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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
218/701

日常の章・その11 日本大使館と未帰還者たち

 カナン第三城塞。

 グランドカナンに作られた『異世界大使館行政区』。

 先日、試験的に建築していた四つの大使館が完成した。

 その為マチュアは、朝一で外務省に向かい、既に任命されていた日本大使館の大使を迎えに行っていたのである。


「しかし。長い間、国会議員を務めていましたが、まさか勤務地が異世界になるとは思っていませんでしたよ」

 外務省の会議室で、在カナン日本大使に任命された棚橋弘たなはし・ひろしはやや苦笑気味に話をしている。

「まあ、いいんじゃないですか?これが棚橋さんの魂の護符(プレート異世界渡航旅券パスカードです。それと、荷物はこちらへ」

 真新しいショルダーバッグを棚橋に手渡す。

「これは?」

「カナンからの備品です。中は空間拡張がしてありまして、大体150立米程の容積があります‥‥」

 一つ一つを説明するマチュア。

 棚橋に手渡したバッグには、空飛ぶ絨毯とクリアパッド、双方向自動翻訳指輪などの異世界大使館職員の備品と同じものが収められている。

「では、大使館職員の皆さんには魂の護符(プレート異世界渡航旅券パスカードを。日本との出入りは異世界ギルドから、大使館職員は職員用の出入り口を使ってください」

「それは何か違うのかな?」

「機械類持ち込みの制限がありません。地球との連絡については電話などありませんので、つど転移門ゲートを通ることになりますので」

 一通りの注意事項を話してから、マチュアは会議室に転移門ゲートを作り出す。


――ブゥゥゥン

「さて、それでは行きますか。みなさん荷物は忘れずに‥‥」

 そうマチュアが話してから、次々と転移門ゲートを潜っていく。

 白亜の空間が広がる。

 白亜の回廊を真っ直ぐ行って、十字路の左が異世界ギルド。

 右に曲がると千歳空港。

 まっすぐ向かうと異世界大使館に繋がる。

 空間内に転移門ゲートを固定し、異世界渡航旅券パスカードを鍵がわりに使うことで、一般の人が勝手に外から出入りできないようにしてある。


「しかし、これはまた‥‥」

「不思議ですか?」

「ええ。真っ白な空間。魔法によって作られた扉。その向こうの異世界。俺が日本大使に任命されるとは思わなかったからなぁ」

 感慨深く話している棚橋の後ろには、4名の大使館職員が付いて来ている。

「皆さんを日本大使館にお届けした時点で、今まで異世界大使館が行ってきた業務のいくつかはそちらにお渡しします。カナンに来た観光客の窓口は全てそちらになりますので、早くカナンに慣れてくださいね」

「まずは冒険者登録だな。カナンのルールは全て自己責任だろう?身を守る術をしっかりと身に着けないと」

 右腕を曲げて力こぶを作ると、それをパーンと叩きながら告げる棚橋。

 彼は大学卒業後にプロレスラーになり、まざまなタイトルを奪取したのちに後進に後を譲って議員になったという経歴を持つ。

 人柄で日本大使に選ばれたという噂ではあるが、それ以外にも理由はあるらしい。


――ガチャッ

 ゆっくりと扉が開く。

「おや、マチュア殿と日本大使館の方ですか。はじめまして」

 転移門ゲート外では、フィリップ・アルバートとツヴァイが待機していた。

「異世界ギルドのサブマスターを務めますフィリップ・アルバートです」

「同じくサブマスターのツヴァイです。この子はアンナロッテ・ココロンとガイ・フォークス。日本大使館担当のギルド員です」

 ロリエッタの職員アンナロッテと人間のガイ。

 元はカナン魔導騎士団員で、ゼクスとファイズからみっちりと日本の事を叩き込まれていた。

「よっろしくぅ〜。ココロンです」

「ガイです。宜しくお願いします」

 日本語で丁寧に挨拶をする二人に、棚橋も握手で対応する。

「棚橋です。では、早速向かいましょう」

 外で待機している馬車に乗り込む棚橋と職員たち。

 ココロンとガイは馬で、マチュアは箒でついて行く。


 窓の中から顔を出して、流れ行く風景を楽しむ一行。

 グランドカナンとサウスカナンを繋ぐ門を越えると、すぐそこには柵で囲まれた大きな建物群が顔を出す。

「ははぁ。日本でいう所の、ハウジングセンターのような感じですねぇ」

 広大な敷地の中に、柵に囲まれた敷地と建物。

 それらを全て囲っている柵と門。

 正門の左右には騎士団から派遣された守衛が待機している。

「ご苦労様です」

 守衛の騎士がマチュアたちに敬礼すると、ゆっくりと門が開かれる。

――ギギギィィィィッ

「この門は一回一回開け閉めするのですか?」

 棚橋が不思議そうにマチュアに問いかける。

「ええ、閉めておかないと商人たちが集まって来て煩いので。今日からは朝と夕方の鐘に合わせて開け閉めしますが、昼間は開けっ放しです。閉めた後は横の通用門でどうぞ」

 簡単な説明をすると、マチュアは正門から最も近い建物へとやってくる。

 広い敷地内にある『日本大使館』。

 正面の門を開き中に入る。

 建物はそれほど大きくはないが、作りは頑丈。

 正面の庭にあるポールに近寄ると、棚橋は運んで来た荷物の中から日本の国旗を取り出した。

「さて、それじゃあ日本大使の初仕事と行きますか」

 ポールから下がっているロープに国旗を固定すると、スルスルと紐を引いて国旗を掲揚した。


――パタパタ‥‥

 カナンの空に、日本の旗。

 風を受けてはためいている姿に、棚橋や職員達は感動している。

「ようこそカナンへ。私たちカリス・マレスの民は、異世界地球の人々を歓迎します」

「これからもよろしくお願いします」

 がっしりと握手するマチュアと棚橋。

 この日から、日本大使館は正式に機能を開始した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



「‥‥いきなり仕事が減りましたねぇ」

「旅行代理店が来ましたから、観光の窓口はあちらと分業ですよ」

 異世界ギルドのカウンターでお茶を飲みながら、マチュアはのんびりと外を眺めている。

 マチュアは日本の勤務時間が終わったので、カナンのギルドでのんびりとしている所であった。


 日本大使館が出来てから、異世界ギルドの仕事は激減した。

 更に先日、異世界ギルドの斜め前に建設していた建物が完成すると、そこにHTBツーリストと旅の友旅行社の看板も設置された。

 日本での契約により二つの社が日本からの観光に関する部分を管理することとなり、異世界ギルドは領事館のような仕事のみとなった。

 それでも観光会社を通さない個人の客などの対応は今まで通りだし、二つの会社のサポートが主な仕事に変わりつつある。


「観光客の相談なども全て基本あっち。でも、慣れている人はこっちに来るから、あんまり気にしないほうがいいよ」

「まあ、それならそれで。私達は鐘の音と同時に仕事を終えますが、あっちのギルドは二十四時間ずっとですからねぇ」

 日本のサービス精神には頭が下がる。

 いつでも観光客が駆けこめるようにと、二つの社は交代で深夜営業を行っているらしい。

 代理店が正式に稼働すると、日本ではカナン観光ツアーなども開始された。


『二泊三日、朝晩の食事付きで、お一人四万八千円』


 これにはかなりの応募が殺到したが、今度は収容人数の関係で予約やキャンセル待ちが殺到している。

 観光客のリストは代理店から政策局と領事部、日本大使館、異世界ギルドに届けられ、それで出入国確認と審査を行うことになる。


――タッツッタッッ

 少しすると、ギルドの転移門ゲートから赤城が出て来た。

「ま、マチュアさん、アメリゴ大統領から電話です」

「ロナルド大統領からかぁ。そろそろアメリゴ大使館の話だね、今行くよ」

 ティーカップを片付けてから、マチュアは転移門ゲートを越えて異世界大使館にやってくる。

 そして事務室の机に座ると、のんびりと受話器を受け取った。


――ガチャッ

「はい、ロナルド大統領。本日はどのようなお話で?」

『マム・マチュアに朗報だよ。上院と下院、双方での異世界関連の法案が通過した。まずはカナンに大使館を置いて、そこからさまざまな情報を発信するという事で全会一致だ』

「ではアメリゴ大使を任命してください。それと職員を四名、うちからも二人つけます。それが決まったら連絡を頂けると、正式にカナンに大使を招待しますわ」

『前向きの話をありがとう。横須賀基地の魔法鎧メイガスアーマーもかなり乗りこなせてはいるらしいね。追加であと四騎回して欲しいとローレンス准将も笑っていたよ』

「まあ、それは追々。では、先程の件、宜しくお願いしますね」

『わかった。それと‥‥これはここだけの話にして欲しいのだが、世界魔法協会がマム・マチュアとコンタクトしたいと動いている』

「‥‥胡散臭そうな名前です事。何ですそれは」

『地球に昔から存在している秘密結社の集まりだね。秘密結社の国連のようなもので、実際に魔法を使う術者の存在する団体らしい』

「はぁ。それは面白そうですけど、私に何の用でしょうかね」

『それは私にも判らないが、彼らは時として実力行使も行ってくる。気を付けておいて欲しい。それでは』

――ガチャッ


「世界魔法協会かぁ。何だろうなぁ」

「偶に雑誌で見ますよ。『超越科学雑誌ら・ムー』って言う雑誌がありまして。それに名前は出てきますね。どんな団体が所属しているとか、実在するのかとか、いつも論議を醸していますよ。実在するんですねぇ」

 のんびりとクリアパッドを眺めながら説明する赤城。

「まあ、こちとら本物の魔術師、この世界の魔術師から話を聞くのも楽しそうだなぁ」

「お気を付けて。危険な噂も色々とありますので」

「危険?どんな?」

「いかがわしい集会をしているとか。生贄の儀式を行っているとか。そんな噂ですよ」

 まあ、現代でもよく聞くレベルのいかがわしさ。

 だが、マチュアはキョトンとしている。

「生贄?なんで?」

「そりゃあ悪魔崇拝とかですよ。生きたその‥‥処女を生贄に捧げて、悪魔を現世界に呼び戻すって言う」

 へぇ。

 思わずマチュアは頭上を見上げる。

 この世界の事はこの世界の神に聞け。

 もっとも教えてくれるかどうかなんて気まぐれであるが。


 ‥‥‥‥

 ‥‥

 …


「あ、成程、悪魔はいるのか。でも生贄ってまた原始的だねぇ」

 教えてくれた模様。

 ウンウンと腕を組んで頷いているマチュア。

 すると、赤城がポカーンとした表情でマチュアを見ている。

「あの、マチュアさん、今、何かとお話ししました?」

「へ?神様に悪魔いるのか聞いただけだよ」

「‥‥神様とお話し出来るのですか?」

 その赤城の言葉に、マチュアはコクコクと頷く。

「ゴッドスピーキング。神様からはい、いいえで答えをもらう魔法。私のオリジナルだよ」

 という嘘でごまかす。

 オリジナルと言えば諦めると予想したのだが。

「あの、マチュアさん、死んでしまった人と話をする事はできますか?」

「へ?」

 突然の質問に、マチュアも驚く。

「不可能ではないわ。デッドリースピークって言う魔法があるからね。写真か何かあるかな?」

 そう問いかけると、赤城は懐からパスケースを取り出してマチュアに見せる。

「これが私のおばあちゃん。こっちからおばあちゃんが亡くなった翌日に亡くなったミャウ。二人とも天国で元気ならいいんです」

 穏やかな表情で笑っている老婆と、その膝の上で眠っている猫。

「ふむふむ‥‥特別だよ、本当はダメなんだから。おばあさんの名前は?」

「高遠スミ江です。猫さんは高遠ミャウになるのかな」

「どれどれ‥‥高遠スミ江さんと高遠ミャウね‥‥ミャウ?」

 何処かで聞いた名前。

  はて。

 昔あったような。

 ゆっくりと指先で魔法陣を描き、赤城の魂から繋がりを探して‥‥。


――ピッピッ

 突然思い出した。

 ストームが拾った猫族のような人族。

 おばあさんが死んで、その後をついてきた魂。

 今はサムソンで冒険者をしている。

 神々の気まぐれで転生した子。


「ふぅ。赤城さん、良いことを教えてあげる」

 ドキドキとしながらマチュアの言葉を待っている。

「二人とも天国には居ないわ。今は転生してカリス・マレスにいるわよ。わたしには何処にいるのかはもう分からない。けど、転生できたのは事実よ」

――ポロポロ

 赤城の双眸から涙が溢れる。

「よかった。ちゃんと転生したんだ‥‥マチュアさん、わたしがおばあさんに会ってもわかりませんよね?」

 暫し考える。

 流石のマチュアでも、転生後なんて分からない。

 ミャウはすぐに会わせられるが、それはやってはダメ。

 ミャウは新しい人生を歩いている。

「無理だわねぇ。魂のリンクが切れているから、確実に不可能。冥王でなければ分からないんじゃないかな」

「そうか。でも、ありがとうございました」

「いえいえ。さてと、これで仕事はおしまい。わたしはカナンに帰るね」

 手をヒラヒラと振りながら赤城に告げると、マチュアに丁寧に頭を下げている。

「はい、お疲れ様でした」

「じゃあまた明日ね」

 のんびりとカナンに帰るマチュア。

 あとはのんびりと、自宅で身体を休めるだけ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



 池田の冒険者ギルド登録に伴い、冒険者研修とダンジョン研修も始めた頃。

 異世界ギルドではちょっとした事件が起こっていた。


「不肖ながら、ドライ・ロイシィ、ラグナ・マリア南方ラマダ王国領内、サード辺境領での任務を完了しました」

 二年ぶりのドライのカナン帰還。

 真っ直ぐに王城に挨拶に向かった後、マチュアが異世界ギルドにいると聞いてやって来たらしい。

「はぁ。あと一年任期無かったかしら?」

 仕事終わりで帰ってきたマチュアは、ドライからの報告を聞いてやや驚きである。

「はい。ラマダ王領のライオネル国王がですね。私の補佐官だったモーゼル・バイアスの仕事ぶりを買って、一年早く私の代わりにサード辺境領の領主に任命しまして」

 成程。

 ライオネル国王が判断したのなら、マチュアがどうこう言うつもりはない。

「それ、三王の決定取ったの?」

「ええ。ラグナ王城の六王の間での正式な決議ですよ」

「ならいいや。ツヴァイ、明日からドライに異世界ギルドの仕事引き継いで」

 あっさりと話しているマチュア。

 ならばとツヴァイも拳をゴキゴキッと鳴らした。


「イエス、マム・マチュア。明日からドライは異世界ギルドに配置。私の代わりにサブマスターだ」

「はぁ?ちょっと待ってくれ、私は事務よりも戦闘型で前に出ないと何というか」

 せっかく執務業から解放され、昔のように諜報活動に戻れると思った矢先の配置転換。

「今のご時世、私達が前に出て戦うような事態があると思うかな?」

 ツヴァイの素早い突っ込みには、ドライも静かに頷くしかない。

「ツヴァイの代わりって、ツヴァイは何処行くんだ?」

「私はマチュア様のいる日本に勤務だよ。それじゃあ話をしようかね」

 すでにドライは観念したらしい。

 カウンターの奥に連れて行かれると、大量の書類を手渡されている。


「まあ、あっちはあれでいいか。この辺りは特に変わった事はないなぁ。フィリップさん、急ぎの仕事って何かありましたか?」

「さて、大方終わらせてありますが‥‥そうそう、地球からやって来た観光客で、カナンに移住したいと言う方からの問い合わせがありますねぇ」

 後回しにして来た事案。

 カリス・マレスへの地球からの永住である。

「はぁ。それは日本大使館と相談だねぇ。うちではどうする事も出来ないわ」

「確かに。では書簡を日本大使館に送って、あとは向こうで話をしてもらう事にしましょう」

「お願いしますね。まさかこんなに早く移住の話が始まるとは思ってなかったからなぁ」

 これで日本人の移住が始まれば、いよいよ地球とカリス・マレスの敷居も低くなる。

 後はカリス・マレスを知り、世界に馴染んでもらう事で、次の段階に進む事が出来る。


「ですが、いきなり地球人アーシアンを移住させたとしても、すぐに地球に帰ってしまいますよ」

 カウンター業務のベネット・桜木が、隣でのんびりしているマチュアにそう話しかける。

「へ?どうして?」

「文明レベルの違いですねぇ。カリス・マレスではスマホが使えないのでして。電気文明がない世界は、その恩恵に預かっている人間にとっては厳しいですよ」

「そういうしがらみから解放されるために移住して来るとか、ありそうだよねぇ」

 冗談交じりに話しているが、ベネットの答えは真剣そのもの。

「それはリタイアメントビザと言いまして。55歳を過ぎて、残りの人生を異世界でのんびりと生きようという人達ですね。そもそも就労ビザや学生ビザのような制度がまだありませんよね?」

「そこなんだよなぁ、ビザかないよねぇ。いくら日本が緩いとはいえ、その辺りをしっかりとして貰わないとねぇ」

 そんな話をしている最中にも、転移門ゲートの向こうから観光客がやってくる。


「ほら来た仕事だよ」

「ええ。手荷物検査を終えてからがうちの仕事ですからね」

 すると、検査を終えた地球人アーシアンが異世界ギルドにやってくる。

 すぐさまベネットは出てきた観光客に頭を下げる。

「ここが異世界ですか。こんにちは」

「はいこんにちは。異世界渡航旅券パスカードを提示して頂けますか?」

「これですよね。ツアーに参加しない個人で来たのですが、そういう人の為の観光案内とかはありますか?」

「こちらが名所や行ってみると良い街の中の案内一覧ですね。それと、向かいの旅行代理店はツアーに参加していない観光の方にも色々と教えて貰えますので、一度顔を出すのもお勧めします」

 にこやかなカウンター業務。

 それを横で聞きながら、マチュアはのんびりとティータイム。

「なんだろうなぁ。業務全般、私がいなくても機能しているよなぁ‥‥」

「まあ、余程の緊急用件でもなければ、マチュア様の出番はありませんよ」

 そう話しているフィリップも、マチュアに倣ってティータイム。


――ドタドタドタドタッ

 すると突然、ギルドに駆け込んでくる女性冒険者がやって来る。

 傷だらけのレザーアーマーは、返り血で色が変色している。

「ま!マチュアさん、助けてください‼︎」

「どうしたの?」

「カナン郊外の森でゴブリンが集落を作っていて‥‥地球人アーシアンのパーティーが拐われました‼︎」

 いつか来るかもという事案。それは突然やって来るのであるが。

「へぇ。また無茶したんだろうなぁ」

 あっさり一言で終わる。

「助けに行かないのですか?」

 隣の席からデビットがマチュアに問いかけるが、マチュアな頭を捻る。

「冒険者が依頼で出かけて、それが任務失敗する度に救出に行くなんてねぇ。いくら何でも体がもたないわよ?冒険者になった時点で命のやり取りをしなければならなくなる、地球のルールはここでは通用しないんだけどね」

 それだけ話してから、マチュアは席を立ってカウンターの外に向かう。


「それで、あなたはパーティーの同行者?」

「いえ、私たちは東方森林でノッキングバードの卵を集めてました。これがギルドカードと依頼書の控えです」

 ラナというドワーフの女性戦士はカードと依頼書をマチュアに見せる。

 それを手に取ると、マチュアはふむふむと納得している。

「別パーティですか。拐われる所は見たのね?」

「ええ。草むらでしゃがんで何かを探していたので、多分薬草採取の依頼かと思います。女性が二人と男性が一人でした」

「東方森林かぁ。厄介だなあ‥‥どうしようかなぁ」

「た、助けに行かないのですか?」

 ラナが困った顔でマチュアを見ているが。

「誰か一人、日本大使館にこの事を通達して。ここは日本大使館の判断を期待しましょう。いつもいつも地球人アーシアンが襲われたからといって私達が出しゃばるのはダメでしょ?」

「そ、そうですが‥‥」

「依頼を受けて出掛けた以上、彼らにも覚悟はある‥‥さて、ツヴァイにここ任せるから、私はちょっと散歩に行って来るね」

 空間から箒を取り出すと、マチュアは外に向かう。

「まさか助けに行くのではないでしょうね?」

「まっさか。生死の確認して来るだけよ。助けたければ日本大使館がギルドに救出依頼を出せばいい。すこしは自発的に動いて貰うから」

 手をヒラヒラと振りながら、マチュアは外に出ると急ぎ箒で飛び出した。

 グランドカナンの城門を出てから東方森林へ。

 拐われたと思わしき地球人アーシアンを探す為に。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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