日常の章・その8 お盆進行とマチュアの本気
月曜日・早朝。
満身創痍のマチュアが、大使館のロビーで眠っている。
日曜日早朝からのお客さんのカナン案内で、マチュアは精神が擦り切れている。
夜に大使館に戻ってからは、ずっとロビーで眠っていた。
――ユサユサ
「‥‥ュアさん、朝ですわ。もう8時半ですわよ」
「ふぁ‥‥シャワー浴びてくる‥‥」
フラフラとシャワー室に向かうマチュアを、十六夜は入り口まで見送る。
そして厨房で冷たい烏龍茶をポットに入れると、マチュアのテーブルの上にコップと一緒に置いておく。
「さてと‥‥流石に今日のファックスは少ないですね」
お盆シーズンのため、あちこちの企業からの問い合わせも少ない。
十六夜はペラペラと枚数を内容をチェックすると、それぞれの担当に割り当てる。
「おはようございます」
「おはよーございます」
「あら、皆さんお早い。おはようございます」
次々と来る女性陣。
やがてマチュアもさっぱりとした顔で事務室にやって来る。
「おっはよ〜。今日もいい天気やで〜」
朝食のサンドイッチとグレープフルーツジュースを手にして席に着くと、ファックスに目を通しながら食事をとる。
すでに9時、始業時間である。
「ん?よくわからないファックスが来てるぞ?」
アラビア語で書かれたファックス片手に、マチュアはのんびりとサンドイッチを食べる。
「流石に読めないのでマチュアさん対応お願いします」
「どれどれ‥‥ああ、サウスアラビアのムハンマド皇太子だよ?魔法鎧をもう一騎売って欲しいとさ。今度は空飛ぶやつで、大きな奴が欲しいと‥‥無理だね。前回のと同じなら一騎回しますか」
サラサラと手書きで返事を書く。
「これ、返信しておいて、宜しく」
高畑に返信用紙を手渡すと、次のファックスを眺める。
「異世界渡航についての、人数制限の緩和ねぇ‥‥却下」
真っ直ぐに廃棄書類用の箱に放り込む。
「今の2500人制限は緩和出来ないのですか?」
吉成が廃棄書類を回収して、お断りの返信を書いている。
この人数がどうも不思議でたまらないらしい。
「グランドカナンにある地球人用の宿の収容人数は全部の宿を合わせて800人。イーストカナンの商業区にもいくつもの宿があるから、そこで1200人。サウスカナンの商業区なら800人、王都の宿屋で5000人。ウェストカナンとノースカナンは一般区と貴族区なので、観光客は入れない」
ふむふむ。
軽く試算して7800人。
「王都以外で2500を超えますよ?」
「実際のカナンの収容人数なら、宿屋だけでも三万は超えるわよ。簡易施設も合わせると七万。十年戦争っていうのがあって、他国からの難民を受け入れていたのよ」
笑いながら話しているマチュア。
「でしたら、一万人ぐらいは行けるのでは?」
「それは無理よ。日本人向けに治安のしっかりした、トイレもシャワーも完備している宿屋の収容人数ならさっき言った7800なのよ。そもそも風呂なんて貴族やら金持ちの道楽、普通はお湯沸かして家で身体拭くぐらいよ?」
それには一同驚く。
「カナンの私達の寮にはありますよね?それにグランドカナンとサウスカナンには凄く大きい銭湯もありますよ?」
「あれは、大量に作らないのですか?」
はぁ、とマチュアはため息一つ。
「簡単に言わないでよ。いざ作るとなるとお金かかるのよ?グランドカナンに地球人街をつくる計画もあるから、それができたら一万人収容してあげるわよ」
淡々と説明するマチュア。
「なので返信しといて。カナンにおいての施設の拡充が完了するまでは不可と」
「はい」
すぐに補足を加える吉成。
マチュアも次のファックスを読み始める。
「TOYODAって自動車メーカーかぁ。魔力炉の開発についての説明をお願いしたい‥‥前にもあったよなぁ。確か清書した図面あったわよね?」
「ファイルで置いてありますよ。タイミング待ちになってる奴ですよね?」
「そうそう‥‥どれだったかな」
マチュアは棚にあるファイルを調べ始める。
背表紙に書いてある説明から、すぐさまそれを見つけ出すと、机に戻ってパラパラと開いていく。
「一度話を聞きに行きたいけど、三笠さんの休み終わりが金曜日だから、それまでは動けないなぁ‥‥面倒だから、説明が聞きたければ大使館に来いと返信して」
「え? ここですか?」
「二階の会議室を使うし、何社も纏めてやったほうが早い。資料なんか一切用意する気は無いが、実物を見せてやれば納得するでしょ?後で大使館の公用車一台改造するわ」
駐車場に置いてある、大使館用の公用車。
異世界大使館が完成した時、大使用としてあちこちの自動車メーカーが寄贈してくれたのである。
ちゃんと登録はしてあるものの、マチュアが箒や絨毯で飛んで回るので、殆どの車両の走行距離は未だに100km未満という。
お使いや書類申請などで中央区に向かう時もあるが、そもそも中央区は自動車の乗り入れは禁止。
なので殆ど使わない。
「どれですか?まあ、どれでも構いませんけど」
「魔力炉が出来たらね。これは、水曜日の午後に簡単な説明会をすると、各メーカーに通達、希望者は一人で来いと伝えて」
「一人ですか?二人とか三人は希望して来ますよ?」
「一人で十分。そもそも会議室に入らない。後、参加は自動車メーカーのみで」
そう説明してからファックスを保留箱に。
そのあとはのんびりと書類整理。
昼には殆どの業務が終わってしまった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
そして昼食も終えてのんびりとした午後。
――ピッピッピッ
守衛室から電話が鳴る。
「はい、政治部です。はい、少々お待ちください。マチュアさん、島松駐屯地の田辺陸将がいらしてます」
「入れていいよ。第一面会室にアイスコーヒーとグレープフルーツジュースくださいな」
「用意しておきますので、どうぞ」
吉成がすぐに厨房に向かう。
ロビーまでは一緒に向かうと、マチュアは正面玄関の外に出た。
「これは田辺陸将、わざわざいらっしゃらなくても」
「異世界の大使を自分の都合で呼びつけるような事はしませんよ」
「いや。意外と呼びつけられてますよ?主に国会で」
「全く。一国の代表をなんだと思っているのか。小野寺大臣から連絡は来てますか?」
挨拶もそこそこに玄関からロビーに向かうと、真っ直ぐ正面に飾られている魔法鎧の前で立ち止まる。
ゼロワン、ゼロツーの横に並んでいる、二式陸自型魔法鎧。
島松演習では起動しなかった自衛隊騎である。
「先月の島松演習では、使える人居なかったんですよね」
自衛隊にお披露目として持っていき、優秀な人材からテストパイロットを選出したものの、魔力不足で誰も扱えなかった。
ベースはゼロツーなので、起動には最低でも魔力50は必要。
ゼロワンベースなら30もあれば動くのだが、それでは出力が弱すぎるし、何よりもゼロワンは試作実験機である。
「お恥ずかしいことに。今は全国からも選りすぐりの候補生を選出している所です。もし宜しければ、今週末にでもテストをお願いしたい」
「土曜日で宜しいですか?私、週末までここから出れないのですよ」
「ええ。その時にでも‥‥これはこの前の武器ですよね?」
田辺陸将の視線の先には、30mm魔導機関砲が置いてあった。
二式陸自型専用の主力装備である。
「あれの改良型です。私は現代兵器についての知識がないもので、ネットで調べてそれっぽくなっているだけですよ」
「銃刀法違反どころではないですよねぇ。ここが大使館でなかったら、即時逮捕レベルですよ」
「前科二犯はお断りですよ」
「二犯?前に何かあったのですか?」
「アメリゴで公道を箒で飛んでたら怒られました」
それには田辺も苦笑する。
「さて、本日のお願いですが、可能かどうかだけ教えて下さい。この二式陸自型魔法鎧、一個小隊、四騎を富士総火演で訓練騎として公開したいのです」
鞄から分厚い書類を取り出してマチュアに差し出す。
すると、マチュアは田辺陸将と一緒に面会室に向かう。
「‥‥防衛大臣のハンコつきですか。良いですよ、もう一騎用意しますよ」
「間に合いますか?」
「一騎作るのに三日だから、間に合うかと。ただ、これを量産するとなると、カリス・マレスでしか手に入らない魔法金属も使います。値段はかなり高くなりますよ?」
ニイッと笑うマチュア。
「ムハンマド皇太子からは、サラディーンは一騎10億と伺いましたが」
「あれは個人用のおもちゃです。国に正式配備するとなると、こちらも考えますわ」
「そう、ムハンマド皇太子は我々自衛隊よりも魔力が高いのですよね?あのような専用機を使えるのですから?」
「あれの魔力回路は特殊でして。それこそ近所の小学生でも使える代物です。内部増幅回路が優秀なのですよ」
「二式にはそれは付けないので?」
「ええ。付ける気はありません。自衛隊には根性を見せて貰いますよ。そもそも、誰でも使えるような兵器を作る気はありませんよ。サラディーンは大きい自家用車のようなものです」
トントンと書類を指差すと、マチュアは田辺に一言。
「では、土曜日に四騎預けます。ついでにテストも行いますが、くれぐれも魔法鎧を解体、分解などしないように。訓練機として固有パイロットの登録はしませんので、万が一盗まれたら‥‥」
「わかっている、損害賠償はする」
「いや、盗まれたら責任持って止めて下さいね?」
あっさりと一言。
「止められるものなのか?」
「さぁ?使いこなせるかどうかですけど、私の作る魔道具は全て、安全装置として私がオーナー権限を持ちます。ですので私は止められますが、面倒なので自衛隊内部で頑張って下さいね」
そのマチュアの言葉には、腕を組んでしまう田辺陸将。
まだまだ未知の領域の機体。
それが暴走した時の危険性。
それらを考えると、慎重な判断が必要になる。
「10式戦車が盗まれるようなものか。その時は小野寺さんに判断を仰ぐさ」
「そうしてください。では、早速作りますので‥‥作り方、見ます?」
あっさりと話しかけるマチュアに、田辺は驚いて言葉を失う。
魔導技術を生み出す瞬間を、あっさりと見ますかと問いかけてくる。
「そ、それはいいのか?もし私がそれを覚えて解析したとしたら」
「あ〜、動画取ってネットに流してもいいレベルです。それだけ複製されない自信がありますよ」
ロビーに出て空いてる場所に立つと、マチュアはメモリーオーブを取り出して足元に置く。
「量産化発動。データはメモリーオーブから、タイプ・二式陸自型魔法鎧‥‥」
魔法陣が展開し、メモリーオーブが宙に浮く。
すると、マチュアはいそいそと空間からインゴットを取り出して、魔法陣の中に並べていく。
「そこは手動なんですね。手伝いますか?」
「あ、助かります。鉄のインゴットはこちらでも手に入りますが、魔法金属は手に入らないので難しいんですよ」
田辺陸将と一緒に材料を並べると、マチュアは最後の印を紡いだ。
「製作開始‼︎」
――ピッピッ‥‥ピッピッ
魔法陣の上にタイマーが発動する。
きっかりと七十二時間のカウントダウンが始まった。
「ここからはどうするのですか?」
汗を拭きながら問いかける田辺陸将。
流石にインゴットの山は重かったらしい。
「放置。時間が来たら完成するよ?」
「はあ。魔法って便利ですねぇ」
「その気になれば、10式戦車も魔力回路と魔力炉で動くようにも出来るさ。しかも魔法陣で簡単に量産可能。今見たこの魔法は、材料さえしっかりと揃っていればいかなるものも量産出来るよ」
ニコニコと話しているマチュアとは対照的に、複雑な心境の田辺陸将。
「それはつまり、いかなる兵器であっても量産が可能であるという事ですよね。大国が魔法技術を欲しがるのがよくわかります」
「けど不可能。量産化の魔法は私が作った魔法、私にしか使えないし人に教える気もないので。では週末にお会いしましょう」
玄関外まで見送ると、田辺陸将は大使館を後にした。
‥‥…
‥‥
…
「さてと‥‥あとは暇だ‥‥よ‥‥どした?」
建物の中に入ろうとしたマチュアだが、ウッドデッキで子供が座ってボーッとしているのに気が付いた。
いつも来る近所の小学生。
確か三年生だったと覚えている。
「え?」
「え?じゃなくて。いつもなら友達と来るのに、何で今日は一人なう?」
少し心配なので近づいていく。
「今年の夏休みは、どこにも出掛けられなくなったので」
「おや、お父さん仕事か。それはがっかりだなぁ」
ポンポンと頭を叩く。
「お父さんは休み取れたし。でも、お母さんが、ちょうど今頃に赤ちゃんが生まれるんで。だからどこにも行けないって」
「そりゃあ仕方ないよ。そんな事で落ち込んでるのかぁ」
笑いながらマチュアは空間からバスケットを取り出す。
どこでも簡単に食べられるサンドイッチやフライドポテトなどが入っている。
「ほら、そんな事ならお昼もまだだろう?食べていいから元気出しな」
――ヒョイ
コクコクと頷いてサンドイッチを食べ始める少年。
少し食べたら落ち着いたのか、鞄からキンデュエのデッキを取り出して弄り始める。
「みんな帰って来るのはいつ頃かな?」
「昨日帰って来る筈なんだけど。まだ誰もここに来なくて‥‥」
「まあ、大丈夫じゃない?」
チラッと正面正門をみると、いつもの子供達が守衛に挨拶している姿が見えた。
そしてマチュアの元に駆けつけると、落ち込んでいた少年と合流した。
「じゃあ私は仕事に戻るからね」
手をヒラヒラしながら、マチュアは子供達から離れて大使館に戻っていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
大使館二階にある会議室。
普段は滅多に使うことはない。
会議はほとんどの場合はそれぞれの事務室で行われ、全体報告などはロビーで行われる。
そのため、会議室が使われるのはまず無い。
会議室には、国内外の自動車メーカー総勢二十六名の関係者が集まっている。
「さて、では皆さんが喉から手が出る程欲しいでしょう魔力炉について説明します」
すると、どこかのメーカーの代表が手をあげた。
「資料とかは無いのですか?」
「ありませんよ。資料なんてどうするのですか?」
「魔力炉の出力とか燃費とか、大きさのデーターとかは公開しないのですか?」
「あ〜。そういうの面倒なので調べてません。実物は後で見せますので、それで察してください。そもそも燃料が搭乗者の魔力なのに燃費とか言うのもねぇ」
そう話すと、マチュアはホワイトボードにいきなり魔力炉の図面を貼り付けた。
「写真撮っても?」
「ご自由にどうぞ。簡単に説明すると人の持つ魔力を感知してエネルギーに転換するシステムです。以上、何かご質問は?」
とんでもなく簡単な説明である。
「あの、もっと具体的な説明はないですか?炉の中でどんな反応が起きているとか、化学反応式とかは?」
「ですから、魔力がエネルギーに変わると。これが反応かと思いますが?」
「熱転換とか、そう言うのですか?」
「何でしょうねぇ?私もよくわかっていませんが、増幅器と合わせる事で1の魔力を100近くまで増幅します。増幅したエネルギーは魔力回路を通って各装置に運ばれて運動エネルギーになる‥‥こんな所ですか?」
「排気ガスなどの排出は?」
「さぁ?胸部ハッチを開閉するときの蒸気は吹き出しますが、あれは形式上として蒸気と呼んでいるだけで、圧縮された魔力の残滓が外に排出されているだけですし。人体には害がありませんよ?」
などなど、マチュアのわかる範囲での説明をするが、何かと魔法の話になるので担当もチンプンカンプンである。
一通りの説明も終わると、いよいよ実物を見せる。
「では、まずはロビーへどうぞ」
担当をロビーに案内すると、魔法鎧・ゼロワンに搭乗する。
予め魔力炉が見えるようにメンテナンスハッチを始めとしたハッチは全て開放し、動きが見えるようにしてある。
――ブゥゥゥン
魔力を込めて機体を起動すると、あちこちでシャッター音が響いている。
「このように。魔力を駆動源としたシステムです。みなさんにとってはロボットと言うのですか?それもこのように夢でも何でもありません」
ゆっくりと歩き、腕を自在に動かす。
予め置いてあったペットポトルを軽く握り、潰さないように別の場所に置く。
「それは、私達にも動かせるのかな」
「魔力値によりますと伝えておきます。これを一旦外に出しますので、試してみましょう」
そのまま外に出ると、マチュアは右側の庭に移動して機体を座らせる。
「これは乗っても?」
「下半身はロックしてあるので動きません。上半身は動きますので、順番に乗ってみてください。動かし方はですね‥‥」
一つ一つ丁寧に説明する。
その最中に、高畑が一台のスポーツカーに乗ってやってくる。
TOYODA社のGRCと呼ばれているモデル。
そのスタイリッシュな外見が若者にも高齢者にも人気である。
そのエンジン部分を開くと、高畑は横に立って説明を始める。
「これが魔力炉搭載型のスポーツカーです」
――オオオオオオオオ
魔法鎧に乗って操縦する人、車に集まって試乗する人など、その場は更に盛り上がった。
会議室で淡々と説明するよりも、実物を見た方が実に食い付きがいい。
「これは当社の‥‥こんなことが出来るなんて」
エンジンルームを見ながら、TOYODAの担当が涙を浮かべている。
「是非ともこの技術を学びたい。お願いできますか?」
「うちもです。TOYODAさんに先を越されたら堪りません」
「当社なら国内に生産工場を増設できます」
次々と条件を提案してくるが、マチュアはボリボリと頬を掻いている。
「え〜っと。まず、最初にわたしが会議室で説明した魔力理論と魔力炉についての説明、何処まで理解できましたか?」
その問いかけには、一同返答に困ってしまう。
「我が社では、契約が成立したら改めてマチュアさんに魔力理論などの講習をお願いします」
「うちはすぐにでも開発部の人間を送り出す準備は出来ています」
「この魔力炉のライセンス契約ができた暁には、我が社は」
――スッ
マチュアが右手を差し出す。
「まずお待ちくださいね」
そう話してから、一度事務室に戻ると、大量の書類を持ってくる。
それを一部ずつ配布すると説明を始めた。
「今お配りしたのは魔力理論と魔力炉に関する問題集です。最初の話を理解すれば半分は解答できます。残りの半分は完全な応用です。答えられなくて当然ですが、前半を理解して自分なりの考えが出来れば、そこは答えが書ける筈です」
彼方此方でペラペラとめくりながら、頭を捻る。
「後日、添付されている解答用紙を送ってください。もっとも解答に近い社から話し合いに応じます」
「そんなバカな話がありますか?ここにいる方は全員説明会に来ているのです。全員に等しく交渉権が与えられてもいいのでは?」
やや腹を立てた感じの担当がマチュアに詰め寄る。
「私は、一度にたくさんの交渉をする能力はありません。別にカリス・マレス式交渉でも構いませんよ?」
「それは?」
「早い者勝ち。そして一つの交渉が開始されたら、他社は一切交渉に応じません。例え好条件だったとしてもね。それで宜しいですか?一番早かったメーカーをここで発表して宜しいのなら構いませんよ」
これには全員が口を閉じる。
自社が他社よりも早かったという自信が何処にもない。
迂闊に賛成して、万が一違ったら社に戻って弁解もできない。
「では、一つでも多くの回答が送られることをお待ちしています。問題は私たちカリス・マレスをどれだけ理解しているかも見れるように作ってありますので。では、本日はお疲れ様でした」
丁寧に頭を下げると、やはり担当たちは心残りらしい。
「もう暫く外で見学しても構いませんか?」
「魔法鎧を操縦したいのですが」
そう問い合わせる担当が大勢いた。
ならばと、マチュアはゼロツーも引っ張り出して固定すると、機体の出力を調節して必要な魔力値を引き下げた。
「二騎置いておきますので、五時までは自由に調べてください。撮影でも計測でもご自由にどうぞ。喧嘩さえしなければ構いませんので」
後はウッドデッキでのんびりと休んでいるマチュア。
サンプルとして魔法鎧に使っている魔力炉を出して展示したりと、ある程度のサポートは行なっていた。
そして時間になると、各社の担当は会社へと戻って行った。
‥‥…
‥‥
…
「マチュアさん、これ無茶ですよ?」
事務室で残った問題集を開き、赤城たち四人がそれぞれ答えを埋めている。
定時で仕事は終わっているので、今はパズルで遊んでいる感覚である。
「そお?何とでもなるよ?」
「二ページ目から問題全てカナンのコモン文字ですよね?これを解読する方法ありますか?」
「異世界政策局のHPにあるよ。どれだけ柔軟な頭を持っているか見せてもらうよ。で、みんなの回答を見せてもらいましょうか」
全員の解答用紙を回収して採点する。
最高点は魔法を理解している赤城だが、100点満点で65点。
最低は高畑の51点である。
「うわぁ、赤点ですよ、私絶対に赤点です」
「私は62点ですか、まあまあですね?」
「ふっ。暗殺者でも59点。悪くないですわ」
各々が回答を見せ合うが、マチュアから一言。
「魔力炉云々の技術部分は全員0点だよ。それ以外が殆ど出来ているのは流石だわ。じゃあ仕事おしまい、また明日という事で‥‥夜勤は?」
すると十六夜が手を挙げる。
「私と領事部の子ですわ。あっちの子一人だと不安なので」
「いいね。では何かあったら連絡ちょうだい。回答用紙は金庫にしまうので回収ね」
万が一何処かに流れると問題あるので、全員の解答用紙を集めて金庫へ。
そして皆が帰路につくと、マチュアは守衛室に女子しか残っていないので、時折見てあげて欲しいと頼んで帰宅した。
果たしてどれだけの回答を得る事が出来るか。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






