる。
「はい、政治部古屋です、どうしましたか?」
『正面正門の黒川です。商店街の方々が集まってきまして、マチュアさんと話がしたいと』
「通してください。ツヴァイさんが代行します」
――ガチャッ
「ツヴァイさん、外に商店街の方がいらっしゃいまして、マチュアさんと話がしたいと」
その話には、ツヴァイは首を捻る。
この時期に何の話なのだろう。
そう考えながら、ツヴァイが大使館正面玄関に向かう。
ガチャッと扉を開くと、そこには商店街の彼方此方のテナントのオーナーや町内会長、商店街の会長などが集まっていた。
「あの、マチュアさんはいないのですか?」
「長期出張でして。私がマチュアの代行で、大使館責任者のツヴァイと申します。カリス・マレスの異世界ギルドのサブマスターも兼任していますので、マチュアに御用でしたら私が代行しますよ」
丁寧に挨拶をするツヴァイ。
すると、町内会長が前に出る。
「ツヴァイさん、さっきのテレビで、戦争になるかもしれないという話があったんですが‥‥」
「そこで、いつも、お世話になっているマチュアさんなら、何とかお願いを聞き入れてくれると思ってな」
「もし戦争になったら、子供達だけでもカナンに避難させてもらえないだろうか‥‥」
「虫のいい話なのはわかっている。大使館という場所は公平さが大切な事も‥‥それを承知で頼む」
必死にツヴァイに頭を下げる人々。
自分たちが助かりたい一心で電話をしてくる人達とは違う。
大切な子供達を、その命を守って欲しいという頼み。
マチュアなら、断るはずがない。
ツヴァイにはそれがわかる。
だが、大使館の持つ公平さを考えると、それは出来ない。
「‥‥誠に申し訳ない。すぐにカナンに避難することは出来ません」
「そこを頼む‥‥私たち年のいった連中なら何ぼでも諦めがつく。だが、子供達には、わしらが経験したあの惨事を味合わせたくはないのじゃ」
がっしりとツヴァイの手を取る老人たち。
その気持ちを考えると、無下にはできない。
だが、どうする?
どうやって守る?
もしマチュアなら‥‥。
そう考えた時、ツヴァイはふと思いつく。
「それでは‥‥カナンには避難させられませんが、皆さんの安全を確保する方法を考えましょう。それで宜しいですね? カナンへの避難はマチュアさんの権限無くしては出来ないのですよ」
駄目元で頼み込んでいた人々が、涙を流す。
「あ、ありがとう‥‥それでも構わない、子供達を助けてくれれば」
皆一様に頭を下げると、大使館を後にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
事務室に戻って今の件を報告するツヴァイ。
その言葉には、皆が呆然としていた。
「カナンに受け入れず、皆を守る方法なんてあるのですか?」
吉成が問いかけると、ツヴァイはコクリと首を縦に振る。
方法がないわけではない。
むしろ、ツヴァイはその方法を知っている。
マチュアオリジナルではない、ツヴァイが知っているその方法は一つ。
かつて、ラグナ・マリアがバイアス連邦から進軍された時の防御作戦。
対ドラゴン結界を改良するのである。
「まあ、こう見えてもマチュアさま不在時の作戦参謀、白銀の賢者代行でしたからねぇ。商店街と大使館、自然公園全域を広範囲結界によって覆います。確か‥‥」
ごそごそと空間を漁り、予備で作ってあった直径1mの結界水晶を取り出す。
赤く透き通った球体。
その表面には古代魔法語による複雑な術式が刻み込まれている。
「それは?」
「この水晶に魔力を注いで結界を作り出します。これの条件式を書き換えて配置すれば、通常物理攻撃程度は完全に遮断しますよ」
その説明に、職員達は色めき立つ。
助かる術があるという。
「ならすぐにそれを日本各地に設置すれば、日本を結界で囲めば安全ですよね?」
そう高嶋が叫ぶのだが。
それは不可能である。
「この水晶の結界維持に一人の魔導師。結界の有効半径は大体3km程度。この一個で直径6kmまで。それを日本各地に満遍なく配置するとなると、この水晶と魔導師がどれだけ必要かわかりますか?」
「カナンには在庫は?」
「日本全てを助ける気なんてありませんよ。在庫はないですし、今カナンやラグナ・マリアにある結界を外したら、ラグナ・マリアが有事の時には間に合わなくなります。これは無理ですね」
淡々と説明する。
「日本にある水晶では? それでなんとかなりませんか?」
すっと手を上げて十六夜が質問するが。
「そうねぇ‥‥正直言うと分からないですよ。水晶の純度と大きさ、それが魔法に耐えられるか。試さないと無理ですけど、そんなの私一人では無理ですよ」
「カナンの魔術師では?」
「無報酬では動かないですよ。冒険者ギルドに正式に依頼して、それで集まったとしても、実験にかかる時間とかも考慮しないとなりませんから。日本からの正式な依頼でない限りは動かないかと思われますね‥‥」
そう話してから、ツヴァイは深淵の書庫を発動する。
――ブゥゥゥン
その中央に水晶を設置すると、次々と条件式を書き換えていく。
「やっぱり魔障濃度が低いから半径2kmが限界。それでもないよりはマシですね。運が良かったら札幌全域と考えたけど、大使館を中心に半径2kmと1kmの円の外周と内周を調べてくれますか? 可能ならば、その位置に印をつけて欲しいのですよ」
ツヴァイが説明すると、吉成がすぐさまパソコンで条件を入力して印刷する。
それをホワイトボードに貼り付けると、外周に一定距離ごとに印をつける。
「ツヴァイさん、出来ました」
「なら、円周の公共施設部分、もし民間企業や家に差し掛かったら、さらに掛からない部分まで内側に食い込んだ場所にマークし直して。後から大きめの工事用コーンでも立てて印付けますから」
ふむふむ。
次々と飛んでくる指示をきいて、職員達も動く。
すでに三笠は北海道警察に電話して、工事用コーンの設置許可を求めている。
「直径4000mということは円周が12,567mで。必要なコーンが126本、予備と回り込む本数を考えると、140本ですね」
すぐさま十六夜が算出すると、三笠が防衛省の小野寺に連絡をしている。
ここのフットワークは見事なものだと、ツヴァイも感心してしまう。
「それにしても、三笠さんって本当に動きが早いですね。マチュアさまのシスターズに欲しい所ですよ」
「それはありがたいですけど、人間のままで良いですよ。不老不死の肉体など不便で仕方ないですから」
「そう? マチュアさまに話したら、三笠さんの肉体ぐらいはミスリルで作ってくれますよ?」
「結構。あ、異世界大使館の三笠と申しますが、小野寺防衛大臣をお願いします‥‥ええ、緊急で‥‥」
どうやら連絡がついたらしい。
小野寺防衛大臣との折衝が始まったので、ツヴァイは深淵の書庫を確認する。
――ブゥゥゥン
未だ処理が進んでいる。
基本的には敵性防御結界に対ABC兵器の完全無力化まで。
ミサイルなどの実弾兵器には敵性はないので、結界の強度を高めて守る。
問題は兵士。
敵対意思がない兵士が入り込むと厄介なのだが、それは別対応するしかない。
そんな作業をしていると、高嶋と古屋がツヴァイをぼーっと見ている。
「ん? 私に何か付いてますか?」
「い、いえ、ツヴァイさんはうちのマチュアさんの部下ですよね? たまにマチュアさんとかマチュア様とか言いますけど、マチュア様はカナンの女王ですよね?」
「話からごっちゃになってますけど、どういう事ですか?」
「どうもこうも、女王もここのマチュア様も同一人物なのを忘れたのですか? その説明は受けている筈で‥‥」
高嶋と古屋の後ろで、十六夜や吉成が口元に指を当ててシーッと呟いている。
まだ、この二人には伝達されていないらしい。
タイミングを見計らって説明する筈が、タイミングを見誤って放置されていたらしい。
「ドドドドどういう事ですか?」
「陛下とマチュアさんが同一人物? はぁ?」
ブワッと冷や汗をかいている二人。
すると十六夜が立ち上がった。
「ツヴァイさん。私が説明してきますわ」
「お願い。また失言ですか‥‥」
顔に手を当てて呟くツヴァイ。
「まあ、タイミングを逸していたのはマチュアさんですから。気にしない方がいいですよ。これで大使館職員は全て‥‥あれ?」
ずっとパソコンで世界中の動向を調べていた池田も凍りついている。
「お、え、えええ?」
「はい、池田さんもあっちで説明聞いてきて‥‥」
バタバタと走って部屋の外に出る池田。
そうこうしている内に、どうやら三笠の折衝は終わった。
「自衛隊の装備品から借り入れをお願いしました。それで、地図にマーキングしてくれれば、そこに配置してくれるそうです。後ほど真駒内駐屯地にFAXして欲しいとの事ですので」
指で輪を書いて告げる三笠。
それにツヴァイもホッとした。
やがて、高嶋と古屋、池田の三人も部屋に戻ってくる。
みんな複雑な表情をしているが、取り敢えずは納得したらしい。
「しかし、マチュアさんが女王陛下だなんて‥‥」
「声に出さない。どこで誰が聞いているかわからないんだからね」
「はい。さて、作業に戻ります」
すぐさま全員が作業を開始する。
すると高畑がツヴァイの元に書類を持ってやって来る。
「アメリゴの国防総省からの要請です。魔法鎧を24騎、配備して欲しいと」
「却下。そもそもそんな数ありませんよ、いま魔法鎧を持っているの、アメリゴの四騎と自衛隊の四騎、あとは‥‥」
池田を除く職員が手を挙げる。
「赤城さんを含めて、ここには七騎と私の一騎。幻影騎士団の二騎、魔導騎士団の十二騎。全部かき集める訳にはいかないでしょう? 保有台数の関係で不可能と返答して下さい」
そう話して、高畑はすぐさま文章を仕上げに入る。
「あれって量産出来ないのですか? マチュアさんはいつも量産してますよ?」
吉成が問いかけるが、ツヴァイは頭を左右に振る。
理由は簡単、あの魔法はマチュアにしかできない。
「無理ですよ。空間は繋がってるから材料はありますけれど、量産化の魔法はマチュアさまのオリジナルです。誰にも真似出来ないのです」
その説明には一同納得。
「マチュアさんのオリジナル魔法って、誰かに継承されないのですか?」
「そうですねぇ。それが使える人となると、賢者の弟子であるミアぐらいじゃないですか? あとは‥‥マチュアさまの魔導書を持っている赤城さんぐらい。この二人が、マチュアさまの弟子ですら」
「ツヴァイさんは使えないのですか?」
「無理無理。魔導制御球って言う特殊な魔道具がないと私には使えないですよ‥‥」
そんな話をしていると、ふと、窓の外でマチュアを呼ぶ声が聞こえてくる。
「‥‥ちゅあさーん、エルフさーん」
窓から外を見ると、大勢の子供達が大使館の柵から中に向かって叫んでいた。
「あら? またマチュアさんに用事ですか」
すぐさまツヴァイが外に出る。
そして子供達に大使館の中庭まで来るように告げると、ウッドデッキのベンチに座り、子供達が来るのを待っていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。