日常の章・その6 運命と可能性
マチュアがトト6の当たり数字を予知し、それをメモして金庫に収めた。
それから二時間後には、就業時間も終わり、領事部は夜勤担当と入れ替わりに帰宅する。
政治部はマチュアのメモがあってあるかどうか、それを知りたいので皆で思い思いのことをして時間を潰していた。
クリアパッドでネットを眺めている高畑。
デュエルレストでバトルしている高嶋と古屋。
テレビでバラエティ番組を見ている三笠と吉成。
そして魔法鎧・ゼロスリーの稼働テストをしている赤城と十六夜。
この二人なら動かせるかもと、マチュアが二台のゼロスリーを赤城と十六夜用に登録したのである。
ちなみに高嶋古屋組もチャレンジしたが、どうしても起動分の魔力が足りない。
「じゃあ一号騎は赤城さん専用の『紅月』、二号騎は十六夜さんの『朧月』っていう名前なので。マニュアルを見ながらやってみて」
「は、はいっ‼︎」
「これが制御球で、これが‥‥ふんふん。いけそうですわ」
胸部ハッチを閉じる二人。
機体胸部と右肩にはそれぞれの名前が魔法によって刻まれている。
マチュアも自分の魔法鎧である白銀の機体イーディアスを召喚すると、中庭に向かって歩き出した。
「マチュアさん、私たちにも機体ありますよね?」
「高畑さんが三号騎、私が四号騎でお願いします」
「あるわよぉ。魔力値をあげたらリンクしてあげるわ」
――ガシュゥゥ
中庭に出る三騎。
そのあとはマチュア指導で稼働訓練である。
まずは走り込みからスタートして、物を掴む練習や体を動かす練習。一度の訓練はまずは30分から。
その理由は、二人ともすぐに理解した。
――プシュゥ〜
機体を並べて胸部ハッチを開く。
全身汗だらけで、二人とも肌にシャツや下着が張り付いている。
「うわぁぁぁ、とんでもないことに!!」
慌てて胸元を隠す赤城と、すぐさま普段着に換装する十六夜。
はい、どちらもその行動はハズレです。
胸元を隠して身動きが取れなくなった赤城と、汗まみれで私服に換装して、私服まで汗まみれになる十六夜。
「動けないぃぃぃ。マチュアさんたすけてくださぃ」
「うわ、やっちゃったわ。これは最悪の展開ですわ」
コクピットで叫んでいる二人。
そこにマチュアは大きめのタオルを投げる。
それで上半身を隠すと、二人とも大使館のシャワー室に走っていった。
「ゼロスリーは、サウスアラビア輸出用なのでエアコン装備なんだけどなぁ。そこに回す魔力ないか」
開放されたままの胸部ハッチ。
リンクされているので他人が乗り込んで使う事は出来ないが、クレーンで運べてしまう。
これは仕方がないということで、マチュアはそこに機体を放置すると、もう一騎、魔法鎧・ゼロツーを召喚する。
今までのゼロツーとは外部装甲が異なり、意外と無骨に作ってある。
機体の色はオリーブドラブ。
胸部と右肩には『JGSDF』の文字が刻まれている。
それを三騎並べると、マチュアは遠くからクリアパッドで撮影していた。
「ふっふっふっ。カッコいい‥‥そうだ‼︎」
いきなり守衛室に駆けていくと、当番の金町三曹を呼ぶ。
「か、金町三曹、手が空いてますか?」
「突然息を切らせてどうしました?」
「あれですよあれ。写真撮りたいのですがダメですか?」
マチュアの指差した先には、陸上自衛隊タイプの魔法鎧が三騎、並んでいる。
「あ〜、とうとうやりましたか。記念撮影ですか?」
「そうそう。写真撮って小野寺防衛大臣に送りつける。格好いいだろうって」
「まさか、それだけのために作ったとか言いませんよね?」
「自衛隊で買う?値段交渉乗るよ‥‥っていうか、来月の富士総合火力演習で参考展示するのよ」
「成程。では折角ですので撮影の協力をしましょう」
そう告げてから、金町三曹と糸井三曹が、小泊一佐の命令で撮影協力を開始した。
さまざまなポーズで撮影すると、大使館からマチュアを呼ぶ声が聞こえてきた。
「マチュアさん、六時回ってますよ」
「はいはい。ではご協力ありがとうございました」
「いえ、これも任務ですので」
敬礼する金町三曹と糸井三曹。
マチュアも敬礼を返すと、すぐさま大使館に戻って行った。
‥‥…
‥‥
…
「では、開封しましょう」
皆が見守る中、マチュアは封筒を金庫から取り出して開く。
そしてテーブルの上に広げると、高畑がクリアパットで当選番号を読み始めた。
「トト6の当選番号が、1、5、18、24、26、29、予備数字が32です。当選本数は2口、一等金額が403,855,000円ですね」
――ザワザワッ
全てマチュアのメモ通り。
買ったわけではないので、時間の可能性には無視されたらしい。
「‥‥寒気してきた。本当なんですか」
「こ、これ、もし買っていたら?」
「当選本数の未来が2から3になって、金額が減るのが優しい結果。最悪は数字が変わって全てが変わる未来かな?」
「是非‥‥ダメですよね」
「当然。だから、もう未来予知なんて忘れなさい」
メモを丸めてゴミ箱に放り込む。
「では解散で。明日の担当は高畑さんですね?」
「はい。お疲れ様でした」
ひとり、また一人と帰宅していく。
赤城と十六夜は魔法鎧を掃除してしまってから帰宅、マチュアも陸自型魔法鎧を大使館内にロックしてから、のんびりとカナンに戻って行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
のんびりと土日をカナンで過ごす。
何もない日常。
本当に平和である。
どれだけ平和かというと、地球大使館の建築現場で図面片手に打ち合わせをするぐらい平和であった。
建物の大きさは3階建ての石と木造り、部屋の大きさは議員会館の倍。
この建物を格子状に区画整備した敷地内に12個、敷地には全て大きな壁が作られている。
ようはカナン大使館よりも小さめの敷地と建物を、街の区画に作ったようなものである。
そして区画全てを大きな壁で隔てると、その四方向に門を設置。
街の中に小さい国が出来上がった。
「まるで小さい町だなぁ。注文通りの設備は作り始めている。まず急ぎで建物を4つだったよな?」
「ええ。最初はこれでいいでしょう。アメリゴとルシア、ゲルマニア、サウスアラビアの四つの国は確定で置いておくので。あとどれぐらいですか?」
「大体40日で全部仕上がる。あちこちの建築ギルドからも腕利きのドワーフが集まったんだ。任せておけ」
建築ギルドのギルドマスターとのんびりと打ち合わせをしていると。
――ピッ
『緊急案件、至急大使館に戻ってください』
――ピッ
「おう。では棟梁、宜しくお願いします」
軽く挨拶をすると、マチュアは急ぎで異世界ギルドに転移する。
「何があった?」
ギルドのロビーでは、高畑が泣きそうな顔で待っていた。
「以前のファックスの子から、またファックスで。容態が急変して、かなり危険だと。主治医からマチュアさんに魔法治療の要請が来ました」
高畑が書類を差し出すと、マチュアは歩きながら確認する。
「時間の勝負か。病院が東京なのは助かった」
すぐさま転移門を超えると、書類に記されている病院の場所をクリアパッドで確認する。
「任天堂大学付属病院か。東京都文京区‥‥まあいいわ、現地で探す。後はお願いね」
「はい、気をつけてください‥‥助かりますよね?」
「冥府の神様とも話つけてくるわ」
――シュンッ
すかさず国会議事堂に転移すると、マチュアは箒の高度を100mまで上げる。
「クリアパッドでは、こっちの方角か。リンクできないのが辛いが、まあなんとかなるか」
魔力を込めて速度を上げる。
障害物はないので、一気に大学構内まで飛び込むと、そこから付属病院の前まで飛んでいく。
――ヒュゥゥゥンッ
ゆっくりと着地すると、箒は空間に放り込んでロビーの受付へ。
「お疲れ様です」
「異世界大使館のマチュアだ。魔術治療にやってきた。これが書面だ、すぐに案内してください」
カウンターに書類を提出すると、すぐに医師がやってくる。
「芹沢加奈ちゃんの担当医です。先程から危険な状況になりまして」
「もっと早く連絡は出来なかったのですか?家族からの要請は?」
「あ、ありましたが、医局の判断では必要ないと」
「まあいいわ、早く案内してください」
「ICUです。先に除菌してからでないと」
――ブゥゥゥン
素早く全身に浄化魔法を施すマチュア。
「これでよし」
やがて病室まで案内されると、すでに横のバイタルデーターは目も当てられなくなっている。
いつ死んでもおかしくない。
隣で別の医師が投薬しようとしているのを、マチュアは止めた。
「マチュアです、ここからは私が代わります」
「お、お願いします‥‥」
スッと後ろに下がる医者と入れ替わりに、マチュアは加奈の頭に手を当てる。
「身体活性‥‥魔法陣起動、完全治癒発動‥‥」
いくつもの魔法陣がベットを中心に展開する。
それは深淵の書庫のようにベットを包み込むと、ゆっくりと輝いた。
「DCM‥‥この歳で拡張型心筋症だったのか‥‥もう大丈夫だよ、もうすぐ治るからね」
右手を頭から胸元に移す。
そしてゆっくりと魔力を高めると、バイタルデーターが安定していく。
――ヒュゥゥゥンッ
顔色もよくなり、自発呼吸も戻ってくる。
「よしよし‥‥診断開始‥‥」
最後に、魔法で加奈の体内をサーチする。
心臓の肥大化も人並みのサイズに戻り、全てが正常となった。
「こ、これが魔法‥‥」
マチュアの後ろの医師は震えていた。
加奈が危険な状況になってから、彼がしたことはマチュアが来るまでの延命。
とにかく殺してはいけないと、かなり無茶な事もした。
そしてマチュアが来て加奈の病気を癒すのを見て、心底恐怖した。
あの法案がなければ、全ての医者は廃業する。
それを目の当たりにしたのに。
「だ、大丈夫ですか?」
恐る恐るマチュアに声を掛けると、マチュアは涙を浮かべながら一言。
「私が来るまでもたせてくれてありがとう」
それだけであった。
部屋の外、窓の向こうで神に祈りながら見つめている両親と小さな男の子。
そこに向かって、マチュアはニッコリと微笑むと、両手で大きな輪を作る。
そして、嬉しさのあまり両親は泣き崩れた。
‥‥…
‥‥
…
容態が安定したので、加奈は明後日に心臓の検査を行う。
マチュアを信用していないのではなく、結果確認事項として義務付けられているのである。
「今回は危険な所を助けて頂いてありがとうございました」
ロビーでオレンジジュースを飲んでいるマチュアに、両親が何度も頭を下げる。
その横では、お兄ちゃんであろう男の子がマチュアをじっと見ていた。
「魔法使いさんが加奈を助けてくれた?」
「もう大丈夫だよ〜。良かったね」
「うん。ありがとう‼︎」
はち切れんばかりの笑顔。
それで十分。
すると担当医がマチュア達の元にやって来る。
「すいませんが、こちらにサインをお願いします。魔術治療完了のサインです」
「あ、はいはい。後は引き継いで良いのね?」
「はい、簡単な検査だけですから。ではご両親には今後の説明がありますのでこちらへ」
「はい。あの、マチュアさんにはお礼をしなくて良いのですか?」
心配そうに話しかけて来るが、マチュアは頭を左右に振る。
「ご安心を。私はご両親からは受け取れないのですよ。後で国に請求するので。それでは失礼します」
マチュアも頭を下げてから、その場を後にする。
そして受付で関係書類を受け取ると、病院の院長が事務室から出てきた。
「この度は、素早い対応ありがとうございました」
丁寧に頭を下げられると、マチュアも恐縮する。
「いやいや、こちらこそ何というか‥‥間に合って良かったですよ。それよりも、魔法治療の診療報酬点数は何点なんですか?」
コソッと問いかける。
「うちの病院は0点です、私達が治したのではありません。そのような事実に私達が点数はつけられないのですよ」
魔法等関連法では、魔術による治療行為の点数は依頼した病院がその難易度に応じて点数を自由につけられる。
診療報酬が0ということはつまり、魔法治療の部分の患者の負担額は0円。
病院の取り分はない。
「うわぁ。か、家族の負担がどれぐらいか知りたかったのですが、それで良いのですか?」
「ええ。残念な事に私達では助けられなかったのは事実ですから。それまでの治療費は請求しますのでご安心を‥‥ちなみに、マチュアさんは魔法治療の報酬はどこから?」
「厚生省に申請ですね。一件につきいくらだったかな?難易度に関係なく一律で支払われるので。10万も貰ってませんよ」
あっけらかんと笑うマチュア。
「そんなので良いのですか?」
「ええ。それよりも失われそうな命が助かるのなら、それで良いですよ。では、またありましたらいつでもお呼びください、次からは直接魔法で飛んでこれますので」
そう挨拶すると、マチュアは病院の外に向かおうとして、慌ててロビーに戻って来る。
病院の敷地外で、大勢の報道が待っていたのである。
「あ、あれは?あれはやだなぁ‥‥」
すぐさま近くの壁に手を当てると、そこに転移門を作り出す。
そして報道関係者に手を振ると、マチュアは転移門に消えていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日の新聞やテレビでは、国内初の魔法治療についての病院からの発表があった。
淡々と説明すると、記者会見はわずか10分で終了。
当のマチュアがいないので、ただの報告で終わったのである。
「‥‥それで、朝から外がやかましいのか」
休み明けの月曜日早朝。
いつものように朝6時に大使館に来たマチュアは、庭で魔法鎧・イーディアスの整備をしていた。
だが、あちこちで報道関係者が柵の向こうでウロウロしているのが気になっていた。
守衛室には、マチュアから話を聞きたいという問い合わせがあり、小泊一佐が報告に来ていた。
「どうしますか?」
「記者会見なんてしないよ。でも正門越しに挨拶はしてやるか」
イーディアスに乗り込み、マチュアは正門まで歩いていく。
そこには30社ほどの記者が集まっており、マチュアが何を話すか待っている。
「皆さんおはようございます。では‥‥」
踵を返して庭に向かおうとするマチュア。
「ち、ちょっと待ってください。日本初の魔法治療について一言お願いします」
「どんな魔法を使ったのですか?」
「今後も魔法治療を行うのですか?」
「報酬はどういうシステムですか?」
次々と堰を切ったように質問する記者だが。
ゆっくりと振り向いて一言。
「どんな魔法かは教えない。今後も要請があればするよ。報酬のシステムは、魔法等関連法に載ってるよ‥‥」
「で、では、日本初の魔法治療について一言」
「私はカナンでは死者も蘇生した事があるから、いつものように困っていた人を助けただけ。日本初とか関係ないからね。後‥‥ここの話、適当に切り貼りしたら、そこの放送局とは一切付き合わないから」
「で!では、助けてあげた子供に一言お願いします」
何処の局かわからないが、マチュアが一番答えに困る質問である。
――プシュゥ
ゆっくりと胸部ハッチを開くマチュア。
「もう大丈夫よ。もし病気で怖い事があったら連絡ちょーだい。また治してあげるからね」
――キリキリキリ‥‥ガシンガシン
それだけを話して、マチュアは振り向いて駆け足で庭まで走っていく。
それ以上は話が聞けないと思った記者たちは退散し、大使館にはいつもの静けさが戻って来た。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
――ガチャッガチャッ‥‥
大使館のロビーで、マチュアは30mm機関砲を引っ張り出してメンテナンスしていた。
魔法陣の中に機関砲を設置すると、横で深淵の書庫を起動し、データの読み取りをしている。
「ふむ。このグリップとトリガーを改造かぁ。クラスを『細工師』にチェンジ。設計開始と‥‥」
調理師と錬金術師以外の生産系に変化するのは久しぶりである。
朝一で始めて、8時過ぎには気の早い職員がやって来るが、ロビーで起きている兵器開発に動揺している。
「おはようございます。これは魔法鎧の装備ですか?」
三笠も朝一で出勤すると、厨房からコーヒーの入ったポットを手にやって来る。
「ええ。これぐらいないと格好つかないでしょう?30mmガトリングキャノン。実弾と魔法のエネルギー弾のどちらも打ち出せる優れものです」
「うわぁ‥‥なんですかこれ、マチュアさん、ロマンの塊ですか?」
「30mm機関砲。据え置き型の、第二次世界大戦の奴ですよね。へぇ、マチュアさん何でも持ってますね?」
高嶋か嬉しそうにしていると、十六夜がふむふむと置いてある弾薬箱を眺めている。
「まあね。それ実弾だから気をつけてね」
「え?」
――ポロッ
「うわぁぁぁ」
手からこぼれた弾を地面に落ちる前に拾う。
そしてそーっと箱に戻すと、機関砲を眺める。
「これはメンテナンスですか?魔法陣動いてますけど」
「魔法の弾も打てるように調整中。中々味があって楽しいよ」
「‥‥マチュアさん。まさかとは思いますけど、戦車持ってます?」
「戦闘機もあるよ。使えるか知らないけど」
「なんで持ってるのですか?」
「ストームが拾った奴を貰った。魔法で動くようにできればいいなと思ったけど、それよりも先に魔法鎧を作ったのでしまいっぱなし」
そんな事を話しながら、マチュアはのんびりと作業を続けていた。
「マチュアさん。小野寺防衛大臣から電話ですよ?」
事務室から三笠がマチュアを呼んでいる。
「はいはい、今行きますよ〜」
すぐさま魔法陣をロックしてから、マチュアは事務室に戻る。
いそいそと自分の机に着くと、電話を受け取る。
――ガチャッ
「はい、マチュアです。小野寺防衛大臣、今日はどうしましたか?」
『ある筋で手に入れた写真なんだが、自衛隊カラーの魔法鎧とうちの隊員が写っているのがあってな。どうせ合成写真か特撮かと疑ったのだが、マチュアさんも写っているので』
「ああ、二式魔法鎧ですか。作りましたよ、自衛隊カラーの奴」
『あっさりだなぁ。また兵器だなんだと叩かれるのじゃないか?』
「特殊災害時活動用魔法鎧ですよ。兵器ではなく重機と思ってください。全部で三騎作ってありますよ?」
『写真で見たよ。あれはうちの隊員でも使えるのか?』
「使える人はいると思いますよ。なんでしたらテストしてみます?富士総合火力演習の前に島松の演習場で私も魔法鎧で訓練したいので」
『それは近いうちにスケジュールを確認する。二式も総火演に持っていくのか?』
「参考展示していいですか?いいなら持っていきますが、駄目なら持っていっても出しません」
『当日のスケジュールを急ぎ組み直す必要も出る。今週末に島松で逢いたいが、どうかな?』
「構いませんよ。では日曜日に、朝9時でいいですか?」
『それで問題ない。では日曜日に』
――ガチャッ
「ふぅ。日曜日に島松で魔法鎧の訓練してくるわ」
あっさりと一言で終わらせる。
だが、聞いている方は気が気ではない。
「あの〜、私と赤城さんもですか?」
そーっと十六夜が手を挙げる。
だが、マチュアは頭を左右に振る。
「来たいのなら止めないけど。来るの?」
「いえいえ、私と赤城さんは日曜日はカナンですから。郊外で魔法鎧で遊んで来ます」
成程なぁ。
すっかりおもちゃになっているのか、それとも本気で使いこなそうとしているのか。
その境界線が読めない。
「まあ、無理しない程度に頑張ってね。では、機関砲の調整してくるね」
「あ、マチュアさん、近所の似鳥から問い合わせがありまして」
部屋から出るマチュアに、吉成がファックスを見せる。
『いつも当社のラグシリーズと庭箒をお買い求めいただきありがとうございます。
先日、当社のラグシリーズをお買い求めのお客様から、空を飛ばないというクレームが届けられました。
調査の結果、マチュア様が当社からお買い上げ頂いて作り上げた空飛ぶ絨毯と間違えて購入したらしく、その後も間違えて購入する方が多数ありました。
誠に勝手ながら、当社のラグシリーズでは空を飛べませんというポスターを作成しましたので、ご笑納ください』
そう書かれた手紙と、マチュアが空を飛んでいる横で、子供がラグのウエアに座って笑っているポスターの写真が添付されていた。
そしてポスターには
『似鳥のラグシリーズは、夢を届けますが空は飛べません』
の一筆が添えられていた。
――プッ
「これはいいわ。お礼のファックスを送ってあげて。ポスターを作るのに絨毯使いたいなら協力しますよって」
「そうくると思って印刷してあります。これでいいですか?」
返信用の手紙をマチュアに推敲してもらう。
「ふむふむ、おっけ。送っといて。あと、ポスターもよろしければ一本くださいって」
「はい」
すぐさま付け足してファックスを送る。
流石は似鳥、マチュアの予想の斜め上を走っている。
そして後日、マチュアは近所の似鳥で空飛ぶ絨毯の試乗会をする事になった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。