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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
227/701

日常の章・その19 神のみぞ知る、知らない事もある

 白亜の回廊。

 現在はマチュアの権限で異世界地球とカリス・マレスを繋ぐための回廊として使われている。

 その十字路を右折して奥、異世界大使館と繋がってる扉のさらに奥。

 そこからマチュアは神界エリューシオンへと向かった。


――ブワッ

 体内に染み渡る神威を纏った魔力。

 この一瞬で、マチュアの体内の魔力は半分以上回復した。

  「ふわぁ、染み渡るわぁ」

 神威解放して亜神モードになったマチュア。

 いつものように箒に跨って中央街道を進み、奥にある神殿へと向かう。

 その正面にいる門番と軽く挨拶すると、マチュアは真っ直ぐに神殿の中を進んだ。

 目的地は秩序神ミスティの部屋。

 その前でゆっくりと箒から降りると、扉を軽くノックする。

――コンコン

『はい、どなた?』

「ま、ちゅ、あ、ですが。魔法で扉吹き飛ばされたくなかったら開けてくださいます?」


――ドタドタドタドタッ

 扉の向こうで慌ててかけてくる音。

 そしてそーっと扉が開いた。

「あ。あら、マチュア。異世界の調子はどう?」

「それはもう、楽しすぎて涙が出てきますよ。今の地球の様子はご存知で?」

 端的に問いかけるが、ミスティも首を捻る。

「何かあったのね? とりあえずお入りなさい」

「では失礼して‥‥」

 軽く会釈してミスティの執務室に入る。

 そこにあるソファーに座ると、マチュアは自分のティーセットを取り出してミスティにサービスした。

 焼きたてのベリーパイ、そしてオレンジティーを差し出す。

 程よい芳香が室内に漂い、マチュアもミスティも穏やかな表情になった。

「あら、ありがとう。いきなり人の部屋の前で魔法で扉を破壊するなんて言うから慌てたじゃない」

「そんな心境なんですよ。実はですね」


 ニューヨークで起こった出来事について、マチュアは淡々と説明する。

 そしてクロウリーの書物や天使ラジエルの書から得た魔術についても話してみると、ミスティが真面目な顔で何かを考えている。


「う〜ん。ちょっと待ってね。亜神や世界神ではなくもっと上の神さま事案のような気がするのよ‥‥創造神さまいらっしゃいますか?」

 天井に向かって問いかけるミスティ。

――ヒュンッ

 すると、室内に小さな竜巻が湧き上がると、創造神が姿を現した。


「はて、私に何か用事かな? 迷える神々よ」

 あご髭を撫でながら、マチュアとミスティに問いかける創造神。

 いつものようにヒマディオンに身を包み、鍔広の帽子と杖という出で立ちで姿を現した。

「実は、マチュアが異世界地球で体験したことですが‥‥既に滅びし世界グランアークの魔術が地球に伝えられています。これは正しき道でしょうか?」

 ふむふむと頷く創造神。

「干渉したのが無貌の神故に。それもまた摂理なれば」

 淡々と告げる創造神。

「なれば。今現在、異世界地球において、その無貌の神の加護を受けたかもしれないものが世界を混沌に陥れようとしています。その際には、鍵の先である世界に人々を導く事は道理なりか?」

 マチュアがそう問いかけると、創造神が頭を捻る。

「鍵の先の世界‥‥カルアドはストームとマチュアに託した管轄。ならば、そこに人々を避難させるのはマチュアの意思では?」

「あっそ。ダメなのかなーと思って聞きに来たのですが、そういう事ですか。亜神にその権限ありという事ですね?」

 ふむふむ。

 創造神が髭をさすりながら笑っている。

「鍵は持っているか?」

「はい、ここにありますが」

 スッと鍵を取り出して見せる。

 すると創造神が鍵を取り上げ、何かを呟く。

――ブゥゥゥン

 淡く輝く鍵。

 それを再びマチュアに戻した。


「その鍵と魂のリンクは出来てるかな?」

「そりゃあもう。こんな感じで‥‥はい、終わりましたよ」

 そのマチュアの言葉にウンウンと頷く。

 リンクしても特に何も変わらない。

 より一層カルアドとの結びつきが強くなったのと、鍵自体が以前よりも神威を多く放っている事以外は。


「なら、後はマチュアの好きにすればいい。カルアドでのマチュアの権限は『世界神の一柱・秩序の女神マチュア』とする。亜神ではなく神で宜しく」

 あっさりとマチュアを神認定。

 もっとも、マチュアも以前から言われていたので驚きはしない。

 それに普段、地球やカリス・マレスではいつもの亜神マチュア。

 特段何も変わりはしない。

「そりゃどうも。後1つ教えて欲しいのですが、無貌の神って何者ですか?」

「ああ、それは創造神様と対をなす破壊神ですよ。八つの分身体を持つ存在、カリス・マレスにも存在していましたわよ?」

 あっさりと説明するミスティ。

「ウィル大陸地下に封じられているあれ?」

「そ、あれ。無貌の神の分身体は、一つが意識を持つと残りの七つは休眠状態に入るのよ。今現在はカリス・マレスの奴が封印下で意識を取り戻したから、他は眠っているわよ?」

 そんなあっさりと。


「クロウリーに加護を与えたのは無貌の神。そして地球に送り出したのは創造神様ですよね?」

「私が送り出した時点では、彼に無貌の神の加護など存在しなかった。そして私も気づいてはいなかった、後にクロウリーが無貌の神の力を使えるとは」

 マチュアの問いかけに、創造神もやれやれという顔をしている。

「その時点での魂の修練の修正は?」

「私と同等の力だ、無理やり剥がしたらどんな反動が来るかわからない。その結果、クロウリーは暴走した。後はマチュアがあの書物から得たのが全てだな」

 ふむふむ。

 つまり今のヒトラーは、神クラスの魔術を秘めていると。

「あの〜、ヒトラーを放っておくと、地球、滅びません?」

「それはないだろう。今のヒトラーの肉体は、元々の肉体の枷により生まれつき魔力回路が細い。それにマチュアも得たのであろう? あの魔術体系全てを。ならマチュアが負ける要素はないが、手を貸す気もないのだろう?」

「地球まで手が回りませんからねぇ。バックアップはするつもりですが」

「そこはマチュアの好きにすれば良い。私がどうこう干渉する事はない。それではな‥‥」

――スッ

 創造神の意識が消える。

 そこでようやくマチュアとミスティは落ち着きを取り戻した。


‥‥


「端的に説明すると、創造神様は今まで通り頑張れって言っているのですよね?」

 ミスティに問いかけてみると、彼女もコクコクと頷いている。

「まあ、さっきの鍵がある限りはね。あの地球の神様もおいそれとマチュアにどうこう出来ないし。まあ、上手くやりなさいな、私は今まで通りに見ていてあげるから」

「それで良いですよ。私にとって神は創造神であり、この世界の八柱の神々です。無貌の神とやらは無視、喧嘩売って来たら殴り返すだけですから」

 そのマチュアの言葉に、ミスティも笑っている。

「さて、それじゃあ私はこれで失礼しますね」

 スッと立ち上がってミスティに頭を下げる。

「少しは気が紛れた? あなたがあれだけ取り乱したのですから少しは心配したのですよ」

「まだまだ未熟な亜神ですからねぇ。では」

 笑いながら部屋を出る。

 すると、廊下でコソコソとしている魔神イェリネックを見かける。


――コソ~~~ッ

「や、やあ〜、マチュア君、こんな所で奇遇だなぁ〜。ではこれで」

 冷や汗をかきながら手を振るイェリネック。

 そして振り返って逃げようとしたところを、マチュアはイェリネックの尻尾を掴んだ。

――ガシッ

「ふっふっふっ。イェリネック様、何を隠していますか?」

「い、いや、何も隠してなどいないぞ。妾はカリス・マレスの一柱、地球には干渉できないからな」

「あの、地球の事など聞いてませんよ?」


――ツッー

 さらに冷や汗が流れている。

「無貌の神。その加護を与えたのはまさかイェリネック様ですか?」

「ち、違うぞ。魔族が何か企んで行動していたようだが、妾はただ見ていただけだ。まさか結界の綻びに入り込む魔族がいたとは思わなか‥‥」

 慌てて口を手を当てる。

 だが時遅し。

 マチュアがニィィッと笑った。

「まさかとは思いますけど、夢魔カーマイン?」

 そーっと視線を外に向ける。

「それと魔族のアーカムが手を組んだとかねぇ」

「アーカムは違うぞ。あやつは今は西方大陸の‥‥」

 もう一度口をふさぐ。

 イェリネック、意外とチョロインさんです。


「カーマインとはまた、あの人も懲りないわねぇ」

「侮辱はするな。カーマインはここに出入り出来る、亜神クラスの実力はあるのだぞ?」

「まあ、そんな所でしょうよ。これ以上は話してくれないのでしょ?」

 やれやれという顔で問い掛けるマチュア。

「地球に行ってからの行動は見えないのじゃよ。カーマインだって今はカリス・マレスに存在しているし。あやつは初動だけ楽しんで、後は放ったらかしている。妾にも、あやつの真意は量れぬからなぁ」

 腕を組んで淡々と話しているイェリネック。

 だが、尻尾と翼が楽しそうにパタパタと動いている。

「隠し事はしていない。けど楽しそうですねぇ」

「そりゃあもう。魔神である以上は、動乱は常に楽しい。言っておくが、妾が自ら引き起こすような事はないからな」

「わかってますよ。その為の亜神であり、代行者なのでしょうから。さて、イェリネックさん、何か下さい」

 スッと手を差し出すマチュア。

「何故じゃ? マチュアには妾の加護はない。なんで妾がそんな事を?」

「カーマインが何かしたおかげで、結果的にうちの職員が拐われましてねぇ。助けるのに神威解放してとんでもなく消耗したのですよ?」

 真顔で詰め寄るマチュア。

 う〜ん。

 流石にイェリネックも腕を組んで唸っている。

「しかしなぁ‥‥う〜ん」

 上を向いたり下を向いたり忙しそうなイェリネック。

 暫く考えたのち、イェリネックは空間から黒い宝石を取り出した。

「賢者マチュアなら、これぐらいじゃな。ほら、これをくれてやるからチャラにしろ」

 拳大の宝石、見た限りだと黒曜石のようなもの。

「これは?」

「賢者の石。エリューシオンの山岳部でしか取れない貴重な石だ。すぐにマチュアとリンクしろ」


――ブゥゥゥン

 すぐさまリンクする。

 すると、イェリネックはニィッと笑う。

「使い方は自分で調べろ、その気になればホムンクルスでも新しい魂や生命さえも生み出すことができる。ただし、代償も伴うからな」

「はぁ。魔力の補充に使えますね?」

 すぐさま理解したのは、魔力の補充用。

「マチュア程度の亜神が神威を使っても‥‥ちょっと待て、お前の神威とか上がってないか?」

 笑いながら話していたが、ふと、マチュアの神威がとてつもなく上がっているのに気がついた。

 すぐさまマチュアの額に手を当てるイェリネック。

「ふむ。まあ、この程度か‥‥って、あれれ? なんだこの鍵‥‥誤算出まくりかぁ」

 イェリネックは、何か自己完結している。

 笑ったり困ったりと、色々と忙しそうである。


――ガチャッ

「イェリネック、さっきから人の部屋の前で煩いわよ‥‥って、マチュアまで、どうしたの?」

 外の声が五月蝿うるさかったのか、ミスティが部屋の中から出てくる。

 すると助け舟が来た為か、イェリネックがホッとしている。

「おお、ミスティ、すまないがマチュアを見てくれるか?」

 すぐさまミスティの手をとって、マチュアの額に手を当てさせる。

「何って、特段何も‥‥あれ?」

「な?」

「な? じゃないですわよ。鍵と賢者の石が融合しているじゃないですか!! またあなたも余計な事を‥‥マチュア、今はまだ私達からは何も言えません。けど、まあ‥‥頑張ってね」

 何処と無く引きつった笑いのミスティ。

 そして悪い笑顔のイェリネック。

 その二人を見て不安にならない方がおかしい。

「‥‥あの、嫌な予感しかしないんですが」

「そうね、それじゃあ、私は執務があるので」

「私もそろそろ仕事じゃ‥‥ではな」

 ミスティとイェリネックが自分の部屋に戻っていく。

「全く‥‥何が何だかさっぱりで‥‥」

 ブツブツと呟きながらも、自身の神威が全快したのでマチュアも一旦大使館へと帰る事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 戻ったら既に昼。

 赤城以外の職員達は、厨房から各々好きな物を持って来て、外のウッドデッキで食べていた。

 マチュアもすき焼き鍋を持って事務室に戻ると、残っていた三笠とツヴァイが、マチュアを見てポカーンとした顔をしている。


「おや、今日は欠勤と思ってましたが」

「うんうん。私もてっきり、何かあったのですか?」

 そう問いかけるので、マチュアは卓袱台に鍋セットを置くと、ご飯を食べ始める。

「ミスティとイェリネック、神様ズとは話つけてきた。ここから先、私が何しても咎められる事はないのがわかったし‥‥それで、アメリゴと日本の対応は?」

 卵を割ってかちゃかちゃとかき混ぜる。

 すき焼きには卵は必須。

「蒲生さんは頭抱えて困ってるそうです。こんなの公表出来るかって」

 送った書面をマチュアにも見せる。

 赤城が拐われた事は明記していない。

 第三帝国とヒトラー関連に情報を絞っての公開である。

「ホワイトハウスからの返信もありません。あっちは逆に信用しているのでしょうねぇ」

――モグモグ

 マチュアの好きなすき焼きは『鶏肉』。

 モツも全部入っているのが好物である。


「なら、うちの方針はわかるわよね?」

「カナン式ですか?」

 三笠が問いかけると、マチュアは頷く。

「そういうこと。ツヴァイ、統合第三帝国が日本に手を出してきたら、手を貸してあげて。本気で動いてよし。三笠さん、もし国連や他国からの救援要請が出たら」

「わかってます。人道的保護を第一優先。カナンに流すのですね?」

「いや、カナンじゃないんだよなぁ‥‥まあ、暫くは各国で頑張るだろうからいいや。それまでに避難口は作るよ」

 モグモグと美味しそうに鶏すき焼きを食べる。

 だが、ツヴァイは困った顔をしていた。 

「‥‥あの、マチュア様、まさかとは思いますが」

「ええ。緊急時に対応します。という事ですので、午後からはカナン行ってくる」

「マチュア様お待ちください。まだ早急過ぎると進言します。あれは、あそこはまだ調査も終わってません、そんな所に‥‥」

 すぐさまツヴァイがマチュアを嗜める。

 彼女にはマチュアの真意が理解できたようだ。

「そうなんだよ。なので、自分で行って見てくるよ。暫くは留守にするけど、何とかなるよね?」

「判りましたよ。それではお気をつけて」

「お土産を楽しみにしていますよ」

 そうマチュアを見送る二人だが、マチュアほ席を立つ事なく食事を続けている。


‥‥


「しかし、今の流れを綺麗に断ち切ってくれますねぇ」

「ええ。それがうちのマスターですから」

 食事を続けながら、卓袱台ですき焼きを食べているマチュアを冗談めいて批判をする二人。

「ちょっと待って、その流れに乗ったら、私はこのすき焼きを残して、今すぐに行かないとならないのよ? そんなのごめんだわ‼︎私はお昼を食べてから行く‼︎」

 半ば意地になっているマチュア。

 再び食事を続けていると、高嶋や古屋たちも食事を終えて事務室に戻ってきた。


「おや、マチュアさんお帰りなさい。赤城さんがカナン出向だそうで」

「ホムホム‥‥くはぁ。鶏肉美味しい‥‥って、もう聞いたの?」

「ええ」

「ならいいや、高嶋君、ちょっとあんたのクリアパッド貸しなさい」

「へ?」

 首を捻ってマチュアの元に向かうと、マチュアは自分の魂の護符(プレートを取り出して受け取ったクリアパッドに差し込む。

「ダイレクトリンク‥‥デュエルレストの監視レベルの分割‥‥ほいおっけ」

 マチュアは、彼女の持っているデュエルレストの管理権限を高嶋にも設定した。

 No.01からNo.30までのデュエルレストなら、高嶋が監視できるようにしたのである。

「はい、このバッグにデュエルレストが30番まで入っているから。貴方が責任持って管理する事」

「は。はい‼︎」

 嬉しさのあまり声が上ずっている。

 ついでにと、バッグから鎧騎士パンッァーナイトの入っているバッグも取り出すと、それは古屋に手渡す。


「これは古屋君の新しい仕事ね。異世界大使館のHPで、鎧騎士パンッァーナイトの通信販売を開始します。とりあえず、当面の分として200体預けますが、すぐに全部売らないでね。ツヴァイ、不足差分はアハツェンから受け取って、古屋君に渡して。それの管理は古屋君が責任を持って行う事」 

 バッグを受け取った古屋は、中から鎧騎士パンッァーナイトを取り出して確認した。

「うわぁ、ようやく通販開始ですか。一体平均で百五十万で出回ってますから、いつ頃売りますか?」

「それは古屋君に任せるわよ。一体税込み一万円きっかりでお願いね。転売厨を潰すなら、今日、すぐに、販売予告だけしておけばいいわよ」

 そう話すと、マチュアは横にあったお櫃から、ご飯をお代りして食べ始める。


「何か、形見分けみたいですね‥‥」

――ブーッ

 その古屋の言葉に、思いっきり吹き出すマチュア。

「違うわ、カナンで忙しくなるからその間の仕事の配分。一ヶ月したら戻ってくるし、気になったらすぐ来るから」

――ガチャッ

「あら、マチュアさんはカナン出向ですか。それはお疲れ様です」

「一ヶ月とは、寂しくなりますわ」

「久しぶりに顔が見られたと思ったのに」

 丁度事務室に戻ってきた吉成と十六夜、高畑の三人も、マチュアを見るとすぐに軽く頭を下げた。

「あ、丁度いいや、吉成さんはこっちの空飛ぶ絨毯の管理、十六夜さんは魔法の箒の管理をお願いね」

 ポンポンと二つのバッグを取り出して二人に投げて渡す。

「へ?」

「管理と言いますと?」

 キョトンとする二人に、マチュアはあっさりと一言。

「異世界大使館で販売する。どっちも18億。日本で買う人はいないだろうけれど、サウスアラビアとか中東では買いたい人はいるだろうからね。でも一人一つまで、購入する相手はちゃんと審査してね」

 そう話してから、古屋と吉成、十六夜のクリアパッドも受け取って管理設定を変更した。

 それを戻すと、三人共新しいデータを眺めてフムフムと納得している。


「ま。マチュアさん、私は?」

 楽しそうな三人を見ていて、高畑も何か欲しくなったらしい。

 そう高畑が話を振ったので。

「アメリゴから色々と要請がくると思うので。その折衝を三笠さんと頑張れファイト‼︎」

「実務で来ましたか。赤城さんが居ないので頑張りますよ」

「そうそう、みんなで頑張れば怖くない。詳細は追って三笠さんとツヴァイから聞いてね」

 食べ終わった食器を下げながら、マチュアは事務室のみんなにそう告げた。

 そして厨房で洗い物を終えると、ひとまず転移門ゲートでカナンへと向かった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「いよーう、みなさん元気かな?」

 異世界ギルドに顔を出すマチュア。

 いつものようにカウンターでは、ベネット・桜木やドライといった面々が地球からの観光客の受け入れ手続きをしている。

 現在は日本大使館やアメリゴ大使館、ルシア大使館が出来上がっているので、観光客もどんどん増えてきている。

 アメリゴとルシアの人々も、直接赤レンガ庁舎の異世界政策局で手続きをすれば、三日間限定の異世界渡航旅券(パスカード)が発行されるようになる。

 そのテストケースとして、人数制限はあるが受け入れを開始し始めたのである。


「おや、こんな時間に珍しい。何かありましたか?」

 フィリップがデスクからマチュアに声を掛けたので、マチュアもフィリップの元に歩いて行く。

「一ヶ月程留守になるかもしれない。ちょっとやらないとならない事が増えたのでね。ギルドマスター代行をお願いします」

 にこやかに告げるマチュア。

 その様子を見て、フィリップも静かに頷いている。

 まったく、マチュアの近くで働いている人達は、みな察しが良い。

「では、マスター代行お引き受けしました。こちらはドライさんが居ますし緊急時にはツヴァイさんにも連絡しますので」

「それじゃあ、後はお願いね。ドライ、しっかり頑張りなよ」

 手をヒラヒラと振りながら、マチュアはギルドの外に歩いていく。

 その様子を見ながら、ドライも首を軽く捻っている。

「何か嫌な予感しかしないんだよなぁ‥‥マチュア様が勝手に何かしでかすと」

「そうなんですか? 僕にはいつも通りのマチュアさんにしか見えませんよ?」

 桜木はそう話しながら、出てきた観光客の異世界渡航旅券パスカードの確認をする。

「う〜ん。何か気になるけど、まあ、後で聞いてみますか」

 そう納得して、ドライも業務に集中する事にした。


‥‥‥

‥‥


 カナン王城。

 マチュアは久しぶりに王城までやって来た。

 正面正門横には何台もの馬車が停車しており、御者達が集まって話をしている。

 そのまま正門横の警備騎士の元に向かうと、マチュアは何があったのか問いかけてみた。

「今日は何かあったの?」

「ん‥‥っと、失礼しました、マチュア様でしたか‼︎」

――スパァァァァン

 軽く頭にハリセンを叩き込む。

「様?」

「あ〜、マチュアさんご苦労様です。今日はカナン近郊の貴族達が集まった晩餐会があるのです。月に一度、晩餐会を開いて各貴族領の出来事などの報告を受けるので。朝から大勢の貴族関係者が集まっていますよ」

 成程納得。

 クィーンに任せてからの方が、カナンは上手く回っている。

 こういう気遣いが上手いのだろうと感心しながら、マチュアも城内に入って行った。


――コンコン

「失礼するよ。イングリッド、クィーンいる?」

 いつものように執務室に入る。

 すぐさま机で書簡を調べているイングリッドが立ち上がって一礼してくる。

「マチュア様、クィーンでしたら今は大広間で商人の方達と会食ですよ。夜は貴族たちとの晩餐会もありますし」

 ふむふむ。

「スケジュール詰め込みすぎでない?」

「いえ、それが私のミスでたまたま重なってしまいまして。誠に申し訳ありません」

 申し訳なさそうに報告するイングリット。

「あ〜、人為的ミスかぁ。それは仕方ないね。それじゃあクィーンに伝言しておいて、少しの間、カリス・マレスから留守にするからって」

 その言葉には、イングリッドもキョトンとしている。


「いえ、いつも通りに異世界地球に行くのですよね?」

「んにゃ、地球でない別の所行って来るから、宜しく伝えておいて」

 一瞬の間。

 そしてイングリッドは、慌てて部屋から出ようとしたマチュアの腕を掴んで制した。

「ちょ、ちょっとお待ちください。今すぐにクィーンをお呼びしますので。それを伝えると怒られます」

「いや、後で連絡するからって伝えてくれればいいよ。それじゃあ宜しく」

 にこやかに部屋から出ようとするマチュアだが。

 扉の外には、ファイズとゼクスが待機していた。


「先ほどドライから連絡がありましたが。今度はどちらへ向かうのですか?」

「マチュア様一人でなんて危険すぎます。せめてどちらか一人だけでも、護衛に付けてください」

 ゼクスとファイズがそう言うのなら仕方ない。

 誰も連れて行く予定がなかったのだが、こうなるとシスターズはテコでも動かない。

 やれやれとあきらめ顔で、マチュアは二人を交互に指差して。

「ん、ゼクス来い。ファイズは通常どおりで、クィーンに話しておいて」

 そう説明してから、マチュアはゼクスを伴って部屋から出る。


「はぁ〜なんか楽しそうだと思ったのに。了解しました、引き続き騎士団してますよ」

 がっくりと肩を落として、トボトボと廊下を進むファイズ。

 それを手を振って見送りながら、マチュアは目の前に転移門ゲートを開いた。

「さて、ゼクス、そこそこの覚悟はしておいてな。私も実際に行くのは初めてだから」

――ブゥゥゥン

 そのまま転移門ゲートに触れて中に入る。

 白亜の回廊の片隅で、マチュアは鍵を取り出して扉を生成すると、その鍵穴に鍵を差し込む。

「あの、一体何処に向かうのですか?」

「滅びし世界カルアド。何が出るか判らないから、気を付けてね」

 そう説明してから、マチュアは鍵を開けて扉を開く。

 一面赤土の荒野が広がる世界。


 そこにマチュアとゼクスは一歩足を踏み入れた。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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