変革の章・その1 カルアド探訪
地球でいうならアリゾナ州グランドキャニオン。
そんな光景が、果てしなく広がる。
扉を越えたマチュアとゼクスは、まず人が生きていけるのかを確認するために周辺の調査を始める事にした。
「なんか火星にも見えるなぁ。体感しているだけでも、大気はある。魔障は限りなく0かぁ‥‥なんでこんなに少ないんだ?地球よりもないぞ?」
とりあえずは軽い深呼吸。
現時点では生命の生存可能性は極めて高い。
「さてマチュアさま、ここに来た本当の目的は何ですか?」
周囲に敵対反応がないか確認しながら、ゼクスがマチュアに問いかける。
すると、マチュアは両手を合わせて記憶のスフィアを生み出すと、地球で起こった未確認機襲撃以降の記憶をゼクスに手渡す。
「それで全てだよ。戻ったらクィーン達にも伝達しておいてね」
そう説明すると、マチュアはゆっくりと深呼吸を続ける。
鍵を解放しての神威解放は初めて、しかも創造神が何か手を加えたのでどうなるのかわからない。
不安と期待が入り混じった複雑な心境だが、今は戸惑っている暇はない。
「神威解放‼︎」
――シュゥゥウ
マチュアの全身が激しく輝く。
全身に光る帯状に実体化した神威が纏わりつき、そして体内に吸収されていく。
やがて輝きが治まると、マチュアはグルグルと自分の体を見渡した。
「うん、な〜んにも変わらない。超サイヤ人みたいにスパァァァァクって感じになるのかなーと期待したんだけれどね。ゼクスからは何か変わって見える?」
遠くを眺めているゼクスに問いかけてみると。
ゼクスはマチュアの周りを歩きながら、ゆっくりと観察する。
「さて、別段変わってませんねぇ。身長体重スリーサイズ‥‥お、胸が大きくなったような気がフベシッ」
――スパァァァァァァァァン
「こ、これは失礼。これが鍵の力を解放した新型マチュア様ですか?」
ツッコミハリセンを受けた顔面を押さえながら、ゼクスがマチュアに問い掛ける。
確かに外見的には何も変わらない。
「全く。何でスリーサイズまで判るんだよ‥‥」
ならばと、マチュアは魂の護符を取り出す。
これもいつもと変わらぬ亜神のミスリルカード。
「じゃ〜ん。って、これも変化ないなぁ。何処が変わって‥‥いたわ」
魂の護符に刻まれた種族が亜神ではなく従属神に変化している。
これにはマチュアもかなり動揺している。
「ぜ、ゼクス、見ろ、神様になった‼︎」
「おおおおお、これは凄い。とうとう神様の領域ですか。私達シスターズも鼻が高いです」
「そうだ、君達は神の使いだ!!」
「おお、遂に私達は神器になったのですね!!」
このボンクラ姉妹は楽しそうに笑っている。
やがて笑いも落ち着くと、マチュアは深淵の書庫を起動する。
「さて、冗談はおしまいにして、深淵の書庫起動‥‥惑星全域の生態系調査。地球のデーターベースと比較して、どれぐらいの差異があるか‥‥うわぁ‼︎」
表示された観測終了時刻は195時間後。
神威を纏って魔法を使っても、これだけの時間が掛かってしまう。
「ゼクスさんや、私達はどうやら8日間泊まり込みだわ」
「‥‥まじですか?」
「うむ。お前はシルヴィーじゃないからマジの意味は分かるよな?」
「そりゃあもう。マチュア様、深淵の書庫は設置して後で確認に来たらダメなのですか?」
そう問われると、マチュアも腕を組んで考える。
「距離が離れる分には問題がないんだけど。空間越えるとダメなんだよなあ。地球とカリス・マレスなら転移門が近くにあればいいんだけど、ここは無理だよなぁ」
色々と考えてみるが、どうも無理。
しかも、深淵の書庫は一度発動すると、重ね掛けは出来ても距離を置いての発動は不可能。
つまり、マチュアは8日間、深淵の書庫が使えない。
「なので、ここをベースキャンプとする。さてと、まずは周辺の調査から始めましょか」
空間から箒を取り出して座ると、ゼクスもそれに倣って自分の箒を取り出した。
「何処に向かいますか?」
「上。上空から見てみましょう」
――ゴゥゥゥゥゥッ‥‥ドッゴォォォォォォ
すぐさま上昇を開始したが、今までとは加速度が違う。
ゼクスがはるかに眼下を飛んでいる。
マチュアの後方に衝撃波が発生している。
「い、今、音速の壁超えた?超えたよね?」
突然の事に冷や汗が吹き出す。
ようやく鍵を用いた神威解放の怖さが体感出来て来た。
少しして、ゼクスもフラフラと飛んで来ると、マチュアの横に並んだ。
明らかに引きつった顔をしているのが分かる。
「あの、今のなんですか?」
「魔法の箒に神威魔力を流して加速したらこうなった。魔法で強度を上げてなかったら、箒がバラバラだったと思うよ」
「それよりもマチュア様は大丈夫なんですか?生身で音速超えるなんて正気では考えられませんよ?」
そう言えば。
たしかに体に変化はない。
箒に神威魔力を注いだ際に、周囲に結界が施されたようである。
「‥‥うん、魔力は抑えよう。ゼクス、済まないけど周囲に人工物があるか見てくれないか?」
「了解しました‥‥グランドセンサー発動と‥‥」
魔力によるソナーに鑑定能力を組み込む。
それで自然物と人工物の違いぐらいは簡単に識別できる。
――ピィィィィィィン
「特にこれと言ってないです‥‥いえ、反応あり。大きさから考えると都市廃墟という感じですね。ここから北東に距離28km。どうしますか?」
その報告を聞いて、マチュアもそっちの方を向く。
「肉眼では無理かぁ。とりあえず行ってみましょう」
すぐさま箒をその方角に向けると、マチュアとゼクスはやや急ぎ目で飛んで行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
直径5kmほどの巨大なクレータ。
その中心に位置する巨大なドーム状都市。
都市の直径は約5kmほど、高さは頂点でゆうに800mはあろう。
山手線の内側ぐらいの大きさのドーム都市は、透き通ったガラスのような金属で覆われている。
あちこちが破損して穴が空いており、外から見た限りでは人が住んでいる形跡はない。
見える限りの都市内部は、建物があちこち崩壊した廃墟。
近寄れば判るが、人骨なども散乱している。
箒でドームの上空まで向かうと、マチュアはスーッと穴の上に降りていく。
「マチュアさま、危険です。どんな化け物がいるのかわからないのですよ?」
「大丈夫だって。この星で生命体がいる区画はある島のみ。そこ以外には人は居ないんだから、攻撃されるなんて」
――チュンッ
笑っているマチュアの真横を、一条のレーザー光が掠める。
「うわぁぁぁぁ、撃ってきたぁぁ、どういう事だぁ?」
次々とマチュアを狙ってレーザーが放たれる。
慌てて上昇すると、一定の距離まで到達したらレーザーによる対空攻撃は収まった。
「あそこに生命反応あるのか?」
すぐさま印を組んで、生体固有探知を発動する。
生命体なら生命探知でも良いのだが、種別まではっきりするライフフォースを選択した。
――キィィィィン
「反応なし。生命体いないぞ?どうなってるの?」
「さて?私が強行偵察します」
すぐさま箒を加速し、穴めがけて飛び込むゼクス。
そして盾を構えると、正面から飛んでくるレーザー光を盾で弾き飛ばした‼︎
――ビシィッ
ゼクスの眼下で、高出力レーザーライフルを構えている少女。
年にして14.5歳といったところだろう。
「ワラサ、ラスタ!カナル、レスタ‼︎」
必死に何かを叫びながら、少女はライフルを連射する。
それもゼクスの盾の前では無力に等しい。
「このあたりでは、この子しかいませんか。そこの君、私たちは敵ではない。攻撃するのをやめて貰えるか?」
高度を下げて叫ぶゼクス。
――キィィィィン
すると、少女はライフルを捨てると、ゼクスに向かって右手を突き出した‼︎
――ドッゴォォォォォォッ
肘と手首の中間。
そこから突然腕が分離すると、炎を吹き出しながら一直線にゼクスに向かって飛んで来たのである。
――ゴゥゥゥゥゥッ
炎をあげて飛んでくる拳。
「ふむふむ、今流行りのロケットパンチですか。実際に見るとすごく滑稽ですね」
寸前で拳を躱して少女を睨む。
すると、ロケットパンチはゼクスの後方で爆発し四散した。
――ブゥゥゥン
すると、少女の右腕が瞬時に再生し、二発めのロケットパンチが飛んでくる。
――ドッゴォォォォォォ
それもすぐさま躱す。
すると3発目が腕に現れた。
「再生ではなく、空間転送でしたか。しかし無駄遣いの多い兵器ですね。さて、これ以上は相手をする気もないのでこれで」
箒をすぐさま上昇させると、ゼクスは穴から外に出てマチュアの元へと戻って行った。
ゼクスがドームから出ていくと、少女はレーザーライフルを拾って何処かに立ち去っていく。
‥‥‥
‥‥
‥
「と、言う事ですね。見た限りでは、かなり高度な文明で作られたものと推察されます。一体何処から兵器を供給しているのか、エネルギーは?などなど疑問はありますが、明らかに私達には敵対意思を持っていますね」
淡々と説明するゼクス。
なお、マチュアはロケットパンチの説明を聞いた時点でワクワクが止まらなくなっていた。
「言語形態がわからないかぁ。ゼクスは指輪つけてたよね?」
「ええ。全自動相互間翻訳指輪、ありますよ。それでもあの言語は理解不明です」
「そっかぁ。そうなると言語形態を理解する所からかぁ‥‥人間ではないという事はアンドロイド、もしくはロボット。どっちがなんだろうなぁ」
腕を組んで唸っているマチュア。
ここまで未知の存在だと、何処から手を出していいのか判らない。
しばし考えていたが埒が明かない。
「ゼクス、ひとまずこの場所は後回しだ。別の都市を探して、内部を調査しよう。この下のドームは、とんでもなく危険だわさ」
「同意です。破壊する気になれば何とかなるのでしょうが、それはマチュアさまの本意ではありませんからねぇ」
「そう言うこと。さ、次の街を探しましょ」
そう話してから、マチュアとゼクスは箒にまたがっていったん深淵の書庫へと戻った。
○ ○ ○ ○ ○
「さて、次は南にしよう。すこし移動してからもう一度調べるとします」
のんびりと話をする。
先程まで謎のアンドロイド少女に襲われていたゼクスも、今はマチュアの言葉で戦闘状態から解放されている。
「そうですねぇ。取り敢えずは飛ぶとしますか」
そのまま箒で再び飛び始める。
大体1時間程飛んでいると、また新しいドーム型廃墟を発見した。
「大きさも形状も同じ。人が住む為のものというのは判った。で、何でこの星の人たちはドーム都市に篭っていたんだ?」
「世界の崩壊に備えて。それしかないと思いますが」
ゼクスの言う通りなら納得がいく。
まずはこの世界がどうして崩壊したのかを調べる必要がある。
魂の修練失敗による運命ではなく、直接滅んだ原因。
物理的な原因がなくては、人間など滅ぶはずはない。
「横穴もあいてるぞ、ここはさっきのドームとは違うみたいだな」
箒で周囲をぐるっと回る。
またさっきの少女のようにいきなりレーザーライフルを撃たれてはたまらないので、穴の直線上には出ないように慎重に。
すると、直径20m程の大穴が開いている場所を発見した。
「なあゼクスさんや。ここから入れると思うが、どう思うかな?」
「遠回しに入れと言わないでください。命じてくれれば先頭で入りますよ。何で私より強いのにこう言う時はヘタれるんですか?」
「い、いや、今の状況で魔法使うのが怖い。加減しても殺しそうで」
「生き物はいないんでしょ?だったら手加減なんてしなくて良いじゃないですか」
「機械やロボットは、回復魔法で治らないんだぞ?」
そんなやりとりをした後、ゼクスを先頭にマチュアは大穴に入って行く。
巨大なドームの中には、果てしなく廃墟が続いている。
人の気配もなく、あちこちに人骨のようなものが大量に転がっているだけである。
ざっと周辺を見た感じだと、街の文明的には21世紀地球に酷似している。
「人骨かぁ。これだと死因まではわからないからなぁ。ゼクス、二手に分かれて周辺調査、何もなくても一時間後にここに集合な」
「了解です。では」
すぐさま箒を取り出して飛んでいくゼクス。
マチュアは近くの崩れたビル群に向かうと、瓦礫を漁り始める。
出てくるのは風化しつつある衣服や原型をとどめていない金属物質など。
それらの中から文明を感じるものを回収すると、それらをまとめてバッグに収める。
「スマホらしいもの、薄っぺらいモニター、ロボットの残骸‥‥タイヤのないバイクや自動車‥‥近未来かな?」
色々と拾い集めてはバッグに放り込むを繰り返しながら、ゼクスとの合流ポイントまで色々な物を回収していた。
「いょう、ゼクスは何か拾って‥‥それはバイクかな?」
タイヤのないバイクを拾ってきたゼクス。
見た感じでは、前後のタイヤのはまっている部分に細長いノズルが付いており、そこから何かを噴射して飛行するのだろうと想像がつく。
「これ、まだ動きますよ‥‥ほら」
バイクに跨ってスターターらしいボタンを押す。
――フウォォォォォン
エンジンらしい部分が呼吸音に似たエンジン音を響かせる。
そしてスロットルを回すと、バイクが少しだけ浮き上がった。
「おおおおお、当たりじゃないか」
「まあ、バイク屋らしい建物の地下にあったのを拝借して来ましたので。マチュア様はどうですか?」
そう問われると、マチュアはバッグから大量の残骸を取り出して広げた。
「外部メモリーがあったら良かったんだけどね。端末もないし、アルバムのような文化は失われたんだろうなぁ‥‥。ロボットの残骸も拾ったぞ」
ごろっとゼクスの前に転がすと、ゼクスはそれを手にしてじっくりと観察する。
頭の部分は、さっきゼクスを襲った少女と同じような顔をしている。
「おや、マチュアさま、この頭なら、先ほど私を襲ったやつと同じですね。量産型といった所ですか」
「へぇ。流石に内部データを引っ張り出す事は出来ないからなぁ。できれば無傷のサンプルを回収したいけど、何処かにないかなぁ」
「見かけたら回収しましょう。まずは情報、可能ならば私達でも使える情報端末ですよね?」
そうゼクスが告げるので、マチュアもコクコクと頷く。
「ゼクスは、地球の知識をどれだけ持っている?例えば、私の記憶の何処までを理解している?」
「素体である魂のスフィアはマチュアさまのコピー。記憶などは全て保有していますよ。例えば、マチュアさまの過去のあんな事やこんな事など‥‥」
淡々と真央の記憶を説明してくれる。
中には、マチュア自身も忘れていた記憶があるのだから堪らない。
それこそ黒歴史クラスのものまでしっかりと。
「わ〜っ、分かった分かった。なら話が早いわ。私の記憶と知識レベルで使える物を集めてみよう。第一候補はさっきも話した情報媒体、第二がその端末。日記や新聞などでも構わないから」
ふむふむと納得するゼクス。
「では、引き続き。集合時間は?」
「そうだなぁ。3時間後に定時連絡、その後でまた考えよう」
「了解です。くれぐれも無茶しないように」
「可能な限りな。それじゃあ」
スタスタと歩きながらドームの中を調査するマチュア。
手掛かり的な物でもないかと、目を皿のように歩いていくと、ドームの中心部から伸びる放射状の街道にぶつかった。
「ドームの中央には小さなドーム状の建物か。ここが設備の管理をしているのかな?」
半ば半壊して半円状になっている建物をぐるりと周り、中に入れる所がないか調べてみる。
すると、崩れた入り口のような所を発見する事が出来た。
「ここから入れるか。どれどれ」
――ガラガラガラッ
瓦礫を退けて中に入る。
電気もなく薄暗かったので、光球の魔法を発動して頭上に固定する。
「通路は完全に埋まっているが、地下に降りる階段があったのでそれをゆっくりと進む。
カツーンカツーンと足音だけが静かに響く。
「さて、鬼も蛇も出ないだろうけど、何か出るかな?ロボットは魔法じゃ感知出来ないからなぁ」
などと言いながら、最下層までやって来た。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
階段の先は直線の回廊。
その両側に扉があり、一番奥には両開きの扉が見える。
「これで材質が石ならダンジョンなんだけど。そうはいかないよなぁ」
埃が積もってはいるものの、大きな破損は見えない。
ならばとマチュアは一番手前の扉の前に立つ。
――シーン
「分かってますよ、動くはずがない。自動ドアは電源が入っていませんからね」
パッとロングソードをバッグから取り出すと、少しだけ開いている扉に差し込む。
「そーれっと」
――ガガガギギギ
鈍い金属音を響かせながら、扉はゆっくりと開かれていく。
暗い部屋。
倉庫か何かだったらしい部屋には無数の棚と箱が並んでいる。
「はてさて、何が出る事やら。楽しいですねぇ」
いそいそと箱を開け始める。
無数の朽かかった箱に収められた、チョーカーやブレスレット、指輪。
薬品らしき瓶が収められた箱
タブレットのようなもの
自動拳銃?銃器?
長さ15cm、縦横1cm程の水晶らしい鉱石がはめられた、透き通った金属ケース
「うむ、さっぱりわからない。ここが何かもわからない。次行ってみましょうか」
サンプルとしていくつかを回収してから、マチュアは次の部屋に入る。
やはり自動ドアらしく根性でこじ開けるが、会議室のような部屋に出た。
そんな感じで次々と調べていくが、奥の方は給湯室のような場所だったりトイレだったり。
とにかく手掛かりらしい物はない。
「さて、正面回廊奥の両開き扉はボスの部屋と相場は決まっているんだがなぁ〜」
今度の扉は隙間もない。
完全な密閉空間らしく、重い落とし扉の奥に両開きの扉がある感じに見える。
「仕方ないか‥‥」
右手で印を組むと、瞬時に右手が灼熱を発する。
ヒートハンドという攻撃魔法で、拳に炎を纏うだけである。
その筈が、焔どころかプラズマ発光まで起こしている。
「さしずめプラズマハンドというところか。どぉ〜れ」
――ブシュシュュュッッッ
扉に手を当てると、真っ赤に輝いて沸騰し、溶け落ちていく。
ゆっくりと扉を溶かし、自分入れるだけの穴を開くと、マチュアは静かに部屋の中に入って行った。
円形の部屋。
壁と天井は巨大なモニターらしき物体に覆われており、壁際と部屋の中央あたりにも丸くモニター席が並んでいる。
部屋の彼方此方には白骨死体が座っている。
密閉された部屋なのでミイラ化しているものもあり、内部は少しカビ臭くなっている。
「むぅ。死んでますか‥‥さて、どうしたものか」
幸いなことに室内の機材は壊れた様子はない。
ならば電源さえ復旧すれば、何とかなるのかなと理解した。
「はてさて、この中で比較的損傷の少ないミイラ‥‥これか。ならば‥‥」
ゆっくりと印を組み韻を紡ぐ。
「幽体意思看破。まだ意識、思念が残るならば、私にあなたの無念を教えてください‥‥」
魂ではなく、肉体に残った思念から意識を汲み取る。
‥‥‥
‥‥
‥
紡がれるのは口惜しさ。
魔王の台頭による人間界への侵攻。
地球よりも遥かに進んだ文明を持つ彼ら人類と、魔術による強さを持つ魔王族との大地を賭けた戦争。
人間は魔族、魔王族の魔力を無力化する兵器を開発し、魔族は眷属や使徒と呼ばれた者達を使役しての肉弾戦を切り出した。
結果として人間たちは、|marionnetteと呼ばれる人型機械兵器を開発し、一定数以上の魔力を持つ者たちを自動的に破壊するように命じた。
これにより戦局は大きく傾き、人間の圧勝のように見えて来たのだが。
ある時を境に、マリオネットは人間を攻撃し始めた。
それは、この世界の三つの月が全て消える新月の夜。
魔王は星全体にある儀式を施した。
それは全ての生命体に魔力を生み出すこと。
それにより、全ての人々は魔力を持ってしまい、マリオネットの破壊の対象となってしまった。
すると、人間は自分の体から発している魔力を中和する道具を開発するが、それも付け焼き刃でしかなかった。
成長とともに膨れ上がる魔力を、全て中和する事は出来ない。
やがて人々はマリオネットによって死滅してしまった。
そして自らを点検し
修復する人間が滅ぶ事で、マリオネットもまた機能を停止したのである。
ここまでが、人間が滅ぶまでの道筋。
ここから先の思念は伝わっていない。
管制室にいる者たちは、ドームのコントロールルームであるここに閉じこもった。
この場所は外部と隔絶されており
魔力も外には流れることはない。
だが、食料が尽きた時、彼らは眠るように死んでいった。
‥
‥‥
‥‥‥
「そういう事なのか。なら、せめて安らかに眠ってね。もうこの星は、あなた達を苦しめる魔族も、マリオネットも存在しないから」
手に魔力を込める。
祝福の言葉を紡ぎながら、部屋全体に魔法を流していく。
――ボウッ‥‥
あちこちの死体が淡く輝く。
すると、死体はゆっくりとチリのように崩れて消えていく。
おやすみなさい。
後は、私たちが何とかするから。
あなた達が帰って来れるような世界を作るから。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。