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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第八部 異世界の地球で色々と
216/701

日常の章・その9 富士総合火力演習にて

 八月最終土曜日。    

 早朝から、自衛隊の一行は緊張感に包まれていた。

 今までの常識を覆す兵器が、異世界の技術によってもたらされているのである。


 会場は一般公開の観客でごった返しているが、彼らの注目先はこれまでとは全く違う。

 自衛隊の誇る10式戦車や90式戦車、73式装甲車、89式戦闘装甲車などなど、ミリタリーマニアが見たら歓喜に震える車両が一列に並んでいる中。


「あ、あれは何だ?」

「確かネットで見た異世界のロボットだよな……何でだ?」

 オリーブドラブに彩られた機体に、自衛隊の紋章と『JGSDF』の文字。

 記されている機体の識別から北部方面の配備と分かる。

「パンフレットでは、『二式機動装甲騎士』って書いてあるぞ?」

「飾りじゃないのか?」

 そんな話があちこちで流れていると、突然観客席の一部がざわざわし始めた。


――ガシィン……ガシィン……

 純白の魔法鎧メイガスアーマー・イーディアスを先頭に、三騎の魔法鎧メイガスアーマー・ゼロツーが追従して出現した。

 それは戦車の前を横切ると、二式機動装甲騎士の横に並んだ。

――プシュッ

 そして立ち姿のまま、くの字に曲げた腰に当てると、胸部ハッチが開いて軽装騎士が姿を現した。

 最後にイーディアスからローブ姿のマチュアが出て来ると、全員がその場で一礼する。


『本日は、富士総合火力演習の観覧にご参加頂き誠にありがとうございます。まず、観覧についてのご注意を説明いたします……』

 会場にアナウンスが響くと、マチュアは騎士達と共に機体に乗り込む。


――ピッピッ

「こちらマチュア。以降の指示は全てブレスレットの念話により行う。ちゃんと訓練して来たんだろうな?」

『一号騎のジョセフィーヌ、問題ありません』

『二号騎のファイズ、問題ないっす』

『三号騎のマリア、以下同文だにゃあ♪』

「ならいいや。楽しんでいきましょ」

『『『はい』』』

――ピッピッ


 元気よく返答を返す一行。

 この後はマチュアたちの出番は午後までない。

 紹介のアナウンスが終わると、外会場にある展示エリアに歩いて行く。

 そこに二式機動装甲騎士も一緒に向かうと、指定された展示場所に機体を停止させる。

――ガシュツッ

 降着スタイルになると、胸部ハッチを開いてジョセフィーヌたちは出る。

「それでは撮影会を始めますね。お一人様記念撮影1000円です。撮影中に自分のスマホなどで撮影しても構いません」

 マチュア達の担当の広報官が、メガホンを手に案内を始める。

 この後は各機体ごとに撮影会が始まる。

 ジョセフィーヌ達も一緒に撮影するので、なかなか希望者の行列は止まらない。


「マチュアさん、これって市販しないのですか?」

 マチュアの機体は立ちポーズのみの撮影だが、万が一のためにマチュアも横で待機している。

 撮影が終わった人は、横で座っているマチュアに色々と話を聞いているのだが、そんな質問が出て来た。

「一体10億、要面接。後は日本でこれを所持していいか私は知らないのよ。免許あるのかも知れないし、いらないかも知れないし」

「10億かぁ。夢の世界ですね?」

「でも、今までは本当に夢だったものが、現実として目の前にありますよ。これは大きな進歩では?」

 そう説明すると、観客は頷いて立ち去って行く。

 やがて撮影会も終わると、マチュア達は機体を回収して休憩に入る。


「マチュアさん、食事はどうしますか?」

「出店を回りましょう。下手にレストランに行くよりも美味しいでしょうから」

 そう話しながら彼方此方あちこちを見て回る。


 由比の桜えび丼

 用宗港の生しらす丼

 つけナポリタン

 さわやかハンバーグ

 などなど。


 異世界カリス・マレスでは到底お目に掛かれないものばかり。

 それを中世の騎士と魔導師が食べ歩きしてある姿は、実に滑稽である。

「あ、騎士様達、うちの奢りますから写真いいですか?」

「うちものどうぞ。こう、手に取って笑ってくれればサービスしますよ」

 次々と食べ物につられて写真を撮りまくるカナン魔導騎士団。

 すぐさまそれはboyaitterにアップされて、宣伝に使われていた。


「ま、マチュアさん、少し歩いているだけでこんなに大量の食料を手に入れましたわ」

 フリーの休憩スペースでお茶を飲んでいたマチュアの元に、三人が抱えきれないほどの食べ物を持ってきた。

「手に入れた?お金払わなかったの?」

「いえいえ、こう、手に取ってにっこりと笑うとですね?写真を撮るんですよ。するとサービスで頂きました」

「私もです。地球人アーシアンは優しいですね」

「わ、私は耳を触らせて欲しいと言われたにゃ……」

 猫族獣人のマリアは、子供に耳を触らせて欲しいと言われて戸惑っていたらしい。

 それでも笑いながら触らせてあげたりしていたのは、流石は騎士である。

「それと、スカウトというのがいまして。私たちで映画を撮りたいと」

「へぇ、どんな人?」

「私も名刺を頂いて来ました。マチュア様もよろしければご一緒にとの事ですが」

 受け取った名刺をマチュアに手渡す。

 全部で3社の名刺。

 全てAVメーカーのものである。


――ブッ

「こ、ここはまだ懲りてないのかぁ。そのチャレンジ精神だけは評価するわ。でも、これは駄目。これはね……」

 ヒソヒソと全員の耳を集めて説明すると、皆、顔を真っ赤にする。

「マチュア様、これは一度きつく叱る必要がありますね」

「そのスカウトマンを去勢して参りますわ」

「◯◯◯◯を焼き切って来ますにゃ」

「おーちーつーけー。全員座りなさい。この世界では、あれも仕事なの。娼館のようなものと思いなさい」

 そう説得してから、とりあえず全員で食事を取る。

 やがて時間が来ると、マチュア達はその場を離れてスタンバイを開始した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 午後のプログラムの最初が、マチュア達魔法鎧メイガスアーマー小隊によるデモンストレーション。

 フィールドに四騎が揃うと、全ての機体がフッと地面から浮き上がり、まるで雪原を滑っているかの如く滑走を開始した。

――シュゥゥッ

 盾を構えての突進から、全機体がターン。

 そこから上空に飛び上がると、空中での乱舞を開始。

 ジョセフィーヌ達魔導騎士団は、そもそもの魔力係数が地球人アーシアンとは全く違う。

 この程度の飛行と滑空などはお手のものである。


――ギンガキィィィン

 激しく打ち合う魔法鎧メイガスアーマー

 やがてマリアの一騎が急降下して観客の目の前すれすれに着地すると、ゆっくりと上空を見上げる。

 グッと腰を落としてからの跳躍で、上空に待機しているファイズの機体に近寄る。

――ギン

 すかさず打ち合うと、すぐさま両機は大地に着地し、お互いに礼を交えて戦闘を終える。

――パチパチパチパチッ

 会場からは割れんばかりの拍手が湧き上がる。

 そして未だ尚、戦い続けているマチュア騎とジョセフィーヌ騎。

 高速で地面スレスレを飛んでいるジョセフィーヌ騎に向かって、マチュアは空間から巨大な銃器を取り出した。

 それは田辺陸将にはしっかりと許可を貰っていた代物である。

「〇スターロック……魔力充填開始……」

 両手で抱える程の武装。

 全長はゆうに12mもある巨大な〇スターランチャー。

 それをジョセフィーヌに向かって構えたのである。

「……5……3……1……」

――カチッ

 イーディアスがトリガーを引くと同時に、限界まで圧縮された魔力が一直線にジョセフィーヌ騎に向かって飛ぶ。


――ドッゴォォォォォォッ

 だが、それを機体を捻って躱すと、ジョセフィーヌ騎は腰に下げてあったライフルを構えてイーディアスに撃ち込む。

――キィィィン……ピッ

 それはマチュア騎に直撃すると、マチュアは空間から白旗を取り出して振りながら撤退。

 ジョセフィーヌ騎は悠々と観客の前に帰還した。


 やがて全機体が集結すると、マチュアの号令で全機体が観客に一礼。

 そして堂々の退場となった。


 ………

 ……

 …


「ガチで負けたぁぁぁぁぁぁ」

 控え室で絶叫するマチュア。

 余程悔しかったらしく、ソファーに座っていじけている。

「あ、あのですね。あの状況で何であれ出しますか?あれは威力も何もない脅かし兵器じゃないですか」

「でも当たったら命中判定つく。模擬戦では有効だよ」

「それを上空で、しかも打ち下ろし。当てる気ないでしょう?」

――シーン

「ま、まあ、次は私が勝って見せましょう。さて、一休みしたら撮影会だよ……って、何でこの程度でへばっているかなぁ」

 ファイズ以外の二人は、ソファーに座っているものの軽い魔障酔いを引き起こしている。

「魔障が薄すぎますよ。よくこんな世界であれだけの動きが出来ますね?」

「マチュア様は相変わらず規格外ですにゃあ」

「そうでもないわよ。まあ、二人とも手を出して。魔障酔い醒ましあげるから」

 そっと二人の手を取り、周囲の魔障を集めて流し込む。

 体に負荷がかからないようにゆっくりと。


 昔、マチュアが初めてこの世界に来た時も、魔障酔いで身動きが取れなくなった。

 その時を思い出して、二人の体の中の乱れた魔障を整えていく。


「大分楽になりました。ありがとうございます」

「マチュア様は司祭みたいだにゃ」

「はっはっはっ、賢者だよ。二人は動けるようになったらさっきの場所に来てね。私とファイズは先に行ってるから」

 時間もあまり無いので、ジョセフィーヌとマリアはここで休んでもらう。

 なので、マチュアはファイズと二人で記念撮影会へと向かっていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 体調を整えたジョセフィーヌとマリアも合流して、撮影会は無事に完了した。

 初日の任務もこれで完了し、それぞれが魔法鎧メイガスアーマーを回収して用意されたホテルに向かう。

 少し離れた御殿場高原リゾートホテルで今日は一泊。

 この後は夜間演習があり、そして明日が自衛隊の本気、本番である。


「ふぁぁぁぁぁ」

 露天風呂に浸かり声を上げるマチュア。

 隣では体を隠しながらどうにか湯船に浸かるジョセフィーヌと、じつに男らしく何も隠さずに入ってくるファイズとマリア。

「……私、ファイズの性格設定間違えたかなぁ?」

「うわぁ、花も恥じらう乙女に何言いやがりますか?」

「じつに男らしい女になってしまって」

――プッ

 思わず笑ってしまう一同。

 周囲には一般客も大勢いるので、あまり慌てず騒がず、のんびりとする。

 したい。

 したかった。


――ガララララッ

「やっぱり混浴だよなぁ」

「ああ。じゃ無いとここの温泉に来た意味ないわ」

「こ、こら、がっつかない。俺たちは紳士なんだ、もっと堂々として」

 体を軽く流してから、三人の男性が入ってくる。

「ははぁ。どうりで露天風呂に女性居ないはずだわ」

 露天風呂だけは混浴。

 どうやら、男湯女湯どっちとも繋がっているらしい。

「あ、先客さんだ、こんばん……わぁぁぁぁ」

 一人の男が前をタオルで隠しながらそっと入ってくる。

 そして獣人のマリアを見てびっくりしている。

「そんなに驚かなくても。取って食べたりしないにゃ」

「お兄さん達も総火演?」

 すぐさまファイズが話しかける。

 かけるのはいいが、胸を隠せ。

 ジョセフィーヌは後ろの岩の向こうへと避難し、マチュアは少し離れた所でのんびりしている。


「どうしたどうした、何が……あれ?カナンの騎士さん?」

「本当だ。サインください」

 すぐに理解した二人も、前を隠して入ってくる。

「風呂上がりならいいわよ」

「私も気にしないにゃ」

 そうのんびりしているが、ジョセフィーヌは恥ずかしくて出られなくなっている。

「マチュア様、助けて……」

「あー、はいはい。じゃあ私とジョセフィーヌは避難するからね。あと宜しく」

 そうファイズとマリアに話しかけて、マチュアはジョセフィーヌと女湯へ転移する。


――シュンッ

「き、消えた?」

「凄いなぁ、本当に異世界キターって感じですね」

「あの魔法鎧メイガスアーマー、乗ってみたいんですよ。どうですかねぇ」

 矢継ぎ早にファイズとマリアに質問する三人。

 この露天風呂にやって来た目的などすっかり忘れてしまっているようだ。

「まあ、教えられる限りは教えますよ。そもそも魔法鎧メイガスアーマーはですね」

 身振り手振りを交えて説明するファイズ。

 それを真剣に聞いている男性陣だが、ファイズが腕を振り回すたびにファイズの胸がプルルンと震えるのに夢中の模様である。


 ………

 ……

 …


「あの、マチュア様、ファイズさんとマリアは放っておいて大丈夫ですか?」

 女風呂でのんびりとするマチュアに、ジョセフィーヌが少し心配そうに問いかける。

 が、マチュアは目を瞑って超音波風呂を堪能したまま、手をヒラヒラと振る。

「あのファイズを手篭めに出来るやつがいたら大したものだわぁ……」

「でも、マリアさんは」

「そのファイズが勝てない相手なんだわぁ」

――ゴクッ

 思わず息を飲むジョセフィーヌ。

「マリアさんとは、私も騎士団でしか面識がないのですが、それ程なのですか?」

「数少ないSクラス冒険者で、とんでもない能力保持者だからなぁ。私やストームでもまともに相手したら、無傷は無理だな」

 ケタケタと笑うマチュア。

「そうですか、なら大丈夫ですね」

「そうそう。今回の選抜は、放っておいても大丈夫なメンバーで選抜したのよ。だから安心していいと思うわよ」

「では、私ではなくゼクスさんの方が適任では?」

「あの女誑たらしは駄目だ。彼女持ちの男性全てを敵に回してしまう」

「あ〜、確かに。うちの騎士団でも、ゼクスさんを慕っている方が大勢いますから」

「それはいいんじゃない?仕事に支障が出なければいいし、クィーンが見ているから問題はないでしょう」

 そんな楽しそうな話をしていると、となりの湯船からマチュアを見ている子供がいる。


「エルフさん?」

 頭を捻りながら問いかけてくるので。

「そうだよ。お嬢ちゃんは家族と一緒かな?」

「うん。そーかえんて言うの見に来たんだよ」

 はほう。

 お父さんミリオタと見た。

「でも、退屈じゃないかな?」

「子供の広場に魔法少女キュアクランが来ているんだよ。騎士道戦隊ナイトレンジャーもね」

 ふむ。


 騎士道を重んじたヒーローが集団で怪人をフルボッコにする特撮である。

 レッドアーサー、ブラックネロ、ブルーフリード、イエロージャンヌ、トモエホワイトの五人が、異世界から来たマーリンという女性から力を得て戦う。


「そかそか。それは良かったねぇ」

 ニコニコと笑うと、女の子がマチュアに近づいてそっと話しかける。

「エルフさんは魔法使いでしょ?お父さんが話していたよ」

「そうだねぇ。いろんな魔法を使えるよ?」

「それじゃあね、私にキュアクランに変身する力を下さい」

――プッ

 思わず吹いてしまう。

「お嬢ちゃん、マチュア様は今日は仕事でね?」

「いいよジョセフィーヌ。お風呂から上がったら考えてあげるから、先にお母さんの所で体を洗って来なさいな」

「うん」

 そのまま子供を見送ると、マチュアは空間からクリアパッドを取り出した。

「仕事が終わったら、ゆっくりと休めば良いのに」

「まあまあ、これが私の娯楽だからねぇ……あ、これか」

 キュアクランのHPを確認して、すぐさまメモリーオーブの作成を開始する。

 湯船に浸かって魔法陣を起動すると、キャラクターデーターをスキャンする。

 それを次々とメモリーオーブに登録すると、チェストの中からいらない布切れを探し始める。

「あ〜。いらないマントとかあったわ。これでいいか」

 それを取り出して魔法陣に設置したら、いよいよ作成なのだが。

「あ、あの、お客様。お風呂場で魔法はご遠慮いただきたいのですが」

 恐る恐るやって来て、マチュアに話しかける従業員。

「あ、これは失礼。何処なら良いですか?」

「そうですねぇ。一階ロビーでなら。それは害のない魔法ですよね?」

「ええ。大丈夫ですよ」

「ではそのようにお願いします」

 そう頭を下げてから、従業員は風呂場から出て行った。

「ハッハッ。怒られましたなぁ」

「そりゃあそうですよ。さ、早く上がって作業しましょう?」

――ザバーッ

 風呂から上がって浴衣に着替えると、マチュアとジョセフィーヌは一階のロビーに向かった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 



「あの〜、マチュアですけど、何処で魔法使ったら良いですか?」

 湯上りエルフが浴衣を着てロビーに来る。

 濡れた髪をタオルで包み、横から長い耳がピョンピョンと動いている。

「連絡は受けていますので、こちらで」

 ホテルの支配人らしい人が、マチュアとジョセフィーヌをロビーに案内した。

 入口から少し離れた場所で、通路の邪魔にならない場所。

 そこにやって来ると、マチュアは早速足元に魔法陣を展開する。

「アニメイト起動。データはメモリーオーブから……材質は布……バリアブルアーマーの効果も付与……オーナー権限は放棄、リンクは初期起動者へ、使用制限はなし」

 次々と条件を書き込むと、マチュアは空になっている小さな魔晶石を放り込む。

「完了後に魔晶石に封印……スタート‼︎」

――ピッ……ピッ……

 カウントは10分。

 思ったよりも早い。

「おやマチュア様、ここで何しているにゃ?」

 艶々の毛並みになったマリアと、蒸し饅頭のようにホカホカに温まったファイズがやって来る。

「まあまあ、見てなさい。うまくいくかどうかわからないけど」

 暫し魔法陣を眺めていると、さっきの女の子が両親と一緒に歩いて来る。

「エルフさん、来ました‼︎」

「はいはい、ちょっと待っててね……と、出来たか」

 魔法陣が輝きを失うと、その中心にメモリーオーブと魔晶石が浮かんでいる。

 それをひょいひょいと掴み取ると、マチュアは女の子の所に向かった。

 ちょうどキュアクランの変身スタッフを持っていたので都合がいい。

「それ、ちょっと見せて?」

「はい、ど〜ぞ」

 ポン、とマチュアに変身スタッフを手渡すと、マチュアはその中の宝石の一つと魔晶石を同化させる。

「アニメイト起動。発動は魂のリンク先と……この子と魂がつながっているものの意思……でいいか」

――ヒュゥゥゥンッ

 スタッフが淡く輝くと、やがて光を失う。

 そしてマチュアは両親も呼んだ。

「初めまして。お嬢ちゃんに頼まれて変身スタッフを作りました。これ、服装だけは本当に変身します。戦えません、飛べません。少しだけ怪我には強くなります。後、変身と解除は両親でも出来ます」

 淡々と両親に取り扱い説明をする。

「……以上です。全く身体には害がないですが、変身出来なくなったら込めてある魔力が切れたと思ってください。まあ、取り替えられない電池と思って頂けると」

「ありがとうございます。あの、代金はおいくらですか?」

「あ〜いらないですよ。趣味でやっただけですからね。では、変身してごらん?」

 子供の頭をポンポンと叩くと、嬉しそうにアニメの掛け声と変身ポーズを取る。

 すると。

――シュワァァァァァ

 アニメと全く同じエモーションで服装が変化する。

 全裸にはならず、ちゃんと光で包まれている。

 そして変身が終わると、服装と髪型がアニメと同じに変化していた。


「ありゃ、髪型まで変わった‼︎これはいい失敗だわ」

「ふわぁぁぁ、エルフさんありがと〜」

 マチュアに走って来て抱きつきながらお礼を告げる。

「よいよい。ひとつだけ約束してね。お父さんとお母さんの言う事は聞く事。約束を破ると、変身の魔法が解けてしまうからね?」

 パチっと両親にアイコンタクトを取ると、子供はコクコクと頷いてから両親の元に走っていった。

「はっは〜いい仕事したわ。さて、ご飯だご飯だススム君だ♪」

 そう歌いながらレストランに向かおうとすると。

――ジーッ

 別の子がマチュアをじっと見ている。

「まあ、そうなりますよね。ではお先に」

「マチュア様、頑張ってにゃ」

 ファイズとマリアは手を振ってレストランに向かう。

 するとジョセフィーヌはマチュアの元に残ったのだが。

「ジョゼも一緒にいってらっしゃい。ここは私一人で大丈夫だから」

「ですが、もし、マチュア様に何かあったら」

「私に何か出来るとすれば、それは神様の仕業だよ。そう言うこと」

「了解しました。では、お先に頂きます」

 タッタッタッと小走りで二人を追いかけるジョセフィーヌ。

「さて、それじゃあまずは、お父さんかお母さんは何処??」

 そう問いかけると、子供はロビーで話をしていた両親をズイズイと引っ張って来る。

「え、あ、あら、あの、マチュアさんですか?」

「ええ。この子が、あれを欲しがってまして……」

 そう説明した先では、さっきの子がロビーでクルクルと変身している。

「あ、あんな高価なものを?」

「いえいえ、あの変身スタッフは市販品で、私が魔法を掛けて変身出来るようにしたのですが。この子は変身スタッフ持ってますか?あれば無料で変身できるようにしますよ?」

 すると父親が部屋まで戻って、別の色の変身スタッフを持ってきた。

「うちの子はアクアが好きなんですよ。大丈夫ですか?」

「それでは……」

 早速同じ手法で変身スタッフを作り出す。

 そして両親にも注意点を説明していると、子供はさっきの子と一緒にクルクルと回りながら変身した。

 そこからはもう大変。

 幸いな事に子供の方はそれほど多くはなかったが、少し大きいお姉さん達まで欲しがる始末。

 そかは良しとしよう。

 だが、大きいお兄さんたちは却下だ。

 そうこうしている内に、ファイズたちは食事を終えて部屋呑みの準備を開始する。


 マチュアが全ての作業を終えて部屋に戻ったのは、夜の9時を回っていたそうな。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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