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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
224/701

日常の章・その16 未確認機の正体は?

 ゆっくりと潜行を開始するマチュアのイーディアスと、海兵隊員達のゼロツー。


 深度計なんてついてないので、コクピット正面モニターの映像を頼りにするしか無い。

 ローワー湾の平均深度は40フィート、最大深度は120フィートもある。

 その中でも最も深い場所に、未確認機は沈んでいる。


(このあたりの地形条件は地球とは違うのか‥‥)


 母艦から下りているケーブルを掴んだまま、ゆっくりと海底へと降りていく。

 深度36m、その海底に、未確認機は静かに横たわっている。


――ピッ

「マチュアよりメイガスへ。周辺調査及びデータ収集を開始する。三騎は母艦からの指示で撮影を、私は未確認機の魔法による解析を開始します」

『メイガス1了解」

「同じくメイガス2了解しました」

「メイガス3も了解です」

――ピッ


 水中活動用のエンジンなど積んでいないので、基本は歩行もしくは魔法による浮遊移動による活動になる。

 母艦から伸びているケーブルで機体を固定して、やや前屈みの姿勢を取る。

 すると、機体はゆっくりと前進を開始する。

 この動きがしっかり出来ないと、水中の魔法鎧メイガスアーマーは只の棺桶のようなものである。

――スーッ

 未確認機の近くに着底すると、マチュアは機体ごと深淵の書庫アーカイブに包まれる。

「解析開始‥‥」

 そーっと近づいて未確認機に触れる。

 そこから魔力を送り込み、内部構造を読み取っていく‥‥。

 次々とデータが魔法文字で表示される。

 部品に刻まれている文字なども、ここに次々と現れるのだが、あまりにも突拍子も無いことが映し出されるので戸惑うばかりである。

「ま、まあ‥‥クリアパッドに転送と。これ、パソコンに繋がれば良いんだけれど、まだそこまでの魔法技術はないんだよなぁ」

 ポリポリと頬を掻きながら呟く。

 映し出されているデータから考えても、この機体が再起動する可能性はない。

 これが魔法による兵器なら可能性がないわけでもないが、マチュアでさえ出来ない魔法と内燃機関の融合など考えたくもない。


――ドクン‥‥ドクン‥‥

 機体構造が深淵の書庫アーカイブに映し出される中、胸部装甲下部から、人の心音が聞こえている。

「心臓音?墜落してから三日でしょ?浸水していたら死んでるはず‥‥」

 急ぎ胸部装甲付近を調べると、コクピットと思わしき部分は完全密閉されていて、外部から浸水してはいなかった。


――ピッピッ

「マチュアから母艦へ、中のパイロットの生存を確認。急いで引き上げ作業に移行することを提案します」

『安全は確認できたのか?』

「今調べている所です‼︎ 上で医者の準備をお願いします」

『了解。安全が確認できた時点でサルベージを開始する』

「すぐにケーブルを下ろしてくださいね」

――ピッピッ


「ジェネレーターらしきものは起動していないか。内部温度と外部温度の差を考えると、止まってからかなり時間は経っているし。生命維持装置があるんだろうなぁ」

 母艦から降りてくる無数のケーブル。

 それを次々と未確認機に魔法で固定すると、三騎は未確認機の四肢にバルーンを固定した。

 母艦から空気が送り出されて膨らむタイプで、未確認機を浮上させるサポートをする。

『メイガス1、固定完了です』

『メイガス2、あと2分ください』

『メイガス3、こちらは完了です』

「了解です。では、メイガス2の作業が完了したら巻き上げ開始でお願いします」

 各機からの報告を受けて、マチュアは母艦に連絡する。

 そして作業が完了したら、マチュアはすぐさま回収指示を出した。


――ブゥゥゥゥゥゥン

 ケーブルが巻き上げられ、ゆっくりと機体が浮かび上がる。

 30分後には、未確認機は水上から母艦へと移された。


――プシュッ

 母艦に戻ったマチュアは、イーディアスの胸部ハッチを開いて未確認機に近づく。

 既に医師が待機しているが、どこからハッチを開けるのか分からないらしい。

「マム・マチュア、あれはどこから開けるか分かりますか?」

「はてはて‥‥私にもどうにも」

 マイク准将がマチュアの後ろから問いかけるが、マチュアにも開け方など分からない。

 内部構造を知るのと開け方を理解するのは別である。

「魔法で調べた限りでは、このあたりの奥にコクピットがあるのはわかるんですが‥‥何処かなぁ」

「それは魔法で?」

「ええ。これが調べたデータですね。魔力を流し込んでサーチしました」

 クリアパッドを空間から取り出して手渡すと、マイク准将も映し出された文字配列などを見て顔をしかめる。


「あった‼︎これが強制排出レバーか」

 海兵隊員が装甲の一部を開いてレバーを引く。

――ガシュッ

 鈍い金属音がすると、首の付け根の部分がいきなり開き、潜水艦のような気密ハッチが現れた。


「あ、開いた。なら後はいいや。それでマイク准将、この件、どうやって報告しますか?機体に使われている様々な部品。そこに刻まれてある文字配列。やばいですよね?」

 その問いかけに、マイク准将も静かに頷いた。

「信じたくないが、我がステーツの文字だ。私が知っている機器もある」

「これはゲルマニアの、これは日本の部品ですよね。こんなに各国の軍事部品を組み込める国なんて、ここ以外ありますか?」

 そう問いかけるが、マイク准将はコクリと頷くしかない。

「まずは報告が先だ。マム・マチュア、済まないが私に付き合ってくれ」

「後で晩御飯が出るなら喜んで」

 そう笑いながら箒を取り出すと、マチュアはマイク准将を後ろに乗せて陸地へと飛んで行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 回収した未確認機は母艦で何処かに運ばれる。

 これから解体されて細かい部分の解析が始まるのだろうが、マチュアには関係ない。

「さて、ここから先は私達の仕事なのだが、マム・マチュア。本部であなたとお話をしたいと連絡を受けているのですが、ご同行願えますか?」

「本部というと‥‥まさか」

 マイク准将の話し方から察するに、恐らくは五角形のあの場所であろう。

「アメリゴ国防総省です。いかがですか?」

「それは断れないじゃないですか。」


 マイク准将はサルベージ本部で報告を行ったのち、アメリゴ国防総省へと移動するように命令を受けていたらしい。

 ここからの仕事としても、マチュアは解体作業の立ち会いなどは許可を貰っていない。

 その為、報告も兼ねて一連の話を聞きたいというのが国防総省の総意らしい。

「では早速向うとしましょう。ここからは私達の車で同行して頂けますか?」

「それは勘弁を。車って、どうも閉塞感があって嫌いなのですよ。箒で追従しますのでご勘弁を」

 ニッコリと笑って返事を返すと、マイク准将も笑い返す。

「では先に。後ろからついてきて下さいね」

 それだけを告げてマイクは待機していた車両に乗り込む。

 その後ろをマチュアが追従し、さらに後に警備車両がついてきている。


(警備というよりも監視だろうなぁ。迂闊なことは出来ないぞ、これは)


 そんな事を考えながら、マチュアはのんびりとした旅を始める。

 ダウンタウン・マンハッタンヘリポートから飛行機に乗り換えて、一路バージニア州へ。

 元々飛んでいるマチュアには乗り換えなど関係なく、片道90分弱ののどかな飛行。

 横を飛んでいる飛行機から、時折マチュアに向かってカメラを構えているのはご愛嬌としておこう。


「しっかし、こんなに高速で飛んだのは久し振りだなぁ‥‥あの飛行機、速度なんぼなんだろう」

 平均速度で考えると、ジャンボジェットの巡航速度は時速800km以上。

 今のマチュアはそれと同速で飛んでいる。

「いくら魔力を注げば高速が出せるものとはいえ、音速は超えたくないしなぁ‥‥」

 そんな事を考えなが、やがてバージニア州のリッチモンド国際空港へと到着する。

 そこから更に車で移動すると、一路アーリントンにあるアメリゴ国防総省へと向かった。


‥‥‥

‥‥

 

「さて、ここからはこのネームプレートを付けて下さいね」

 入り口で魂の護符(プレート)を提示したマチュアは、マイク准将から一枚のネームプレートを手渡された。

「これは?」

「これがないと、すぐに警備部がマムを拘束しに駆けつけます。これがマムの命を保証するプレートですので」

 ほほう。

 よく映画で見るあれですな?


 そんな事を考えながら、マチュアはローブにプレートを取り付けると、マイク准将の後ろをついていく。

 エレベーターで地下区画に向うと、そこで統合参謀本部議長のジョセフ・タイラーと顔を合わせた。

 ペンタゴンと呼ばれている建物の地下区画、恐らくは公開されている地図や見取り図にも載っていない場所。

 ホワイトハウスの中で、マチュアが何度も通されたグリーンルームにも似た感じがしている。

「初めまして。私が統合参謀本部議長のジョセフ・タイラーです。お会い出来て嬉しいですよ、ミス・エルフ」

「ご丁寧にありがとうございます。異世界ギルドマスターのマチュアです。」

 初老の紳士。

 年齢的には50代後半ぐらいであろう。

 プラチナブロンドのオールバック、ほりが深くくっきりとした顔。

 温和そうに笑っているが、マチュアの第一印象としては。


(ケルビム老みたいだなあ‥‥)


 である。 

「では、これをどうぞ。使い方はナントカパッドと一緒ですので」

 そう説明してクリアパッドを取り出して手渡すと、ジョセフ本部長はマチュアの説明を受けながらフムフムと解析データーを確認している。 

「‥‥信じられないが。これが事実だとすると、大変なことになるな」

 マチュアが手渡したクリアパッドのデータを一通り確認したのち、目頭を押さえながら呟いている。

「では、あの未確認騎はアメリゴが極秘裏に作ったと?」

 そう問いかけるマチュアだが、ジョセフは頭を左右に振る。

「報告では、パイロットは東洋人、服装と所持品、コクピット内部の様々な計器や文字群から考えて、秦朝社会主義共和国の作ったものであると考えるのが早い。世界中の様々な兵器を手に入れられるのは、あの国か我が国ぐらいだ」

「では外交筋から話を聞くと?」

「どうせ知らぬ存ぜぬで通してくる。国連の強権を使う必要もあるが、戦闘用人型兵器の開発をしていたとは予想外だ」

 なるほど。

 となると、今後もあの人型兵器は世界の彼方此方で出現する可能性もある。

 問題は、その出現方法である。


「さて、これで我がカナンが関与していると言う疑いは消えましたか?」

 ジョセフに話しかけてみると、ジョセフは胸に手を当てて頭を下げる。

「大統領から、マム・マチュアと異世界はステーツの友人であると念を押されていた。だが、私は立場上、確たる証拠が無ければ信じる事が出来なかった。心から謝罪する」

「それはどうも。では、私は大統領との約束は果たしたので帰りますね。見送りはいりませんよ」

 マチュアも少し笑いながら頭を下げるが、ジョセフは改めてマチュアに話しかける。

「頼みがある。魔法鎧メイガスアーマー、あれを正式に譲って欲しい」

 真剣な表情で話しかけるが、マチュアは笑いながら頭を左右に振る。

「それは出来ません。日本国にでさえ、あれは貸与という形で提供しているのです。それをアメリゴにだけ販売というのはどうかと思います」

「ですが、サウスアラビアのサラディーンという機体を販売したという事実もありますよね? あれはどうしてですか?」

「あれは種目の機体です。実際に軍事用に使うとなると、スペックや反応速度が足りないですよ」

「ではどうしても駄目ですか」

 執拗に食い下がるジョセフ。

 だが、それでもマチュアは頭を縦に振ることはしない。

「兵器産業に売り飛ばすかどうかは、まだ考えている最中でして。横須賀基地に貸し出してある4騎で我慢してください。大統領との話し合いで、アメリゴにも運び出していいと説明はしてありますので」

 それで納得はして貰えたらしい。

 フッとジョセフが笑う。

「そうですか。それは済まなかった。また有事の際には連絡する、その時はまた力を貸して欲しい」

「ええ。その時は是非。それでは失礼します」

 指で空間に魔法陣を書くと、マチュアは転移門ゲートを開く。

 そして手を振りながら扉をくぐると、大使館へと戻っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「‥‥深夜二時かい」

 アメリゴから戻ってきたマチュアは、大使館ロビーの時計を見て思わず呟いてしまう。

「あれ?マチュアさんアメリゴでは?」

 ロビーでは、夜勤担当の三笠がテレビを見ながら晩酌している。

 その隣では領事部の男性職員もソファーに座ってテレビを見ていた。

「まあ、私の出番は終わったわよ。ここからはアメリゴの仕事。未確認機もパイロットも回収したからね」

 のんびりと椅子に座ると、厨房から持ってきたティラミスとオレンジジュースで一息いれる。

「また同じ敵が出ますかねぇ」

「さぁ?アメリゴの解析能力次第でしょ?カナンは関係ないから無視。この世界のどんぱちはこっちでやってくださいですよ」

「それはそうですよね。机の上にFAX置いてありますが、急ぎの仕事はありませんので」

「モグモグ‥‥明日でいいや。じゃあ、後は任せたわね」

 暫しのんびりと食事をしていると、マチュアはカナンには戻らずに宿直室で一休みする事にした。


‥‥‥

‥‥


 そして翌日早朝。

 机の上のファックスに目を通すと、マチュアは一つ一つ吟味する。

 未確認機の件については、政府が公式で異世界の関与を否定し、大使館からも同様の発表をした事もあって、現在は落ち着きを取り戻している。

 大使館外のデモもいつのまにかいなくなり、いつもの日常が戻って来ている。


「しかしまあ、どこの国があんな兵器作ったんだか。アメリゴの解析次第では世界の軍事バランスが崩れるわねえ」

 クリアパッドを開いて、のんびりとデータを眺めている。

 機体の解析は自衛隊とアメリゴが行なっている為、マチュアにできるのはアメリゴで回収した機体データの解析のみ。

 それも実際に見たものではなく魔法による観測でしかないので、推測データしかない。

「しかし、マチュア様以外に巨大ロボット作る人がいるとは、地球というところは実に不思議ですね」

 ツヴァイが一休みしてマチュアに話しかけると、意外と他の職員達も食い付いてくる。

「日本でなら、御茶ノ水重工というメーカーがロボット作ってますよ。それに、強化外骨格でしたらあちこちのメーカーが競って開発しています」

「マチュアさんの開発した魔法鎧メイガスアーマーのように乗り込んで動かすタイプはありますが、あそこまで自在に動くものはまだありませんねぇ」

「そうそう。鉄腕マルスのようなロボットの開発が日本のテーマですし」

 などなど、突然のロボット談義に花が咲いた。

 クリアパッドであちこち検索しても、意外とロボットのデータは多い。

 それにも増して、最近の未確認機の出現にはかなり物議が醸されている。


「最初は巨大なロボット、次が少し小型化かぁ‥‥あれ、この世界のどこかの秘密結社が作っている可能性あるよなぁ」

「世界征服を企む何とやらですか?」

「そんなのいるの?」

 思わず問い返すマチュア。

 すると。

「新第三帝国派ですかねぇ」

 高嶋が物騒なことを話している。

「ミレニアム?」

「いえいえ、それがなにか知りませんが。ゲルマニアの前身だった帝国ですよ。第二次大戦時に欧州を拠点とした国家で、軍事力も然ることながら、魔法を研究して兵器化していた国です。エイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー総統が統治していた国家で、第三帝国という名前で知られていますよ」

 古屋が楽しそうに説明してくる。

「あれ? 古屋君って軍事オタク?」

「いえいえ。この程度はオタク知識ではありませんよ。一般常識ですよ」

 そう笑っている古屋だが。

 他の職員達は首を左右に振っている。


「それで、その魔法研究は成立しなかったのね?」

 そのマチュアの問いかけに、古屋は人差し指を立てて左右に振る。

「ちっちっ。それは違います。第三帝国には、彼らに魔法学を提供していた存在がいるのですよ。『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』という秘密結社で、その首領であるエドワード・アレグザンダー・クロウリーがその人です」

 ふむふむ。

 なんか面白くなってきたぞ。

「そのなんとかグローリーさんが魔導士なの?」

「ええ。彼の残した書籍に記されていましたよ。彼はこの地球ではない異世界からやってきた存在で、この地球では不老不死であると。魂の修練を経て、彼はこの世界で全ての魔法の叡智を身に着け、人では到達不能である不老不死に至ったそうです」

「へぇ‥‥」

 ふとマチュアは頭を捻る。

 三笠の隣のツヴァイもマチュアの方を向いて首を捻るが、そんなことは気にせずに古屋は話を続けていた。

「彼の系譜は常に謎に秘められていて、一説では時を渡る超能力者であるサン・ジェルマン伯爵の仮の姿の一つとも伝えられています。彼の書物によればですね、紀元1000年にこの世界にやってきて、魂の修練を行った後に、彼は時を超える力を手に入れました。その時代によって名前を変え、錬金術師のカリオストロや時を超えた錬金術師のサン・ジェルマン、アル・ラーゼスなどなど、時代を生きてきた錬金術師は全てクロウリーその人なのです」

 淡々と話をしているが、これは止まることはない。

「まあ、詳しい話は今度教えて貰うとして。そのクロウリーさんの組織は今でも残っているのかな?」

「ええ。世界魔術師協会にも登録されていますよ。現在は黄金の夜明け団ではなく、エストラードという名前ですね。『新しい夜明け』という意味らしく、彼のいた世界の言葉と伝えられていますよ」

 ふむふむ。

 そこが分かれば十分である。

「古屋君ありがとうね。では仕事に戻りましょう‥‥赤城さん、この前の世界魔術師連合だかの件、調べておいてね」

「はい。急ぎますか?」

「今は急がないわ。来週末まででいいよ」

 そう指示をしてから、マチュアは一旦厨房に向う。


 保存庫からティラミスとアップルティーを取り出して皿に乗せると、それを持ってロビーのソファーに座る。

「まあ、予想外と言うか何というか‥‥魂の修練ねぇ‥‥」

 真央が地球からカリス・マレスにやって来たのも魂の修練。

 それならば、別の世界からここの地球にやって来て、魂の修練を受けていた者がいてもおかしくはない。

 そして魂の質を高みに乗せていたとしたら、この世界で不老不死として残っていてもおかしくはない。

 全て推測ではあるが、いま現在マチュアが予測できる可能性である。

「転生者クロウリーが、秦朝民主主義共和国と手を組んだ可能性。そしてあの人型兵器を作ったとすると、私達カリス・マレスの人間はどうすればいいのか‥‥」

 答えは出ない。


 出したいのだが、何かがマチュアの中で歯止めをかけている。

 マチュアと同じ境遇で、魂の修練を終えてなお世界に留まった者。

 その者が、自身の力を自在に扱ったとしても、それは世界の摂理。

 マチュアがこの世界に来たのも、天狼によってもたらされた摂理の一つ。

 転生者クロウリーとマチュア、共にこの世界の人間ではない『異世界の存在』。

 そのような者が、異世界地球で戦ってよいのか。

  

「頭痛いわぁ‥‥考えても答えが出ないなんて久し振りだぁ」

 ズズッとアップルティーを喉に流し込んで溜息一つ。

 ふと気がつくと、ロビーでは異世界大使館の領事部にやって来た人達で賑わっている。

「ありゃ? 今日は開放日?」

 キョトンとしているマチュアに、領事部受付の人が一言。

「いえ? 異世界渡航旅券(パスカード)」の申請が通った方の発行手続きですよ。普段は赤煉瓦庁舎の異世界政策局での発行ですが、近所でここの方が手続きしやすいそうで」

「ああ、成程ねぇ。お疲れ様」

 にこやかに話していると、今度はマチュアが問いかけられた。

「マチュアさんは休憩ですか?」

「そ。仕事で行き詰まったので、ここで一息だよ。何かあったのかな?」

「領事部発行用の旅券が不足しまして。急ぎ二枚お願いできますか?」

「あれ? そうなの?」

「ええ。今朝一番で政治部に届けまして、ここの予備が足りないのでマチュアさんに発行お願いしますと高嶋さんにお願いしていましたが‥‥聞いてませんか?」

 ほほう。

 連絡事項伝達ミスが発生。

「取り敢えず100枚作っておくわ。今は?」

「2枚です」

 それぐらいの予備はある。

 すぐさま空間から取り出して受付に渡すと、マチュアはロビーの隅っこで深淵の書庫アーカイブを展開すると、異世界渡航回数券(ツアーカード)の量産を始めた。


 尚、この後高嶋がこってりと絞られ、日曜出勤を一日増やされたのはいうまでもない。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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