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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
226/701

日常の章・その18 それは宣戦布告と取ろう

 世界魔術協会のあるビルを後にして。

 マチュアと赤城の二人は、とりあえず空腹を癒やすために何処かのレストランに向かう。


――ピッ

「赤城さん、敵性防御張り直しておいてね」

『へ?』

「あのガーゴイル、マスターは別よ。完全に監視されているのよねぇ」

『だ、誰にですか?』

「それがわかれば苦労しないのよ。これは参ったわ。とりあえずそう言うことなので」

――ピッ


 念話での会話を終えると、マチュアはすぐさま魔力感知サーチマジックを発動する。

 それも永続に切り替えて、常時範囲内の魔法に対しての感知能力を高めた。

 カリス・マレスでこんな事をしたらやかましくて耐えられなくなるが、そもそも魔法が存在しない異世界地球ならば、範囲内で反応した時の方が怖い。


 すぐに近くのレストランに入ると、適当なコースメニューを二人分注文する。

「それにしても本物の魔法使い達に会えるとは思いませんでしたね。あの仮面の下の素顔が、何処の国の秘密結社なのかと想像するだけでも楽しいですよ」

 にこやかに話している赤城。

 マチュアはその事よりも、あの書物に組み込まれていた記憶の残滓が気になって仕方がない。

「あそこの書物、私が見た限りはオリジナルの原書。この世界の人々はそれを理解する力がないだけで、あれを理解したら一人の人間で一国を滅ぼすことも難しくないのよねぇ‥‥」

「そんなにですか?」

「ええ。私が解析して覚えた魔法だけでも凄いわよ。時間軸を縦に行き来する魔術とか、横軸の異世界に向かう魔術とか‥‥マスター・クロウリーは本物の魔術師で間違い無いわね。無貌の神とかいう存在から力を与えられていたのだから」

「ても、それを実践できる魔術師が存在しない。悲しい事ですね」

「いるわよ、一人。マスター・クロウリーの弟子が」


 ちょうど前菜か運ばれて来たので、そこで話は一旦おしまい。

 しばし美味しい食事に舌鼓を打つ。

 その間は他愛ない話で盛り上がるが、ふと、マチュアが話を戻していく。

「さっきの話ね。あの原書の全てを理解した弟子が存在するわ。そしてある魔術を修得し、その部分を削り取ってあるのよ」

「え? それは誰なんですか?」

「さあ。弟子の名前の部分さえも削り取られて、誰にも分からなくなっているからねぇ。普通に読んでもあれはただの教義と日記の記された本でしかないわよ」


――ガチャッ

 最後のデザートプレートが運ばれてくると、マチュアと赤城は楽しそうに口に運んでいく。

「もしかして、ガーゴイルを使役しているのはその弟子では?」

「まあ、可能性としてはありかしら。クロウリーの残した原書を見張っていたとも考えられるわねぇ‥‥そうなると、本当に厄介よ」

「マチュアさんが狙われると?」

 するとマチュアは自身を指差し、そして赤城も指差す。

「狙われるのは私とあなた。今後は常に敵性防御を発動しておきなさい。高速詠唱は可能?」

「防御詠唱だけなら意識化してあります」

「ふぅん。ミアとどっこいどっこいのレベルかぁ。それは大したものだわ」

 そう話してから、マチュアは知識のスフィアを創り出す。

 それを赤城に手渡すと、赤城も慣れたものですぐに魔力分解して取り込んだ。


「え? これって精霊魔術?」

「そうよ。なるべく早めに六大精霊との契約をしておきなさい。下級精霊でも十分に強いからね。私と違って純粋な魔術師なんだから、精霊の加護だけでも常時発動しておかないと」

 そう話してから、マチュアが席を立つ。

 そして赤城も荷物を纏めると、マチュアの後ろに付いて店から出て行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 基本的には仕事はこれでおしまい。

 出張は明日いっぱいまで申請してあるが、マチュアとしては今はニューヨークから離れたくはない。

「マチュアさん、後はホテルですか?」

「う〜ん。腹ごなしの散歩かな? 赤城さんはどうするの?」

「明日帰国ですよね。正規ルートでの帰国なので、明日の昼にJFK空港ですよ。マチュアさんは戻ります?」

 その言葉で腕を組んで考える。

「帰らない。クロウリーの弟子が気になって仕方ないのよ」

「では、私が戻って出張の延期を伝えておきますね」

「そうね。それでお願いするわ、という事ですから」

 空間から箒を取り出すマチュア。

 赤城も同じように箒を取り出すと、マチュアに。

「ではお先にホテルに戻りますね」

 とだけ告げて飛んで行った。


――ヒュウン

 制限速度を守りながら、赤城はゆっくりと飛んでいく。

 時折赤城に手を振る人達もいるが、赤城もそれに答えて手を振り返している。

 20分程飛んでいると、明日まで予約してあったセントラルホテルに到着した。

――フワッ

 ゆっくりと正面玄関に降りると、赤城は箒をバッグにしまい込んだ。

「それにしてもマチュアさんは心配性ですね。まあ、気をつけるに越したことはありませんか」

 そんな事を呟きながら、一階ロビーで鍵を受け取る。

「失礼します。こちらがカードキーです。それと、マチュア様宛にお手紙をお預かりしていますが」

「ありがとうございます。後で渡しておきますね」

 そう話して、カードキーと一通の手紙を受け取る。


――ガチャッ

 部屋まで向かうと、室内からもしっかりと鍵をかけた。

「はてさて、差出人は書いてない。後でマチュアさんが戻ったら見せてもらおうかな?」

 そんな事を呟きながら、手紙は備え付けのテーブルの上に置く。

「とりあえず着替えて一休みしますか。指輪があるからテレビを見ても分かるし、便利ですよねぇ」

 のんびりと着替えを始める赤城。

 そしてのんびりとシャワーを浴びながら、疲れた身体を癒やし始めた。

――ゴソッ

 この時、手紙が僅かに動いたのに、赤城は気付く事が出来なかった。


‥‥…

‥‥


「うひゃあ‼︎」

 夜のセントラルパーク。

 メトロポリタンミュージアムの近くで、マチュアはのんびりとランニングをしている人達の質問責めにあっていた。

 湖畔近くにあるサウスゲートハウス、その横で箒に乗ってのんびりとしていた筈なのに。

「こんな夜に一人とは、故郷が懐かしくなったのですか?」

「私も魔法使いになれますか?」

「異世界には何時頃行けますか?」

 などなど、お約束の質問が彼方此方あちこちからやって来る。

 それらを一通り答えてから、マチュアは再び箒に乗ってふわっと飛び上がる。

「今日はこれぐらいで勘弁してね。それじゃあね」

 それだけを告げて、ランニングコースの上空をゆっくりと飛んでいると。


――ピッピッ

「魔法感知に反応?」

 すぐさま反応のあった方角に飛んでいく。

 だんだんと反応が近くなると、マチュアは湖の中央辺りを飛んでいるガーゴイルを見つけた。

「おや、ようやく見つけたわよ‼︎」

『ギギッ‥‥ギッ』

 箒で飛んでくるマチュアを確認すると、ガーゴイルも素早く上昇を開始する。

 まるでマチュアを引き寄せるように。

「その程度。私が追いつかないとでも?」

 そう呟きながらさらに箒に魔力を込めると、瞬時にガーゴイルの真横まで並んだ。

――シュンッ

 そのままガーゴイルの腕を掴むと、瞬時に魔力を流し込むマチュア。

深淵の書庫アーカイブ。ガーゴイルの魔力解析‥‥そこからリンクしているマスターの視覚まで‼︎」

 すぐさまマチュアはガーゴイルの内部にある魔力から、これを操っている存在を辿る。

 細く長い魔力の糸。

 あまりにも細くか弱いため、マチュアの魔力感知でも分からない。

 それはぐるぐると彼方此方あちこちを巡ると、マチュアと赤城の泊まっているホテルへと繋がる。

 そして窓を抜けた先にある視界。

 そこには、力なくぐったりとしている赤城を抱き抱えている存在がいた。


「赤城さんっ‼︎」

――シュンッ

 一瞬でホテルの部屋に転移するマチュア。

 すると、その存在‥‥漆黒のローブを身に纏った紳士‥‥は、マチュアに深々と頭を下げた。

「返してもらうわよ‼︎」

 すぐさま拘束魔術を思考するが、それが発動するよりも早く男は呟いた。

「チェックメイトですよ。ミスター・ミナセ」

――シュンッ

 その言葉に、マチュアは意識を取られた。

 その僅かの、ほんの刹那の瞬間に、紳士は赤城を連れて何処かへ転移した。


「クッソォォオ‼︎ 深淵の書庫アーカイブ起動、ダイレクトサーチ。赤城さんの所有する全てのマジックアイテムの座標を算出して‥‥」

――ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥

 巨大な立体魔法陣が対象を探す。

 次々と浮かび上がる魔法文字配列。

 そこには、以前見た、信じたくない文字が浮かんでいる。


『ターゲット‥‥ロスト‥‥ターゲット‥‥ロスト‥‥』


深淵の書庫アーカイブをクリアパッドに移行。引き続き、対象のサーチを行なってください」

 手元のクリアパッドに命令を伝えると、マチュアは窓から飛び出してガーゴイルを探す。

 だが、既にガーゴイルの反応もどこにも無かった。


「は‥‥ははは‥‥こんな事があるなんて‥‥」


――ポタッ‥‥ポタッ‥‥

 頬を伝う涙は、赤城を助けられなかった悔しさか、それとも絶対的な自信を砕かれた所為せいなのか。

 マチュアはその場で、声を上げる事なく泣き続けた。



 ◯ ◯ ◯ ◯◯ 



――ピッピッ

「マチュアです。赤城さんが何者かにさらわれました。見当は付いていますが正体が判らない。このままニューヨークに残って彼女を探しますので、大使館をお願いします」

『それはまた、何があったのですか? 』

「詳しくは今度説明する。済まないが‥‥頼むな」

――ピッピッ


 ツヴァイに連絡を入れる。

 そしてマチュアは静かに深呼吸をする。

「出し惜しみはダメか。『神威解放ゴットモード』‥‥ダイレクトセンサー稼働‥‥」

 魔力ではない、神威解放による神力を用いたサーチ。

「さらに‥‥GPSコマンド使用‥‥と、これでも反応は掴めないのか‥‥」

――ピッピッ

 すると、すぐに魔力感知に反応がある。

 場所は先程ガーゴイルを捉えた湖の真上。

「まだあんな所に?」

――シュンッ

 すぐさま転移して発見したガーゴイルを目視する。

「そこかぁ‼︎」

 すぐさま右手をガーゴイルに向ける。

 拘束魔法だが、神威を纏っているのでその威力は半端ではない。

『ギッギギギッ』

 すぐさま抵抗しようとするが、中空で縛りあげられ、飛ぶ事もままならない。

 すると、マチュアはすぐにガーゴイルの頭を掴み上げると、その目を睨みつけた。

「何故赤城さんを攫った‼︎ 私に用事があるのなら、直接私に来い‼︎」

 そう叫びながらも、ガーゴイルに繋がっている魔力の糸を辿っていく。

 細い細い

 それでいて長い。

 やがてガーゴイルの視界から、何処かの部屋に繋がった。


 ‥‥…

 ‥‥

 …


 暗い部屋。

 その真ん中に巨大な立体魔法陣。

 その中にある、黒く透き通った球体。

 何かの液体が注がれているらしい球体の中に、全裸の赤城が膝を抱えて眠ったように浮いていた。

『やあ‥‥はじめまして‥‥』

 壮年男性の声。

 英語ではあるが、何処か発音がおかしい。

「これはどうも。そこの赤城さんを返していただければ嬉しいのですが。すぐに解放していただけるかしら?」

『用事が終われば解放しますよ。そうですねぇ‥‥後10分で』

 魔法陣をよく観察する。

 球形の立体魔法陣。

 魔法文字にルーンが組み込まれ、四方を司る天使の名前と黄道十二星座の名が記されている。

 以前のマチュアならわからない。

 だが、天使ラジエルの書を見て、ソロモンの名を冠する魔術書から叡智を得たマチュアには理解できた。

「まさかとは思うけど、その魔法を使える人がまた出るとはねぇ‥‥誰から聞いたのかしら?  深淵の書庫アーカイブは私のオリジナル魔法なんですけれどね」


 地球の魔法文字配列ではあるが、明らかにマチュアの作り出した深淵の書庫アーカイブに間違いはない。

 ならば赤城に危険はないと判断したが。


――トントントントン

 腕を組んでいるマチュアの右手人差し指が、自身の左手をトントンと叩いている。

 マチュアは明らかにイラついている。

『さぁ? この肉体に刻まれている魔法知識を私なりに解読して組み合わせただけですからねぇ』

「へぇ‥‥あなた何者? その肉体の器ではなく、中身よ」

『ああ。これは失礼。はじめましてFräulein。私はエイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンドです。統合第三帝国の総統を務めています」

 マチュアを呼ぶフロイラインの発音。

 それは綺麗なオーストリア・ゲルマニア語の発音。

 その名前を聞いて、マチュアも思わず苦笑する。

「あの馬鹿の与太話が本当とはねぇ。それで、第三帝国は何が目的で?」

『決まっているでしょう。私が、私の名前で第三帝国を掲げているのです‥‥』

「へぇ。私が地球人アーシアンなら聞き逃せない言葉よね。けど、わたしには関係ないわ。うちの職員を返してもらえればね‥‥」


――シュンッ

 これだけの時間があれば、魔力の糸でつながっている場所なら転移も容易い。

 座標ではなく辿るだけ。

 暗い室内。

 その匂いで、そこが何処なのかマチュアは理解した。

「手術室とはねぇ。それもご丁寧に『空間断裂結界』とは、そりゃあ私には見えないわよね」

 ヒトラーの目の前1m。

 背後には赤城が眠っている魔法陣。

 そこにマチュアが現れた。

 しかし、ヒトラーはマチュアがそこに来る事さえ想定済みのように笑っている。


「やはり。記憶は正しい。あなたは人の肉体を捨てて亜神となった。異世界の人間ならいざ知らず、地球の人間である貴方がそこまで魂を昇華できるとはねぇ。水無瀬真央、あなたはどうやってそこまで鍛えられたのですか?」

 ニィィッと笑うヒトラー。

 破顔というのはこういう事かと、マチュアは目を疑う。

 だが、懐かしい名前で呼ばれたなら、こっちも本気でいくしかない。

「とうに捨てた名前を、よくもまあ思い出させてくれるわね。言っときますけど、ここまで昇華するには生半可な覚悟じゃないわよ‥‥」

「是非ご教授頂きたいところですが、今日はご遠慮しておきましょう。約束ですからねぇ‥‥そこのFräuleinはお返ししますよ、必要なデータは全て回収しましたので」

「それはどうも。それで、あなたはどうするのかしら?」

「ここから出て行きますよ。ここにいたこいつは、もうこの世界にはいませんから。では失礼」


――シュンッ

 丁寧に会釈すると、ヒトラーの姿がシュンッと消える。

「顕界転移とはまた。なんつ〜禁呪を使ってくれるわねぇ」

 ぽりぽりと頭を掻きながら振り返ると、球体の中で目を開けている赤城がいた。

「さて、少しだけ真ん中に入ってね‥‥却下リジェルト

――パチィィィィン

 今までの却下リジェルトとは一味違う。

 天使ラジエルの術式も組み込んだ最新型である。

 すぐさま全裸の赤城を抱き抱えると、マチュアは空間からローブを取り出して身体を包む。

「わ、私‥‥どうしてここにいるのかわからなくて‥‥」

 明らかに動揺している赤城を、マチュアはぎゅっと抱きしめる。

「ごめんね‥‥油断した‥‥もうこんな事がないようにしないとね‥‥」

 ああ。

 そうか、私は拐われたんだ。

 それをマチュアさんが助けに来た。

 ようやく何があったのかを理解した時。

 赤城が球体の中で意識を取り戻した時、マチュアの向こうの人が話していた言葉を思い出した。

「マチュアさんって‥‥水無瀬チーフですか?」


――ドキッ

「それって、去年だか一昨年に死んだ赤城さんの料理の師匠ね。残念だけど、私はあなたの師匠をした事は無いわよ。さっきのあいつの言葉、聞いていたの?」

 そう問いかけると、赤城は静かに頷く。

「マチュアさんの事。水無瀬真央って呼んでました。それをマチュアさんは肯定していた。どういう事ですか?」

「ん〜。難しいんだよなぁ」

「マチュアさんの料理の味付け、そして手をヒラヒラと振る癖。嬉しい時や信頼する人にだけ見せる、拳を重ねる癖まで、何もかも一緒なんです‥‥チーフじゃ無いんですか?」

 ボロボロと涙を流す赤城。

 これ以上、嘘をつくことは無理だろう。

「さて、取り敢えずホテルに戻りましょうか。そこで教えてあげる、ストームしか知らない私の秘密をね」

――シュンッ

 一瞬でホテルまで戻る。

 そこで赤城は一度シャワーを浴びた。

 マチュアはと言うと、テーブルの上にティーセットを並べて、長閑なティータイムを楽しんでいる。

 やがて着替えた赤城がマチュアの前に座ると、マチュアはカリス・マレスにやって来る前から、少しずつ話を始めた‥‥。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 全てを話した。

 包み隠さず、今のマチュアが亜神である事さえ。

 そこは天を見上げて創造神に問いかけたが、彼は静かに頷くだけであった。

 ここでマチュアの事を知られるのも摂理なのかと。

 やがて少しの沈黙ののち、赤城はゆっくりと口を開く。


「別の地球の水無瀬チーフの魂は、マチュアさんの中にはもう存在していないのですね」

「そうだなぁ。魂は向こうの地球の真央が持っているし、この肉体の魂も一度死んで分解しているからねえ。再生したこの魂はマチュアであって、水無瀬真央の記憶を持った別人なのは理解しているわよ」

「なら、それで良いです。ツヴァイさんたちがゴーレムなのは理解しましたし。これからどうしますか?」

 物分かりのいい子は好きです。

 ならばと気持ちを切り替える。


「さあね。統合第三帝国については私はノータッチを決め込む予定よ。国連なりなんなりの協力要請とか来ないと動く気は無いわ」

 あっさりと告げるマチュア。

 ふむふむと赤城も頷いている。

「もし日本国に被害が出たら?」

「すり潰す。日本とは国交を結んでいるので‥‥その時は、日本の人をカリス・マレスに避難させて‥‥はぁ?」


――ガバッ

 いきなり天井を見上げるマチュア。

「まさか、そう言う事なの?」

「どうしました? 天井に何かありましたか?」

「にやけている神様の顔。赤城さん、日本に戻るわよ、40秒で支度して」

 元々マチュアは手ぶらでやって来ている。

 赤城も荷物は全てショルダーバッグに収めてあったので、ジャケットを着てローブを羽織るだけである。

「終わりましたよ。では戻りますか」

「じゃあ手を貸してね」

 そっと赤城の手を掴むと、マチュアは一瞬で異世界大使館に転移した。


 ‥‥…

 ‥‥

 …


「拐われた人をもう助けたのですか」

 早朝の異世界大使館。

 ツヴァイがロビーでテレビを見ながら、のんびりと紅茶を飲んでいた。

 突然飛んできたマチュアと赤城を見て、ホッとしているようだ。

「いゃあ参った。ツヴァイ、色々とあって、赤城さんに全部話したのでよろしフベシッ」


――スパァァァァン

 笑っているマチュアの顔面に、ツヴァイがツッコミハリセンを叩き込む。

「全てって何処まで? ど、こ、ま、で?」

「あ。あの‥‥マチュアさんの経歴と、今は亜神って言うところまでは‥‥」

「なら私の事も?」

 そうツヴァイが赤城に問いかけると、コクコクとマチュアと赤城が頷く。

「それで、神様のペナルティは?」

「ないよ。むしろ想定済みらしい。魂の修練者が自身の正体を晒してはいけないっていう禁則事項はないし。私は後でエーリュシオンに行って来るわさ。ちょいと創造神と話して来る」

 ごきっと拳を鳴らすマチュア。

「なので。これが詳細ね‥‥その上で、赤城さんに色々と稽古つけてあげて。今後は大変になるかもしれないので」

「どのレベルで?」

「幻影騎士団として通用できるレベルまで‥‥必要ならミアを呼んで構わないわ」

「了解です。今日は代休ですけどどうしますか?」

 ツヴァイは赤城に問いかける。

 ならばと、赤城も覚悟を決めていた。


「少しだけ宿直室で休みます。その後で、カナンで修行してきます」

 そう話してから、赤城はシャワーを浴びに向かう。

「それで良いわさ。ツヴァイ、その記憶の中で、あなたの判断で三笠さんと相談。アメリゴのホワイトハウスと日本の蒲生副総理に正式書面で連絡しておいて」

 ビシッと指示を飛ばすマチュア。

 するとツヴァイが一言。

「本気で怒っているのは久しぶりに見ましたねぇ。何処に怒っているのですか?」

「上と下と不甲斐ない自分。以上よろしく」

 そう説明すると、マチュアは転移門ゲートを越えて白亜の回廊へと向かっていった。


 しばらくして、着替えた赤城がロビーに戻ってきた。

「あら? マチュアさんは?」

「カリス・マレスの神様と打ち合わせ」

「‥‥亜神って本当なんですねぇ」

「内緒ですよ。こっちの世界ではまだ誰も知らないのですし。神威解放したマチュア様が本気で怒ると、星が崩壊しかねませんので」

 冗談のように告げるツヴァイ。

 そして二枚の書簡を赤城に手渡す。

「これは?」

「勤務地の変更。赤城さんは明日から異世界ギルドへ。そこからドライに案内してもらってベルナーに向かってください。こちらは幻影騎士団への紹介状、騎士団長のウォルフラムに渡してくださいね?」

 ポンポンと手渡された書簡をバックにしまう。

「あ、あの、三笠さんとかの許可は?」

「マチュア様が決定して、代行の私が承認しました。三笠さんには後で説明しておきますので、大丈夫ですよ」

 淡々と話をするツヴァイ。

 その様子に、赤城も気圧されてしまう。


「あ、あの、ツヴァイさん、怒ってます?」

「あ〜、怒っているように感じたらごめんなさい。私が怒っているのは、マチュア様をあそこまで追い込んだ存在に対してです。私達シスターズは、マチュア様がのんびりとした生活を送ってもらえるように活動している部分もありましてね」

「幸せですね、マチュアさんは」

「だからこそ、私達は怒るときは怒ります。赤城さんも覚えておいてください、マチュア様が神威を解放する程、肉体にかかる負荷は大きくなります」

 その話には、赤城も驚く。

「特にこの異世界地球では、神威解放なんて自殺行為です‥‥失った魔力の補填のために、エーリュシオンに行くのでしょうね。けれどそれを知られたくないから。だから、赤城さんには話しておきますので」

「分かりました。私がサポートに就ければ良いのですね?」

「ええ。本来その仕事は私達のもの。けれどマチュア様は、この大使館のマチュア様の仕事を私に代行しろと告げました。なら、私はここから動けません。私を信頼して任されたのですから」

 それこそ、この仕事を放り出して来ようものなら、どれだけ怒られるか判ったものではない。

「一通り纏めて、拝命します。では、一休みするのもあれですので、カナンで報告してから体を休める事にしますわ」

 それだけを告げて、赤城も転移門ゲートを越えていった。


「羨ましいですよ。その立ち位置は元々は私の場所なのですから‥‥」

 そう告げると、ツヴァイは事務室に入って行く。

 もうすぐ三笠さん達が出勤する。


 その時の為に、三笠に報告する書類を用意しなくてはならない。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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